1 資料1-5 働き方の変化と出生率 ~経済学の視点から~ 慶應義塾大学 樋口美雄 2 経済学の視点 子どもを生むか、生まないかの選択は、コストと ベネフィットの比較で決まる • コストが一定のまま、子どもを持つベネフィットが低下 すれば、子どもを産む人は減る 1.子どもを持つことは、一種の人的投資 家の相続・子どもからの仕送り 自営業が減り、社会保障が充実し、 これらのニーズが減れば、子どもの数は減少 知識に対するニーズが高まれば、こどもの数を減らし、 質を高めるために子どもの教育に費用をかける 2.子どもを持つことは、一種の消費 可愛いから、お金をかけても、子どもを持とうとする (ペット化) 3 子どもを持つベネフィットが一定のまま、 コストが増えれば、子どもを産む人は減る 1.養育費・教育費の上昇は子どもを減らす 2.子どもの養育に時間が取られれば、機会費用が拡大 (1)自由な時間が削減 (2)仕事をやめざるを得なければ、機会費用が増加 ・賃金の上昇は機会費用の増大 ・長時間労働が求められ、保育サービスが得られないなら、 離職やパートへの移行を余儀なくされ、機会費用が増大 ・夫が家事育児をしなければ、時間的費用はすべて妻に 4 ・少子化の回避には、子どもを持つベネ フィットを増やし、コストを下げる ・少子化回避の社会的便益をどう考え、 どう個人を支援するか 5 少子化;五つの神話と二つの真実 五つの神話 ①経済が発展し、豊かになることで、出生率は低下する (1)人々は子どもをもつことで「自由が束縛」されることを嫌う (2)自営業が減ることで、後継者を気にしなくなった (3)社会保障が充実することで、子どもからの仕送りをあてにしな くなった ②女性が働くようになると、出生率は下がる ③社員が長時間働くことで、企業は競争力を高められる 時間的制約の強い女性の活用は、企業の競争力を低下させる ④育児休業制度の普及で、女性の継続就業率は上昇(?) ⑤夫の労働時間短縮で、夫の家事育児時間は増加(?) 6 図表1 2.6 日本 ドイツ 各国の合計特殊出生率の推移 カナダ イタリア アメリカ イギリス フランス 2.4 2.2 アメリカ 2 フランス 1.8 イギリス カナダ 1.6 1.2 1 ドイツ イタリア 日本 1970 1975 1980 1985 1990 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 1.4 出所:UN, Demographic Yearbook による。ただし日本は国立社会保障・人口問題研究所『人口問題研究』による。1)5歳階級の年齢別出生率に基づくため 年齢各歳で計算した値とは異なることがある。E=Council of Europe, Recent Demographic Developments in Europe による。S=Eurostat, Population and Social Conditions (オンライン版)による。U=U.S. Department of Health and Human Services, National Vital Statistics Report (オンライン版)による。 C=Statistics Canada, Births による。 7 図表2 女性の労働力率と出生率の関係が変化 女性が就業すれば、出生率が上昇するわけではない 女性就業による、子どもをもつコストの引き下げが重要 8 女性就業と国際競争力 弱 い 図表3 女性の働きやすさ指標と国際競争力ランキング (2004年) 30 イタリア 25 ギリシャ 国 際 20 競 争 15 力 スペイ ラ ン 10 キ ン 5 グ 韓国 フランス ベルギー ポルトガル オーストリア カナダ オランダ オーストラリア ドイツ 日本 イギリス スイス デンマーク アメリカ 0 40 強 い ニュージーランド 45 働きにくい ノルウェー フィンランド 50 55 女性の働きやすさ指標 出所:World Economic Forum (2004) Global Competitiveness Report 2004-2005. OECD Social Expenditure Database(2004年) 、OECD Social Indicators(2002年)、 スウェーデン 60 65 働きやすい 9 図表4 WLB推進企業と未実施企業のその後の 全要素生産性の推移(推進組織の設置など) 導入率 2004-06年に導入した企業のTFP 1998-2003年に導入した企業のTFP 未導入企業のTFP 50% 0.55 (TFP) 0.5 (導入率) 45% 40% 0.45 35% 30% 0.4 25% 0.35 20% 15% 0.3 10% 導入率(右目盛り) 0.25 0.2 5% 1998年 2004年 2007年 2008年 0% 出所:山本勲、松浦敏幸「ワーク・ライフ・バランス施策は企業の生産性を高めるか?―企業パネルデータを用いたWLB 施策とTFPの検証―」より抜粋 10 図表5 第1子出産前後の妻の就業経歴 出所:内閣府『仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート2013年』 11 正規職員・パート・自営業の女性の継続就業率の推移 正規職員 パート等 就業継続(育休なし) 就業継続(育休利用) 出所:内閣府『仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート2012年』より抜粋 国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査(夫婦調査)」 注1)第1子が1歳以上15歳未満の子を持つ初婚同士夫婦について集計。 2)出産前後の職業経歴:就業継続(育休利用)-妊娠判明時就業~育児休業取得~子供1歳就業 就業計測(育休なし)-妊娠判明時就業~育児休業取得なし~子供1歳就業 自営業主等 2005~09年 2000~04年 第 一 子 出 生 年 1995~99年 90 81.7 79.2 (% 80 ) 73.9 72.7 69.6 70 60 50 40 69.7 77.4 79.2 67.4 69.6 30 20 10 2.2 4.3 3.0 4.3 0 0.0 1990~94年 2005~09年 2000~04年 第 一 子 出 生 年 1995~99年 90 (% 80 ) 70 60 50 40 30 23.7 18.2 18.0 20 15.2 17.6 10 21.5 17.7 14.4 15.6 14.0 0 2.2 0.8 4.0 0.5 2.0 1990~94年 2005~09年 2000~04年 1995~99年 1990~94年 第 一 子 出 生 1985~89年 90 (% 80 70 60 51.6 52.9 45.5 50 44.6 40.0 14.6 9.8 40 17.7 24.7 30 27.4 20 37 43.1 10 13.0 19.9 27.8 0 就業継続(育休なし) 就業継続(育休利用) 1985~89年 就業継続(育休なし) 就業継続(育休利用) 1985~89年 図表6 12 図表7 合計特殊出生率×男性の平均就業時間(通勤・通 学時間含む・都道府県別データ )(除沖縄) 出所:厚生労働省「統計データで見た少子高齢社会」調査研究結果 13 二つの真実 ①若者の雇用不安は、晩婚化をもたらし、 少子化に拍車 ②夫の家事・育児時間の増加は第2子の出 産を促進 14 図表8 学卒後1年の就業状態別 有配偶率 正規(男性) フリーター(男性) 正規(女性) フリーター(女性) 80 70 60 ( ) 有 配 偶 率 % 50 40 30 20 10 0 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 年齢 出所:酒井・樋口「フリーターのその後-就業・所得・結婚・出産」『日本労働研究雑誌』 労働政策研究・研修機構、No.535、2005年 34 35 (歳) 15 図表9 夫の休日の家事・育児時間別にみた 第2子以降の出生の状況 100% 80% 出生なし 60% 40% 出生あり 20% 0% 家事・育児時間な し 2時間未満 2時間~4時間未満 4時間~6時間未満 6時間以上 出所:厚生労働省「21世紀成年者縦断調査」 注:1)集計対象は、①または②に該当し、かつ③に該当する同居夫婦である。ただし、 妻の「出生前データ」が得られていない夫婦は除く。 ①第1回調査から第9回調査まで双方が回答した夫婦 ②第1回調査時に独身で第8階調査までの間に結婚し、結婚後第9回調査まで双方が 回答した夫婦 ③出生前調査時に子ども1人以上ありの夫婦 2)家事・育児時間は、「出生あり」は出生前調査時の、「出生なし」は第8回調査時の状況である。
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