振動による加工用トマ トの脱特性※

振動による加工用トマトの脱離特性※
※※
岩 尾 俊 男・田 辺
※※
Toshio IwA0and−Hajime TANABE
Stud.1es on the Some Propert1es of Detachment of
Process1ng Tomato und.er V1brat1on
I 緒 論
ツ=Zに質量〃が固定された弾性棒におけるつり下げ
振子となり,平面において左右に微小振動するものとす
加工用トマト収穫機の設計上,果実の物理的諸性質を
適確に把握する必要がある.
る.このとき,ツ;Zにおける振れを〃とすれば,そ
今まで,収穫機の研究において,F/W’(脱離力と果
の点における勇断力Pは4),
実重量との比)あるいは(F/”)ω2ツo(ω振動数,ツo
62〃
P=ルτg.θo+〃 (1)
振幅)値がその比較検討値として提案されている1∼3).
批2
しかし,これらの値は,巨視的な取扱いを行なう上,す
しかるに,
なわち脱離の目安に用いる点で有用であるが,その果実
の脱離特性を的確に把握するとはいい難い.
この研究は,我々の今までの果実の物理的特性につい
ての研究(引張りおよびねじり脱離抵抗力)に引き続い
て,振動中の果実の状態をつり下げの場合とし,その系
にはばねと粘性抵抗が作用するものとして解析し,その
運動特性を明らかにする一方,系に吸収されるエネルギ
および果実の脱離性について検討を行なったものであ
る・ し
ここに,本研究に当り,島大
ツ=Zにおける棒の傾斜,および擦みは,
あ 1
E∫ =一 PZ2 (2)
め 2
E1。。=_1H・ (3)
3
ゐ 3 〃
(2)と(3)カ〉ら 一 一 (4)
勿 2 Z
∂〃
ここに, ■θoとすれば,(1)式は
め
3 〃 ∂2〃
P= Mg一十〃 (5)
2 Z ”2
附属農場寺田俊郎助教授なら
びに伊藤憲弘助手に種苗の提供
したがって,(3)式と(5)式から
と栽培法の御指導をいただき,
端・・(筈・;竿)・一・(・)
また当研究室の専攻生松井康紀
氏の労をいとわぬ協力を受け
∂Z4
ところで,この系には,粘性抵抗μ があり,か
澁
つα=αO Sinωτなる調和振動が固定端に加えられる
た.ここに記して謝意を表す
る.
1皿 つり下げの果実の
ものと仮定し,z4=”として書き改めると,
運動
今,Fig.1のように座標を
仮定する.すなわち,この系
は,ツ=Oで固定され,他端の
1雌
喋・μ穿・・(景・1半)工
1 ”9
Y
62α
=一M_
カ2
Fig.1っり下げ
果実の座標
(7)
この特解は,
※ 農業機械学会関西支部例会 和歌山(1973)講演
”=工O Sin (ω玄一¢)
農業機械工学講座
一158一
(8)
岩尾俊男・田辺
一:振動による加工用トマトの脱離特性
一159一
5
払2
O.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
且
ω〃
Fig.2(A)粘性減衰のある場合の強制振動の振幅
Fig.3供試振動実験装置
180
φ
η=0’51=7
向きにホルダーを介して加振台上に固定される.果実に
働く力は,ホルダー(4)に張られたストレインゲージによ
3
り検出され,電気抵抗変化として測定される.果実の相
90
対運動は,加振台に取り付けたカメラ(5)により,ストロ
ボスコープを用いて撮影される.なお,果実に作用する
力の外に,カメラのシャッタマーク,加振台の加速度,
0
0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
ω
ωn
Fig.2(B)粘性減衰のある場合の強制振動の位相
変位,振動数および位相マークなどもオシログラムに同
時に記録される.
2供試材料の性状 供試材料は,加工用トマトの細
長形のChico種,丸形のH1370種で,茎の含水率は70
MαOω2
πド/(一Mが・幻・・(μω)・
∼80%である.
Fig.4は,茎の位置別の弾性係数,断面二次モーメ
∬8
(9)
!(・廿)2)2・1・
ントおよび直径を示す.横軸の位置別百分率は,測定し
た茎の果実までの全長に対する位置別長の割合を示す.
ここに・・一・(芋・;竿)・伽は固有振動数・
弾性係数の測定には,引張り,曲げおよび振動試験法が
あるが,ここでは簡単で比較的正確性が認められている
C=μω,C/K=η,Mαoω2/K:耽とする.
H・・1・I
工8
”= Sln(ω玄一φ) α①
500
∼、 OChiCω
/(・一(ま)2/2・が
△∬1370
(1①ただし,φは,
100
1一が(・有)
ω
断50
川
。逃牡・
次
ここに,仰:果実系の静止最大たわみ,”O:果実の
最大振幅,η:内部粘性定数,φ:位相角
したがって,Fi9.2(A)(B)は,この系の共振曲線を示
す.
モ
、 10
1.実験装置 Fig.3は,供試実験装置である.
\
史誓O久\\
・わi・・サ\\
卜 5
(∫ll
(。㎡)
皿 実 験 方 法
、.二103
1
0.5
砦 \“
40
30
20
蝋
1(〕性
係
5
4
3
‘lD〕 げ
2 1.9㌦㎡
㎞’ !ハ 1
0.5
この振動機構は,クランクアーム(1)の回転運動をロッド
を介し往復運動に変え,加振台(2)に水平方向の正弦運動
を与えるものである.振幅は,クランクアームの取付位
置によりO∼70mmに変化が可能であり,果実(3)は,下
0102030405060708090100
茎の(位置別長さ/全長パ%〕
Fig.4茎の位置と弾性係数,断面二次
モーメントと茎の直径との関係
160 if"-'--
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Fig. 5
206cpm
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i
岩尾俊男・田辺
:振動による加工用トマトの脱離特性
一161一
1500
O I
CbiCO
ネ
△
ノレ
ギ
ム
亙ユ370
1000
㎞一9)
△適熟 O
振幅ユO㎜
∵、ふイ
0 0 ●
500
⑧
O
o o 0 O
O
0△
△ O
O O
0 10 20 30 40 50
最大梛対振幅向
Fig.7(A)ストロボ写真の1例
Fig.7(B)衰大相対振幅と1サイクルに吸収された工
ネルギとの関係
振動数180cpm,振幅10mm
ストロボ発光毎分2,OOO回
渦g7(A)は,振動数180cpm,振幅10mm,ストロ
ボスコープ発光毎分2000回の場合のChicoについての
1例である.
Fig.7(B)は,Chic0(未熟,適熟),H1370(適熟)に
ついて,振幅10mmのときの,最大相対振幅Xγと1
サイクルに吸収されたエネルギ(Eπ)との関係を示す.
X。はストロボスコープによる写真から求めたものであ
る.
Fig.8オシログラムの1例
振動数250cpm,振幅10mm,Ch1co
200
1サイクルに吸収されるエネルギ(E犯)は,品種別お
100
よび熟度別による差異は明らかでないが,X。が20mm
、\舳吋①・1…
1 ・ 20②・hi。。
、
、 \ 10
以下では約300mm−9以下で,40mmでは約700mm−9
脱 50
離
である.一般的にE犯とXγとの関係は,Xγの増加に
従い,E犯も漸次増加の傾向が見られ,平均的にはム=
ル・10
1.丁川
されたエネルギとXγとの関係に類似する5).
5
3.脱離全サイクル数
帖㍍/5
融 ①/ぺ/
ク
軟鋼材の板ばねにおける交番荷重のもとで,それに吸収
へ
/’もノ/32
十
イ
11.56Xγ1・091の関係によって表わせる.この傾向は,
\ 振幅10㎜
偽島イユ
1プ!\ \
、 \
! い \
ここに,脱離全サイクル数は,果実が果梗から脱離す
1 一ヒ陳 \
下限 2 +限 ユ ⊥限
るに要する全サイクル数であり,振動収穫の場合に脱離
振動台上の滞留時間,すなわち収穫機の性能に関係する
1
100 200 300 400 500 600
最も重要な要因である.ここに用いた脱離全サイクル数
振動教(・剛
は,オシログラムから求めたものである.Fig.8は,
Fig.9振動数と脱離全サイル数との関係
振動数250cpm,振幅10m㎜ Ch1coのオソロクラム
の1例である.脱離時は,果実に作用する力(F)が急
今ここに,振動輸送の平均的な速度として,果実の輸
激に減少するのでオシログラム上において判定できる.
送速度を30cm/secとし6)7),有効な脱離輸送板長を
F1g9は,振幅10mm品種Ch1co,H1370で,脱
100cmとすれば,滞留時間は約3.3secであるから,
離必要時間別の振動数と脱離全サイクル数との関係を示
この点から見れば,適用振動数は,Chicoでは約200
す.
cpm以上,H1370では約300cpm以上が望ましい値
品種による脱離に必要な振動数は,H1370はChic0
である.
より高く,品種による適用振動数の範囲は明確である.
脱離全サイクル数は,振動数の増加と共に減少する.
一162一
島根大学農学部研究報告
第7号
すなわち,振動数と脱離全サイクル数との関係は,
Eπ:1サイクルに吸収されたエネルギ.Xγ:最大相
H1370ではT1)=2570グo・017舳,Chico T刀=498θ一
対振幅.α,π:定数
0・216亙で指数関数によって表わされる.
相対振幅と1サイクルに吸収されたエネルギとの間に
脱離性は,果実に作用する力が大きいほど向上するも
は,明確な関係があることが認められる.
のであると考えられる.すなわち,⑫式から明らかなよ
4.、脱離全サイクル数の見地からでは,脱離適正振動
うに,その力は振幅と振動数の増加と共に増大するもの
数は品種によって異なることが明らかである.
であるが,振動数の増加は,機械に与える影響が大きい
5.振動数と脱離全サイクル数との関係は,ほゾ指数
ので,機構的には,振幅の増加が望ましい.
関数により表わされる.
丁刀=吻一〇w
V 摘 要
T刀 脱離全サイクル数,N:振動数,α.ろ:定数
本研究は,振動による加工用トマトの脱離と動特性を
実験的に調べたものである.供試機は,クランク機構
で,水平に振動する振動台上に固定したホルダーにトマ
トをつり下げ振動させる.ホルダーに作用した力は,ス
トレインゲージにより検出され,トマトの相対運動は,
振動台上に固定のカメラにより記録される.これらの記
引 用 文 献
1.WANG.JAw−KAI Trans ASAE8403−405.
1965
2.LAMOURIA,L.H.:Trans.ASAE4:12−14.
1961
録から,トマトの相対振幅と脱離全サイクル数が決定さ
3.MARKwARDT,E D,GUEsT,R W,CAIN,J
れる.加工用トマトの種類は,ChicoとH1370である.
C,LA:BELLE R L Trans ASAE7 70−74.
主な結果は次の通りである.
1964
1.茎をほゾ円筒と仮定し,曲げ試験による茎の位置
4.西村源ハ郎 振動工学,誠文堂,東京,1969,50−
別の弾性係数は,茎の大部分では約200009/mm2で,
52
果梗近くでは100∼20009/mm2である.
5.LANzAN,B.J.:Trans.Am.so.meta1s Jo.:499
2.粘性定数ηは,O∼1.0の値の範囲に適応するの
−558.1950
で,この系は粘性減衰特性を持つものと認められる.
6.岩尾俊男・川村 登:農機誌 33:(4)355−360.
3. 1サイクルに吸収されるエネルギは,果実の最大
1972
相対振幅と次の関係で与えられる.
7.岩尾俊男・田辺 一:島農研 6,90−102.1972
E犯=αX孕
S咽m㎜雛y
The object of the work reported.here1s to stud.y some propert1es of d.etachment of
processmg tomatoes suspend−ed.on a v1bratmg base
The y1bratmg apParatus had.a crank mechan1sm wh1ch mparted.to the f1xed−base of
a ho1der a s1nus01da1mot1on1n the hor1zonta1d.1rect1on Forces exper1enced by the
ho1d.er d−ur1ng mot1on were sensed−by a stram gage,and.re1at1ye mot1on of the tomatoes
was record−ed.by a camera f1xed on the v1brat1ng base From these record−s,the
maxmum re1at1ve amp11tud.e an.d.tota1number of cyc1es to tomato detachment were
determ1ned.
Thekmd.sofprocess1ngtomatoesusedwerethech1coandH1370
The main resu1ts were as fo11ows;
1Assum1ng that the stem has apProxlmate1y a cy1md.r1ca1shape,the n1od−u1us of
e1ast1c1ty has the va1ue of about20000g/mm2to the greater part of stem,and.on1y the
ya1ue of about loo∼2009/mm2at the end.of stem,us1ng the bend.mg test method
2.The constant of viscosity ranged of about0∼1.0may be seen from the Ya1ue on
wh1ch1t expresses the system w1th v1scous d.amp1ng property
3Energy of absorpt1on per cyc1e1s proportma1to theηth power of the max1mum
Ei: f'
; . EI : - :
IICJ
lrEI h7 hC )E
:l
'
163
relative amplitude X. in following.
E = aXn
En : energy 0L absorption per cycle
Xr : maximum relative amplitude of tomato
a, n : constant
It is shown that there seems to be a definite relationship between relative amplitude
and energy absorption per cycle.
4. The relationship between frequency and the total number of cycls to detachment
is given by the exponential function in following
TD = ae bJ¥;'
TD : total number of cycles to detachment
N : frequency
a, b : constant
and, from the stand point of view of the total number of cycle to detachment, it is
clear that there is an optimum frequency range for the kinds of tomatoes