飼料用サトウキビ「しまのうしえ」 - 農業・食品産業技術総合研究機構

プレスリリース
平成 27 年 4 月 1 日
農 研 機 構
飼料用サトウキビ1)「しまのうしえ」の栽培マニュアルと発酵TMR2)利用マニュアル
-奄美・沖縄地域の牛用飼料の安定確保を実現します-
ポイント
・ 飼料用サトウキビ「しまのうしえ」は、奄美・沖縄地域で5月と8月の年2回の収穫が可能
であり、施肥基準は製糖用サトウキビの基準を適用できます。
・ この飼料用サトウキビと同地域の未利用資源を主原料とする発酵TMRは、子牛育成、繁殖
牛3)の飼料として利用できます。
・ 本技術は南西諸島の繁殖経営における飼料不足を解消し、肉用子牛の増産推進に貢献す
ることが期待されます。
概要
1. 肉用牛の子牛生産は南西諸島の基幹農業のひとつで、全国の約13%(生産額約160億円)
を占めます。しかしながら、この地域は耕地面積が限られるため、牧草などの粗飼料(繊維
質飼料)増産が極めて困難であり、農家の規模拡大をはばむ大きな問題となっています。
2. 飼料用サトウキビ「しまのうしえ」(写真1)は、乾物収量が従来牧草の2倍に達しますので、
飼料として有望です。また、南西諸島には黒糖焼酎粕やバガス4)(製糖用サトウキビの搾り
かす(写真2))などの未利用資源があり、これらも飼料原料に利用できると考えられます。
3. そこで飼料用サトウキビ(沖縄県ではケーングラスとの呼称。)とこの地域で得られる未利用
資源を牛の飼料として活用する試験に取り組み、得られた成果から飼料用サトウキビの栽
培マニュアル(鹿児島県奄美地域版、沖縄県版)と発酵TMR利用マニュアルを作成しました。
4. 「しまのうしえ」は飼料用トウモロコシと同じ収穫体系で収穫が可能で、5月と8月の年2回の
収穫が適しており(図1)、施肥基準は製糖用サトウキビの基準が適用できること、「しまのう
しえ」と未利用飼料資源を主原料とした発酵TMRは、繁殖牛や育成牛5)用の飼料に利用で
きることなどを実証しました(表1、表2)。繁殖牛用の発酵TMRは徳之島町で市販が始まっ
ています(写真3)。
5. 本技術は、農研機構、鹿児島県農業開発総合センター(畜産試験場、徳之島支場)、沖縄
県農業研究センター、鹿児島県大島支庁徳之島事務所、徳之島町が共同で開発しました。
<関連情報>
本研究は、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「南西諸島の飼料自給率を高め
る飼料用サトウキビとエコフィードTMR の利用技術の確立(課題番号24016)(平成24~
26年度)」の研究費補助を受けて実施されました。
問い合わせ先
研究推進責任者:農研機構 九州沖縄農業研究センター所長 岡本 正弘
研究担当者
:同 畜産草地研究領域(草地飼料作研究グループ)服部 育男
TEL 096-242-7756
広報担当者
:同 広報普及室長 坂井 真 TEL 096-242-7682 FAX 096-242-7543
プレス用e-mail:[email protected]
本資料は、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会、九州
各県の県政記者クラブ、日本農業新聞九州支所に配付しています。
※農研機構(のうけんきこう)は、農業・食品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネーム(通称)です。
新聞、TV 等の報道でも当機構の名称としては「農研機構」のご使用をお願い申し上げます。
KRFo93-1
しまのうしえ
写真1 飼料用サトウキビ「しまのうしえ」(左側) 図1 奄美・沖縄における最適栽培・収穫体系
注.九州沖縄農業研究センター(種子島)での生育状況
KRFo93-1 は種子島、南九州地域向きの飼料用サトウキビ
品種
注.夏草の収穫は奄美は 8 月下旬まで、沖縄は 9 月上旬まで
写真2 未利用資源として有望なバガス、黒糖焼酎粕
左;排出直後、右 1 年貯蔵後
表 1 肉牛の繁殖成績に差はみられない
(サトウキビサイレージ主体の TMR と慣行飼料の比較)
試験区
妊娠
期間
(日)
生まれた 最初に妊娠 受胎まで
仔牛の体重 するまでの の受精回
(kg)
日数(日)
数(回)
TMR(サトウキビサイレージ
+バガス+黒糖焼酎粕)
+配合飼料を給与
288
32.0
66
1.5
(慣行)ローズグラスの
サイレージ+配合飼料を給与
291
33.7
62
1.3
給与期間は分娩前後の5か月間
表2 育成牛の生育成績に差はみられない
(サトウキビサイレージ主体の TMR と慣行飼料の比較)
出荷時の
生後日数
出荷時の
体重
(kg)
TMR(サトウキビサイレージ 去勢牛
+輸入乾草+配合飼料)
雌牛
+配合飼料を給与
246
269
113
0.98
248
247
108
0.99
去勢牛
260
238
277
242
114
105
1.00
0.88
試験区
慣行(輸入乾草と配合飼料)
を給与
牛の
種類
雌牛
給与期間は出荷前2.5か月から出荷まで
出荷時の 一日あたり
体高
の体重増加
(cm)
量(kg)
写真3 徳之島町 TMR センターでの発酵 TMR 調製状況
用語の解説
1)飼料用サトウキビ
飼料専用のサトウキビで茎葉全体を牛の飼料として利用します。飼料用サトウキビは、乾物収量
や再生草の生産力が高くなるように品種改良されたものです。このため、糖度は製糖用サトウキビ
より低く、砂糖生産用としては適しません。
2)発酵 TMR
牛が必要な栄養を全て摂取できるように、粗飼料、濃厚飼料、ミネラル、ビタミンなどを混ぜ合わ
せた飼料のことを TMR(Total Mixed Ration)といいます。これは、料理にたとえると混ぜご飯の
ようなものです。TMR を発酵させて高水分での長期間保存を可能にしたものを発酵 TMR といいま
す。
3)繁殖牛
子牛を生産するためのめす牛。
4)バガス
砂糖を製造する工程において、原料のサトウキビを絞る際に出るかす。
5)育成牛
肥育管理を行う前の子牛。