2 生理的マーカーを用いたアユの好適環境評価法の開発 ~アユのストレスを遺伝子からしらべる~ 矢田 崇 水産総合研究センター 中央水産研究所 内水面研究部 育成生理研究室 要 旨 野外でのアユの生理状態を解析する新しい指標として,ストレスの情報伝達系の最初に位置する ホルモン・副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)と,ストレスを受ける側の免疫系のサイト カイン・腫瘍壊死因子(TNF)の遺伝子発現量を用いる可能性を検討した。30秒のネッティング による急性のストレスは,脳内・視索前野の CRH 遺伝子については素早く一過性の発現上昇を, 脾臓の TNF についてはこれを追う形の漸進的な上昇をもたらした。24時間の濁りによる慢性的 なストレスは,CRH を上昇させた一方,TNF には有意な変化はもたらさなかった。実際の漁場調 査として,友釣りによる CPUE が異なる地点で採補されたアユについて比較すると,CPUE が低い 地点では CRH が高く,TNF は逆に低い事例が観察された。漁獲に影響し得る漁場環境の差異につ いて,ストレス反応に関与する遺伝子を,生理的なマーカーとして活用することが可能となった。 1.はじめに 漁獲不振に繋がるストレスの生理的マーカーとして,これまでストレスを伝えるステロイドホル モン・コルチゾルの血液中の濃度の増加が広く用いられてきた。コルチゾルをストレスの指標とす るメリットは,脊椎動物で共通の物質なので,魚のサンプルでも,医療や哺乳類の実験用に市販さ れているキットを使い,比較的容易に測定できることである。また血液から有機溶媒を使って抽出 することで,低濃度でも大量にあるなら濃縮することで測定可能となり,逆に高濃度であるなら微 量のサンプルを希釈して測定することも可能である。しかしこの方法では,麻酔-血液採取-遠心 分離-凍結保存という一連の操作を迅速に行う必要性から,野外で採取したアユでの実施には制約 がある。またストレス後の血中コルチゾル濃度の変化は,ストレスを受けて上昇したあと,すぐに もとに戻る場合が多くある,つまり一過性の上昇なので,タイミング良く測定しないと変化を見逃 してしまう可能性がある。 一方,遺伝子を取り扱う分子生物学的な手法は,現在幅広い研究分野で用いられるようになり, 測定の精度や安定性の向上と,操作の簡便化が進められた結果,野外で採取された動物サンプルの 解析にも十分適用可能なものとなっている。筆者の研究グループではアユの仔稚魚を対象として, 野外でのサンプル採取と保存処理方法の検討,研究室に持ち帰ってからの遺伝子解析手法の開発を 行ってきた。そしてこれまでに,降海・遡上に重要なホルモンについて,天然アユでの mRNA の 変化,すなわち遺伝子の発現動態について明らかにしている(Yada et al. 2010)。こうして野外で 採集したサンプルから得られた結果は,さらに研究室で行った飼育実験と比較しながら,発生段階 26 や温度・環境塩濃度などの諸条件との関係を検証することで,遺伝子の発現動態の生理的な意義の 解明へと繋がって行った。 こうしたこれまでの経験を活かし,本事業においては,ストレスの新しい生理的マーカーとして, ストレスホルモンの分泌を調節する遺伝子と,ストレスの情報を受け取る側の遺伝子を使い,アユ にとってストレスが少なく好適な環境を評価する手法の開発を行った。そのためにまず,ストレス を受けたアユでは,遺伝子の発現量にどのような変化が現れるかについて,飼育実験による検証を 行った。また実際の漁場において,CPUE が高い場所にいるアユでは,これらの遺伝子に特徴的な 発現パターンが見られるかについても,明らかにすることを試みた。 2.ストレス反応の情報伝達系 ストレスの情報は,神経によって脳に伝わり,脳内の視索前核という領域で,副腎皮質刺激ホル モン放出ホルモン(corticotrophin releasing hormone:CRH)の合成・分泌を活性化させる(図1)。 これより以前の段階は,神経活動という野外では取り扱いにくい変化である一方,タンパクである CRH の合成は,ストレスが伝わっていく経路の中で,はじめて遺伝子発現の変化を伴うステップで ある。つまりストレス反応の出発点となる遺伝子であるとも言えることから,ストレスを評価する マーカーの1つとして,この CRH を用いることとした。CRH は両生類以上では脳の直下にある血 管(門脈系)によって,魚類では直接神経線維を通して下垂体へと伝えられ,別のタンパクホルモ ンである副腎皮質刺激ホルモンの分泌を促す。そして血液を介して魚類の腎臓の前方部分,ヒトの 場合では副腎皮質に当たる組織へと伝わって,そこからストレスホルモンであるコルチゾルが分泌 される。このコルチゾルが血流に乗って,全身の細胞にあるコルチゾルに特異的な受容体に結合し, その情報が各細胞の DNA に伝わって,はじめてストレス反応という結果が現れることになる(図 1)。 ストレス 神経 ストレス反応 脳 副腎皮質刺激ホルモン 放出ホルモン (CRH) 免疫抑制 下垂体 腫瘍壊死因子 副腎皮質刺激ホルモン (TNF) 前腎 全身の細胞 (副腎皮質) コルチゾル 反応が速すぎる 図1.ストレス反応の情報伝達系 27 コルチゾルはストレスを伝えるホルモンとしての役割の他,栄養代謝の面では血糖値を調節する 作用も持ち,さらに魚類の場合には,周囲の水に合わせて血液のイオン濃度を一定に保つという機 能も併せ持っている。ストレスの情報伝達が複雑な過程を経ることは,途中の様々な段階で反応を 増幅したり,逆に抑制したりする調節を加える余地を残すこととなり,誤った情報伝達を防止する ことに役立っているのかも知れない。 図1ではストレス反応の最終結果として,免疫抑制,つまりストレスにより病気への抵抗力が落 ちてしまう現象について示している。ストレスの結果はもちろんこれだけではなく,中枢神経に作 用した場合には防御・逃避や抑鬱などの行動変化,栄養代謝の面では摂食や消化・吸収などの変化, さらに長期的には,成長や生殖に及ぼす影響などが挙げられる。しかし,ストレス評価の新しいマ ーカーとして適用するためには,反応が早すぎず遅すぎず,また特定の遺伝子の変化が,免疫とい う重要な機能に直結するという点から,免疫に関係する重要なタンパクである腫瘍壊死因子(tumor necrosing factor:TNF)について解析することとした。 3.新しいマーカーとしての CRH と TNF ストレス反応における CRH の重要性は魚類においても注目されることから,ジーンバンク上に はサケ目やコイ目を中心とした多数の魚種の CRH 遺伝子の塩基配列が登録されている。アユにお いては未解明であったが,筆者の研究グループが解析した結果,ほぼ 1000 塩基対の DNA 配列が解 読され,アミノ酸配列では他の魚種とほぼ同一,四足動物とも相同性の高い 43 残基のペプチドを コードしていることが明らかになった。この配列は近日中に,ジーンバンク上で公開する予定であ る。 一方,免疫系の指標として選んだ TNF は,炎症性サイトカインと呼ばれる免疫関連ペプチドの 一種で,病原体を積極的に撃退する一種の生体防御機構としての炎症反応の中で,中心的な役割を 果たす生理活性物質であり,直接病原体やガン細胞を攻撃・死滅させる機能を持っている。この遺 伝子の発現が増加することは,炎症またはそれに類似した反応が起きていることを意味し,急激な ストレス反応のマーカーとして使用できる可能性がある。一方,この遺伝子の発現は,長期的には ストレスによって逆に低く抑えられ,炎症反応が起きにくい,免疫抑制の状態を示すマーカーにな るとも考えられる。TNF の塩基配列はアユにおいても既に解読され(Uenobe et al. 2007),その情 報はジーンバンク上でも公開されている(GeneBank accession number DD019003)。 4.採集・保存処理と遺伝子発現の解析 アユは採捕の後,すばやく 5 mg/l の MS222(tricaine methanesulfonate, Sigma 社)で麻酔し,頭部 を切開して脳を露出させた状態で,RNA の分解を防止する保存液・RNA later (Ambion 社)に浸 漬した。サンプルは 4℃で一晩保管・浸潤させた後,RNA の分離を実施するまでは-20℃で保存し た。免疫系の組織としては,脾臓を摘出し,同様の保存処理を行った。 持ち帰ったサンプルから脳を取り出した後,顕微鏡下で,視神経交叉の上部に位置する視索前野 のみを切り出して解析に供した。この領域に存在する CRH 産生細胞からは,神経線維が伸びて下 垂体にまで到達し,先に示したストレスの情報伝達系に関与していることが,魚類においても遺伝 28 子のレベルから明らかにされている(Huising et al. 2004)。組織からの RNA 抽出はグアニジンチオ シアネート法により実施し,DNase 処理により夾雑物であるゲノム DNA を除去した後,これを鋳 型とした逆転写により cDNA を作成した。ここまでは,Yada et al. (2010)で報告した手法と同様であ る。遺伝子発現の解析,すなわちサンプル中の mRNA 量の定量的な解析は,上述のアユ CRH,TNF の塩基配列を元に, ソフトウェア Primer Express(ABI 社) を用いて設計した特異的なプライマーと, 蛍光色素 Syber Green を用いたインターカレーター法により,リアルタイム PCR 装置(ABI Prism 7900HT)を使用して行った。遺伝子の発現量は,それぞれの合成 DNA を標準物質としてモル数を 算出した後,対照となるグループを 100 とした百分率で表した。グループ間の有意差の統計には, Mann-Whitney U-test を用いた。 5.ストレス負荷実験と遺伝子の変化 ストレス負荷実験として,まず日常的な飼育につきものの,魚を網ですくって空気にさらした状 態で30秒間保持し,再び水に戻すというネッティングの動作を行い,アユの遺伝子に及ぼす影響 について調べた(図2)。対照とした時間軸の0は,取り上げてすぐに麻酔・サンプリングしたグ ループである。網ですくわれ空気にさらされるという,言わば物理的・短期間のストレスの影響は, 水に戻されて30分後には,早くも視索前核の CRH 遺伝子の mRNA 量が,対照の10倍近くまで 上昇するという変化として現れた。この変化は一過性のもので,1時間後までは有意な上昇として 捉えることができたが,3~24時間後には元の状態まで戻り,ストレス反応の開始を伝えるシグ ナルの発信は,既に停止していることを示している。一方,ストレス情報の受け手側であり,図1 の情報伝達では最後に位置する TNF 遺伝子では,CRH 遺伝子の上昇が過ぎ去ったあと,ストレス 負荷の3時間後から有意な上昇が観察され,24時間後には対照の約7倍の高い値を示していた。 これら2つのマーカーの値が上昇する間のタイムラグは,長く複雑なストレスの情報伝達系の,最 初と最後の遺伝子の変化を切り取ったものと考えると理解しやすい。 この実験と同じく,ネッティングによる短期間のストレス負荷の影響を,ニジマスの免疫系で解 パーセント 1600 視索前野 CRH ** 脾臓 TNF 1200 1200 900 800 600 400 300 * 0 * * 0 0 30分 1時間 3時間 24時間 0 30分 1時間 図2.ネッティングが CRH,TNF 遺伝子の発現量に及ぼす影響. 29 3時間 24時間 析した結果では,抗原-抗体反応に中心的役割を果たす免疫グロブリンの産生が,長期間抑制され る現象が観察されている(Yada et al. 2007)。この実験では24時間よりあとに起こる現象につい ては解析していないが,ネッティングのように短期間で解除される急性ストレスの場合,いったん 上向きに調節された遺伝子の発現(up regulation)が,単に元に戻るだけなのか,それともリバウン ドのようにさらに下向きに調節されるのか(down regulation),例えてみれば薬理的な副作用に相 当するような反応が起こるかどうかは,ストレスの生理面における悪影響について考えていく上で 大変興味深い。 次に述べる濁りについての実験は,濁りの中に留まる間,継続したストレスが負荷されていると いう点で,前述した急性ストレスであるネッティングとは異なる種類の,慢性ストレスであると考 えることができる。本報告においても,河川水の濁りは,漁場環境で実際にアユが被る環境ストレ スの代表的なものであり,漁獲にも大きな影響を及ぼすものと考えられる。この実験の場合の濁り は,陶器などの材料となるカオリンを 200 mg/l の濃度で懸濁したもので,アユはこの濁りの中に2 4時間曝された後,遺伝子の解析に供せられた。この実験では無処理のグループの他,濁っていな い水槽への移動のみを行ったグループを設定し,前述のネッティングの動作を可能な限り軽微に実 施したかたちとなっている(図3)。 視索前野 CRH 1000 脾臓 TNF ** 300 250 パーセント 800 200 600 150 400 100 200 50 0 0 無処理 移動のみ 濁り 無処理 移動のみ 濁り 図3.カオリンによる濁りが CRH,TNF 遺伝子の発現量に及ぼす影響. 視索前野の CRH について見ると,移動のみのグループには有意な変化は検出されず,ネッティ ング実験の場合にも,24時間後にはもとのレベルまで戻っていたことと,一致した結果となって いた。一方,実験期間中継続したストレスが負荷されていた濁りのグループでは,ネッティングの 直後に匹敵する CRH 遺伝子発現量の大きな上昇が,24時間後のサンプリング時においても見ら れた。濁りによる慢性ストレスは,ネッティングによる急性ストレスとは異なり,ストレスの情報 伝達の出発点となる遺伝子の発現を,継続してオンの状態にしていることが明らかとなった。 これに対して,情報伝達の受け手側である脾臓の TNF 遺伝子には,今回の実験では有意な変化 は検出されなかった。しかし詳しく見ると,移動のみのグループでは発現量の上昇の傾向が見られ, 実験操作の影響を可能な限り軽微に抑えようとした結果,有意な上昇には至らなかったと解釈する ことができる。さらに濁りのグループについて見ると,上昇の傾向がありながら有意な差ではなか ったことは,このマーカーには濁りの影響は軽微であったか,または逆に,強く継続した刺激に対 30 しての急激な反応は既に終わり,元に戻る抑制的な反応に移っていた可能性が考えられる。CRH の 上昇から見て,TNF に対する影響が軽微であったことは考え難いが,後者の可能性を検証するため には,より長期にわたる慢性ストレスの事例を解析する必要がある。飼育下で,さらに長期のスト レスを負荷する実験は,致死的である可能性,また摂餌の阻害など新たな影響を考慮する必要があ るなどのために,生理的に意味のあるデータを得られるように設定することが,かなり難しいと考 えられる。実験に替わるものではないが,この項の最後に,実際の漁場で得られたサンプルについ て解析し,これまでとは異なる遺伝子発現のパターンが見られた事例について触れておきたい。 6.漁場環境調査での事例:庄川における漁獲と遺伝子の関係 富山県・庄川流域において,友釣りにより高 CPUE が得られた地点と,隣接した場所ながら低い CPUE だった地点において,投網によるアユの採捕を行った(詳細は別項参照)。アユはひと網毎 に前述のようにすぐに麻酔し,解剖と保存処理を行った。実験の場合と同様に遺伝子の発現動態を 解析すると,図4に示すように,視索前野の CRH には有意な上昇が見られた。この調査は 2009 年 と 2010 年に同じ地点で実施したが,2回とも同様の結果となっている。視索前野の CRH に関する この結果は,これまでの実験におけるストレス負荷に対する反応と一致しており,低 CPUE の地点 は高 CPUE の地点と比べて,アユにとってストレスを感じる状況であったことが推測される。 一方,脾臓の TNF について見てみると,低 CPUE の地点において,高 CPUE と比較して顕著に 低い値が得られた。この結果はこれまでの実験で得られた,ストレス負荷時には有意に増加,また は,増加の傾向が見られたことに対して,反対の結果となっている。確認のため,これまでの研究 でストレスに対して TNF と同様の発現パターンを示している,免疫に関与する急性タンパクの1 つであるメタロチオネインの遺伝子についても調べたところ,やはり顕著な低下が観察されている (資料未記載)。一方,細胞骨格を構成するアクチンや,栄養代謝を調節するインスリン様成長因 子の遺伝子には,2地点間では差が無かったことから,低 CPUE 地点で観察された遺伝子発現の抑 制が,特に免疫系に起きていることが印象づけられる。 この事例で見られた CRH の上昇・TNF の低下が,本事業で検討した濁りや河川形態など特定の 環境要因によってもたらされたか否かは,残念ながらここで検証することはできない。しかし,少 視索前野 CRH 脾臓 TNF 400 100 * 80 パーセント 300 60 200 40 100 * 20 0 0 高CPUE 高CPUE 低CPUE 低CPUE 図4.CPUE の異なる漁場で得られたアユにおける CRH,TNF 遺伝子の発現量 31 なくとも,現実にアユ漁場となっている河川において,情報伝達の出発点となる遺伝子発現が継続 してオンの状態になっている。また,最終的な受け手となる免疫系の遺伝子には強い抑制が起きて いる地点が存在していることが,野外で採取されたサンプルによって明らかとなった。この遺伝子 の状態が,果たして CUPE の高低に影響するものであるのかを議論するためには,友釣りに至るま での各段階:攻撃行動の開始やなわばり形成の有無,さらには成長速度や遡上・定着のタイミング などと,ストレスの生理的な側面との関係について,ひとつずつ検証して行く必要がある。 7.最後に 本項では,ストレスの情報伝達系の最初と最後にあたる遺伝子を,ストレスの新しい生理的マー カーとしてアユに適用する手法について述べてきた。既にストレスマーカーとしての地位が確立さ れ,その長所と汎用性から魚類でも広く用いられている血液中のコルチゾル濃度に関しては,本事 業の中でも検討されているので,その詳細については別項に譲ることとする。一方で,本項の最初 にも紹介したストレスの情報伝達系において,途中を繋ぐ段階を受け持っている物質についても, ストレスマーカーとしての利用が検討されている。血液中に分泌されたコルチゾルの信号を受け取 るために全身の細胞に存在する,コルチゾル特異的な受容体タンパクをコードする遺伝子について は,特に血液中の白血球での発現が,ストレスに対して鋭敏に反応することを,飼育下のニジマス を使って明らかにしている(Yada et al. 2007)。この方法がアユにも適用できれば,ストレスを評 価するマーカーの幅が広がることにもなる。残念ながら現時点では,白血球が生きた状態で,密度 勾配をかけた遠心分離により他の血球や細胞と分離する,などの作業が野外では困難であることか ら,本事業ではこれをマーカーとして用いることはできなかった。一方,採捕したその場で保存処 理が可能な脳や脾臓を用いた今回の方法は,時にはアクセスさえ困難な場合もあるアユの漁場にお いて,最も現実的であると考えられ,実際の事例を紹介することもできた。 6の章でも述べたとおり,低 CPUE すなわち釣れにくい漁場にいるアユは,実験的にストレスを 負荷した場合とよく似た生理状態にあることが明らかとなった。このことは逆に,ストレスのよう な生理状態にならないことが,アユにとって友釣りされやすい生理,または心理状態をもたらして いることを示唆している。もちろんこの可能性を確かめていくためには,調査事例を増やすととも に,さらに各種のストレス負荷実験などとの比較検証が必要である。そのためにも,本事業で作成 された調査指針に則り,漁獲の現場で得られる環境データと照らし合わせることで,生理的データ の理解がさらに進むことが期待できる。 8.引用文献 Huising, M.O., Metz, J.R., van Schooten, C., Taverne-Thiele, A.J., Hermsen, T., Verburg-van Kemenade, B.M.L. and Flik, G. (2004) Structural characterization of a cyprinid (Cyprinus carpio L.) CRH, CRH-BP and CRH-R1, and the role of these proteins in the acute stress response. J. Mol. Endocrinol. 32, 627-648. Yada, T., Azuma, T., Hyodo, S., Hirano, T., Grau, E.G. and Schreck, C.B. (2007) Differential expression of corticosteroid receptor genes in trout immune system in response to acute stress. Can. J. Fish. Aquat. Sci. 64, 1382-1389. 32 Yada, T., Tsuruta, T., Sakano, H., Yamamoto, S., N. Abe, Takasawa, T., Yogo, S., Suzuki, T., Iguchi, K., Uchida, K. and Hyodo, S. (2010) Changes in prolactin mRNA levels during downstream migration of the amphidromous teleost, ayu Plecoglossus altivelis. Gen. Comp. Endocrinol. 167, 261-267. Uenobe, M., Kohchi, C., Yoshioka, N., Yuasa, A., Inagawa, H., Morii, K., Nishizawa, T., Takahashi, Y. and Soma, G. (2007) Cloning and characterization of a TNF-like protein of Plecoglossus altivelis (ayu fish). Mol. Immunol. 44, 1115-1122. 33
© Copyright 2024 ExpyDoc