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超音波-レーザ計測による波形データを用いた
クラック決定解析の精度について
Verification of crack determination using laser-measured waveforms of ultrasound
吉川 仁(京大・工) 大田 裕貴 (京大・工) 西村 直志(京大・学術情報メディア)
Hitoshi YOSHIKAWA, Kyoto University
Yuki OHTA, Kyoto University
Naoshi NISHIMURA, Kyoto University
FAX: 075-753-5116 E-mail: [email protected]
Particle velocities from directions tilted from normal direction are measured with an improved laser
interferometer on a surface of a specimen to obtain both horizontal and vertical velocities using
the vector decomposition rules for these velocities. We can determine the unknown cracks more
accurately using the horizontal and vertical velocity waveforms than using only the vertical velocity
waveforms.
1.
序論
著者らは超音波の発信にトランスデューサを、受信に
レーザ干渉計を用いる超音波–レーザ計測による計測波
形データを用いた非破壊評価法に関する研究を行ってい
る1),2) 。レーザ干渉計を用いれば、対象材料表面の粒子
速度を計測できるため、レーザ干渉計からの出力波形を
欠陥・クラックの位置形状決定解析に利用できる。著者
らは、これまで円柱形の内部欠陥や表面クラックを持つ
円柱形のアルミニウム合金製の供試体を用いて供試体表
面 (これを x1 x2 平面とする) の法線方向 (x3 方向) から
レーザ計測を行い、得られた速度波形データから円柱形
欠陥や表面クラックの位置・形状を決定してきた1),2) 。
しかし、これらの欠陥・クラック決定解析では、3 次元
時間域動弾性 BIEM により供試体表面の粒子速度の 3
成分が計算されるにもかかわらず、計測点における粒子
速度の計測値と数値解の鉛直方向成分の比較しか行われ
ていない。ここ数年、レーザ干渉計の性能が向上し、法
線方向からある程度角度をつけた方向からでも、安定し
たレーザ計測が行えるようになり、粒子速度の水平方向
成分の計測が可能となった。そこで、本報では、性能の
向上したレーザ干渉計を用いて超音波–レーザ計測を行
い、供試体表面に対して斜め方向からレーザ計測を行う
事で、水平方向速度成分の計測が可能であるかを確認す
る。また、そのようにして得られた水平・鉛直速度波形
データを用いてクラック決定解析を実行し、その精度を
検証する事を目的とする。
2.
超音波–レーザ計測
深さ 5mm、傾斜角度 90 度の長方形の表面クラックを
持つアルミニウム合金製 (P 波速度: cL = 6380 m/s, S
波速度: cT = 3180 m/s) の円柱形供試体 (半径 100mm、
厚さ 50mm) を用いて、表面クラックの深さ d(mm)、傾
斜角度 θ(度) を速度波形データから決定する問題を考え
る。逆解析に必要な水平・鉛直超音波速度波形データを
得るために、次の超音波–レーザ計測を行う。供試体に
超音波トランスデューサ (SONIX NF00513, 振動面の半
径 rtra = 7.25 mm, 中心周波数 500KHz) を取り付け
る。パルサ (RITEC SP-801) を用いて 500KHz のスク
ウェアパルスを超音波トランスデューサに入力し、供試
体内に弾性波動場を形成する。また、供試体表面粒子の
速度計測は、レーザ干渉計 (小野測器 LV-1710 高周波計
測用改良型) を用いて、Fig. 1 の点 L1−5 , R1−7 におい
て、供試体表面の法線方向と、法線方向から x1 , x2 方向
に φ = 20 度傾けた方向から行った。なお、供試体は十
分大きく計測時間 (∆T = 9.75µs) 内には、供試体の底
面、側面からの反射波の影響は現れない。
R1(24,0)
R2(26,0)
R3(30,0)
R4(32,0)
R5(26,5)
R6(28,7)
R7(30,5)
2
R6
L2
o
L5 L3 L1
L4 (-24,0)
10.5
R1 R2 R3 R4
laser beam
20
transducer
14.5
R7
R5
28
90
5
Fig. 1 レーザ計測位置と計測方向 (単位: mm)
点 Ri での粒子速度を V Ri (t) とすると、法線方向か
らのレーザ計測により V3Ri (t) が得られる。また、法線
方向から x1 , x2 方向に φ = 20 度傾けた方向からのレー
ザ計測により得られた速度を VT1 Ri (t), VT2 Ri (t) とする。
ここで、
VTRj i (t) = VjRi (t) sin φ + V3Ri (t) cos φ
VjRi (t) =
VTRj i (t) − V3Ri (t) cos φ
sin φ
, (j = 1, 2)
(1)
であり、式 (1) から水平速度成分 VjRi (t), (j = 1, 2) が
得られる。点 Li での、粒子速度 V Li (t) についても、同
様に水平方向速度成分を得る事ができる。
3.
水平・鉛直方向速度波形データを用いたクラック決
定解析
Fig. 1 の点 L1−5 , R1−7 において、法線方向から計
測した速度波形データ V3Li , V3Ri と法線方向から 20 度
傾けた方向から計測した速度波形データ VTLji , VTRj i を用
いて、表面クラックの深さ d と傾斜角度 θ を決定する
問題を考える。
超音波トランスデューサが供試体に及ぼす作用を時間
変動を伴う鉛直方向の力 (以下、トランスデューサ等価
力と呼ぶ) に等価し、トランスデューサ接触面の中心か
ら半径 2.72mm の円領域 (∂Dt1 ) にトランスデューサ等
価力 p1 が、残りの領域 (∂Dt2 ) にトランスデューサ等価
力 p2 が作用していると仮定する。このとき、Fig. 1 の
点 L1−5 で計測された鉛直速度波形データ V3Li (t) は次
式で表される。
2 Z t
X
k3ij (t − s) p˙j (s) ds
(2)
V3Li (t) =
| {z }
| {z }
0
j=1
measured
unknown
ここで、‘( ˙ )’ は時間微分、kij (t) は pj (t) = δ(t)
としたときの点 Li での変位であり、Lamb の解を
∂Dtj で積分し求められる。Lamb の解3) は、3 次元半
無限領域 x3 ≥ 0 において原点に x3 方向に大きさ
F H(t) (H(t) は Heaviside 関数) の集中荷重が加えら
れたときの x3 = 0 上の点での変位の解析解である
(Fig. 2)。式 (2) を解き得られたトランスデューサ等価
0.4
0.2
0.015
0.01
0.005
0
-0.005
-0.01
-0.015
0
1e-06
2e-06 3e-06 4e-06
5e-06 6e-06 7e-06
8e-06 9e-06
i
Fig. 3 VTLLamb
(t) と VTLji (t)
解くことで得られる。計測波形データから式 (1) を用い
て V Ri を求め、水平・鉛直方向速度の数値解と計測値
の差からなるコスト関数 Jsum
7 X
3 X³
´2
X
Jsum =
VjRi (m∆t) − vjRi (d, θ, m∆t)
i=1 j=1 m
を導入し、コスト Jsum を最小にする形状パラメータ d, θ
を決定する。形状パラメータ d, θ とコスト Jsum の等高
線を描いたところ (d, θ)=(5mm,90 度) 付近でコストが
最小となっており、正解の値と良く一致した。なお、法
線速度波形データのみを用いて決定された形状パラメー
タは (d, θ)=(5mm,80 度) である。水平・鉛直方向速度波
形データを用いる事で、クラック決定解析の精度が向上
したと言えよう。
4.
0
-0.2
-0.4
0
0.5
1
1.5
2
2.5
Fig. 2 Lamb の解: uz , ur
力 p˙ 1 (t), p˙ 2 (t) と Lamb の解の半径方向成分 ur 、鉛直方
向成分 uz を用いた順解析を行い、法線方向から x1 軸
i
方向に 20 度傾けた方向の速度 VTLLamb
i
VTLLamb
(t)
Z
2
t³
´
X
=
k1ij (t − s) sin φ + k3ij (t − s) cos φ p˙j (s)ds
j=1
0
i
を計算し VTLji と比較した。Fig. 3 に点 L1 , L2 での VTLLamb
i
と VTLji を示す。Fig. 3 より、VTLLamb
と VTLji は良く一致
しており、法線方向から 20 度傾けた方向からのレーザ
計測で、水平方向速度成分が正確に計測できている事が
確認できる。
次に、クラック決定解析を行う。点 R1−7 の粒子速度
の数値解は、トランスデューサ等価力 p˙ j (t) を境界条件
の一部とする初期値境界値問題を時間域動弾性 BIEM を
結論
レーザ干渉計の性能向上により、対象物に対して斜め
の方向からのレーザ計測が可能となった。本報では、法
線方向から計測した速度波形データと Lamb の解を用
いた逆解析、順解析により、斜め方向からのレーザ計測
によって対象物の水平方向速度成分が正確に計測できて
いる事を確認した。また、これまで計測上の制限から、
鉛直方向速度波形データのみしか利用できていなかった
クラック決定解析を、水平・鉛直方向速度波形データを
用いて行い、クラックを決定した。クラック決定の精度
は向上しており、水平方向速度波形データをクラック決
定解析に用いる事の有効性が確認できた。
参考文献
1) H. Yoshikawa, N. Nishimura and S. Kobayashi, On
the determination of ultrasonic waves emitted from
transducers using laser measurements with applications to defect determination problems, 土木学
会応用力学論文集, Vol.4, pp.145–152, 2001.
2) H. Yoshikawa and N. Nishimura, An improved implementation of time domain elastodynamic BIEM
in 3D for large scale problems and its application
to ultrasonic NDE, Electronic Journal of Boundary Elements, Vol. 1, Issue 2, pp.201–217, 2003.
3) C.A. Erigen and E.S. Suhubi, Elastodynamics,
Vol.II, Linear Theory, Academic Press, 1975.