Shinshu University Institutional Repository SOAR-IR

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ユズおよびコーヒーフレーバーの香気特性に寄与する微
量成分に関する研究( 内容の要旨 )
宮里, 博成
宮里 博成. ユズおよびコーヒーフレーバーの香気特性に
寄与する微量成分に関する研究. 信州大学, 2014, 博士論文
. 博士(農学), 乙第13号, 平成26年3月20日授与.
2014-03-20
http://hdl.handle.net/10091/17781
氏 名 (本 籍 ・生 年 月 日 ) 宮 里 博 成 (大 阪 府 昭 和 51年 11月 9日 )
学 位 の 種 類 博 士 (農 学 )
学位記番号 乙 第 13 号
学位授与の日付 平成26年3月20日
学位授与の要件 信州大学学位規程 第5条第2項該当
学位論文題目 ユ ズ お よ び コ ー ヒ ー フ レ ー バ ー の 香 気 特 性 に 寄 与
する微量成分に関する研究
論文審査委員 主査 教 授 藤田智之
教 授 廣田満
教 授 真壁秀文
教 授 後藤哲久
教 授 谷森紳治(大阪府立大学)
論 文 内 容 の 要 旨
近年、ユズフレーバーおよびコーヒーフレーバーを用いた加工食品が広く普
及して、人々の暮らしを豊かにしている。しかし、現存のユズフレーバーは、
ユズ油以外のカンキツ油を主原料としてブレンドされているため、天然ユズの
もつ香りと風味にはほど遠く、本物感にもの足りなさがある。一方、コーヒー
フレーバーは、コーヒー飲料の香りや風味を補う役割をもつが、淹れたてのド
リップコーヒーの香りや風味を補うには不十分であり、必ずしもその役割を果
たしていないのが実情である。近年、人々の本物志向が高まる中、本物感のあ
るユズフレーバーおよびコーヒーフレーバーを創製するためには、天然ユズお
よびドリップコーヒーのもつ香りの特徴を詳細に解明することが必要であると
考えた。そのためには、天然素材の 香気特性に寄与する微量成分を明らかにす
べきであると考え、本研究を行った。
本 研 究 で は 、 ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー 質 量 分 析 ( GC- MS ) に よ る 解 明 が 困 難
であった微量寄与成分に対して、におい嗅ぎガスクロマトグラフィ ーを用いた
ア ロ マ 抽 出 物 希 釈 分 析 ( AE D A) お よ び 多 次 元 GC -MS ( MDGC - MS) を 行 っ た 。
さらに、未知の微量寄与成分の同定に対して、立体選択的な合成およびエナン
チオ選択的な合成などの精密な化学合成法を用いて、 その立体化学を含めた化
学構造を決定した。
ま ず 、 天 然 ユ ズ 果 皮 か ら 得 ら れ た ヘ キ サ ン 抽 出 物 の AE DA に よ り 、 ア ル ベ ド
様 香 気 を も つ 微 量 寄 与 成 分 1お よ び 汗 臭 を も つ 微 量 寄 与 成 分 2を 初 め て 見 出 し た 。
次に、ヘキサン抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分画し、
そ の 画 分 を 分 取 高 速 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー で 24 画 分 に 分 画 す る こ と に よ り 、
1を 含 む 画 分 を 得 た 。 得 ら れ た 画 分 を GC -M S に 供 し て 、 1 の 化 学 構 造 を t rans-4, 5 -
ep ox y-(E , Z)- 2, 7- deca di en a l と 推 定 し た 。 本 化 合 物 の 両 光 学 異 性 体 ( 4S, 5 S 体 お よ
び 4R , 5 R 体 ) を エ ナ ン チ オ 選 択 的 に 化 学 合 成 し 、 エ ナ ン チ オ 選 択 的 MDGC - MS
( en a nt i o-MDGC -MS ) に よ る キ ラ ル 分 析 を 行 っ た 結 果 、 1の 構 造 を (4S, 5 S)- t rans4, 5 -epox y-(E , Z)-2, 7 -de ca di en a l
[IUPAC 名 :
(2 E )-3-{(2 S, 3 S)- 3-[(2Z)-pen t -2-en -1-
yl ] oxi r an -2-yl }pr op - 2- en a l ] で あ る と 決 定 し た 。 最 後 に 、 当 該 化 合 物 の ユ ズ フ レ
ーバーに対する添加効果を評価した結果、果汁感やアルベド様の脂肪感を付与
することを確認した。
一方、ヘキサン抽出物を酸塩基処理し、得られた酸性画分をイオン交換クロ
マ ト グ ラ フ ィ ー ( IE C ) で 精 製 す る こ と に よ り 、 微 量 寄 与 成 分 2 を 含 む 画 分 を 得
た 。 こ の 画 分 を MDGC -MSに 供 し て 、 2の 化 学 構 造 を ( E )-4-m et h yl -3-h exen oi c a ci d
と推定した。本化合物を立体選択的に化学合成して、その立体化学を含めた構
造を決定した。さらに、ユズフレーバーに対する添加効果を 評価した結果、搾
りたてを想起させるような香りを付与し、果汁感と酸味を強めることを確認し
た。
次 い で 、 AE DA 法 を 用 い て 、 ド リ ッ プ コ ー ヒ ー の 固 相 抽 出 物 か ら 刺 激 的 な 香
気 を も つ 微 量 寄 与 成 分 3お よ び 汗 臭 を も つ 微 量 寄 与 成 分 4を 初 め て 見 出 し た 。 両
成分を分取するため、焙煎コーヒー 粉末から連続水蒸気蒸留抽出法により精油
を 調 製 し た 。 こ の 精 油 を シ リ カ ゲ ル カ ラ ム ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー で 5画 分 に 分 画
す る こ と で 、 3 を 含 む 画 分 を 得 た 。 こ の 画 分 を en an t i o-MDGC -MS に 供 し て 、 3 の
化 学 構 造 を 2, 6 -di m eth yl - 1, 4- c yc l oh exa n edi on e と 推 定 し た 。 立 体 化 学 を 含 め て 当
該 化 合 物 を 化 学 合 成 し て 、 3 の 構 造 を c i s- 2, 6 -di m et h yl -1, 4 -c ycl oh exa n edi on e と 決
定した。最後に、コーヒー飲料に対する添加効果を評価した結果、ロースト香
および苦味を強め、味のキレと厚みを向上させることを確認した。
一 方 、 微 量 寄 与 成 分 4 を 含 む 酸 性 画 分 を IE C に よ り 得 て 、 MDGC -M S に 供 し た
と こ ろ 、 4 は ユ ズ か ら 得 ら れ た (E ) -4-m et h yl -3 -h exen oi c a ci d と 同 一 成 分 で あ る と
確認した。次に、コーヒーおよびその他の加工飲料に対する添加効果を 評価し
た結果、どの素材の風味に対しても良好な添加効果が認められた。
以上の研究成果により、ユズおよびコーヒーフレーバーの香気特性に寄与す
る新規の微量成分を見出すことができた。これらの成分を既存の香料に添加す
ることにより、本物感のあるユズおよびコーヒーフレーバーの創製が可能とな
った。天然の精油中には未同定の微量寄与成分が含まれていることから、本手
法を応用することで香りの特徴の解明につながるものと期待される。