第30回交通工学研究発表会論文集 2010年9月 (研究論文) No.64 社会的同調行動を考慮した電気自動車の普及要因分析 *広島大学大学院 広島大学大学院 正会員 ○桑野 将司 正会員 塚井 誠人 広島大学大学院 1. はじめに 岩本真由子 ため,自動車利用者間の社会的同調行動の影響が強いと 地球環境問題への対策として,運輸部門からの CO2 や 考えられる.社会的同調効果とインセンティブ施策の設 NOx 等の排出量削減が進められている.低公害車の中で 計によっては,電気自動車の普及率は,高水準で均衡す も電気自動車は,走行時に二酸化炭素を排出しないこと, るとは限らず,低位均衡の可能性がある.そこで,本研 および出力面ではガソリンを燃料とする軽自動車に劣 究では,社会的同調行動を考慮して電気自動車の普及要 らない走行性能を有していることなどから,その普及に 因および普及プロセスをシミュレートできる実証モデ よる排出ガス削減効果が期待されている.しかし,現在 ルを提案することを目的とする. 市販されている電気自動車の航続距離は 160km 程度で, 普及率 ガソリン車に比べて短いうえ,新たな給電施設の整備が 累積度数分布曲線 必要となるなど,普及に関する課題は多い. 新技術の普及プロセスや,それによる社会,文化集団 導入 初期 普及 離陸期 普及 末期 の変容プロセスに関する研究は,主にマーケティング分 野で行われてきた.ロジャーズは,新技術採用者と追従 者を明示的に考慮したイノベーション普及プロセスモ 時間 1) デル (以下,イノベーションモデル)を提案した.イ 革新者 ノベーションモデルでは,採用者を革新者,初期採用者, 前期多数採用者,後期多数採用者,遅滞者の 5 カテゴリ 初期採用者 前期多数 採用者 後期多数 採用者 遅滞者 図 1 ロジャーズの普及理論によるベルカーブ ーに分類される.ロジャーズは,各カテゴリーの新技術 採用に関する社会経済的特性やコミュニケーション特 2.使用データの概要 本研究では 2010 年 1 月に実施した世帯アンケート調 性を考察し,普及初期では普及速度は緩やかであるが, 普及率が一定の閾値を超えると普及速度が上昇し,普及 査データを用いる.調査の概要を表 1 に示す.本調査は, 率が約 50%に達した時点で普及速度は最大となること 回答者の個人・世帯属性に加えて,自動車購入時に重要 を示した(図 1) .さらに,ロジャーズは,このような 視する項目や,自動車利用自粛運動への参加経験,エコ 普及曲線が描かれる理由として,新技術の普及プロセス ドライブに対する意識などの環境意識を設問した. では,採用者と追従者の間での直接的な情報交換だけで さらに,車両価格や電気自動車の航続距離などの車両 なく,世論やインセンティブ政策を通じて追従者に間接 特性や,売れ行き(普及率)が車種選択選好に及ぼす影 的にコミットする社会的同調行動の影響が強いこと,さ 響を把握するために,ガソリン車,ハイブリッド車,電 らにその影響は,相互接触の機会が最大となる普及率 気車の購入意向に関する SP 調査を実施した.SP 調査の 50%程度で最も強くなるためと考察している. 要因と水準の設定値は表 2 に示す通りである.調査は回 本研究で着目する電気自動車は,その普及に際して新 たに給電施設を設置する必要性がある.給電施設は利用 答者 1 人当たりに設定条件が異なる 4 回の SP 設問を繰 り返した. 者が多いほど,技術開発が進むと共に,同数の施設を多 人数で利用することで 1 人当たりのコストが低下する 3. 調査結果の基礎集計結果 本調査では,社会的同調行動の存在を把握するため, という正のネットワーク外部性を有するため,一般化ユ ーザーコストも,普及率に左右される.さらに,電気自 社会全体で電気自動車の普及率が何%以上になれば,電 動車への乗り換えは単に利潤動機に支えられるばかり 気自動車の購入を検討するか,という質問を設けた.図 ではなく,環境倫理を尊重する態度形成によっても進む 2 に,社会全体での電気自動車の普及率と電気自動車の Keywords : * 連絡先 : 電気自動車,社会的同調行動,普及理論 [email protected] (Phone) 082-424-7825 購入を検討する回答者の割合(以下,購入検討者割合) の関係を示す.図 2 より,電気自動車が全く普及してい ない (社会全体での普及率が 0%) 状況であっても, - 253 - 第30回交通工学研究発表会論文集 2010年9月 (研究論文) 表 1 調査の概要 2010 年 インターネットによる Web 調査 中国地方 5 県の居住者 1001 サンプル 個人・世帯属性 性別,年齢,免許の有無,自動車保有台数, 年収など 環境意識 自動車を購入する際に重要視する機能,自 動車利用自粛活動への参加経験,エコドラ イブの意識など 車種選択の SP 調査 ガソリン車,ハイブリッド車,電気自動車 の選択意向 100% 電気自動車 購入検討者割合(%) 期間 方法 対象者 サンプル数 調査項目 80% 60% 40% 20% 0% 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 社会全体での普及率(%) 図 2 社会全体での普及率と 電気自動車購入検討者割合の関係 Node 0 C1 16.3% C2 4.5% C3 12.6% C4 51.9% C5 14.6% 表 2 車種選択の選択要因とその水準の設定値 車種 水準 1 水準 2 水準 3 水準 4 車両価格(万円) G 150 200 H 150 180 250 280 E 200 230 300 330 普及率(%) G 90 70 50 20 H 7 20 25 30 E 3 10 25 50 航続距離(km) E 100 300 給電時間(分) E 5 30 G:ガソリン車,H:ハイブリッド車,E:電気自動車 価格はエコ減税割引後の価格を想定 子供の数 P-value=0.012 1人以下 2人 Node 1 C1 18.1% C2 4.3% C3 12.9% C4 51.1% C5 13.7% 販売台数の多さ 重視する/やや重視する /あまり重視しない 経験あり 重視しない Node 4 C1 22.4% C2 4.2% C3 13.6% C4 46.7% C5 13.1% Node 5 C1 12.0% C2 4.4% C3 12.0% C4 57.0% C5 14.6% 新車であること P-value=0.031 あまり重視しない /重視しない 10%存在することが明らかとなった.また,社会全体で Node 8 C1 13.5% C2 3.1% C3 12.5% C4 57.3% C5 13.5% の普及率の増加に伴い,電気自動車の購入検討者割合は 増加することが分かる.特に,社会全体での普及率が Node 3 C1 19.2% C2 10.3% C3 11.5% C4 48.7% C5 10.3% 自動車利用自粛運動 P-value=0.015 P-value=0.073 電気自動車を購入したいと回答した革新者は,全体の約 3人以上 Node 2 C1 11.9% C2 2.6% C3 12.4% C4 54.9% C5 18.1% Node 6 C1 16.7% C2 2.1% C3 16.7% C4 54.2% C5 10.4% 節約生活 P-value=0.023 やや重視する /重視する していない している Node 9 C1 30.0% C2 5.1% C3 14.4% C4 38.1% C5 12.7% Node 10 C1 5.1% C2 1.3% C3 9.0% C4 67.9% C5 16.7% Node 11 C1 18.1% C2 7.2% C3 14.5% C4 44.6% C5 15.7% 経験なし Node 7 C1 7.2% C2 3.1% C3 8.3% C4 55.7% C5 25.8% 新車であること P-value=0.080 あまり重視しない やや重視する /重視しない /重視する Node 12 C1 0.0% C2 0.0% C3 15.4% C4 23.1% C5 61.5% Node 13 C1 8.3% C2 3.6% C3 7.1% C4 60.7% C5 20.2% 図3 Exhaustive CHAID分析の結果 40%から 50%に達すると,電気自動車の購入検討者割 合が 21%から 38%に飛躍的に増加することが明らかと なり,ロジャーズが指摘した社会的同調行動が,存在す ンプルを用いる.新技術採用者カテゴリーは以下のよう ることが明らかとなった.一方,社会全体の電気自動車 に設定した. 普及率に関わらず,34%の回答者は電気自動車を購入し ① 革新者(C1) :普及率が0%のときに購入を検討する 回答者. ない意向であることも明らかとなった. 回答者の個人・世帯属性と電気自動車の購入検討段階 ② 初期採用者(C2) :普及率が1%~20%のときに購入 を検討する回答者. の関係を把握するため,ロジャーズの普及理論を援用し, 新技術採用者カテゴリーを規定する要因に関して, ③ 前期多数採用者(C3) :普及率が21%~50%以下の ときに購入を検討する回答者. Exhaustive CHAID ( Chi-squared Automatic Interaction Detector)3)による変数探索を行う.CHAID は,サブグ ④ 後期多数採用者(C4) :普及率が51%~100%以下の ときに購入を検討する回答者. ループ間の目的変数の分布に最も大きな違いが生じる ようにカイ自乗検定量に基づいて,分類基準となる説明 ⑤ 遅滞者(C5) :普及率に関係なく購入しない回答者. 変数と閾値を,決定木分析で生成する手法である. 図3にExhaustive CHAIDによる決定木の分析結果を示 Exhaustive CHAID は, 説明変数の選択時に全数探索を行 す.本分析では,分岐停止基準を第4層分岐,サブグルー う方法であり,任意の分岐停止基準の下で適切なサブカ プ間の有意差に関する水準棄却域を10%と設定した.図3 テゴリーの生成が保証される.目的変数,および説明変 の各ノード内の採用者カテゴリーの割合から判断して, 数として,質的変数と連続変数の両方を用いることがで 革新者はNode 9,初期採用者はNode 3と11,前期多数採 きる.本分析では,個人・世帯属性や環境意識を説明変 用はNode 6,後期多数採用者はNode 10と13,遅滞者は 数群として,関連する質問項目に全て回答した 643 サ Node 12に属する傾向にあることが明らかとなった.新技 - 254 - 第30回交通工学研究発表会論文集 2010年9月 (研究論文) 術普及のためには,普及離陸期に強い影響を及ぼす初期 会的同調行動の程度を表現している. 2) 採用者と前期多数採用者に対する支援策が重要である . すなわち,電気自動車の普及に関しては,子供の数が多 5.車種選択モデルの推定結果 い世帯(Node 3) ,子供の数は少ないが販売台数の多さを 重視し節約生活を心がけている世帯(Node11) ,あるい 4 章で定式化した車種選択モデルの推定結果を表 3 に 示す.電気自動車の選別確率 Qi に関するパラメータ推定 は自動車利用自粛運動への参加経験がある世帯(Node 6) 値では,世帯人数と年収が負で有意な値となった.これ を対象とした購入促進施策を実施すれば,その後に続く は,世帯人数が少なく,年収が少ない世帯は,電気自動 後期多数採用者の普及に結びつき,電気自動車普及率向 車を選択肢に含む傾向があることを示している.自動車 上につながると考えられる. 保有台数に関するパラメータは正で有意な値となった. すなわち,自動車保有台数が多い世帯は電気自動車の選 別確率が高いことを示している.本モデルでは,環境意 4.車種選択モデルの定式化 SP 調査データを用いた選択モデルでは,回答者は提 識を表現する説明変数として,自動車購入時の環境性能 示された全ての選択肢の中から,最も望ましい選択肢を の重視度,ノーマイカーデーやモビリティマネジメント 選択すると仮定した分析が行われる.しかし,3 章で明 などの自動車利用の自粛活動への参加経験,およびエコ らかとなったように,回答者は社会全体の普及率を考慮 ドライブに対する意識を導入した.これらの環境意識に して,電気自動車の購入を検討するか否かを決定してい 関するパラメータ推定値は全て正で有意な値となり,環 る.本研究では,個人が電気自動車の購入可否に関する 境意識の向上が電気自動車の選別確率の増加に影響を及 態度を形成するまでのプロセスを,選択肢集合に電気自 ぼすことが明らかとなった.また,電気自動車の普及率 動車を含むか否かを決定する選別段階,そして,選別さ に関するパラメータは, 正で有意な値となった. これは, れた選択肢集合の中で選択肢を比較するプロセスを,選 電気自動車が普及するほど,電気自動車の選別確率が高 択肢集合の中から最も効用が高い選択肢を選択する選 まることを示しており,社会的同調行動が存在すること 択段階と考え,これら 2 段階を表現したモデルの構築を を表わしている. 車種選択の効用 vij に関するパラメータに着目すると, 行う.具体的には,サンプル i が車種 j(1=ガソリン車, 2=ハイブリッド車,3=電気自動車)を選択する確率 車両価格と電気自動車の給電時間のパラメータ値は負で Pi ( j ) を,電気自動車が選択肢集合に含まれる確率(選 有意に,電気自動車の航続距離は正で有意となった.こ 別確率) Qi と,選択肢集合から選択肢 j が選択される 確率によって,式(1)で定義する. Pi ( j ) = Qi × exp(vij ) ∑ exp(v ij ) + (1 − Qi ) × j =1, 2,3 説明変数 exp(vij ) ∑ exp(v ij ) (1) j =1, 2 ここで, vij はサンプル i の車種 j に対する効用の確定項 である. 電気自動車の選別確率 Qi には,世帯属性や電気自動車 の普及率など複数の要因 z il が考えられる.そこで,選別 確率 Qi を,関数として式(2)のように構造化する. Qi = Φ( ∑γ z l il + η ⋅ si , j =3 ) (2) l ここで, Φ(•) は標準正規分布の累積密度関数, z il はサ ンプル i の l 番目の説明変数,si , j =3 は電気自動車の普及 率, γ l ,η は未知パラメータである. 一方, vij は式(3)で表現する. vij = ∑α k ⋅ xijk + β ⋅ sij 表 3 車種選択モデル推定結果 (3) ここで,x ijk はサンプル i の車種 j に関する k 番目の説明 変数, sij は車種 j の普及率,α k , β は未知パラメータ である.式(2) , (3)から明らかなように,η , β は社 - 255 - t値 -2.6 -4.0 3.8 3.2 3.2 2.8 2.3 -6.5 * ** ** ** ** ** * ** 車種選択の効用 vij に関するパラメータ 車両価格(万円)(1,2,3)a) -2.686 航続距離(km)(3) a) 0.001 a) 給電時間(分)(3) -0.016 普及率(%)(1,2,3) a) 0.005 定数項(1) a) -1.146 定数項(2) a) -0.257 -10.3 2.2 -3.7 3.9 -3.8 -0.9 ** * ** ** ** サンプル数 k 推定値 電気自動車の選別確率 Qi に関するパラメータ 世帯人数(人) -0.170 年収(万円) -0.123 自動車保有台数(台) 0.294 環境性能の重視度 0.149 車利用自粛活動への参加経験 0.209 エコドライブの意識度 0.145 普及率(%) 0.006 定数項 -1.626 4004 初期対数尤度 -4398.844 最終対数尤度 -3817.240 自由度調整済み尤度比 0.131 a) 括弧内の 1,2,3 は説明変数が入力された選択肢を示す (1:ガソリン車,2:ハイブリッド車,3:電気自動車) *: 5%有意, **: 1% 有意 第30回交通工学研究発表会論文集 2010年9月 (研究論文) れは車両価格が安く,また電気自動車に関しては航続距 り,シナリオ 1 の 44.7%よりも高い値となった.すなわ 離が長く,給電時間が短くなると効用が高くなることを ち,環境意識を高めることによって,車両価格を 200 万 示している.普及率に関するパラメータは,正で有意な 円まで低下させることと同等以上の水準まで,電気自動 値となった.これは,普及率が高くなるほど,その車種 車普及率を高められることが明らかとなった. に対する効用が高くなることを意味している.つまり, 電気車 普及率 (Z) 電気自動車の選別確率だけでなく,車種選択の段階でも 社会的同調効果が存在することが明らかとなった. 100% シナリオ2の均衡点 ガソリン : 7.2% ハイブリッド:26.3% 電気 :66.4% 6.シミュレーション分析 6.1 シナリオの設定 0 車両特性や消費者の環境意識の変化が電気自動車の 選好に及ぼす影響を把握するために,推定したモデルを シナリオ1の均衡点 ガソリン :11.3% ハイブリッド :44.0% 電気 :44.7% シナリオ0の均衡点 ガソリン :28.2% ハイブリッド :50.2% 電気 :21.6% 100% 適用して,車種選択確率に関するシミュレーション分析 100% ガソリン車 普及率(X) を行う.シナリオとして以下の 3 つを設定する. シナリオ 0:BAU(SP 調査の平均設定値) ハイブリッド車 普及率(Y) 図 4 シミュレーション分析の結果 シナリオ 1:電気自動車の車両価格の減少 エコ減税などによって,電気自動車の車両価格が, 7.結論 本研究では,自動車排出ガス削減施策の 1 つとして, ガソリン車やハイブリッド車と同程度の 200 万円に低 下した場合を想定する. 電気自動車の普及に着目して,ロジャーズのイノベーシ シナリオ 2:環境意識の向上 ョンモデルの適用を試みた.その結果,電気自動車の購 キャンペーンや環境啓発運動の実施によって,消費 入に関して,社会全体での普及率が高くなれば,個人の 者の環境意識が向上した場合を想定する.具体的には, 選択確率も高くなるという,社会的同調行動の存在が明 らかとなった.これは,普及の初期段階で,強力な普及 サンプル全員の車種選択時の環境性能の重視度,自動 車利用自粛運動への参加経験,エコドライブの意識度 促進施策を行うとことによって,革新者や初期採用者で に関する評価が, それぞれ 1 段階増加したと仮定する. の電気自動車保有を促せば,その後は社会的同調行動に よって,普及率を高位均衡点にまで上昇させられること を示唆している.すなわち,大多数の個人を対象とする 6.2 シミュレーション分析の結果 シミュレーション手順は,以下の通りである.ある時 のではなく,採用者層を適切に捉えることによって効率 点 t のガソリン車,ハイブリッド車,電気自動車の構成 的な施策検討が可能となる.また,電気自動車普及率に 比を Xt,Yt,Zt (Xt +Yt +Zt =100%)としたとき,ガソ 関するシミュレーション結果から,車両価格の減少など リン車の割合が 100%の初期状態(100,0,0)から,車 種選択モデルに基づいて車種割合 Pˆ t を算出し,その値 の経済的施策と同等以上の効果が,自動車利用自粛運動 j を普及率 sˆ tj として再度車種選択モデルに代入して Pˆ jt +1 への参加やエコドライブの促進等による環境意識の向上 によっても得られることが明らかとなった. を求める.繰り返し代入により,t =0 →∞までの車種選 本研究では,車種選択のタイミングが同時期に訪れる 択の構成比の推移を 3 次元平面上に表現した結果を,図 ことを仮定して普及プロセスを分析したが,自動車の買 4 に示す.図 4 のシミュレーション結果から,シナリオ 1 い替えや追加購入の時期を考慮した自動車取替更新行動 では,時間経過の初期段階において,ガソリン車の割合 分析と統合することによって,時間軸上に沿った施策の は減少し,ハイブリッド車と電気自動車の割合が増加す 実施時期や実施期間を精査する必要がある.また,環境 ることがわかる.ハイブリッド車の割合は最大で 47.0% 意識を向上させるための具体的な施策の検討も必要であ まで達するが,その後は,電気自動車の割合が増加する る.さらに,環境意識についても,社会的同調効果を考 ことが明らかとなった.均衡点における電気自動車の割 慮した向上政策の検討が必要である. 合は 44.7%となった. シナリオ 2 では,シナリオ 1 と同様に,車種選択の繰 参考文献 り返しに伴い,ハイブリッド車と電気自動車の割合が増 1) E.M.ロジャーズ:イノベーション普及学,青野慎一, 加しているが,それらの増加率はシナリオ 1 に比べて高 い.これは,環境意識が高くなると,非ガソリン車の選 宇野善康監訳,産能大学出版部,1990 年. 2) 池田謙一:口コミとネットワークの社会心理,東京大 学出版会,2010 年. 択確率が高くなることを表わしている.また,シナリオ 2 の均衡点における電気自動車の選択割合は 66.4%とな 3) SPSS Inc: Answer Tree 3.0 User’s Guide, 2001. - 256 -
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