レスキュー用連結クローラ走行車「蒼龍 IV 号機」の開発

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レスキュー用連結クローラ走行車「蒼龍 IV 号機」の開発
○新井雅之(東工大)
津久井慎吾(トピー工業)
田中良典(東工大)
桑原裕之(IRS)
廣瀬茂男(東工大)
Development of Connected Crawler Vehicle “Souryu-IV” for Rescue Operations
*Masayuki ARAI (Tokyo Tech), Shingo TSUKUI (Topy Industries, Ltd), Hiroyuki
KUWAHARA (IRS), Yoshinori TANAKA (Tokyo Tech), Shigeo HIROSE (Tokyo Tech).
Abstract - We have developed "Souryu-I & II & III", connected crawler vehicles that travel in
the rubble. They were developed for the purpose of finding survivors trapped in collapsed
buildings in large-scale disasters such as earthquake. We have identified some problems of
these machines through experiments in post-disaster-like fields, which are : maneuverability
and the vehicle got stuck with debris in post-disaster-like environments.
In this paper, "Souryu-III" and those problems are described, and then we propose the new
model "Souryu-IV" and describe the improved mechanical designs.
Key Words: rescue, collapsed house debris, maneuverability, blade spring joint, unitization
1. 研究の背景と目的
2. 蒼龍 I 号機・III 号機
1995 年の阪神淡路大震災のような不幸な出来事
により,災害現場での被災者探査や救助隊員を補助
するロボットの必要性がより明らかになり,早急な
開発が期待されている.2001 年に WTC で起こった
テロ事件ではロボットが探査に用いられ,生存者の
発見には至らなかったものの,被災者を発見し,そ
の有効性を示した[1].
我々は今までに狭隘地探査ロボットとして,連結
クローラ走行車「蒼龍 I・II・III 号機」(Fig.1,Fig.2)
を開発し,各種模擬実験によりその高い不整地走行
性能を実証してきた[2][3].しかしながら,現在まで
に行ってきた実際の災害環境下等での走行・運用試
験の結果,幾つかの問題点が明らかとなってきた.
それら問題点は大別して 1)操縦性,2)車体の瓦礫へ
の引っかかり,の 2 つに分けられる.本研究では,
現在までに開発した「蒼龍 I・II・III 号機」と災害
環境下での走行試験,使用上の問題点を説き,それ
ら問題点を解決する「蒼龍 IV 号機」を提案し,その
構成と特徴的な機構 1)中央節クローラ左右独立駆動,
2)関節機構について述べる.
蒼龍 I 号機(Fig.1)は前後車体が楔形状をした 3 車
体の連結クローラ走行車で,以下に示す計 3 自由度
の駆動系で構成されている. 3 車体全てのクローラ
は Fig.3 に示す連結機構下部に配置した動力伝達軸
を通して 1 つのモータで駆動されている.前後の車
体は中央の車体を挟んで対称に上下左右の 2 自由度
屈曲運動を行い,この屈曲運動は,中央車体に搭載
された 2 つのモータによって生成される.この屈曲
運動を模式的に表したものが Fig.3 で,2 本の直動軸
の伸縮運動によって前面三角板の下側の頂点のジョ
イントを中心にヨー軸,ピッチ軸回りの屈曲運動を
行う事が出来る.蒼龍 II 号機は蒼龍 I 号機とほぼ同
じ形状の機体であるが,連結分解機構など,蒼龍 I
号機の実験から得られた経験を基に,より実用的な
ものとなっている.
蒼龍 III 号機(Fig.2)は I 号機と同様,3 車体の連結
クローラ走行車で,以下に示す計 5 自由度の駆動系
で構成されている.前後車体の屈曲運動は蒼龍 I 号
機と同様に駆動され,各車体のクローラはそれぞれ
の車体毎に搭載された 1 つのモータによって左右同
時に駆動されている.また,連結機構は模式的に
Souryu-I
Souryu-III
Screw Axes
Power Transmission Axis
: 1160[mm]
Length
: 140[mm]
Height
: 175[mm]
Width
: 10.2[kg]
Weight
: 150[mm/sec]
Speed
Two Motors for Postural Change
One Motor for Crawlers
Fig.1 Total view of “Souryu-I”
第23回日本ロボット学会学術講演会(2005年9月15日~17日)
Length
Height
Width
Weight
Speed
: 1210[mm]
: 122[mm]
: 145[mm]
: 10[kg]
: 370[mm/sec]
Two Motors for Postural Change
Three Motors for Crawlers
Fig.2 Total view of “Souryu-III”
つ
に
分
Fig.3 Joint mechanism of “Souryu-I”
Power Divide Axis
Motor (Postural Change)
Universal Joint
Rolling Elasticity Axis
Screw Axis
n
Fro
onn
tC
e ct
ion
nt e
Ce
ody
rB
ar
Re
Co
ctio
nne
n
Fig.6 Demolished showhouse of SxL Co.,Ltd
in ABC housing Senri housing-park
Fig.4 Joint mechanism of “Souryu-III”
Fig.7 Collapsed house in Kawaguti Town
Fig.5 Joint mechanism of “Souryu-III”
Fig.4 のように表され,Fig.5 に示すように屈曲運動
を行う.
蒼龍 I 号機,蒼龍 III 号機共に,中央車体には姿勢
変化用のモータなどを搭載し,前部後部車体にはカ
メラやマイクなどの被災者探査機器や通信機器を搭
載し,遠隔操縦で瓦礫内外を探査できる機体となっ
ている.
3. 災害環境・模擬災害環境下実験および調査
Fig.6 にABCハウジング千里住宅公園内,エス・
バイ・エル(株)モデルルーム解体現場実験(2004
年 12 月 7 日~8 日に実施)での解体モデルルーム,
Fig.7 に長岡倒壊家屋探査実験(2005 年 6 月 1 日に
実施)での倒壊家屋の写真を示す.
「蒼龍 III 号機」,国際レスキューシステム研究機
構(IRS)[4]でこれを赤外センサなども搭載し改造
した「IRS 蒼龍」を用いて,これら実際の災害環境
下や模擬災害環境下で実験を行った結果,また,こ
れまでに行われてきた他模擬試験や研究を併せて,
いくつかの問題点が明らかとなってきた.そのうち
移動体の災害環境下走行性能に関するものは,大別
すると 1)操縦性,2)車体の瓦礫への引っかかり,の 2
けられる.以下にその問題点について述べる.
3.1 操縦性
省自由度化のため,蒼龍 I 号機,II 号機では全て
のクローラを1つのモータで駆動し,III 号機では,
各車体のクローラはそれぞれの車体毎に搭載された
モータで左右同時に駆動していた.そのため,旋回
動作は前後の車体を屈曲した状態で前進(後進)す
ることで行われ,最小旋回半径は 400mm 強である.
つまり,その場で旋回する事が出来ず小回りがきか
ないため,操縦者の思うようにある位置と方位を同
時に満たすよう操縦することは大変困難であった.
一般に日本家屋は狭く,災害環境下での実験では,
家具などが倒れて狭く立体的となった場所では方向
転換することが困難であったため,探査が出来ない
状況が生じた.
また,Fig.8 に示すような斜面を横切るなどの斜面
上を走行する際は,旋回と前後節の屈曲動作が別々
に出来ないため,体の向きを安定な方向(a)から進み
たい方向(b)に変化させるときに,バランスを失い横
転する事態がしばしば確認された.さらに,瓦礫に
よって地形に凸凹のある斜面では,前後節の上下の
屈曲運動をうまく地形に適応させないとバランスを
崩し転倒する場面が見受けられた.
(b)
(a)
Independent Actuation
of Center Unit Crawlers
for Maneuverability
Souryu-IV
New Joint Mechanism
of blade Spring
Unitization
Length : 1210[mm]
Height : 137[mm]
Width : 150[mm]
2 Motors for Posture Change
4 Motors for Crawlers
Fig.8 Travel across a slope
3.2 車体の瓦礫への引っかかり
Fig.6,Fig.7 に示すように,倒壊家屋からなる瓦
礫は種々の構成要素を持ち,ロボットの障害となり
うるものは以下の4つに大別出来ると考えられる.
(a) 柱,梁,家具やその崩壊物など,三次元的に大き
いもの.段差や溝など,倒壊家屋内の不整地の大
部分を形作り,ロボットの移動を阻害するもので
ある.
(b) 太いケーブルなどの配線類,上下水道などの配管
類,家屋の外壁・内壁・床などの面を構成する板
状のものが崩落したもの,小さくなった(a)の破
砕物など,二次元または一次元的に大きいが残り
の次元が小さいもの.ロボットの関節などの隙間
に入り込み,その運動を阻害するもの.
(c) 細いケーブル類,紐や布製品などの繊維状のもの.
ロボットの回転部や全体にからみつき,その運動
を阻害する.
(d) 塵,埃,土,水など.ロボット内部に侵入し,電
子機器や電源などの動作を阻害するもの.
現在多くの探査ロボットは(a)に焦点を当て,不整
地の踏破性能が向上するよう研究開発されている.
しかしながら,探査ロボットが真に災害環境下で実
用的であるためには,(b),(c),(d)への対応策が必要
不可欠である.災害環境下での走行試験において探
査ロボットのスタックの原因となったものは(b),(c)
が多く,ロボットの関節の隙間などに瓦礫が入りこ
んだものであった.また,(d)に対しては防塵防水構
造が必要であると考えられる.
4. 蒼龍 IV 号機の提案
本章では,これまで開発されてきた「蒼龍 I 号機」
~「蒼龍 III 号機」と災害環境下での運用試験から得
られた知見をもとに「蒼龍 IV 号機」(Fig.9)を提案す
る.この「蒼龍 IV 号機」は Fig.10 に示す連結機構
をとり,以下のような機構的特徴を有する.
1. 中央節クローラの左右独立駆動
2. 板バネ関節機構の導入
Fig.9 The concept of “Souryu-IV”
Power Divide Axis
Motor (Postural Change)
Universal Joint
Blade Spring Joint
Screw Axis
nne
Co
t
n
Fro
on
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Ce
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rB
a
Re
onn
rC
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Fig.10 Joint mechanism of “Souryu-IV”
4.1 中央節クローラの左右独立駆動化
3.1 で述べた問題,操縦性,を解決するため中央節
のクローラは左右独立駆動にし,その場旋回を可能
にする.そのため姿勢変化機構と合わせて合計 6 つ
のモータを使用することになり,消費電流やコスト
の増加の問題が考えられるが,操縦性による探査効
率の向上を考慮に入れると効果的な改良であると考
えられる.クローラはトピー工業と共同開発してい
るクローラユニットを使用する.このクローラユニ
ットは 3.2 で述べた問題,瓦礫の内部への侵入を防
ぐためのカバー・防塵防水構造を備えている.また,
その場旋回可能半径は車両全長のおよそ半分の
600[mm]程度となる.
4.2 板バネ関節機構の導入
「蒼龍 1 号機」では,Fig.11 に示すように動力伝
達軸が関節部の車体下方に存在しているため,不整
地走行時に動力伝達軸が瓦礫に乗り上がり Fig.12 の
ように転がりやすい状況があった.この点を改良す
るため,また全てのクローラを1つのモータで駆動
するといづれかのクローラがロックした場合に全て
のクローラが動かなくなる問題の改良のために,
「蒼
龍 III 号機」では動力伝達軸を廃し,Fig.4,Fig.11
に示すような関節構造をとり,関節部で瓦礫に接触
しにくい構造となっていた.しかしながら,災害環
境下での走行試験時に Fig.12 のようにその関節の隙
Souryu-I
Souryu-III
Front/Rear Unit
Center Unit
Power Transmission Axis
Fig.11 The joint mechanism of “Souryu-I” and “Souryu-III”
Postural Change Unit
Fig.14 Vehicle form of Souryu-IV
Rollover
Debris getting
into gaps
Fig.12 Problems in disaster field experiments
用も可能であるため,その場合は姿勢変化機構ユニ
ットを取り外し,軽量化または他センサ類を搭載す
る事が可能となる.このユニット化により,旋回可
能半径が小さいことが望まれる場合や探査中に 1 節
が使用不能になった場合に取り外して 2 節構成で使
用するなど,使用目的・使用状況に応じて Fig.14 の
ように選択可能な形態の幅が広がり,任務を遂行す
ることが可能である.
5. まとめと今後の課題
本研究はこれまで開発した蒼龍 III 号機を用いて
災害環境下での走行実験を行い,明確化してきた問
題点を解決する「蒼龍 IV 号機」を提案し,その特徴
的な機構を述べた.今後は「蒼龍 IV 号機」を開発し,
基本走行試験,災害環境下走行試験を行いその実用
性を検証する.また,実際の運用では探査ロボット
をどのように家屋にアプローチさせるかも問題とな
るため,災害環境下での運用試験を通じてシステム
としての検証も行う.
Fig.13 Joint mechanism o “Souryu-IV”
謝
間に瓦礫が入り込みスタックする状況が見受けられ
た.そのため, 3.2 で述べた問題(b)のために,Fig.13
のような板バネ関節を使用し,瓦礫が入り込みにく
い形状とする.また,板バネを幅広い形状とするこ
とで,不整地走行時に瓦礫が関節部に接触したとき
に面で受け,蒼龍 I 号機のように転倒しやすいこと
の防止を狙っている.さらに,板バネのバネ性を利
用し,不整地走行時に問題となる Fig.13 に示すよう
な衝撃力の緩衝とロール軸回りの柔軟性を狙ってい
る.
4.3 ユニット化
蒼龍 I 号機~III 号機は中央節と前後節の計 3 つの
節から構成される車両であり,III 号機ではユニット
化を進め,使用目的・用途に応じて 2 節構成で使用
することが可能であった.蒼龍 IV 号機では,さらに
姿勢変化機構をユニット化し着脱可能とした.中央
節のクローラが左右独立駆動となり,1 節単体での使
辞
本研究は文部科学省大都市大震災軽減化特別プロジェク
トの一環として,国際レスキューシステム研究機構,防災
科学研究所との協力の下になされたものである.また,社
会貢献のためご協力いただいた方々にここに感謝の意を
表します.
参
考
文
献
[1] http://crasar.csee.usf.edu/ (2005/06)
[2] Toshio TAKAYAMA, Shigeo HIROSE;
“Development of “Souryu I & II” –Connected
Crawler Vehicle for Inspection of Narrow and
Winding Space-”, Journal of Robotics and
Mechatronics, Vol15, No.1, Feb.2003, pp61-69.
[3] ARAI Masayuki,Toshio Takayama,Shigeo Hirose:
"Development of “Souryu-III” Connected Crawler
Vehicle for Inspection inside Narrow and Winding
Spaces,"IROS2004,TA1-B4, 2004
[4] http://www.rescuesystem.org/ (2005/06)