テ フラ層序 ど 4 C 年代測定 による火山噴火史 の編年 Chr onol ogyofVol mni cEr upt i onsbyAMS1 4 cDa inga t ndTe phr a s t r a t i gr a phy 奥野 充 ( Mi t s ur u OKUNO) 日本学術振興会特別研究員 ( 名古屋大学) , 〒464860 2 名古屋市千種区不老町 J SPSRe s e a q c hFe l l o w( Na go yaUni ve r s i t y) ,Chi kus a k u,Na goya46 486 02,J a pa n Te l+8252789 2 578,Fa x+81 527 89 309 5 1.は じめに 火山噴火の規模 ・頻度の規則性 を知 ることは,地下のマグマの挙動 に対す る時間的制 約 を与える ことになる.また, この ことは,噴火 の中 ・長期的な予測 のための基礎的資 料 に もなる.筆者 らは,テ フラ層序 ど 4 C年代 を用 いて ,高分解能な 噴火史の編年 を試 みている ( 奥野 ,1996,1997b;Okuno eta1 . , 1997) .本稿では,主に埋 没土壌の1 4 C年 代か ら, どこまで噴火年代 を知 る ことができるか について議論す る. 2.埋 没 土壌 の1 4 C年 代 値 土壌 中の有機物は,植物や土壌生物な どによって供給 ・消費 ・撹拝 されている.テ フ Or l ova a nd Pa nyc he v, ラに挟 まれた土壌層の閉鎖系の成立 は, 2通 りあると考 え られる ( 1 993) . 1つは,土壌層の累積 によって, 植物や土壌生物の影響 を受 ける地表面か ら徐 々 に離れ る ことによるものである. もう 1つ は,テ フラによって覆われる ことによるもの である ( 奥野 , 1997a ) .テ フラはきわ めて短時間で堆積 し,保存 され るためには挟在 す る土壌層が連続的に累積 している必要が ある. また,テフラ層序 を用 いて,得 られた 1 4 C年代 の妥 当性 を検証す ることも可能 である.筆者 らはテフ ラ直下 の年代がその堆積 Okunoeta 1 . , 1997) . 年代 にきわめて近いと考えている ( 3.土壌 試 料 の 1 4 C年 代 の検 証 歴 史時代の噴火は,古記 録 と比較 す ることによ り得 られ た1 4 C年代 値 の妥当性 を検 証 で きる.筆 者 らは,南 九州の霧 島,桜 島,開 聞岳火 山の歴史 噴火 を対 象に検 討 した ( okunoeta1 . ,1998) .その際,1 4 C年代値は, コンピューター ・プログラム Ca l i bETH 1 . ,1 992) を用いて暦年代 に較正 し,St ui ve ra ndPe a r s on ( 1 993) の樹輪 1. 5b ( Ni kl a useta 較正曲線 を用 いている.その結果,以下のよ うな結論が得 られた. 1.土壌試 料の1 4 C年代 は,テ フラ層序 とほぼ調和的である. これ らの1 4 C年代 は,古 記録 とテ フラのよ り正確な対応づけに有効な制約条件 を提供す ることができる. 2.得 られた土壌試料の1 4 C年代 を暦年代 に較正すると,古記録か ら知 られる暦年代よ り数百年 はど古 くなるものがみ られた. 3.噴火間隙 が1 0年程度の場合 ,テフラの堆積 によ り下位の土壌層が不安定化 するた ont a mi na t i onが無視できない ことがある. め,古い有機物の c - 90- さ らに詳 しく検討す るため,他の火 山の歴史噴火 について も測定 を行 って いる.例 え Ho:AD1 707) の直下 の土壌 につ いては, 200±70yrBP ば,富士 L J L J 一宝永 スコ リア ( F j ( NUTAl 5781) が得 られている. この1 4 C年代 を暦年代 に較正す る と,1 6461 703c a lAD , 1717181 9c a lAD( 54・ 7%) , 18511863C lAD( a 4・ 3%) ,1 91 71 942c a l ( pr oba bi l i t y: 28. 7%) AD( 1 2. 2%)とな り, ほぼ妥 当な値が得 られて いる. 4.噴 火 年 代 をよ り詳 し く知 る さ らに詳 しく年代 を特定す るには,層位 関係か ら年代幅 を絞 る ことが有効である. こ こで は,南九 州 の霧島御池軽石 ( Kr M) と桜 島高峠 2 ( SzTk2) について紹 介す る. Kr Mの1 4 C年代 値 は,直 上の土壌 で 3860±1 00yrBP ( NUTA 500 6), 直下 の木 炭で 4350 NUTA4480) ,41 60±90 ±1 00yrBP ( NUTA4641) ,直下 の土壌で 4030±80yrBP ( NUTA5005) が得 られている. これ らの年代値 yrBP ( NUTA4238) ,4460±90yrBP ( か ら,Kr M の噴出年代 は 4. 2ka と考 え られ る.一方,SzI Tk2の1 4 C年代値 は,直下 の木 NUTAl 401 7) ,直下の土壌で 41 90±70yrBP ( NUTA41 24) , 炭で 4250±70yrBP ( 4250±70yrBP ( NUTA4008) ,4740±90yrBP ( NUTA4318) が得 られて いる ( Ok uno e ta1 . , 1997) .Okunoe t a l .( 1 997) は, これ らの年代値か ら,SzT k 2の噴出年代 を4・ 5ka と推定 した.ただ し,年代値 のば らつきを考慮す る と,両者の年代か らそ の前後 関係 を 議論 す る ことは困難で あ り, KrM とSzT k2の層位 関係 を直接観察 す る必要 が ある . し か し, 2枚のテ フラが土壌や ローム層中に見 られ る露頭 は知 られていない.肝属平野の 泥炭地で はテ フラがよ く保存 されてお り, 両者 の層位 関係 を知 る ことがで き,上記の噴 998) . このよ うに泥炭地で は 火年代 は層序 と調和す る ことが確認 された ( 永迫ほか, 1 テ フラの保存が きわ めて良いので,層位 関係 を明 らか にできる可能性が高 い.そ の際, テ フラの対 比 を確実 にす るため,含 まれて いる斑 晶鉱物 ・火山ガ ラスの化学組成や屈折 率な どを用 いる必要が ある. 広域テ フラは,多 くのテ フラとの層位 関係が あ り,その年代 は非常 に重要である. こ KwP) の年代 につ いて紹介す こでは,伊豆半島の天城火 山を給源 とす るカ ワゴ平軽石 ( る. 小林 ほか ( 1 997) は,箱根火 山の中央火 口丘 起源の火砕流堆積物 の 1 4 C年代 を測定 m下位 の冠 ケ岳火砕流 ( HkKn) 中の炭化木片 につ いて 2720±70 yr BP し,KwPの5c ( NUTA4827) を得 た. この値 は従来 のHkKnの年代値 ( 2900±1 00yrBP:Ga K5255; 大木 ・袴 田, 1975) と 20の誤差範 囲内で 一致す る. これ まで のKwPの年 代 は,2. 83. 3kaとやや ば らつ いているが,HkKnの年代 を考慮す ると,若 い年代値 2830±120 yr K523:Ki gos hia nd Endo, 1963) が妥 当で あると判断 される.KwPの年代値 も BP ( Ga 直下 の土壌で 2940±80yrBP ( NUTA5780) と 31 70±80yrBP ( NUTA5789) が得 られ ている. これ らは 2830±1 20yrBPと 20 ・ の誤差範 囲内で一致す る.第 2世代タ ンデ ト ロン加速器質量分析計の導入 によ り,測定 時間は30分程度 と大幅 に短縮 され,測定誤差 中村, 1 997) .埋 没樹木や泥炭層 を用 いて, ウイ グ も ±20- ±30年 まで小 さくで きる ( ル ・マ ッチ ングを行 うことによ り,噴火年代 をよ り詳 しく知 る ことがで きるであろ う. 謝 辞 本稿は,名古屋大学年代測定資料研究セ ンターの1997年度 シンポジウム 「 最新型 タ ン -91- デ トロン加速 器質量分析計 による高精度 ・高分解 能 1 4 C年代 測定の利 用分野 ・方法 の開 拓 Ⅰ Ⅰ 」 ( 1 998年 1月 28-29日)での講演内容の概略である. この研究 を進めるにあた り, 中村俊夫 ( 名古屋大学年代測定資料研究セ ンター),小林哲夫 ( 鹿児島大学理学部), 森脇 広 ( 鹿児島大学法文学部),筒井正 明 ( 砂防 ・地すべ りセ ンター),成尾英仁 ( 鹿 児島県立博物館),小林 淳 ( ダイヤコンサルタン ト)の各氏の ご指導 ・ご協力を得た. この研究 には,文部省科学研究費補助金 ( 特別研究員奨励費,代表者 :奥野 充,課題 906) を使用 した.記 して感謝の意 を表 します. 番号 :9402051,9701 引用文献 igos K hi ,K a ndEnd o,K.( 1 963)Ga k us hui nna t ur lr a a d i oad) o nme s ur e me nt sI I .R a d' oc at bo D,5,1 0 911 7. it K a ga wa ,H・ ,Ma s uz a wa ,T・ ,Na ka m ur a ,T・ andMa t s umot o,E・( 1 993)A ba t c hp r e pa r a t i o nme t hodf o rgr a phi t e d' oc a z boD ,35,29 530 0. t a r ge t swi t hl o wba dgr o undf o rAMS1 4 cme f L S u r e me n t S .Ra 小林 淳 ・奥野 充 ・中村 俊 夫 ( 1 997)箱根 古期 外 輪 山に分布す る 中央 火 口丘 起源 の 火砕流堆積物 の1 4 C 年代 .火 山,42,3 553 58. 永 迫俊 郎 ・奥 野 充 ・森脇 広 ・新井房夫 ・中村俊 夫 ( 1 99 8)肝 属平野 の形 成史 -テ フラとAMS1 4 C年代 によ る -.本 報 告書 . 1 997) 名古 屋 大 学 タ ンデ トロン 2号機 の 性 能 と運用 . 名古屋大学加 速器 質量分析 計業績報 告 中村俊 夫 ( ⅥⅡ) , 31 4. 書 ( 中村俊 夫 ・中井 信之 ( 1 9 88)放 射性 炭 素年代測定 法 の基礎 一加 速 器 質量分析 法 に重点 をお いて 一.地質 1 1 06. 学論集 ,29,83 a ,T・ ,Na ka i,N・ ,Sa ka s e ,T・ ,K imur a ,M. ,Ohi s hi ,S.Ta ni guc hi ,M.andYos hi oka ,S.( 1 98 5)Di r e c t Na ka mu r 血t e c t i o nofr a d i oca r bo nu s i n ga 耽1 e r a t o rt e dl ni q uesa ndi t sa ppl i c a t i ont oa geme ぉur e me nt s .J pD.J .AI Pl . PLys . ,24,1 71 61 723. Ni k l a us ,T・R・ ,政) na ni ,G・ ,Si mo ni us ,M・ ,Sut e r ,M・ andWol li f ,W・( 1 992)Ca li bETH:a ni nt e r a c t i ve0 0mput er pr o gr a m f o rt heGdi br a t i o no fr a d i oc a d ) o ndales.Rad. oc wboD ,34,483492. 大木靖衛 ・袴 田和 夫 ( 1 97 5) 箱根芦 ノ湖 誕 生のなぞ をさ ぐる. 国土 と教 育,30,29. 奥野 充 ( 1 996) 南九州 の第 四紀末 テ フラの加速器 1 4 C年代 ( 予報).名古屋大 学加速器質量分析計業績 報 告書 ( VI I ),89 1 1 08. 奥野 充 ( 1 997由 埋 没土 壌 の加速器 1 4 C年代 か ら知 る噴火年代 .金沢大 学文 学部地理 学報 告,No. 8, 1 7- 2 4. 奥野 充 ( 1 997 b)桜 島火 山の放 射性炭 素 C) 年代学. 月刊 地球 , 19, 2 31 23 5. (14 Okuno,M. ,Na ka m ur a ,T. ,Mor iwa ki ,H.a ndKo ba y鮎hi ,T.( 1 997)AMSr a d i o0r bo n血血 go ft heSa kur a j i ma a paJl・ Nuc l e a rhs t mme 2 ] t Sa ndMe E ho血 L ' DPh ys J ' α Re se a I I C h,a 123,470 t e p hr agr ou p,s out he m Kyus h u,J 474. ,Na ka mu r a ,T.a ndKo ba ya s hi ,T.( 1 9 98)AMS 1 4 C血i ngo fhi s t o ice r upt r i o nso ft heK ir is hi ma , Okuno,M. Sa k ur q ' i maa ndK由mo nd a kevol mnO e S ,S Out he m Kyus hu,J a pa n ・ Ra d' oan boD ,l nPr e S S ・ Or l o va ,L.h a ndPa ny c he v,V.A.( 1 993)r mer e l i a bi l i t yo fr a d i o0r bond a t i ngbur ie ds oi l s .Radoar bo D ,35, 369 377 . ,M.andPefLr S O nG.W.( 1 99 3)Hi hg pr e c i s i o nbi de m 血Ic li a b r a t i o no ft her a d i oG止bont i mes de ,AD St ui ve r 1 95 01 50 0BCa nd2500 600 0BC.Rad' oGa めo D,35,1 23. - 92- 学会発表 1.奥野 充 ・中村俊夫 ・小林哲夫 ( 1997年5月)加速器 】4C年代 による噴火史編年 -歴史時代 について -. 日本大学 文理学部 自然科学研究所 「 加速器質量分析 シンポ ジウム」 (日本エアロビクスセ ンター/千葉県). a t i ngofhi s t or ice upt r i onsoft hei Kr is hi ma , 2.Oku n O,M. ,Na ka mu r a ,T.a ndKoba ya s hi ,T.( 1997年6月)AMS 14cd Sa ku r a j i nl L aa nd Ka i mond a ke vol c a noe s ,s o止he m Kyl 血u ,Ja pa n. 16t h Ra d' oc a t boD C ODf e T e DC e( Gr oni nge n, Ne t he r l a n血) . 3.奥野 C年代が示すテフラの噴出年代.京都大学防災研究所特定研究集会 「 古地磁 充 ( 1997年7月)埋没土壌 のH 桜島/鹿児島県). 気学的手法 による火 山活動史 の復元 」 ( 4.奥野 充 ・小林哲夫 ・中村俊夫 ( 1997年8月)加速器質量分析( AMS) 法 による歴史噴火 の 】4C 年代測定. 日本第四 紀学会 ( 北海道大学). 5.奥野 c年代. 日本火 山学会 ( 信州大学). 充 ( 1997年9月)テ フラ直下の土壌試料 のH 6.奥野 充 ・中村俊夫 ・森脇 広 ・長 岡信治 ・小林哲夫 ( 1 997年10月)加速器 14C 年代 にもとづ く姶良カルデ ラの 最近 3万年間 の火 山噴火 の編年 . 日本地質学会 ( 九州大学). 7.Ok皿0,M. ,Na ka ml m,T. ,Ka ma t a ,比 a ndKoba ya s hi ,T.( 1997年 11月)Ar e vi e wofc hr onol ogi c a ls t u d yonvol c a ni c kl ' ha kuL ' Dt e mat j oDa ls ympos J ' L D Z 7 ,T e T L T e S t L 7 ' a le DV J ' T O Dme Dt a lc La Dge Sa nd e r L Pt l OnSi nt hel a s t1 0, 000ye a r si nJ a pa n .Re Da t Z qa ldi s a s t e L : Sd z ql ' Dgt hehst10, 000ye a L S. ( 国立歴史民族博物館 ). 8.奥野 充 ・吉本充宏 ・荒井健一 ・中村俊夫 ・宇井 忠英 ・和田恵治 ( 1998年 3月) 西南北海道 ,亀 田半島の完新 世テ フラのAMS】4C年代 による編年. 日本地理学会 ( 国士舘大学). 9.永迫俊郎 ・奥野 充 ・森脇 広 ・新井房夫 ・中村俊夫 ( 1 998年 3月)テ フ ラとAMS1 4C 年代か らみた肝属平野 の 形成史. 日本地理学会 ( 国士舘大学). 静文発表 1.奥野 充 ( 1997)桜島火 山の放射性炭素 1C) 年代学.月刊地球,19,231 235. ( 4 2.長岡信治 ・奥野 充 ・鳥井真之 ( 1997) 2万 5千年前以前 の姶良カルデ ラの噴火史 .月刊地球,19,257262. 3.中村俊夫 ・奥野 充 ・成尾英仁 ( 1997)火 山噴火 の年代激定法 一特 に加速器 質量分析 ( AMS)法 による】 4 C年代 測定 につ いて -.月刊地球 ,19,195202. 4.横 田修一郎 ・奥野 充 ( 1997)ボー リングコア試料 の 】4C 年代値 に基づ く鹿児島沖 積平野 の形成 .月刊地球,19, 242246. 5.成尾英 仁 ・奥野 充 ・中村 俊夫 ( 1997)福 山町藤 兵衛坂段遺跡 の米丸 テ フラ中の炭化木片 の加速器 】4C 年代 .磨 児島県地学会誌,No. 75,2631. 6.Ok皿 0,M. ,Na ka mt ∬a ,T・ ,Mor iwa ki ,r I ・a ndKoba ya s hi ,T・( 1997)AMSr a di oc a r bonda t i ngoft heSa ku r a J . i mat e pl l r a gr ot p,s ou l he m KytBhu ,Ja pa n .Nu c l e a tZ DSt Z ' L me Dt Sa DdMe E hodsJ ' Dm yS L ' c sRe s e a L dZ ,Se c t i onB,123,470474. 7.小林 群 ・奥野 充 ・中村 俊夫 ( 1997)箱根古期 外輪山に分布する中央火 口丘起源の火砕 流堆積物 の】4C年代. 火 山,42, .355358. 8.奥野 充 ・守屋以智雄 ・田中耕平 ・中村俊夫 ( 1997)北関東,高原火 山の約6500c a lyrBPの噴火 .火山,42, 393402. 9.奥野 4C 年代 による噴火史編年 一歴史時 代 について -. 日本 大学文理 充 ・中村俊夫 ・小林 哲夫 ( 1997)加速器】 学部 自然科学研究所 「 加速器質量分析 シンポジウム」報告書,1 26137. 10.奥野 充 ( 1997)埋没土壌の14C 年代が示すテ フラの噴出年代 .京都大 学防災研究所特定研究集 会 「 古地磁気学 的手法 による火 山活動史 の復元」 ( 代表者 :味葺大介),1 27137. - 93-
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