KEK Internal 2014-1 July 2014 H 2 重ベータ―崩壊実験用ドリフトチェンバー(T3 型) (電気的特性の解析的計算) Electrical Properties in the Drift Chamber for Double Beta Decay Experiments 小濱太郎, 石原信弘, 岩瀬広 高エネルギー加速器研究機構(KEK) 喜多村章一 日本医療科学大学 Taro OHAMA, Nobuhiro ISHIHARA, Hiroshi IWASE High Energy Accelerator Research Organization (KEK) Shoichi KITAMURA Nihon Institute of Medical Science High Energy Accelerator Research Organization © High Energy Accelerator Research Organization (KEK), 2014 KEK Reports are available from: High Energy Accelerator Research Organization (KEK) 1-1 Oho, Tsukuba-shi Ibaraki-ken, 305-0801 JAPAN Phone: +81-29-864-5137 Fax: +81-29-864-4604 E-mail: [email protected] Internet: http://www.kek.jp 2重ベーター崩壊実験用ドリフトチェンバー (T3 型) (電気的特性の解析的計算) Electrical Properties in the Drift Chamber for Double Beta Decay Experiments Taro Ohama 小濱太郎1 , Nobuhiro Ishihara 石原信弘, Hiroshi Iwase 岩瀬広, Shoichi Kitamura 喜多村章一 ∗ 高エネルギー加速器研究機構 (KEK) 305-0801 茨城県つくば市大穂 1-1 日本医療科学大学 ∗ 350-0435 埼玉県入間郡毛呂山町下川原 1276 2重ベーター崩壊の実験において、荷電粒子の飛跡を 3 次元的に正確に測定する 必要から、マルチワイヤーチェンバー DCBA(Drift Chamber Beta-ray Analyzer) を使用する。荷電粒子の飛跡の位置はその電子のドリフト時間とアノードワイヤー 面およびアノードワイヤー面と距離 g 離したピックアップワイヤー面の情報から 3 次元で同定する。 マルチワイヤーチェンバーの主要要素、即ち、ワイヤー表面の電界、空間の電 気力線など基本的要素をはじめ、推定されるシグナル電流の概略を理解しておく ことは重要である。一部仮定の下ではあるが、これら基本要素を電磁気学から解析 的に計算した。 KEYWORDS: charge, electric field, gas multiplication, signal current 1 E-mail address: [email protected] 1 目次 1 DCBA に搭載するマルチワイヤーチェンバーの設計 3 2 チェンバーの構造と電極の機能 3 4 5 2.1 2.2 単位セル (Unit Cell) の電極電位と電荷 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2.3 2.4 電界と電気力線 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2.5 2.6 3 フィールドシェーピングワイヤー (Field Shaping Wire) . . . . . . . . . . . . . 増幅率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 漏洩静電容量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 9 11 12 電子の位置と移動時間 14 3.1 X 軸上の X-T 関係 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14 3.2 直角入射の軌跡 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 3.3 4 単位セル内の空間電位 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 斜め入射の軌跡 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 等価 2 極管 (Equivalent Diode) 4.1 4.2 17 等価電極間距離 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 等価電位、等価半径 16 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 19 5 電子の移動時間分布 20 5.1 単位セルからの電流信号 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 6 結論 22 7 謝辞 22 8 Appendix 23 8.1 8.2 8.3 Appendix 8.1 電極の電位と行列要素 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . Appendix 8.2 増幅率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . Appendix 8.3 漏洩静電容量 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23 28 30 8.4 Appendix 8.4 シングル クラスターによるアノード電流と電位 . . . . . . . . . 32 2 1 DCBA に搭載するマルチワイヤーチェンバーの設計 ワイヤーチェンバー内に入射してくる荷電粒子によって発生する電子はアノードワイヤーに ドリフトして行く。電子がアノードワイヤーにドリフトしてきたとき、アノードワイヤーの近 傍、実質的にはワイヤーの表面でガス増殖が起こり、大量の電子イオン対が生成される。電子 は直ちにアノードワイヤーに吸収され、あたかも、アノードワイヤーがイオンを放出している かの如くである。この放出されたイオンはアノードワイヤーの周辺の電極、ピックアップワイ ヤー、カソードワイヤー、ソース等に向かうが、イオンの流れはこれら周辺の電極に与えた電 位で制御することができる。 カソードからの熱電子放射を利用した電子管(旧来のなじみ深い真空管)と対比してみる と、ワイヤーチェンバーはアノードワイヤーからイオンを放出し、ガス中で動作する電子管と 云うことができる。従って、ワイヤーチェンバーの設計にあたって、研究し尽くされた歴史あ る電子管の設計手法は大いに利用するに値する 1),2),3),4),5),6) 。 2 重ベーター崩壊の実験 7) のために用いる DCBA (Drift Chamber Beta-ray Analyzer) で はワイヤーチェンバーの主要部分はアノードワイヤー面、ピックアップワイヤー面、カソード ワイヤーソース面とソース面から構成している。実験は一様磁場の中にマルチワイヤーチェン バーを設置して、チェンバーから出てきた電気信号を解析して行うが、本論文はこのマルチワ イヤーチェンバーに限ってその構造、設計手法と電気的性能を記述する。ワイヤーチェンバー はアノードワイヤーの表面におけるガス増殖機能によって放射線、特に電子線等荷電粒子に対 して高い感度を持つことを利用して、二重ベーター崩壊における粒子の精密な飛跡の把握を目 的とした。なお、単位は原則として (m)、(s)、(V)、(atm) を用い、数値計算は原則 6 桁で行っ た。有効数字としての意味はないが、関連する計算値相互の確認に便利なためである。ご理解 戴きたい。 2 チェンバーの構造と電極の機能 Fig.1(a)、(b) はワイヤー構成を示したマルチワイヤーチェンバーの主要部の概略である。マ ルチワイヤーチェンバーの主要部は、半径 ra =10 µm の極めて細いアノードワイヤー(x-y 平 面上、y 軸上に並んでいる)をピッチ p=3 mm で 160 本(両端のダミーワイヤーを除く)張っ たアノードワイヤー面と半径 rg =40 µm のピックアップ(グリッド)ワイヤー(x-z 平面上、 G 点線上に並んでいる)をピッチ p=3 mm で 160 本張ったピックアップ(グリッド)ワイヤー 面がある。この両面は距離 g=2 mm 離れて互いに向かい会った構造となっている。 また、ピックアップワイヤーはアノードワイヤーに対して直角の方向に張っている。即ち、 アノードワイヤーとピックアップワイヤーが距離 g で「ねじれ」の位置関係にある。Fig.1(a)、 (b) の x 方向から見ると、アノードワイヤー面とピックアップワイヤー面は網目状になり、こ の各交点近傍は局所的なチェンバーを形成していることになる。 さらに、Fig.1(a)、(b) に見るように、アノードワイヤー面に近接して、x=−s1=−4 mm の 位置に面状のアノード側ソース面(ソースプレート)S1 があり、g=2 mm 離れてピックアップ 3 ワイヤー面、その先に c=40 mm 離れた位置にカソードワイヤー面がある。さらに s2=4 mm 離れて カソード側ソース面 S2 があり、ここで一つの単位構造が閉じる。何れのソース面も アース電位である。 y 方向の位置は原則的に平面状に張ったアノードワイヤーの位置から得る。一方、z 方向の 位置を知るためには、このアノードワイヤー面と平行に距離 g だけ離して設けたピックアップ ワイヤー面を利用する。Fig.1(a)、(b) に示すように、アノードワイヤー面、ピックアップワイ ヤー面に垂直方向を x の正方向とする。アノードワイヤー面内でワイヤーに直角に y 方向、ア ノードワイヤーの長手方向を z 方向とする。即ち、Fig.1(a) に x-y 平面、Fig.1(b) に x-z 平面 を示す。 アノードワイヤーは高電位にあり、チェンバーの y 方向は有限であるから、アノードワイ ヤー面の最端のワイヤーに電界が集中しないようにガードワイヤーと称する太いワイヤーを置 いている。二重ベーター崩壊実験で扱う電子等粒子線のエネルギーは小さいので、チェンバー ガスはヘリウムを主体とした混合ガス(He:90%,CO2 10%)を使用している。 2.1 単位セル (Unit Cell) の電極電位と電荷 さて、Fig.1(a) において、p=3 mm と s1 +g+c+s2 =4(mm)+2(mm)+40(mm)+4(mm) で囲 まれた領域を「単位セル」と呼ぶ。今、簡便のため、アノードワイヤー面、ピックアップワイ ヤー面は無限に広がっているものとすると、アノードワイヤー面は Fig.1(a) において p=3 mm 周期の単位セルの繰り返しであり、Fig.1(b) に示すようにピックアップワイヤー面も同様、p=3 mm の繰り返しでできている。 x-y 平面上の単位セルの中にはアノードワイヤーが 1 本あり、x-z 平面上の単位セルでもピッ クアップワイヤーが1本ある。このようなチェンバでは、空間の電位分布は次の (1) 式で表さ れる。この式からも解るように、y 方向は p=3 mm で繰り返し同じ電位となり、この単位セル の電気的特性だけを解けばチェンバ全体の電位分布を求めたことになる。 アノードワイヤーに電位 Va 、ピックアップワイヤーに電位 Vg 、カソードワイヤーに電位 Vc を与え、アノード側ソース面 S1 の電位を Vs1 =0、カソード側ソース面 S2 の電位を Vs2 =0 と したとき、アノードワイヤーの単位長さあたりの電荷を qa 、ピックアップワイヤーの単位長さ あたりの電荷を qg 、 および、ソース面 S1 上で幅 p で単位長さで形成する矩形面上の電荷を qs1 、とすると、3 次元空間における点 P (x,y,z) の電位 V (x,y,z) は 4 V (x, y, z) = − )} { ( qa 2πx 2πy qa ln 2 cosh − cos − x 4πε0 p p 2ε0 p [ { }] qg 2π(x − g) 2πz qg ln 2 cosh − − cos − (x − g) 4πε0 p p 2ε0 p [ { }] qc 2π(x − g − c) 2πy qc − ln 2 cosh − cos (x − g − c) − 4πε0 p p 2ε0 p − (1) qs1 (x + s1 ) ε0 p −ϕ である 8),9) 。ここに ϕ は任意電位、ε0 は真空中の誘電率、ε0 =8.8485×10−12 F/m である。 (1) 式からこのチェンバーの主要な特性のほぼすべてを表す「特性方程式」とでも云うべき 式を誘導することができる。即ち、電荷 qa 、qg 、qc 、qs1 および任意電位 ϕ を未知数とする次 の連立方程式を得る。 A11 A21 A31 A41 A51 A12 A22 A13 A23 A14 A24 A32 A42 A52 A33 A43 A53 A34 0 A54 −1 −1 −1 −1 −1 Qa Va Qg Vg Qc = Vc Qs1 Vs1 (= 0) ϕ Vs2 (= 0) , (2) ここに マトリックス要素 Aij の導出に関しては(Appendix 8.1 参照 )にその詳細を記載し ておく。また、Qa 、Qg 、Qc 、Qs1 、は計算を簡便にするための換算電荷で Qa = qa , 2πε0 Qg = qg , 2πε0 Qc = qc , 2πε0 Qs1 = qs1 2πε0 である。単位セルにおいてカソード側ソース面 S2 上の電荷 qs2 は qs2 = −(qa + qg + qc + qs1 ) で、換算電荷は Qs2 = (3) qs2 である。 2πε0 このチェンバーの各電極に与えた電位とそれに伴って各電極に誘起した電荷を (2) 式で計算 し Table 1 に示す。一般に、(2) 式からピッチ p を小さくすると、アノードワイヤー表面に所 定の電荷(電界)を得るには高い Va を必要とする。 2.2 単位セル内の空間電位 単位セルの電極に電位を与え、(2) 式を解いて求めた電極の電荷を (1) 式に入れると、単位セ ル内の電位分布が求まる。一例として、Va =2140 V、Vg =−380 V、Vc =−1000 V、ソースプ 5 レート S1、S2 の電位、Vs1 =Vs2 =0 のとき、Fig.2(a) は z=0 においてアノードワイヤーからカ ソードワイヤーに至る x 軸上の電位分布であり、途中、ピックアップ(グリッド)ワイヤーが あるため、不連続な電位分布となる。一方、Fig.2(b) は z=p/2、即ち、ピックアップ(グリッ ド)ワイヤーの間隙を通る x 軸に平行な空間電位を示している。ピックアップ(グリッド)ワ イヤーとカソードワイヤーの間の一様空間の電位勾配(電界)は Ex0 =210.5 V/m である。以 下、本文における電極の電位はすべて上述の値を用いるが、この例では、Table 1 に示すように アノードワイヤーの表面電界がかなり強く (Ea ≫2×107 V/m)、高い感度がある反面、アノー ドワイヤーに印加する高電圧電源をトリップさせる原因になる可能性がある。最適値は実験で 決めなければならない。 2.3 電界と電気力線 アノードワイヤー、ピックアップワイヤー、カソードワイヤー、ソース面 S1、S2 等、電極 の表面の電荷は (2) 式、(3) 式を解いて、Table 1 に示す通りであり、従って各電極表面の電界 は簡単に Ea = Qa , ra Eg = Qg , rg Ec = Qc , rc Es1 = Qs1 2π , p Es2 = Qs2 2π p (4) である。 しかし、アノードワイヤーからピックアップワイヤー、カソードワイヤー、または、ソース 面 S1 に向かう電気力線を求めるには空間の任意の点 P (x,y,z) における電界が必要である。電 界を求めるには、先に求めた電位を表す式、(1) 式を微分すればよい。即ち、 Ex = − ∂V ∂x ( ) qa = + 2πε0 sinh 2πx p π + 2πx 2πy p cosh − cos p p ( qa 2πε0 ) π p ( ) qg + 2πε0 2π(x − g) ( ) π qg π p + 2πz p 2π(x − g) 2πε0 p − cos cosh p p ( ) qc + 2πε0 2π(x − g − c) ( ) π qc π p + 2π(x − g − c) 2πy p 2πε0 p cosh − cos p p ( + qs1 2πε0 ) sinh sinh 2π p 6 (5) Ey = − ∂V ∂y ( qa = + 2πε0 ( qc + 2πε0 Ez = − ) sin 2πy p π 2πx 2πy p cosh − cos p p (6) 2πy π p 2πy p 2π(x − g − c) − cos cosh p p sin ∂V ∂z ( = + ) qg 2πε0 ) 2πz π p 2π(x − g) 2πz p cosh − cos p p sin (7) である。 一般に、アノード側ソース面 S1 とカソードワイヤー面の間の空間で入射粒子が飛跡に沿っ てガスを電離し、発生した電子は電気力線を遡ってアノードワイヤーに達し、ワイヤー表面で ガス増殖する。これに伴い z=0 ではアノードワイヤー表面からイオンが電気力線に沿って主 としてピックアップワイヤーへ、一部はソース面 S1 へ(Fig.3(a))、または、z=p/2 ではピッ クアップワイヤーの間をすり抜けカソードワイヤーへ向かって行く(Fig.3(b))。このアノー ドワイヤーを離れるイオンがアノード信号である。x-z 面上の電気力線を y=0 の場合について Fig.4 に示す。 アノードワイヤーを離れたイオンのうち、ピックアップワイヤーに向かうイオンによってピッ クアップワイヤーにイメージ電流が発生する。これがピックアップ信号である。ピックアップ 電流はイメージ電流であるから、アノード電流に対して時間遅れはない。 今、ガス中でのイオンの易動度を µ+(簡単のため常数とする)とすると、点 P (x,y,z) にお いて、時間 dt の間にイオンが x 方向、y 方向、z 方向に移動する距離 dx、dy 、dz はそれぞれ dx = µ+ Ex dt, dy = µ+ Ey dt, であるから、時間 t の間に移動する距離は上式を積分して ∫ ∫ ∫ ∫ x = dx = µ+ Ex dt, y = dy = µ+ Ey dt, dz = µ+ Ez dt ∫ z= ∫ dz = µ+ Ez dt (8) だけ移動する。従って、例えば、アノードワイヤー表面から直角に四方八方に均等に出た電気 力線が、ピックアップワイヤーに向かう様子を描かせるには、アノードワイヤー表面にガス増 7 殖で発生したイオンを置き、ピックアップワイヤーに向かう軌跡を追えばよい。ここに µ+ の 値の大小は原理的に電気力線のパターンを決するものではないが、計算では平均的なイオンの 易動度 µ+ =5.1×10−4 m2 atm/(Vs) を用いた。 今、Fig.3(a) についてもう少し詳しく説明する。z=0 の x-y 平面において、ソース面 S1 に 向かう電気力線はアノードワイヤーの表面上で x 軸となす角 θ の場所に置いたイオンの軌跡を 追って、座標 x=ra cos θ、y=ra sin θ から Rs1 = x + s1 が Rs1 <0 になるまで (8) 式を積分すればよい。同時にピックアップワイヤーに向かう電気力 線は Rg = √ (x − g)2 の値が Rg <rg になるまでを積分することになる。 z=p/2 の場合は、S1 に向かう電気力線は z=0 の場合と同様であるが、2 本のピックアップ ワイヤーの間をすり抜けてカソードワイヤーに到達する電気力線があり、 Rc = √ (x − g − c)2 + y 2 が Rc <rc になるまで積分することになる(Fig.3(b))。 Fig.3 において、電荷が qa (z=0) のとき、アノードワイヤーから出て行く全電気力線の数を 18 本 (θ=20 °に対して 1 本の割合)として描いている。電荷が qa (z=p/2) の場合には当然なが らアノードワイヤー表面の 電荷は qa (z=0) の場合より若干小さい。従って、現実には Fig.3(b) では Fig.3(a) に比べ、電気力線の数は電荷に比例して少なく書くべきであるが、簡単のため同 数で描いている。 x-z 平面においては、アノードワイヤーから出た電気力線の大半はピックアップワイヤーに 向かう。しかし、2 本のピックアップワイヤーの中間、z=p0 /2 をすり抜ける電気力線はカソー ドワイヤーに向かう。z=0 と z=p/2 の間の各点から θ=0、θ=π の方向に出て行く電気力線を x-z 平面で Fig.4 に示す。 この電位配分においては、Fig.4 の 2 本のピックアップワイヤーの間隙をすり抜けてカソー ドワイヤーに向かう電気力線は図に示すように僅かであるが、ピックアップワイヤーの電位を 浅くすると、カソードワイヤーに向かう電気力線は増加する。勿論、その場合、一様電界の値 等、他の特性に応分の影響を与える。 最後に、各ワイヤーは理想的に張られているとして、以上の議論を進めてきたが、現実に張 るワイヤー張力には限界がある。過剰に強い張力で張ればワイヤーは切れる。さりとて、弱い 張力ではワイヤーが同一電位の故に、互いに反発して同一のワイヤー平面を形成しない。つま り、ワイヤー平面を形成するに必要な最低張力、即ち、臨界張力 T が存在する。厳密に計算す 8 る必要はないが、アノードワイヤーを例に概算を見積っておく。半径 ra =10 µm、ピッチ p=3 mm、ワイヤーの長さ La =0.5 m のアノードワイヤー面があるとする。今、このアノードワイ ヤーが単一のワイヤー面を形成するに必要な臨界張力は 10),11),12),13) ( )2 ( )2 ( )2 1 CV0 La q La T = = πε0 4πε0 p 2πε0 p である。V0 はアノードワイヤーの対地電位、C は単位長さあたりのアノードワイヤーの対地静 電容量であるから、積 CV0 =q は単位長さあたりの電荷である。DCBA のワイヤーチェンバーに q おいて、 =Qa =312.859 V で代用し、p=3 mm、La =0.5 m を代入すると、T =7.56×10−2 2πε0 (Newton) となる。10−2 N ∼1 gr であるから、T ∼7.56 gr。7.56 gr 以上の張力で張っておけば 問題ない。 2.4 フィールドシェーピングワイヤー (Field Shaping Wire) 基本的概念は、アノードワイヤー面、ピックアップワイヤー面、カソードワイヤー面などの ワイヤー面を始め、ソース面は無限に広がっているとして設計するが、現実にはチェンバーは 有限の大きさなので、±y 方向の境界ではチェンバー空間はアース電位の筺体壁面と対峙する ことになる。また、この境界では x 方向に電位が大きく変化している。チェンバーの有感領 域において、電界強度が一定な領域をできるだけ広く保つため、Fig.5(a) のようにフィールド シェーピングワイヤー (field shaping wire) を設置している。 Fig.5(a) に示すように、チェンバーの筐体内面(電位はゼロ)に沿って半径 rf =40 µm のワ イヤーでできたフィールドシェーピングワイヤー面を設けている。ワイヤー面は筐体内面から f =23 mm 離れた位置に筐体内面を覆うようにワイヤー間隔 pf (標準 3 mm) で張ってある。こ のフィールドシェーピングワイヤーにはアノードワイヤー面からの位置 x の空間電位 Vx に対 応する電位 Vf を与えている。ワイヤーに与える電位 Vf 、電荷 qf の計算には (1) 式、(2) 式を 応用して求める。 Fig.5(a) において、フィールドシェーピングワイヤー付近の y ′′ 軸に沿った電位は { ( )} qw qf 1 qf 2πy ′′ 2πx′′ V (x′′ , y ′′ ) = − (y ′′ + f ) − y ′′ − ln 2 cosh − cos +ϕ ε0 pf 2ε0 pf 2 2πε0 pf pf { ( )} π 1 2πy ′′ 2πx′′ 2π ′′ (y + f ) − Qf y ′′ − Qf ln 2 cosh − cos + ϕ, pf pf 2 pf pf (9) ここに、qf は単位長さあたりのフィールドシェーピングワイヤーの電荷、qw は幅 pf 、単位長 さあたりの筐体内壁表面の電荷である。Qw 、Qf はそれぞれ qw 、qf を 2πε0 で割った換算電 = −Qw 荷である。 筐体内表面の電位は 0 であるから、(9) 式において、 ( ) πf π + ϕ = 0. V (0, −f ) = −Qf (−f ) − Qf ln 2 sinh pf pf 9 (10) また、y ′′ 軸上フィールドシェーピングワイヤーから遠い位置 (x′′ =0, y ′′ =+∞) では (9) 式は V (0, +∞) = −Qw ( ) πy ′′ 2π ′′ π (y + f ) − Qf y ′′ − Qf ln 2 sinh +ϕ pf pf pf であるが、y ′′ =+∞ では ( ) πy ′′ πy ′′ ln 2 sinh = pf pf (11) (12) であるから V (0, +∞) = −(Qw + Qf ) 2π ′′ 2π y − Qw f + ϕ pf pf (13) となる。この V (0,+∞) が一定の値を持つには y ′′ によらず、Qw =−Qf でなければならない。 さらに、この V (0,+∞) は (2) 式から求めた x に対応する空間電位、Vx に等しいから V (0, +∞) = Qf 2π f + ϕ = Vx pf ϕ = Vx − Qf 2π f. pf (14) (10) 式に代入して、 Qf = Vx ( ) πf πf + ln 2 sinh pf pf (15) となる。Qw 、ϕ を (9) 式に代入したとき、フィールドシェーピングワイヤー付近の電位は { ( )} qf 1 qf 2πy ′′ 2πx′′ ′′ ′′ ′′ V (x , y ) = + y − ln 2 cosh − cos + Vx . 2ε0 pf 2 2πε0 pf pf (16) ′′ V (0, y ) = ( ) qf πy ′′ qf ′′ y − ln 2 sinh + Vx . + 2ε0 pf 2πε0 pf (17) となり、Fig.5(b) に示す。 特にフィールドシェーピングワイヤー自身の電位 Vf (0, rf ∼0) は ( Vf = − qf 2πε0 ) ( ) πrf ln 2 sinh + Vx . pf (18) Fig.5(b) は一例として Vx =−310.289 V(アノードワイヤー面から x=21 mm のところの空 間電位)におけるフィールドシェーピングワイヤーを含む y ′′ 方向の電位分布を示している。 フィールドシェーピングワイヤーに近いところの電位は Vx より深い。この例では、フィール 10 ドシェーピングワイヤー上の電位 Vf は、Vx より −15.97 V 深く、−326.259 V である。フィー ルドシェーピングワイヤー面から約 1 ピッチ 3 mm だけチェンバーの内側に入ると電位は一 様な値 Vx =−310.301 V となる。x における空間電位と対応するフィールドシェーピングワイ ヤーの電位の計算結果は Table 2 に Vx 、Vf として掲載している。 2.5 増幅率 このワイヤーチェンバーは 3 種類の電位を変え得る電極(アノードワイヤー、ピックアップ ワイヤー、カソードワイヤー)を持つガス中で動作する 3 極電子管と見なすことができる。 一般に三極電子管(ポピュラーな真空管)においては、“増幅率” µ は陽極電流に対して、制 御グリッドの入力電圧の変化が陽極電圧の変化の何倍の影響を与えるか、を示すものである 1),2),3),4) 。DCBA のチェンバーにおいても同様に増幅率 µ を定義することができる。ワイヤー チェンバーにおいて、ある動作条件から別な条件に変えようとするとき、この増幅率が役に立 つ。 電荷 Qa は Va 、Vg 、Vc と Vs1 (=0) の関数として、(2) 式を展開して Qa を求める式をつくる と、Vs1 =0 であるから、 Qa = のようになる。ここに、 A11 A12 A21 A22 ∆ = A31 A32 A41 A42 A51 A52 ∆g = ∆a ∆g ∆c Va − Vg + Vc ∆ ∆ ∆ A13 A23 A14 A24 A33 A43 A34 0 A53 A54 A12 A13 A14 A32 A42 A33 A43 A34 0 A52 A53 A54 A 22 A32 −1 , ∆a = A42 −1 A51 −1 −1 −1 −1 −1 , −1 −1 ∆c = (19) A23 A24 A33 A43 A53 A34 0 A54 A12 A13 A14 A22 A42 A23 A43 A24 0 A52 A53 A54 −1 −1 , −1 −1 −1 −1 −1 −1 である。∆、∆a 、∆g 、∆c は単位セルの幾何学的構造により決まる常数であるから、アノー ドワイヤーの状態が一定であると云う条件、つまり Qa と Va を変えないという条件の下では、 (19) 式の微分は −∆g ∂Vg + ∆c ∂Vc = 0. −µ ≡ ∆g ∂Vc = ∂Vg ∆c (20) となり、µ もまた固有の常数となる。 ∂Vc を増幅率 µ と呼ぶ。これはワイヤーチェンバーにおいて ∂Vg は、アノードワイヤーの電位 Va 、ソース面の電位 Vs1 が一定(このチェンバーでは Vs1 =0)な 一般の電子管では、普通、− 11 ら、ピックアップワイヤーの電位の変化とカソードワイヤーの電位の変化が (20) 式を満たし ていれば、アノードワイヤーの表面電界は一定に保たれることになり、アノードワイヤー表面 のガス増殖率を一定に保つことができることを意味している。このようにワイヤーチェンバー の単位セルにおける “増幅率” µ は 12AX7、12AU 7 など 6) の三極電子管と同様に定義でき る。(20) 式で定義する µ を使えば、Qa は { } ∆c (µVg + Vc ) ∆a Qa = Va 1 + ∆ ∆a Va (21) で表現することもできる。項 µVg +Vc は、電子管技術の分野で、しばしば “集成電圧” と呼ん でいる電圧である。µ 値の概略については(Appendix 8.2)を参照されたい。 2.6 漏洩静電容量 単位セルの応用のひとつとして、隣り合った二本のアノードワイヤー間の漏洩静電容量を計 算することができる。 2.1 節で述べた電荷を求める手順は、あるアノードワイヤー A0 と隣接する別のアノードワ イヤー A1 間に、最悪の場合、どのくらいクロストーク(漏洩信号電流 cross talk、実際にヒッ トしたアノードワイヤーに隣接するアノードワイヤーに誘起される偽の信号)があるか推定す るために応用できる。 最も簡単な例として、今、1 本おきのアノードワイヤーに信号電荷が誘起した場合を考えよ う。この場合、拡張した単位セルを考えると便利である。このモデルの単位セルは Fig.6(a)、 (b) に示すように A0 、A1 と名ずけた 2 種類のアノードワイヤー、2 本のピックアップワイヤー G と幅 2p の 2 枚の板状のカソード(このモデルではカソードワイヤー近傍の問題ではないの で、カソードは簡単な板状のカソードで充分である)からなっている。アノードワイヤー面か らピックアップワイヤー面までの距離を g 、ピックアップワイヤー面から板状カソードまでの 距離を c とする。 ここで、アノードワイヤー A0 ともう 1 本のアノードワイヤー A1 の間の漏洩静電容量 (stray capacitance) Cx を求めよう。即ち、1 本おきに置かれたアノードワイヤー A0 を Va0 (=1 V) に接続し、アノードワイヤー A0 を除くすべての電極(A1 、ピックアップワイヤーおよび板状 カソード)を接地したとき、Cx は A1 に誘起する電荷 qa1 を A0 と A1 の電位差で割ればよい。 拡張した単位セルの中でも、また、電荷は保存する。その結果、(1) 式に相当する式は、それ ぞれのワイヤーまたは電極に対応する電荷を qa0 、qa1 、qg1 、qg2 、qs1 とすると 12 V (x, y, z) = [ { }] qa0 qa0 2πx 2πy x− ln 2 cosh − cos − 2ε0 (2p) 4πε0 (2p) (2p) − [ { }] qa1 qa1 2πx 2π(y − p) x− ln 2 cosh − cos 2ε0 (2p) 4πε0 (2p) (2p) [ { }] qg1 qg1 2π(x − g) 2πz − (x − g) − ln 2 cosh − cos 2ε0 (2p) 4πε0 (2p) (2p) (22) [ { }] qg2 2π(x − g) 2π(z − p) qg2 (x − g) − ln 2 cosh − cos − 2ε0 (2p) 4πε0 (2p) (2p) − qs1 (x + s1 ) ε0 (2p) −ϕ であり、(2) 式に相当する次の 6 行 6 列の連立方程式を得る。 B11 B12 B13 B14 B15 −1 B21 B31 B41 B22 B32 B42 B23 B33 B43 B24 B34 B44 B25 B35 B45 −1 −1 −1 B51 B61 B52 B62 B53 B63 B54 B64 0 B65 −1 −1 Qa0 Qa1 Qg1 Qg2 Qs1 ϕ = Va0 , Vs1 (= 0) Vc (= 0) Va1 (= 0) Vg1 (= 0) Vg2 (= 0) (23) ここに Qa0 =qa0 /2πε0 はアノードワイヤー A0 の単位長さ当たりの換算電荷、Qa1 =qa1 /2πε0 はアノードワイヤー A1 の単位長さあたりの換算電荷、Qg はピックアップワイヤーの単位長 さあたりの換算電荷である。Qc は幅 2p の板状カソードの単位長さ当たりの換算電荷、そして ϕ は任意の電位である。マトリックス要素 Bij については(Appendix 8.3 参照)を参照さ れたい。 従って、電荷 Qa1 =qa1 /(2πε0 ) は B 11 B21 1 B31 Qa1 = ∆ B41 B 51 B61 Qa1 Va0 =− ∆ , Va0 0 B13 B23 B14 B24 B15 B25 −1 −1 0 0 0 B33 B43 B53 B34 B44 B54 B35 B45 0 −1 −1 −1 0 B63 B64 B65 −1 −1 −1 −1 , −1 −1 B21 B31 B23 B33 B24 B34 B25 B35 B41 B51 B61 B43 B53 B63 B44 B54 B64 B45 0 B65 13 (24) ∆ = ここに B11 B12 B13 B14 B15 B21 B31 B22 B32 B23 B33 B24 B34 B25 B35 B41 B51 B61 B42 B52 B62 B43 B53 B63 B44 B54 B64 B45 0 B65 −1 −1 −1 −1 −1 −1 である。 故に、アノードワイヤー A0 がもう 1 つのアノードワイヤー A1 に対して持つ単位長さあた りの漏洩静電容量 Cx は Cstray = − 2πε0 Qa1 Va0 (25) となる。 例として、距離 c が 40 mm の単位セルでは、Va0 =1 V 印加したとき、電荷 Qa1 =−0.0287884 V、 Qa0 =+0.161608 V、Qg1 =Qg2 =−0.035897 V、Qs1 =−0.0588999 V である。かくして、 漏洩静電容量は (25) 式から Cstray =1.60054×10−12 F/m となる。ワイヤーの長さが La =0.5 m ならば、Cx =0.8×10−12 F となる。この漏洩静電容量が隣接するプリアンプに望ましくない クロストーク出力信号を与える原因となる。 電子の位置と移動時間 3 荷電粒子の通過 (飛跡) によって発生した電子は電界を遡ってアノードワイヤーへ向って移 動する。x-y 平面における電子の発生点の x 座標 X と移動時間 T の間の関係を “X-T ”関係と 呼ぶ。これは飛跡を再現する上で最も重要な量の 1 つである。この章では、この “X-T ”関係を 半解析的手法で計算する。磁場のない場合、まず第 1 に電子が x 軸上 xi で点状に創生し、ア ノードワイヤーに真っ直ぐ移動してくる最も単純な場合について X-T 関係(移動時間 T0 (xi )) を計算する。次に、x 軸に垂直にセルを横切る飛跡全体に適用する。第 3 段階で、その結果を x 軸に斜めに入ってくる飛跡に適応して一般化する。簡単のため、ガス中における電子の易動 度は一定で、速度は電子が移動する空間の電界に単純に比例するとする。 3.1 X 軸上の X-T 関係 この節では最も基本的な x 軸上の xi で創生した電子に対する X-T 関係を計算する。電子 の移動速度 −vx (>0) は Ex P − で表される。ここに u (>0) は電子の易動度、Ex は x 方向の電界、P はガス圧(DCBA 実験 では P =1 atm)である。電界は (1) 式から vx = −u− −Ex = ∂ V (x, y, z) ∂x 14 であり、y=0、z=0 を挿入すると、x 軸上の電界 Ex0 が求まり、2.3 節において、カソードワ イヤーから充分離れた一様電界領域の x 軸上では πx π(x − g) cosh 2π π π 2π p p 1+ + Qc Ex = +Qa 1 + + Qs1 + Qg πx π(x − g) p p p p sinh sinh p p cosh (26) を得る。 現実のチェンバーでは、電界 Ex0 は x >5 mm に対して一様である。従って、この領域 x >5 mm では移動時間は電子が発生した場所 xi とともに直線的に増加する。数値例を挙げると xi =6 mm (x 軸上ピックアプワイヤー面から 4 mm の位置) からの移動時間は電子の易動度 15) を u− =0.285 m2 atm/(Vs) として、dx=−vx dt を時間積分し、x=6 mm になるまで時間を求めれ ばよく、T0 (xi )=0.448865 µs となる。この点は標準点として以後の検討項目の中で登場する。 3.2 直角入射の軌跡 まず、代表的な例として、z=p/2 の場合に限って考える。Fig.3(b) において、荷電粒子が一 様電界領域 (xi >5 mm) 中で x 軸に垂直にセルを横切る飛跡 T Rϕ=0 を考察しよう。飛跡に よって創生された各電子は、最初、x 軸に平行な電界に沿ってに移動し始める。ピックアップ ワイヤー面付近を通過した後、電子は独特の電界に沿って移動する。ピックアップワイヤー面 の内側 (xi < 2 mm) での電子の軌跡は次のように求めることができる。まず、単位セルの中 の点 (x,y,z) で、電子の軌跡の x 軸に対する勾配は式 ∂y Ey = ∂x Ex (27) で与えられる。故に、電子の軌跡は微分方程式 (27) 式の「解」として得られ、出発点 (x,y) を 出た電子の移動時間 t は dx <0 であるから ∫ ra ∫ ra dx dx t= = − −vx u Ex (x, y, z)/P x x (28) と求められる。z=p/2 における一例として、荷電粒子が x=6 mm の所で x 軸に直角に通過し たとき、飛跡に沿って発生した電子がアノードワイヤーにドリフトするコース (X-Y) は Fig.7- 1(1st) のようになり、アノードワイヤーに到達する時間は Fig.7-1(2nd) の X-T 曲線に見るよ うにドリフトする電子のコースによって僅かに異なっている。X-T 曲線が僅かの差で太く見え ている。この X-T 曲線を T -Y 曲線で表すと、Fig.7-2(2nd) のようになり、得られた T -Y 関 係のダミー曲線は放物線 t = ay 2 + T0 (xi ) (29) となる。このダミー曲線は a=0.0107216 s/m2 でよく近似できることがわかる (Fig.7-2(3rd))。 ここに、xi は飛跡の x 軸との交点を表し、常数 T0 (xi ) は点 (xi ,0,0) からアノードワイヤーま での移動時間であり、先に求めた T0 (xi ) である。(29) 式は放物線の頂点の周辺では十分に正確 である。これは後にアノードワイヤーの電流信号の波形を決定するのに重要な役割を果たす。 15 3.3 斜め入射の軌跡 次に、Fig.3(b) で y 軸に対して角 ϕ で単位セルに入ってくる飛跡を考える。Fig.7-3(1st) に は電子がピックアップワイヤーとカソードワイヤーの間の一様電界領域で発生した飛跡 T Rϕ̸=0 (xi0 =6 mm、ϕ=π/36 rad. を例に) を描いている。この場合、T Rϕ=0 と T Rϕ̸=0 の間で x 方 向における飛跡の長さに違いがあり、y のところで差は ytanϕ である。かくして、移動時間 t(ϕ) は、 ( ) tan ϕ t(ϕ) = ay 2 + y + T0 (xi ) (30) −vx0 { ( )}2 ( )2 1 tan(ϕ) 1 tan ϕ t(ϕ) = a y + − + T0 (xi ) 2a −vx0 4a −vx0 となる。ここに、−vx0 (>0) は一様電界中の電子の速度である。(30) 式から、最小の移動時間 Tmin は 1 Tmin (ϕ) = − 4a ( tan ϕ −vx0 )2 + T0 (xi ) (31) である。具体的な数値を入れると、a=0.0107216 s/m2 、tan(π/36)=0.0874887、u− =0.285 m2 atm/(Vs)、一様電界 Ex0 =21052.3 (V/m)、故に、−vx0 =u− Ex0 =6×103 m/s であり、差 Tmin (ϕ)−T0 (xi )=4.95772×10−9 s となる。また、ymin (ϕ) は ( ) 1 tan ϕ ymin (ϕ) = − = −0.68 × 10−3 m < 0 2a −vx0 (32) の場所に現われる。即ち、X-T 曲線(放物線)の頂点は y=−0.68 mm 負の方向に移動し、所 要時間は T0 (xi ) より −4.95772 ns 短くなっている。従って厳密に言えば、最短時間でドリフ トしてきた電子の軌跡はアノードワイヤーに対応する位置ではなく、少しずれた所に早く来る ことになる (Fig.7-3(2nd))。 一般に、それぞれ入射角 ϕi 、ϕj を持つ飛跡の放物線の頂点に関する座標が (Ti ,yi ) と (Tj ,yj ) であれば Ti = − 1 4a ( tan ϕi −vx0 )2 1 yi = − 2a である。故に、 Tj = − + T0 (xi ) ( tan ϕi −vx0 ) 1 4a 1 yj = − 2a ( ( tan ϕj −vx0 tan ϕj −vx0 )2 + T0 (xi ) ) ( )2 ( )2 1 tan ϕj 1 tan ϕi Tj − Ti = − + 4a −vx0 4a −vx0 ( ) ( ) ( )2 1 tan ϕj 1 tan ϕi 1 tan ϕi − Tj = Ti + 2 −vx0 2a −vx0 4a −vx0 ( ) ( )2 1 tan ϕi 1 tan ϕj Tj = Ti − yi − 2 −vx0 4a −vx0 また、 yj = yi + 1 2a ( tan ϕi tan ϕj − −vx0 −vx0 16 ) となる。即ち 1 1 − 2 0 0 ( tan ϕi −vx0 1 0 ) ( )2 Ti Tj ( ) yi = yj 1 tan ϕi tan ϕj − 2a −vx0 −vx0 1 1 1 1 − 4a tan ϕj −vx0 (33) なる興味深い関係がある。 一般に、z 軸の方向に一様磁場 B を掛けた場合、電子の軌跡は些か複雑になり、一様電界の 領域で電子は x 軸と θ、なる角を持って移動する。θ=u− B/P (P はガス圧) で表されローレ ンツ (Lorentz) 角と呼ばれている。しかし、 ( 2 DCBA ) 実験では P =1 atm で、磁場の強度が最大 m atm B=0.24 T 程度であるため、u− =0.285 であるから、θ=0.285×0.24/1=0.0684 rad. Vs =3.92 deg. となって、それ程大きな値ではない。 等価 2 極管 (Equivalent Diode) 4 4.1 等価電極間距離 チェンバーの単位セル内のある点で発生した電子はアノードワイヤーの方向へ移動する。移 動してきた電子はアノードワイヤーのほぼ表面でガス増殖過程を経て多くの電子-イオン対を つくる。ガス増殖過程は実質的にアノードワイヤーの表面電界 Ea によって決まる。このとき 発生するイオンの電荷を q>0 とする。イオンはアノードワイヤーを離れて遠のいて行くが、こ のイオンの流が単位セルのアノード電流信号になる。見かけ上、あたかもアノードワイヤーが イオンを放射しているように見える。イオンのある部分はピックアップワイヤーに向かって移 動し、ある部分はソース面 S1、そして残りはカソードワイヤーに向かう。ソース面 S2 の電位 は Vs2 =0 であるが、ソース面 S2 上の電荷は正であり、電気力線はローカルに S2 からカソー ドワイヤーに向かいアノードワイヤーから来る電気力線はない。 複雑なワイヤー配置をもつチェンバーにおいては、アノードワイヤーを離れて行くイオン電 流 ia (<0) を示す式も当然ながら複雑な式になるが、最も重要な t=0 のときに限って論ずる限 り、より単純化して取り扱うことができる。今、アノードワイヤーの電位が Va 、表面の電界 が Ea のとき、ガス増殖過程で正の電荷 q が発生したものとする。今、相手電極の電位、例え ばピックアップワイヤーの電位が Vg であるとする。この電位差をアノードワイヤー表面の電 界で割ったもの、即ち (Va -Vg )/Ea は長さのディメンジョンを持ち、究極的には Fig.8(Right) に示すように、架空の平行平板電極を持つチェンバーの電極間距離を意味する。ここで、この 仮想の電極間距離を”等価電極間距離 (equivalent distance)”de と呼ぶことにする。即ち de = Va − Vg Ea 17 となり、これは正の電荷がアノードワイヤーを離れる t=0 の瞬間のローカルな状況をあら表わ している。 従って、t=0 のとき、アノードワイヤーを離れピックアップワイヤーが吸収する電流 ig (>0) は de を dg で置き換えて ( ) ( ) ( ) ( ) ) ( Qg 1 Qg 1 Qg + 1 + Ea + Ea = −q u = −q u ig = −qv Va − Vg Qa d g Qa P dg Qa P Ea (34) で表される。ここに v + =u+ Ea /P (P はガス圧=1 atm) はイオンの速度、u+ はイオンの易動 Qg 度、Ea はアノードワイヤー表面上の電界である。また、 は単位セル内においてアノード Qa ワイヤーから出て行く電気力線のうちピックアップワイヤーに向かう電気力線の割合を表して いる。同様に、ソース面 S1 に向かう電流 is1 (> 0)) は ( ( ) ) 1 Qs1 + Ea is1 = −q u Va − Vs1 Qa P Ea (35) のように与えられ、カソードワイヤーに向かう電流 ic (>0) は ( ) ( ) 1 Qc + Ea ic = −q u . Va − Vc Qa P Ea (36) である。 故に、アノードワイヤーから出て行くアノード電流 ia (<0) は次式で表すことができる。 ia = −(ig + is1 + ic ) ){ ( ) ( ) ( )} ( Ea Qg Ea Qs1 Ea Qc Ea + + . = q u+ P Va − Vg Qa Va − Vs1 Qa Va − Vc Qa (37) このチェンバーで具体的な値を推定すると、e=1.6×10−19 C、ガス増殖率 M =105 、イオンの 易動度を u+ =10.2×10−4 m2 /(Vs) と仮定すると、q=e×M =1.6×10−14 c であるから、Table 1 の値を代入すると ig = 3.87755 × 10−6 A is1 = 2.65864 × 10−6 A ic = 1.62402 × 10−6 A であり、 ia = −8.16021 × 10−6 A ig となる。従って、アノードワイヤーの信号電流の − =0.475178 がピックアップワイヤーに向 ia かうことになる。 18 4.2 等価電位、等価半径 複雑なチェンバーにおいても、最も重要な t=0 のときのアノード電流について論じる限り、 チェンバーを Fig.8(Left) に示すような元のチェンバーと同じ特性(アノードワイヤーの電位 Va 、アノードワイヤーの表面電界 Ea 、アノード電流 ia )持つ単純な同軸円筒型チェンバー、 即ち、“等価 2 極管 (equivalent diode)” に置き換えて議論することができる。この節において、 等価 2 極管の “等価電圧 (equivalent voltage)” Ved と “等価半径 (equivalent radius)”Red と云 う概念を導入する。 距離 de だけ離れた電位 Va 、Ved (Va > Ved )を持つ 1 対の平行平板(Fig.8(Right))からな るチェンバーを考えよう。正の電荷 q が正電極の上に現れたとき、その電荷は一定速度 v + で 一様電界 Ea の中を移動する。この場合、電流 ia は単純に電荷 q を移動時間 de /v + で割った ものである。即ち、初期電流 ia (t=0) は ( ) q 1 + Ea ia = − = −q u = −8.16021 × 10−6 A + (de /v ) P (Va − Ved )/Ea となる。ここに、 v + = u+ Ea , P de = (38) Va − Ved Ea である。Table 1 の値を代入すると de =6.25702×10−5 m. それ故に、上記 (38) 式のチェンバーを電磁気学の教科書で見かけるポピュラーな同軸円筒型 チェンバーでの形で表現すると、等価 2 極管電位 Ved 、等価 2 極管半径 Red を持つチェンバー となり、Ved と Red の関係は Ea = Va − Ved kVa = , Red Red ra ln ra ln ra ra Va 1 = Va − Ved k (39) となる。即ち、この場合 Red de = ra ln , Red = ra exp ra ( kVa ra Ea ) (40) である。k は等価2極管電位係数である。(37) 式、(38) 式を等しいとおいて、両辺に Va /Ea をかけると、 Va − Va − Vg ( Qg Qa ) Va − Va − Vs1 ( Qs1 Qa ) Va − Va − Vc ( Qc Qa ) = Va 1 = Va − Ved k のように結び付けられる。 元のチェンバーに対応する等価2極管の電位 Ved と半径 Red はそれぞれ Ved = 182.434 V, Red = 5.21662 × 10−3 m, k = 0.91475 である (Table 2)。 19 (41) また、等価 2 極管の電気容量(“等価静電容量 ”Ce ) を同様な方法で定義することができる。 同軸円筒チェンバーに用いる公式を応用して長さ L のアノードワイヤーに対して Ce = Qa Qa 2πε0 L = 2πε0 L = 2πε0 L = 4.44275 × 10−12 F/(0.5m) ln(Red /ra ) Va − Ved kVa (42) である。 等価 2 極管で零電位 (グランド) の位置を知ることはそれなりに興味のあるところである。 簡単な計算によって、その半径は ( R0 = ra Red ra ) k1 = 9.34619 × 10−3 m である。この半径の位置に接地した円筒電極を置くことで、もう 1 つの同軸チェンバーを導き 出せる。そのチェンバーは電気容量 C0 = 2πε0 Qa L = 4.06401 × 10−12 F/(0.5m) Va と初期電流 ( ) Ea Ea ia0 (t = 0) = −q u+ = −7.46456 × 10−6 A P Va を持っている。現実の値は R0 =9.34 mm と C0 ∼ =4.06 pF である。また、このチェンバーの初 期電流は等価 2 極管より k 倍の違いがあることは注意に値する。その理由はより大きい半径 (R0 > Red ) に由来する。 5 電子の移動時間分布 ここで、荷電粒子が発生させた電子がアノードワイヤーに到着する時間分布を計算してお く。この量はアノードワイヤー上に現れる現実の電流波形を計算するのに有用である。簡単の ため、イオン化密度 ρ12),13) (飛跡が単位長さあたりに創生する電子の数)は飛跡に沿って一 定であると仮定し、創生した全ての電子は失われることなくアノードワイヤーまで移動すると 仮定する。ここで、移動時間 t は一般に t = a(y − ymin )2 + Tmin (43) の式で表せることを思い起しておく。ここに、ymin と Tmin は飛跡の入射角 ϕ と交点 xi に依 存する。y 軸に対して角度 ϕ で入射してきた飛跡に沿ってできた電子のイオン化密度が ρ/m で あるとき、y と y+dy の間にある電子数 dn は dn = ρ dy cos ϕ である。従って、両辺を dt で割って (43) 式を代入すると、アノードワイヤーに到着する単位 時間あたりの電子の数 (dn/dt) は dn ρ dy 1 2ρ √ = = √ dt cos ϕ dt 2 a(cos ϕ) t − Tmin 20 (44) で表すことができる。右辺の分子にある因子 2 は (44) 式が 2 つの値をとる性質(y=ymin に 関して対象)からきている。 dn/dt 分布の一例を Fig.9(a) に示す。図は磁場のない場合、x=xi (=6 mm) で垂直に x と 交差(即ち cos ϕ=1, Tmin =T0 (xi )=0.448865 µs)する飛跡に対するものである。 5.1 単位セルからの電流信号 今、単位セルを通過する 1 本の飛跡が生み出したアノード電流を考える。即ち、飛跡に沿っ てガスをイオン化し、そこでできた電子が次々と時間的に続いてアノードワイヤーの方へ移動 し、アノードワイヤー表面でガス増殖過程を経て正のイオンを発生する描像を考える。 t=tj で到着した電子 dn(tj ) による観測時点 t でのアノード電流 di(t) は Appendix 8.4 の ia (t) の 式を参照して di(t) = − 1 Qa <q> dn(tj ). 2 kVa t0 + (t − tj ) である。ここに t0 = (45) ra2 P , 2u+ Qa < q > は単一の電子が創生した平均的電荷である。数値的に < q > は eM =1.60210×10−19 ×105 =1.60210×10−14 C 程度と推定している。dn(tj ) を (44) 式で置き換えて、最小移動時間 Tmin から観測時間 t まで積分し ∫ t ∫ t <q> ρ 1 1 1 √ √ dtj i(t) = di(t) = − Qa 2 kV t + (t − t ) a cos ϕ t − Tmin a j Tmin 0 Tmin j = −Qa <q> ρ 1 √ √ kVa a cos ϕ t0 + (t − Tmin ) {√ × ln t − Tmin 1+ + t0 √ t − Tmin t0 (46) } を得る。 電流が最大になる時間 Tmax は di(t)/dt=0 を要求して、 {√ F F = ln t − Tmin + 1+ t0 √ t − Tmin t0 √ } − t − Tmin 1+ t0 √ =0 t − Tmin t0 とおくと、実際の Tmax の値は数値的に Tmax =Tmin +0.36 ns で F F =5.48244×10−3 ∼0 とな る。このことは最大値は最も早い電子の到達後 0.36 ns のところで起こる。imax =1.01988 µA。 Fig.9(b) の曲線は前述のイオン化密度 ρ を持つ x 軸に直角な飛跡によるアノード電流 (46) 式 である。 21 (46) 式を理解するため、単位セルを通過した飛跡が創生した電子が短い時間内に一瞬にすべ てアノードワイヤーに到着したと云う極端な場合を考える。t − Tmin =∆t とおくと { {√ √ } √ } √ ∆t ∆t ∆t ∆t + ∼ ln 1 + ∼ ln 1+ t0 t0 t0 t0 であることを考慮して、(46) 式は <q> 1 ρ √ √ i(0) = −Qa kVa a cos ϕ t0 √ ∆t t0 となる。短い時間とは云え、X-T 関係は ∆t=ay 2 =a(p/2)2 であるから、 ( ) 1 1 1 ρp i(0) = − Qa <q> 2 kVa t0 cos ϕ となる。さらに、y 軸となす角 ϕ で入射してくろ飛跡が創生する電子の数は ρp/cos ϕ であるか ら、q=< q >ρp/cos ϕ とおくと Appendix 8.4 の ia (t) の式 ia (t) = − 1 Qa q 1 1 1 = − Qa q 2 Va − Ved t + t0 2 kVa t + t0 における t=0 の場合に一致する。 6 結論 各ワイヤーの電位、ワイヤー表面の電界を電磁気学の基本に立ち返って計算し、電子管の概 念とその設計手法を応用して、ガス中での電子、イオンの振る舞いを推察した。その結果、ワ イヤーチェンバーの設計において、ワイヤーチェンバーの主要な電気的特性であるアノード電 流、ピックアップ電流、信号電流の電流波形等、主要な特性に関して、計算手法はほぼ確立し たと考えられる。 7 謝辞 2重ベーター崩壊実験の遂行にあたっては鈴木厚人 KEK 機構長から常に力強い励ましを 戴き感謝致します。この実験の実験装置の中心をなすワイヤーチェンバーの製作に関しては、 KEK 山田善一教授の豊富な経験に基ずいた多くのサゼッションを得た。また、ワイヤーの位 置を精度よく設定する必要があり、チェンバー筺体の製作において、KEK 機械工学センター の小林芳治氏はじめ、精密加工に携わった皆様に協力して戴いた。さらに、(株)林栄精器に は数多い細いワイヤーを一定の張力で精度よく張る作業において大熊弘男氏はじめ、工場の多 くの皆様のお世話になった。ここに感謝致します。 22 8 Appendix 8.1 Appendix 8.1 電極の電位と行列要素 まず、行列要素を求めるに先立って、ピックアップワイヤーの必要性を説明する。マルチワ イヤーチェンバーで xyz の 3 次元データを得るには電気抵抗性のあるアノードワイヤーを用 い、ワイヤーの両端から電流信号をとり、原理的にはその比からアノードワイヤー上における 信号発生点を知ることができる。所謂「電荷分割法(charge division)」である。こうすれば、 アノードワイヤーのみで 3 次元チェンバーができ、ピックアップワイヤーは必要なく、簡潔な チェンバーができる。しかし、現実には求められる位置精度が悪く、DCBA 実験には適さない。 その主原因は高い電気抵抗を持つ細く機械的に強いワイヤーが存在しない。また、ワイヤー両 端の固定端で少なからぬ接合抵抗を持つ。しかもこの接合抵抗はワイヤーごとに異なる。さら にデーター取得前に行うキャリブレーションでは毎回異なった値を示す。左右の抵抗比で場所 を決める charge division ではこの不安定性が致命的な大きな誤差の原因になる。以上の理由 から DCBA ではピックアップワイヤーを持ったマルチワイヤーチェンバーを開発した。従っ て、DCBA のチェンバーでは z 方向のキャリブレーションは必要としない。 さて、まず、Fig.1(a) において、アノードワイヤー面(y 軸)、カソードワイヤー面 C とア ノード側ソース面(ソースプレート)S1 だけの系を想定し、アノードワイヤーに電位 Va を与 え、ソース面の電位を Vs とする。そのとき、アノードワイヤーの単位長さあたりの電荷を qa 、 カソードワイヤーの単位長さあたりの電荷を qc 、ソース面上で幅 p=3×pa =3 mm、z 方向に単 位長さで形成する矩形面上の電荷を qsa とすると、Va と Vs による点 P (x,y) の電位 V (x,y) は { ( )} qa 2πx 2πy qa V (x, y) = − ln 2 cosh − cos − x 4πε0 p p 2ε0 p − qsa (x + s) ε0 p −ϕa 同様にカソードワイヤーについても [ { }] qc 2π(x − g − c) 2πy qc V (x, y) = − ln 2 cosh − cos − (x − g − c) 4πε0 p p 2ε0 p − qsc (x + s) ε0 p −ϕc と云えるので、重ね合わせの原理から 23 V (x, y) = − )} { ( qa 2πx 2πy qa ln 2 cosh − cos − x 4πε0 p p 2ε0 p [ { }] qc 2π(x − g − c) 2πy qc ln 2 cosh − − cos − (x − g − c) 4πε0 p p 2ε0 p − qsa (x + s) ε0 p −ϕa − ϕc となる。ここにソース面上の電荷は一様に分布しているものとする。 次に、Fig.1(b) において、ピックアップワイヤー面 G とアノード側ソース面 S1 だけの系を 考え、ピックアップワイヤーに電位 Vg を与え、ソース面の電位を Vs とする。ピックアップワ イヤーの単位長さあたりの電荷を qg 、ソース面上で幅 p=3 mm、y 方向に単位長さで形成する 矩形面上の電荷を qsg とすると、Vg 、Vs による点 P (x,z) の電位 V (x,z) は [ { }] qg 2π(x − g) 2πz qg V (x, z) = − ln 2 cosh − cos − (x − g) 4πε0 p p 2ε0 p − qsg (x + s) ε0 p −ϕg となる。 幅 p=3 mm、z 方向に単位長さあたりの面積と、幅 p=3 mm、y 方向に単位長さあたりの面 積は同じであり、ソース面上では電荷は一様に分布しているから、当該面積上の電荷はいずれ も qsa +qsg =qs1 である。そこで、改めて −ϕa −ϕg −ϕc =−ϕ とおくと、重ね合わせの原理によ り、xyz 空間における点 P (x,y,z) の電位 V (x,y,z) は (1) 式となる。ここに ϕ は任意電位であ る。 (1) 式からこのチェンバーの「特性方程式」のマトリックス要素 Aij を誘導することができ る。即ち、アノードワイヤー面もピックアップワイヤー面もカソードワイヤー面も無限に広 がっているとし、ra 、rg 、rc は s1 、g 、c に比べて十分小さいとすると、x=ra ≈ 0、y=0、z=0 のとき、アノードワイヤーの表面の電位 V =Va は (1) 式から 24 ( Va = − ( − ( − ( − qa 2πε0 qg 2πε0 qc 2πε0 qs1 2πε0 ) ) ( πra ln 2 sinh p ) ( ) ( ) πg qg π ln 2 sinh − (−g) p 2πε0 p ) { } ( ) π(g + c) qg π (−g − c) ln 2 sinh − p 2πε0 p ) 2π s1 p −ϕ. 従って、行列要素 A11 、A12 、A13 、A14 は ( ) πra A11 = − ln 2 sinh p ( ) πg π A12 = − ln 2 sinh − (−g) p p A13 { } π(g + c) π = − ln 2 sinh − (−g − c) p p A14 = − 2π s1 p となる。 ここで少し注目に値するのは、上式は y-z 平面上に射影したアノードワイヤーとピックアッ プワイヤーの電荷を交点で定義し、各ワイヤー上の電荷が、ワイヤーの長手方向に一様であ ると仮定して Qa 、Qg 、Qc 、Qs1 の計算に供しているが、アノードワイヤー面とグリッドワイ ヤー面の距離 g が十分大きいときは近似的に正しい。 しかし、このチェンバーのようにグリッドワイヤーのピッチ p=3 mm に比べて g が g=2 mm と小さいときはアノードワイヤーの表面電荷は長手方向に一様でなく、交点と交点の中間では p 低くなっている。そこで、電荷を x=ra ≈ 0、y=0、z=0 ではなく、z が z= の位置にて定義 2 することもでき、その場合の行列要素は ( ) πg π A12 = − ln 2 cosh − (−g) p p となる。ここではアノードワイヤー表面の電荷は長手方向に一様に低い電荷という扱いにな る。数値的には A12 の中の項が sinh から cosh に変わることで、 25 dEa 3.12859 × 107 − 3.12091 × 107 0.00768 = = = 0.0025 7 Ea 3.12859 × 10 3.12859 の差異が生じることを意味する。アノードワイヤー上に p=3 mm の周期で表面電界の濃淡と して現れている。 以上はアノードワイヤー面、カソードワイヤー面とも無限に広く張っているとして考察して きたが、現実には有限であり、特にアノードワイヤー面の端部のワイヤー 2 本は表面の電界が 過剰に高くならないよう疑似アノードワイヤーと称して、太い線径 (ra =40 µm) のアノードワ イヤーを両端に各2本ずつ追加配備している。 次に、x=g+rg ≈ g 、y=0、z=0 の位置にあるピックアップワイヤーの表面では電位は V =Vg であるから、同様の手法で A21 、A22 、A23 、A24 は ( ) ( ) ( ) qa πg qa π Vg = − ln 2 sinh − g 2πε0 p 2πε0 p ( − ( − ( − qg 2πε0 qc 2πε0 qs1 2πε0 ) ( ) πrg ln 2 sinh p ) ( ) ( ) πc qg π ln 2 sinh − (−c) p 2πε0 p ) 2π (s1 + g) p −ϕ. A21 A22 ) ( π πg − g = − ln 2 sinh p p ( ) πrg = − ln 2 sinh p ( ) πc π A23 = − ln 2 sinh − (−c) p p A24 = − 2π (s1 + g). p カソードワイヤーの位置、x=g+c+rc 、y=0、z=0 では電位 V =Vc で 26 ( Vc = − ( − ( − ( − qa 2πε0 qg 2πε0 qc 2πε0 qs1 2πε0 ) ) ) ) } ( { ) π(g + c) qa π ln 2 sinh − (g + c) p 2πε0 p ( πc ln 2 sinh p ( ) πrc ln 2 sinh p ( − qg 2πε0 ) π c p ) 2π (s1 + g + c) p −ϕ. A31 A32 { } π(g + c) π = − ln 2 sinh − (g + c) p p ( ) πc π = − ln 2 sinh − c p p ( ) πrc A33 = − ln 2 sinh p A34 = − 2π (s1 + g + c). p また、ソースプレート S1 の表面 x=−s1 (s1 >0)、y=0、z=0 では、電位は V =Vs であるか ら、A31 、A32 、A33 、A34 は ( ) ( ) ( ) qa πs1 qa π Vs1 = − ln 2 sinh − (−s1 ) 2πε0 p 2πε0 p ( − ( − ( − qg 2πε0 qc 2πε0 qs1 2πε0 ) { } ( ) π(s1 + g) qg π ln 2 sinh − (−s1 − g) p 2πε0 p ) { } ( ) π(s1 + g + c) qc π ln 2 sinh − (−s1 − g − c) p 2πε0 p ) ×0 −ϕ. 27 ( ) πs1 π A41 = − ln 2 sinh − (−s1 ) p p { A42 π(s1 + g) = − ln 2 sinh p } − { A43 π(s1 + g + c) = − ln 2 sinh p π (−s1 − g) p } − π (−s1 − g − c) p A44 = −0. 最後に、ソースプレート S2 の表面 x=g+c+s2 、y=0、z=0 では、電位は V =Vs2 であるから ( ) { } ( ) qa π(g + c + s2 ) qa π (g + c + s2 ) Vs2 = − ln 2 sinh − 2πε0 p 2πε0 p ( − ( − ( − qg 2πε0 qc 2πε0 qs1 2πε0 ) { } ( ) π(c + s2 ) qg π ln 2 sinh − (c + s2 ) p 2πε0 p ) ( ) ( ) πs2 qc π ln 2 sinh − s2 p 2πε0 p ) 2π (s1 + g + c + s2 ) p −ϕ. { } π(g + c + s2 ) π A51 = − ln 2 sinh − (g + c + s2 ) p p A52 } { π π(c + s2 ) − (c + s2 ) = − ln 2 sinh p p ( ) πs2 π A53 = − ln 2 sinh − s2 p p A54 = − 2π (s1 + g + c + s2 ) p である。 8.2 Appendix 8.2 増幅率 この”µ”値はピックアップワイヤーの電位の変化がアノードワイヤー表面に与える影響はカ ソードワイヤーのそれに比して 44.7901 倍敏捷であることを意味する。電子管的に云えば、か 28 なり高増幅率を持つ三極管であると云える。我々はチェンバーの中に使われている絶縁材で起 こる高電界による放電を避けるために、チェンバーを設計値より低いカソード電圧で動作せざ るを得ないことがある。増幅率の概念はこのような場合に非常に有効である。即ち、同じ信号 の大きさを確保するためガス増殖率を失うことなくチェンバーを稼働させたい場合、(20) 式に 従って Vc 、Vg を変更することにより達成することができる。 例として、設計値(アノードワイヤー電位 Va =2140 V、ピッカップワイヤー電位 Vg =−380 V、カソードワイヤー電位 Vc =−1000 V、Qa =312.859 V)から Vg =−385 V に変更する (∆ Vg =−5 V) 場合を考えよう。ここで、Qa を変えないように、(20) 式を用いて新しいカソード ワイヤーの電圧を計算すると、Vc =−776.049 V(∆ Vc =223.951 V) で、Qa は Qa =312.858 V で変わず温存している。この場合、一様電界領域の電界の値 Ex0 は 21052.3 V/m から 16754.1 V/m となり、電子の移動速度は少し遅くなっていることを付け加えておく。 DCBA-T3 チェンバーにおいては g∼p であるからよい近似ではないが、簡単のため、g 、c、 s1、s2 が p に比べて十分大きいとして計算してみると、各マトリックス要素は簡単になり、 A12 = 0 A13 = 0 A23 = 0 A41 = 0 A42 = 0 A43 = 0 A44 = 0 であり、さらに A 12 A32 ∆g = A42 A52 A13 A33 A14 A34 A43 A53 0 A54 0 A32 = −1 0 −1 A52 −1 −1 0 A33 A14 A34 0 A53 0 A54 0 =-(-1) A32 −1 A52 −1 −1 −1 0 A33 A14 A34 A53 A54 0 0 A53 A14 A24 A54 = A14 (A32 A53 − A33 A52 ) ∆c = A12 A13 A14 A22 A42 A23 A43 A24 0 A52 A53 A54 −1 0 −1 A22 = −1 0 −1 A52 0 A14 0 0 A24 0 A53 A54 −1 0 −1 =-(-1) A22 −1 A52 −1 = A14 A22 A53 となるから、µ は µ= A32 A53 − A33 A52 ∆g = = 44.7901 ∆c A22 A53 となる(参考:双三極管 12AU7 µ=17、双三極管 12AT7 µ=60、双三極管 12AX7、µ=100)。 従って、この µ を使えば、新しい Vc は ∆Vc = −µ × ∆Vg = −44.7901 × (−5) = 223.951 V 29 故に、 Vc = −1000 + ∆Vc = −1000 + 223.951 = −776.049 V となって近似的ではあるが、簡易に求められる。 8.3 Appendix 8.3 漏洩静電容量 (1) x=ra 、y=0、z=0 Va0 { } πra = −Qa0 ln 2 sinh (2p) } { πra −Qa1 ln 2 cosh (2p) −Qg1 { } π πg (−g) − Qg1 ln 2 sinh (2p) (2p) −Qg2 { } π πg (−g) − Qg2 ln 2 cosh (2p) (2p) −Qs1 2π s1 − ϕ. (2p) (2) x=ra 、y=p、z=0 { } πra Va1 = −Qa0 ln 2 cosh (2p) { } πra −Qa0 ln 2 sinh (2p) { } π πg −Qg1 (−g) − Qg1 ln 2 sinh (2p) (2p) { } π πg −Qg2 (−g) − Qg2 ln 2 cosh (2p) (2p) −Qs1 2π s1 − ϕ. (2p) 30 (3) x=g+rg 、y=0、z=0 Vg1 { } π πg = −Qa0 g − Qa0 ln 2 sinh (2p) (2p) −Qa1 { } πg π g − Qa1 ln 2 cosh (2p) (2p) { } πrg −Qg1 ln 2 sinh (2p) { πrg −Qg2 ln 2 cosh (2p) −Qs1 } 2π (s1 + g) − ϕ. (2p) (4) x=g+rg 、y=0、z=p Vg2 = −Qa0 { } π πg g − Qa0 ln 2 sinh (2p) (2p) −Qa1 { } π πg g − Qa1 ln 2 cosh (2p) (2p) { πrg −Qg1 ln 2 cosh (2p) } { } πrg −Qg2 ln 2 sinh (2p) −Qs1 2π (s1 + g) − ϕ. (2p) (5) x=-s1 、y=0、z=0 Vs1 = { } π πs1 −Qa0 (−s1 ) − Qa0 ln 2 sinh (2p) (2p) { } π πs1 −Qa1 (−s1 ) − Qa1 ln 2 cosh (2p) (2p) −Qg1 { } π(s1 + g) π (−s1 − g) − Qg1 ln 2 sinh (2p) (2p) { } π π(s1 + g) −Qg2 (−s1 − g) − Qg2 ln 2 cosh (2p) (2p) −Qs1 × 0 − ϕ. 31 (6) x=g+c、y=0、z=0 { } π π(g + c) Vc = −Qa0 (g + c) − Qa0 ln 2 sinh (2p) (2p) −Qa1 { } π π(g + c) (g + c) − Qa1 ln 2 cosh (2p) (2p) −Qg1 { } πc π c − Qg1 ln 2 sinh (2p) (2p) { } π πc −Qg2 c − Qg2 ln 2 cosh (2p) (2p) −Qs1 8.4 2π (s1 + g + c) − ϕ. (2p) Appendix 8.4 シングル クラスターによるアノード電流と電位 Fig.8(Right) は半径 ra と電位 Va のアノードワイヤー、そして半径 Red と電位 Ved の外側電 極を持つ同軸円筒チェンバーを示す。ガス増殖過程でアノードワイヤーの表面で発生した正の 電荷 q (換算電荷ではない)によるアノード電流を考える。 電荷が中心軸から r のところを速度 v + で移動するとき、エネルギー保存則はガス圧を P と して ia (Va − Ved ) = −q(E/P )v + を与える。ここに ia (<0) は外に出て行くアノード電流であり、E は r での電界である。電界 は E=Qa /r であるから、イオンの易動度を u+ として ia = −qu+ E E qu+ Qa Qa /r 1 Qa Qa + =− =− 2u q P Va − Ved P r Va − Ved 2 Va − Ved r2 P になる。qa 、Qa =qa /(2πε0 ) は単位長さあたりのアノードワイヤーの電荷と換算電荷である。 移動時間 t と移動場所 r は微分形で dt = dr dr 1 d(r2 ) dr = = = v+ u+ E/P u+ (Qa /r)/P 2 u+ Qa /P によって関係ずけることができる。移動度 u+ は一定であると仮定して、 t + t0 = r2 P 2u+ Qa を得る。ここに積分常数 t0 は t0 = ra2 P 2u+ Qa 32 で、t=0 で r=ra であることを要求することで決定する。t+t0 の式を ia の式に挿入して、最 終的に ia (t) = − 1 Qa q 2 Va − Ved t + t0 を得る。 アノード電流は t=0 でその最大値をもち、時間常数 t0 で急激に減衰することを書き留めて おく。t=0 での初期電流は ( ) 1 Qa q 1 + Ea ia (t = 0) = − = −q u 2 Va − Ved t0 P (Va − Ved )/Ea によって表すことができる。ここに Ea はアノードワイヤーの表面上の電界である。 アノードワイヤーが直流の高電位にあるが、交流的成分のみを考えるとき、アノードワイ ヤーに発生する電圧信号を考えるのは容易である。電荷 q を持つ単一のクラスターによるア ノード電流 ia (t) の式と静電容量 Ce の (42) 式から、アノードワイヤーの上に現れた電位 v(t) は 1 v(t) = Ce ∫ t 0 1 Va − Ved 1 ia (t)dt = − 2πε0 Qa L ∫ 0 t ( ) t 1 q ln 1 + ia (t)dt = − 4πε0 L t0 で表すことができる 12),13) 。Fig.10 に ia (t)、v(t) のグラフを示す。ia (t) は単独のイオンクラ スターによるイオン電流で、(46) 式の場合ように後続のイオンがないので、t=0 に鋭いピーク が見える。 33 参考文献 [1] K.R.Spangenberg: Vacuum Tubes MacGraw-Hill, New York, (1948). 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[12] F.Sauli: PRINCIPLES OF OPERATION OF MULTIWIRE PROPORTIONAL AND DRIFT CHAMBERS CERN. 77-09 3 May p.19 (1977). p.2 Table 1, ρ=7.8×102 i.p/m p.19 Table 2, u+ =10.2×10−4 m2 atm/(Vs) ( )2 1 CV0 La p.56 Fig.61、p.57 T = 4πε0 p [13] T.Ferbel: Experimental Techniques in High Energy Physics, Addison -Wesley, Menlo Park, California, (1987). p.81, Table 1, ρ=7.8×102 i.p/m p.101 Table 2, u+ =10.2×10−4 m2 atm/(Vs) ( )2 1 CV0 La p.147, Fig.61、T = 4πε0 p [14] 放射線測定装置 原子力工学講座2、共立出版 p.47, 東京、(1957) He ガス中の He イオンの易動度 u+ =5.1 cm2 atm/(Vsec)=5.1×10−4 m2 atm/(Vs). [15] 電気学会技術報告(II 部)第 152 号 p11, 13 図、電気学会、東京 (1983). ピックアップワイヤーとカソードワイヤーの間の一様電界 Ex0 =210.523 V/cm、ガス圧 P =1 atm、では E/P =210.523/760=0.277 V/(cm Torr) である。この E/P に対応する 電子の速度は図より v=6×105 cm/s である。故に、易動度 u− は 34 ( cm ) ) ( 2 ) ( 2 6 × 105 v m atm cm atm − 5 s ( ) = 0.0285 × 10 u = = = 0.285 . E V Vs Vs 210.523 P cm atm 35 x x S2 S2 s2=4 mm s2=4 mm C C c=40 mm c=40 mm G y G g=2 mm g=2 mm z s1=4 mm s1=4 mm S1 S1 p=3 mm p=3 mm Fig.1 (a) Fig.1 (b) Fig.1: Wire configulation on (a) x-y and (b) x-z planes. Charges on the wires qa /(2πε0 ), qg /(2πε0 ), and charges on the electrodes qs1 /(2πε0 ), qs2 /(2πε0 ), qc /(2πε0 ) are expressed by Qa , Qg , Qs1 , Qs2 and Qc respectively. 36 2000 2140 (V) (V) 1000 z=0 Ex=210.5 (V/cm) 0 -380(V) -1000 0 2(mm) 42(mm) Fig.2 (a) 2000 2140 (V) (V) 1000 z= 1 2p Ex=210.5 (V/cm) 0 -1000 0 42(mm) Fig.2 (b) Fig.2: Potential distribution between an anode wire and a coresponding cathode wire in a unit cell. (a) The distribution at z=0. (b) The distribution at z=p/2. 37 grid wire (z=0) source plate anode wire s1=4mm 0 g=2mm Fig.3 (a) s1=4 mm 0 grid wire (z= 1 p) 2 cathode wire source plate anode wire g=2 mm c=40 mm Fig.3 (b) Fig.3: (a) Electric field going out from anode wires to grid wires and the source plate on x-y plane at z=0. (b) Electric field going through between two pickup wires on x-y plane at z=p/2. 38 p=3 mm grid wire (y= 0) cathode wire source plate anode wire g=2 mm s1=4 mm g+c=42 mm Fig.4: Electric field on x-z plane. qa /2πε0 ), qg /(2πε0 ), qs1 /(2πε0 ), qs2 /(2πε0 ) and qc /(2πε0 ) are expressed by Qa , Qg , Qs1 , Qs2 and Qc respectively. 39 cathode wire plane f=23 mm f L Vx Vf qf P V(x.y) y˝ q wf grounded wall q wf Vf qf grounded wall p=3 mm field shaping wire x˝ r f=40 µm anode wire plane Fig.5 (a) 0V -310.289V (x=21 mm) -326.259V field shaping wire f=23 mm 300V y˝=0 y˝ Fig.5 (b) Fig.5: (a) Field shaping wires. (b) Potential distribution including a field shaping wire along y axis. 40 x x p=3 mm p=3 mm p=3 mm p=3 mm C C c=40 mm G y g=2 mm A1 A0 A1 A0 A1 G z s1=4 mm S1 S1 2p=6 mm 2p=6 mm Fig.6(a) Fig.6(b) Fig.6: Enlarged unit cell to estimate stray capacitance between two anode wires. (a) Unit cell in x-y plane. (b) in x-z plane. 41 anode wire φ=0 t 0.465195 µs 0 x 0 6 mm Fig.7-1: (1st) Drift pattern of electrons by a charged particle crossing perpendicular to x axis at x=0.006 (m) in a unit cell on x-y plane. (2nd) Drift time depens on the electron path. 42 6 mm anode wire φ=0 -y 1.23736 mm uˉ=0.285 m2/(V·s) 0 -1.23736 mm t 1.23736 mm a=0.0107216 s/m2 -y t=ay 2 0 -1.23736 mm t 16.4154 ns Fig.7-2: (1st) Drift pattern of electrons by a charged particle crossing perpendicular to x axis at x=0.006 (m) in a unit cell on x-y plane. (2nd) Drift time depens on electron path. (3rd) Expressing the relation by x-t, it will be aproximately expressed as a parabola. π φ= 36 6 mm -y - 1 tan φ = -0.6800 mm 2a -Vxo 0 -1.23218 mm t 34.0952 ns 0 - uˉ=0.285 m2/(V·s) Exo=21052.3 V/m a=0.0107216 s/m2 1 tan φ 2 = -4.95788 ns 4a -Vxo Fig.7-3: (1st and 2nd) If it comes obliquely on x-y plane, minimum drift time decreases and the position also moves. 43 de anode wire ra Va-Ved V Ea= Va Ea Ved Va-Ved de parallel plate diode r de Red R0 cylindrical equivalent diode Fig.8: (Left) A unit cell with an anode wire can be replaced to a cylindrical diode with electric field on the anode wire Ea , equivalent outer voltage Ved and equivalent radius Red . (Right) Moreover, replaced to a chamber made from two parallel plates with equivalent distance de =(Va -Ved )/Ea . 44 dn dt 2 ns 1.68441x108 a =0.0107216 s/m2 ρ =7.8 x 102 ip/m φ =0 t0 =0.156683 ns 1 S 108 1.68442x1071 0 S 0 100 ns 200 ns Fig.9 (a) 0 0.36 ns 10 ns t a =0.0107216 s/m2 ρ =7.8 x 102 ip/m -0.53042 µA u+=10.2 x 10-4 m2/(V·s) φ =0 k =0.91475 -1.01988 µA -i Fig.9 (b) Fig.9: Property of an anode wire in unit cell. (a) Number of electrons comming to an anode wire by apassage of a charged article. (b) Anode current signal outgoing from an anode wire. 45 0 0 t -1.20055 mV -V Fig.10 (a) 0 0 10 ns t -8.16021 µA -i Fig.10 (b) Fig.10: Anode wire property for single cluster of electrons. (a) Anode wire potential (b) Anode wire current. 46 Table 1. Elements of the DCBA multiwire chamber ra rg radius of an anode wire radius of a pickup wire 10 (µm) 40 (µm) rc pa =p pg =p radius of a cathode wire pitch of unit cell on anode wire plane pitch of unit cell on pickup wire plane 40 (µm) 3 (mm) 3 (mm) pc =p s1 pitch of unit cell on cathode wire plane distance between source plate S1 and anode wire plane 3 (mm) 4 (mm) g c s2 distance between anode wire plane and pickup wire plane distance between pickup wire plane and cathode wire plane distance between cathode wire plane and source plate S2 2 (mm) 40 (mm) 4 (mm) La Lg wire length of anode wire wire length of pickup wire 0.5 (m) 0.5 (m) µ amplification of unit cell 44.7901 Va potential of anode wires 2140 (V) Vg Vc potential of pickup wires potential of cathode wires -380 (V) -1000 (V) Vs1 Vs2 potential of source plane S1 potential of source plane S2 0 (V) 0 (V) Qa Qg reduced charge per unit length on an anode wire reduced charge per unit length on a pickup wire 312.859 (V) -191.377 (V) Qc Qs1 Qs2 reduced charge on a cathode wire per unit length reduced charge per unit length of width p0 on the source plate S1 reduced charge per unit length of width p0 on the source plate S2 -99.8738 (V) -111.43 (V) 89.8221 (V) ϕ Qg /Qa constant Ratio of charge on anode wire to pickup wire 0.0713586 (V) -0.611703 Ea Eg electric field on the surface of an anode wire electric field on the surface of a pickup wire 3.12859 ×107 (V/m) -4.78442 ×106 (V/m) Ec Es1 Es2 electric field on the cathode plate electric field on the surface on the source plate S1 electric field on the surface on the source plate S2 -2.49685 ×106 (V/m) -2.33379 ×105 (V/m) 1.88123 ×105 (V/m) Ex0 electric field in uniform field region at x=21 (mm) 21052.3 (V/m) 47 Table 2. Potential of Field Shaping Wires Va Vg potential of anode wires potential of pickup wires 2140 (V) -380 (V) Vc Vs1 Vs2 potential of cathode wires potential of source plane S1 potential of source plane S2 -1000 (V) 0 (V) 0 (V) x1 =0.006 m x2 =0.009 m Vx1 = 5.54064 (V) Vx2 = -57.6614 (V) Qf 1 = 0.115016 (V) Qf 2 = -1.19701 (V) Vf 1 = 5.82562 (V) Vf 2 = -60.6292 (V) x3 =0.012 m x4 =0.015 m Vx3 = -120.818 (V) Vx4 = -183.976 (V) Qf 3 = -2.50811 (V) Qf 4 = -3.81922 (V) Vf 3 = -127.037 (V) Vf 4 = -193.455 (V) x5 =0.018 m x6 =0.021 m x7 =0.024 m Vx5 = -247.131 (V) Vx6 = -310.289 (V) Vx7 = -373.445 (V) Qf 5 = -5.13028 (V) Qf 6 = -6.44139 (V) Qf 7 = -7.75249 (V) Vf 5 = -259.851 (V) Vf 6 = -326.259 (V) Vf 7 = -392.666 (V) x8 =0.027 m x9 =0.030 m Vx8 = -436.604 (V) Vx9 = -499.76 (V) Qf 8 = -9.06361 (V) Qf 9 =-10.3747 (V) Vf 8 = -459.075 (V) Vf 9 = -525.482 (V) x10=0.033 m x11=0.036 m x12=0.039 m Vx10 = -562.917 (V) Vx11 = -626.071 (V) Vx12 = -689.401 (V) Qf 10 =-11.6858 (V) Qf 11 =-12.9968 (V) Qf 12 =-14.3115 (V) Vf 10 = -591.89 (V) Vf 11 = -658.295 (V) Vf 12 = -724.884 (V) x13=0.042 m Vx13 =-1004.19 (V) Qf 13 =-20.8462 (V) Vf 13 =-1055.87 (V) 48 Table 3. Electric properties of DCBA multiwire chamber Va potential of anode wires 2140 (V) Vg Vc potential of pickup wires potential of cathode wires -380 (V) -1000 (V) Vs1 Vs2 potential of source plane S1 potential of source plane S2 0 (V) 0 (V) u− u+ ρ mobility of electron at Ex0 =210.523 (V/cm) in He gas mobility of ion at Ex0 =210.523 (V/cm)in He gas ion pairs per unit length 0.285 (m2 atm/(Vs)) 0.00102 (m2 atm/(Vs)) 7.8×102 (i.p/m) q = eM positive charge by gas multiplication on anode wire,when M =105 1.602×10−14 (c) ia anode current -8.16021×10−6 (A) ig is1 anode current anode current 3.87755×10−6 (A) 2.65864×10−6 (A) ic ig /ia anode current Ratio of current from anode wire to pickup wire 1.62402×10−6 (A) -0.475178 k a co-efficient of equivalent diode constant of prabola 0.91475 0.0107216 (s/m2 ) T0 (xi ) t0 drift time of electron from xi =0.006 (m) to anode wire time constant 4.48865×10−7 (s) 1.56683×10−10 (s) Ved Red R0 effective voltage on outer cylinder of diode effective Radius of outer cylinder of diode effective Radius of outer cylinder on ground 182.434 (V) 5.21662×10−3 (m) 9.34619×10−3 (m) Ced C0 effective capacitance between anode wire to outer cylinder of diode effective capacitance between anode wire to outer cylinder on ground 4.44275×10−12 (F/0.5m) 4.06401×1-−12 (F/0.5m) 49
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