ハビタブル惑星の考究 ∼ハビタブル惑星発見に向けて∼ 堂ケ崎 知誠 ∗† 2014 年 5 月 5 日 keywords: exoplanets, habitable zone, habitable planet candidates, Kepler 概要 この宇宙に地球外生命はどれだけ存在するだろうか. この概念を追究すれば生命天文学や宇 宙生物学, 遠回しに言えば,間接的であっても医学にも通ずる重要な概念である. 太陽系外に惑星の存在を求め始めたのは 1930 年代後半からである. 1940 年代に入り「アスト ロメトリー法」による系外惑星探査が本格的に始まった. その後数十年の間に, 特に 1980 年代 にはドップラー法を採用したが結果的に惑星は発見できなかった. ところが 1995 年 10 月に主系列星周りの系外惑星をドップラー法で発見して以来, この 20 年 の間に 1000 個を超えた. 系外惑星の姿は, 地球型惑星も地球半径・質量共に数倍から 10 倍前 後の惑星が多く発見されている. また, 星の近傍に木星のような巨大ガス惑星が公転している など太陽系の惑星の姿と大きく異なっている. 今ではケプラー衛星による惑星の発見とトランジット法による観測が成果を上げている. 2009 年 3 月には NASA がケプラー宇宙望遠鏡を搭載したケプラー衛星を打ち上げ, 3500 個以上の 惑星候補が報告されている. その中で自作ソフトウェア「Planet Hunter9」を使ってハビタブル惑星候補を選び出す作業を 進めている. ハビタブル惑星候補が全体の何割を占めるか注目を集めると期待される. 修士論文を通じて独自で研究を進めた結果, 2014 年 1 月現在で確認済みの Kepler/KOI の ハビタブル惑星候補は平衡温度が 180∼260K の範囲で 44 個だった. 昨年末に新しく追加され た 275 個の中でまた, ハビタブル惑星候補が増加すると見込まれる. これらを合わせて 319 個 の Kepler/KOI のハビタブル惑星候補の中で実質どれだけのハビタブル惑星候補の数が出て くるか大いに期待できる. ハビタブルゾーンの素は星が放つ放射フラックスによる温室効果領域の仕切りから構成されて いる. Kopparapu et al. 2013 によるモデルに基づくと, 主に暴走温室効果, 湿潤温室効果, 最 大温室効果の 3 種類の温室効果がハビタブルゾーンを構成している. 具体的に温度別には, 暴 走温室効果領域よりも星に近い方面の領域は「Hot Zone」, 主にハビタブルゾーン*1 は「Warm ∗ † *1 c Copyright ⃝2014 All rights reserved, Physit. 本名.”P hysit”はリツブ王国国王 (Web 管理者)/リツブ王国 王立系外惑星天文学研究所所長 (Institute for Astronomy in Ritsubu Kingdom) としての名前. 惑星表面で水が凍らず, 蒸発しない液状で存在しうる領域. 暴走温室効果限界または湿潤温室効果限界から最大温室 効果限界で囲まれた領域 Zone」, ハビタブルゾーンよりも以遠の領域では「Cold Zone」として区別されている. ハビタブルゾーンは主に 3 種類の温室効果によって囲まれた領域であるが, 今までの博士前 期課程の研究においてはハビタブルゾーンの両端から惑星の軌道までの距離と惑星半径及び質 量, 公転周期, 星の有効温度とを比較してこれらの関係を調べた. 低温星周り (2600∼5200K) の RP < 3R⊕ の小型の惑星がハビタブルゾーンの両端に集中し, 逆に高温星周り (5200∼7200K) の 3R⊕ < RP < 10R⊕ の範囲のスーパーアースはハビタブ ルゾーン内に軌道を持つ傾向にあることが分かった. 湿潤温室効果から-0.05[AU] 以内の領域 には平衡温度が 250K 以上の惑星が多く集中し, 250K 未満の惑星は-0.1[AU] より以遠に軌道 を持つ傾向があることが判ってきた. 今後も増え続ける新規の Kepler/KOI 惑星候補はこの傾向に従う可能性があると予想でき る*2 . Kepler/KOI の 惑 星 候 補 天 体 が 次 々 と 公 表 さ れ, そ の 中 か ら 自 作 ソ フ ト ウ ェ ア「Planet Hunter9」でハビタブル惑星候補を選び出す作業が非常に面白い. 新規追加された 275 個 のハビタブル惑星候補の中で M 型星周りの惑星 KOI 1422.04, 05 は同一系でハビタブル惑 星候補が 2 個存在し, 超極低温 2661K の M 型星周りの KOI 959.01, さらには軌道面傾斜角 i = 90[deg] の惑星 KOI 5080.01 など 26 個の惑星が登場するなど面白い特徴を持つ惑星系が 見え始めている. 今後も理論的な研究を継続的に進めることで, ハビタブル惑星検出に向けて 新しい発見があるかもしれないと期待している. 観測を通じてこれらの惑星の状態が確認でき れば一層理論的研究にも勢いが増すと期待される. Kasting et al. 1993 で定義された惑星の放射フラックスを推定すると, ハビタブル惑星候補 は意外に少ない存在であることが分かりつつある. 大気の状態を表現する材料の一つとして最近の研究では「フラックス」を軸として惑星の水の 存在率を考えることにより推定している. 銀河系内の星の 8 割以上を占めると言われている M 型星の周りを公転する惑星は太陽に比べ て低温の主星近傍に在る為, またトランジット確率が高く小型の為, 検出しやすいというメリッ トがある. 主星自身も低温で軽いため, 主星が惑星を持っていればその引力の影響を受けてぶ れやすくなる. さらに惑星の habitability を評価するためには惑星大気だけでなく, 海も考える必要が出て くる. 惑星の大気と海の安定度を推定することを考える. 大気の質量 Matm には惑星の表面積 2 分の大気圧 (4πRP PS ) が加わるから, 力のつり合いから 2 Matm gP = 4πRP PS (1) と表せる. したがって, 惑星の大気の質量 Matm は, Matm = 2 4πRP PS gP (2) 地球の場合 Matm⊕ = 5.2 × 1018 kg とされている. RP は惑星半径, gP は惑星の重力である. PS が大きいほど Matm が大きくなる. 大気圧 PS [bar](1[bar]=1013[hPa]=1.013×105 [P a]) が 大きいほど, 高圧の大気になり, 高温の海になっている可能性がある.また, 重力が強いほど大気 の質量は小さくなる. *2 Kepler/KOI 惑星候補 51 個を対象にした 2014 年 3 月時点 2 次に惑星表面の海を考慮し, 以下のような惑星内部構造モデルを考える. 惑星の表面に一様に広がる海を考える. 液体の水の密度を ρwt [g/m3 ], 海の深さをd[m] とすると, 海の質量 図1 惑星の内部構造モデル Mocean は, ∫ 2π 4πρwt d2 dθ Mocean (θ) = (3) ψ から計算すると, Mocean (θ) = 1 4π [ρsum l(2π) − ρP lP (2π)] + 2 [ρP lP (ϕ) − ρsum l(ϕ)] π ϕ (4) となる. 地球の海の長さを lphi = 4000[m], 液体の水の密度を ρwt = 1.03[g/m3 ], 地球と水の合計の密度を ρsum = 6540[kg/m3 ] とすると, 地球の海の質量は,Mocean = 1.4 × 1018 [kg] である. 図2 地球に類似した環境であると期待されている Kepler-186f 3 度の観測でハビタブルゾーン内にあると確認され, 2014 年 4 月に NASA によって公表されたハビタブル 惑星候補であるケプラー 186f (図) は地球半径の 1.02 倍で, 有効温度が Tef f = 3788K と推定される中心の M 型星から 0.393AU だけ離れた軌道を 129 日の周期で公転しており, 地球の 32 %のフラックスを放射し大 気圧も地球の 0.95 気圧で地球に類似した環境であると期待されている. 本書では将来のハビタブル惑星検出を念頭に惑星の habitability を評価する為に, 惑星の表面の状態の安定 度を示す新しい尺度を導入し, 修士論文から現在までに進めてきたハビタブルゾーンに関する研究の現状を報 告する. 3 参考文献 [1] ケプラー衛星データに基づくハビタブル惑星候補に関する考察*3 , 堂ケ崎知誠 (2013) [2] 地球外生命体を探せ, NHK「サイエンス ZERO」取材班 + 田村元秀 [編著](2011) [3] シリーズ現代の天文学第 9 巻 太陽系と惑星, 渡部潤一他編 (2009) [4] 異形の惑星, 井田茂 (2003) [5] 系外惑星, 井田茂 (2007) [6] 大気放射学の基礎, 浅野正二 (2010) [7] 大気化学入門, 東京大学出版会 [8] Habitable Zones Around Main Sequence Star, Kasting et al.(1993) [9] Habitable Zones Around Main Sequence Star:New Estimate, Ravi kumar Kopparapu et al.(2013) [10] Habitable Zones Around Main Sequence Star:Dependence on Planetary Mass, Ravi kumar Kopparapu et al.(2014) [11] An Earth-sized Planet in the HabitableZone of a Cool Star, Quintana et al.(2014) [12] Habitability of Earth-like planets with high obliquity and eccentricity orbits: results from a general circulation model, Manuel Linsenmeier, Salvatore Pascale, Valerio Lucarini(2014) [13] THE MASS-RADIUS RELATION BETWEEN 60 EXOPLANETS SMALLER THAN 4 EARTH RADII, Weiss and Marcy(2014) [14] WATER CYCLING BETWEEN OCEAN AND MANTLE: SUPER-EARTHS NEED NOT BE WATERWORLDS, Cowan and Abbot(2014) [15] 実践 Fortran95 プログラミング + gnuplot, 田辺誠・平山弘著 (2008) [16] VisualBasic 初級プログラミング入門 [上], 河西朝雄 技術評論社 (1999) [17] VisualBasic 逆引き大全 500 の極意, 秀和システム (2006) [18] VisualBasic6.0 300 の技, 技術評論社, 松田猛著 (1999) [19] VisualBasic6 応用編, 川口輝久・河野勉著 (1999) 筆者の情報 修士 (理学). 日本天文学会, 日本惑星科学会所属. 2012 年度国立天文台特別共同利用研究員, 2013 年度は自主委託院生として国立天文台系外惑星探査プロジェクト室に所属. 2014 年 3 月日本 天文学会にて発表. *3 修士論文. 田村元秀教授 (東大) に研究指導をして頂いた. 4 • リツブ王国 王立系外惑星天文学研究所 http://iar145.yi.org/astron/IAR.html • リツブ王国 系外惑星データーベース http://iar145.yi.org/astron/318dome/db 5
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