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ROLAND BERGER TOKYO STUDY
Automotive Japan
ラインナップの多様化による
新セールスチャネル戦略
マーティン・トンコ
長島 聡
2014 年 6 月
ROLAND BERGER TOKYO STUDY / Automotive Japan
要旨
自動車業界は今後も持続的な成長を維持させる上で、未だかつてない程大きな 2 つのマクロトレンドの
潮流に身を委ねていると言える。その 1 つとして、プラットフォーム戦略から、より柔軟なモジュール・ア
ーキテクチャ戦略への革新的な移行に伴い、頻繁にモデル更新が可能になった点がまず上げられる。
また、ドライブトレインテクノロジーにおける革新的な技術発展に伴い、従来のガソリンやディーゼルエン
ジンから、より多様な電気・圧縮天然ガス(CNG)・水素エンジンが開発されたことが 2 点目として上げる
ことができる。
現状で、上記トレンドは全く別の現象として語られることが多く、ほとんどの場合、販売側の視点ではなく
生産側の視点から議論されることが多い。しかしながら、これらのトレンドを組み合わせて語ることが、消
費者に革新的な選択肢を提供すると同時に、現在の自動車産業における卸・小売の「あり方」に新たな
課題を突きつけることに繋がるのである。ヨーロッパのプレミアムカーメーカーに差し迫る課題でもある
が、今後多くの完成車メーカーは、より多様なモデルを展示・販売し、修理においても自社の店舗で対応
できるようにしていく必要がある。
このようなトレンドは、販売台数の伸びが限られ、且つ利幅も薄いような飽和した成熟市場に多く見られ
る。卸レベルで見ると、モデルの選択肢が増えることにより、各モデルごとの売上が減少すると共に、モ
デルローンチ時の固定費や営業活動費も重くのしかかるようになる。また、小売レベルでは、各顧客が
最終的に購買を決定する際、ブランドイメージだけでなく実際の“ドライビング・エクスペリエンス”も求め
る傾向が強いため、モデルの多様化に伴い、限定的な販売スペース、ディスプレイ、試乗車フリート等の
最適化、並びに更なる拡大も必要となる。但し、単純なキャパシティの拡大は現状の利幅を削ることにな
るため、リソース配分を最適化する上で画期的なコンセプトが必要となるのは自明である。
その際、日本の市場は 1 つの有効なレファレンスになると考える。日本の輸入車を見た場合、バリュー
チェーン上の全体最適という観点から、卸と小売が効率的な協業を実現できていない場合が多く、一元
化のメリットも十分に享受できていないと言える。更に、キャパシティーの拡大のために多額のコストが
かかることから、今後自動車を販売していく上で、キャパシティーを最適化するための革新的な方策が
特に必要になってくる。実際、日本の大手外車輸入ディーラーを単体で見ても、ローランド・ベルガーの
見解としては、今後 5 年で数億ユーロ(数百億円)規模で投資の引き合いが発生し、早晩対策が必要に
なると予想している。
早急な対応が必要なのは、日本市場に限ったことではない。実際、いくつかの完成車メーカーでは、抜
本的なモジュール化やドライブトレイン改革のトレンドに合わせて、グローバルレベルで積極的にこの課
題への対策を練っている状況にある。今後、対応を後回しにしている企業は、大きな代償を払うことにな
るだろう。
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目次
要旨............................................................................................................................... 2
1
成熟市場に向けたトレンド .................................................................................. 4
2
顧客の購買行動 ............................................................................................... 6
3
卸と小売が直面する課題 ................................................................................... 7
4
卸と小売におけるイノベーション(日本の事例) .................................................... 8
4.1
卸の課題 .......................................................................................................... 8
4.2
卸と小売の協力関係構築における課題 .............................................................. 9
4.3
小売における課題 ........................................................................................... 11
5
潜在的な財務インパクト(日本の事例) ............................................................. 14
6
最後に ............................................................................................................ 16
3
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1 成熟市場に向けたトレンド
近年、グローバル展開している完成車メーカーは、新興国、特に中国東部における市場拡大の恩恵を
受けている。これら新興国は、販売台数で既に成熟市場を上回る成長を見せてきたが、近年この成長も
鈍化の一途を辿りつつあり(図表 1 参考)、2035 年以降は新興市場までもが成熟化する見込みにある。
このような状況下、潜在市場は引き続き成長していく見込みはあるものの、成熟市場や新興市場におけ
る販売台数低下を補える程のものではない。今後、このような成長性の鈍化や成熟市場の乱立は想定
しておくべきである。
図表 1: 中国東部などの新興国市場がグローバルでの販売を席巻しているものの、急速に成熟化に向かいつつある。加えて、
潜在市場は成熟市場の成長性鈍化を補う程には至らない
出所: IHS、LMC、ローランド・ベルガー
2022 年頃には、自動車産業全体がセールスチャネル戦略における新潮流に突入することになり、各完
成車メーカーはそれぞれ株主の期待に応えていく上で、成熟市場にフォーカスした事業戦略が必要にな
ってくる。
但し、成熟市場の成長が限定的であるため、今後販売台数を確保するためには、リテンション数の増加
及び新規獲得による内的成長、もしくは M&A 等による外部成長などでしか実現できない。そのため、成
熟市場で生き残るために必要なのは、やはり多種多様なラインナップを揃えていることに尽きる(図表 2
参照)。
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図表 2:各成熟市場でのプロダクトラインナップは 100 種類以上の製品が既に投入されている(モデル別 x 仕様別 x 車種別)
出所: IHS、ローランド・ベルガー
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2 顧客の購買行動
過去 20 年間、自動車業界は自動化やプラットフォーム化、また多品種少量生産に対応できるようなモ
ジュラー生産コンセプトの開発に投資してきた。現状で、対象となるニッチ市場を特定し、収益性を担保
しつつ最新モデルで参入することが、自動車産業において重要な参入障壁となっている。また、ラインナ
ップの多様化及び個性化の重要性が増す中、オプション装着率が大幅に向上しているため、顧客にとっ
てより一層重要な購買要因になっていることが伺える。
現状で、完成車メーカーは顧客にとっての選択肢をより増やすため、商品ラインナップの拡大を図ってい
る。特定の完成車メーカーを例に取ると、モデル・車種・ボディータイプで分類した際、1994 年時点では
約 40 モデルに留まっていたところ、2004 年には 102 モデル、2014 年には 268 モデルに拡大しており、
今では 2019 年に向けて 293 モデルへの商品ラインナップ拡大を目指すまでに至っている。また、現状
でその他の完成車メーカーも、同様に商品ラインナップを拡大している状況にある。(図表 3 参照)
図表 3: グローバル展開している完成車メーカーの商品ラインナップ拡大傾向(数値は、モデル・車種・ボディータイプで区分)
(2004~2019 年) 単位:モデル数
出所: IHS; Roland Berger
ガソリン、ディーゼル、電気、圧縮天然ガス(CNG)、水素等、多様化するパワトレの種類を、商品ライン
ナップに掛け合わせることで、消費者の選択肢の幅はよりいっそう広がることになる。消費者の“選択肢”
を商品開発とサプライチェーンに反映させるのは困難な課題である一方、開発された商品を消費者に効
果的にマーケティングするのもまた別次元の課題としてある。
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3 卸と小売が直面する課題
より多様化した最新モデルラインナップは、販売台数を増加させる一方、モデル毎の平均販売台数を低
下させる恐れもある。これは、顧客の選択肢を効率的かつ、一定の収益性を担保しつつ拡大する上で
大きな意味合いを持つ。
卸レベルでは、モデル毎のローンチコスト、マーケティングコスト、販売コストに影響が現れる。ローンチ
コストやマーケティングコスト等の固定費削減はその都度柔軟に変更していくべきである一方、古いモデ
ルにかかる販売サポートコストは、ライフサイクルが短縮されていることから、減少していく可能性が高
い。小売レベルにおいても、ローンチコスト、マーケティングコスト、販売コストに同様な影響を及ぼすこと
が考えられる。但し、より幅広い商品ポートフォリオの導入に伴い、限られた小売床面積、ディスプレイカ
ー、デモカー等の最適化及び拡大が必然的に必要になってくる。
しかしながら、殆どの市場における既存の卸・小売のビジネスモデルでは、店舗における投資、原価償
却費、操業資金コストの負担が大きくなるため、単純に拡張することは極めて困難である。一方で、オン
ラインでの通信販売等も今後重要性を増してくるが、根本的な解決策にならないことは自明である。現
実的な視点から考えると、顧客は引き続き購入する車を実際に「見て」、「触って」、「体験する」ことを望
む可能性が高い。これはつまり、営業マンの実力とは別に、ショールーム・ディスプレイの質やテスト・ド
ライブ、下取り査定等のサービスが、引き続き店舗に足を運んでくれるお客様の購入率を左右するキー
ドライバーとなることを意味する。
既に明白であるように、卸と小売レベルでの最適化は、それぞれのレベルで任せられるものではなく、も
はや流通からサービス全体のバリューチェーンを視野に入れた卸と小売の役割・責任分担を根本的に
見直す必要がある。今まで、卸と小売はバリューチェーン上における役割にほとんど重複が無く、異なる
部分にフォーカスしていたが、今後は卸と小売が協力し合い、より効果的なマーケティングや新規顧客
の開拓、試乗体験等に加え、ユーザーの所有サイクルを踏まえた顧客対応・販促の在り方を再定義す
ることが求められる。
なお、卸と小売間の協力体制は、リテールネットワークの構造に依拠する部分が大きい。リテールネット
ワークが、少数の大規模ディーラーで組織されている場合、協業体制の確立はさほど必要ではない。一
方、多くのインポーターがそうであるように、リテールネットワークがフラグメント化している場合、リテー
ル販売のバリューチェーン上において卸がより重要な役割を担う必要性が出てくる。
こうした観点から考えると、日本は注目すべき市場であることがわかる。これは、地価の高い東京におい
て、店舗面積を拡張し、ディスプレイカーの展示やデモカーの駐車場等のスペースを確保する上で、卸
と小売の協力体制から生まれるイノベーションが必要不可欠になるためである。
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4 卸と小売におけるイノベーション(日本の事例)
イノベーションを必要とする主な領域として、卸レベルでのローンチコスト並びにマーケティングコストの
低減、あるいは小売レベルにおいてバンドリングや共有フォーマットの導入を通じて、店舗面積・駐車場
スペースを確保すること等が上げられる。以下に、卸と小売が協力関係を強化したいくつかの手法を紹
介する(図表 5 参照)。
図表 5: 流通・サービスバリューチェーンにおける卸と小売の協力関係形態
出所: ローランド・ベルガー
4.1
卸の課題
独立したブランド・プロダクトマーケティング
市場ペネトレーションの初期段階においては、プロダクトポートフォリオが比較的小さいため、卸はブラン
ドマーケティングよりプロダクトマーケティングに注力してしまう傾向がある。確かに、ブランドマーケティ
ングは、顧客認知・興味の向上を図る上であまり重要ではないが、プロダクトポートフォリオが拡大して
いくにつれ、プロダクト(モデル概要等)とブランド(ブランド価値、アフターセールス等)を互いに独立した
概念として、マーケティングを実施することにメリットが存在する。プロダクトポートフォリオが拡大するに
つれ、比較的規模が小さい卸プレーヤーでも、プロダクトマーケティングとは別に、ブランドマーケティン
グも確立すべきである。
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プロダクトマーケティング効果の向上
商品ラインナップの拡大とモデルローンチ頻度の向上により、モデル毎の計画販売台数が減少する中、
構造上必要なマーケティングコストのターゲットを超えることを避けるため、マーケティング効率の向上を
図る必要がある。例えば、全ての SUV モデルや高級車モデルについて、バンドリング手法を用いたマ
ーケティングを導入することにより、マーケティング効果を高めることが可能である。加えて、見込み客の
ターゲットをさらに絞れば、マーケティング効果をよりいっそう高めることが出来るはずである。その際、
マーケット調査会社から得られる細分化したデモグラフィック情報(性別、年齢、居住地域、収入等)より
も、自社保有データを「データマイニング」する方がより効果的である。図表 6 より、日本では現状で顧
客との接点はオフラインより、オンラインでの対話が多いという現状に直面していることが明白に見て取
れる。
図表 6: オンラインでの顧客接点がオフラインを現状で超えている状況(外資系完成車メーカーの一例、2012 年~2013 年))
出所: 帝国データバンク、Alexa、ローランド・ベルガー
4.2
卸と小売の協力関係構築における課題
オンラインでの顧客オリエンテーション及びその見込み客
プロダクトポートフォリオが拡大する中、消費者がより車選びに労力と時間をかけるようになりつつある
と同時に、営業マンも販売サポートに労力と時間を費やすようになりつつある。このような状況下、商品
紹介に費やす時間と顧客との“FACE-TIME”を減らすためには、オンライン機能を強化していくことが求
められる。これを踏まえ、卸プレイヤーが今後特に強化していくべきオンライン情報ツールには以下のよ
うなものがあげられる。
–
–
–
–
クルマのバーチャルモデル体験・試乗体験
顧客が興味を示したディスプレイカーの取り扱い店舗の参照
試乗予約の案内
下取り価格の見積もり 等
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一例として、日本におけるポルシェの Virtual Option System は、顧客が自身で自動車のカスタマイズ
を行い、そのバーチャル体験を直接ディーラーシップへの経験につなげる取り組みを行なっている。
オンライン上での顧客との対話
現代の消費者の多くは、ネット上で次に購入する車の情報(値段、仕様、オプション等)を収集し、車選び
を行っている。また、オンライン広告やウェブサイト上で発信する情報とは別に、消費者はオンライン掲
示板、ブログ、SNS 等に書き込まれている口コミに頼る傾向が強い。このような状況下、卸プレイヤーは、
新聞、雑誌、TV といったマスメディアを用いた Above-the-Line マーケティング以上に、インターネット広
告、POP、ダイレクトメールやイベント等を介した Below-the-Line マーケティングに注力すべきであると
考える。スケールメリットを考慮することが重要であるように、小売レベルにおいて「顧客との対話」という
観点も包括的に取り入れるべきである。現状で、オンラインマーケティングはディーラーにとって未知の
領域であるため、小売レベルでのオンラインマーケティングの可能性は十分に秘めていると言える。
カスタマージャーニー分析及び卸レベルでの連携
更に進化した形での顧客オリエンテーションを実現するには、完成車メーカーのプロダクトポートフォリオ
において、エントリーからエグジットに至るまでのカスタマージャーニーを可視化することが有効である。
競合車から乗り換える顧客はどの様なデザイン/オプションを好む傾向にあるのか。特定のモデルを保
有する顧客に対してどのような提案を行なえば再購入に繋がるのか。このようなカスタマージャーニー
の分析を行なう上で役立つのがビッグデータであり、これらのデータは卸レベルでしか取得できないの
が現状である。従い、このようなデータは、まず卸レベルでレバレッジされるべきであり、ディスプレイカ
ー・デモカーの選定や、特定の顧客層に対してどのようなモデルを提供すべきかという提案を小売側に
行なう際等に有効活用されるべきである。
卸運営の「試乗/サービスセンター」
小売レベルでデモカーフリートの在庫を持つのではなく、購入意欲のある顧客のテストドライブ機会をよ
り促進するためには、卸レベルで一部のテストカーフリートを管理し、試乗体験サービスも提供すること
が有効である。これは、日本市場において、特に高級車や EV 車、MT トランスミッション車など、販売台
数が全般的に少ない車種について有効である。
1 つの例として、Mercedes-Benz Japan(卸)は、東京や大阪における“Mercedes-Benz Connection”
店舗を通じて、購買意欲のある顧客に対してハイエンドモデルでの試乗体験を提供している。
試乗体験を各店舗ベースで行なうのではなく、フリークエントフライヤー向け空港送迎サービスを提供す
る等、他の角度からのソリューション提供をすることも十分可能である。このようなサービスを利用する
顧客は富裕層が多く、当然ハイエンドな自動車への興味・関心度も高いことが想定されるため、有効な
マーケティングになる可能性が高い。また、このような施策は、当然、店舗の立ち上げに必要な建設費・
土地費用などの固定費を抑える上でも効果的である。
卸運営の「デモカーレンタル」
デモカーの台数は主に販売台数によって大きく左右される。通常、中古車として売られる前に、ディーラ
ー側で 6 ヶ月間融資されることが一般的である。この手法は、販売台数を上げるには効果的だが、操業
資金を膨らませる副作用も生じてしまう。操業資金の増加を防ぐには、資産活用の改善を図る上で、卸
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レベルで「デモカーレンタル」を運営することが有効である。(図表 7 参照)その際、高級車の場合、卸が
デモカーの在庫を一元的に管理し、レンタルサービスを通じてディーラー間で共有することが可能である。
実際、日本におけるマツダは、ディーゼル・マニュアルトランスミッション・デモカーを、販売子会社傘下に
あるディーラーにおいて一元的に管理し、この製品タイプの資産活用を大きく向上することに成功してい
る。
これは、日本の高級車にも応用の余地があり、例えば下取りした高級車を試乗目的で使用することも十
分に可能である。このような下取りされた自動車は、半年から一年程しか所有されていないため、走行
距離も少ない上、コンディションも比較的良く、残存価格も極めて高い状態で新車と交換されるケースが
多い。
図表 7: 資産活用の改善を通し、ディスプレイカーやデモカーなどによる金銭的な負担を抑制
出所: ローランド・ベルガー
4.3
小売における課題
デモカーにおけるハブ・アンド・スポーク・コンセプト
ディーラーは、デモカー/試乗車を店舗単位で管理するよりも、店舗ネットワーク全体で管理することに
より、保有資産を最大限活用が可能となる。言い方を換えると、大規模なディーラーは、ハブレベル(基
幹店)でデモカー/試乗者を管理し、必要に応じてスポーク(各支店)に配置することが望ましい。一方
で、より小規模なディーラーについては、このようなデモカーの最適配分を達成するためには、卸の介入
が必要となる。
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特定の顧客セグメントに特化した店舗づくり
顧客がどのような商品に興味/関心を抱き、どのような購買行動をとるかは顧客に応じて大きく異なる。
例えば、セダンもしくは SUV を検討する顧客の間で、これらは大きく異なるだろう。これを鑑み、少なくと
も都市部においては、従来の支配的考え方であった「全顧客対応型統一店舗フォーマット」ではなく、特
定の顧客需要に対応できる店舗展開に切り替えるべきであると考える。(例えば、コンフォートカー専門
店、高級車/レジャーカー専門店、コンフォート/シティースタイルカー専門店 等が例として上げられる)
現状で、既に特定の顧客向けに特化した店舗づくりは既に行われている(新車販売店及び中古車販売
店はそれぞれ独立した店舗で展開している)。弊社が様々な関連プロジェクトを通じて得た知見に基づく
と、店舗を特定顧客に対応させることで、顧客動員数及び売上の増加に大きく貢献することが明らかに
なっている。
他の小売業界で活用されている分析手法の活用
店舗スペースが限られている中、小売業態から得られる最適化コンセプトを導入するのも効果的であろ
う。顧客の動線パターンや関心を引く店舗内の注目ポイントなどを“顧客フロー分析”を用いて解析する
のも、ディーラーの店舗スペースを最大限活用する上では効果的である。このような分析やモデル別販
売予測を用いることにより、各店舗の限られたスペースにどのような車種をどのような配置で展示する
かを最適な形で決めることができる。
IT を活用した顧客との対話
営業スタッフの生産性に話を戻すと、販売される自動車のモデルとバリエーションが増える程、営業マン
による販売サポートはよりいっそう必要になる。営業スタッフの生産性を最大化するためには、IT を活用
した自動車コンフィギュレーションサポート、商品機能の説明、注文/在庫レベルのモニタリング等をク
ライアントとの商談時に簡単に行なえることが必須となる。これに加え、デモカーの在庫管理が店舗間・
ディーラー間で執り行われることになった場合、IT を活用した試乗予約システムの導入が不可欠な機能
となることは必至であろう。
その例として、日本におけるホンダは、自社の営業マンにタブレット型 PC を支給し、プレゼンテーション
時の製品紹介やファイナンスシミュレーション等のサポート体制、及び下取り価格、顧客プロフィールデ
ータの管理システムを実際に構築している。
メンテナンスセンターのスロット管理
モデルラインナップの拡大は、販売に限らずアフターサービスにも影響を及ぼす。モデル数が増加する
と、サービスマネージメントも複雑化し、実務上、作業の切り替えに費やす時間が増えてしまう。少なくと
も日本において、アフターサービスの稼動は週全体で大きく変動するが、これは必ずしもピーク時の稼
動を最大化する必要があることを意味しているわけではない。むしろ、顧客のスロットマネジメントをより
効率化することで、増加している作業量を逓減させることは十分に出来る。但し、このようなスロットマネ
ジメントを行なう場合、より不便なスケジュールを受け入れてくれた顧客に対するインセンティブスキーム
も検討する必要がある点に留意すべきである。
一例として、日本における独立系アフターサービスプレイヤーであるオートバックスは、PC やスマートフ
ォン用アプリケーションを導入し、オンラインで予約できるシステムを顧客に提供することにより、より効
率的なスロットプランニング及びキャパシティーコントロールを実現している。
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卸・小売の協力体制にいかなる変更を行なったとしても、結果的にディーラーネットワークの発展と卸・
小売主導の投資という解決策に行き着くことが想定される。従来のコンセプトから革新的な変化をもたら
す場合は、当然通常かかる投資を遥かに超過することは十分に留意しておく必要があるだろう。
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5 潜在的な財務インパクト(日本の事例)
まず、卸レベルで、マーケティング機能がブランド、プロダクト、及びデータ分析を主軸としたマーケティン
グに進化することにより、IT 投資費用、人権費、本社費用等にかかるコストは増加してしまう。部分的に、
従来の在庫管理費用を再配分することで増加したコスト分を賄う事は可能だが、現状のマーケティング
コストのレベルに留めるためには、効率をいっそう高める必要がある。図表 8 から見て取れるように、モ
デル毎の平均マーケティング費用は今後減少していくことが予想される。
図表 8: ラインナップ拡大及びモデル毎の販売量減少によるマーケティング費用への影響(完成車メーカーの一例)
出所: IHS、ローランド・ベルガー
また、資産活用の改善(デモカーレンタルコンセプト等)を通じて、卸及び小売の P&L にポジティブな影
響が及ぼされることが考えられる。日本の都市部におけるディーラーでは、販売台数 100 台あたり、お
よそ 4 台のデモカーを所有している中、減価償却費がディーラーの営業利益を圧迫しつつある。ローラ
ンド・ベルガーの試算によると、販売台数 100 台あたり 1 台のデモカーを追加する事で、ディーラーの
P&L が 0.5%、もしくは営業利益が 1/3 減少する効果があるという結果に至っている。少なくとも、高級
車もしくはニッチセグメントの自動車について、デモカーレンタルを卸に移行する事により、ディーラーの
P&L 負担を軽減し、逆に卸側の P&L 上の収益性を向上させる事に繋がる事が考えられる。
最後に、選定したブランドにおける小売機能に焦点を当てると、おおよその投資ギャップを推測すること
は可能である。但し、これらは日本におけるドイツブランドの商品ラインナップ拡大動向に依拠する可能
性がある。
ディスプレイカーやデモカーの駐車場スペース用店舗床面積を最大化するには限界があるため、必然
的により大規模な店舗の必要性が増してくる。仮に、現状で都心部における店舗の約 25%がディスプレ
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イカーを 8 台以上有し、この比率が 10 ポイント上昇するだけで、ドイツ系完成車メーカーは約 75 店舗
程、店舗床面積の最適化を検討しなければならない状態になる。(図表 9 参照)
新しく建設される店舗にかかる費用、移転費、改装費、土地費用等のコストを考えると、およそ数百万ユ
ーロ(数億円)と高い金額に達することが予想される。この金額は、仮に 5 年間に亘って分割されたとし
ても、毎年の引当金で賄うことは現状で難しい。
図表 9: 特定完成車メーカーの日本におけるディーラー店舗数
出所:ローランド・ベルガー
その結果、完成車メーカーとその輸入販売会社も、いかにディーラー側と連携をとりつつ、財務的な課
題に取り組むかを考えるべきである。
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6 最後に
日本の都市部における事例は、他国の都市部に必ずしも当てはまるものではない。しかし、今後も成熟
市場、及び成熟に向かいつつある新興市場においてラインナップが多様化する中、他国も日本と同様
の状況に陥る可能性は十分にあると思われる。
現状で、グローバルレベルでの商品ラインナップ開発タイムラインは、既に大手完成車メーカーにより定
義されている状況である。また、これにより必然的に卸・小売間の協力モデルも定義されてしまうことに
なるが、卸、ディーラー組織、独立系ディーラー、地主等の意思決定・実行プロセスにかかる時間を考慮
すると、5 年という期間はそう長くはない。
対応が遅れたり中途半端な対応では、逆効果になる可能性も否めない。多額の投資を通じて獲得した
モジュラー生産工程における競争優位性も、場合によっては薄まってしまう可能性が危惧される。また、
卸・小売レベルでしっかりと利益を確保する事もよりいっそう難しくなる上、目標獲得シェアを達成するこ
とも困難になる事が予想される。このような状況下、卸と小売の最適化を図るのはまさに「今」なのでは
ないだろうか。
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著者
ご意見・ご質問等、お待ちしております。
マーティン トンコ
パートナー
+81 3 3587 6723
[email protected]
長島 聡
シニアパートナー
+81 3 3587 6683
[email protected]
著作協力(Automotive Competence Center)
山邉 圭介
パートナー
+81 3 3587 6677
[email protected]
大橋 譲
プリンシパル
+81 3 3587 5354
[email protected]
貝瀬 斉
プリンシパル
+81 3 3587 6682
[email protected]
高橋 啓介
シニアプロジェクトマネージャー
+81 3 3587 6744
[email protected]
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発行
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〒107-6023
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