エネルギア総合研究所太陽光発電装置の経年変化について

研究レポート
エネルギア総合研究所太陽光発電装置の
経年変化について
エネルギア総合研究所 系統・情報通信担当 八田 浩一
1
まえがき
エネルギア総合研究所構内の太陽光発電装置は,
小規模な太陽光発電が複数台系統連系したときの電
力品質等への影響を研究するとともに,今後太陽光
発電を住宅に設置しようとされるお客さまの参考に
していただくことを目的に設置している。近年は,
長期にわたる経年変化の研究を実施しており,設置
から約20年が経過した現在の状況を調査・整理した
ので報告する。
2
太陽光発電装置
本装置は複数台のシステムで構成され,外観と仕
様概要を写真1と表1に示す。各システムは,一般
の住宅に設置される規模のパネルをもち,全体の発
電容量は27kWである。パネルは全てシリコン系で,
実際の設置場所を模擬している。本装置は,平成6
年に8システムで運用を開始した後,平成16年に広
島市内の一般住宅に設置,データ収集していた1シ
ステムを移設し(システムNo.9)
,計9システムと
なった。ほとんどのパネルは製造後約20年が経過し
ているが,システムNo.8については,平成6年に広
島市内にあった旧技研※1から移設したもので,パネ
ルは30年以上経過している。
3
経年による発電状況の変化
平成16年10月以降の計測データを用い,発電量お
よび発電特性を分析した。
表1 太陽光発電装置の仕様概要
システムNo
設置方式
1
2
模擬屋根
模擬屋根
3
4
地上設置
(住宅用スレート) (工業用スレート)
模擬屋根
(屋根一体)
パネル出力
2.6kW
2.4kW
3.2kW
3.0kW
種 類
多結晶
多結晶
アモルファス
多結晶
面 積
22.8㎡
21.0㎡
44.8㎡
26.9㎡
20°
20°
20°
20°
製造年
1992
1992
1994
1994
PCS定格出力
3.0kW
3.0kW
3.0kW
3.0kW
5
6
7
8
9
設置角度
模擬屋根
実屋根
(和瓦)
(住宅用スレート)
3.2kW
3.1kW
5.4kW
1.6kW
3.2kW
単結晶
単結晶
多結晶
単結晶
単結晶
25.0㎡
23.3㎡
46.7㎡
15.6㎡
25.0㎡
20°
12°
地上設置
地上設置
(角度可変)
地上設置
20°
固定
30°
20°
(0°
∼60°
)
1994
1994
1994
1981
1994
3.0kW
4.0kW
5.5kW
1.5kW
3.0kW
(1)発電量の比較
平成16年10月から平成25年3月までのシステム
定格出力1kW当たりの発電量を,月ごとに1日当た
りの発電量に換算してグラフを作成した。定格出力
1kW当たりに換算したのは,パネルごとの発電量
を比較するためであり,1日当たりに換算したのは,
月により日数が異なるためである。なお,システム
定格出力は,パネル出力とPCS定格出力の小さい方
を用いた。結果を図1に示す。グラフからアモルファ
スのシステムNo.3の発電量の低下が著しいことが
わかる。
5
4.5
kWh/日
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
No.6
No.7
No.8
No.9
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
写真1 太陽光発電装置外観
※1 (旧)中国電力㈱技術研究センター:平成6年9月に広
島市南区大州から現在の東広島市鏡山に移転した。
Page 2
H17
H18
H19
H20
H21
H22
H23
H24 年度
図1 発電量の変化
(平成23年10月は計測システムの故障によりデータ欠損)
エネルギア総研レビュー No.36
エネルギア総合研究所太陽光発電装置の経年変化について
(2)発電特性の分析
発電特性としてJIS C8906に記載されているシス
テム性能指標(以下の(a)∼(c)
)に関して分析した。
なお,平成23年度は10月分のデータがすべて欠損
していたため分析から除外した(計算値なし)
。
(a)等価システム稼働時間
等価システム稼働時間Yp[h]は,システム出
力電力量Ea[kWh]を定格出力Pas[kW]で除
した値であり,どれだけ発電したかを表わす。
各システムの発電量実績から,年間の等価シス
テム稼働時間を計算した結果が図2である。
(b)等価太陽日照時間
等価太陽日照時間Ys[h]は,傾斜面日射量
[kWh・m-2]を標準条件日射量[1.0kW・m-2]
で除した値であり,どれだけ日が照ったかを表わ
す。
今回の評価期間中の計測データとして揃ってい
るのは水平面日射量だけであったため,水平面日
射量を傾斜面日射量に変換して使用した。変換に
当たっては,経済産業省の補助事業「分散型新エ
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
No.6
No.7
No.8
No.9
ネルギー大量導入促進系統安定対策事業」で収集
1200
した水平面および傾斜面(20度)日射量データ
1000
800
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
No.6
No.7
No.8
No.9
1200
[h]600
1000
400
800
200
[h]600
0
400
H17
H18
H19
H20
H21
H22
H23
H24
H17
H18
H19
H20
H21
H22
H23
H24
年度
200
0
年度
図2 等価システム稼働時間 Yp
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
No.6
No.7
No.8
No.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
H17
H18
H19
H20
年度
H21
H22
H23
H24
図4 システム出力係数 K
を用い,月ごとの変換係数を求めて使用した。年
間の等価太陽日照時間を計算した結果を図3に示
す。
(c)システム出力係数
システム出力係数Kは,日射量の偏差を除くた
め,等価システム稼働時間Ypを等価太陽日照時
間Ysで除した値であり,発電性能がどうであっ
たかを表わす。
システム出力係数を1日単位で求め,1年間の
平均値を計算した結果を図4に示す。同図におい
て,システム出力係数の減少率を1次近似を用い
て計算した結果が表2である。表2から,アモル
ファスのシステムNo.3の低下が著しいことがわ
かる。また,システムNo.4について値が上昇し
ているが,理由は不明であり,今後の特性変化を
見ながら原因を分析していきたい。
参考として,文献(1)では全国1,172サイト
の分析結果を示しており,平成22年度の平均値
は,Yp=1,097[h]
,Ys=1,398[h],K=0.796
となっている。図4の発電特性は,設置後10年経
過してからのデータであるため,全国平均値より
低くなっていると考えられる。
1800
表2 システム出力係数Kの減少率
1600
1400
システムNo
1
2
3
4
1200
減少率(%)
−7.0
−5.8
−75.6
8.4
5
6
7
8
9
0.2
−5.9
−8.8
−8.4
−6.9
1800
1000
[h]
1600
800
1400
600
1200
400
1000
[h]
200
800
0
600
H17
400
H19
H20
年度
H21
H22
H23
H24
H23
H24
図3 等価太陽日照時間 Ys
200
0
H18
H17
H18
H19
H20
エネルギア総研レビュー No.36
年度
H21
H22
4
モジュールの劣化測定
システムNo.9については,平成16年に当所へ移
設した際に,特定の2モジュールのI-V特性を測定し
Page 3
研究レポート
劣化状況を評価している。今回,同じ2モジュール
について,同様の測定を行い劣化状況を評価した。
測定は,栄弘精機製のI-Vカーブトレーサ(MP-123)
を用いてJIS C8953に準拠し実施した。
測定の結果は表3に示すとおりであり,出力経年
変化率は1回目の測定値よりも増加している。こ
こで出力経年変化率とは,モジュールの最大出力
Pmaxの前回測定値からの減少割合であり,次式で
計算した。
出力経年変化率=
P max測定値ーP max前回測定値
P max前回測定値
表3 出力経年変化率(規格標準出力70W)
Pmax(W)
モジュール
1
モジュール
2
平均値
出力経年
変化率(%)
工場出荷値
73.319
73.223
73.271
H16/7/28
64.177
64.377
64.277
−12.3
H25/7/25
55.433
56.162
55.797
−13.1
上表のうち,初回については前回測定値がないた
め,工場出荷値を用いた。またPmaxの値は,実際
の計器の計測値を標準試験条件(STC)に変換し,
2モジュールの出力の平均値としている。STCとは,
JIS C8919で定義される放射強度1kW/㎡,分光分
布AM=1.5およびセル・モジュール温度25℃とし
た試験条件である。
5
トスポットが見つかったパネルNo.7の結果を示す
(表4)。
測定の結果,写真2のAとBの箇所でホットスポッ
トが見つかった。撮影時のカメラ周囲の環境温度が
39.7℃に対し,最も高温だった箇所は,裏側から撮
影したホットスポットAで85.8℃であった。
図5に,赤外線サーモグラフィの撮影画像を示す。
今回見つかったホットスポットでは,目視でも劣化
を確認することができた。セルを通過する配線が劣
化し,温度が上昇しているものと考えられる。
(a)ホットスポットAの裏側
パネルの劣化箇所調査
パネル内の劣化箇所を調査するため,パネル表面
の温度とストリングごとの出力を測定した(2)。
(1)パネルの温度測定
赤外線サーモグラフィを用いて,全パネルを撮
影しホットスポット※2を調査した。撮影は,NEC/
AVIO製のG100を用いて,1年で最も気温が高く
なる時期の7月に実施し,地上設置のシステムにつ
いてはパネルの表と裏を撮影した。ここでは,ホッ
表4 ホットスポットの温度
ホット
スポット
高温度箇所
その他
高温度箇所
その他
A
85.8℃
57.3℃
67.6℃
48.6℃
B
62.1℃
55.7℃
60.4℃
49.0℃
パネル裏側
パネル表側
※2 太陽電池の一部が抵抗を持って発熱し,常態化すると
将来的に熱がセルの破損を招き発電量が低下する現象
Page 4
写真2 ホットスポット検出箇所 (パネルNo.7)
(b)ホットスポットBの表側
図5 赤外線サーモグラフィの画像
(2)ストリングの出力測定
パネルを構成する各ストリングについて,出力低
下箇所を調査した。測定は,戸上電機製のストリン
グトレーサを用いて全てのストリングについてI-V
特性を計測し,計測値をSTC変換して比較した。こ
こではホットスポットが発見されたパネルNo.7と,
発電量が最も減少しているパネルNo.3の結果を示
す。
パネルNo.7とNo.3は,各々,規格標準出力64W
と37.4Wのモジュールが,12直列×7並列,5直列
×17並列の構成になっている(図6,図7参照)。
測定の結果,パネルNo.7について,ホットスポッ
エネルギア総研レビュー No.36
エネルギア総合研究所太陽光発電装置の経年変化について
トAを含むストリング⑦で直列抵抗の増加と見られ
る電圧の低下が見つかった(図8)。開放電圧Vocが
下がっていないため,断線には至っていないと考え
られる。
なお,ストリング⑦で電圧の低下が見られ,ホッ
トスポットBを含むストリング③で電圧の低下が見
られないのは,ストリング⑦はセルを通過する2本
の配線のうち両方の直列抵抗が上昇しているのに対
し,ストリング③では2本の配線のうち片方のみの
直列抵抗が増加しているためと考えられる。
パネルNo.3については,ほとんどのストリング
で最大出力が減少していた(図9)
。各々のストリン
グを比較すると,パネル下部よりも上部に配置され
ているストリングの最大出力が高い傾向にあった。
①
②
③
B
④
⑤
⑥
⑦
A
図6 ストリング構成(パネルNo.7)
①
⑤
⑨
⑬
②
⑥
⑩
⑭
③
⑦
⑪
⑮
④
⑧
⑫
⑯
⑰
図7 ストリング構成(パネルNo.3)
6
ま と め
以上,エネルギア総合研究所太陽光発電装置の発
電特性の変化と,モジュールの劣化について調査し
た。
●平成16年10月以降の計測データを用いて発電量・
発電特性を評価した結果,アモルファスパネルの
低下が大きいことを確認した。
●特定のモジュールのI-V特性について,設置10年
後の測定値と比較し劣化を確認した。
●パネルを赤外線サーモグラフィとストリングト
レーサで測定しパネル内の劣化箇所を確認した。
本装置はどのパネルも発電を続けており,引き続
き計測データを蓄積し,太陽光発電装置の経年変化
の評価に役立てたいと考えている。
エネルギア総研レビュー No.36
(A)
I
(A)
I 4
4
2
2
ストリング①
ストリング⑤
ス
スト
トリ
リング②
ング①
ス
スト
トリ
リング③
ング②
ス
スト
トリ
リング⑥
ング⑤
ス
スト
トリ
リング⑦
ング⑥
ス
スト
トリ
リング④
ング③
ストリング⑦
ストリング④
100
200
V
(V)
100
200
V(V)
図8 ストリングごとのI-V特性(パネルNo.7)
(A)
I
(A)
I
1.2
1.2
1.0
1.0
0.8
0.8
0.6
0.6
0.4
0.4
0.2
0.2
50
100
150
200
250
V(V)
50
100
150
200
250
V(V)
図9 ストリングごとのI-V特性(パネルNo.3)
(用語説明)
セル:太陽電池の構成要素最小単位
モジュール:セルを外囲器に封入し,かつ規定の出力をも
たせた最小単位の発電ユニット
ストリング:所定の出力電圧を満足するようモジュールを直
列に接続したひとかたまりの回路
パネル:複数個のモジュールを機械的に結合し,結線した集
合体。通常,複数のストリングを並列接続して使用
パネル
ストリング
モジュール
セル
回路構成
[参考文献]
(1) 三菱総合研究所:「平成23年度新エネルギー技術フィー
ルドテスト事業太陽光発電新技術等フィールドテスト
事業に関する運転データ分析評価等業務 発電性能等
の分析・評価報告書」,(2012.2).
(2) 加藤和彦:
「太陽光発電システムの不具合事例ファイル」,
日刊工業新聞(2010).
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