自動車用排気部品の口絞り成形シミュレーション

H25年度AOP中間報告書
香川高等専門学校 機械工学科
木原 茂文,高橋洋一
研究テーマ 自動車用排気部品の口絞り成形シミュレーション
テーマに関連する発 表 一 覧
題
目 自動車用排気管を対象としたステンレス鋼管の口絞り成形シミュレーション
雑 誌 名 材料とプロセス 日本鉄鋼協会講演論文集
掲 載 号 26 巻(2013-5),pp.607-610
題
発
目 円管の口絞り成形時のしわ発生や割れ現象に及ぼす成形条件の影響
表 2013 Altairテクノロジーカンファレンス,(2013.06.27-28)
題
目 スピニング技術について
雑 誌 名 塑性と加工
掲 載 号 54 巻,628号(2013-5),pp.403-407.
自動車用排気部品の口絞り成形シミュレーション
1.はじめに
自動車の排気系部品の材料には,軽量化と浄化性能向上を目的としてステンレス鋼管が採用されている.排
気系部品の中でも特に触媒ケースに使用される大口径のステンレス鋼管の端部には高い縮管率の加工が要求
されており,現在では,管材のスピニングに分類されるネッキング(口絞り成形)によって所望の形状まで一
体成形されている.ネッキングは,管材の外側をローラー工具で徐々に絞っていく加工法1)であり,マンドレ
ルが不要である.そのため,従来のプレス溶接構造の触媒ケースと比べて部品点数が減少し,部品の溶接も不
要なことから高品質で軽量かつ低コスト化を実現できるようになった.しかし,ネッキングされる素材は,ロー
ラー工具と接触していない自由表面領域が広いため,その変形は複雑となる.また,ネッキングの成形条件因
子はかなり多いため,適切な成形条件を容易に見出すことは難しい.著者らはこれまでに成形実験とシミュ
レーションからネッキング成形条件が加工欠陥に及ぼす影響について検討している2), 3).
本報では,テーパー角度,軸方向ピッチを成形パラメータとし,これらがしわや割れの発生に及ぼす影響に
ついて成形実験とシミュレーションから検討した結果について紹介する4).
2.実験および計算方法
Fig.1に成形方法の模式図を示す.外径120.0 mm,肉厚1.5 mm の管端を縮径部の外径54.0 mm,縮径部長さ
Lz =20mm,テーパー角度 にネッキングする.外径100.0 mm,先端曲率半径8.0 mm のローラーが,ジグによ
り固定された円管の周りを螺旋運動しながら軸方向ピッチ F/S で往復し,さらに半径方向にピッチ P=2.4mm
で移動することによりネッキングを行う.F/S1)値とは,ローラーの移動速度 F と公転速度 S の比である.実験
に使用する成形機は,素材が固定式のパイプ成形機(VF- SR150- CNC4- T4:日本スピンドル製造(株)製)
である.実験に使用する素材は,フェライト系ステンレス鋼管(SUS409)である.
Fig.2にシミュレーションモデルを示す.シミュレーションは,動的陽解法で定式化された有限要素解析ソ
フトRADIOSS(アルテアエンジニアリング(株)製)を用いる.円管を肉厚方向に3要素の総要素数7200の6
面体要素でモデル化し,境界条件としてクランプされる端面を固定とする.2つのローラーは剛体として取り
扱い,180に配置されている.また,計算効率を考慮し,密度は7.8×10-4 kg/mm3とした.成形条件は,テー
パー角度=28.6~70,F/S=6.0~30.0mmである.
F/S
L
R
8
P
r
Roller
θ
Tube
Clamp
z
z
C
Clamp
Fig. 2 Initial model for finite element analysis
19.0
5
Lz
z=0
Fig.1 Model for Necking
3.結果および考察
3.1 成形形状
Fig.3に実験およびシミュレーションによって得られた成形形状の一例を示す.Fig.3 (a)は,テーパー角度
28.6,F/S=6.0mm の結果である.実験およびシミュレーションともに良好な寸法精度にネッキングされて
いることが分かる.一方,同じテーパー角度で F/S 値が大きい Fig.3 (b)では,実験,シミュレーションいずれ
の場合も管端部にしわが発生していることが分かる.実験では,成形が進むにしたがって,管端部に非常に大
きな凹凸が発生し,加工機の推力を越える負荷が発生したため,成形を途中で中断している.加工面は,Fig.3
(a)の結果と比べて粗く,軸方向ピッチである F/S 値に対応したローラー痕がはっきりと残っている.
また,Fig.3
(c)に示したテーパー角度60.0,F/S=20.0mm では,テーパーコーナー部に割れが発生していることが分かる.
この割れは,成形後半の12パス目で発生することが実験で確認された.
(a) 28.6,F/S=6.0mm
(b) 28.6,F/S=30.0mm
(c) 60.0,F/S=20.0mm
Fig. 3
Appearance of formed tube
3.2 割れの評価
Fig.3 (c)に示したようにテーパー角度およびF/S値が大きい場合に割れが発生した.そこで,28.6~60.0,
F/S=20mmの条件に着目し,肉厚比分布,軸方向ひずみ分布,応力分布から割れの発生機構を考察した.さら
に,式(1)に示したCockcroft5)の延性破壊条件式からダメージ値Cを求め,割れの発生を評価した.
(1)
ここで, maxは,最大主応力,f は破断時の相当ひずみである.なお,最大主応力 maxを相当応力 で除して
無次元化している.
Fig.4に軸方向肉厚比分布,Fig. 5に軸方向ひずみ分布をそれぞれ示す.いずれもF/S= 20.0mmの条件下で,テー
パー角度28.6~60.0に成形したものである.Fig4に示す実験結果から求めた肉厚比(t-t0)/ t0は,いずれのテー
パー角度においてもテーパー部zS zCで減少し,コーナー部zC = 0mm近傍で最小値となっている.特に割れの
発生した =60.0では,コーナー部zCの肉厚比は(t-t0)/ t0=0.5であり,著しく小さい.また,縮径部zC zFでの肉
厚比は,増加している.一方,Fig. 5に示すシミュレーションによって得られた軸方向ひずみzは,コーナー部
zC=0mm近傍で最大値となるように増加し,縮径部zC zFでは減少している.テーパー角度が大きいほどzC =0mm
近傍での値は大きい.すなわち,テーパー角度が大きい場合,テーパー部の軸方向伸びが増大し,コーナー部
の肉厚比が著しく減少することでコーナー部から割れが生じる.
Fig.4 Distribution of thickness ratio (t-t0)/ t0 in
longitudinal distance (experimental result)
Fig.5 Distribution of longitudinal strainz in
longitudinal distance (simulation result)
Fig.6にF/S= 20.0mmの条件下で,テーパー角度28.6~
60.0に成形した時のダメージ値Cの軸方向分布を示すテー
パー角度が増加するとダメージ値Cの最大値も増加してい
ることが分かる.割れの発生したテーパー角度が大きい=
60.0の場合の最大ダメージ値は,割れの発生しなかった条
件のC値よりも大きい.また,最大値となった軸方向位置は,
zC = 0mmであり,肉厚比が最小値となって,割れの生じた
場所と一致している.
Fig.6
3.3 しわの評価
Fig.3 (a)およびFig.3 (b)に示したようにF/S値が大き
い場合に管端部にしわが生じる.しかし,成形時間を
短縮するためには,ローラーの半径方向ピッチやF/S
値は大きい方が望ましい.そこで,成形時間が短く良
好な寸法精度を容易に見出すパラメータとして,総接
触回数6)nCを定義する.本研究におけるnCは,Fig.7に
示すローラー先端の軌跡長から求められる値であり,
その算出式を式(2)に示す.nCは,ローラー数NRに比
例,F/S値に反比例,半径方向の成形ピッチPの増加と
ともにほぼ反比例して減少する値である.
Distribution of damage value C in longitudinal
distance (simulation result)
Fig.7 Notations of locus length
Fig.8に総接触回数と縮径部の真円度との関係を示す.本研究では,真円度r=0.54mm以上をしわと定義して
いる.いずれの条件においても総接触回数nCが大きいほど真円度rの値は小さくなり,良好な寸法精度にネッ
キングできることが分かる.本実験の成形範囲では,nC=110回以下の条件で急激にrの値が増加し,しわが発
生することが分かった.また,しわの発生機構を説明すると次のようになる.F/S値が大きい場合,ローラー
との接触領域で円管は,周方向に大きな曲げ戻し変形を受け,曲率が一時的に急激に減少する.ローラーから
離れた後は曲げ変形を受け,曲率は増加するが,過度の曲げ戻し変形を受けた箇所は縮管設定半径の曲率の値
まで増加せず,曲げ戻された変形が残留し,曲率が周方向に不均一となる.すなわち,残留した曲率の不均一
が解消することなく助長され,次第にしわへと進行する.
3.4 成形限界
各成形条件における成形限界線図をFig.9に示す.○が成形可能,×が成形不可能を表している.図に示す
ようにテーパー角度が小さい=28.6および=40.0では,割れが生じることなく,F/S=24mm以上の条件で管端
部にしわが生じる.また,テーパー角度とF/Sが大きい場合,肉厚が著しく減少し,割れが生じる.=50.0以
上では,成形可能なF/S値の範囲が線形的に狭くなることが分かった.
Wrinkle
Crack
Fig.8 Effect of F/S value on relationship between
circularity of product r and number of contact
withrollers nc (experimental results)
Fig.9 Forming Limit Diagram
4.まとめ
テーパー角度,F/S値を成形パラメータとし,これらがしわや割れの発生に及ぼす影響について成形実験と
シミュレーションから検討した結果以下の結論を得た.
(1) 円管は,引張りおよび圧縮の応力を繰り返し受けながら縮径される.テーパー角度が大きい場合,軸方向
ひずみが大きく,肉厚比がテーパーコーナー部で著しく減少することから,テーパーコーナー部で割れが
生じる.
(2) Cockcroftの延性破壊条件式から算出したダメージ値は,テーパー角度が大きいほど高くなる.その値は,
割れの生じた条件のテーパーコーナー部で最大値となり,割れの生じた場所と一致する.
(3) テーパー角度が小さく,F/S値が大きい場合,円管は局所的に過度の曲げ戻し変形を受け,曲率が周方向に
不均一となる.円管には周方向に圧縮力が働いているため,残留した曲率の不均一は解消することなく助
長され,しわへと進行する.
参考文献
1) 葉山益次郎:新回転加工, (1992), 近代編集社.
2) Y. Takahashi, S. Kihara, T. Nagamachi, H. Mizumoto, and Y. Nakata:Mater. Trans., 52- 1(2011), 31-36.
3) Y. Takahashi, S. Kihara, T. Nagamachi and Y.Takada:Steel Res. Int., 81-9 (2010), 986-989.
4)木原茂文,高橋洋一,髙田佳昭,檜垣孝二,
:材料とプロセス,Vol.26(2013),Page.607-610.
5) M.G Cockcroft and D.J. Latham:Journal of the Institute of Metals, 96(1968), 33-39.
6) 瀧澤英男, 木村敏郎:塑性と加工, 40-459 (1999), 343-347.