磁性細線を用いた記録デバイスの研究 機動性の高い超小型カメラを実現するためには,それに用いる記録装置も小型軽量化する必要がある。8Kスーパー *1 を並列で動作 ハイビジョン(8K)の映像を記録するには,複数台のハードディスクやSSD(Solid State Drive) させる必要があるが,以下のような課題がある。 データを何度でも書き換えられるハードディスクは,小さな磁石の向きを順次変えていくことでデータを記録して いるが,この磁石の向きを変えるために必要な時間は,SSDで固体メモリーに電気的に記録する時間に比べて,は るかに短いことが分かっている。しかし,ハードディスクはディスクを回転させてデータを記録再生しているため, ディスクの回転速度によって記録速度が制限され,可動部があるために小型化も容易ではない。一方,SSDは可動 部がないため,ハードディスクよりも小型な装置で高速な記録再生が可能であるが,データの書き換え回数が有限で あるという課題がある。このため,従来は,抜本的な小型軽量化と高速化の両立は困難であった。 そこで当所では,将来の8K超小型記録装置の実現に向けて,磁性細線を用いた新たな記録デバイスの研究に取り 組んでいる。磁性細線は,その幅が人間の髪の毛の1,000分の1程度の小さな磁石を多数,線状に連続的に並べたも のである。この磁性細線の長さ方向に電流を流すことで,細線中の各磁石に記録されているデータが移動する(1図) 。 この電流によるデータの移動速度は,ハードディスクの記録速度より数十倍速く,併せて多数の細線を並列で用いる ことにより,超高速記録の実現が期待できる。また,機械的な可動部分がないために小型化が容易で壊れにくく,持 ち運びに適しているという特長もある。これまでに,この磁性細線のデータ(磁石の向き)を電流により移動させて 再生出力を得ることに成功している(2図) 。 今後は,磁性細線にデータを記録し,再生するという動作を連続的に行う技術や,記録部と再生部を磁性細線と一 体化したデバイス構造の開発など,将来の8K超小型記録装置の実現に向けた研究開発を進めていく。 *1 記録素子として固体メモリーを用いるドライブ装置。ハードディスクの代替として利用でき,ハードディスクよりも記録速度が速い。 (1)データ記録 記録部 電源 スイッチ OFF N S S N + 再生出力 (2)データ移動 スイッチ ON 上向きの 磁石を検出 0 下向きの 磁石を検出 電流によってデータが右に移動 (3)データ再生 スイッチ ON − 再生部 時間 1図 磁性細線を用いた新しい磁気記録デバイス 62 NHK技研 R&D/No.149/2015.1 2図 データ移動による再生出力の変化
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