症例5:急性腎不全、悪性高血圧、多彩な自己抗体を認めたが. . .の 1 例 岡崎市民病院 腎臓内科 杉山和寛 清祐実 清水友紀子 朝田啓明 【症例】63 歳 女性 【主訴】腎機能障害 【既往歴】白内障、HT(-) 【家族歴】父:食道癌、肺癌 【現病歴】5 年前 軽度腎機能障害指摘。3∼4 年前から両手指 Raynaud 症状あり。H18 年 7 月 5 日 検 診にて BP 120/71、Cr 0.81mg/dl、Hb 12.5 g/dL、UP(-)、OB(-)だった。 H19 年 3 月頃から側頭部痛にて近医通院。 4 月 23 日 近医より食欲不振、心窩部不快感にて当院紹介受診。炎症反応(WBC 19,000/μL、CRP 5.1mg/dL)、腎機能障害(Cr 2.01mg/dL)、尿異常(UP(3+)、OB(3+)、RBCsedi1-4/HF)などを認め、一 般内科入院。入院時よりニフェジピン内服開始するが、HT 持続(BP 200/125)し、4 月 25 日よりオル メサルタン内服を併用。 4 月 24 日 UCG にて心不全疑い、4 月 25 日 循環器科受診。MR による心不全と診断され、ヘパ リン 10000 単位/day、フロセミド 2mg/day にて治療開始。 4 月 26 日 腎機能障害(Cr 2.60mg/dL)、HT(164/89)にて当科 consult。以後副科としてフォロー。 【入院時身体所見】BP 202/119mmHg、P 117bpm、BT 36.8℃、chest:no rales、no murmur abd:soft&flat、legs:no edema、blue toe(-)、skin:皮疹(-)、皮膚硬化(-)、色素沈着(-) 舌小帯 np、Raynaud(-)、関節痛(-)、筋肉痛(-)、しびれ(-)、日光過敏(-)、口内炎(-)、頭痛(-) dry eye(+)、dry mouth(+) 【検査所見】 ○末梢血:WBC 19000/μL(neut 92.7%、lymph 4.7%、mono 2.1%、eosino 0.3%) RBC 380×104/μL、Hb 10.1g/dL、Ht 30.4%、Plt 11.8×104/μL、網状赤血球 42.0‰ ○生化学:TP 7.1g/dL、Alb 3.6g/dL、A/G 1.2、Alb 55.0%、α1 6.0%、α2 8.5%、β 8.1%、γ 22.4% BUN 43mg/dL、Cr 2.01mg/dL、Na 133mmol/L、K 3.5 mmol/L、Cl 92 mmol/L、TB 1.4mg/dL AST 29IU/L、ALT 12IU/L、LDH 499IU/L、CK 64IU/L、Ch-E 172IU/L、UA 4.8mg/dL T-chol 269mg/dL、TG 188mg/dL、Amy 93IU/L、Glu 134mg/dL、CRP 5.1mg/dL、ESR 71mm/hr HbA1c 4.7%、Fe 43μg/dL、UIBC 162μg/dL、フェリチン 1693ng/mL、ハプトグロビン 157mg/dL β2-MG 12.3μg/mL、CK-MB 4μg/dL、トロポニン-I 0.65ng/mL、ASO 42IU/mL IgG 1552mg/dL、IgA 235mg/dL、IgM 1552mg/dL、CH50 12.7U/mL、C3 77mg/dL、C4 3mg/dL 血清・尿電気泳動:明らかな M 蛋白(-)、HBs 抗原(-)、HCV 抗体(-) ○免疫学:リウマチ因子 114IU/ml、抗核抗体×640(Speckled 80、discrete 640) 抗 DNA 抗体≦2.0IU/ml、抗 Sm 抗体(-)、抗カルジオリピンβ2GPI 抗体≦1.2U/mL 抗カルジオリピン IgG 抗体≦8、抗 Scl-70 抗体≦7.0U/ml、抗セントロメア抗体 153(+) 抗 SS-A 抗体 150U/mL、抗 SS-B 抗体 96.6U/mL、抗 RNP 抗体≦7.0U/ml クリオグロブリン 弱陽性、MPO-ANCA<10EU、PR3-ANCA<10EU、抗 GBM 抗体<10EU ○内分泌:TSH 2.23μIU/mL、f-T4 1.40ng/mL、PRA≧20ng/ml/hr、PAC 1770pg/mL BNP 1610pg/mL ○凝固系:APTT 22.9sec、PT 76.1%、PT(INR) 1.22、フィブリノーゲン 333mg/dL ○BGA:pH 7.536、PCO2 26.5mmHg、PO2 68.1mmHg、HCO3 21.9mmol/L、SaO2 97.3% ○腫瘍マーカー:CEA 0.9ng/mL、CA19-9 12U/mL、シフラ 1.3ng/ml、ProGRP 28.8pg/ml ○尿検査:pH 6.0、UP(3+)、OB(3+)、RBCsedi1-4/HF、WBCsedi5-9/HF、尿細管上皮 10-19/HF 顆粒円柱 1-4/LF、上皮円柱 5-9/LF、脂肪円柱 20-29/WF、卵円形脂肪(+) UP 1.5g/gCr、0.91g/day、尿中 NAG 1.9IU/L、尿中β2-MG 14.0μg/mL(92.1μg/gCr) FENa 13.2%、FEK 83.2%、FEUN 54.2% ○微生物検査:血液培養(-)、尿培養(-) 【画像検査】 ○chestX-P (4/23):CTR 57.3%、CPangle sharp、congestion(-)、consolidation(-) ○CT (4/23):右肺中葉にスリガラス影、子宮筋腫 CT (4/26):両側胸水、右肺中葉にスリガラス影(前回より増大)、 両側気管支周囲にスリガラス様陰影、両側胸膜下に線状影、肺水腫 CT (6/29):胸水消失、右肺中葉にスリガラス影・両側気管支周囲にスリガラス様陰影 消失傾向 ○UCG (4/24):EF 48%、IVS/LVPW 12/12mm、IVC 15mm、MR moderate∼severe、 TR mild∼moderate、推定右室収縮期圧 63mmHg、PE(+)、diffuse mild hypokinesis UCG (5/9):EF 61%、IVS/LVPW 11/11mm、IVC 14mm、MR・TR 改善、PE(-)、明らかな asynergy(-) ○腎 US (4/26):両腎サイズ 正常、両腎葉間動脈血流正常、腎動脈狭窄(-) ○MRA (7/6):両腎動脈に有意な異常なし ○GIF (4/23):慢性胃炎 ○CF (5/15):直腸痔核 ○眼底 (4/27):網膜出血、軟性白斑、右乳頭浮腫、眼圧上昇(左 52mmHg、右 14mmHg)、眼球乾燥 【入院後経過】4/25 オルメサルタン開始後、同日夜には BP 125/77mmHg と降圧され、以後血圧は コントロールできていた。 また入院時より炎症反応高値であり、4/25 WBC 28100/μL と上昇したが、 発熱は微熱(37.5℃以下)であった。4/25 循環器科受診し、MR による心不全と診断され、ヘパリン 10000 単位/day、フロセミド 2mg/day にて治療開始。4/26 当科コンサルト。腎機能障害、蛋白尿、 血尿、HT、低 K 血症、貧血、LDH 高値、炎症反応高値、低補体血症、リウマチ因子高値、ANA 高 値などを認めた。US で腎動脈狭窄がないことを確認後、強皮症腎クリーゼの可能性を考慮し 4/27 か らカプトプリル 75mg/day 内服開始。4/24∼4/28 まで LVFX 200mg 内服。4/28 には解熱し、5/1 WBC 9000/μL、CRP 0.7mg/dL と炎症反応低下傾向であった(UCG、血液培養から IE 否定的)。4/27 眼科 受診し、KW 分類 4 群、左眼高眼圧を認めた(左高眼圧は線維柱体狭窄 or 強膜の流出血管狭窄の可能 性がある)。以上より悪性高血圧の基準を満たす(3∼4/4 項目)。検査結果報告において、ハプトグロビ ン 157mg/dL、抗セントロメア抗体 153(+)、抗 SS-A 抗体 150U/mL、抗 SS-B 抗体 96.6U/mL、ク リオグロブリン 弱陽性、PRA≧20ng/ml/hr、PAC 1770pg/mL などの異常値を認めた。以上より高 血圧性強皮症腎クリーゼの診断基準(Steen VD ら)は満たすが、強皮症の診断基準を満たさなかった。 5/1 Cr 3.70mg/dL(peak)、UP(1+) 0.42g/day、OB(1+)、RBCsedi5-9/HF。5/1 腎生検施行(供覧)。 5/8 眼科受診。シルマー試験:2mm/2mm、蛍光色素試験:陽性/陽性。5/10 口腔外科受診。口腔乾 燥症(生検なし)あり。以上よりシェーグレン症候群の診断基準を満たす。5/15 PRA 9.4ng/ml/hr、PAC 44.2pg/mL と低下傾向を示す。以後、BP 90-110/45-70 で推移し、5/21 退院となる。6/29 Cr 2.02 mg/dL、UP(1+) 0.21g/gCr、OB(-)、WBC 4200/μL、CRP<0.1mg/dL と腎機能・炎症反応改善傾向。 【ploblem list】 ①急性腎不全、尿異常 ②悪性高血圧、高レニン高アルドステロン症 ③シェーグレン症候群 ④Raynaud 症状 ⑤抗セントロメア抗体(+) ⑥低補体血症 ⑦クリオグロブリン 弱陽性 ⑧リウマチ因子高値 ⑨炎症 ⑩心不全、MR ⑪KW 分類 4 群、左眼高眼圧 ⑫貧血、血小板減少 ⑬両肺スリガラス影 ・急性腎不全の原因は、悪性高血圧+シェーグレン症候群の間質病変? ・強皮症の診断基準は満たさないが、抗セントロメア抗体はシェーグレン症候群による? ・低補体、クリオグロブリン 弱陽性、リウマチ因子高値、炎症反応高値の意味は?(IF(-)、IEPnp)
© Copyright 2024 ExpyDoc