第130回講演会(2014年5月22日,23日) 日本航海学会講演予稿集 2巻1号 2014年4月22日 津波被害減災のための可動式防波扉の適用性に関する研究 (その 1) 正会員 増田 光弘(東京海洋大学) 学生会員○藤田 慶彦(東京海洋大学) 正会員 南 清和(東京海洋大学) 非会員 浜田 英外(日揮株式会社) 要旨 本研究は津波を起因とする浸水被害や小型船舶の陸域への乗揚げといった沿岸域の津波被害を統一的に低 減するための可動式防波扉を提案するとともに適用性を検討する。水槽実験より、防波扉を設置することに より遡上水位の低減効果や小型船舶模型の乗揚げ防止の可能性を確認することができた。 キーワード:港湾施設、津波被害減災、船舶の乗揚げ防災 1.緒言 1) 可動式防波扉の水位低減性能の確認 (Exp.1) 2) 可動式防波扉による小型船舶の岸壁への乗揚 津波が沿岸域に来襲した場合、津波の陸域への遡 げ防止に対する適用性の検証 (Exp.2) 上と津波により漂流物となった船舶の流入などによ それぞれの模型設置概要図を Fig. 1、Fig. 2 に示す。 って多くの人命が危険にさらされることになる。そ こで本研究では、陸域への津波の流入を低減・遅延 させ、沿岸域の住民の避難のための時間を確保する とともに、港内に係留されている小型船舶の乗揚げ を防止し、沿岸域の住民、建築物、係留船舶の被害 を減災することを目的とした可動式防波扉を提案す る。本研究では、模型実験によって防波扉の入射津 波低減性能および船舶の乗揚げ抑制性能に影響する 項目について計測を行い、可動式防波扉の適用可能 性について検討を行う。 Fig. 1 Experimental setup system (Exp.1) 2.可動式防波扉コンセプト 本可動式防波扉は、以下のような基本コンセプト に基づき考案した。 1) 本防波扉は被害の減災が目的であり、一定の効 果を発揮した後には、壊れてもよいものとする。 2) 防波扉の主部材は経済的かつ軽量な材料が望 ましいことから、木材を用いる。 3) Fig. 2 対象津波高を 3.0m とし扉体の標準的なサイズ を高さ 1.5m~3.0m、幅 5.0m、厚さ 0.15m とする。 4) Exp.1 では、Fig. 1 のように水槽内の仮底上に防波 陸側の長辺を固定面に繋ぎ、津波の流入によっ 扉模型を設置し、H3 地点における遡上水位を計測し、 て海側の長辺が直角に立ち上がる構造とする。 5) Experimental setup system (Exp.2) 比較することで防波扉の遡上水位低減性能を検討し 平常時は沿岸域に倒伏させた状態で設置され、 た。防波扉の受ける水平波圧は防波扉下端 0.02[m] 景観を阻害しない。 の P1、0.04[m]の P2 の位置で計測した。Exp.2 では 水槽内の仮底上に設置した岸壁模型上に防波扉模型 3.実験概要 を設置し、入射波による両模型の挙動を映像的に確 日本大学理工学部所有の二次元水槽において模 認することで、岸壁への小型船舶の乗揚げ防止に対 型実験を行った。実験は以下の 2 パターンである。 66 第130回講演会(2014年5月22日,23日) 日本航海学会講演予稿集 2巻1号 2014年4月22日 する防波扉の適用性を検討した。模擬津波には、ピ Pressure [kN/m2] Exp.1 の入射波高は 0.04m~0.08m とし、0.01m 刻み で造波した。Exp.2 の入射波高は 0.14m とした。な お小型船舶模型はスタイロフォームで作成した矩形 浮体を用いた。 Experiment Expression 1.6 ストン式造波板によって造波された孤立波を用いた。 4.実験結果および考察 1.4 1.2 1 0.8 0.04 Exp.1 の防波扉未設置時と防波扉設置時における 遡上水位の低減率を Fig. 3 に示す。Fig. 3 から、本可 動式防波扉は遡上水位を最大 70%程度、最低でも Fig. 4 0.05 0.06 0.07 Incident wave elevation [m] 0.0 Comparison of water pressure (P1) 50%程度低減できる可能性があることが確認できた。 Exp.1 におけるP1 の最大値と陸上建築物に作用す る津波荷重の算定式(1)により算出した理論値を比 較したものがFig. 4 である。式(1)はそれぞれq z :構 造設計用の進行方向の津波波圧[kN/m2]、ρ:水の単 位体積質量[t/m3]、g:重力加速度[m/sec2]、α:安全 a)Time= 15.0sec b)Time= 16.5sec c)Time= 17.0sec d)Time= 18.0sec e)Time= 18.5sec f)Time= 19.5sec 率(3)、η:設計用浸水深[m]、z:当該部分の地盤面か らの高さ(0≦z≦3η)[m]となっている。 (1) Fig. 4 より、両者の増加傾向が一致していることが わかる。しかし、全ての入射波に対して実験値が理 論値を上回る結果となった。これは算定式が遡上津 波の入射角度や防波扉上端からの越流などを考慮し ていないためであり、津波荷重を過小評価している 可能性があることを示唆していると考えられる。 Exp.2 では、Fig. 5 のように津波の入射とともに防 波扉模型が起動することによって、防波扉からの反 Fig. 5 射波によって小型船舶模型の乗揚げを防ぐことが可 能であることが確認できた。また、小型船舶模型の 設置位置によっては防波扉に衝突して船舶の乗揚げ Snapshots of movable break water and small ship model 5.結言 を防ぐ結果となったが、いずれのケースにおいても 本可動式防波扉は、陸域への津波の流入を低減可 防波扉が破損することはなかった。 能であるとともに、船舶の岸壁への乗揚げを防ぐこ とが可能であることがわかった。今後は、異なる状 Reducation rate [%] 況を想定した実験や、数値シミュレーションによる Take1 Take2 Take3 70 60 検討などによって、更なる実現性について検討して いく予定である。 50 6.参考文献 40 1) 30 0.04 木村 雄一郎,新里 英幸,仲安 京一,安田 誠 宏,間瀬 肇:フラップゲート式可動防波堤の 0.06 0.07 0.05 Incident wave height [m] 波圧応答特性に関する実験的研究,土木学会論 0.08 文集 B2(海岸工学) ,Vol.B2-65,pp.806-810, Fig. 3 Comparison of reduction rate of water elevation by movable break water (H3) 2009. 67
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