災害に強い無線通信ネットワーク構築

2014年2月28日宮城県 地域高度情報化セミナー
~迅速な震災復興・再生期を支えるICT利活用の動向~
災害に強い無線通信ネットワーク構築
~市町村や民間事業者と連携した研究成果~
東北大学 電気通信研究所
末松 憲治
1
内容
1. 震災と無線通信
- 東日本大震災の経験をふまえて
2. 地上系インフラ被災時にも活用できる衛星系無線ネットワーク
- 次世代小形地球局(VSAT)システムの概要
- 市町村との連携事例
VSAT: Very Small Aperture Terminal
2
震災直後は,無線が大活躍。しかし・・・
3/11(金)
(1 日目)
緊急地震速報 (青葉山・電気系システム)
5 秒前 「震度 4」 時刻はほぼ正確
14:46 東日本大震災発生 (揺れ到来)
停電
携帯電話 with ワンセグ
電話はほとんどつながらず
ワンセグ利用でバッテリ切れ間近
メールがどんどん届き,ますますバッテ
リィが無くなっていく
16:00
3/12(土)
(2 日目)
3/13(日)
(3 日目)
カーナビ with ワンセグ
NHK 「名取・仙台空港へ津波襲来」
■ 携帯電話 (音声)
発信数: 通常比 60 倍 (D 推定)
本震直後にピーク (A)
発信規制: 95~70 %
■ 携帯電話 (パケット)
発信数: 通常比 4 倍 (D 推定)
15 分後に急増 (A)
発信規制: 30~0 % (本当か?)
■ WiMAX by UQ
通信量: 約半分に減少
⇒ ネットワークによって状況に差
固定電話 昼過ぎから使用不能
□ 固定電話: 交換局が電力喪失
携帯電話
徐々に基地局が見えなくなる
端末のバッテリ切れ
■ 携帯電話・基地局
停止: 最大 6,720 局 (D)
うち 85% 電源喪失による停止
□ 携帯端末: バッテリ切れ
⇒ 輻輳減少 → 発信規制減少
仙台市中心部で電気復旧: 街角で充電)
■ 総務省 「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」 資料より引用
3
地震発生時(地震波到達前)
緊急地震速報
・携帯電話のエリアメール
・学内放送
(青葉山・電気系システム)
5 秒前 「震度 4,宮城県沖」
・地方自治体の災害放送
聞こえず。
地震発生時(3/11 14:46): 青葉山(電気系2号館)で,
安達(文)研究室と合同ゼミ中
すぐに停電。
ゼミを中断して,地震動が収まった後,屋外退避。けが人はなし。
4
地震発生直後
屋外待機中
・携帯電話のみが情報源
携帯電話
地震発生直後のみ繋がるが,あとは規制のため,なかなか繋がらない。
携帯メール
受信メールがどんどん届くが,送信メールはなかなか送付できない。
電池だけが減っていく。
メールで,片平の研究室の無事を確認。
ワンセグテレビ
情報が豊富で津波の発生もわかった。
しかし,
・音量が小さく,周囲での情報共有が難しい。
・画面が小さく,荒いため,文字情報が見えず,詳細がわからない。
・電池がすぐになくなる。
情報共有という面では,ラジオが有効かも。
次第に,電池切れに。
5
地震発生数時間後
青葉山での安否確認を終え,片平へ車で帰還 (大渋滞,3時間かかる)
・自動車は,発電機付バッテリィー 雪が降る中,暖房もあり,人心地がついた。
ワンセグテレビ(カーナビ)
ちゃんとしたテレビ画面で,さらに情報量が豊富。
・音量は十分に大きく,車内での情報共有は容易。
・画面も大きいが,画面が荒いため,文字情報が
見えず,詳細がわからない。
(フルセグであれば,問題なし)
・電池の消耗を気にせず,いくらでも視聴可。
ラジオ(カーナビ)
テレビで満足すると,ラジオはほとんど聴かない。
携帯電話・メール
12Vのシガーソケットで,携帯電話の充電できるようにしておくことが重要
(震災後は,どこに行っても,充電器,乾電池は売り切れ。)
私の場合は,仕方がなく,ノートPCで,携帯電話を充電。
公衆電話
大学構内の公衆電話は,無料で,かけ放題。
沿岸部に住んでいる学生とともに,通研キャンパスで車中1泊。
プリウスだと,暖房を入れたまま,TVつけっぱなしで,1泊,ガソリン5リッター。
6
地震発生1~2日後
車のガソリンが不足し始める。GSは,手動ポンプで給油するも,品切れ。
防寒対策が必要。また,停電で真っ暗,余震の不安から,車での生活者が
多くいる。(車は明るく,暖房あり。)
ワンセグテレビ(カーナビ)
引き続き,情報源のメイン。ただし,車に乗る必要がある。
ラジオ(自宅)
自宅は停電のため,ラジオをつけっ放し。照明,電気が
なくても,音があると,安心する。
携帯電話・メール
車+充電の手段を持っている人と,そうでない人で,明暗。
携帯電話の電池切れで,通信量が大幅に減っていく。
一方,基地局も電源切れでダウンするため,電話が
繋がりやすくなったという感じはあまりしない。また,
電池消耗も早くなっているような気がする。
公衆電話
大学構内の公衆電話は,無料で,かけ放題。ただし,列があるので,
深夜などが狙い目。
真っ暗な中,地震で被害を受けた建物の5Fに寝泊りするのは,多少勇気が必要。
7
電気復旧
市内中心部(役所,病院)から順次,電気が復旧 (震災翌日の午後から。
ただし,住宅地は,さらに1~2日後)
テレビ (自宅)
自宅の電気が戻れば,情報入手の主役。
携帯電話・メール
携帯電話の電池切れで,旅行者,学生などが,仙台中心のアーケード
街の店先でタコ足充電。大盛況。電気の復旧が遅れている場所の住民も,
中心地に出てきて,充電。
加入電話,インターネット(ADSL)
電気の普及と同時に,電話も復旧。ADSL,IP電話も同時に復活。
公衆電話
大学構内の公衆電話は,無料で,かけ放題。ただし,列があるので,
深夜などが狙い目。
・情報難民から脱出。
・電気が戻ると,あとは,水,ガスの順でライフラインの確保。
8
以下,
総務省 大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会
の配布資料より抜粋
9
通信インフラの被災と輻輳の状況
10
固定電話の輻輳状況
11
携帯電話(NTTドコモ)の音声トラヒック状況
12
携帯電話(NTTドコモ)のパケットトラヒック状況
13
14
携帯電話(イー・モバイル)の音声トラヒック状況
15
Wi-MAX(UQ)の通信インフラ被災状況
16
Wi-MAX(UQ)のトラヒック状況
17
災害と衛星通信
総務省 大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会の配布資料より抜粋
18
災害に強い無線通信とは
地上系インフラの被災を前提とした高信頼な(ディペンダブル)無線
・単一の無線サービスだけに頼らない,多様性を持つ無線システム
/端末 → オフロード技術
・被災基地局を回避可能とする,通信距離に対してフレキシブルな
無線(リレー,通信距離の延伸)
・広域被災時に,外部との通信を可能とする基幹回線バックアップと
しての衛星系
バッテリー対策
・低消費電力の回路,制御手法
(端末だけでなく,基地局,VSAT)
・車のバッテリィの有効利用,スマートグリッドとの融合
19
関西大震災
1995年
固定電話
東日本大震災
2010年
次の大震災
×
×
×?
○
-
×
△
×?
→×?
○
○
→△?
→△?
携帯電話
(音声通信)
(パケット通信)
衛星携帯通信
衛星通信(VSAT)
-
-
次の手段は?
20
災害と衛星通信(SNG+ミリ波@東京・霞ヶ関)
21
22
災害と衛星通信
地上インフラを喪失した場合,
衛星通信以外に通信手段はなく,非常に有用
ただし,
・大型の車両の入れない場所への設置
→ 可搬型VSAT
→ 設置の容易なアンテナ
操作簡便な自立型VSAT
・電源確保の難しい場所への設置
→ 低消費電力
・通常時から使えるシステム
→地上系との融合システム
23
災害時に有効な衛星通信ネットワーク
の研究開発
代表機関:東北大通研
共同研究機関:富山高専,スカパーJSAT,
ISB,サイバー創研
協力機関:NICT, 宮城県山元町
24
内容
1. 東日本大震災を振り返って
2. 災害時に有効なVSATの研究開発のねらい
3. 研究開発の全体像
4. 個別技術の紹介
5. まとめ
25
26
26
27
27
宮城県亘理郡山元町の例
(出展)内閣府:「東日本 大震災における災害応急対策に関する検討会」
における山元町の報告資料
28
目指すべき災害情報伝達システム像
- 東日本大震災の被災経験 -
大災害時: 地上系の通信手段は甚大な被害
衛星系の通信は幅広く活用され必要不可欠
問題多発
① 被災地の通信ニーズに応じた衛星システム用のVSAT機器の確保が困難
② 大規模・長時間な停電ではVSAT機器も作動停止
③ 衛星回線のトラフィックが急増し、輻輳状態
被災地においてニーズに応じた衛星回線の円滑な確保の技術が必須
・複数の衛星システムに対応可能とするための技術:マルチモード地球局技術
・地球局の消費電力を低減させるための技術:省電力可搬地球局技術
・衛星回線の収容効率を向上させるための技術:通信帯域最適化制御技術
29
大災害発生後の情報通信の確保に関するシナリオ
大災害の発生時からの情報通信ネットワークの確保のシナリオを、時間遷移について
以下に示す。本研究の対象としているシステムは、大災害発生から約12時間後に稼働し
て地上系通信インフラが復旧する数日間を対象として考えている。
地上系
衛星系/地上系
統合システム
救急・救助要請
大災害発生
自治体・被災者向け通信
72時間以内
12時間以内
被災地拠点設営後
生命の危機を含めた究
極の状況で必要な通信
(衛星携帯電話など)
時間
数日~
電気・情報通信機器
復旧後
定常状態に戻るまで繋
ぐために必要な通信
定常状態における通信
(VSAT: 本研究課題)
30
研究開発内容の全体像
衛星通信機器を変更すること無く、被災地のニーズに応じて、
様々な方式の衛星通信を利用することができる技術の研究開発概要
他の自治体
さまざまな方式に
対応した無線機!
複数の衛星システムに
対応可能とするための技術
複数の衛星
複数の衛
星
役所、避難所等の中
① 複数の衛星に対応可能
② 衛星系と地上系を組合せた通信
H23補正成果装置
地上系の通信が途絶しても
すぐに衛星回線で接続可能
インターネット
無線LAN
携帯電話網等
① 自治体からの情報発信の幅が広がる
② 避難所からの簡易な通信手段の確保
マルチモード地球局
(衛星系/地上系統合ソフトウェア無線VSAT)
自治体 役所
被
802.11系ネットワーク
ローカル系
災
避難所
(例:小学校)
ローカル系
広域避難所
31
31
本研究開発に関するビデオをご覧下さい
32
本研究開発の実施体制
平成24年度 情報通信技術の研究開発:
災害時に有効な衛星通信ネットワークの研究開発
研究開発運営委員会(アドバイザ)
代表研究機関:東北大学
構成員:JAXA, 宮城県経済商工観光部, 岩手県政策地域
部, NICT, LASCOM
関連する要素技術間の調整、成果の取りまとめ方等研究
開発全体の方針について幅広い観点から助言を頂くともに
・ア-1-1) マルチモード衛星通信用ソフトウェア無線技術
、東日本大震災の被災自治体、連携研究機関などから実
・ア-2) デジタル・フロントエンド技術
際の研究開発の進め方について協議。
・ア-4) 超小型Ku/Ka帯共用アンテナの開発
・ア-5-1)
実フィールドにおける試作システム評価
研究機関:株式会社アイ・エス・ビー
・ア-1-2) 衛星系/地上系統合ソフトウェア無線技術
研究機関:株式会社サイバー創研
・ア-3) 複数衛星システム接続処理技術
・ア-5-2) 衛星通信ソフトウェア無線端末制御技術
・イ) 省電力可搬地球局技術
研究機関:富山高等専門学校
・ア-5-3) 実フィールドにおけるユーザ視点での評価用
アプリケーションの開発と評価
研究機関:スカパーJSAT株式会社
・ウ) 通信帯域最適化制御技術
協力機関:NICT
ワイヤレスネットワーク研究所スマートワイヤレス研究室
耐災害ICT研究センター[宮城県]
33
33
研究開発の流れ
H22
現行版
H23
H24
H25
H26
H27
★東日本大震災
H23補正版
災害時に簡易な操作で設置が可能な小型地球局(VSAT)の研究開発
社会実装に向けた提案
スカパーJSAT
H24、H24補正開発版
フィードバック
災害時に有効な衛星通信ネットワークの研究開発
H24年度開発
東北大学
ISB
サイバー創研
富山高専
スカパーJSAT
H24年度補正開発
東北大学
ISB
サイバー創研
富山高専
H26年度以降
34
34
これまでの取組状況と今後の予定
平成24年 4月23日 提案書の提出
6月12日 公募結果の報道発表(委託先候補発表)
7月 2日 総務省様より正式に委託依頼を受理
12月27日 被災地(宮城県亘理郡山元町)訪問し、パイロットモデルの依頼
平成25年 2月7~8日 ITU-T Focus Group で発表・展示
3月25~26日 耐災害ICT協議会@東北大にてプレゼン、展示・実証事件を実施
4月11日 山元町副町長門脇氏への本研究開発のご説明と実証実験依頼
4月25日 第1回研究推進WG及び実証実験を山元町で実施
5月16日 岩手県庁訪問、岩手県内での実証実験等実施の依頼
6月27日 高知県土佐町訪問、副町長、総務企画課長、産業振興課長へ協力・参画を依頼
9月11日 岩手県広域防災拠点整備アドバーザー会議での講演,実証実験を実施
9月25日 高知県土佐町にて実証実験を実施
平成26年 2月28日 宮城県地域高度情報化セミナーにて講演
3月 3日 耐災害ICTセンター開所式シンポジウムにて展示予定
3月 8日 角田市にて耐災害ICT協議会の実証事業を実施予定
3月25日 最終デモンストレーションを山元町にて実施予定
35
35
平成25年4月25日実施模様(その1)
・電源は、エスティマハイブリッド車から
AC100Vを供給
(AC100V 1500Wコンセント)
・左がプロトタイプ衛星用アンテナ
・右が機能検証用モデル
・避難所を想定して、電話とWiFiによる通信
・右がプロトタイプ衛星用アンテナ
・左が機能検証用モデル
36
36
平成25年4月25日実施模様(その2)
アンテナの設置模様
デモ模様
37
37
報道発表
平成25年4月26日
河北新報朝刊
38
38
「災害時に有効な衛星通信ネットワークの研究開発」のデモ
日時:2014年3月25日(火)午後
場所:宮城県 亘理郡 山元町役場 (予定)
被災地の避難所を想定した衛星経由のインターネット
接続のデモンストレーションを実施
EsBird
誰にでも組み立て可能
アンテナの向きを自動調整
避難所
制御局
(H23補正開発)
マルチモード地球局 IDU
(ソフトウェア無線 IDU)
可搬型 VSAT ODU
(自立式小型地球局)
ゲートウェイ局
(東北大学 or
H23補正開発)
ハイブリッド車から給電
Internet
被災者の携帯電話や
パソコンから
インターネット接続
複数の衛星通信システムに
対応可能
VSAT:小形地球局,IDU:屋内装置,ODU:屋外装置
EsBird: 民間衛星通信サービスの1つ
39
H26年度以降に実施したい実証実験のイメージ図
平時利用から有事の際の複数衛星通信システム利用の自動切替技術の確立
他の自治体等
携帯電話網等
複数の衛星
システム
インターネット
役所、避難所等の中
役所、避難所等の中
光ファイバ、ADSL等
の有線接続
無線LAN
自動捕捉型
可搬VSAT局
の搬入・接続
さまざまな方式に
対応した無線機!
衛星系/地上系統合VSAT用IDU
(マルチモード地球局)
平常時
無線LAN
自動切替
有事の利用の
アプリケーションの実装
(安否確認等)
衛星系/地上系統合VSAT用IDU
(マルチモード地球局)
災害発生時
40
40
海外への発信
 阪神・淡路大震災、東日本大震災等を通じて培ってきた災害時、緊急時における衛星通信
ネットワークの構築、運用の実績および経験をベースとしたソリューションとしてトータル
パッケージを国内外に提供
 2012年9月: トルコ共和国への技術紹介 (写真)
トルコ共和国・
トルコサット関係者
東北大学来訪
(2012年9月)
41
まとめ
本研究開発では,以下の技術を開発し,今後予想される大
震災に対応可能な次世代VSATシステムを実現することを
目指している。
(ア) 地上系ソフトウェア無線技術を活用した,複数衛星通
信システムに対応可能で,かつ,避難所などでも被災者が
使いやすいマルチモード地球局,
(イ) 避難所など設置条件が悪い場所でも活用可能な省電
力可搬地球局,
(ウ) 今後増加する衛星回線のトラフィックに対応可能な,
輻輳を回避するための通信帯域最適制御技術
42
謝辞
本研究は,
の研究委託
「災害時に有効な衛星通信ネットワークの研究開発」
の一環として実施しました。
本研究を進める上で,ご協力頂いている (独) 情報通信研
究機構 (NICT) 耐災害ICTセンター,ならびに,同ワイヤレ
スネットワーク研究所スマートワイヤレス研究室に感謝しま
す。
43
ご静聴ありがとうございました。
44