経済学のためのゲーム理論入門 第 2 章 完備情報の動学ゲーム 2.13 記号の表記法などは,本書の練習問題 1.7 にならう.均衡を計算する前に,まず独占価格を求め る.市場に 1 企業しか存在しない場合,企業の利得は, π = (a − x)x − cx = −x2 + (a − c)x (1) 一階条件は, ∂π 1 = 0 ⇔ x = (a − c) ∂x 2 (2) となるから,これを p = a − x に代入して, p= 1 (a + c) 2 (3) と求めることができる.2 つの企業が (3) 式で定められる独占価格をつけた時,各企業が直面する 需要は, 1 1 1 (a − p) = · (a − c) 2 2 2 1 = (a − c) 4 (4) この時の各企業の利得は, (p − c)x = 1 (a − c)2 8 (5) 以上から,両企業が切り替え戦略を用いた時の利得の列の現在価値は, 1 1 1 (a − c)2 {1 + δ + δ 2 + · · ·} = (a − c)2 · 8 8 1−δ (6) 次に,企業が繰り返し戦略から単独で逸脱する場合に,最大でどの程度の利得が得られるのかに ついて考える.ゲームのある段階で企業 i だけが単独で切り替え戦略から逸脱してなるべく高い 利得を得ようとする場合,企業 i は独占価格 p = 1 2 (a − c) − ϵ (ただし,ϵ 1 2 (a − c) よりもごくわずかな値 ϵ だけ低い価格 > 0) をつけることにより,市場を独占することができる.この時の市場の 需要は, { a− } 1 1 (a + c) − ϵ = (a − c) + ϵ 2 2 (7) だから,逸脱した期における企業 i の利得は, ( )( ) ( )( ) 1 1 1 1 (a + c) − ϵ − c (a − c) + ϵ = (a − c) − ϵ (a − c) + ϵ 2 2 2 2 1 < (a − c)2 4 1 (8) 経済学のためのゲーム理論入門 第 2 章 完備情報の動学ゲーム である.つまり,企業 i は切り替え戦略から単独で逸脱し,独占価格よりもわずかに低い価格をつ けることにより, 14 (a − c)2 に限りなく近い利得を得ることができるが,その値は 14 (a − c)2 より も厳密に小さくなる.また,切り替え戦略においては,逸脱が起きた場合に相手企業は以降の期に おいて p = c をとり続けることがわかっているが,その時の企業 i の最適反応は相手企業と同じ価 格をつけ続けること,すなわち,以降の各期で p = c とすることであり,その時の継続利得は 0 で ある.つまり,切り替え戦略から単独で逸脱した時に各期で利得を最大化しても,利得の列の現在 価値は 14 (a − c)2 よりも厳密に少しだけ小さい値にしかならない. 以上のことを踏まえると,切り替え戦略からの逸脱が起こらないための条件,すなわち,切り替 え戦略が Nash 均衡となっているための必要十分条件は, 1 1 1 (a − c)2 · ≥ (a − c)2 8 1−δ 4 であることがわかる.そして,(9) 式を変形していくことにより,δ ≥ 2 (9) 1 2 を得る.
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