血液凝固因子製剤 文献情報 NO.74 平成26年 9 月 1370.遺伝性出血性毛細血管拡張症の再発性鼻出血に対する新しい治療法 1371.後天性 von Willebrand 病:VWFpp/VWF 抗原比による寛解予知 1372.成人 ITP に対するトロンボポエチン受容体作動薬の一時的な使用と寛 解期間の延長 1373.成人 ITP 患者における20年間死亡率 1374.片麻痺をきたした症例における舌の丘疹 1375.von Willebrand 病と加齢 1376.von Willebrand 病( 1 型)の臨床検査診断と用いる診断基準による差違 1377.89才男性におけるビタミン K 欠損症に起因する出血 1378.鼻出血の季節性変化と予測因子 1379.von Willebrand 病における胃腸粘膜の血管形成異常 1380.血友病 A 患者におけるインヒビター治療としてのリツキシマブ(臨床 第 2 相試験) 1381.遺伝性出血性毛細血管拡張症の鼻出血に対するトラネキサム酸治療 (第 IIIB 相臨床試験) 公益財団法人 血液製剤調査機構 血液凝固因子製剤委員会 編集:血液凝固因子製剤委員会 血液凝固因子製剤文献情報研究班 班長 金沢大学附属病院 高密度無菌治療部 朝倉英策 発行:公益財団法人 血液製剤調査機構・血液凝固因子製剤委員会 〒105-0011 東京都港区芝公園2-3-3 寺田ビル 5階 TEL 03(3438)4305,FAX 03(3437)4810 #1370 タ イ ト ル:遺伝性出血性毛細血管拡張症の再発性鼻出血に対する新しい治療法 著 者 名:Gantone E, et al. 雑 誌 名:Am J Emerg Med 32: 952, e1-e2, 2014. 【要旨】 遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT、あるいはオスラー病)は、皮膚、消化管粘膜、 気道粘膜における血管拡張性の血管異形成が特徴である。 耳鼻科領域では、鼻出血が最も高頻度にみられる症状であり、鼻中隔の穿孔をきたす こともある。また高度な鼻出血の症例では貧血をきたす。 くり返す鼻出血に対して、いくつかの治療法では失敗に終わったり、あるいは観血的 で痛みを伴う治療もあるため、簡単で確実な効果の期待できる治療法が望まれる。 最近、Surgiflo(ゼラチンとトロンビンの配合された外用薬)が鼻出血に対して適用す る方法が提案されている。 著者らは、鼻出血を繰り返す HHT の外来患者に対して、Surgiflo が有効であった 3 症 例を報告している。 今後、HHT の難治性鼻出血に対して期待できる治療法ではないかと考えられる。 #1371 タ イ ト ル:後天性 von Willebrand 病:VWFpp/VWF 抗原比による寛解予知 著 者 名:Lee A, et al. 雑 誌 名:Blood 124⑸ : e1-e3, 2014. 【要旨】 著者らは、自己免疫性疾患を有し von Willebrand 因子(VWF)に対する抗体が出現 した後天性 von Willebrand 病(AVWS)の症例を報告している。 診断時には、VWF 活性、VWF 抗原、VWF マルチマー、第 VIII 因子活性はほとんど 検出されなかった。 VWF プロペプチド(VWFpp)は上昇しており、 また VWFpp/VWF 抗原比(VWFpp: Ag)は高度に上昇しており、VWF クリアランスの上昇が示唆された。 免疫抑制療法を行ったところ臨床症状は軽快したものの VWFpp:Ag は高値(正常の2 倍)が持続したために、VWF 抗体は残存し VWF のクリアランスは亢進したままと考え られた。すなわち、VWF の産生が亢進しているために代償されている病態と考えられた。 本例は、VWFpp:Ag が再度著しく高値となった時点で再発した。その後、VWFpp: Ag が正常化したときに初めて VWF 抗体は検出されなくなり完全寛解となった。 以上、再発と寛解を繰り返す AVWS において、VWFpp:Ag が寛解状態を評価する上 で有用と考えられた。 #1372 タ イ ト ル:成人 ITP に対するトロンボポエチン受容体作動薬の一時的な使用と寛解期 間の延長 著 者 名:Mahavas M, et al. 雑 誌 名:Br J Haematol 165: 865-869, 2014. 【要旨】 トロンボポエチン受動態作動薬(TPO-RAs)は、特発性血小板減少性紫斑病(ITP) の優れた治療薬である。 最近、成人 ITP において TPO-RAs を中止した後も寛解が維持される症例が報告され ている。 著者らは、TPO-RAs を一時的に用いることで永続的な寛解を維持できるかどうか検 討した。 TPO-RAs による治療が少なくとも 1 日以上行われた成人 ITP 症例(n=54)を対象と した。 完全寛解となった28例中20例において TPO-RAs は中止された。TPO-RA 治療開始時 点において前治療の影響があると考えられた 6 例は除外した。全体としては、慢性 ITP の 8 例においては持続した反応がみられた(経過観察の中央値13.5M( 5 ∼27M) 。反応 が維持した場合の予知因子は発見することができなかった。 以上、TPO-RAs による治療をうけた ITP 症例のうち大部分の症例で、治療中止後も 反応が継続されると考えられた。 #1373 タ イ ト ル:成人 ITP 患者における20年間死亡率 著 者 名:Frederiksen H, et al. 雑 誌 名:Br J Haematol 166: 260-267, 2014. 【要旨】 免疫性血小板減少症(ITP)患者では、一般人と比較して死亡率が1.3∼2.2倍高まると 報告されている。 しかし、長期間の死亡率や死因別死亡率についてのデータはあまりない。 著者らは、新規に診断された成人 ITP 患者について、最長37年間まで追跡して、 5 年、 10年、20年の死亡率を検討したところ、それぞれ22%、34%、49%であった。 この死亡率は一般人と比較して持続的に高く、補正 HR は1.5であった。 死因別の補正 HR については、心血管疾患、感染症、出血、造血系悪性腫瘍において、 それぞれ1.5、2.4、6.2、5.7であった。 一方、固形癌や他の原因による死亡率は ITP と一般人の間に差異はみられなかった。 以上、ITP 患者は一般人と比較して死亡率は高く、その原因疾患として、心血管管疾患、 感染症、出血、造血器悪性腫瘍が挙げられた。 #1374 タ イ ト ル:片麻痺をきたした症例における舌の丘疹 著 者 名:Chiu HY, et al. 雑 誌 名:JAMA 312: 741-742, 2014. 【要旨】 著者らは、片麻痺で受診した症例において舌に赤い丘疹のあることを確認したことで 容易に診断された教育的症例を報告している。 症例は39才女性で、急激な頭痛、右片麻痺、発熱がみられた。頭部 CT では左前頭頂 葉に輪状に造影される病変が指摘された。本症例では舌、体幹、四肢に多数の丘疹がみ られた。また、小児期より鼻出血を繰り返していた。 遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)を基礎疾患として、脳腫瘍をきたした症例と診 断された。 舌の毛細血管拡張性に起因する丘疹および繰り返す鼻出血に遭遇した場合、HHT を疑 う必要がある。 HHT では動静脈シャント病変がみられることがあり、脳膿瘍をきたすことがある。そ のため、CT 検査により、肺や肝臓の動静脈奇形の有無を精査することが重要である。 また、出血の家族歴(HHT は常染色体優性遺伝)や鼻出血などの HHT 特有の症状の有 無を聴取することが肝要である。 以上、脳膿瘍や鼻出血の症例では、舌の毛細血管拡張性病変を確認することで HHT の迅速な診断が可能となる場合がある。 #1375 タ イ ト ル:von Willebrand 病と加齢 著 者 名:Sanders YV, et al. 雑 誌 名:J Thromb Haemost 12: 1066-1075, 2014. 【要旨】 高齢の von Willebrand 病(VWD)の患者が増加しており、VWD の加齢の病態生理の 検討が重要となっている。 著者らは、von Willebrand 因子(VWF)と第 VIII 因子の加齢による変化と、出血症 状との関連について検討した。 対象は、VWF 値≦30 U/dL の VWD 患者である。 患者が出血エピソードや VWD 治療内容について報告した。 また、65才以上の高齢者(n=71)と、65才未満の若年者(16∼64才、n=593)に分類 して比較した。 その結果、VWD1 型の高齢者では、10才年齢が増加するごとに VWF 抗原は3.5 U/dL 上昇し、FVIII 活性は7.1 U/dL 上昇した。この上昇する現象は VWD2 型ではみられなかっ た。 VWD2 型においては、高齢者の方が若年者よりも出血症状は高度であった(VWD14 型ではこの現象はなかった)。 以上、VWD1 型では VWF と第 VIII 因子活性は加齢とともに上昇したが出血症状が軽 減することはなかった。VWD2 型においては、VWF 関連マーカーは加齢で上昇するこ とはなく、高齢者では出血が増加すると考えられた。 #1376 タ イ ト ル:von Willebrand 病( 1 型)の臨床検査診断と用いる診断基準による差違 著 者 名:Quiroga T, et al. 雑 誌 名:J Thromb Haemost 12: 1238-1243, 2014. 【要旨】 著者らは、von Willebrand 病(VWD) 1 型の診断に用いる診断基準の影響について 評価している。 5 年間に臨床検査に提出された4,298例を対象とした。 ①つ目の診断基準として National Heart, Lung, and Blood Institute recommendation では、VWF 抗原と VWF リストセチンコファクター活性(VWF:RCo)<30IU/dL で VWD1 型と診断され、VWF 値30∼50 IU/dL で VWD 疑いとされる。 ②つ目の診断基準では、VWF 抗原、VWF:RCo、VWF コラーゲン結合能(VWF: CB)の 3 パラメータのうち 2 つで≦2.5パーセントで診断され、同じくパーセンタイル 設定で VWD 疑いと診断される。 ③つ目の診断基準(EUVWD)では、VWF:RCo(または VWB:CB)≦40 IU/dL で診 断される。 ④つ目の診断基準(ZPMCBVWD)では、VWF 抗原または VWF:RCo ≦40 IU/dL で診断される。 3 つの測定法は高い相関がみられ、<120 IU/dL では優れた一致率を示した。①の診 断基準では、122例(2.8%)が VWD1型と診断され704例(16.4%)が VWD 疑いと診断 された。②の診断基準(パーセンタイルを使用)では、VWD1 型は280例(6.5%)まで 診断される者が増加し、169例(3.9%)が VWD 疑いと診断された。③と④の診断基準 では、VWD の診断がそれぞれ339例(7.9%)、357例(8.3%)まで増加した。 同じデータを用いても診断基準に何を用いるかによって VWD( 1 型 ) 診断率に 3 倍の 開き(2.8∼8.3%)があるものと考えられた。この理由は、VWF 値のカットオフ値をど のレベルに設定(<30∼約40 IU/dL)するかに依存しているものと考えられた。 VWD の臨床検査診断については、更に診断基準を吟味することが重要と考えられた。 #1377 タ イ ト ル:89才男性におけるビタミン K 欠損症に起因する出血 著 者 名:Seguna R, et al. 雑 誌 名:Lancet 384(9942): 556, 2014. 【要旨】 89才の男性が自宅内で転倒し軽度の頭皮裂傷をきたしたところ、止血しないために来 院した。 1 週間前には手根管開放術が行われていたが、左手の腫脹と皮下出血が進行していた。 既往歴には、特発性胆汁酸吸収不全症があった。 コレスチラミンとビタミン D を内服していたが他薬の内服はなかった。 PT >180秒、APTT132.5秒と著しく延長していたが、トロンビン時間は正常であった。 APTT の混合試験では、APTT の延長が補正され、インヒビターは否定された。 4 つの ビタミン K 依存性凝固因子は 1 ∼ 6 %に低下していた。 経静脈的にビタミン K10mg を投与を開始し、止血目的にプロトロンビン複合体製剤 (30単位 /kg)を投与したところ、20分後には、PT & APTT は正常化し、優れた止血効 果が得られた。 ビタミン K は、ビタミン K 依存性凝固因子(半減期の短い順に、VII、IX、X、II)の 肝臓における産生に必要な回腸末端で吸収される脂溶性ビタミンである。ビタミン K の 吸収のためには、腸管絨毛が機能していること、胆汁酸の存在、脂肪の吸収が必要である。 コレスチラミンは胆汁酸の捕足剤であり、胆汁酸吸収不全とともにビタミン K 欠乏症 を伴うことがある。 胆汁酸吸収不全症やコレスチラミン服用者では、脂溶性ビタミン(ビタミン K, A, D, E) 欠乏症をきたしうることを考慮すべきと考えられた。 #1378 タ イ ト ル:鼻出血の季節性変化と予測因子 著 者 名:Purkey MR, et al. 雑 誌 名:Laryngoscope 124: 2028-2033, 2014. 【要旨】 鼻出血頻度の季節性変化、年齢との関係、各種危険因子について検討した。 対象は、鼻出血のために2008年∼2012年に入院または外来受診となった2,405例(3,666 回)である。 その結果、多変量解析を行ったところ、鼻出血の危険因子としては、アレルギー性鼻 炎(AR)、慢性副鼻腔炎(CRS) 、凝固異常、遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)、造 血器悪性腫瘍、高血圧症(HTN)が挙げられた。 鼻出血は寒い時期そして高齢者でより高頻度にみられた。 以上、鼻出血は冬期により生じやすく、AR、CRS、凝固異常、HHT、造血器悪性腫瘍、 HTN の患者において、鼻出血の頻度が高いものと考えられた。 #1379 タ イ ト ル:von Willebrand 病における胃腸粘膜の血管形成異常 著 者 名:Franchini M, et al. 雑 誌 名:Thromb Haemost 112: 427-431, 2014. 【要旨】 von Willebrand 病(VWD)(特に 2 型、 3 型)における出血症状のうち胃腸管出血は 最も困難である。 解剖学的には、消化管粘膜に血管形成異常を伴うことが背景にある。 補充療法が止血に有効ではあるものの、他部位の止血よりも難渋する。予防的補充療 法を継続することが治療の主体になるが、費用を要すること、静注を繰り返すことの不 便さがあり、しかも毎回有効とは限らない。 VWF 含有第 VIII 因子製剤には、VWF 高分子マルチマー分画(血管異形成部分のよう に高ずり応力下ではとくに重要)が欠如していることも、治療効果が得られない場合の 原因となっている。おそらく、今後登場する遺伝子組換え VWF 製剤であればこの問題 は解決される。 VWD において血管形成異常がみられる原因は長年不明であった。 最近の実験では、VWF に血管新生抑制作用があるとも報告されている(VWF 欠損で は異常な血管が新生される)。血管新生抑制作用を有する薬物が数多く知られているが、 臨床的に有用かどうかは不明である。 新しく異常血管が形成された場合に VWF 含有製剤の定期補充療法の効果に期待した いが、臨床経験上は定期補充療法を行っても血管新生は抑制されない。おそらく、VWF 含有製剤の補充療法を行うことで、血管内の VWF 活性は上昇しても、血管内皮を含む 細胞における VWF レベルは変わらないためであろう。 #1380 タ イ ト ル:血友病 A 患者におけるインヒビター治療としてのリツキシマブ(臨床第 2 相試験) 著 者 名:Leissinger C, et al. 雑 誌 名:Thromb Haemost 112: 445-458, 2014. 【要旨】 血友病 A 患者に第 VIII 因子製剤を投与することによる第 VIII 因子抗体の出現は、出血 症状を悪化させるために重大な合併症である。 免疫寛容療法に失敗した症例や免疫寛容療法の適応のない症例においては、抗体を消 失させる治療はなかった。 インヒビター保有先天性血友病 A 症例に対するリツキシマブ臨床試験(The Rituximab for the Treatment of Inhibitor in Congenital Hemophilia A: RICH)は、第 VIII 因子イン ヒビター力価を低下させることができるかどうかを評価するための第 2 相臨床試験であ る。 対象は、重症血友病 A でインヒビター力価 5 BU 以上を有する症例であり、リツキシ マブ375mg/m2が毎週( 1 ∼ 4 W まで)投与された。リツキシマブ投与後に、 6 ∼22W までインヒビター力価が測定された。 少なくともリツキシマブ 1 回以上が投与された16症例のうち 3 例(18.8%)では major response が得られた(major response:インヒビターが 5 BU 未満となり、第 VIII 因子 製剤を再投与しても力価の上昇がみられない場合) 。 1 例では minor response であった (minor response:インヒビター力価 5 BU 未満となったが、第 VIII 因子製剤再投与後に 5 ∼10BU まで再上昇。ただし、治療前力価の50%未満に留まる場合)。 以上、リツキシマブは、インヒビター保有先天性血友病 A 症例インヒビター力価を低 下させるのに有用と考えられたが、単剤治療としての効果は弱いと考えられた。 リツキシマブは、免疫寛容療法に対する補助的治療としての意義を今後検討すべきと 考えられた。 #1381 タ イ ト ル:遺伝性出血性毛細血管拡張症の鼻出血に対するトラネキサム酸治療(第 IIIB 相臨床試験) 著 者 名:Geisthoff UW, et al. 雑 誌 名:Thromb Res 134: 565-571, 2014. 【要旨】 鼻出血は遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)に最も高頻度にみられる症状であるが、 適切な治療法はない。 しばしば重症の貧血をきたし QOL を低下させる。 HHT における鼻出血に対して抗線溶薬であるトラネキサム酸が有効ではないかと指摘 されている。 著者らはこの点について明らかにすべく検討した。 プラセボを対照とした二重盲検無作為 cross-over 臨床試験(IIIB 相)であり、トラネ キサム酸 1 g またはプラセボが 3 ヶ月間( 1 日 3 回)経口投与され、合わせて6ヶ月間の 内服とした。 HHT22症例が検討症例とあった。 その結果、Hb の有意な変動はなかった。 鼻出血スコアによる評価では、トラネキサム酸によりプラセボ内服期間中と比較して 54%の減少をきたした(P=0.0031)。 副作用はみられなかった。 以上、TA は HHT における鼻出血を減少させるものと考えられた。 #1382 タ イ ト ル:血液凝固の動的把握と血友病診療の進歩 著 者 名:野上恵嗣 雑 誌 名:日本血栓止血学会誌 25: 371-379, 2014. 【要旨】 血友病は因子活性値が臨床的重症度と極めて相関を示すため、活性が< 1 IU/dL は重 症、 1 ∼ 5 IU/dL は中等症、> 5 ∼<40IU/dL は軽症と分類される。しかし、検査上の 重症度と臨床症状が相関しない症例もしばしばみられる。 因子活性と臨床的重症度の乖離には様々な要因が考えられ、凝固一段法による因子活 性が生体内全体の止血凝固能を反映するという考えにある程度限界がある。 近年、動的および包括的な血液凝固機能評価の測定法が発展してきており、トロンボ エラストグラフィー、凝固波形解析、トロンビン生成試験が代表的であり、最近では血 流下血栓形成測定法の報告もある。コンピューター化され、凝固過程の定性的評価、さ らに算出したパラメーターによる定量的評価も可能である。 そこで、因子活性と動的凝固の把握による包括的凝固機能測定を組み合わせることに より、患者本来の凝血学的止血能の把握をすることが可能である。 さらに、出血の重症度予測や止血管理の方針や、長期にわたる止血方針も立案するこ とも可能と考えられる。 #1383 タ イ ト ル:血友病患者における健康関連 QOL に影響を与える要因 著 者 名:後藤美和、他 雑 誌 名:日本血栓止血学会誌 25: 388-395, 2014. 【要旨】 血友病患者の QOL(quality of life) には、関節内出血やインヒビター、感染症、関節症、 日常生活活動(ADL)などの関与が推察される。 本研究の目的は、血友病患者の健康関連 QOL(HRQOL) に最も影響を及ぼす要因を明 らかにすることである。 16歳以上の血友病患者を対象に、基礎情報と社会的背景、身体的・精神的サポート満 足度、ADL、HRQOL(SF36) を調査した。 有効回答は259名(37.5%)、平均40.9歳であった。重症者が64.5%で、HCV(hepatitis C virus) 陽性が78.8%、HIV(human immunodeficiency virus) 陽性が35.5%、インヒビター 保有は8.9%であった。 ロジスティック回帰分析にて、HRQOL に最も影響を与える要因は、身体的健康度は ADL で、精神的健康度は職場からの身体的・精神的サポートの満足度であった。 血友病患者の HRQOL 向上において包括的な介入が必要で、身体的健康には ADL 向上 が、精神的健康には就労支援が重要である。 #1384 タ イ ト ル:血液凝固ヒト XII 因子を巡る最近の動向 著 者 名:寺澤秀俊、他 雑 誌 名:日本血栓止血学会誌 25: 411-422, 2014. 【要旨】 XII 因子は in vitro において内因系凝固経路の開始因子として必須の凝固因子である。 XII 因子欠損患者は出血傾向を示さないこと、その活性化に必須の陰性荷電物質の生 体内での存在が不明であることから、XII 因子の in vivo の役割は長年謎に包まれていた。 近年、生体内物質により XII 因子が活性化し、内因系凝固経路やキニン - カリクレイン 系が活性化することが明らかとなり、XII 因子と病態との関連も示唆されている。 XII 因子欠損型マウスが作製されたことを契機に、XII 因子の生理的な意義が見直され つつある。XII 因子欠損型マウスは血栓形成に抵抗性を示す。XII 因子活性を特異的に低 下させることにより、出血を助長することなく病的血栓形成を防止できることから、 XII 因子阻害薬は理想的な抗血栓薬となる可能性を有しており、種々の薬剤候補が見出 されている。 凝固異常や血栓傾向のスクリーニングとして XII 因子活性が測定された約9,000人を活 性値100%以上から10%以下まで10%ごとに11区分し、観察期間中の死亡率(死亡原因 は特定しない)を調査したところ、XII 因子活性の低下とともにその危険率はリニアに 高まり、XII 因子活性が10−20%の群では100%以上の群に比べて、危険率は4.7倍高かっ た。しかし、XII 因子活性が10%以下になると100%以上と同等の危険率まで低下した。 この傾向は、虚血性の心疾患による死亡に限っても同様であった。XII 因子活性と死亡 リスクに関する大規模な免疫調査が待たれる。 #1385 タ イ ト ル:Factor VIIa 製剤の過去・現在 著 者 名:桑原光弘 雑 誌 名:日本血栓止血学会誌 25: 475-481, 2014. 【要旨】 インヒビターを保有する先天性あるいは後天性の血友病患者の止血治療には、第 VIII 因子/第 IX 因子をバイパス(迂回)する製剤が必要になる。 薬理学的濃度の遺伝子組換え活性型凝固第 VII 因子製剤(rFVIIa)は、活性化血小板 膜上で、第 VIII 因子/第 IX 因子をバイパスして直接第 X 因子を活性化することが出来 る。 血漿から精製された活性型凝固第 VII 因子が、インヒビターを保有する先天性血友病 A 患者に初めて投与され、1983年に報告された。その後 rFVIIa は1996年に欧州で、2000 年に日本で製剤として正式に承認された。 また現在 rFVIIa は、先天性第 VII 因子欠乏症や、グランツマン血小板無力症の出血抑 制に対しても承認されている。 現在、rFVIIa の改良型製剤、あるいは別の作用機序による rFVIIa の代替製剤の開発が、 複数メーカーより行われている。 #1386 タ イ ト ル:先天性凝固因子欠損症(血友病、von Willebrand 病)の消化管出血と大腸 内視鏡検査を契機に発見された凝固因子欠損症 3 例の検討 著 者 名:加藤忠、他 雑 誌 名:日本血栓止血学会誌 25: 504-511, 2014. 【要旨】 (目的)先天性凝固因子欠損症の消化管出血と大腸内視鏡検査時に偶然発見された先天 性凝固因子欠損症の特徴を検討した。 (方法)愛知三の丸病院に消化管出血で受診した凝固因子欠損症34例81回の出血源と、 新規発見例 3 例(血友病 A、血友病 B、von Willebrand 病各 1 例)を検討した。 (結果)出血源は上部消化管病変65回、下部消化管病変 8 回、内視鏡処置後 8 回で、内 視鏡診断した26例48回では、上部消化管病変32回(潰瘍21回、粘膜病変 9 回、癌 2 回) 、 下部消化管病変 8 回(腫瘍 2 回、大腸壁内血腫 1 回、肛門病変 5 回)、大腸内視鏡処置 後 8 回であった。新規発見例は全例軽症で出血歴はあるが自覚がなく、検査前診断例は 1 例のみであった。 (結語)凝固因子欠損症では粘膜出血、大腸壁内血腫、ポリープ切除後 2 週間以上での 出血が特徴的で、軽症例発見には出血歴の注意深い問診と出血関連検査の軽度異常の精 密検査が必要である。 #1387 タ イ ト ル:TPO 受容体作動薬を使用し抗凝固療法への移行が可能であった下肢深部静 脈血栓症合併慢性 ITP 急性増悪 著 者 名:河野宏樹、他 雑 誌 名:臨床血液 55: 697-702, 2014. 【要旨】 症例は70歳と49歳の男性で慢性特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の経過中の下肢深 部静脈血栓症を合併し急性増悪による出血症状を呈した。 いずれもステロイド抵抗性を示し、トロンボポエチン受容体作動薬(eltrombopag, romiplostim)を使用した。 当初出血症状があり抗凝固療法は施行不能であったが、血小板造血の回復が得られ、 ワーファリンの内服を開始することができた。 近年、ITP の易血栓性病態としての側面が注目されつつあるが、血栓症を合併した ITP 急性増悪の報告はほとんどなく、また ITP と血栓症の関連や病態は不明である。 我々の 2 症例ではトロンボポエチン受容体作動薬投与後に幼若血小板数の増加が確認 され血小板造血不全の病態が示唆された。 トロンボポエチン受容体作動薬による血栓症の明らかな増悪は確認されなかったが、 血栓症への影響は不明な点が多く、血栓症をモニタリングしながら抗凝固療法のタイミ ングを図る必要があると考えられた。 #1388 タ イ ト ル:妊婦合併特発性血小板減少紫斑病(ITP)診療の参照ガイド 著 者 名:宮川義隆、他 雑 誌 名:臨床血液 55: 934-947, 2014. 【要旨】 妊娠初期から中期の出血症状がない妊婦においては、血小板数を 3 万 /μL 以上に保つ ことを目標とする。治療を要する場合には、副腎皮質ステロイド療法(プレドニゾロン) あるいは免疫グロブリン大量療法を行うべきである。 ヘリコバクター・ピロリ除菌療法は除菌成功例の約半数に血小板増加反応が認められ安 全に行える治療法であるが、妊娠時には薬剤が胎児に及ぼす影響を考慮する必要がある。 妊娠中のトロンボポエチン受容体作動薬は、治療上どうしても必要な場合を除き投与 すべきではない。非妊娠時の治療において、トロンボポエチン受容体作動薬を使用中の 女性患者については妊婦を希望する際には中止し、副腎皮質ステロイド療法などによっ て血小板数が安定した時点で妊婦を許可することが望ましい。 妊娠中の脾臓摘出術は、流産の危険性が高く避けたほうがよい。 分娩時期は原則的に自然経過を観察するが、頸管成熟との兼ね合いで妊婦37週以降で あれば分娩のタイミングを計る。分娩時の血小板数について安全といえる血小板数の閾 値は明確でないが、経膣分娩であれば 5 万 /μL 以上、区域麻酔下による帝王切開であれ ば 8 万 /μL 以上が目安となる。治療は副腎皮質ステロイド療法(プレドニゾロン)か、 免疫グロブリン大量療法が推奨される。 副腎皮質ステロイドあるいは免疫グロブリン大量療法を受ける患者の授乳が児に与え る影響は少なく、通常は授乳制限を必要としない。 新生児の血小板数が 5 万 /μL 未満に減少する頻度は約10%、頭蓋内出血を合併する頻 度は 1 %と推定される。分娩前に新生児の血小板数を予測する方法として、前子と次子 の血小板数の相関が高いことが有用である。 新生児の血小板減少の治療は、出血症状のない場合、血小板数 3 万 /μL 未満であれば免 疫グロブリン大量療法あるいは副腎皮質ステロイド薬の投与を考慮する。出血症状がある場 合、血小板数 3 万 /μL 未満であれば免疫グロブリン大量療法あるいは副腎皮質ステロイド 薬の投与とともに、血小板数 5 万 /μL 以上を目標に血小板濃厚液の輸血を考慮する。 【注意】診療にあたっては、必ず「妊婦合併特発性血小板減少紫斑病診療の参照ガイド」 の全文を熟読すること。 1382.血液凝固の動的把握と血友病診療の進歩 1383.血友病患者における健康関連 QOL に影響を与える要因 1384.血液凝固ヒト XII 因子を巡る最近の動向 1385.Factor VIIa 製剤の過去・現在 1386.先天性凝固因子欠損症(血友病、von Willebrand 病)の消化管出血と 大腸内視鏡検査を契機に発見された凝固因子欠損症 3 例の検討 1387.TPO 受容体作動薬を使用し抗凝固療法への移行が可能であった下肢深 部静脈血栓症合併慢性 ITP 急性増悪 1388.妊婦合併特発性血小板減少紫斑病(ITP)診療の参照ガイド
© Copyright 2024 ExpyDoc