O 同位体標識水を用いたポリエチレンテレフタレートの熱分解及び加水分解速度の解析 Kinetics of pyrolysis and hydrolysis of poly(ethylene terephthalate) using 18O isotope-labeled water 18 ○学 諸星 勇翔 (東北大学)、学 熊谷 将吾 (東北大学・日本学術振興会特別研究員) 正 Guido Grause (東北大学)、正 亀田知人 (東北大学)、正 吉岡敏明 (東北大学) Yuto Morohoshi, Shogo Kumagai, Guido Grause, Tomohoto Kameda and Toshiaki Yoshioka, Tohoku University. In this investigation, isothermal TG analyze is used. It was found that the apparent activation energy decreases from 202 kJ/mol to 132 kJ/mol when steam concentration was raised from 0 vol% to 75 vol%. Moreover, the reaction ratio of hydrolysis and pyrolysis in the steam degradation of PET was calculated from the 16O/18O ratio after the reaction in H182O containing steam. In the range of 25-75 vol% it was found that the ratio of hydrolysis increased with increasing steam concentration, and it was found that seldom depended after 75%. At 100 vol% of steam and at 400 °C the ratio of hydrolysis became 26.1 %, and it was confirmed that the majority of the degradation of PET in a steam atmosphere was pyrolysis. Key Words: PET , kinetics, hydrolysis, isotope-labeled - N N+ CH 2 H N N 18 O O + O 18 CH 3 - 18 O O H O O また、PET 粒子 10 mg を TG に導入し、水蒸気雰囲気下 (steam 0,25,50,75 vol%)、反応温度 350~390 °C において 重量減少を測定し速度解析を行い、PET 水蒸気分解の活性 化エネルギーを算出した。また、管型反応器内で進行して いる速度論的モデルを検討するため、 水蒸気濃度 75 vol%、 反応温度 320~390°C において重量減少を測定し、種々の速 度論的モデルへのフィッティングを行った。 3.結果と考察 式(1)に分解速度式、式(2)にアレニウスの式を示す。 ( ) ( H 3C ( ) ギー[J/mol]、R:気体定数(8.314 J/(mol・K))、T:温度[K] 各温度で得られた TG 曲線および種々の速度論的モデル 関数 g(α)を式(1)に代入し、最も相関係数の高い速度論的モ デル関数を決定後、見かけの速度定数 kapp を算出した。得 られた速度定数を式(2)に代入し、アレニウスプロットから 活性化エネルギーを算出した。算出結果を Fig.1 に示す。 250 200 150 100 50 0 0 O- H 2C N + N ) 論的モデル関数[-]、Z:頻度因子[min-1 ]、Eapp:見かけの活性化エネル 18 - ( ) :分解率[-]、t:時間[min]、kapp :見かけの速度定数[min-1 ]、g():速度 Activation energy [kJ/mol] 1.緒言 ポリエチレンテレフタレート(PET)は電気絶縁性、透明性 および耐薬品性等の優れた性質を持っているためボトル、 フィルムおよびシート等の様々な用途に利用されている。 ボトル用 PET は PET 樹脂の純度が高く、分別が容易であ ることからその多くがマテリアルリサイクルされている。 一方、ボトル以外の用途においては、他の樹脂または無機 材料と混合されている場合が多い。したがって、マテリア ルリサイクルが困難であり、その多くが熱回収および金属 回収のみに留まっているのが現状である。 著者らは他樹脂や無機物を含有する PET でもリサイク ル可能な手法の一つとして、熱分解油化に着目してきた。 これまで PET を水蒸気で加水分解し、生成したテレフタル 酸(TPA)と生石灰(CaO)を反応させ、選択的にベンゼンを回 収する二段プロセスを報告している 1)。効率的にベンゼン を回収するためには、高収率で TPA を生成する必要があり、 加水分解と熱分解の速度制御が重要な鍵となる。そこで、 本研究では PET の水蒸気分解において加水分解と熱分解 の反応割合を算出するため、 18O 同位体標識水を用いた速 度論的検討を行った。 2.実験方法 粒径 250 μm 以下の PET 粒子 200 mg を、1mmφ の穴の空 いた円筒状の石英製試料ホルダーに充填し、管型反応器に 投入した。反応は、10 % 18O 同位体標識水の水蒸気雰囲気 下(steam 0,25,50,75,100 vol%) 、400 °C で反応を行っ た。得られた TPA はジアゾメタンによる同位体標識を保存 したエステル化(Scheme 1)を施しジメチルテレフタレート (DMT)とした後、GC-MS へと導入した。GC-MS のマスス ペクトルの強度から加水分解と熱分解の割合を算出した。 続いて、PET 粒子 100 mg を管型反応器に投入し、水蒸気 濃度 75 vol%、反応温度 300~400 °C において同様の操作に より、加水分解と熱分解の割合を算出した。 25 50 75 Steam concentration [vol%] 100 N+ N Fig.1 Activation energy of PET degradation at different steam 18 H 3C O O O 18 Scheme 1 Reaction scheme of the esterification of TPA by diazomethane. concentration. O CH 3 水蒸気濃度の増加に伴い、見かけの活性化エネルギーが 減少した。水蒸気濃度 0 vol%で 202 kJ/mol だった活性化エ Abundance Abundance 10000 194 Scan 718 (32.024 min): PET 400 100% O16 1 111213 .D (-716) (-) 10000 194.1 9000 194 Scan 718 (32.026 min): PET 400 100% O18 1 111216.D (-716) (-) 194.1 9000 8000 195 8000 195.1 Abundance Abundance 195 7000 7000 195.1 6000 5000 4000 6000 196 5000 196.1 4000 3000 3000 2000 196 1000 196.0 2000 197 0 194.0 194.5 195.0 (a) m/z--> 195.5 196.0 196.5 197 1000 197.3 198 198.1 197.0 0 197.0 197.5 198.0 194.0 m/z H216O 194.5 195.0 (b) m/z--> 195.5 196.0 196.5 197.0 197.5 198.0 m/z H218O Fig.2 MS spectra of DMT obtained from steam decomposition of PET 100 21.3 25.9 80 reaction ratio [%] ネルギーは、75 vol%で 132 kJ/mol まで低下することが確認 された。水蒸気濃度 0 vol%の場合、最も相関の高かった速 度論的モデルは 1 次反応モデルだったのに対し、水蒸気を 導入することで界面反応律速モデルへと変化した。これよ り、水蒸気を導入することにより、PET の分解反応におけ る加水分解の寄与が示唆された。 続いて、同位体標識水を用いて PET の水蒸気分解を行い、 熱分解と加水分解の反応割合を算出した。その結果を Fig.2 に示す。TPA のエステル化により生成する DMT の分子量 は 194 である。片方のエステル基が同位体標識された DMT は分子量 196 であり、これは、片方のエステル結合が加水 分解されたことを意味する。両方のエステル結合が加水分 解により切断された場合、分子量は 198 となる。Fig.2(a) より、同位体標識水を用いない場合においては 194 m/z お よび 196 m/z のピークが検出された。一方、Fig.2(b)より、 同位体標識水を用いた場合、196 m/z のピークは増大し、 新たに 198 m/z のマススペクトルのピークが検出された。 これより、PET 高分子鎖中のエステル結合が、加水分解お よび熱分解のどちらにより切断されたかを識別可能である ことが確認された。 43.8 45.2 41.0 56.2 54.8 59.0 340 360 380 29.4 hydrolysis 60 40 78.7 70.6 74.1 20 pyrolysis 0 300 320 400 Temperature [℃] Fig.4 Selectivity of hydrolysis and pyrolysis in steam degradation of PET at 75 vol% steam and various temperature 山形県米沢市丸の内一丁目 2 番 1 号水蒸気濃度 75 vol% における TG 曲線の速度解析の結果、350 °C 以下の場合、 速度論的モデルは核形成-成長型反応モデル、360 °C 以上 の場合、界面反応律速モデルに一致した。これらのモデル と Fig.4 の結果の関連性について考察を行い、その概略図 を Fig.5 に示す。300~350 °C の場合(Fig.5(a))、PET の分解 により TPA が生成し、個体として析出する過程が律速にな ると考えられる。340 °C から 300 °C にかけて温度の低下に 熱分解の割合が増加したのは、生成した TPA が接触界面を 覆い、水蒸気と PET の接触が阻害されたためであると考え られる。一方、360~400 °C の場合(Fig.5(b))、反応界面の進 行が律速になると考えられる。しかし、反応温度の増加に 伴い熱分解が進行しやすくなり、かつ加水分解は水蒸気と 接する表面でしか進行しないため、熱分解の割合が増加し たと考えられる。 using H216 O and H218 O. H2O TPA Fig.3 にマススペクトルから算出した各水蒸気濃度の加 水分解および熱分解の反応割合を示す。水蒸気濃度が高い 場合において反応の 70%以上が熱分解であるものの、水蒸 気の増加に伴って加水分解の反応割合が増加した。これよ り、Fig.1 に示した見かけの活性化エネルギーの減少は加水 分解の促進によることが示唆された。 100 Reaction ratio [%] 12.7 22.7 29.3 40 (a) 300~350°C (b) 360~400°C 26.1 80 60 PET Fig.5 Reaction model of steam degradation of PET in the range of 100 300°C-400°C. hydrolysis pyrolysis 87.3 77.3 70.7 73.9 20 0 0 25 50 75 Steam concentration [vol%] 100 4.結言 本研究では速度解析および同位体標識水を用いた熱分解 と加水分解の反応割合の算出を行った。その結果、水蒸気 濃度の増加に伴い PET の加水分解が促進され、見かけの 活性化エネルギーが低下することを確認した。また、反応 温度の影響を検討し、本実験系においては 350 °C を境に 反応モデルが変化することを確認した。 Fig.3 Selectivity of hydrolysis and pyrolysis in steam degradation of PET at 400 °C and various steam concentration. Fig.4 に各反応温度の加水分解および熱分解の反応割合 を示す。加水分解の割合は 400 ºC から 360 ºC まで反応温度 の減少に伴い増加した。しかし、340 ºC から 300 ºC におい て加水分解の割合が減少し、熱分解の割合が増加した。 5.謝辞 本研究は、文部科学省の平成 21~24 年度科学研究費補助 金(基盤研究 A21241018)の助成を受けて行われたものであ る。記して感謝の意を表します。 6.参考文献 (1) Grause,T.Handa,T.Kameda,T.Mizoguchi,T.Yoshioka, Chem. Eng. J. , 166, 523(2011)
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