系統運用情報伝送ネットワークにおけるプロトコル変換装置の開発[PDF

研究成果
Results of Research Activities
系統運用情報伝送ネットワークにおけるプロトコル変換装置の開発
柔軟かつ経済的なネットワークの移行を実現
Development of a Protocol Conversion Device in a System Operation Information Transmission Network
A flexible and economical network transition and replacement achieved
(電子通信部 技術 G)
( E n g i n e e r i n g G r o u p , Te l e c o m m u n i c a t i o n s E n g i n e e r i n g
Department)
系統運用情報伝送ネットワークの基幹部分を構成す
るATM( Asynchronous Transfer Mode)ネット
ワークは更新時期を迎えており、汎用のIP技術を用い
た電力給電用 IP ネットワークへの移行を予定してい
る。そこでネットワークの移行を柔軟かつ経済的に実
施できるプロトコル変換装置(フレームリレーゲート
「以下、FR-GW」)を開発した。
ウェイ
1
An Asynchronous Transfer Mode (ATM) network making up the key
part of a system operation information transmission network needed
to be replaced, and the transition to an IP network for a power
system employing all-purpose IP technology was scheduled. Against
this background, a Frame Relay Gateway (hereinafter referred to as
“FR-GW”), a protocol conversion device that enables flexible and
economical replacement of the network, was developed.
(2)FR-GW開発の背景
開発の背景
ATM技術はマルチメディア通信を実現するコア技術
として標準化され、その後の発展が期待されていたが、
(1)系統運用情報伝送ネットワークの概要
電力の流れは複雑で時々刻々と変化しており、これら
IP技術の急速な発展に伴い終息の方向へ進んだため、現
を人間系で判断・調整することは困難である。そこで電
時点において、経済的にネットワークを構築するには、
力会社は発電量や電圧の制御および事故時のバランス
調整を自動化する各種自動給電システムを導入してお
IP技術を積極的に活用する必要がある。このため、時を
同じくしてIP技術を活用した電力給電用 IPネットワーク
り、これら様々なシステムにより電力の安定供給を実現
の構築を進めてきたため、本ネットワークへの移行が最
している。自動給電システムは電力系統を把握・制御す
も経済的であると判断した。
るため、電力系統の状態を示す各種情報が必要であり、
各 種 端 末 装 置 に つ い て は 、従 来 の ア ナ ロ グ 伝 送
系統運用情報伝送ネットワークは自動給電システムが
とIP方式の両方に対応したハイ
(FS[Frequency Shift])
必要とするこれら各種情報を伝送するネットワークで
ブリッド型 CDT装置を既に開発しており、ハイブリッド
ある。
型 CDT装置へ更新することで順次 IP化を行っている。た
既存の系統運用情報伝送ネットワークの構成を第1図
だし全てのCDTを一斉にIP化することは、投資および工
事量が集中することから、現実的に不可能である。この
に示す。電気所に設置されるCDT( Cyclic Digital data
ため、CDT等の各種端末装置をIP化する過渡期において
Transmission)は、遮断器や開閉器の入切情報といった
スーパービジョン信号や、電圧や電流といったテレメー
は、第2図に示すとおり、FR-GWを開発・導入し上位ネ
(HDT Packet Multiplexer)
タ信号などを定周期でHMX
ットワークのみをATMネットワークから電力給電用 IP
ネットワークへ移行することとした。これにより既存
へ送信する。HMXは複数のCDTから受信した信号を多
重化し、宛先毎に
「パケット」と呼ぶデータの固まりに組
CDT等の端末装置は上位ネットワークの移行を意識す
み立てCLAD、ATM経由で対向のHMXへデータを送受
ることなく更新が可能となり、投資や工事量の抑制およ
び平準化が可能となる。最終的に全てのCDTがIP化され
信する。なおHMXとCLAD間はFRプロトコルによりデ
ると、現地のCDTから送信されたIPパケットは、HMX
ータ通信を行っている。また、HMXは予め登録した内
容に応じパケットデータの編集を行い自動給電システ
に代わる新たな多重変換装置を介して各所の自動給電
ムへ必要な情報を送信する。
システムへ提供する形態が考えられる。
電気所
(略語定義)
ATM (Asynchronous Transfer Mode switch):ATM交換機
CLAD (Cell Assembly and Disassembly):セル組立分解装置
HMX (HDT Packet Multiplexer):HDT用パケット多重化装置
CDT (Cyclic Digital data Transmission):サイクリックディジタル情報伝送装置
電気所
CDT
主要事業場
CDT
主要事業場
HMX
HMX
CDT
CDT
移行範囲
HMX
CLAD
給制CPU
給制CPU
CDT
SW
HMX
ATM
ATM Network
支店給
ATM
CLAD
HMX
CDT
中給・基幹給
第1図 系統運用情報伝送ネットワークの構成(現状)
技術開発ニュース No.150 / 2014-3
FRFR-GW
給制CPU
給制CPU
電力給電用
IP Network
給制CPU
給制CPU
支店給
SW
FRFR-GW
HMX
給制CPU
給制CPU
中給・基幹給
第2図 系統運用情報伝送ネットワークの構成
(移行期)
5
Results of Research Activities
2
3
FR-GW 開発の概要
研究成果
今後の展開
FR-GWは平成 25年 12月の現地納入に始まり、平成
FR-GWの主要機能を以下に示す。
26年 12月のネットワーク移行完了を目指している。具
(1)プロトコル変換機能
体的な移行ステップを以下に示す。
FR-GWは、HMXと送受信するFRプロトコルデータ
(1)FR-GWの割入
を電力給電用 IPネットワークで伝送するIPパケットへ伝
( FRプロ
第 5図に示すとおり、HMXのCLAD向け回線
送フォーマットを変換する。具体的にはFRプロトコルヘ
トコル伝送部分)にFR-GWを割り入れる。なお、割入作
ッダとIPパケットヘッダの付け替え、およびHMXデー
業はHMXの回線単位にて実施する。この時、送信側の
タ部の乗せ替えを行っている。
FR-GWは新旧ネットワークの並行運用を保証するため、
ATMネットワークと電力給電用 IPネットワークの両網
へHMXパケットデータを送信する。受信側のFR-GWは
(2)データ送受信機能
(ア)両網送信・選択受信機能
第3図に示すとおり、FR-GWは複数のHMXを収容し、
受信するパケットのネットワークを選択する。
自装置に収容されるHMXから受信した情報をATMネッ
トワーク経由で対向 HMXに送信するとともに、電力給
電用 IPネットワーク経由で対向 HMXに送信することも
FR--GW割入
HMX~
CLAD間にFR
GW割入
HMX~CLAD間に
(HMX回線単位
(HMX回線単位))
可能とする
(両網送信機能)。また、ATMネットワークま
SW
電力給電用
IP Network
FRFR-GW
たは電力給電用 IPネットワーク経由で受信したHMXか
(送信)ATM
IP網へ
網・IP
網へ
送信)ATM網・
両網送信
らの情報のいずれかを選択し、自装置に収容される
CLAD
給制CPU
給制CPU
ットワークの並行運用が可能となり、系統運用情報伝送
ネットワークを途絶させることなく移行を実現できる。
HMX~
FR--GW割入
HMX~CLAD間に
CLAD間にFR
GW割入
(HMX回線単位
(HMX回線単位))
FRFR-GW
(受信)ATM
網を選択受信
受信)ATM網を選択受信
ATM
HMX
HMXに送信する(選択受信機能)。これにより、新旧ネ
SW
ATM Network
CDT
支店給
ATM
CLAD
HMX
給制CPU
給制CPU
中給・基幹給
第5図 FR-GWの割入イメージ
ATM Network
FRFR-GW
HMX
FRFR-GW
電力給電用
IP Network
両網へパケット送信
HMX
(2)送信固定およびATMネットワークの廃止
第6図に示すとおり、FR-GWの全局割入および全受信
選択した網のパケットを受信
パケットの選択切替が完了した後、送信側のFR-GWに
第3図 両網送信・選択受信機能
てHMXパケットの送信を全て電力給電用 IPネットワー
クへ固定し、ATMネットワークを廃止する。
(イ)IP網伝送における伝送方式
FR-GWは電力給電用 IPネットワークのメリットを活
かしつつ、ネットワーク障害に対する信頼性を高めるた
SW
め、第4図に示すとおり、1つのHMXパケットを4ルート
( 4パケット)送信する。具体的には、物理的に分離され
(送信)
送信) IP網へ送信固定
IP網へ送信固定
た2つの電力給電用 IPネットワーク( A面、B面)に対し、
HMX
各 A、B面ネットワークに2ルート( 2パケット)を送信す
ATM Network
ることにより、ネットワーク上で系統運用情報が消失・
CDT
欠落することを防いでいる。
なお、電力給電用 IPネットワークを介してパケットを
受信したFR-GWは、先着の1パケットを除いて他のパケ
4
去のデータを採用せず、常に新しいデータ(真値)を採用
することとしている。
HMX
ヘッダ部
FR
FRFR-GW
支店給
ATM網廃止
ATM網廃止
ATM
CLAD
HMX
給制CPU
給制CPU
中給・基幹給
まとめ
系統運用情報のIP化に向けて、今回 FR-GWを開発し、
系統運用情報伝送ネットワークの上位ネットワークのみ
ヘッダ部
IP
UDP
専用ヘッダ
データ部
IP
UDP
専用ヘッダ
データ部
SW
を ATMネットワークから電力給電用 IPネットワークへ
電力給電用
IP Network
(A面
(A面)
移行することとした。これにより既存 CDT等の端末装置
は上位ネットワークの移行を意識することなく更新が可
データ部
ATM網へ
ATM網へ
網を選択受信
(受信)IP
受信)IP網を選択受信
第6図 送信固定およびATMネットワークの廃止イメージ
ットを破棄
(遅達破棄)する。この遅達破棄処理により過
① ヘッダの付け替え
(プロトコル変換)
FRFR-GW
ATM
CLAD
給制CPU
給制CPU
SW
電力給電用
IP Network
FRFR-GW
IP
UDP
専用ヘッダ
データ部
IP
UDP
専用ヘッダ
データ部
SW
能となり、投資や工事量の抑制および平準化を実現する
電力給電用
IP Network
(B面
(B面)
見通しを得た。
②IP網へ4パケット送信
第4図 IP網伝送における伝送方式
執筆者/浅野将弘
技術開発ニュース No.150 / 2014-3
6