5 AW モデル番号 1 2 3 4 深さd(mm) 開口幅(mm) 長さL(mm)

アンダーカットを有する十字継手の疲労強度に対する板厚の影響
植田 彌
1.はじめに
近年,多くの溶接橋梁において疲労による損傷が生じたと報告されているが,その多くはすみ肉溶接止端部
から発生した疲労き裂によるものである.溶接継手部には溶接きずが生じやすく,きずは高い応力集中の原因
となり,疲労強度を低下させる.代表的な溶接きずであるアンダーカットは溶接止端部に発生する凹状の欠陥
で,アークによって掘られた溝に溶接金属が供給されないことがその発生原因である.我が国の道路橋示方書
では,アンダーカット深さの許容値を 0.5mm,国際溶接学会の疲労設計指針では板厚の 5%とされている.例
えば,板厚が 10mm であれば 0.5mm,20mm であれば 1.0mm となる.板厚によってアンダーカット深さの許容
値を変えるという考え方は,アンダーカットによる主板の厚さの欠損率を考慮したものと考えられる.
本研究では,アンダーカットを有する十字すみ肉溶接継手の疲労強度に対する板厚の影響を明らかにするこ
と,またアンダーカットの許容値をその深さあるいは深さ/板厚のどちらで定義するのが適切かを明らかにす
ることを目的とする.そのため,疲労強度と反比例関係にあるとされる応力集係数に着目し,アンダーカット
の形状・寸法と板厚をパラメータとした 3 次元有限要素応力
解析を行う.
2.解析モデルと解析方法
解析モデルは図1に示す荷重非伝達型十字すみ肉溶接継手
である.継手の幅は 100mm,長さは 300mm である.解析は,
モデルの対称性を考慮し,1/4 モデルで行っている.板厚は
6mm,9mm,12mm,24mm,48mm とした.その際,付加板の
図 1 解析モデル寸法
厚さは主板と同じ,長さは板厚tの 3 倍、溶接はその脚長が
6mm の 2 等辺 3 角形としている.アンダーカットの形状・寸
法は,図 2 に示す 3 つのパラメータ(深さ:d,幅:W,長
さ:L)で表すこととし,これらを組み合わせて表 1 に示す
5 つのモデルを作成した.アンダーカットはモデル中央に設
置している.また,アンダーカットを含まない AW(As-welded)
モデルも解析対象とした.以上のモデルを対象としてソリッ
ド要素を用いた 3 次元有限要素応力解析を行った.溶接止端
とアンダーカット底部の要素寸法は 0.1mm としている.要素
図 2 アンダーカットのパラメータ
表 1 アンダーカットの寸法
モデル番号
1
深さd(mm) 開口幅(mm) 長さL(mm)
0.5
1.5
4
2
0.5
1
4
3
4
5
1
1
1.5
2
3
3
8
8
12
AW
0
0
0
図 3 要素分割図
分割図の例を図 3 に示す.荷重は継手モデル長手方向に作用させている.
3.解析結果
図 4 に応力集中係数と板厚の関係を示す.いずれの場合も板厚が増すにしたがって応力集係数が高くなって
いる.また,アンダーカットを有するいずれのモデルとも AW モデルでの関係とほぼ平行になっている.した
がって,アンダーカット有する場合にも,応力集中係数に対する板厚の影響は,アンダーカットを有さない継
6
2
3
5
AW
4
3
4
2
24mm
4
12mm
24mm
4
12mm
9mm
3
6mm
9mm
3
20
応力集中係数 α
応力集中係数 α
1
48mm
5
48mm
5
応力集中係数 α
5
6mm
0.5
40
2
1
1
1.5
2
アンダーカット幅 w (mm)
アンダーカット深さd (mm)
板厚 t (mm)
図 4 応力集中係数と板厚
3
図 6 応力集中係数と幅 W
図 5 応力集中係数と深さ d
手とほぼ同じといえる.
図 5 は応力集中係数とアンダーカット深さd,図 6 は応力集中係数とアンダーカット開口幅 W の関係を示し
ている.応力集中係数は,dが大きいほど,W が大きいほど低くなっている.このことは,アンダーカット底
の曲率半径が応力集中係数を支配していることを意味しているとも考えられる.
アンダーカットの許容値に用いるパラメータの設定においては,アンダーカットを有する場合の応力集係数
と有さない場合の応力集中係数の比が板厚にできるだけ依存しないことが望まれる.ここでは,この比を応力
集中係数比〔同じ板厚で(アンダーカットを有する場合の応力集中係数)/(アンダーカットなしの応力集中
係数)
〕と呼ぶ.図 7 は応力集中係数比とアンダーカット深さ,図 8 は応力集中係数と板厚で無次元化したアン
ダーカット深さの関係を
示している.アンダーカ
力集中係数比の差は小さ
い.
4.まとめ
アンダーカットを有す
1.4
1.4
24mm
12mm
6mm
1.2
9mm
る十字溶接継手の疲労強
応力集中係数比 α
のほうが,板厚による応
48mm
応力集中係数比 α
ット深さで整理した場合
1.2
9mm
6mm
48mm 24mm 12mm
度に対する板厚の影響は,
アンダーカットのない継
手とほぼ同じである.ア
ンダーカットの許容値は
その深さで設定するのが
よい.
1
0.5
1
1.5
アンダーカット深さ d (mm)
図 7 応力集中係数比と深さ
1
0
0.1
0.2
アンダーカット深さ /板厚 d/t
図 8 応力集中係数比と d/t