きょう ぶ だ い ど う みゃくりゅう 胸部大動脈瘤の治療 患者さまへのご案内 はじめに 本冊子は、胸部大動脈瘤およびその治療法 (ステントグラフトを用いた血管内治療)について、 患者様やご家族様にその基礎的な部分を理解し ていただくことを目的として編集されたもので す。皆様の情報取得の一助となれば幸いです。 なお本冊子は、皆様がご自分の病状や治療 方法を判断するためのものではありません。 それぞれの患者様の病状や、最適な治療法が どういったものなのか等に関しましては、担当 医にご相談ください。 日本ライフライン株式会社 1 目 次 胸部大動脈とは………………………………………… P. 3 胸部大動脈瘤 (TAA) とは……………………………… P. 4 胸部大動脈瘤になる可能性… ………………………… P. 5 胸部大動脈瘤の症状…………………………………… P. 6 治療の選択肢…………………………………………… P. 7 開胸外科治療………………………………………… P. 9 血管内治療…………………………………………… P.11 RELAY 胸部ステントグラフトを用いた血管内治療の流れ…… P.13 RELAY 胸部ステントグラフトを用いる際の きん き 禁忌と注意事項………………………………………… P.15 担当医に相談するべき場合… ………………………… P.17 日常生活再開の時期とフォローアップ…………………… P.18 2 きょう ぶ だ い ど う みゃく 胸 部 大 動 脈 とは 大動脈は、 文字通り大きな動脈で体の中で最も太いものです。 胸部大動脈はその一部であり、酸素を多く含む血液が肺から心 臓へ入り、そこから全身に向けて押し出される際最初に通る血 管で、3 つの主要部分で構成されます。心臓からまず上方向に じょうこ う 向かう部分が上行大動脈。次に弓なりに曲がり、頭部や両腕等 きゅう ぶ か へ血液を送るための血管に分岐するのが弓部大動脈。そして下 こう せ きず い 行大動脈と続き、脊髄や胸部周辺の臓器や器官、下半身等に血 液を送る血管に繋がります (図 1、 図 2) 。個人差はありますが、 胸部大動脈の直径は約 2 〜 3 センチ。加齢とともに若干太く なります。 図1 胸部大動脈と 周辺の動脈 図2 胸部大動脈 弓部大動脈 上行大動脈 下行大動脈 3 りゅう ティーエ ー エ ー 胸部大動脈瘤( T A A ) とは 胸部大動脈瘤(一般に TAA と呼ばれます)とは、胸部大 動脈壁の一部が弱くなり膨らんだものです(図 3) 。瘤は大き くなり続けることがあり、治療しないまま放置すると裂傷や破 裂が起こる可能性があります。風船と同じで、小さいときは大 きな力を加えないとなかなか大きくなりませんが、いったん大 きくなり始めると、少しの力で簡単に大きくなります。大動脈 には多量の血液が通っており、裂傷・破裂による出血が生命を 脅かす危険があります。 小さいものや、ゆっくりと大きくなる胸部大動脈瘤はほとんど の場合、急に裂傷・破裂することはありません。大きい、また は急速に大きくなる瘤は裂傷・破裂の確率が高いとみられます。 胸部大動脈瘤を発見し観察を開始したら、瘤の現状サイズおよ び拡大速度等によって、手術が必要な状態になるかどうか医師 は注意を払います。 図3 胸部大動脈瘤 (TAA:Thoracic Aortic aneurysm) 胸部大動脈瘤 4 胸部大動脈瘤になる可能性 胸部大動脈瘤になる直接的な原因の多くは動脈硬化であり、 それにより血管の壁が弱くなり瘤がだんだんと膨らむと言われ ています。高血圧、高脂血症、喫煙、糖尿病等は動脈硬化につ ながる危険因子です。高血圧の患者様の場合、血管に常に高い 圧力がかかり、動脈瘤になりやすいとも言われます。また高齢 の男性に多いのも特徴です。その他の原因としては、先天的・ 遺伝的に大動脈が弱い人、外傷、動脈壁の炎症等があります。 以下に、胸部大動脈瘤の代表的な因子をまとめました。当ては まるものが多いほど、胸部大動脈瘤になる可能性は高まります。 ・・ 60 歳以上 ・・ 男性 ・・ 高血圧 ・・ 高脂血症 ・・ 喫煙 ・・ 糖尿病 ・・ 動脈にプラークの蓄積がみられる ・・ ご家族に胸部大動脈瘤を患った方がいる ・・ 大動脈壁を弱くする可能性のある特定の病気にかかっ ている(担当医にご確認ください) 医 学 用 語 プラーク 動脈の内面に溜まったコレステロールの塊 5 胸部大動脈瘤の症状 多くの胸部大動脈瘤は徐々にサイズが拡大するので、初めは ほとんど症状がありません。患部が胸の中にあり自覚症状は乏 しく、健康診断の胸部 X 線撮影(レントゲン撮影)で初めて 異常な影が見つかり診断されることも少なくありません。CT スキャン(コンピュータ断層撮影) 、MRI(磁気共鳴画像法) 、 心臓カテーテル検査等により発見されることもあります。 瘤が大きくなると周囲を圧迫してさまざまな症状を引き起こ すことがあります。声帯を支配する神経(反回神経)を圧迫す さ せい ると、声帯の働きが悪くなることで、しゃがれ声(嗄声)が出 ます。気管を圧迫すると呼吸が困難になり、食道を圧迫すると 食べ物を飲み込むことが難しくなります。 自覚がある場合の、よく見られる症状を以下にまとめます。 ・・ あご、首、胸、背中の痛み ・・ 咳、声のかすれ、呼吸困難 医 学 用 語 心臓カテーテル検査 カテーテルを心臓の血管に挿入し、造影剤を投与し形態学的異常を検出したり、心臓内腔の圧力、 酸素飽和度を測定し血行動態を把握したりする検査。 6 治療の選択肢 胸部大動脈瘤の治療法としては、大きく分けて内科的療法と 手術の 2 つがあります。それぞれ順に説明します。 1. 内科的療法 胸部大動脈瘤が小さく、特段の症状が見られないならば、医 師は瘤が大きくならないかどうか、6 ヶ月間程度経過観察をす る場合があります。医師は胸部大動脈瘤に対するストレスを減 らすために、内科的療法として血圧を下げる薬の投与を試みた り、禁煙などのライフスタイルの変更を指導することもありま す。これらは胸部大動脈瘤ができた血管を修復するものではな く、瘤にかかる血流圧力を減らすという考え方に基づきます。 2. 手術 患者様の胸部大動脈瘤が裂傷・破裂のリスクがあるサイズに 達していると診断した場合には、医師は手術を勧めることがあ ります。手術には 2 種類あります。 ・・ 開胸外科治療 ・・ 血管内治療 7 どちらの治療にもそれぞれ合併症を伴う可能性と利点があり ます。 患者様はどちらの選択肢が自身にとって最適であるかを、 担当医と話し合うことになります。なお、血管内治療の安全性 に関する重要な情報については 15 〜 16 ページをご覧下さい。 治療法 内科的療法 投薬、ライフスタイルの変更 手術 開胸外科治療 開胸し動脈瘤を形成する血管を 布製の人工血管に置き換える実 績のある治療法 血管内治療 カテーテルを用いてステントグ ラフトを動脈瘤を形成する血管 に留置する比較的新しい治療法 医 学 用 語 ステントグラフト ステントと言われるバネ状の金属を取り付けた人工血管 8 開胸外科治療 開胸外科治療とは、外科医が胸部(前面または側面)を切開 し(図 4) 、動脈瘤を形成する血管を除去し布製の人工血管(グ ラフト)に置き換え、縫合糸で固定する治療法です(図 5) 。 手術は大動脈の血流を止める必要があります。多くの場合全身 麻酔下で行われ、約4~6時間かかります。 通常患者様は術後集中治療室(ICU)で1日程度過ごし、そ の後 2 〜 3 週間程度入院します。体力の回復に要する期間は 患者様それぞれの健康状態によりますが、通常の生活に戻るま でにおよそ 3 〜 6 ヶ月間かかります。 開胸外科治療は、胸部大動脈瘤に対する実績のある治療法で す。ただ大きな手術であることは間違いなく、全ての患者様が 体力的に耐えられるとは限りません。担当医にそのリスクと利 点の両方をご確認ください。 9 図4 開胸外科治療における側面切開 胸部大動脈瘤 図5 人工血管置換 人工血管 (グラフト) 10 血管内治療 血管内治療は、胸部大動脈瘤手術としては比較的新しいもの です。金属の骨組みがある布製の人工血管(ステントグラフト 図 6)を、カテーテルによって動脈瘤を形成する血管部位ま で運び、 内側に留置します。外科的に胸部を切開することなく、 て い し んしゅう 低侵襲(比較的小さな負担)で行うことが可能です。動脈瘤を 取り除くことはせず、ステントグラフトを大動脈瘤の内側に固 定させることによって瘤に流れる血液を遮断し、瘤内の血流圧 力を下げることで裂傷・破裂を防ぐ治療法です。 ステントグラフトは患者様のさまざまな血管形状に合うよう なサイズバリエーションがあり、血管の曲りにフィットするよ う工夫されています。日本においては、数種の胸部大動脈瘤治 療用ステントグラフトの使用が認可されています。 患者様にとって血管内治療が適切な治療法であるかを担当医 に相談する際は、そのリスクと利点、両方についてご確認くだ さい。 医 学 用 語 カテーテル 血管などに挿入される医療用に用いられる中空の柔らかい管。当治療ではステントグラフトを患 部まで運ぶ役割を担う。 11 図6 ステントグラフト 広げた状態のステントグラフト (RELAY 胸部ステントグラフト) 圧縮状態のステントグラフト (RELAY 胸部ステントグラフト) ボ ル ト ン メ デ ィ カ ル リ レ イ 日本ライフライン株式会社は、Bolton Medical 社製ステントグラフト「RELAY」を取扱います。 販売名:Relay Plus 胸部ステントグラフトシステム 一般的名称:大動脈用ステントグラフト 医療機器承認番号:22500BZX00160000 製造販売業者:日本ライフライン株式会社 12 R E L A Y胸部ステントグラフトを用いた血管内治療の流れ RELAY 胸部ステントグラフトは、デリバリーシステムと 呼ばれる機器先端の細いプラスチック製チューブ (カテーテル) そ けい ぶ に内蔵されています。医師は、脚の付け根(鼠径部)の血管に 開けた小さな切れ目からデリバリーシステムを挿入、モニター のライブ X 線画像(レントゲン画像)を見ながら操作し、患 部に向けてチューブを進めます(図 7) 。動脈瘤がある位置に 到達したら、手元の操作でステントグラフトを広げ、血管内に フィットさせます(図 8) 。 血管内に留置されたステントグラフトは、血流の新たな導管 となり、胸部大動脈瘤に血流圧力が増すのを阻止、瘤が裂傷・ 破裂するのを防ぎます。 治療は全身麻酔、局所麻酔のいずれかの下で行われ、通常1 ~3時間ほどで終わります。入院は2~3日間ほどで、通常の 生活に戻るまでにはおよそ 2 〜 6 週間かかります。その後は 定期的な検査を受けていく必要があります。 この治療法は、動脈瘤が非常に大きい場合や、血管に屈曲や 石灰化が多い場合は、適さないことがあります。次の項で血管 内治療を受けてはならない場合を挙げていますのでご参照くだ さい。 医 学 用 語 鼠径部 左右大腿部の付け根内側にある下腹部の三角形状部分。解剖学的には恥骨の左右外側、股関 節の前方部にあたる。 石灰化 軟部組織にカルシウム塩が沈着する現象、あるいは沈着した状態。血管内に起こると、血管 の柔軟性や伸縮性が損なわれる。 13 図7 ステントグラフトの挿入 鼠径部 カテーテル ステントグラフト 胸部大動脈瘤 図8 ステントグラフトの 留置 ステントグラフト 14 R E L A Y胸部ステントグラフトを用いる際の きん き 禁 忌 と注意事項 禁忌 次のような患者様にはRELAY胸部ステントグラフトは使用でき ません。 ・・ ステントグラフトで使用する材料(ポリエステル、ニッケル、 チタン、プラチナイリジウム)に対するアレルギーを有する。 ・・ アクセス血管がデリバリーシステムの挿入に適さない。 ・・ 全身性感染が認められる。 注意事項 ・・ ステントグラフトの長期的な性能に関し、まだ明確なデータ の蓄積はありません。そのため、血管内治療を受けた場合は 定期的な検査を受けることが必要です。定期検査は、患者 様の健康とステントグラフトの状態を検査し、追加治療が 必要でないかどうかを確認するたいへん重要なものです。 ・・ たとえ自覚症状(痛み、咳、声のかすれ、呼吸困難等)が なくても、検査は定期的に受けてください。 ・・ 透視画像撮影に欠かせない造影剤にアレルギー反応があ る患者様には、RELAY 胸部ステントグラフトを使用した 治療は推奨いたしません。 医 学 用 語 禁忌 医療上の禁忌。不適当で患者の予後を大きく悪化させる術式、検査、投薬、調剤等を指す。 全身性感染 全身の体内もしくは表面に、より体積の小さい微生物等の病原体が寄生し、増殖するようになること。 造影剤 画像診断を行う際、特定の組織を強調して撮影するために投与される医薬品。 15 ・・ それぞれの患者様の病状や、最適な治療法がどういったも のなのか等に関しましては、担当医にご相談ください。 ・・ 血管内治療を受けた後に担当医以外の診察を受ける際は、 RELAY 胸部ステントグラフトが植え込まれていることを必ず 伝えてください。 MRI(磁気共鳴画像法)検査が必要なときは RELAY 胸部ステントグラフトは、MRI の「MRI Conditional (MRI について特定の条件のもとで安全) 」についての実施要 件に適合しています。一定の条件下であれば、MRI 撮影に安 全上の問題がないことが試験により示されています。 16 担当医に相談するべき場合 RELAY 胸部ステントグラフトを用いた血管内治療後に、 次のような症状を認めた時には、すぐに担当医に相談する必要 があります。 ・・ 背中、胸、または鼠径部の痛み ・・ めまい ・・ 失神 ・・ 速い心臓の鼓動 ・・ 突発的な脱力感 ・・ 手や足の冷え ・・ しつこい咳 17 日常生活再開の時期とフォローアップ 血管内治療後に日常生活を再開できる時期は、患者様ごとに 異なります。いつ日常生活に戻るべきかについては担当医にご 相談ください。 ステントグラフトの長期成績は、まだ確認されていません。 このため、ステントグラフトおよびあなたの健康の状態を確認 する定期的な検査が重要です。初回検査通院をいつに予定する かは担当医にお尋ねください。一般的に定期検査が行われるの は 1 ヶ月後、6 ヶ月後、1 年後、以降は 1 年に 1 回です。 18 製品(Bolton Medical 社製 RELAY 胸部ステン トグラフト)に関するご質問がございましたら、 取扱い会社である日本ライフライン株式会社まで お問い合わせください。 日本ライフライン株式会社 CVE 事業部 〒 140-0002 東京都品川区東品川二丁目 2 番 20 号 天王洲郵船ビル T E L. 0 3 -6 7 1 1 -5 2 3 3 (営業時間:平日 9 時~ 17 時 30 分) http: / / w w w . j l l . co. j p 19 患 者 様メ モ 欄 氏名 施術年月日 施術医療機 関 名 施術担当医 名 担当医連絡 先 備考 20 21 22 発 行 〒140-0002東京都品川区東品川二丁目2番20号 天王洲郵船ビル CVE事業部 TEL.03-6711-5233 http://www.jll.co.jp 2013-10-50-01
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