ARM マイコンとフルカラー LED を用いた pH インジケータの開発

ARM マイコンとフルカラーLED
を用いた pH インジケータの開発
マイコンとフルカラー
1
2
2
2
○豊田朋範 ,千葉寿 ,藤崎聡美 ,古舘守通
1
分子科学研究所 装置開発室
2
岩手大学技術部工学系技術室
1. 概要
平成 20(2008)年 3 月の学習指導要領改訂により,理科の教科書もこれまでより多くの内容を盛り込むものになった.
一方,「児童の理科離れ」「理科指導を苦手とする小学校教員」が懸念されている.それらは実は表層的なものであり,
問題の本質は予算面や授業時間などが限られた教育環境である.
例えば小学校 6 年生の児童が学ぶ「酸性・アルカリ性・中性」という水溶液の性質において,2 種類の色変化しかな
いリトマス紙より,視覚的に鮮やかで分かりやすい紫キャベツ液を用いれば,児童の関心を引きやすく,知的好奇心を
喚起しやすいだろう.しかし,現在は発展的学習の扱いであること,紫キャベツ液は生成に手間と時間を要し,長期保
存が困難であることから,授業での扱いは少ない.専用の識別装置を導入するのは費用・設置スペースの問題もさるこ
とながら,高度な専門知識や装置の取り扱いの習得と求めることとなり,現場の教員の負担を増すだけである.
理科教育の充実や児童生徒の理科への関心を高めることは,技術職員として望むところであり,教材開発等で積極的
に支援したい領域である.筆者らは今回,その一環として市販の pH センサを利用して,フルカラーLED で紫キャベツ
液の指標を模す pH インジケータを開発した.本稿では理科教育と教育現場の現状,pH インジケータの概要,高分解能
A/D 変換器による正確な pH センサの出力の取り込み,ARM マイコンを用いた演算や制御,そして pH インジケータに
よる指標の例などを述べる.
2.理科教育と教育現場の現状
2-1 「理科離れ」の傾向と特徴
文部科学省は平成 20(2008)年 3 月に小・中学校における学習指導要領を
表 1 小学校理科の追加内容
改訂し,小学校では移行期間を経て平成 23 年(2011)年 4 月から全面実施さ
内容
学年
れている.この学習指導要領では(1)「生きる力」を育成すること(2)知識・
物と重さ
第 3 学年
な体を育成すること-の 3 点 1)を基本的な狙いとしており,理科の教科書
風やゴムの働き
第 3 学年
も表 12)に示すようにこれまでより多くの内容を盛り込んだものとなって
身近な自然の観察
第 3 学年
水の体積変化
第 4 学年
技能の習得と思考力・判断力・表現力を育成すること(3)豊かな心,健やか
いる.
人の体のつくりと運動
第 4 学年
水中の小さな生物
第 5 学年
川の上流,下流と河原の石
第 5 学年
雲と天気の変化
第 5 学年
てこの利用
第 6 学年
電気の利用
第 6 学年
割合が増加している(図 13)).また,「勉強は楽しい」「勉強は好きだ」とい
主な臓器の存在
第 6 学年
う設問の回答を見ても,国際平均とほぼ同程度である(表 23)).少なくとも
水の通り道
第 6 学年
小学生においては「理科離れ」を懸念するほど顕著な傾向は見られない.
食べ物による生物の関係
第 6 学年
月と太陽
第 6 学年
一方で,「児童の理科離れ」
「理科指導を苦手とする小学校教諭」が近年
懸念されている.これらはメディアにおいてしばしば見受けられる論調で
あるが,実体はどうであろうか?
「児童の理科離れ」については,例えば学習指導要領改訂後の平成
23(2011)年 3 月に実施された国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2011)にお
いて,小学校では習熟度の低い児童の割合が減少し,習熟度の高い児童の
表 2 教科に対する意識「勉強は楽しい」(小学校)
図1
TIMSS2011 における小学校理科の習熟度結果
調査年
算数
理科
平成 15(2003)年
65
81
平成 19(2007)年
70
87
平成 23(2011)年
73
90
国際平均(2011)
84
88
2-2 「理科離れ」と教員の資質・教育予算
では,
「理科指導を苦手とする小学校教員の増加」はどうだ
ろうか?
確かに,科学技術振興機構が行った調査 4)によると,小学
校教諭の約 5 割が理科全般の内容の指導を苦手と感じており
(図 2),特に教職経験 10 年未満では 6 割を超える結果が出て
いる(図 3).
高校において早期から理系・文系に分かれるため,理科を
総合的に学習しなかった者が教員になる現実は以前から指摘
されている.教育学部は元々文系出身者が多数を占め,高校
時代の文系選択の理由で理科教科が苦手なためと答える調査
図 2 小学校教諭の理科指導への意識(学級坦・一般)
結果 5)は,大学進学を経た者には経験則でもある.
しかし,この調査結果を基に,
「理科離れ」が教諭の資質の
みによって生み出されるとするのはあまりにも早計である.
学級担任として理科を教える教員の約 9 割が,理科全般の内
容が「好き」と感じている(図 44)).
「理科離れ」の本質は,何
と言っても貧弱な教育環境と教員の多忙化である.
所謂「ゆとり教育」の導入で授業時間数が大幅に減少した
が,理科はその影響が強く出た.理科の実験を行うには安全
面への配慮や準備が必要であり,これらは他の教科より多く
図 3 小学校教諭の理科指導への意識
かかる.しかし,理科の授業数が大幅に減少したことと後述
(学級坦・一般 教職年数区分別)
する教諭の多忙化により予備実験の時間は殆ど取れず,理
科室の管理が不十分となって器具・薬品・消耗品の不足や
装置の故障が常態化している 6) (図 5) 4).
教育環境の悪化,特に教育予算の貧弱ぶりは目を覆うば
かりである.理科の設備備品費は,児童 1 人当たりの全国
平均は年間約 391 円,消耗品費は児童 1 人当たりの全国平
均が年間約 316 円である.また,設備備品費 0 円の学校が
約 3 割存在する(表 6,7)4).図 6,74)に示すヒストグラムで
は貧弱な教育予算の実像が更に如実に表れている.
2007 年 2 月開催の「特色 GP 理科離れシンポジウム」で
出された現場教諭からの「国はお金をかけずに成果をあげ
図 4 小学校教諭の理科への意識(学級坦・一般)
ようとしているようである.正職員の数は増やさないで,
教員の予算を減らしながら成果を出せと国が言っていると
しか考えられない」との意見 6)を国は真摯に受け止めるべ
きであろう.
2-3 「理科離れ」と教員の多忙化
教諭の多忙化も「理科離れ」を生み出す重大な要因であ
る.
2013 年 10 月に全日本教職員組合が発表した調査 7)8)によ
ると,5880 名(男 3321 名,女 2659 名)の教諭等から集約し
た 1 カ月の平均時間外勤務時間は,72 時間 56 分(標準偏差
38 時間 56 分).持ち帰り仕事時間の平日・土日の合計は 22
時間 36 分(標準偏差 24 時間 18 分)と出た.これらの超過勤
務時間の合計は,「過労死ライン」である 1 カ月 80 時間残
図 5 平成 20 年度小学校理科教育実態調査における
業を大きく超える.同調査では,教諭等が「減らして欲し
理科の観察や実験を行うに際しての障害
い」と考えている仕事は「資料や統計作成,報告提出」が多数であり,「行うべき仕事が多過ぎる」を「とても」「わり
と」感じている教諭等は 84.6%に達する.
この調査結果は,理科教育にも深刻な歪みを齎している事実も示している.前述(図 4)のとおり,学級担任として理科
を教える教員の約 9 割が,理科全般の内容が「好き」と感じている.一方で,前掲の図 5 では設備備品費や消耗品費の
不足と共に,「授業時間の不足」「準備や片付けの時間が不足」との回答率が高いことが分かる.
表 6 理科の学校予算額(学校数,N=356)
表 7 理科の学校予算額合計を
有効
平均値
最小値
児童数合計(3~6 学年)で割った値(学校数,N=356)
最大値
回答
学校あたりの
平均値
予算額
児童数
有効回答
391 円
2563 万円
65499 人
291
316 円
2092 万円
66099 人
298
児童あたりの
8.7 万円
0 万円
400 万円
299
設備備品費
設備備品費
学校あたりの
児童あたりの
7.1 万円
0 万円
82 万円
307
消耗品費
図 6 児童 1 人当たりの設備備品費のヒストグラム
消耗品費
図 7 児童 1 人当たりの消耗品費のヒストグラム
つまり,「理科離れ」などの教育問題を教員の資質に帰結させる国や代議士や御用学者,マスメディアや 2 ちゃんね
るなどによる「公務員叩き」「教員叩き」の裏には,教員の本来の業務ではない生徒指導や保護者への対応,統計や報告
の作成などに追われて授業や実験の準備どころではない,児童生徒のみならず,教員も時間に追われて「理科離れ」せ
ざるを得ない深刻かつ危機的な現在の教育現場の実態がある.それを無視して理科教育の充実を図ろうとするのは,現
場の教員の更なる負担を齎すだけであると心すべきである.
では,我々技術職員が理科教育に対してアプローチできることは何か?その解の 1 つとして筆者らは,簡便かつ安全
に使用できる教材で理科教育をアシストし,児童の記憶に残る実験を行いやすくすることで,理科への関心や意識を高
めてもらうことを見出した.中でも酸性・中性・アルカリ性という水溶液の性質は色変化を伴うため,児童の記憶に残
りやすい効果的な教材を開発できるのではないかと考えた.
3.「酸・アルカリ・中性」実験と課題
愛知教育大学の牛田氏の調査 6)によると,愛知県長久手町(現:長久手市)の長久手南中学校 1,2 年生を対象にした調
査結果で,好きだった小学校の理科の授業は「実験・観察が多い授業」が「野外に出ることが多い授業」
「内容が分かり
やすい授業」を抜いてダントツの第 1 位である(図 9).
筆者らが今回着目した,小学校 6 年生の児童が学ぶ「酸
性・アルカリ性・中性」という水溶液の性質は,愛知教育
大学の学生が回想する印象に残った小学校理科実験・観察
の上位に存在する.その理由は「リトマス紙・ヨウ素液・
BTB 液の色の変化」である(表 86)).これらの結果から,児
童生徒は実験・観察の多い授業を好意的に捉えていること,
特に視聴覚体験は記憶に残りやすいことが分かる.しかし,
図 9 中学生が好きだった小学校時代の理科の授業
一方で同一の調査では「水溶液の性質」が分かりにくかったと
表 8 愛知教育大学学生の回想による印象に残った
の回答が男女問わず多い(図 106)).これは,実験は楽しかったが
小学校理科実験・観察の上位 5 項目(人数)
理解を伴っていない側面もあることを示している.
実験・観察内容
学習指導要領における酸・アルカリの識別にはリトマス紙を
人数
119
野外での動植物の観察
用いるとされている 9).リトマス試験紙の指標は酸性による青
アサガオを育てて観察した
52
アルコールランプを使った実験
96
リトマス紙・ヨウ素液・BTB 液の色の変化
83
魚の解剖
78
色から赤色の変化とアルカリ性による赤色から青色への変化の
2 種類しかなく,酸アルカリの強弱やそれによる人体への影響
の違いなどには結び付きにくい.
酸アルカリの識別には,ヨウ素液や BTB 液の他,全
範囲において色鮮やかに変化する紫キャベツ液の利用
が視覚的に分かりやすく,児童の記憶に残りやすいと
思われる.しかし,発展的学習の扱いである紫キャベ
ツ液の生成には手間と時間がかかり,長期保存が難し
い.一方,酸・アルカリの代表格として教育現場で用
いられる塩酸や水酸化ナトリウムは,取扱いに注意を
要する物質であるため,実験の準備・後片付けに時間
を要する.前述のとおり多忙化の一途を辿る教育現場
において,紫キャベツ液を含む多種多様な試薬の変化
を「水溶液の性質」の実験において実践することは困
難である.
この場面でフルカラーLED を用いて紫キャベツ液
図 10 中学生が分かりにくかった小学校の理科の単元
による酸アルカリの指標を模すことで,紫キャベツ液
を用いずに色鮮やかな変化を提示し,見ただけでは分からない水溶液の性質の違いや身近な物質における酸アルカリの
違いや強弱の存在など,児童の知的好奇心を喚起することは出来ないだろうか?
pH を測定して表示する測定機器は多数市販されているが,これらは pH の値が液晶画面などに表示されることに留ま
っており,児童の水溶液の性質への関心を高めることには繋がり難い.測定器の中には外部出力を持つものもある 10)
ため,これを用いてフルカラーLED を制御して紫キャベツ液の呈色を模すことは不可能ではない.しかし,このような
測定器は高価であるし,専用の電源や設置スペースに加えて,外部出力をフルカラーLED の制御に繋げる電子回路の専
門知識が必要となる.これらを前述のとおり貧弱な教育予算・設備備品費と多忙化を極める環境下で求めることが,現
場の教員の更なる負担増大を齎すことはもはや言うまでもない.
そこで筆者らは,市販の pH センサを利用して,フルカラーLED で紫キャベツ液の指標を模す pH インジケータを開
発した.
4.pH インジケータ
4-1 pH インジケータの概要
開発した pH インジケータのブロック図を図 11,12 に示す.
本装置は複雑な分析機能を搭載せず,
CD ケース程度のサイズに pH センサと
AC アダプター以外を集約した.水溶液
を入れたビーカーを本装置に乗せて pH
センサを挿し込むだけで水溶液の識別が
行える.
また,リチウム電池を内蔵しているた
め,予め充電しておくことで AC 電源に
接続することなく,すなわち場所を選ば
ずに酸アルカリの識別を行える.何より,
図 11 pH インジケータの
紫キャベツを用いた実験と同等の呈色を
ブロック図
その 1
図 12 pH インジケータの
確認できる.
ブロック図
その 2
4-2 pH の定義と高分解能 A/D 変換基板
pH とは水溶液中の水素イオン活量αH+によって定義され,以下の式で定義される 11).
pH = -log10αH+ ここでαH+ = f × [H+]
…(1)
+
ただし,f:活量係数
[H ]:水素イオン濃度
活量とは「気体や溶液の性質を理論的に扱う際に,濃度の代わりに用いる量」12)であり,活量係数とは「理想形と実
存系に存在する誤差を修正するための物理量」13)である.これらの関係を簡潔に述べる.
全ての物質が反応に関われる理想的な水溶液(活量=濃度)に対して,分子或いはイオン間の相互作用によって,実際に
反応に関われる水溶液中の物質量は異なる(活量≠濃度).理想的な水溶液中の物質量,ここでは水素イオン濃度[H+]に対
する実際の反応比率として活量係数 f を 0~1 の範囲で決定し,乗算することで実際に反応に関われる水溶液中の水素イ
オン濃度αH+を得る 11).
実際の測定で得られる物理量は全て活量である.しかし,活量係数 f を算定する根拠も手段も存在しない.このため,
活量を濃度と見なしても実用上支障はない.すなわち式(1)において,
pH = -log10[H+]
…(1)'
として良く,以降は活量 = 濃度とする.センサや測定器の pH の指示値は,全て式(1)'によって算出される.
このように定義される pH の値は 0~14 の数値で表され,0~6
が酸性,7 が中性,8~14 がアルカリ性である.酸性は pH の数値
が小さいほど,アルカリ性は pH の数値が大きいほど強い.pH の
測定にはガラス電極法が最も多く用いられるが 13),この方式では,
ネルンストの式によって,水温 25℃では 1pH あたり 59.16mV の
電位差が発生する 15).溶液の pH が 7 であれば 0mV となる.すな
わち pH 値と起電力の関係は図 13 のようになる 15).
pH を正確に測定するには,およそ±400mV の微小電圧を少な
くとも mV オーダーで精密に測定する回路が必要となる.pH セン
図 13 pH 値と起電力の関係
サの出力を精密に測定するため,16bit 分解能のシグマデルタ型
A/D(アナログ-ディジタル)変換器 AD7792BRUZ16)を中心とする
高分解能 A/D 変換基板を製作した(図 14).
製作した高分解能 A/D 変換基板の入力と,それを A/D 変換した値の特性を
図 15 に示す.入力電圧を V(mV),その時の A/D 変換値を ADvalue とすると,
この特性は以下の式で表せる.
ADvalue = -13.725V+32782 …(2)
図 14 製作した高分解能 A/D 変換基板
A/D 変換器は最大±2.5V を 16bit,すなわち 0(16 進数で
0x0000)~65536(16 進数で 0xffff)の範囲で表せる.図 15 に
おいて A/D 変換値の変動は実測で 5 程度であるが,これは
(5.0V/65536)×5 =380μV に相当する.1pH あたりの pH セ
ンサの分解能 56.16mV に対して(380μV/56.16mV)×100 =
0.68%程度と高い安定性を実現した.
4-3.ARM マイコンと制御
ARM マイコンは,厳密には英 ARM 社が設計するマイコ
ンコアの設計情報(IP: Intellectual Property)である 17).半導体
企業は ARM 社とライセンス契約を締結して ARM マイコ
ンコアに独自の機能を付加して製造・販売する 17).よって
正確な呼称は「ARM コアを持つマイコン」「ARM コアマ
図 15 製作した高分解能 A/D 変換基板の入出力特性
イコン」が適切であるが,一般に「ARM マイコン」と称される.
ARM マイコンは開発当初から高性能,小型,省電力のバランスに重点が置かれ
た 17).現在では Apple 社の iPhone や iPod,任天堂社の Nintendo 3DS,SCE 社の PS Vita
など携帯電子機器や各種装置に広く採用されており,2010 年 11 月現在の出荷数は
200 億個を超える 17).ルネサステクノロジ社と,PIC マイコンで有名な Microchip 社
以外の半導体企業の大半が ARM 社とライセンス契約を締結していることなどから,
実質的に 32bit マイコンの世界標準と言える.
ARM マイコンは CPU や動作周波数,ピン数やペリフェラルの数や種類などが異
なる様々な製品がある.今回は NXP 社の Cortex-M0 コア,最大 50MHz 動作,32kB
図 16
ARM マイコンモジュール
M-LPC1114-C
フラッシュメモリなどの機能を有する LPC1114FBD48/30218)を搭載した aitendo 社製
モジュール M-LPC1114F-C を用いた(図 16).
プログラミングには NXP 社(2013 年 5 月に開発元の Code Red 社を買収)19)が提供
する統合開発環境である LPCXPresso IDE を用いた.LPCXPresso IDE は NXP 社 ARM
マイコン LPC シリーズの評価ボードである LPCXPresso(図 17)をプログラミングす
る統合開発環境であるが,LPCXPresso は簡単な改造で NXP 社 ARM マイコンをほ
ぼ網羅する書き込み器に出来る.LPCXPresso IDE は無償のアクティベーション(登
録)をすることで,コードサイズ制限が 256kB まで拡張される.
図 17 LPCXPresso
ARM マイコンは pH インジケータの中枢を担う.すなわち,(1)高分解能 A/D 変
換基板と通信して A/D 変換値を受信する(2)図 13,15 を基に A/D 変換値から pH 値を算出する(3)pH 値に応じてフルカラ
ーLED の輝度を制御する(4)各種情報を液晶ディスプレイに表示する-などを行う.
4-4.pH インジケータによる呈色と紫キャベツ液の指標の比較
pH1~14(試験管配置の都合上 pH6 と 12 は除く)における紫キャベツ液の呈色を図 18 に示す.左から順に 1~5,7~11,
13~14 の順で並んでいる.
フルカラーLED を用い
た呈色の事例として,溶液
に 0.1mol の HCL と NaOH,
それらの混合溶液を用いた
場合の pH1,7,14 の呈色
(図 19)と比較した.
pH インジケータによる
pH1, 7, 14 の呈色を図 20~
22 に示す.図 19 と比較し
図 18 pH1~14 における
図 19 pH1, 7, 14 における
紫キャベツ液の呈色
紫キャベツ液の呈色
て遜色ない色合いを呈して
いる.
図 20 pH インジケータによる
図 21 pH インジケータによる
図 22 pH インジケータによる
呈色サンプル(1):pH1
呈色サンプル(2):pH7
呈色サンプル(3):pH14
5.まとめと展望
小学校の理科教育における「水溶液の性質」に着目し,市販の pH センサを利用して ARM マイコンと高分解能 A/D
変換器,並びにフルカラーLED で紫キャベツ液の呈色を模す pH インジケータを開発した.
本装置は紫キャベツ液の呈色を模すよう開発したが,酸性・アルカリ性で特徴的な発色を示す指示薬はヨウ素液や
BTB 液をはじめ,フェノールフタレイン液,チモールブルーなど多数存在する.これらの呈色もフルカラーLED の制御
を改変することで対応できると共に,複数の指示薬の呈色を切り換えることも可能である.また,リチウム電池と充電
機構を搭載し,CD ケースとほぼ同じ縦横のサイズのケースに収納したことで,電源コンセントの位置を気にせずに長
時間使用出来る.たとえば野外に繰り出して雨や雪の酸性度を測定し,酸性雨をはじめとする環境問題への意識を高め
るといった使用方法も考えられる.
高分解能 A/D 変換器による微小電圧の高精度測定,ARM マイコンによるフルカラーLED の発色を含む多彩な制御,
リチウム電池の充電機構など技術面でも複数のトピックスはあるが,今回は理科教育への貢献,児童が理科への関心や
意識を高める助力とするべく,
「簡便かつ安全に使用できる装置」を念頭に置いて開発を進めた.このことは,専門知識
や危険物の取り扱いの経験を有する研究者や大学生と取り組む通常業務とは異なる経験であった.
テクノロジーを駆使することで,理科教育の充実や児童生徒の理科に対する関心や意識の高まりに貢献する余地はま
だまだ存在すると思われる.我々は技術者として,国立大学等職員として,技術や知識を以って広く国民に還元するこ
とも考え実践していく段階に来ているのではないだろうか.
参考文献
1)小学校学習指導要領解説 理科編
第 1 章,文部科学省,平成 20 年 6 月,p2
2)小学校学習指導要領解説 理科編
第 1 章,文部科学省,平成 20 年 6 月,p8
3)「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2011)のポイント」
,文部科学省,平成 24 年 12 月
4)「平成 20 年度小学校理科教育実態調査」集計結果(抜粋)
5)GuideLine 2013 年 11 月号「特集
6)「特色 GP2005 年~2008 年度
7)「教員の「残業」月 95 時間超
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20081120/besshi.html
文理選択と大学入試」,河合塾,2013 年 11 月,p12-13
活動報告」より抜粋「理科離れ実相調査」,牛田憲行,愛知教育大学
10 年で 14 時間増える」,朝日新聞,2013 年 10 月 17 日付など
8)「勤務実態調査 2012」,全日本教職員組合,2013 年 10 月
9)小学校学習指導要領解説 理科編
第 3 章,文部科学省,平成 20 年 6 月,p71
10)例えば http://www.yokogawa.co.jp/an/ph-orp/an-ph450g-001ja.htm
11)「理論的な pH の定義」
,堀場製作所,
http://www.horiba.com/jp/application/material-property-characterization/water-analysis/water-quality-electrochemistry-instrumen
tation/the-story-of-ph-and-water-quality/the-basis-of-ph/hydrogen-ion-activity/
12)Weblio 辞書,http://www.weblio.jp/content/%E6%B4%BB%E9%87%8F
13)Weblio 辞書,http://www.weblio.jp/content/%E6%B4%BB%E9%87%8F%E4%BF%82%E6%95%B0
14)「Q&A:よくある質問 -pH 計/ORP 計 全般-」,横河電機,
http://www.yokogawa.co.jp/an/faq/ph_orp/ph_orp_general.htm
15)「電位差測定装置の原理と応用」,一般社団法人日本分析機器工業会,http://www.jaima.or.jp/jp/basic/electrochem/pd.html
16) http://www.analog.com/jp/analog-to-digital-converters/ad-converters/ad7792/products/product.html
17)「どうして ARM マイコン?なぜ 32 ビット?」,永原 柊,トランジスタ技術 2011 年 3 月号,CQ 出版,p70~79
18)「LPC1110/11/12/13/14/15 Product data sheet」,NXP,http://www.jp.nxp.com/documents/data_sheet/LPC111X.pdf
19)「NXP Acquires Code Red Technologies」,NXP 社プレスリリース,2013 年 5 月 1 日,
http://www.nxp.com/news/press-releases/2013/05/nxp-acquires-code-red-technologies.html