超小型衛星の熱設計に関する 成果報告 北海道大学 大学院工学研究院 准教授 戸谷 剛 達成目標 超小型衛星での熱制御系への要望 ● 超小型衛星の熱設計の標準化 ←超小型衛星の短期開発に貢献 ● 新規熱制御素材の開発 ←高発熱機器に対応 ● 短期開発・低コスト ● 機器が動作するように温度制御 超小型衛星の熱的特徴 ● 温度が均一化できるところを増やす設計 (複雑度を下げる) ● 少節点解析でのパラメータサーベイ (複雑度を下げつつ、信頼性を確保) ● 受動的熱制御を主体とする。(システムと設計 の複雑度を下げる。) ● 接触コンダクタンスの影響を少なくする設計 (試験の簡素化) ● 空気中での熱平衡試験+真空での高温試験 ● 蓄熱材(システムや電源系と独立した熱制御) ● 温度が変化しやすい。 ● 一方、面内の温度差は少ない。 ● 全ての機器の温度を能動制御するの に十分な電力がない。 ● 短時間だけ多量の熱を出す機器が多 い(通信機、データ圧縮)。 研究方針 2 超小型衛星の熱設計法の標準化 熱設計 方針 A. 衛星全体の熱容量で温度 変動を少なくする。 B. 外部熱入力の変動を内部構 造に伝えにくくする。 ● 外部構造-内部構造間 熱伝導を断熱、放射を調節 ● 外部構造間、内部構造 熱伝導と放射を促進 ● 熱クリティカル機器は内部 構造に設置 ● 外部構造-内部構造間 熱伝導と放射を促進 ● 外部構造間、内部構造間 熱伝導と放射を促進 伝熱シート 解析 1節点解析 手法 ● 衛星全体を1節点 断熱材 2節点解析 ● 外部構造に1節点、内部構造に1節点 ● 外部構造-内部構造間の熱伝導を∞ ● 外部構造-内部構造間の熱伝導を0 ● 設計温度範囲を満たす αO-out、εO-outを ● 設計温度範囲を満たす αO-out、εO-out、 絞り込む。 εO-in、εI を絞り込む。 パラメータサーベイ 少節点 解析で 絞り込 んだ後 多節点解析 ● 少節点解析で絞り込んだパラメータを使う。 ● 少節点解析で設計温度範囲に入らなかった コンポーネントに対し、コンポーネント-構造 間の熱伝導の断熱、放射を調節する。 3 超小型衛星用熱設計法の検証 表2 搭載機器の消費電力量と多節点解析での設計温度範囲 表1 少節点解析モデル諸元 ほどよし1号機へ適用 一節点 サイズ 二節点 0.5 × 0.5 × 0.5 m3 720 J/(kg K) 比熱 質量 49.6 kg 外部構造:20.7 kg 内部構造:28.9 kg 消費電力 15.35 W 外部構造:10.02 W 内部構造:5.33 W 10~40 ℃ 外部構造:-20~40℃ 内部構造:10~40℃ 設計温度 範囲 最悪高温条件 太陽定数 1309 [W/m2] 1414 [W/m2] 地球赤外放射 189 [W/m2] 261 [W/m2] アルベド係数 0.2 消費電力 [W] OBC -30 ~ 60 5.00 GPS受信機 -30 ~ 70 0.13 テレメ送信機 -30 ~ 85 0.00 -30 ~ 80 0.00 -30 ~ 85 1.00 ミッションカメラ - 0.00 バッテリー 5 ~ 35 ‐ スラスター -20 ~ 130 0.00 ジャイロ -40 ~ 85 1.50 サンセンサ -40 ~ 85 0.75 -45 ~ 75 0.06 -40 ~ 85 3.56 -20 ~ 35 2.50 -20 ~ 50 1.65 内面 ミッション送信機 搭載 機器 コマンド受信機 表2 最悪低温条件と最悪高温条件 最悪低温条件 設計温度範囲 磁気センサ 外面 搭載 磁気トルカ 機器 スタートラッカー 0.4 リアクションホイール 1.0 ● 熱設計方針Aを満た す解はなかった。 ● 熱設計方針Bを満た α す解は存在した。 O-out 0.15 εO-out 0.038 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.2 0.1 を選択 50 10~19 アロジン1000 黒アルマイト 0.3 アロジン1000 αO-out 0.9 1~9 20~29 アロジン1200 白アルマイト 0.0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 εO-out 40 Temperature 少節点解析の結果 30 20 10 黒アルマイト 0 -10 -20 1 2 3 4 5 6 7 εO-in ×10 + εI 8 9 10 εO-in 0.88 εI 0.88 を選択 4 超小型衛星用熱設計法の検証 表5 少節点解析結果を反映した結果 多節点解析の結果 表6 変更後の結果 コンポーネント 最悪低温条件 最悪高温条件 コンポーネント 最悪低温条件 最悪高温条件 OBC -0.6 ~ 11.3 24.3 ~ 41.5 OBC -7.6 ~ 6.6 17.5 ~ 37.5 GPS受信機 -4.6 ~ 11.1 19.3 ~ 41.5 GPS受信機 -12.5 ~ 7.7 10.9 ~ 39.1 テレメトリ送信機 -3.3 ~ 10.7 21.1 ~ 41.2 テレメトリ送信機 -10.0 ~ 6.3 14.3 ~ 38.3 ミッション送信機 -7.0 ~ 11.7 17.1 ~ 42.7 ミッション送信機 -8.2 ~ 6.3 16.8 ~ 37.3 コマンド受信機 -3.6 ~ 11.8 20.7 ~ 42.0 コマンド受信機 -8.8 ~ 6.7 16.1 ~ 37.9 バッテリ -0.7 ~ 11.3 24.2 ~ 41.5 バッテリ -2.4 ~ 2.0 *1 24.8 ~ 31.0 ジャイロ -7.0 ~ 11.6 16.9 ~ 42.3 ジャイロ -8.7 ~ 6.4 16.1 ~ 37.3 サンセンサ -9.2 ~ 13.8 14.0 ~ 44.3 サンセンサ -17.3 ~ 11.0 4.8 ~ 42.9 表5から表6への設計変更点 磁気センサ -9.2 ~ 12.2 14.0 ~ 42.8 磁気センサ -16.9 ~ 9.3 5.4 ~ 41.0 ● 地球指向面(-Z面)を内部構造側にする。 ● スタートラッカーのフード部外側の表面処理を黒 アルマイトに変更 ● バッテリと構体間を熱伝導を断熱 ● -X面外側の表面処理を白アルマイトに変更 磁気トルカ -9.1 ~ 13.5 14.1 ~ 44.1 磁気トルカ -17.1 ~ 10.7 5.1 ~ 42.8 スタートラッカー -7.2 ~ 11.9 16.5 ~ 41.8 スタートラッカー -9.9 ~ 6.8 14.3 ~ 35.0 リアクションホイール -6.7 ~ 11.8 17.6 ~ 42.6 リアクションホイール -8.2 ~ 6.3 16.8 ~ 37.3 スラスタ 0.78 ~ 4.8 27.5 ~ 33.8 スラスタ -4.4 ~ 0.2 22.3 ~ 29.7 表4 最悪低温条件と最悪高温条件 最悪低温条件 最悪高温条件 太陽定数 1309 [W/m ] 1414 [W/m ] 地球赤外放射 189 [W/m2] 261 [W/m2] アルベド係数 2 2 0.2 0.4 LTDN +1時間(12:00) -1時間(10:00) 劣化 アロジン1000 ε =0.06 アロジン1000 α =0.20 白アルマイト α =0.68, ε =0.88 ●大学院生が10ヶ月で熱設 計を完了できた。 *1 バッテリ2.9 W使用時は、4.1 ~ 8.3 ℃ 成果発表 査読付き論文 1. Tsuyoshi Totani, et al., “New Procedure for Thermal Design of Micro- and Nano-satellites Pointing to Earth”, Transaction of JSASS, Aerospace Japan, now printing. 2. Tsuyoshi Totani, et al., ”Thermal Design Procedure for Micro- and Nano-satellites Pointing to Earth”, Journal of Thermophysics and Heat Transfer, now printing. 3. Tsuyoshi Totani, et al., “One Nodal Thermal Analysis for Nano and Micro Satellites on Sun-Synchronous and Circular Orbits”, Transaction of JSASS, 11, pp.71-78, 2013. 新規熱制御材の選定 5 赤外放射 太陽 太陽直達 日射 衛星 衛星に入出熱する放射量 衛星の1面の面積 l2 に比 例する。 内部発熱 地球赤外放射 アルベド 熱容量 mc :1℃温度上昇 させるために必要な熱量 パラメータ mc/l2 は、入出 熱する放射量に対する温 度変化の感度を示す。 地球 C mc dT l 2 dt mc dT q IR ( F n s−e +4 F p s−e ) ε −ε 6 σ T 4 = 2 l dt G s ∑ A pi α+q IR ( F n s−e +4 F p s−e ) ε +G s a ( F n s−e +4 F p s−e )α K a −ε 6σ T 4 = i= A 新規熱制御材の選定 ● 超小型衛星は、質量を増やすことは難しい。 超小型衛星は、相乗り方式(Piggybag方式)で 打上げられることが多く、質量制限がある。 比熱の大きい物質 ● カメラ、通信機など短時間に多量の熱を出す機器が多い。 蓄熱材 相変化を伴う蓄熱材 欠点 通常重力下 微小重力下 容器との濡れが悪いと... 蓄熱材 蓄熱量の低下 新規熱制御材の選定 - 比熱の効果 設計温度範囲を満たす α と ε の 組合せ数:比熱の増加とともに増 える。 α 1 0.9 H: 500 km 0.8 LTDN: 11 0.7 0.6 0.5 Model B 0.4 0.3 c=688 c=1000 0.2 c=2000 0.1 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 ε 7 衛星表面の α と ε の組合せの選 択肢を増やすには、衛星全体の 比熱を高くすることが効果的。 :太陽電池セルの光学特性 超小型衛星は、太陽電池をボディに貼 るボディーマウント型が主流 宇宙機「しんえん」 「ほどよし1号機」 蓄熱材 材質 8 蓄熱温度[℃] 蓄熱量[kJ/kg] 蓄熱方法 n-Tetradecane (C14H30) 6 228 固相-液相 相変化 n-Hexadecane (C16H34) 17 237 固相-液相 相変化 n-Octadecane (C18H38) 28 244 固相-液相 相変化 n-Eicosane (C20H42) 37 246 固相-液相 相変化 n-Octacosane C28H58) 62 253 固相-液相 相変化 Trans-1,4polybutadien 72 112 固相-固相 構造転移 微小重力下での液相と壁面での濡れ性の問題を考えると、固相-固相の 構造転移は適している。 トランス-1,4-ポリブタジエン 9 作成方法 1. 十分に窒素置換したオートクレーブ中にトルエン37.5 Lを入れ、ブタジエン12.5 Lを加えた後、触媒としてオキシバナジウムトリクロライド250 mmol,助触媒として ジエチルアルミニウムクロライドを1250 mmolを加えて、重合を開始する。 2. 重合は窒素雰囲気下、5℃で30分間行う。 3. 重合溶液を2倍量のエタノールに加えて、重合体を析出沈殿されて回収する。 4. 回収したポリマーをエタノールによって洗浄した後、老化防止剤イルガノックス 1076を3 wt%混合し、乾燥させる。 化学物質 純度 イルガノックス1076 98 % minimum ブタジエン 99 % minimum ジエチルアルミニウムクロライド 15 % in ヘキサン エタノール 99.5 % トルエン 99.5 % オキシバナジウムトリクロライド 99 % 蓄熱量測定 10 測定方法 示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry, DSC) メトラー・トレド DSC1 10分 1回目測定 2回目測定 温度, ℃ 200 25 0 -10 時間, s 降温速度:-10℃/min. 昇温速度:10℃/min. 成分分析 1 11 H NMR spectrum 重クロロホルム(溶媒) CDCl3 プロトンNMR Nuclear Magnetic Resonance a H b H a : 2.03 ppm n テトラメチルシラン (基準物質) b : 5.42 ppm TMS H 2O 12 DSCを用いた測定結果ー蓄熱量、蓄熱温度 ^exo trans_1_4_polybutadien_1st 30.08.2013 19:5 4:28 昇温速度:+5℃/min. trans_1,4_polybutadien_5_1st_2nd 30.08.2013 19:3 8:01 降温速度:-5℃/min. ^exo st 1 Measurement nd 2 Measurement 4 2 昇温速度:+5℃/min. 0 -2 積分 -260.06 mJ 正規化 オンセット -80.02 Jg^-1 67.76 °C ピーク 73.50 °C -4 -6 -8 0 73.50℃ 0 20 40 60 積分 -117.67 mJ 正規化 オンセット ピーク -36.21 Jg^-1 122.12 °C 130.25 °C -80.02 J/g 80 100 120 140 Hokkaido Univ: METTLER Temperature, ℃ -2 ^exo 160 180 °C S TAR e SW 11.00 Trans_1 _4_polybutadien_5_1st_down 30.08.2013 20:1 3:18 mW -4 0 20 40 60 Hokkaido Univ: METTLER 80 100 120 140 Temperature, ℃ 160 180 S TAR e SW 11.00 降温速度:-5℃/min. 8 ° C Heat Flow, mW Heat Flow, mW mW Heat Flow, mW mW 6 積 分 正 規 化 4 オ ン セ ッ ト ピ ー ク 274. 03 mJ 84. 32 Jg^-1 59. 24 ° C 56. 83 ° C 積 分 正 規 化 102. 87 mJ 31. 65 Jg^-1 オ ン セ ッ ト ピ ー ク 117. 04 ° C 114. 42 ° C 2 0 56.24 ℃ 84.32 J/g 0 80 -2 20 40 60 Hokkaido Univ: METTLER 100 120 140 Temperature, ℃ 160 180 ° C S TAR e SW 11.00 蓄熱・放熱温度と蓄熱・放熱量 13 昇降温速度,℃/分 蓄熱・放熱温度,℃ 蓄熱・放熱量,J/g +2 72.63 -79.63 +5 73.50 -80.02 +10 75.00 -80.07 -2 58.00 +87.57 -5 56.83 +84.32 -10 54.83 +83.36 DSC測定の特徴 昇降温速度が大きくなると,蓄熱・放熱温度が下流にずれる. 成果発表 査読付き論文 4. Tsuyoshi Totani, et al., “Heat Storage Material without Phase-change for Micro and Nano Satellite”, Transaction of JSASS, Aerospace Japan, now printing. 14 宇宙実証 ほどよし4号機へ搭載 名古屋大 蓄熱パネル 熱量測定板 北海道大 蓄熱器 蓄熱材 まとめ 15 ● 超小型衛星の熱設計の標準化について研究を行 い、熱設計手順を確立しました。 ←超小型衛星の短期開発に貢献 ● 新規熱制御素材の開発を行い、固体ー固体の結 晶構造転移で蓄熱する蓄熱器を開発しました。 ←高発熱機器に対応
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