総論 進化する FB 技術と 将来展望 日本工業大学名誉教授 村川正夫* 全面平滑な切り口面で構成されているのが一目瞭 ファインブランキング(Fine Blanking、FB)法 然であろう。 は 歴 史 的 に み れ ば 1922 年 に ス イ ス 人 の Frits Schiess(フリッツ・シース)氏の発明した「金 切り口面からみた打抜き加工法の分類 属素材用油圧式せん断装置」から発祥しているも ので、この装置が後に Fine Blanking 装置とよば れるものの始まりである。初期には事務用品への これまで種々の打抜き法が提案され、用いられ 用途が多かったが、その特徴のゆえに最近では自 てきた1)。その中で FB 法はどのような加工法で 動車関連産業での使用が多い。FB 法にあまりな あるかが、表 1 において切り口面を①∼⑥に整 じみがない読者に FB 法のイメージをつかんでも 理してその観点から整理されている。要求される らうには、図 1 を見ていただくと良い。慣用打 切り口面の特性として、だれ、せん断面、かえり、 抜き法で得られた製品と比べて、FB 法(その原 直角度を取り上げる。慣用打抜き法では一般的に 理図も同図に示す)によるものはだれが少なく、 言って、パンチ、ダイ間の適正なクリアランス (CL)を採用することで、上記に関して比較的良 * (むらかわ まさお):工学博士 〒345−8501 埼玉県南埼玉郡宮代町学園台 4−1 TEL : 0480−33−7639 好な特性の切り口面が得られる。 これに比べて FB 法では、 (1)CL が極めて小 さ く(0. 01 mm 程 度) 、 (2)ダ イ刃先に丸みが付けられ、 (3) V リングと呼ばれる突起の付い た板押え、逆押えが用いられて 板押え力 いる(これらを FB 法における パンチ 工具条件 3 点セットと呼んでお 素材 ダイ Vリ ング 刃先 丸み 逆押え力 く) 。このような道具立てによ り慣用打抜き法に比べてだれは 大幅(1/3 程度)に減少し、平 滑面がほぼ板厚全面を占め、平 坦度も良くなる。この第 1 の特 徴が現行自動車産業などで多用 (a)FB 加工により得られた平滑切り口面 (右側が FB 加工、左側は慣用せん断 加工によるもの) (b)FB 法の加工原理 図 1 FB 法の切り口面と FB 法の原理 18 されている一因である。さらに は、最近の特徴として、FB 法 が使用するプレスが鍛造法で用 プ レ ス 技 術 特集 加工領域を広げるファインブランキング技術 表 1 切口面から見た打抜き加工法の分類 加工法名称 切口面の概観 ① 慣 用 打 抜 き 法 だれ せん断面 破断面 かえり 1次せん断面 ③ 2次せん断面 ④ 高 速 打 抜 き 法 ⑤ シ ェ ー ビ ン グ 法 ⑥ だれ→大 せん断面→小 かえり→大 直角度→不良 だれ→小 せん断面→多 かえり→小 直角度→良 ② F B 法 得られる 切口面の特徴 せん断面 加工条件 クリアランス (CL) →大 加工精度は悪く実用的ではない CL:7∼10%t (板厚)で加工エネルギー最小→ CL→中 (適正値は材質による: 工具摩耗小 軟質小、硬質大) だれ→極小 CL→極小 せん断面→1 次と →5%t 以下 2 次に分かれる かえり→小 直角度→良 だれ→極小 せん断面→全面 かえり→極小 直角度→最良 備考 加工エネルギーは過大で工具摩耗大 加工条件実現のため特殊プレス(3 動プレス) CL→最小 が必要 →0.01mm 程度 ほとんどの鉄鋼材料に適用可能 (Vリング付の板押え、 逆押え使用) だれ→極小 CL→小 打抜き後にラムが持つ運動エネルギーを吸収 せん断面→極小 (打抜き速度大→1m/s するのが困難 破断面→ほぼ全面 破断面 以上、破断面は極めて 棒材の薄切りのような用途に応用すると有用 かえり→小 平滑) 直角度→最良 だれ→極小 CL→極小 慣用打抜き法で得た素材をシェービング打抜 シェービング面 (わずかな破断面を伴な き法で製品に仕上げる シェービング面 (2 工程必要) (切削面) →ほぼ全面 う) かえり→最小 せん断面 破断面 直角度→最良 いるプレスと同様の高剛性を備えているがゆえに、 いて)製品、スラグを同時排出せざるを得ない。 鍛造との複合加工が可能となり、多用されるよう この際エアーブロー手段を用いると、潤滑剤の飛 になっていること(第 2 の特徴)も自動車産業に 散や、本来 FB 打抜き法は(いわゆるブレークス おける多用の一因であろう。 ルー現象を伴わないので)静かな加工プロセスな 板材に適用されるこの FB 派生・発展技術が 「板鍛造」と称されるものである。学会でもこの のに、このエアーブロー由来の騒音が大きく、潤 滑油の飛散も伴い、作業環境を悪化させる。 技術に対する鍛造屋さんの関心は高いが、板鍛造 このため、製品、スラグをそれぞれ機械式に取 と(棒素材を扱う)慣用鍛造とではラインの構成 り出す(かき取る)方式の装置も用いられるよう がかなり異なるので、板鍛造技術の発展には、FB になっている。また、FB 生産方式では、製品と 技術屋の活躍が大いに期待できよう。 スラグが同一平面上に排出されるので、これらが さて、FB 法の第 1 の利点が得られる理由はな 重なり合ったことを検出し、金型、プレスの損傷 んであろうか。従来から言われるように、3 点セ を防止するために、プレスを急停止させるための ットの加工条件により、ダイ刃先付近の静水圧応 装置の設置が不可欠になる。言い方を変えれば、 力(深海水中におけるような四方八方から等方的 慣用プレスを改造して FB 加工の良いところ取り に押される力)が高まり刃先付近からのき裂発生 をしようとしても、前述の問題に対処する費用増 を防止でき、見かけ上の材料延性が増大し、ほぼ 大が不可避である。 全面平滑な切り口面がえられると考えられる。ま かくして、FB 方式を何とか安い費用で代替的 た、打抜きに板押え、逆押えがしっかり作用する に試みることは従来数多く試みられてきたが、必 ので、製品平坦度も良く、CL が小さいので製品 ずしもうまくいっているとは言えない。このよう 直角度も良い。 に 3 点加工条件を保持したままでの FB 代替技術 しかしながら、3 点セットの加工条件を実現す は費用的には必ずしも得策ではないことを理解す るためには、複動(3 動)プレスが必要となるほ べきであろう。著者の考えでは、設備的資本投下 か、スラグ(抜きかす)をプレス下方に排出でき コストを気にしなくても良いのならば、結果的に ないので、ベッド面上において(同一平面上にお 部品単価を下げることは、現在 FB プレスと同様 第 52 巻 第 12 号 (2014 年 12 月号) 19
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