COC 現代シナリオ 「恋人を射ち堕とした日」 By TRPG Horizon はじめに このシナリオは「クトゥルフの呼び声 TRPG」に対応した初心者向けシナリオである。 プレイ時間は探索者作成を含めずに2時間程度を想定している。戦闘は推奨はしないが不 可能ではない。推奨する技能は<信用>、<説得>などの対人系技能、<図書館>などの 探索系技能である。 ◆KP 情報 探索者の友人である女性アンの恋人ロランは、彼女をグラーキからかばってその棘を受 けてしまった。次第にグラーキの僕へと姿を変えていくロランをせめて人気のない場所へ 逃がさなければならないと考えて、彼女たちは二人で町を逃げ出した。周囲は二人が恋仲 であることを知っていたため「駆け落ち」ということになっている。 逃げ出した二人はある荒野で人目を忍んで「その時」を待っていた。彼はかねてからア ンに自分を殺すようにと懇願していたが、アンにはできなかった。(ロランは町を逃げ出す 前から支配の影響で凶暴になり、体は自分の意志通りに動かなくなっていた。そのため「不 治の病に侵されている」と言われ、それが原因でアンの親族から一緒になるのを拒まれて いた。 )そしてついに、彼は人ならざるものへ姿を変えてしまう。アンは絶望の中、彼の息 の根を止める。しかし彼女一人の力では完全に彼を殺しきることはできなかった。彼から 攻撃を受けてしまったアンは、彼と同じ運命をたどる未来を背負ってしまう。アンは自分 を殺してくれる人物を待ちながら荒野で独り、絶望に飲まれている。 なお、このシナリオでのグラーキの僕は空鬼とガストを基に作成している。 ◆導入 探索者の非常に親しい友人アンは一途な性格の持ち主で、恋人のロランと添い遂げる決 意を固めているが、ロランはここ数か月どうにも体調が悪く、医者にも原因の分からない 不治の病であると言い渡されていた。そのためアンの家族はロランと一緒になるのを認め なかった。そして3週間前、彼女らは急に、揃って消息を絶った。周囲は駆け落ちだとい って、話に尾ひれをつけ、二人の若者の恋物語を噂し合った。しかしいくらなんでも親し い探索者達にまで何も言わずに姿を隠すことは考えにくい。探索者達は、二人の元を訪ね、 失踪騒動の真相を探ることにした。 ◆聞き込み 町で聞き込みを行っても、真実を知っている人物はほとんどいない。<アイデア>など で逐一真実を選びながら調査をする必要がある。 (省略可。代替案としては<幸運>などで 真実を知っている人物を見つけることができる、など。難易度に合わせて変更すると良い。) 真実を知る人物に接触できた場合得られる情報は以下の通り。 ・二人の出会いは北の荒野で、アンが何か獣に襲われているところをロランに救われた時 である。ロランはその時負傷した。 ・二人は北の荒野に向かった。 ・ロランの体には赤い痣のようなものが浮かんでいた。 ・二人は三週間前の深夜に人目を気にするように去って行った。 アンやロランの家族に話を聞くなら、それぞれ家族の身を案じながら、アンの家族は「命 に関わるかもしれない病に侵されたロランと一緒になってもすぐに別離の悲しみを背負う ことになる。彼への愛は理解できないではないが、駆け落ちは誤った決断だった。」という 旨のことを言う。ロランの家族は「なにも考えがないわけではないと信じたいが、治らな い病を抱えたままではアンを幸せにするどころか、生活もままならない。もしやこの世を 儚んで心中など考えているのではあるまいか。遺書などどこかに残していないといいが… …。 」というようなことを言う。 ◆調査 町内にある施設は次の通り ・図書館 ・病院 ・アンとロランの家 それぞれの個別の描写は以下の通り ・図書館 <図書館>で判明する内容は以下の通り 「荒野の魔物」 魔物はかよわき人間を捕えて眷属にする。その眷属を介して魔物はさらに眷属を増やして いく。眷属と化した人間は自我を持ちながらも身体のみの自由を奪われる。自らの意志に 反して人を傷つけなければならない苦しみは計り知れない。 眷属たちは体に赤い網の目のような形の痣のような文様が浮かぶ。 人が彼らに立ち向かうことはあまりにも無謀で愚かな試みである。 ・病院 主治医に聞き込みを行う場合 「ロランの症状」 赤い網目状の内出血が多く見られた。一致する症例が何一つ見つからなかったため治 療の施しようがなかった。精神に異常をきたしていたようで凶暴な性格になっていた。 ・アンとロランの家 乱雑な室内は空き巣が入ったというよりは焦って長旅の支度をして出て行ったような 荒れ方をしている。具体的には、衣類やカバンが多くなくなっている。空き巣があまり 狙わないような品々である。ひっくり返されたように荒れた室内を<目星>するなどし て探索する場合、≪アンの置手紙≫≪ロランの日記≫を発見する。それぞれの内容は以 下の通りである。 「アンの置手紙」 私は彼を見捨てることはできない。 けれど、楽にしてあげることもできない。 わたしにはどうしてあげることもできない。 せめて、最期を見届けてあげられたら……。○○さん(探索者の名前) 、本当にごめん なさい。でも、ご迷惑をおかけするわけにはいかないんです。 私は事故か何かに遭ったと思ってください。それも、間違いというわけではありませ んから。 わたしは最期まで、彼についていきたいのです。 「アランの日記」 ○月○日 あの怪物から彼女を助けてから数か月になる。彼女をかばった時にできた、なかなか癒 えないこの傷も彼女との縁をくれたことを考えると、名誉の負傷なのかもしれない。と、 恰好をつけてみたものの、どうにも膿んでいるのか鈍い痛みが続いている。 ○月○日 内出血が始まった。 押さえると少々痛む。何かの毒だろうか。 ○月○日 痛い。広がっていく。 ○月○日 彼女の暖かく、柔らかい肉体のその断面は一体どんな色をしているのだろうか。 なんでこんなことを考えてしまうのだろう。僕は一体どうなってしまっているんだ。 ○月○日 せめて僕が人間であるうちに息の根を止めてほしい。この手で誰かを……彼女を殺して しまわないうちに。 ○月○日 せめて人目につかない場所に逃げなければならない。このままでは遠くないうちに人を 殺してしまう。北の荒野……この忌々しい傷の伝説の残る場所が、僕の死に場所に相応 しい。 SANC 1/1d4 ◆北の荒野 北の荒野は、乾燥した赤土に、時折岩山が露出している、草木の滅多に生えない荒涼と した土地である。魔物の伝説が残る場所として有名であり、地域の文化財的な役目をして いる。奥まで分け入っていくと湖があるが、そこまで入っていく者は稀である。土が強風 に巻き上げられ、方角の感覚が狂い、迷ってしまうからである。 (必要と KP が判断するなら<目星>)探索者達が荒野を進んでいくと、血痕が点々と赤 土の地面に黒い染みを残しながらある岩陰まで伸びていくことに気づく。たどり着いたの は風でえぐられた狭い洞穴である。中は薄暗いが、そこにあるものを認識できる程度の薄 暗さである。 中にあったのは何か巨大な物の塊。探索者達の知識にあるどんな猛獣よりもおぞましく、 まがまがしく、凶暴な面影のあるなにか強大な猛獣のようなものの亡骸である。かつては 人型だったらしいそれは、過剰に筋肉が隆起し、手は巨大で、30cmはあろうかという 鉤爪は爪というよりも棘に似て、そして顔らしきものには苦痛の表情が焼き付き、それに 耐えるために喰いしばったと思われる歯は肉食獣のものに似ていた。皮膚は赤い網目のよ うなヒビの入った鱗状のものに覆われていて腐臭を放っている。こと切れてから数日から 一週間はたっているだろう。SANC 1d3/1d6 その死骸の影に隠れるようにしてなにかがうずくまっている。近づいてみるとそれは探 索者達の親友のアンである。怪物を始末するのに使ったらしい武器(弓だと原曲の雰囲気 が出てよい)が落ちている。しかし彼女は深手を負っているらしく、その肩からは生臭い 血と肉のにおいがする。それに惹かれて腐肉をむさぼる虫の類が寄っているが、頓着する 様子もない。傷口の周囲には、内出血のように赤く、網目状の模様が浮かんでいる。SANC 1d4/1d10 アンは虚空を見つめていたが、探索者達に気づくと、うつろな目を向け、細い声で「殺 してください……まだ人でいられるうちに……。 」と死を願う。探索者達の質問には答える が、何か言う度に「はやく殺して」と求める。ここでエンド分岐。 ◆アンを殺した場合 アンを殺すなら、彼女は特に抵抗しない。探索者が望むのであれば彼女の武器を使用し てもよい。彼女はこと切れる直前、 「ありがとう……彼のいない世界では、どんな鮮やかな 花も、私の目には褪せて映ることでしょう。そんな世界には、いたくないから……。 」と探 索者に感謝を伝える。SANC 1d6/1d10 End「あの日、二人出逢わなければ……」 ◆アンを殺さなかった場合 「ああ……最期まで……人で居たかったのに……。」とだけ言って、彼女は泣き叫びなが ら人ならざるものに成り果てる。筋肉は音を立てて膨れあがり、歯は牙へと変わり、爪は 急速に伸びて棘のように尖る。柔らかく滑らかだった肌はみるみるうちに赤い網目の走る 固い鱗に覆われ、人の面影は消え去る。SANC 1d10/1d20。戦闘処理。 アンだったもの STR 30 POW 10 CON 25 DEX 20 SIZ 20 INT 0 耐久力15 装甲3 鉤爪 65% ダメージ 1d8+db(1d4) 噛み付き 40% ダメージ 1d10 結果、おそらく探索者は生き残れないだろう。 End「愛する人を喪った世界にはどんな色の花が咲くだろう」 ◆エンド別報酬 アンを殺した→彼女の命を助けることはかなわなかったが、彼女は最期まで人のままで いることができた。しかし、友人をその手で殺したことに変わりはない。彼女が感謝しな がら逝ったのがせめてもの救いだろうか…。SAN 回復1d6、クトゥルフ神話技能3% アンを殺さない選択をし、戦闘したが生き延びた→あなたは大切な友人の命を奪うこと まではできなかった。しかし、最期を人間として迎えたいと、死を望んだ彼女を生かそう としたのは、果たして正解だったのだろうか。1d6 の SAN を喪失する。クトゥルフ神話技 能3% ◆作者あとがき どうも、今回は「胸糞悪いシナリオを書いてみよう」と思った R です。いかがでしたで しょうか。初心者の方向けに書けと言われたのにこの胸糞エンド、大丈夫なんでしょうか。 不安で胃が痛みます。感想を下さると救われます。感想をください。 感想といえば、どうやら卓上の地平線のシナリオは非ローランの方にもプレイしていた だいているようで、非常に嬉しいです。ありがとうございます。今後とも使ってやってい ただけると幸いです。 最後に、このシナリオでクトゥルフデビューをされた皆様へ。どんな選択をされました でしょうか。こんなシナリオです。きっと嫌な感覚の残るエンドだったことでしょう。エ ンド分岐にあんなことを書いておいてなんですが、後悔のないエンディングであればそれ がなによりです。納得のいかないハッピーエンドより、納得できるバッドエンドの方が、 きっと後味良いと思います。みなさんの今後のクトゥルフ、TRPG ライフが、実りあるも のになりますように。 卓上の地平線、シナリオを書き続ける機械、R でした。またいずれ。
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