新春エッセー “助け合い”を知り、それを力に自転車プロロードレース選手土井雪広山形市出身の自転車プロロードレース選手、土井雪広さん。全日本選手権での優勝や、グランツール「ブエルタ・ア・エスパーニャ」への日本人初出場・初完走を果たすなど、日本のサけんいんイクルロードレースを牽引する存在です。今回は土井雪広さんに、サイクルロードレースへの思いをまとめた文章をいただきました。ツアーオブジャパン（2014年５月）アスリート土井雪広誕生僕のアスリートとしてのキャリアは、ここ山形市で始まりました。小学校の入学祝いに、ＢＭＸという種類の自転車を買ってもらったんです。今は分からないのですが、当時は、小学校低学年は公道で自転車に乗れないというきまりがあったと記憶しています。だから、公園で乗り回していました。小白川町のあけぼの公園や、かじか公園などです。その後、小学３年生の時に、マウンテンバイクを買ってもらいました。それで市内のレースに出たのが、初めてのレースです。サイクルロードレースではなく、マウンテンバイクでのレースだったんです。結果は残念ながら２位。あの悔しさは、今でも忘れられません。というのも、同じころ、僕はアルペ土井雪広さんのプロフィール 1983年９月18日山形市生まれ（31歳）３歳よりアルペンスキーを始め、中学生で本格的にサイクルロードレースに転向する。山形電波工業高等学校２年生時にジュニア日本一、法政大学２年生時に学生チャンピオンに輝く。それを機に、大学を中退し、シマノ・レーシングに入団する。翌年、オランダでプロデビューし、ヨーロッパツアーにてさまざまなレースに出場する。 2011年以降、グランツール「ブエルタ・ア・エスパーニャ」での日本人初出場・初完走や、全日本選手権エリートでの優勝など輝かしい成績を残す。2013年より活動拠点を日本に移し、元Ｆ１ドライバーの片山右京氏が設立したチームUKYOに移籍し、ジャパンプロツアーで年間総合２位（日本人としては１位）を獲得する。2014年には、世界選手権（スペイン開催）の日本代表としても活躍した。現在も夢を達成するために走り続けている。 ▲マウンテンバイクに乗る土井さん（1992年） 8 ンスキーもやっており、子どもながらに﹁レースで勝負をする﹂ということを知っていたからです。勝つ喜びや、負ける悔しさ。競技こそ、今の僕が仕事にしているサイクルロードレースではありませんが、﹁アスリート土井雪広﹂が、山形市で生まれたのは間違いありません。ちなみに、そんな僕を支えてくれたのは、父と母でした。それは、僕がヨーロッパで戦っていた時も変わりません。両親には今でも本当に感謝しています。小学５年生の時、いとこからお下がりのロードバイクをもらいました。それで出場した初めてのサイクルロードレースも、地元でした。クリテリウム新庄大会です。僕の、ロードレーサーとしてのキャリアの始まりです。サイクルロードレースに関する知識もなく、そもそもサイクルロードレース、ロードバイクが何かもよく分かっていなかったかもしれませんが、優勝できました。長い僕のキャリアの中でも、全日本選手権の勝利などと並び、特に忘れられない勝利の一つですね。です。一度だけ、そんな毎日に音をあげてしまったことがあります。練習をサボって、友達と、友達の彼女と一緒に３人で街のカラオケに行ったんです。サボったのはその一日だけですが、その日だけはアスリートではない、普通の高校生に戻れた気がしました。高校時代の最大の目標は、ジュニア全日本選手権での優勝です。けれど、僕には強力なライバルがいました。今、トレック・ファクトリー・レーシング︵米国︶に所属している別府史之選手︵以降、フミ︶です。神奈川県の選手でしたが、僕と同い年です。その後、ツール・ド・フランスを日本人として初めて完走し、敢闘賞まで手に入れたほどの選手です。当然、当時からものすごく強い。お互いに意識していました。あのころのレースは、大体、僕かフミが１位と２位でしたから。フミに勝てることもあれば、負けることもあります。お互い良いライバルでしたが、ジュニア全日本選手権だけは譲れません。そんな状況でしたが、歳の時には全日本でなんとかフミに勝ち、優勝できました。ゴール前で苦しんでいる僕とフミの写真が、今でも家にあります。ただ、いつでもフミがライバルだったかというと、違います。海外での強化合宿に一緒に行くことも、よくありました。海外のレースは、やはりレベルが違います。日本では常に勝てていた僕やフミも、海外ではそうはいきません。おぼろげに﹁世界﹂が見え、同時に世界との壁を痛感したのがこのころです。 ᴫᴫ 9 ライバルとしのぎを削った高校時代山形電波工業高等学校にスポーツ推薦で入ったころには、自転車を中心とした生活が始まっていました。自転車部に所属し、平日はキロメートル。土・日曜日はキロメートルほど走っていました。そんな生活ですから、もちろん、同級生のように青春を謳歌することはできません。ひたすら練習の毎日 ▲ジャパンプロツアー（2014年６月） 200 90 17 ▲ジュニア全日本選手権ゴール前で、別府選手の前に出る土井選手（2000年） ※自転車の種類について・ロードバイク…舗装道路での利用を主とした競技用自転車。・マウンテンバイク…山間部等での利用を主とした競技用自転車。・ＢＭＸ…荒地等での利用を主とした競技用自転車。曲芸などにも利用されることが多い。新春エッセー ※ブエルタ・ア・エスパーニャについて毎年９月にスペインを舞台にして開催される自転車プロロードレース。毎年コースが変更され、23日間で21ステージ、合計走行距離は約3,200キロメートルに及ぶ。各ステージで勝利者が決定し、全日程のタイムの合計で総合優勝者が決定する。 ※クリテリウム競技について交通を一時的に遮断し、街中に作ったコースを周回する競技。通常のロードレースと異なり、観客の前を何度も通過し応援できる特徴がある。世界観を変えたグランツール出場 200 周囲の助けもあってだんだんと僕は強くなり、２０１１年と２０１２年には、２年連続で、日本人として初めて﹁ブエルタ・ア・エスパーニャ﹂に出場できるまでになりました。皆さんも、﹁ツール・ド・フランス﹂というレースを聞いたことがあるかもしれません。毎年夏にフランスで行われる、世界で最も有名なロードレースです。それに近い地位を持つレースが他にも２つあり、それら３つは﹁グランツール﹂と呼ばれています。それが、イタリアで行われる﹁ジロ・デ・イタリア﹂と、スペインの﹁ブエルタ・ア・エスパーニャ﹂︵以降、ブエルタ︶です。僕は、ブエルタに﹁アシスト﹂として出場しました。アシストというのは、自分の勝利は狙わず、風よけになったり、食べ物を運んだりしてチームのエースの勝利を下支えする選手のことです。人近い選手が出場するのがロードレースですが、その９割はアシストです。サイクルロードレースというのは不思議な競技です。チーム単位で出場し、戦略を練ってエースを勝たせるわけですから、チーム競技であるのは確かです。 ▲ブエルタ・ア・エスパーニャ最終ステージスタート前（2012年９月）プロを目指し、世界へ ▲ポルトガルツアーオープニング（写真左から３番目。2014年８月）山形市を出て、法政大学に進む頃には、プロのレーサーになることを決めていました。結局、大学は２年生の時にインターカレッジの優勝を機に辞めてしまうのですが、当時、日本最強チームだったシマノレーシングでプロ入りをすることができました。当時のシマノレーシングには、伝説級の名選手たちが集まっていました。ヨーロッパで活躍した選手や、全日本選手権で優勝した選手がゴロゴロといました。高校でも、大学でも日本一を取れた僕も、ハードな練習にかなり苦しんだ記憶があります。しかし、その翌年には早くもヨーロッパに挑むチャンスがやってきます。シマノレーシングがオランダのチームと合併し、ヨーロッパを主戦場として戦うことになったのです。僕を含む数人の選手が、オランダのシマノの拠点に移りました。ヨーロッパの選手たちの強さは、異様でした。シマノレーシングのえりすぐりの精鋭たち、つまり当時の日本で最も強い選手たちでも、まるで歯が立たないのです。初めてのヨーロッパでのシーズンは、近いレースに出場しましたが、完走できたのは３レースだけです。 100 10 しかし、勝利の栄誉にあずかれるのはエース１人だけ。その意味では、個人競技です。両方の側面を併せ持つスポーツなのです。とはいえ、サイクルロードレースでは、エースの勝利はアシストの勝利でもあります。だから僕は、自分の順位は度外視しても、エースのために走りました。僕は２０１２年には全日本選手権に勝利し、日本一の称号を手に入れています。しかしそれでも、その年のブエルタにはアシストとして出場しました。それでよいのです。エースの勝利は、僕の勝利ですから。２０１２年は、僕がアシストしたチームのエース、ヨーン・デーゲンコルプが５回もの勝利をチームにもたらしてくれました。圧倒的でした。３週間のレースの最終日はマドリードにゴールするのですが、僕は、そんな最強のチームの一員として走れたことに誇りを持って凱旋しました。自らが勝つだけではなく、アシストとしてエースを勝たせることにも価値がある。その喜びを知ることができたのです。助け合いの価値と言ってもいいかもしれません。自分の勝利ばかり狙っていた僕が、他人を助けることの意味を知ることができたのが、ヨーロッパで得た最大のものだったのかもしれません。日本のチームで走っている今も、その気持ちを忘れずにいます。 ▲ジャパンカップクリテリウム競技（2014年10月）山形市への思いヨーロッパでは、つらい経験もたくさんしました。それもあってか、オフシーズンの年末に帰る山形市での生活は、僕にとって貴重な癒やしの時間でした。日本ではサイクルロードレースはマイナーな競技ですから、同級生も、僕を特別扱いすることはありませんでした。それがかえって、気楽でしたね。ヨーロッパで他人を助けることの意味を知り、ベテランと呼ばれる年齢になった最近の僕には、山形市に恩返しをしたい気持ちがあります。それが何なのかはまだ分かりませんが、地元の子どもたちにサイクルロードレースの楽しさを教えるなど、いずれその機会が訪れることを祈っています。土井雪広さんからプレゼントが届きました土井雪自転車プロロードレース選手広さんのサイン色紙を５人の方にプレゼントします！詳しい応募方法はページをご覧ください。なお、当選者は発送をもって代えさせていただきます。 19 ᴫᴫ 11 も挑続け戦します！」 15年「20 土井雪広さんの著書があります「敗北のない競技−僕の見たサイクルロードレース」（東京書籍）「市民の皆さんにとって、なじみの薄いサイクルロードレース。そんなロードレースの良い部分、悪い部分、チームワークで得る喜び等を書いています。サイクルロードレースを通して、普段生きていても気付けていないようなささいな事に気付くことができた僕の世界観や人生観を知っていただき、普段生きるために必要なエネルギーをこの本から感じてもらえれば幸いです」動躍パスラボ山形ワイヴァンズ山形県に初の男子プロバスケットボールチームが誕生しました。今シーズンからNBDL に参戦している「パスラボ山形ワイヴァンズ」を紹介します。 NBDL って何？（ナショナルバスケットボールデベロップメントリーグ）男子バスケットボールの日本トップリーグ NBL（ナショナルバスケットボールリーグ）の下部育成リーグです。将来的にNBLに参入することを目指して活動していきます。今季は同リーグに所属する８チームと計32試合の熱戦が繰り広げられています。パスラボってどういう意味？ ▲南沼原スポーツ講座（2014年７月） ▲日本一さくらんぼ祭り（2014年６月） “「パス」を開発する「研究所（ラボラトリー）」”に由来します。人から人へパスを作っていくことで、チーム・ファン・地域がつながっていこうという思いが込められています。地域活動としてさまざまなイベントに参加し、市民の皆さんと触れ合ったり、小学生を対象にしたバスケットボール教室なども行っています。ワイヴァンズの由来は？凶暴な反面、知的であると言われる伝説のドラゴン「ワイバーン」です。荒々しい力強さを前面に出した攻撃的なプレーと、試合をコントロールする冷静な状況判断を持ち合わせるという、チームが目指すスタイルの象徴にもなっています。 12 山形市の皆さんへメッセージヘッドコーチ金澤篤志氏チーム創設１年目として、選手だけでなく、スタッフも含め球団が一丸となって頑張っている姿は皆さんにも伝わっていると思います。さらに今年は勝利に向けて戦う本気度を高めていき、結果を残して、ファンの皆さんと一緒に盛り上がることのできる年にしたいです。キャプテン #30 鳴海亮選手１月からのシーズン後半戦は、特にホームゲームで１試合でも多く勝ちたいです。また、僕が幼いころプロのプレーに感動したように、今は自分がプロの選手として、バスケをやっている子どもたちにいい試合を見せたいと思っています。ぜひ会場に足を運んで、気迫の込もった戦いを間近で見てください。応援よろしくお願いします！マスコットキャラクターヴァンゴー「ワイバーン」の子どものころの姿です。体は小さくてもとてもパワフル！自分より大きく、強い相手にも真っ向からぶつかっていきます。どんなピンチにもひるまない鋼の精神力の持ち主です。 NBDL2014-2015レギュラーシーズン試合日程節第11節第12節第13節第14節開催日１月24日㈯対戦相手試合会場節越谷市総合体育館（埼玉県）第15節１月31日㈯豊田通商ファイティング山形県総合運動公園アイーグルス名古屋リーナ２月１日㈰第16節１月25日㈰２月７日㈯２月８日㈰２月14日㈯２月15日㈰大塚商会アルファーズレノヴァ鹿児島山形市総合スポーツセンター第17節アースフレンズ東京Ｚ山形市総合スポーツセンター第18節開催日２月20日㈮２月21日㈯２月28日㈯３月１日㈰対戦相手試合会場東京エクセレンス港区スポーツセンター（東京都）豊田合成スコーピオンズ中村スポーツセンター（愛知県）３月７日㈯アイシン・エィ・ダブリュ岡崎中央総合公園総合アレイオンズ安城体育館（愛知県）３月８日㈰３月14日㈯３月15日㈰東京海上日動ビッグブルー山形市総合スポーツセンター会場に足を運び、迫力満点のプロのプレーを肌で感じてみませんか。※■はホームゲームです。詳しくはホームページをご覧ください。パスラボ山形ワイヴァンズ ☎ （664） 3646 ホームページhttp://www.passlab.jp/wyverns/ 13 ᴫᴫ