論文番号 2014S-GS6-3 日本船舶海洋工学会講演会論文集 第 18 号 中速船型の横傾斜を含む 4DOF 操縦運動の計測と シミュレーション 学生会員 横 田 大 武* 正 会 員 福 井 洋** 矢 野 大 行* 芳 村 康 男* 学生会員 正 会 員 Free-running Results and Simulations of 4DOF Manoeuvring Motion with Medium High-speed Ships by Hirotake Yokota, Student Member Yo Fukui, Member Hiroyuki Yano, Student Member Yasuo Yoshimura, Member Key Words: Ship Manoeuvrability, Effect of Roll motion, Medium High-Speed Ships 1. 緒 言 中速船では回頭運動の発達に伴い, 船体に大きな横傾 斜が発生するだけでなく, その横傾斜がさらなる回頭運 動を誘起することがあり, これが海難事故につながる場 合がある。しかしながら, 横傾斜を伴う場合の操縦性につ いては様々な検討が行われているものの実際に現象を確 認した実験は少なく, そのメカニズムも明らかになって いない。 そこで本研究では, KCS コンテナ船, 2 軸 1 舵フェリー, 135GT 型旋網漁船の中速船 3 隻を供試船として横傾斜が 操縦性能に与える影響について理論と実験から検討した。 まず, 横傾斜をパラメータとした拘束模型試験を実施 し, 流体力の計測を行って横傾斜を伴う操縦運動の物理 的メカニズムを明らかにし, 4 自由度操縦運動数学モデル を検討した。さらに, 検討したモデルを用いて横傾斜を含 む 4 自由度操縦運動シミュレーションを行った。次に GM やフルード数を変えた自由航走模型試験を実施し, 実際 に横傾斜が操縦性能に与える影響を調べ, シミュレーシ ョンの妥当性を検証した。 を加えた主船体流体力モデルが(1)式で表せる。なお, K モ ーメントは拘束模型試験を解析した見掛けの z′H (斜航付 き旋回状態)を用いて(2)式で表現する。 2. 横傾斜を含めた 4 自由度操縦運動数学モデル 横傾斜を加えた操縦運動数学モデルは前報 1) を踏襲す る。すなわち,主船体流体力 X, Y, N の表現は実績ある 3 自由度の操縦運動に使用される β, r’の多項式をベースに φ の影響を合理的に取り入れた多項式を用いることとし, 具体的には以下のような考え方でモデル化している。 定常旋回状態を想定すると, 左右対称型の 3 自由度数 学モデルの微係数の φ に対する修正量は全て φ もしくは φ の偶関数となる必要がある。これに対し, 左右対称船型 で 3 自由度では基本的に存在しない左右非対称性を表す 微係数は φ もしくは φ の奇関数で表現され, この代表的 な項が, YH′ と N H′ の第一項に表れる Yφ′φ と Nφ′φ である。こ の他に考えられる項としては, 非線形微係数 X βφ ′ , X r′φ , ρ ⎫ ⎪ 2 ⎪ ⎧ X 0′ (1 + cx 0 φ ) ⎫⎪ ⎪⎪ ⎪⎪⎪ ′ (1 + cxββ φ )β 2 + (X β′ r − m′y )(1 + cxβr φ )βr ′⎬⎪ × ⎨+ X ββ ⎪ ⎪⎪ 2 ′ (1 + cxββββ φ )β 4 ⎪⎩+ X rr′ (1 + cxrr φ )r ′ + X ββββ ⎪⎭⎪ ⎪ ρ ⎪ YH = LdU 2 2 ⎪ ⎧Yφ′φ + Yβ′ (1 + c yβ φ )β + (Yr′ − m′x )(1 + c yr φ )r ' ⎫ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ′ β 2φ + Yβ′rφ βr ′φ + Yrr′ φ r ′2φ ⎪+ Yββφ ⎪ ⎪⎬ ×⎨ 3 2 ⎬ ′ (1 + c yβββ φ )β + Yββ′ r (1 + c yββr φ )β r ′⎪ ⎪ ⎪+ Yβββ ⎪ ⎪ ′ 2 ′ (1 + c yrrr φ )r '3 ⎪⎭ ⎪ ⎩+ Yβrr (1 + c yβrr φ )βr ′ + Yrrr ⎪ ρ 2 2 ⎪ N H = L dU ⎪ 2 ⎪ ⎧ Nφ′φ + N β′ (1 + cnβ φ )β + N r′ (1 + cnr φ )r ' ⎫ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ ′ β 2φ + N β′ rφ βr ′φ + N rr′ φ r ′2φ ⎪+ N ββφ ⎪ ⎪ ×⎨ 3 2 ⎬ ′ (1 + cnβββ φ )β + N ββ ′ r (1 + cnββr φ )β r '⎪ ⎪ ⎪+ N βββ ⎪ ⎪ ⎪ ⎪ 2 3 ′ ′ ( ) ( ) + + + + N c r N c r φ β φ 1 ' 1 ' βrr nβrr rrr nrrr ⎩ ⎭ ⎭ XH = LdU 2 K H = − z H Y H − B 44φ& − C 44φ (1) (2) また, 整流係数γR の横傾斜による変化は次式と表現する。 γ R = γ R (φ =0) (1 + cγ φ ) (3) これ以外の干渉係数は横傾斜によらず一定とした。 ′ , Yβ′rφ , Yrr′ φ , N ββφ ′ , N β′ rφ および N rr′ φ の項がある。こ Yββφ 3. 横傾斜を含めた 4 自由度操縦流体力特性 こで X βφ ′ , X r′φ は微小になるとして 0 と考えると, 横傾斜 3 隻の供試模型船の主要目を Table 1 に示す。これらの 供試模型船で拘束模型試験を行い,上記の数学モデルの 各係数の特性について調べた。 3. 1 主船体流体力 船体の流体力特性については,コンテナ船, フェリー, 漁船を供試模型船として, 横傾斜をパラメータとした拘 束模型試験を実施し, 横傾斜を含む 4 自由度の操縦運動 の特徴と数学モデルの検討を行った。なお,コンテナ船 * 北海道大学大学院水産科学研究院・水産科学院 ** ジャパンマリンユナイテッド(株)技術研究所 原稿受付 平成 26 年 4 月 11 日 春季講演会において講演 平成 26 年 5 月 26, 27 日 ©日本船舶海洋工学会 ─367─ その数学モデルを(1)式に導入した。 ・船体整流係数も少なからず横傾斜の影響を受け, 横傾斜 の増加とともに整流係数は低下する傾向がみられた。 ・操縦運動中の横傾斜モーメントに対する横傾斜の影響 は大きくないと考えられる。 3. 2 船体・舵・プロペラの干渉係数 供試模型船 3 隻について, 干渉係数の横傾斜角 φ に対 する変化を実験的に明らかにするため, 模型船の自航回 転数の状態で横傾斜を付けた拘束試験から干渉係数を解 析した。以下に得られた結果をまとめる。 ・推力減少係数(1-t), 有効伴流係数(1-w), 舵に関する前後 方向の干渉係数(1-tR), 舵・プロペラ位置での伴流係数比ε および修正係数κは φ に対してほとんど変化しない。 ・舵に関する横, 回頭方向の干渉係数 a H , aH x′H の絶対値 および整流係数 γ R の横傾斜角 φ に対する変化は偶関数 になり, 横傾斜が大きくなると減少する。 以上の検討結果から, 前述したとおり,4自由度数学モ デルにおいては干渉係数の横傾斜による変化は整流係数 のみを考慮した。 4. 横傾斜を含めた 4 自由度操縦運動シミュレーシ ョンの妥当性の検討 4. 1 自由航走模型試験 横傾斜が操縦性能に与える影響を確認するために 3 隻 の模型船について GM や Fn を変えた自由航走模型試験を 実施した。各模型船で重心高さを変えて GM を変え,操縦 運動による横傾斜の大きさを変えた。GM は計画 GM を 含む 3∼4 種類とし, 船速は航海船速及び半速程度とした。 実験はコンテナ船については IHI 横浜(現ジャパンマリ ンユナイテッド(株))の運動性能水槽, フェリーと漁船に ついては北海道大学水産学部キャンパス内の水泳プール で実施した。模型船はラジコン送信機による無線操船で 航走させ, 試験は自動操舵装置によって行った。船体運動 の回頭角, 回頭角速度, 横傾斜角等は 6 軸慣性ジャイロに よって計測し, 航跡や船速は測量で用いられる自動追尾 トータルステーションによる測位計測から求めた。試験 内容は, 旋回試験, 逆スパイラル試験, Z 試験である。 4. 2 シミュレーションおよび自由航走模型試験結果 検討した数学モデルを用いて横傾斜を含めた 4 自由度 の操縦運動を計算し, 自由航走模型試験結果と比較して 操縦運動シミュレーションによる理論的推定の妥当性を 検討した。 ▽ xG(=-Lcb) AR/Ldm aspect ratio Lpp B (molded) dm (molded) BL.trim ▽ xG(=-Lcb) AR/Ldm aspect ratio Lpp B (molded) dm (molded) BL.trim ▽ xG(=-Lcb) AR/Ldm aspect ratio m m m m m3 m m m m m m3 m m m m m m3 m -3.404 1/54.86 2.208 GM=2.5m GM=0.6m GM=0.5m GM=0.3m Model(1/105) 2.1905 0.3067 0.1029 0.0000 0.0449 -0.0324 1/53.57 2.168 Ferry Model(1/64) 2.3438 0.3563 0.1003 0.0000 0.0443 -6.370 -0.0995 1/47.08 1/46.69 1.453 1.470 Full scale 150.000 22.800 6.416 0.000 135GT type Purse Seiner Full scale Model(1/20) 37.000 1.8500 7.900 0.3950 2.900 0.1450 0.000 0.0000 0.0590 -1.840 -0.0920 1/25.92 1/26.00 1.840 1.859 ─368─ 2 1 Dist./Lpp 0 0 1 2 3 4 Fig. 1 Comparison of turning trajectories for various GM, between measured and simulated(KCS_Fn=0.26). 1.2 1.0 0.8 0.6 Fn=0.26_freerun Fn=0.26_simulation Fn=0.156_freerun Fn=0.156_simulation 0.4 0.2 0.0 0 1 2 GM(m) 3 Fig. 2 Comparison of tactical diameters for various GM, between measured and simulated(KCS). Fn=0.26_freerun Fn=0.26_simulation Fn=0.156_freerun Fn=0.156_simulation 20 roll angle(deg) KCS Container ship Lpp B (molded) dm (molded) BL.trim 4 3 Table 1 Principal particulars of ship models Full scale 230.000 32.200 10.800 0.000 Dist./Lpp については前報 1) に示したとおりである。以下に流体力 係数の特徴をまとめる。 ・横傾斜をすることによって, 従来の 3 自由度の船体流体 力の微係数が変化する。その変化は, 左右対称型の微係数 については横傾斜角 φ に対して偶関数, また左右非対称 型の微係数については φ に対して奇関数とすべきであり, 10 0 0 1 2 GM(m) 3 Fig. 3 Comparison of roll angle for various GM, between measured and simulated(KCS). Dist./Lpp (1) 旋回性能 コンテナ船の舵角右 35°旋回航跡と旋回圏について, 自 由航走模型試験とシミュレーション結果を Fig. 1, 2 に示 し, その時の定常時横傾斜角を Fig. 3 に示す。自由航走模 型試験結果は記号で示し, シミュレーション結果は曲線 で示している。これらより, コンテナ船は自由航走模型試 験結果, シミュレーション結果ともに GM の減少や Fn の 増加によって横傾斜が大きくなると旋回圏が小さくなっ て旋回性能が強くなることがわかり, 自由航走模型試験 とシミュレーション結果が定性的に一致していることが 確認できた。 5 4 GM=1.87m GM=1.30m GM=0.80m また, フェリーの舵角右 35°旋回航跡の自由航走模型試 験とシミュレーション結果を Fig. 4 に示す。フェリーは 舵力が小さく旋回性能が弱いため旋回航跡が大きくなり, 水泳プールの中では 180°まで旋回することができなか った。そこで, スパイラル特性の大舵角の r’ を比較して フェリーの旋回性能について考察する。フェリーの同じ Fn で GM を変えたもの, 同じ GM で Fn を変えたものの それぞれのスパイラル特性の自由航走模型試験とシミュ レーション結果を Fig. 5, 6 に示す。上記と同様に自由航 走模型試験結果は記号で示し, シミュレーション結果は 曲線で示している。これらより, 自由航走模型試験結果, シミュレーション結果ともに GM の減少や Fn の増加によ って横傾斜が大きくなると大舵角の r’ は大きくなって , 旋回性能が強くなることがわかり, 自由航走模型試験と シミュレーション結果が定性的に一致していることが確 認できる。 Dist./Lpp 3 4 2 3 1 0 GM=1.47m GM=0.70m GM=0.20m 2 0 1 2 3 4 5 -1 6 Dist./Lpp 1 Fig. 4 Comparison of turning trajectories for various GM, between measured and simulated(Ferry_Fn=0.188). 0 1.0 r'(L/R) GM=1.87m 0 GM=1.30m 1 2 3 4 -1 GM=0.80m 0.5 5 Dist./Lpp Fig. 7 Comparison of turning trajectories for various GM, between measured and simulated(Purse Seiner). δ(deg) 0.0 -40 -20 0 20 1.2 40 1.0 0.8 -0.5 0.6 Fn=0.301_freerun Fn=0.301_simulation Fn=0.200_freerun Fn=0.200_simulation 0.4 -1.0 0.2 Fig. 5 Comparison of spiral characteristics for various GM, between measured and simulated(Ferry_Fn=0.268). 1.0 0.0 0 Fn=0.188 0.5 roll angle(deg) δ(deg) -20 0 2 Fn=0.301_freerun Fn=0.301_simulation Fn=0.200_freerun Fn=0.200 simulation 20 0.0 -40 GM(m) Fig. 8 Comparison of tactical diameters for various GM, between measured and simulated(Purse Seiner). r'(L/R) Fn=0.268 1 20 40 10 -0.5 0 0 -1.0 Fig. 6 Comparison of spiral characteristics for various Fn, between measured and simulated(Ferry_GM=0.8m). 1 GM(m) 2 Fig. 9 Comparison of steady roll angle for various GM, between measured and simulated(Purse Seiner). ─369─ 漁船の舵角右 35°旋回航跡と旋回圏について, 自由航走 模型試験とシミュレーション結果を Fig. 7, 8 に示し, そ の時の定常時横傾斜角を Fig. 9 に示す。上記と同様に自 由航走模型試験結果は記号で示し, シミュレーション結 果は曲線で示している。これらより, コンテナ船やフェリ ーと異なり, 漁船におけるシミュレーションは GM の減 少や Fn の増加によって横傾斜が大きくなると旋回圏が小 さくなって旋回性能が強くなるという自由航走模型試験 結果の傾向を表現できていないことがわかる。 1 0 0 GM(m) 2 Fn=0.301_freerun Fn=0.301_simulation Fn=0.200_freerun Fn=0.200 simulation 30 roll angle(deg) 2 1 Fig. 14 1stOver Shoot Angle for various GM, between measured and simulated(Purse Seiner). Fn=0.26_freerun Fn=0.26_simulation Fn=0.156_freerun Fn=0.156_simulation 3 Fn=0.301_freerun Fn=0.301_simulation Fn=0.200_freerun Fn=0.200 simulation 2 1 20 10 0 0 0 0 1 2 GM(m) 3 Fig. 15 Maximum roll angle for various GM, between measured and simulated(Purse Seiner). Fig. 10 1stOver Shoot Angle for various GM, between measured and simulated(KCS). roll angle(deg) (2) 針路安定性 コンテナ船, フェリー, 漁船の 20°/20°Z 試験の第一オ ーバーシュート角について, 自由航走模型試験とシミュ レーション結果を Fig. 10, 12, 14 に示し, 転舵直前の横傾 斜角を Fig. 11, 13, 15 に示す。これらより 3 隻全てにおい て , 自由航走模型試験結果 , シミュレーション結果とも に GM の減少や Fn の増加によって横傾斜が大きくなって, 第一オーバーシュート角が大きくなり, 針路安定性が低 下する傾向がみられ, 自由航走模型試験とシミュレーシ ョン結果が定性的に一致していることを確認した。 Fn=0.26_freerun Fn=0.26_simulation Fn=0.156_freerun Fn=0.156 simulation 25 20 15 10 5 0 0 1 2 GM(m) 3 5. 結 Fig. 11 Maximum roll angle for various GM, between measured and simulated(KCS). Fn=0.268_freerun Fn=0.268_simulation Fn=0.188_freerun Fn=0.188_simulation 8 7 6 5 4 3 2 1 0 0 1 GM(m) 2 Fig. 12 1stOver Shoot Angle for various GM, between measured and simulated(Ferry). Fn=0.268_freerun Fn=0.268_simulation Fn=0.188_freerun Fn=0.188_simulation roll angle(deg) 25 20 GM(m) 2 1 15 言 本論では, KCS コンテナ船, 2 軸 1 舵フェリー, 135GT 型 旋網漁船の中速船 3 隻を供試船として横傾斜が操縦性能 に与える影響について理論と実験から検討した。以下に 得られた結論を要約する。 1)自由航走模型試験において, GM の減少や Fn の増加に よって横傾斜が大きくなり , 旋回性能が強くなって , 針路安定性が低下することを確認した。 2)横傾斜を含めた操縦運動シミュレーションでは概ね自 由航走模型試験とシミュレーションの結果が定性的に 一致していることから, シミュレーションの妥当性を 確認した。 本報では, 3 隻の中速船では横傾斜をすると操縦運動に 少なからず影響を与えることを確認したが、今後は数学 モデルの簡略化も含めて, シミュレーション精度向上の ため, 横傾斜時の流体力特性の更なる検討を行う必要が あると考えられる。 謝 辞 本研究の一部は文部科学省研究費補助金 (24360353) を 受けた。関係各位に感謝致します。 10 5 参 考 文 献 0 0 1 GM(m) 2 1) Fig. 13 Maximum roll angle for various GM, between measured and simulated(Ferry). ─370─ 芳村康男・福井 洋・横田大武・矢野大行:横傾斜 を含む 4 自由度操縦運動数学モデルの検討, 日本船 舶海洋工学会講演会論文集,第 16 号, 2013, pp.17-20.
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