XバンドMPレーダを活用した リアルタイム雨水情報ネットワーク に関する

XバンドMPレーダを活用した
リアルタイム雨水情報ネットワーク
に関する共同研究
1.
研究目的
国土交通省水管理・国土保全局において整備中もし
くは試験運用中の X バンド MP レーダは,従来の C バン
ドレーダ(以下,気象庁レーダという)より高頻度,
高分解能での観測が可能となっており,局所的な降雨
について詳細かつリアルタイムにも精度よく観測でき
る。このため「リアルタイム雨水情報ネットワーク」
に X バンド MP レーダデータを導入することで雨量及び
管きょ内水位等の現況値および予測値の精度が向上す
ることが期待される。
本研究は,X バンド MP レーダの降雨予測手法および
同情報を活用したリアルタイム雨水情報ネットワーク
に関する技術の確立を目的として実施した。
2.
研究体制と研究機関
2.1 研究体制
(一財)日本気象協会,メタウォーター(株)ならびに
本機構の 3 者で共同研究を行った。
2.2 研究期間
平成 24 年 4 月~平成 25 年 3 月(1 年)
3.
研究成果
3.1 降雨予測
X バンド MP レーダの実況値と予測値について,精度
評価を実施した。なお,精度評価を行う対象は,X バ
ンド MP レーダ 2 基で観測が可能となっている A 市
S 排水区を対象として行うものとした。
3.1.1 X バンド MP レーダ現況値データの入手
本研究では,日本気象協会が図-1に示すデータ受
信者となり,専用線を用いて現況値データを入手した。
図-1 X バンド MP レーダ雨量データ提供社会実験
(国土交通省)の受信状況
社会実験で入手した現況値データは,全国で 11 地域
の雨量データとなっており,日本気象協会でこれらの
データを合成して全国版(全国で 1 枚)のデータを作
成し,この現況値を元に,累積値と予測値を算出した。
算出したデータの仕様は表-1のとおりである。
「実況」は X バンド MP レーダデータを利用した1分
更新の降雨強度,
「累積」は前 60 分累加雨量,
「予測」
は 60 分先まで5分毎の雨量を予測し,各データとも,
全国のうち,X バンド MP レーダ範囲のみを約 250m メ
ッシュ間隔でカバーしている。
表-1 X バンド MP レーダに関するデータ仕様
(日本気象協会)
図-3 気象庁レーダ(左図)と国交省 X バンドレー
ダ(右図)の比較
本研究におけるデータ配信方法を図-2に示す。前
述したように,受信した現況値データを日本気象協会
で全国合成処理・累積値計算・予測値計算を行い,デ
ータセンターを経由してリアルタイム流出解析システ
ム(FTP サーバ)へ配信している。また,データ集約
管理システムがインターネット網を通じ,水位・流量
情報と A 市ポンプ場の運転情報を収集し,最終的には,
情報配信システムから情報が配信され,A 市で情報閲
覧可能となっている。
3.1.3 実況値と予測値の精度検証
本研究における実況値と予測値の精度検証の流れを
図-4に示す。精度検証の対象範囲については A 市内
とし,X バンド MP レーダについては,対象とする排水
区の流域平均雨量を算出し,実測値と予測値を比較し
た。このとき,強雨時のみを抽出してスコアを算出し,
強雨時の精度を評価した。
図-2 本研究におけるデータの配信方法
3.1.2 X バンド MP レーダデータを用いた降雨予測手
法
X バンド MP レーダの観測範囲外について,気象庁レ
ーダを利用して補完を行った。図-3に気象庁レーダ
と X バンド MP レーダの雨量分布図の比較を示す。これ
によると,X バンド MP レーダでは,強雨域が観測され
ている一方,観測範囲外や遮蔽域,電波消散域が欠測
(分布図ではグレーで表示されている)となっている
ことが分かる。今回はこの部分を気象庁レーダで補完
したデータを初期値として予測値の作成を行った。
図-4 実況値と予測値の精度検証の流れ
精度検証は,対象とする降雨事例を抽出して実施し
た。降雨事例の抽出は,A 市内のアメダス4地点のう
ち1時間雨量 10mm 以上の時刻と地点を抽出し,その前
後6時間を降雨事例として選定した。精度検証に使用
する雨量計は,事例の抽出にも用いた気象庁アメダス
4地点に加えて,A 市が所有する雨量計 21 地点のデー
タも利用し,計 25 地点を対象とした。
予測値の精度検証については,地上雨量計での評価
と併せて,流域平均雨量での評価も実施した。対象と
する流域は,S 排水区と K 排水区の 2 流域とした。
X バンド MP レーダ雨量
実況:60 分雨量
精度検証結果について,回帰係数,相関係数,総雨
量比,RMSE(2 乗平均平方根誤差)の4つの精度評価
指標を使用して評価を行った(表-2参照)
。相関係数
は値の類似性を RMSE は誤差の大きさを表す指標であ
り,回帰係数と総雨量比は値の量的な大小を表す指標
である。
表-2 精度評価指標一覧
気象庁レーダ雨量
XバンドMPレーダと
比較し、全般的に
弱めの傾向あり
実況:10 分雨量
気象庁レーダと比
較し、精度が良い
図-5 X バンド MP レーダと気象庁レーダの実況値の
精度検証結果(上:60 分雨量,下:10 分雨量)
弱雨事例:11 月 29 日
10 分雨量
X バンド MP レーダの実況値について,地上雨量との
精度検証を実施した。検証については,60 分雨量と 10
分雨量で実施した。結果を図-5に示す。
本研究の精度検証の対象とする A 市内は2基のレー
ダサイトに挟まれており,また,レーダサイトからの
距離も 30Km 程度以内と近いこともあり,量的にはやや
多めの傾向にあるが,10 分雨量の相関係数が 0.9 以上
と精度が高い結果となった。
また,図-5には気象庁レーダの実況値(60 分雨量
と 10 分雨量)について,地上雨量との精度検証を実施
した結果を併せて示す。相関係数で見ると,10 分雨量
で 0.6 以下となっており,X バンド MP レーダの精度の
方が良い結果となった。また,気象庁レーダについて
は,量的にやや過小傾向が見られた。
なお,弱雨時と強雨時の違いについて,強雨事例(10
月 23 日)と強雨事例(11 月 29 日)の実況値の比較か
ら確認を行った。図-6に各事例の精度検証結果に示
す。これからは,強雨事例と弱雨事例での精度評価指
標の大きな違いは見られなかった。また,全事例を弱
雨と強雨に分けて精度検証を実施したが,雨の強弱に
より精度が異なる傾向は見られなかった。
強雨事例:10 月 23 日
強雨事例とほぼ
同 じ傾 向 と考 えら
れる
60 分雨量
3.1.3(1) 実況値の精度検証
図-6 強雨事例と弱雨事例の散布図比較(上:10 分
雨量,下:60 分雨量)
3.1.3(2) 予測値の精度検証
X バンド MP レーダの予測値について,地上雨量との
精度検証を実施した。検証については,60 分雨量と 10
分雨量で実施した。また,同様に気象庁レーダ予測値
(=降水ナウキャスト)について地上雨量との精度検
証を実施し,X バンド MP レーダ予測値との比較を行っ
た。
まず,60 分雨量について,X バンド MP レーダ予測値
気象庁レーダ雨量
気象庁レーダ雨量
30 分先予測:10 分雨量
実況:60 分雨量
予測:60 分雨量
X バンド MP レーダ雨量
20 分先予測:10 分雨量
X バンド MP レーダ雨量
向にあり,気象庁レーダは少なめに予測する傾向にあ
ることが分かる。
10 分先予測:10 分雨量
と気象庁レーダ予測値の精度検証結果を比較した。結
果を図-7に示す(比較のため,実況の結果も併せて
示している)
。これより,相関係数で比較すると,X バ
ンド MP レーダの予測精度の方が気象庁レーダ予測精
度より良い結果となった。また,量的にみると,気象
庁レーダ予測値は,地上雨量に対し全般的にやや過小
傾向にあることが分かる。
気象庁レーダ予
測値に対し、精度
が良い
地上雨量に対
し、過小傾向
図-7 X バンド MP レーダと気象庁レーダの予測値の
精度検証結果:60 分雨量(上:実況,下:予測)
図-8 X バンド MP レーダと気象庁レーダの予測値の
精度検証結果:10 分雨量(上:10 分先予測,中:20
分先予測,下:30 分先予測)
気象庁レーダ雨量
60 分先予測:10 分雨量
50 分先予測:10 分雨量
40 分先予測:10 分雨量
X バンド MP レーダ雨量
次に,予測値の 10 分雨量について,10 分先~60 分
先雨量の精度検証を 10 分毎に実施した。予測値の検証
結果について,10 分先から 30 分先までを図-8に,
40 分先から 60 分先までを図-9に示す。これから,X
バンド MP レーダ,気象庁レーダとも,予測時間が短い
と比較的精度が良く,予測時間が進むと精度が低下す
る傾向にあることが分かる。ただし,初期値の精度が
影響し,気象庁レーダは 10 分先でもかなり精度が低下
し,50 分先以降では相関が 0 以下となった。量的にみ
ると,気象庁レーダは初期値の段階で過小傾向となっ
ており,予測時間が進んでもその傾向が継続された。
算出した精度評価指標により,X バンド MP レーダ予
測値(グラフ中は XRAIN と表示)と気象庁レーダ予測
値(グラフ中は気象庁と表示)を比較した。10 分毎の
予測の精度評価指標を整理したものを表-3に,グラ
フにより比較したものを図-10 に示す。
相関係数で見ると,全予測時間で X バンド MP レーダ
の方が気象庁レーダよりも精度が良い結果となった。
なお,気象庁レーダの予測については,50 分先と 60
分先で相関係数が 0 以下となったため,比較対象から
除外している。量的な傾向として回帰係数と総雨量比
でみると,X バンド MP レーダはやや多めに予測する傾
図-9 X バンド MP レーダと気象庁レーダの実況値の
精度検証結果:10 分雨量(上:40 分先予測,中:50
分先予測,下:60 分先予測)
表-3 60 分先までの精度評価指標一覧
(上:S 排水区,下:K 排水区)
S排水区
相関係数
回帰係数
0.91
0.99
10分先
図-10 60 分先までの精度検証指標の比較:10 分毎
3.1.3(3) 流域平均雨量による予測値の精度検証
X バンド MP レーダ予測値について,流域平均雨量で
の検証を行った。流域平均雨量の実況値については,X
バンド MP レーダの実況値から作成した。このとき,流
域平均雨量は,S 排水区(流域面積 8.65Km2)と K 地排
水区(流域面積 0.80Km2)の各流域内において,メッシ
ュ雨量(1 メッシュは約 250m×250m)を平均すること
で算出した。
流域平均雨量を用いて X バンド MP レーダ予測値の精
度を X バンド MP レーダの実況値から検証した。結果を
図-11 に示す。これによれば,両流域とも相関係数が
0.7 程度と同じような傾向にあり,比較的良好な精度
であると考えられる。
0.55
0.98
20分先
0.75
0.94
0.89
0.93
0.53
0.91
1.20
0.88
40分先
0.35
0.90
1.40
0.83
50分先
0.28
0.85
1.45
0.79
60分先
0.25
0.84
1.46
0.75
相関係数
回帰係数
10分先
0.90
0.99
0.70
0.97
20分先
0.75
0.82
1.05
0.88
30分先
0.56
0.82
1.36
0.85
40分先
0.34
0.80
1.63
0.79
50分先
0.22
0.76
1.74
0.74
60分先
0.20
0.82
1.53
0.74
K排水区
RMSE
S排水区
相関係数
総雨量比
S排水区
RMSE
K排水区
K排水区
1.0
4.0
0.8
3.0
0.6
2.0
0.4
1.0
0.2
0.0
0.0
10分先
20分先
30分先
40分先
50分先
10分先
60分先
20分先
S排水区
回帰係数
30分先
40分先
50分先
60分先
S排水区
総雨量比
K排水区
K排水区
1.6
1.4
1.5
1.2
1.0
K排水区
総雨量比
30分先
2.0
S排水区
RMSE
1.0
0.8
0.5
0.6
0.0
0.4
10分先
20分先
30分先
40分先
50分先
60分先
10分先
20分先
30分先
40分先
50分先
60分先
図-12 60 分先までの精度検証指標の比較:10 分毎
(流域平均雨量予測値)
図-11 流域平均雨量による予測値の精度検証:60 分
雨量(左:S 排水区,右:K 排水区)
また,流域平均雨量の予測値の検証について,10 分
毎に 60 分先まで,それぞれの流域で実施した。この結
果から精度評価指標を抽出し,表-3と図-12 のグラ
フに整理した。これらの結果から,両流域ともに相関
係数は 30 分先で 0.5 を超えており,地点雨量の精度よ
りやや良い傾向が見られる。また,総雨量比は,1 よ
り小さい結果となっている。これは,実際には陸上で
発達する降雨が多く,予測がやや小さく算出される傾
向にあると考えられる。
3.2 管きょ内の雨水流出量の予測
精度を確認した解析モデルに予測降雨を導入するこ
とで,予測解析の精度確認を行った。予測解析は,各
ポンプ運転記録および降雨記録を基にした現況解析を
初期状態として,その後の経過を予測降雨によって解
析した。予測解析の精度確認は,各ポンプ場のポンプ
井水位および管路内水位等の観測値と予測解値を比較
することで確認した。
0
-1
-2
-3
-4
-5
-6
-7
-8
-9
1:00
2:00
3:00
4:00
5:00
6:00
7:00
8:00
9:00
10:00
11:00
12:00
13:00
14:00
15:00
16:00
17:00
18:00
19:00
20:00
21:00
22:00
23:00
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
解析評価時刻
解析評価時刻
10分先予測値
管底
管頂
雨量20分先予測
水位(T.P. m)
降水量(mm/10分)
1:00
2:00
3:00
4:00
5:00
6:00
7:00
8:00
9:00
10:00
11:00
12:00
13:00
14:00
15:00
16:00
17:00
18:00
19:00
20:00
21:00
22:00
23:00
解析評価時刻
管頂
雨量40分先予測
50分先予測値
管底
水位(T.P. m)
降水量(mm/10分)
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
解析評価時刻
管底
管頂
雨量60分先予測
観測値
60分先予測値
管底
管頂
図-13 管路内水位の時系列変化
水位の予測解析精度は,全体的に観測値に概ね近似
していると判断できる結果であった。また予測解析精
度は,小降雨に比べて中降雨の方がより精度が良い傾
向にある。これは,X バンド MP レーダ観測雨量におい
て降雨強度が大きい方が地上雨量計との相関が良い傾
●この研究を行ったのは
研究第二部長
向にあることから,X バンド MP レーダ予測雨量におい
ても降雨予測精度が高く,予測水位として比較した場
合も精度が良い結果になっていると考えられる。
今回は2降雨についての予測解析精度の確認である
が,大降雨および複数降雨について予測解析精度を確
認していく必要がある。
5.
まとめ
管頂
0
-1
-2
-3
-4
-5
-6
-7
-8
-9
解析評価時刻
観測値
40分先予測値
観測値と予測値の誤差(60分先)
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
1:00
2:00
3:00
4:00
5:00
6:00
7:00
8:00
9:00
10:00
11:00
12:00
13:00
14:00
15:00
16:00
17:00
18:00
19:00
20:00
21:00
22:00
23:00
水位(T.P. m)
観測値と予測値の誤差(50分先)
観測値
1:00
2:00
3:00
4:00
5:00
6:00
7:00
8:00
9:00
10:00
11:00
12:00
13:00
14:00
15:00
16:00
17:00
18:00
19:00
20:00
21:00
22:00
23:00
管底
0
-1
-2
-3
-4
-5
-6
-7
-8
-9
雨量50分先予測
管頂
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
解析評価時刻
30分先予測値
管底
0
-1
-2
-3
-4
-5
-6
-7
-8
-9
1:00
2:00
3:00
4:00
5:00
6:00
7:00
8:00
9:00
10:00
11:00
12:00
13:00
14:00
15:00
16:00
17:00
18:00
19:00
20:00
21:00
22:00
23:00
水位(T.P. m)
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
0
-1
-2
-3
-4
-5
-6
-7
-8
-9
観測値
20分先予測値
観測値と予測値の誤差(40分先)
観測値と予測値の誤差(30分先)
雨量30分先予測
観測値
降水量(mm/10分)
観測値
降水量(mm/10分)
雨量10分先予測
降水量(mm/10分)
水位(T.P. m)
降水量(mm/10分)
観測値と予測値の誤差(20分先)
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
1:00
2:00
3:00
4:00
5:00
6:00
7:00
8:00
9:00
10:00
11:00
12:00
13:00
14:00
15:00
16:00
17:00
18:00
19:00
20:00
21:00
22:00
23:00
水位(T.P. m)
観測値と予測値の誤差(10分先)
0
-1
-2
-3
-4
-5
-6
-7
-8
-9
池田 匡隆
本研究では,X バンド MP レーダを用いた予測の精度
は,排水区全体であればある程度の精度があり,30 分
先程度の予測であれば実用的と考えられる。管きょ内
の予測では,さらに流達時間も考慮されて過去の実況
降雨も反映した予測となることから,精度はさらに向
上するものと考えられる。X バンド MP レーダを用いた
降雨予測は,管渠内雨水流出解析に用いることで精度
の高い予測が行えるものと考えられ,今後も予測精度
が向上することで,その利用が広がることが期待され
る。
●この研究に関するお問い合わせは
研究第二部長
小団扇 浩
研究第二部副部長
吉川 静雄
研究第二部副部長
伊藤 雄二
研究第二部主任研究員
研究第二部研究員
亀谷 佳宏
田村 司郎
研究第二部総括主任研究員
研究第二部主任研究員
大西
学
小峰 英明
【03-5228-6598】