1.南アフリカにみるアフリカ資源国経済の課題(後編)

February 6, 2015
1.南アフリカにみるアフリカ資源国経済の課題(後編)
2.EU の「選択と集中」と官民協力による投資プラン
3.主要各国の経済指標
4.政治・経済・産業トピックス
1.南アフリカにみるアフリカ資源国経済の課題(後編)
~雇用の拡大と所得格差の縮小をいかに実現するか~
(前回レポートは、以下 URL をクリックして本文を御参照下さい。)
http://www.bk.mufg.jp/report/insemeaa/BW20150109.pdf
7.突出して高い南アフリカの失業率
(1)黒人、若年層を中心に突出して高い失業率
南アフリカ経済は、前述のとおり、資源価格の下落、主要貿易先の欧州の景気停滞、自国通貨高による
製造業をはじめとする貿易財部門の競争力の低下などを受けて、2012 年以降、経済成長ペースを減速させ
た。経済成長が減速したことから、これまで好景気の陰に隠れていた同国経済の構造的問題が露呈してき
ている。
解決すべき問題として、長年指摘されているのが、雇用の問題である。高すぎる失業率は同国の貧困や
格差問題の根本的な原因にもなっている。
南アフリカの失業率は、ラテンアメリカ、東欧、東南アジアなどの新興国と比較して突出して高い水準
にある。失業率の高さに加えて、労働参加率も 57.3%と低水準に留まっているため、生産年齢人口に対す
る雇用者数の比率は 42.7%となっており、生産活動を行っている人の比率がかなり低くなっている(数値
はいずれも 2014 年 4~6 月期)。
1
図表 19
主な新興国の失業率(2014 年 6 月)
30.0 25.0 20.0 15.0 25.5 10.0 5.0 4.9 6.5 9.2 7.4 7.9 12.0 5.7 7.0 1.2 0.0 失業率
※フィリピンと南アフリカは 2014 年 4~6 月期、インドネシアは 2014 年の数値
(出所)各国統計局
背景には、1994 年に完全廃止されたものの、20 年経った今なお残るアパルトヘイト政策の負の遺産があ
る。そのため年齢別、人種別の雇用環境が全く異なる状況が今もなお続いている。図表 20 は、2014 年 4~
6 月期の南アフリカの失業率を人種別、年齢別に見たものである。人種別で見ると、人口の大半を占める黒
人の失業率が国全体の失業率を上回っている一方で、アジア人や白人の失業率は大幅に下回っている。年
齢別では 15~24 歳の失業率が 50%を上回る水準にある一方で年齢が進むに従って低下している。
また、就職活動を諦めて労働市場から退出した人などを含んだ広義の失業率では、35.6%と失業率よりも
約 10%高くなっている。特徴的なのは失業率の高い黒人や若年層ほど、失業率と広義の失業率の乖離が大
きくなっており、失業率の数字以上に黒人と若者の雇用環境が厳しいことを示唆している。
図表 20
南アフリカの失業率(左:人種別、右:年齢別)
(出所)南アフリカ統計局
2
(2)国内で広がる所得格差
雇用環境の格差はそのまま所得格差へとつながっている。現在の南アフリカのジニ係数(所得分布のバ
ラツキを測る指数で、数値が大きいほど所得格差が大きい)は、0.7 前後と言われており、世界で最も所得
格差の大きい国の一つとなっている。しかも年々所得格差は拡大している。
図表 21 は人種別の世帯主の年間平均所得の数値である。人口の約 10%を占める白人は 387,011 ランド
(2010 年末の為替レートで約 58,500 ドル)と先進国並みの所得水準である一方、人口の約 80%を占める黒
人は白人の 5 分の 1 以下の所得水準になっている。図表 22 は、人種別の 1 人当たり所得である。白人やア
ジア人は 21,003 ランド以上が多く占め、所得水準が高い。一方で黒人やカラードは各所得層に均等に分布
しており、低所得者層の割合も大きい。
図表 21
図表 22
人種別世帯主年間平均所得
(出所)南アフリカ統計局
人種別 1 人当たり所得
Income and expenditure of households 2010/2011
8.効果が限定的な南アフリカ政府の雇用増加への取組み
南アフリカ政府はこれまでに黒人の貧困・格差・失業問題に対する公的な取組みとして BEE(黒人の経
済力強化)政策、EPWP(拡大公的事業プログラム)などを推進してきた。いずれも所得水準が低く失業
率の高い黒人や若者、女性などを主要対象にした経済支援策である。
(1)B-BBEE 政策
B-BBEE(拡大黒人の経済力強化)法は黒人の経済強化に対する貢献をポイント化し、貢献の大きい企業
に対して、公的事業の調達などの際に優遇するもので 2003 年に施行された。これは、黒人の経営参加に加
えて雇用の増加、非雇用者の技術開発を促すことで黒人の経済状況の改善を意図したものである。2014 年
には、B-BBEE 法の適用範囲の拡大など、さらに政策が強化された。B-BBEE 法は企業に対する法的拘束力
を持たないが、公的調達や事業の許認可などビジネス面でのメリットが大きいことが、企業にとってのイ
ンセンティブになっている。ただ BEE 政策は黒人が均等にその恩恵を受けられた訳ではなく、BEE 政策を
3
通じて高い地位についたり、就職できたりした一部の人々と恩恵を受けられなかった人々との経済格差と
いう人種内格差を生み出す原因にもなっていると指摘される。
(2)EPWP
EPWP は、職業経験のない黒人の若者や女性に公的事業で一時的な雇用を与えるプログラムで、2003 年
の成長と開発サミットでの議論をきっかけに 2004 年に始まったものである。失業者や非就業経験者に職業
スキルや職務経験を獲得させること、労働所得を得てもらうことなどを通じて将来の雇用のためのチャン
スを高めてもらうことを目的とした事業で、インフラ、民間セクターによる NPO およびコミュニティ活動、
環境や文化セクタープログラムでの仕事、公的社会福祉プログラムでの仕事を提供している。このプログ
ラムにより、一時的な雇用機会を提供し、就労スキルを向上させることで、失業者の労働参加を促し、失
業率を低下させる効果を期待されている。南アフリカ政府によれば、EPWP の第 1 フェーズ(2004~2009
年)で 160 万人、第 2 フェーズ(2009~2014 年)で約 407 万人の一時的な雇用機会を生んだとしており、
第 3 フェーズ(2014~2019 年)では 600 万人の一時的な雇用機会を創出するとしている。
(3)弱い政策実現効果
しかし現状では、これらの公的な雇用対策にもかかわらず、目に見える効果は出ていない。世界金融危
機前は 5%を上回る経済成長により失業率は順調に低下していたが、危機以降は景気減速から失業率は再び
上昇した。2014 年現在、雇用者数は危機前の水準まで戻ったが、危機後の雇用の増加は公的セクターが多
くを占める社会福祉サービスがほとんどで、民間部門の雇用を拡大することにつながっていない。鉱業や
製造業などのセクターはむしろ減少しており、民間部門の雇用者数は危機前の水準まで戻っていない。
公的セクターの伸びから足元で雇用者数は増加しているものの、新規の労働人口流入を吸収するには不
十分で、若年層を中心に黒人の雇用環境の劇的な改善にはつながっていない。そのため黒人の若者の失業
者が増え、貧困層に留まっており、所得格差も拡大したままである。
以上のとおり、南アフリカの雇用問題は公的支出による雇用創出という対症療法だけでは解決できない
構造的な問題であることがわかる。同国の雇用市場では、労働者の供給と労働者の需要の両面で制約が存
在する。これらの制約を取り除かない限り、GDP や雇用の約 8 割を抱える民間部門の雇用の停滞を好転さ
せることは難しそうである。
4
図表 23
図表 24
非農業部門雇用者数の推移
雇用者数と失業率の推移
(千人)
(%)
14,000 (千人)
16,000
12,000
14,000
35.0 10,000
12,000
30.0 8,000
10,000
25.0 8,000
20.0 6,000
15.0 6,000
4,000
2,000
0
製造業
建設
輸送
鉱業
卸売・小売
社会福祉サービス
公益事業
金融仲介
40.0 4,000
10.0 2,000
5.0 0
0.0 雇用者数
失業者数
失業率
(出所)南アフリカ統計局
9.南アフリカ雇用市場における需給面での構造的な問題
(1)供給サイドの問題
南アフリカの雇用市場における労働者の供給サイドの問題としては、失業者が企業の雇用ニーズとミス
マッチを起こしている点が挙げられる。このミスマッチには、大きく分けて就業スキルと地理的な要因が
ある。
就業スキルのミスマッチは、失業者の中に雇用市場で必要とされる就業スキルを持った人材や安定的に
長時間働ける人材がそもそも不足していることから生じている。さらに、人口動態から就業スキルが低く
職業経験のない若者が雇用市場に多く流入してくるため、ミスマッチの解消がなかなか進まなくなってい
る。
大きな意味での就業スキルの一つとして健康問題への不安も大きい。感染症などの拡大から、失業者の
中には健康リスクを抱えている者も多く、企業は採用を避けたがる。また家族の看病に手がかかり、満足
に労働時間を確保できないという問題も抱えている。
雇用市場のミスマッチは就業スキルの面だけでなく、地理的なミスマッチの問題も大きい。バンツース
タンと呼ばれたアパルトヘイト時代の部族ごとの黒人自治区の影響が、アパルトヘイト政策撤廃から 20 年
経過した現在においても残っているからである。失業者が多く住んでいるこれらの地域と実際に求人があ
る地域が異なるため、求人情報が失業者に入ってきづらく、また入ってきたとしても遠方での就職活動を
行う金銭的な余裕がないことや遠方からの通勤のための交通インフラが整っていないという点で就職を断
念してしまう。またその人口規模あるいは他の中所得国と比較して農業従事者が少ないことも、失業者を
増やす要因となっている。
これらの要因以外にも、社会保障の拡大により失業者の就労意欲が低下している可能性も指摘されてい
る。
5
(2)需要サイドの問題
労働者の需要サイドにも問題が多い。南アフリカ経済は、マクロ、ミクロの両面から企業の雇用意欲を
抑制する要因を抱えている。
マクロ経済的要因では、第一に、南アフリカの経済成長率が、2008 年以降、潜在成長率(OECD 推計で
2008~2013 年 3.6%、2014~2030 年 4.5%)を下回る状況が続いており、若年層を中心とした新規の労働人
口流入を満たすほどの経済成長を出来ていないことが挙げられる。
もう一つの大きな要因として、南アフリカの経済構造の変化が労働需要を抑制しているという点が挙げ
られる。前述のとおり、南アフリカにはグローバル企業が多く存在するが、これらの企業が労働集約的な
ビジネスモデルから知識集約的なビジネスモデルに移行しているため、低スキル労働者の需要が減少して
いる。さらに雇用吸収能力が高いとされる製造業の競争力が低下している点も大きい。資源ブームによる
自国通貨ランドの上昇から、価格面での輸出競争力を失ったことが大きい。世界の輸出金額に占める南ア
フリカのシェアも低下している。こうしたことを背景に南アフリカでは、経済成長率に対する雇用の弾力
性が低下している。
ミクロ経済的要因では、第一に労働組合活動の強さによる雇用市場への悪影響が挙げられる。現在雇用
されている組合員が自らの待遇の改善を要求することにより、企業側から見れば人件費上昇となって、価
格競争力がそがれてしまい、新規の雇用へも消極的になってしまう結果を生んでしまっている。労働組合
活動が現在職のある人の既得権益の強化を強め、失業者との格差を広げてしまっている。
次に、企業活動のダイナミズムがないことが、指摘されている。南アフリカの黒人の中で低水準の教育
などを背景に起業精神が育っておらず、新たな事業が生まれにくいという可能性がある。他の新興国で多
くの雇用を生んでいるインフォーマルセクターの雇用者数の水準が低いのは、南アフリカ国民の起業精神
の低さが原因として指摘されている。
最後に、産業規制による新規事業の障壁が挙げられる。通信セクターや銀行セクターなどで一部の企業
が利益を独占していることが指摘されている。
このように南アフリカの雇用市場は、労働者の供給の問題(企業が欲しがる人材が不足している)と、
需要の問題(失業者の働き口がない)の両サイドに深刻な問題を抱えている。これらは、南アフリカ特有
の問題(アパルトヘイトの負の遺産)、新興国特有の問題(高スキル人材の不足)、資源国特有の問題(貿
易財の輸出競争力の低下)、先進国特有の問題(経済成長に対する雇用弾力性の低さ)など様々な要因が複
雑に絡み合っており、南アフリカ経済における最大のボトルネックとなっている。
6
図表 25
雇用市場の停滞要因
供給サイド
需要サイド
高スキル労働者の不足
低調な経済成長
就業経験のない若年人口の増
労働集約的から知識集約型の
加
経済への移行
アパルトヘイトの爪痕
製造業の競争力低下
(地理的問題、情報不足)
労働組合の影響力の強さ
健康問題
低調な起業活動
社会保障拡大による労働意欲
規制保護セクターの存在
低下
(出所)OECD Economic Survey: South Africa など各種資料を基に筆者作成
10.課題が多い南アフリカの経済成長戦略
(1)目標達成に至らなかったこれまでの国家開発プラン
前章では南アフリカにおける最大の問題となっている雇用問題について触れたが、政府も当然のことな
がら、同問題の重要性は理解しており、国家運営においても最重要事項の一つとして掲げられてきた。
1994 年の民主化以降、国家開発計画(The Reconstruction and Development Programme)、1996 年の
GEAR(Growth, Employment and Redistribution: A Macro-economic Strategy)、2006 年の ASGISA
(Accelerated and Shared Growth Initiative for South Africa)、2010 年に発表された NGP(The New
Growth Pass)、2012 年に発表された NDP(National Development Plan)など、南アフリカ政府は、定期
的に国家プランや経済戦略プランを作成・公表してきた。また政府は、5 年ごとの大統領選挙後には新政権
の選挙時のマニフェストの実現を果たすための具体的な政策目標として The Medium-Term Strategic
Framework を発表し、中期的な国家の戦略プランを提示している。そのいずれのプランも雇用環境の改善
と貧困層の所得向上を大きな目的としてきた。しかし前述の失業率の高止まりが示すとおり、南アフリカ
政府の目論見は必ずしも上手くいっていない。
(2)雇用問題解決のために期待される今後の経済政策
南アフリカ政府は、現在の同国の長期的な国家プランである NDP において実質 GDP の年率 5%以上成
長と 2030 年までに 1,100 万人の雇用を創出し失業率を 6%まで引き下げるという目標を掲げている。
経済戦略プランである NGP では、経済成長を加速させるために、マクロ経済政策として緩和的な金融政
策と緊縮的な財政政策を採用する方針が示されている。輸出競争力強化のための自国通貨安、実質金利の
低下を通じた投資コストの削減を目的に、可能な限り緩和的な金融政策を採用する一方、財政政策は、雇
用、技術、インフラに対する支出を優先し、インフレ圧力を抑制するために財政赤字を削減するとしてい
7
る。
ミクロ経済政策では、鉱業セクター以外の産業強化、旧バンツースタン周辺地域の開発、企業間競争の
促進、教育やスキル開発による人材スキル強化とエンジニアや職人の育成、中小企業活動の活発化や起業
精神の醸成、B-BBEE 政策の強化、EPWP など就業支援の強化、R&D 投資や情報通信技術のアクセス拡大
と活用、貿易の促進、アフリカ地域のインフラ開発などを掲げている。これらの政策は、NDP においても
受け継がれており、前項で述べた雇用増加の阻害要因を取り除くための政策として、方向性は間違っては
いない。
これらの政策を通じて、①国民の教育水準を高めるとともに、これまで地理的要因からハンディキャッ
プがあった黒人層に平等に機会を与えることで、より多くの国民が経済活動に参加できるようにすること、
②電力供給問題の改善や物流コスト削減のためのインフラ投資を行い民間セクターのビジネス環境を整備
すること、③規制緩和により、大企業による寡占的な市場の参入障壁を下げ、企業の新規参入を促し、競
争環境を作ると同時に、中小企業の活動を活発化し、雇用のすそ野を広げること、④輸出企業の競争力強
化や、サブサハラ地域の経済発展により、貿易を活発化させ外需を取り込むことなどが、期待される南ア
フリカ経済のサクセスストーリーと言えるだろう。
ただ、南アフリカ政府は数年ごとに国家戦略ならびに計画を作成しているが、進捗は必ずしも芳しくは
ないため過剰な期待は禁物である。図表 26 は、NDP 発表後で最初となる The Medium-Term Strategic Plan
2014-2019 における数値目標であるが、投資比率や失業率などの数値目標については 10 年前の目標値から
変わっていない(つまり過去の数値目標が達成されていない)ことには留意しておく必要があるだろう。
図表 26
南アフリカの中期戦略における経済成長と雇用創出のための数値目標
GDP に占める投資比率を 25%まで高める
GDP に占める公的投資比率を 10%まで高める
10,000 メガワットの発電能力を増強する
雇用を増やし、失業率を 14%まで下げる
所得水準下位 60%の家計所得のシェアを全体の 10%まで高める
GDP に占める R&D 投資比率を 1.5%まで高める(2013 年と比
較して 300%増の投資水準)
(出所)The Medium-Term Strategic Framework 2014-2019
11.南アフリカはサブサハラ地域経済の先導役となれるか
南アフリカ経済は、これまで見てきたとおり、様々な面を持っている。サブサハラ地域における中心的
役割を果たす経済大国であり、多くのグローバル企業を擁する先進国であり、豊富な天然資源を持つ資源
大国であり、多くの貧困層を依然として抱える発展途上国である。この幅広い側面が、この国の経済構造
8
を複雑なものにしており、貧困、失業、格差などの諸問題を解決するのは生半可なことではない。
サブサハラ地域の国には天然資源開発をドライバーに高成長を遂げている国も多いが、南アフリカの場
合と同様に、所得が一部のセクター(鉱業)に集中してしまうため、資源の恩恵を受けない貧困層との経
済格差が生まれやすい要因となっている。政府部門も資源収入の恩恵を受ける部門であるが、この貴重な
財源をいかに公平に国民に分配するかが大事になってくる。分配の仕方も社会保障給付、インフラ投資、
教育支出など様々考えられるが、単なる使いきりの消費にさせないことが重要である。サブサハラ地域の
資源国が持続可能な社会を構築するためには、国民の生活の質に直結する貧困撲滅と教育水準の向上、そ
してその結果として一人ひとりが雇用の機会を持ち自立して生活していけるように時間をかけてやってい
くことが、結果的に経済成長を加速させるための近道であるのではないだろうか。
資源価格の高騰という劇薬の効果が切れつつある現在の南アフリカは 2000 年代の経済成長が真の実力だ
ったかどうかが問われる状況になっている。南アフリカは資源や製造業以外の第 3 次産業の大企業を多く
抱えており、他のサブサハラ地域の諸国よりも優位な条件を多く持っている。今後の南アフリカ経済が貧
困、雇用、格差の問題を解決し再び順調な経済成長のレールに乗ることができるかどうかは、同地域の潜
在能力の大きさを測るという点において重要な意味を持っているだろう。
以上
記事提供:公共財団法人
経済調査部
国際通貨研究所
研究員
井上
裕介
(2014 年 10 月 8 日作成)
9
2.EU の「選択と集中」と官民協力による投資プラン
概要
ユンカー氏率いる欧州委員会は、10 の優先課題に集中し、他の政策領域は加盟国に委ねる「選択と集中」
に着手すると同時に、総額 3,150 億ユーロの新たな投資プランを打ち出した。これは、単なる景気対策では
なく、EU の優先的な投資プロジェクトに民間資本を誘い官民協力によってビジネス環境を改善しようとす
る試みである。
ユンカー氏率いる欧州委員会は、10 の優先課題に集中し、他の政策領域は加盟国に委ねる「選択と集中」
に着手すると同時に、総額 3,150 億ユーロの新たな投資プランを打ち出した。これは単なる景気対策ではな
く、欧州連合(EU)の優先的な投資プロジェクトに民間資本を誘い官民協力によってビジネス環境を改善
しようとする試みである。
1. EU 新体制の優先課題
2014 年 11 月 1 日、元ルクセンブルク首相のユンカー新欧州委員長率いる欧州委員会が発足した。経済停滞、
英国の EU 離脱問題が象徴する欧州統合への懐疑、ウクライナ危機への対処を含む外交問題など課題は山
積している。
これらの難題に取り組むために、欧州委員会は、次のような 10 項目の優先課題を示した。(1)雇用、経済成
長、投資促進、(2)単一デジタル市場、(3)未来を見据えた、気候変動対策を含むしなやかで柔軟なエネルギ
ー同盟、(4)産業基盤の強化を通じた、より統合された、より公正な域内市場、(5)より統合された、より公
正な経済通貨同盟、(6)合理的でバランスの取れた米国との自由貿易協定、(7)相互信頼に基づいた司法・基
本的人権の領域、(8)新しい移民政策、(9)より強力なグローバルアクター、(10)より民主的に変化する EU。
一見すると、新機軸に乏しいかに見えるが、そうではない。新体制の特徴は、一言で言えば「選択と集中」
にある。これらの優先課題は、欧州議会でユンカー氏が次期欧州委員長として承認された 7 月 15 日に表明
された政治指針1に示されていたものであるが、そこでユンカー氏は、次のように述べている。
「私のなすべきことは 10 の優先課題に集中することである。他の政策領域は加盟国に委ねる。加盟国は、
補完性原則2と比例性原則3に基づいて、国家、地域、あるいは地方レベルで効果的な政策対応を行うための、
より大きな正当性、より良い備えがある」
「私は、大きなことに関してはもっと大きく野心的だが、小さなことについてはもっと小さく控えめな EU
を望む」
1 Jean-Claude Juncker, A New Start for Europe:My Agenda for Jobs, Growth, Fairness and Democratic Change-Political Guidelines for the next
European Commission, Opening Statement in the European Parliament Plenary Session, 15 July 2014.
2 意思決定はできるだけ市民に近いレベルで行われるべきであり、EU でよりよく達成できる場合にのみ EU が権限を行使する。
3 EU の目的と手段のバランス。EU は、目的達成に必要な範囲以上の手段を行使しない。
10
優先課題に取り組むべく立案された 2015 年の作業プログラムは、次のような三つの予定を明らかにしてい
る。第一に、2010 年に 316 にまで膨張していた作業プログラムを、優先課題の実現に関わる 23 にまで絞り
込む。第二に、79 の領域の EU 法令を目的に照らして再点検し、規制の重荷を軽減する。第三に(1)優先課
題にふさわしくない、(2)交渉が停滞している、(3)現状では成果が期待できない 80 の欧州委員会提案につ
いて、6 カ月以内に合意できない場合、撤回または新たな提案に差し替える。
以上から分かるように、EU 新体制の最も大きな特徴は「選択と集中」の方針に基づいて欧州委員会が取り
組むべき課題を厳選すると同時に、補完性原則と比例性原則に立ち返り、加盟国の役割と政策を進める手
段の適切性を再確認し、加盟国の協力を仰ぎながら「危機後の欧州の橋を再建」し「欧州市民の信頼を取り
戻す」ことなのである。
2. 投機から公共投資へ:即効性のある中小企業対策とビジネス環境改善につながる長期インフラ投資
前ポーランド首相のトゥスク新欧州理事会常任議長の下で初めて開催された 2014 年 12 月 18 日の欧州理事
会では、EU の投資問題とウクライナ問題という二つの課題を中心に協議がなされた。特筆すべきは、ユン
カー欧州委員長の提案に基づき、欧州委員会と欧州投資銀行(EIB)の協力の下に新たに欧州戦略投資基金
(European Fund for Strategic Investments:EFSI)を創設し、2015~2017 年に総額 3,150 億ユーロ(約 46
兆円)の投資を行う方針が確認されたことである。
この背景には、2007 年以来、EU の投資が 15%近く低下しているという事実がある。図 1 から明らかな通
り、その落ち込みの 60%以上はスペイン、イタリア、ギリシャなど南欧諸国によるもので、英国とフラン
スを加えると 75%以上に達する。しかも、その 77%が住宅ブームの崩壊に伴う不動産投資の減少によるも
のである。2013 年の投資水準は国内総生産(GDP)の 19.3%だが、これは長期の平均値(バブル期を除く)
より 2%低く、つまり持続可能な水準を下回っている。
【図 1
EU の投資の減少】
出所:European Commission, Factsheet1 Why does the EU need an investment plan?, 2014.
11
しかし、EFSI は単なる景気対策ではないし、EU が「大きな政府」になろうとしていることを意味するも
のでもない。EU の政策文書「欧州のための投資プラン」によれば、EFSI は短期的な危機打開を図るにと
どまらず(1)「あらゆるレベルで規制を簡素でよりよく予測可能な」ものにし、(2)2015 年に本格始動する銀
行同盟を前提として、資本市場の分断を克服する「資本市場同盟」の準備を進め、(3)「単一市場における
公正な競争の場を強化し、投資障壁を撤廃する」ことによって、投資環境の改善を目指している。そこで
EFSI に期待されるのは、EU が優先する長期の投資プロジェクトに民間投資を誘う呼び水としての役割で
ある。事実、総額 3,150 億ユーロのうち 750 億ユーロが若者を含む雇用創出や景気対策として即効性が高い
と考えられる中層企業向け融資に向けられるが、2,400 億ユーロは長期のプロジェクトに投資されることが
想定されている。
EU は EFSI に対し、EU 予算内のエネルギー・交通・通信のインフラ投資向けの EU 予算のコネクティング・
ヨーロッパ・ファシリティー(CEF)から 33 億ユーロ、イノベーション向けのホライズン 2020 から 27 億
ユーロ、財政予備から 20 億ユーロの合計 80 億ユーロによって EFSI に 160 億ユーロの債務保証を行い、さ
らに EIB が 50 億ユーロを拠出する。これによってその 3 倍の 630 億ユーロの公的融資が可能となるばかり
でなく、投資案件のリスクの一部を EU が負担する融資枠組みが設定されるので、投資家にとっては投資
を決断しやすくなる。その結果、2,520 億ユーロの民間投資が集まり、官民協力で総額 3,150 億ユーロの投
資が実現するというのである。つまり、1 ユーロの基金がレバレッジ効果によって 15 ユーロの投資になる
というわけである(図 2)。欧州の金融機関の過度なレバレッジがユーロ危機の一因となったことを思い起
こせば、EFSI には批判もある。
【図 2
EFSI 長期投資のケースの想定】
出所:European Commission, An Investment Plan for Europe, COM(2014)903final.
12
しかし重要なことは、何に投資されるかである。EFSI による投資は(1)産業中心地の交通インフラばかりで
なく、とりわけブロードバンドやエネルギーのネットワークにおける欧州的意義を持つ戦略的投資、(2)教
育、研究、イノベーション、(3)再生可能エネルギ-とエネルギー効率、を支援することが想定されている。
これらは、いずれも長期的に見て EU のビジネス環境を改善し、EU 経済の長期的な国際競争力強化の前提
条件を生み出すものである。例えば、ブロードバンド接続の強化、イノベーション、教育などへの投資の
強化は、知識基盤型経済への転換を目指す EU にとって重要なプロジェクトである。ユーロ危機以前の投
資の大半が不動産に向かい、多分に投機の様相を帯びていたことを考えると、EFSI 創設は「投機から公共
投資へ」の転換を目指すものと評価できるかもしれない。
EU 新体制の下で行われた最初の欧州理事会において、投資問題と並んで重要議題となった対ロシア関係を
含むウクライナ問題を解決していく上でも、EFSI の実現は重要である。EU は 2012 年時点で、石油・石油
製品の 86%、天然ガスの 66%を輸入に頼り、ロシアがそれぞれの輸入の 34、32%を占めているからである。
国境を越えるパイプライン網や送電線網を接続し、石油や天然ガスばかりでなく、再生可能エネルギーを
自由に取引できる市場の物理的な前提条件となるインフラを整備し「エネルギー同盟」への準備を進める
ことは、輸入依存を低減しエネルギー供給の安全保障を高める。そればかりでなく、これは 2014 年 10 月
に承認された「2030 年の気候変動対策・エネルギー枠組み」が定めた、再生可能エネルギーを 27%に増や
し、温室効果ガスを 40%削減するという野心的な目標達成にとっても欠かせない。
3. やはり重要な加盟国の連帯
このように、EU が新たに打ち出した投資プランは「大きな政府」による景気対策ではなく、GDP の 1%
に満たない予算しか持たない欧州委員会という、いわば「小さな政府」が「選択と集中」によって優先課
題を定め、それを実現するために必要な長期投資プロジェクトに、限られた資金をてこに民間投資を誘う
融資枠組みを設定する試みである。
特に国境を越える交通、通信、エネルギーなどのインフラ整備は、大規模かつ長期にわたる投資が必要で
あり、民間投資を呼び込まなければ実現が難しいことは早くから認識されていたが、それを実現する方法
については、これまで具体性を欠いていた。この点で EFSI 創設の試みは評価されてよいだろう。
しかし、EU の投資環境を根本的に好転させるには、EFSI という融資枠組みを設定するだけでは不十分で
あり、同時に加盟国が経済構造改革を進めることが肝要である。その意味で、欧州委員会の取り組みが成
功するには、やはり加盟国間の連帯が不可欠だと思われる。
記事提供:蓮見
雄(立正大学経済学部教授、ユーラシア研究所事務局長)
ユーラシア研究所 Institute of Eurasian Studies
ユーラシア研究所は、月刊誌『ロシア・ユーラシアの経済と社会』、季刊誌『ユーラシア研究』、
ユーラシア・ブックレットの出版やシンポジウム、セミナー、茶話会などを通じて「研究者の営
みと市民をつなぐ」ことを目指すボランティア組織です。
(2015 年 1 月 4 日作成)
13
3.主要各国の経済指標
米国
実質GDP成長率
単位
2012
%
インフレ率
%
貿易収支
十億ドル
経常収支
十億ドル
政策金利
%
2013
2.3
2.1
-537.6
-460.7
2014/3Q
2.2
1.5
-476.4
-400.3
2014/4Q
5.0
2.6
1.7
0.8
-124.3
Oc t - 1 4
No v- 1 4
De c - 1 4
J an - 1 5
1.7
-42.2
1.3
0.8
-100.3
0.00-0.25
0.00-0.25
0.00-0.25
0.00-0.25
0.00-0.25
0.00-0.25
0.00-0.25
対円
86.38
102.23
109.69
119.50
112.10
118.69
119.50
株価
ドル
13,104.14
16,576.66
17,042.90
17,823.07
17,390.52
17,828.24
17,823.07
8.1
7.4
5.9
5.6
5.8
5.8
5.6
%
消費者物価指数(CPI)、前年同期比、Qは各期末日
-39.0
外国為替相場
失業率
備考
季節調整済み、前期比、年率表示
0.00-0.25 FF金利誘導目標
117.43 各期末日(LONDON市場の午後4時30分時点)レート
17,164.95 NYダウ工業株30種、各期末日レート
Qは各期末日
(出所:三菱東京UFJ銀行経済調査室、米商務省、米労働省、連邦準備理事会など)
EU
実質GDP成長率
単位
2012
%
2013
-0.7
2014/3Q
-0.5
2014/4Q
Oc t - 1 4
No v- 1 4
De c - 1 4
J an - 1 5
0.2
インフレ率
%
2.5
1.3
貿易収支
十億ユーロ
88.9
157.4
46.3
経常収支
十億ユーロ
151.1
214
72.2
政策金利
%
0.75
0.25
0.4
0.2
0.4
0.3
19.6
20.6
29.7
0.05
0.05
0.05
-0.2
ユーロ圏
0.05
ユーロ圏
0.05
対ドル
1.3217
1.3145
1.2620
1.2146
1.2527
1.2438
1.2146
株価
ユーロ
2,635.93
3,013.96
3,225.93
3,146.43
3,113.32
3,250.93
3,146.43
11.3
12.0
11.5
11.4
11.5
11.5
11.4
%
-1.0 消費者物価指数(HICP)、ユーロ圏、前年比
24.6
外国為替相場
失業率
備考
ユーロ圏、前期比
0.05 各期末日レート
1.1288 各期末日(LONDON市場の午後4時30分時点)レート
3,351.44 ユーロ・ストックス50指数、各期末日レート
ユーロ圏
(出所:三菱東京UFJ銀行経済調査室、EUROSTAT、ECBなど)
ブラジ ル
実質GDP成長率
単位
2012
%
2013
2014/3Q
1.0
2.5
-0.2
2014/4Q
Oc t - 1 4
No v- 1 4
De c - 1 4
J an - 1 5
インフレ率
%
5.8
5.9
6.8
6.4
6.6
6.6
6.4
貿易収支
億ドル
194
24
18
-32
-12
-24
3
経常収支
億ドル
-542
-812
-195
-278
-81
-93
-103
政策金利
%
7.25
10.00
11.00
11.75
11.25
11.25
11.75
外国為替相場
対ドル
2.0475
2.3593
2.4477
2.6539
2.4500
2.5719
2.6539
株価
レアル
60,952.08
47,638.99
54,115.98
50,007.41
54,628.60
54,724.00
50,007.41
5.5
5.4
4.9
4.3
4.7
4.8
4.3
失業率
%
備考
前年比
拡大消費者物価指数(IPCA)、前年比、Qは各期末日
-32
12.25 各期末日レート
2.6878 各期末日(LONDON市場の午後4時30分時点)レート
46,907.68 ボベスパ指数、各期末日レート
Qは各期末日
(出所:三菱東京UFJ銀行経済調査室、地理統計院(IBGE)、ブラジル中銀など)
トル コ
実質GDP成長率
単位
2012
%
2013
2.2
2014/3Q
4.1
2014/4Q
Oc t - 1 4
No v- 1 4
De c - 1 4
%
8.9
7.5
9.2
貿易収支
百万米ドル
-84,083
-99,859
-21,501
経常収支
百万米ドル
-48,497
-65,065
-6,623
政策金利
%
5.50
10.00
8.30
8.30
8.30
8.30
8.30
1.7862
2.2603
2.2786
2.3320
2.2208
2.2201
2.3320
78,208.44
61,858.21
74,937.81
85,721.13
80,579.66
86,168.66
85,721.13
8.4
9.1
10.5
対ドル
株価
リラ
失業率
%
備考
前年同期比
インフレ率
外国為替相場
J an - 1 5
1.7
-23,095
9.0
9.2
8.2
-6,273
-8,316
-8,506
-2,035
-5,636
消費者物価指数(CPI)、前年同期比
7.80 各期末日レート
2.4422 各期末日(LONDON市場の午後4時30分時点)レート
88,945.82 イスタンブールナショナル100種、各期末日レート
10.4
(出所:三菱東京UFJ銀行経済調査室、トルコ中銀など)
ロシ ア
実質GDP成長率
単位
2012
%
2013
3.4
2014/3Q
1.3
2014/4Q
Oc t - 1 4
No v- 1 4
De c - 1 4
%
貿易収支
十億米ドル
6.6
6.8
8.0
8.3
9.1
191.7
179.0
51.1
16.4
15.3
経常収支
十億米ドル
71.3
33.0
11.4
10.5
政策金利
%
8.25
5.50
8.00
17.00
11.0
8.00
9.50
17.00
外国為替相場
対ドル
30.500
32.877
39.522
58,950
42.984
49.427
58.950
株価
ルーブル
1,453
1,441
1,411
1,397
1,488
1,534
1,397
5.7
5.6
4.9
5.3
5.1
5.2
5.3
%
備考
前年同期比
インフレ率
失業率
J an - 1 5
0.7
前年同期比
17.00 各期末日レート(2013年9月より1週間物入札レポ金利に変更)
70.277 各期末日(LONDON市場の午後4時30分時点)レート
1,648 MICEX指数、各期末日レート
(出所:三菱東京UFJ銀行経済調査室、ロシア中銀など)
南 ア フリ カ
実質GDP成長率
単位
%
2012
2013
2.5
2014/3Q
1.9
2014/4Q
Oc t - 1 4
No v- 1 4
De c - 1 4
1.4
%
5.6
5.7
5.9
5.3
5.9
5.8
5.3
貿易収支
100万ランド
-39,578
-73,584
-26,904
-20,030
-21,600
-5,280
6,850
経常収支
100万ランド
-164,548
-197,179
-68,146
政策金利
%
5.00
5.50
5.75
5.75
5.75
5.75
5.75
外国為替相場
対ドル
8.473
10.551
11.305
11.562
11.050
11.060
11.562
株価
ランド
34,795.50
40,586.73
44,160.31
43,949.89
44,384.99
44,205.76
43,949.89
24.9
24.1
25.4
%
備考
前期比、年率表示
インフレ率
失業率
J an - 1 5
各期末月、前年同期比
5.75 各期末日レート
11.648 各期末日(LONDON市場の午後4時30分時点)レート
45,111.03 FTSE/JSEアフリカトップ40指数、各期末日レート
年間データは、第4四半期の値
(出所:三菱東京UFJ銀行経済調査室、南ア準備銀行など)
(作成日:2015年2月3日)
14
4.政治・経済・産業トピックス
■
(米国)-2014 年の実質 GDP 成長率 2.4%、前年を上回る
1 月 30 日、米商務省が発表した 2014 年の実質 GDP 成長率は 2.4%。前年の 2.2%を上回った。2014 年 10-12
月期の実質 GDP 成長率(速報値、年率換算)は前期比 2.6%増と 7-9 月の 5.0%増から減速。輸出が鈍化し
た他、政府支出も落ち込んだが、個人消費は堅調に推移している。
【 米 国 : 実 質 GDP 成 長 率 ( 速 報 値 、 年 率 換 算 、 前 期 比 ) 】 ( % )
2014 年 7-9 月 期
2014 年 10-12 月 期
実 質 GDP 成 長 率
5.0
2.6
個人消費支出
3.2
4.3
耐久消費財関連支出
9.2
7.4
非耐久消費財関連支出
2.5
4.4
2.5
サービス関連支出
( 出 所 ) 米 国 政 府 資 料 よ り 三 菱 東 京 UFJ銀 行 国 際 業 務 部 作 成
■
3.7
(EU)-欧州中銀、金融緩和
1 月 22 日、欧州中央銀行(ECB)は、量的緩和の導入を決定。ユーロ域内のインフレ率が歴史的な低水
準で推移していることに対応し、景気を刺激。資金供給により、EU 域内でデフレが進行するのを阻止する。
各国中銀は 3 月から ECB の指揮下で、国債の購入を進める。買い取り規模は、全ての債券の合計で毎月 600
億ユーロ。
■
(ギリシャ)-総選挙実施。反緊縮派が勝利
1 月 25 日投開票が行われたギリシャ総選挙では、緊縮財政に反対する最大野党の急進左派連合(SYRIZA)
が勝利した。300 議席中 149 議席を獲得。独立ギリシャ人党(13 議席)と連立政権を組み政権運営を行う。
26 日、急進左派連合のアレクシス・チプラス党首(40 歳)が首相に就任した。債務返済に向け、新政権が
どのように対応するか注目される。ギリシャでは EU 等から金融支援を受ける条件として、緊縮財政を課さ
れており、失業率が 26%に達し、国民の不満が高まっていた。
■
(ブラジル)-利上げ。政策金利 12.25%に。インフレ抑制優先
1 月 23 日、ブラジル中央銀行は、通貨政策委員会で政策金利を 0.5%引上げ、年 12.25%にすると発表。
インフレ抑制の姿勢を示した。利上げは昨年 10 月以降 3 会合連続。ブラジル経済は減速傾向にあるが、中
銀はインフレ抑制を優先しており、次回の会合でも利上げがされるとの見方も出ている。昨年 12 月の拡大
消費者物価指数は前年同月比で 6.41%上昇している。
15
■
(ロシア)-利下げ。政策金利 17%に。景気優先
1 月 30 日、ロシア中央銀行は、政策決定会合を開催。政策金利を 2%引下げ 17%にすることを決定した。
2 月 2 日から適用。利下げは 3 年 1 ヵ月ぶり。昨年 12 月に大幅な利上げを行っていたが、景気悪化懸念から
利下げに転じた。
■
(トルコ)-2014 年の自動車販売台数、前年比 10%減
トルコ自動車販売協会が発表したトルコ国内の 2014 年の自動車販売台数は 76 万 7,681 台、前年比 10%減
(2013 年は 85 万 3,378 台)。2014 年 12 月は、14 万 6,989 台、前年同月比 13.3%増(2013 年 12 月は 12 万 9,718
台)。
(2015 年 2 月 2 日作成)
(編集・発行) 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部
(照会先) 北村 広明
(e-mail): [email protected]
・本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。本資
料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の実行を推奨
することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や、適法性等について保証するものでもありません。
・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。
・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものではありま
せん。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、その他全て
の行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実際の適用につきま
しては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。
・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱東京 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部につ
いて、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。
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16