日心第70回大会(2006)
把持制御におけるオンライン視覚利用特性に運動時間が及ぼす効果
○福井 隆雄 1 乾 敏郎 2
(1NTT コミュニケーション科学基礎研究所・2 京都大学大学院情報学研究科)
key words: grasping, on-line control, vision
1.目的
福井・乾(2005)は,指間距離最大値の分析より,約
~250ms と見積もられる(MT1000 の 350S 条件と MT500 の
1000ms と約 500ms(手首移動:35cm)の到達把持運動において,
220S 条件はともに FV 条件との間で指間距離最大値に有意差
運動初期段階のオンライン視覚の重要性を示した.本研究で
が認められなかった点に留意).6cm の場合,MT1000 では,
は,オンライン視覚の利用が,視覚フィードバックの遅れの
475ms 時点で 150S・350S 条件間に,また 575ms 時点で 250S・
みを反映したものか,課題(この場合,運動時間)に応じた適
350S 条件間に有意差が認められた.MT500 では,200ms 時点
応的特性も反映しているかを検討した.この目的のために,
で NV・220S 条件間に,225ms 時点で,80S・220S 条件間に
指間距離の時間プロフィールを分析することにより,オンラ
有意差が認められた.以上より,6cm の潜時は,MT1000 に
イン視覚の影響が指間距離に現れる時点(潜時)を上記の運
おいて 325ms,MT500 において 145ms~200ms と見積もられ
動時間(1000ms, 500ms)において同定した.
る.
2.方法 実験協力者:右利きの大学院生及び大学生 9 名.装
以上のように,
潜時について,
MT1000 では約 300ms,
MT500
置及び刺激:指間距離(親指・人差指間距離)を 3 次元磁気セ
ではそれよりも短く,約 200ms 程度であった.このような運
ンサー(Polhemus 社)により計測した.把持対象物体には,木
動時間による潜時の違いは,オンライン視覚の利用特性が視
製円柱 2 種(直径 4・6 cm,高さ 11 cm)を用いた.手続き:協
覚フィードバックの遅れのみだけでは説明できず,運動時間
力者は机の前に座り,前方 35cm に提示された対象物体への
に応じた適応的かつ柔軟な,視覚運動変換に関わる運動制御
到達把持運動を行った.協力者は 2 つの実験セッションに参
の特性を反映していると考えられる.
加した.まず,運動時間約 1000ms で課題を行う実験(MT1000)
に参加し,次に,日を変えて(7 日以内),運動時間約 500ms
A. MT1000
9
で課題を行う実験(MT500)に参加した.運動中に利用できる
8
オンライン視覚を時間的に液晶シャッターゴーグル(竹井機
Grip Ape rtu re (cm)
7
器工業製)により操作した.MT1000 では,運動開始後 0ms,
150ms,250ms,350ms に液晶シャッターゴーグルが遮断され
る条件と運動中ゴーグルが常に透明である条件が設けられた
(すなわち,視覚なし条件(NV 条件),150S 条件,250S 条件,
6
5
250S・350S条件間で
はじめて有意差
3
2
350S 条件,視覚あり条件(FV 条件)).MT500 では,運動開始
150S・350S条件間で
はじめて有意差
0
0
遮断される条件と運動中ゴーグルが常に透明である条件が設
150S
250S
350S
500ms
1
後 0ms,80ms,150ms,220ms に液晶シャッターゴーグルが
けられた(視覚なし条件(NV 条件),80S 条件,150S 条件,220S
550ms
4
100
150
250
200
300
400
500
600
700
B. MT500
10
条件,視覚あり条件(FV 条件)).本実験は,2 つの実験セッシ
9
ョン(MT1000,MT500)から成り,各セッションは物体の大き
8
Grip Aperture (cm)
さ(4cm,
6cm)に基づく 2 つのサブセッションから構成された.
セッション,サブセッションの提示順序は協力者間でカウン
ターバランスを行った.各サブセッションは,5 つの視覚条
件がランダムに提示され,各条件 8 試行,計 40 試行より構成
された(詳細は福井・乾,2005 参照).
3.結果と考察 平均指間距離の時間プロフィールを図 1 に示
7
5
300ms
80S・220S条件間で
はじめて有意差
4
3
2
250ms
1
NV・220S条件間で
はじめて有意差
0
す(4cm の場合).指間距離最大値の結果(福井・乾,2005)に基
0
づき,各時点の指間距離について,MT1000 では,150S,250S,
NV
80S
220S
6
80
100
200
300 400
Movement Time (ms)
図1: 平均指間距離の
時間プロフィール
(4cm)の場合.点線
は視覚遮断時点.各
時点の指間距離にお
いて,条件間で有意
差が初めて現れた時
点(↑)と視覚遮断の
影響が指間距離に現
れるまでの時間( )
を示す.
350S 間で,MT500 では,NV 条件,80S 条件,220S 条件間で
文献
検討した.各時点の平均指間距離に対する 1 要因分散分析の
福井・乾 (2005) 信学技報,HIP2005-72.
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多重比較(Newman-Keuls 法)の結果,4cm の場合,MT1000,
が認められた.この結果より,潜時は,MT1000 では,約
本研究は,科学研究費補助金基盤研究 A(2)「ダイナミックな相互作
用による多種感覚的認知の形成過程の研究」(No.16200020)の一環と
して行われた.
300(=550-250)~350(=500-150)ms,MT500 では,220(=300-80)
(FUKUI Takao, INUI Toshio)
MT500 において,図 1 に示す時点において,条件間の有意差