演習 9

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【演習 9】
《問 1》シクロヘキサンのいす形立体配座と舟形立体配座を、水素を省略せずに書け。
《解説》
シクロヘキサン骨格の書き方に従って、まずシクロヘキサンのいす形立体配座(chair
conformation)を描く。
(規則 1)二つのいす形骨格を、それぞれ黒線、赤線、青線が平行になるように描く。
and
(規則 2)いす形の角が上向きは上方向(赤線)、角が下向きは下方向(青線)に axial 軸
を描く。
(規則 3)equatorial 軸はシクロヘキサン環の色分けした結合方向と平行にそれぞれ伸ば
す。
以上を総合することで、シクロヘキサンのい す 形 立 体 配 座 (chair conformation)
が完成する。ここで、いす形立体配座 A(chair conformation A)が反転するといす形立体
配座 B(chair conformation B)となり、この時、いす形立体配座 A のアキシャル位の水素
(赤色)はいす形立体配座 B ではエクアトリアル位の水素になっていることがわかる。
H
H
H
H
H
H
HH
H
HH
H
H
H
chair conformation A
H
H
H
H
H
H
H H
H
H
chair conformation B
舟形立体配座(boat conformation)はいす形立体配座 A の右側といす形立体配座 B
の左側を並行線(下図舟形立体配座の赤線)で繋いで描く。また、1 位と 4 位のエクアト
リアル水素(緑色)は並行に、アキシャル水素(水色)はやや内側(120 度の角度の方向)
に描く。
2
left-side of
chair conformation B
H
H
4
H
H
right-side of
chair conformation A
H
120°
1
H
H
H
H
H H
H
以上をまとめて、いす形立体配座がもう一方のいす型立体配座に反転する化学平衡を、
不安定な舟形立体配座を通して次のように描く。
H
H
H
HH
H
H
H
HH
H
H
H
chair conformation
H
H
H
HH
H
H
H
H
H
H H
H
boat confomation
H
H
H
H
H
H
H H
H
H
chair conformation
3
《問 2》シクロヘキサンのいす形立体配座には環ひずみがないことを簡単に説明せよ。
また、シクロヘキサンの舟形立体配座はなぜ不安定化しているのか、その理由を述べよ。
《解説》
シクロヘキサンが正六角形(下図の A)だとすると内角は 120 となり、通常の sp 3 炭
素の結合角 109.5 より広がっていることになる。また、それを Newman 投影式で描く
と B となり、これは重なり形立体配座となっている。すなわち、正六角形構造では環ひず
みのある化合物ということになり、不安定な化合物ということになる。しかし、構造 A の
赤●で示した炭素を上に、青●で示した炭素を下にねじると、C のようないす形立体配
座(chair conformation)となる。それを Newman 投影式で描くと D となり、これはねじ
れ形立体配座(staggered conformation)であり、重なりひずみが解消される構造で
ある。また、このようにシクロヘキサン環がねじれることで、sp3 混成炭素の結合角 109.5
に極めて近い結合角を取ることができ、結合角ひずみも完全に解消される。従って、シク
ロヘキサンはい す 形 立 体 配 座 (chair conformation) を取ることで環ひずみが解消さ
れる。
H
120°
H
H
H
H
H
H
H
H
H
HH
HH
H2
C
C
H2
HH
HH
111.4°
H
A
HH
H
H
H
H
C
107.5°
H
H2
H
C
H
B
H
H
C
H
HH
H
H
H2
H
D
また、シクロヘキサンは反転(flipping)を起こし、いす形立体配座 C から舟形立体配
座 E となり、もう一方のいす形立体配座 C へ変換される。すなわち、いす形立体配座 C
の青●炭素を上にひねると(青矢印)舟形立体配座 E となり、E の赤●炭素を下にひねる
と(赤矢印)、一方のいす形立体配座 C となる。
H
H
HH
H
H
H
H
HH
H
H
C
H
H
H
H
HH
H
H
H
H
H
H H
E
H
H
H
H
H
H H
H
H
C'
H
H
4
片方のいす形立体配座 C からもう片方のいす形立体配座 C へ変換されるとき、舟形立
体配座 E を経る。この舟形立体配座は Newman 投影式で描くと下図のようになり、重な
り形立体配座となっている。よって、重なりひずみを生じている。また、1,4 位のシクロ
ヘキサン環内側に位置する水素はお互いに近い位置(1.83 Å)にあり、立体反発(steric
repulsion)を招いている。この反発を渡環ひずみ(transannular strain)と呼び、以上
の重なりひずみと渡環ひずみのため、舟形立体配座 E は 6.9 kcal/mol だけいす形立体
配座 C や C より不安定化している。
H
H
H
H
H
steric repulsion
H
H
H
H
H H
E
H
H
1
H
H
H
H
H
H
HH
HH
F
eclipsed conformation
Eclipsing strain
H
H
H
H
H
4
H
H H
H
Transannular strain