平成21年9月号 畜研だより 発行 富山県農林水産総合技術センター 畜産研究所 〒939939-2622 富山市婦中町千里前山1 TEL 076076-469469-5921 FAX 076076-469469-5945 http://www.pref.toyama.jp/branches/1661/chikusan/ 技 術 情 報 肥育後期黒毛和種去勢牛への生稲わらや生米ぬかを混合した「発 酵TMR」の給与法 ~地元資源を活用した肥育牛用「発酵TMR」の活用~ 1.はじめに 消費者の安全・安心志向の高まりや飼料の安 定的確保の観点から、国産飼料の活用による自 給率向上は極めて重要となっています。 水田地帯である本県で入手しやすい稲わらや 米ぬか等の食用米副産物は、重要な肉用牛の飼 料資源であると考えられます。 最近では、このような地域資源を飼料化して 利用する方法として、発酵 TMR が注目されて いますが、黒毛和種去勢牛への給与事例は少な いのが現状です。 そこで、当所では、発酵 TMR の材料として 収穫直後に調製した「生稲わらサイレージ」や 「生米ぬか(未脱脂米ぬか )」を活用し、肥育 後期( 20 ~ 26 ヵ月齢)の黒毛和種去勢牛へ給 与した場合の肥育成績や血液性状について明ら かにしたので、その概要について紹介します。 2.肥育牛は発酵TMRをよく食べよく太る 生稲わらサイレージを 20 %(乾物中)配合 し、さらに生米ぬかを乾物中 5 %および 10 % 混合した2種類の発酵 TMR(図1,表1)を 肥育後期の黒毛和種去勢牛へ給与し、通常の給 与方法である濃厚飼料と乾燥稲わらを分離給与 した区(慣行区)と 1 日あたりの乾物摂取量を 比較しました。 発 酵 TMRの 調 製 方 法 1 .材 料 をミキ サ ー に 投 入 し 、 混合 4 .開 封 後 の 発 酵 TM R 図1 2 .内 袋 付 きの フレ コ ン バ ッ ク に 投 入 し、掃 除 機 で 脱 気 3 .2週 間 以 上 密 封 貯 蔵 発酵 TMR の調製方法 表1 発酵TMRの材料と混合割合 慣行区 生米ぬか5% 混合発酵 TMR区 生米ぬか 10%混合発 酵TMR区 - 5.3 10.6 生米ぬか 79.8 73.8 68.5 濃厚飼料1) 生稲わらサ - 20.0 19.1 混合割合 イレージ 乾燥稲わら 20.2 - - (乾物%) もみがら - - 0.9 炭酸カルシ - 1.0 1.0 ウム3) TDN 75.2 74.9 75.2 成分組成2) CP 10.9 11.0 11.1 (乾物%) NFC 42.9 42.7 42.4 粗脂肪 3.2 4.0 4.8 各試験区とも水分含量約45%となるよう加水 1) 市販配合飼料(TDN84.1%、CP12.8%/DM)、圧ぺん大麦、ふすま 2) 材料成分からの換算値 3) リンとカルシウム含量のバランスを適切にするため添加 その結果、発酵 TMR 給与区の乾物摂取量 や1日あたりの増体量は、慣行区に比べ多く なることが分かりました(表2 )。 表2 肥育後期黒毛和種去勢牛の乾物摂取量、日増体量 乾物摂取量(kg/日) 日増体量 試験区 n 計 濃厚飼料 粗飼料 (kg/日) 慣行区 5 7.54a 6.82a 0.72a 0.64a 生米ぬか5%混合 5 発酵TMR区 8.98b (7.19)a (1.80)bc 0.75ab 10.31c (8.25)b (2.06)c 0.83b 生米ぬか10%混 合発酵TMR区 5 ( )は粗濃比による換算値、同列異符号間に有意差あり(p<0.05) 3.生稲わらサイレージを発酵TMRに混 合すると、飼料中のβ-カロテン含量が多く なる 牛肉中の脂肪交雑(霜降り)を重視する肉 用肥育牛に対しては、肥育中期にビタミンA の給与量を制限するため、通常、粗飼料とし て乾燥した稲わらが給与されています。しか し、発酵 TMR 中に混合した生稲わらサイレ ージは、稲刈り当日に回収し調製するため、 ビタミンAの前駆物質であるβ‐カロテン含量 は、乾燥稲わらよりも多く含まれています。 このため、発酵 TMR 中のβ‐カロテン含量 は、慣行区に給与した飼料の値よりもかなり多 くなっています(表3 )。 表3 給与飼料中のビタミン含量 ビタミンA β-カロテン 試験区 (IU/kg) (mg/kg) 慣行区 368 0.3 生米ぬか5%混合 発酵TMR区 2,619 6.1 生米ぬか10%混 合発酵TMR区 2,467 5.8 ロース芯面積 (c㎡) 45a 51ab 53b 脂肪交雑 (BMS No.) 5.2 6.4 7.0 3.4 3.4 3.6 3.0 3.0 3.0 1 2 1 1 2 1 2 2 3 肉色 (BCS No.) 脂肪色 (BFS No.) A5 A4 材料からの換算値 β-カロテン含量1mg=ビタミンA400IUとして換算 A3 4.肥育後期牛への発酵TMR給与により、 血中ビタミンA濃度が高まり、ビタミンAの 欠乏症状が改善できる 慣行区の血漿中ビタミン A 濃度は、 50IU/dL 以下で推移し、食欲不振などのビタミンAの欠 乏症状が認められたため、当該製剤を経口投与 しました。 一方、発酵 TMR 給与区の血漿中ビタミン A 濃度は 、 100IU/dL 以 上で推移し、その欠乏症 状は認められませんでした(図2 )。 250 200 ビタミンA(IU/dL) 表4 肥育後期黒毛和種去勢牛の枝肉成績 生米ぬか5% 生米ぬか 慣行区 混合発酵 10%混合発 TMR区 酵TMR区 n 5 5 5 枝肉重量(kg) 396 412 427 米ぬか5%混合発酵 TMR区 米ぬか10%混合発 酵TMR区 慣行区 150 100 B3 異符号間に有意差(p<0.05)あり 6.発酵TMR給与にあたっての留意点 今回の試験で給与した発酵 TMR には、乾 燥稲わらよりもβ‐カロテン含量が多い生稲 わらサイレージを混合しているため、肥育中 期のビタミン A 給与量を制限する肥育体系で は、給与時期や給与量について注意が必要で す。 また、生米ぬか中にはリンや脂肪が多く含 まれるため、給与飼料中のカルシウムとリン のバランス(1:1~2:1)に注意すると ともに、飼料中の粗脂肪含量が乾物5%以下 に抑えた方がよいでしょう。このため、発酵 TMR への生米ぬかの混合割合は乾物 10 %以 下が良いと考えられます。 50 0 20 21 22 23 24 25 26 月齢 注)矢印はビタミンA製剤(50万IU/頭)を経口投与(慣行区のみ) 図2 血漿中ビタミン A 濃度の推移 このことから、ビタミン A 欠乏症状が現れ る 肥 育 後 期 に 発 酵 TMR を 給 与 す る こ と に よ り、ビタミン A 製剤の投与なしにその欠乏症 状が改善できることが分かりました。 5.肥育後期に発酵TMRを給与しても枝肉 成績に影響はない 発酵 TMR 区の枝肉重量やロース芯面積は、 慣行区と比べ大きい傾向にありました。また、 脂肪交雑( BMS ナンバー)や脂肪色( BFS ナ ンバー)に差はありませんでした(表4 )。 このことから、肥育後期に発酵 TMR を給与 しても、血漿中のビタミン A 濃度は高く推移 するものの、枝肉成績に影響を与えないことが 分かりました。 7.おわりに 今回の試験結果から、生稲わらサイレージ や生米ぬかを混合した発酵 TMR は、肥育後 期の黒毛和種去勢牛の飼料として十分利用で きると考えられます。 また、この食用米副産物を活用した発酵 TMR は、飼料中の濃厚飼料の混合割合を減ら せるうえ 、国内産の稲わらを活用できるため 、 飼料費の低減や飼料自給率向上の観点から、 黒毛和種去勢牛向けの新たな飼料給与方法と して期待できると考えています。 (酪農肉牛課 主任研究員 高平寧子) 発酵TMRとは・ ・ ・ ・混ぜご飯のように、数種類の材料を混合して作っ た飼料をTMR(Total Mixed Ration)といいます。 ・これを乳酸発酵させたものが「発酵TMR」です。
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