中性子を使って 非破壊で埋もれた界面を観る

中性子を使って
非破壊で埋もれた界面を観る
独立行政法人 日本原子力研究開発機構
原子力科学研究部門
量子ビーム応用研究センター
副センター長 武田 全康
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研究の背景
埋もれた界面と機能デバイス
磁気多層膜(機能)
濡れ性制御
1945年にノーベル物理学賞を受賞
し,パウリの原理で有名なパウリ
は.「固体は神が作りたもうたが
,表面は悪魔が作った」と述べて
いる.しかし,表面・界面の有す
る特異的な性質が,現代社会で重
要な様々な機能デバイスの物性を
九州大学 高原敦教授
支配している.
摩擦・摩耗
九州大学
接着・剥離
高原敦教授作成資料(www.j-neutron.com/takahara.pdf)を改変
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従来技術とその問題点(特徴)
表面・界面の解析手法
埋もれた界面の構造情報を知りたいのだが...
○空間分解能は原子レベルだが,表面形状にのみ適用可能
SEM, TEM, AFM, STMなど
○厚さ方向の元素分布がわかるが,試料が破壊されてしまう
ダイナミックSIMS, 3Dアトムプローブなど
○界面を含む膜の断面構造が原子レベルでわかるが,試料
の前処理が必要
断面TEM
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新技術の特徴・従来技術との比較 1
X線や中性子が平滑な物質表面にすれすれの角度で入射すると,
可視光と同じ光学(反射,屈折,透過)現象を示します.


試料が薄膜だと,左の図のよう
に表面と裏から反射した波が干
渉を起こします.
二つの波の山と山,山と谷が重
なる条件は,X線や中性子の波
長λ ,視射角θ ,試料の屈折率,
厚さD によって変わります.
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新技術の特徴・従来技術との比較 2
界面でスネルの法則(屈折率) 多層膜の場合,各界面からの反射
に従って反射・屈折します.
波の重ね合わせを観測します.
注意:実際には
数度以下です.
X線の屈折率は物質の組成で決まります.
中性子の屈折率は,物質の組成と磁化で決まります.
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新技術の特徴・従来技術との比較 3
干渉縞
(全体の膜厚)
全反射臨界
(密度)
・・
・
基板
σ = 0.9 nm
σ = 1.1 nm
周期的なピーク構造
(周期)
Ni (4.82 nm)
x 20
Ti (5.12 nm)
これは中性子反射率の測定
例です.X線を使う場合と何
が違うのでしょう?
 4 sin  
:波長
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新技術の特徴・従来技術との比較 4
中性子は容易に物を通り抜ける
中性子は軽い元素を見分けられる
(X線 ×, 放射光X線 △)
(X線 △)
中性粒子なので,物質を通り抜け易い(例外あり)ので容
易に埋もれた界面に到達できます.
中性子はミクロな磁石
(X線 ×, 放射光X線 ○)
小さな磁石であり,磁気構造も観測できます.
原子核と相互作用するので,軽元素や同位体が観測
できる.水素、ホウ素、炭素、窒素が識別できます.
中性子は波の性質を持つ
(X線 ◎)
回折や光学反射現象を使ってミクロな構造を調べられます.
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新技術の特徴
中性子反射率法を使うと,
非破壊で
nmオーダーの空間分解能で
埋もれた界面を含む多層構造を
調べることができます.さらに
中性子反射率計(SUIREN)
磁性薄膜の磁気構造も
調べることができます.
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新技術の特徴
中性子とX線の元素感受性の指標の陽子数依存性
中性子の屈折率
90
60
30
0
Z (陽子数)
核散乱長 b
http://pd.chem.ucl.ac.uk/pdnn/inst3/neutrons.htm
 2 b
n   , b,    1 

 :数密度 b :核散乱長  :波長
X線の屈折率
 2  Zr0
n  , Z ,    1 

r0 :電子古典半径
中性子は
1. 周期律表で隣り合う元素,軽元素と重元素を識別できます
2. 軽元素に対しても感度があります 反射率計は屈折率の差を
3. 同位体の識別が可能です
測定する装置
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新技術の特徴(測定例 高分子膜)
polystyrene (=D) and poly(2-vinylpyridine) (=P)
(C8D8)n ρ = 1.05 g/cc
(C7H7N)n ρ = 0.989 g/cc
X線では単層膜に
しか見えません
X線では軽元素
の組成のわずか
な違いを見るのは
困難です.
一方,中性子では
同位体(この例で
は軽水素と重水
素)識別能力を利
用することで違い
をみることが可能
です.
中性子のデータは,見やすくする
ために1/10してあります.
q (nm-1)
N. Torikai, et al., Physica B 283 (2000) 12.
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新技術の特徴(測定例 Sr/Si界面)
Si/Srの間の12 %も
の格子不整合がSi
基板を水素終端す
ると解消されます.
Si/Sr界面に水素
が残ってひずみを
緩和しているので
しょうか?
軽水素と重水素で反射率に差があることから,
単原子層の存在は確からしいと判断できました.
軽水素終端の測定
結果だけで,界面
の水素の存在を示
す結論を下すのは
困難でした.
T. Yamazaki, et al., Thin Solid Films 520 (2012) 3300.
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新技術の特徴(測定例 Ge/Sr/Si界面)
Geでキャップした試料では,より明確に
Sr/Si基板界面の水素単原子層の存在
を明らかにすることができました.
T. Yamazaki, et al., Thin Solid Films 520 (2012) 3300.
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新技術の特徴
中性子はそれ自身がミクロな磁石です.
○非磁性体に対する中性子の屈折率
 2 b
n   , b,    1 

 :数密度 b :核散乱長  :波長
○磁性体に対する中性子の屈折率
中性子スピンは向きをそろえること
ができます(偏極中性子)
 2  (b  m)
n   , b, m,    1 

m:磁気散乱長
偏極中性子スピンと磁化が平行か反平行かでこの符号
が変わります.
磁性によって屈折率が変わるので,磁気感受性を持ちます.
中性子スピンがそろった偏極中性子を使うと磁気感受性が高くなります.
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新技術の特徴(測定例 磁気多層膜)
偏極中性子を使って磁性多層膜の界面磁性を調べました.
磁化の深さ方向依存性
の違いを調べた結果
MnIrの厚さを
変えると磁気
結合の強さが
変わります.
界面で磁化が傾いて
いることを示す結果が
得られています.どう
やってわっかったので
しょうか?
日立製作所 日立研究所 平野主任研究員との共同研究
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新技術の特徴(測定例 磁気多層膜 続き)
中性子スピン
は反射の際に
磁化と平行ま
たは反平行で
あれば,スピ
ンは反転しま
せんが,垂直
成分があると
反転します.
中性子スピンは
外部磁場に対し
て平行か反平行
かです
反射前
反射後
非反転
反射前
反射後
反転
反射する際に中性
子スピンが反転しな
い成分(R++とR- -)と
反転する成分(Rsp)
の両方が観測されて
います.
上の図のように磁化
が外部磁場に対して
傾いていることを意
味します.
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実用化に向けた課題
○微小試料の測定は困難
最低でも25mm2程度の試料面積が必要です
また,測定は可能ですが測定時間が長くかかってしまいます
集光ミラーにより,
小さな領域に中性
子を集めることがで
きるので,小さな試
料に対しての測定
効率が上がります.
集光ミラーなし
集光ミラーあり
解決出来ない問題
○中性子照射により,試料が放射化し実験室(放射線管理区域)
から持ち出せなくなる場合がある
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想定される用途
情報・通信
フォトレジスト,Low-k, High-k材料,HDD,
量子ドットレーザー,フォトニック結晶
化学
触媒,腐食,界面活性,接着,粘性,濡れ
エネルギー
燃料電池,太陽電池,超電導材料,水素吸蔵材料
医療・生体
生体膜,バイオセンサー
繊維・素材
撥水・親水処理
機械
摺動,潤滑,接合,センサー
鉄鋼・金属
熱処理,塗装,めっき,酸化膜
建設
軽量構造材料,耐候性材料,遮光ガラス
食品
包装フィルム,濾過,分離・精製,生分解性プラスチック
平成18年度科学研究費補助金【基盤研究(C)】
X線・中性子解析による「埋もれた」界面の科学に関する調査 中間報告書 研究代表者 桜井健次 より抜粋
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JAEAが持つ中性子実験施設
J-PARC
物質・生命科学
実験施設(MLF)
:パルス中性子源
J-PARCは高エネルギー加速器
研究機構(KEK)と共同運営
2種類の中性子源
JRR-3:定常中性子
東海管理センター(茨城県東海村)
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JRR-3の中性子反射率計SUIREN
中性子散乱装置: 25 台
(原子力機構11台+大学14台)
即発γ線分析装置,中性子ラジオグラフィ装置,
均一照射設備(シリコンドーピング),
照射孔(原子力機構)
炉室
中性子反射率計(SUIREN)
ビームホール
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物質・生命科学実験施設(MLF)
の中性子反射率計 写楽
23本のビームライン(BL)
その内の5本が*共用促進法
により作られたBL
BL17(写楽)は共用BL
中性子反射率計 (SOFIA)
KEK 設置装置
中性子反射率計(写楽)
*特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律
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JRR-3における産業利用
JRR-3はすでに多くの産業界の方に利用していただいています
利用延べ日数(日)
産業利用延べ日数(日)
産業利用の現状
(JAEAの13台の装置の
利用時間比率、課題数
ではない)
企業代表 企業協力
※ 長期間の原子炉停止により低減
※
H17
5%
6%
H18#
7%
10%
H19
10%
15%
H20
10%
15%
H21
8%
8%
H22
11%
15%
(共同研究者分も含む)
#新規利用プログラム開始
・施設供用(原子力機構)
・トライアルユース
(放振協)
有償化
供用化
(PGAはH16,TNRFはH17,RESA-ⅡはH19.9から集計開始)
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物質.生命科学実験施設の
中性子反射率計利用状況(BL17)
非常に広範囲な研究分野で使っていただいています
2011B〜2014Bの課題件数の割合(学術利用を含む)
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企業への期待
JAEAは外部の方がJAEAの有する研究施設・設備を利用出来る
ように「施設供用」制度を設けており,JRR-3やMLFをすでに多く
の企業の方に使っていただいています.
JAEAは中性子を利用した分析に関する豊富な知見・ノウハウを
有していますので,施設利用よりもさらに踏み込んだ共同研究な
どを通じ,企業の製品開発や改良,プロセス改良のお役にたちた
いと考えています.
利用相談,共同研究の相談に関しては,守秘義務に配慮したお
打ち合わせが可能ですので,研究連携成果展開部にお気軽にお
問い合わせ下さい.
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産学連携の経歴
・2006-2010年 株式会社日立製作所
日立研究所と共同研究実施
・2006-2010年 *中性子利用技術移転推進プログラム
により,20社以上が中性子反射率実験実施
・2006-2010年 企業,企業+研究独法による利用実績
(参考 2011年度 4社の成果非占有での利用を予定していました)
お問い合わせ先
(独)日本原子力研究開発機構 研究連携成果展開部
TEL
029-282-6934
e-mail sangaku.riyou@ jaea.go.jp
*放射線利用振興協会受託事業により実施
http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/ryoushi/detail/1323226.htm
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