A Case of Occlusal Discomfort Treated by Fixed Partial Denture

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明海歯学(J Meikai Dent Med )43(1)
, 94−100, 2014
二回鋳造法を応用したブリッジ装着により咬合違和感が改善した
一症例
藤田
川田
1
崇史1§
祐1
飯塚
吉沢
知明1
亮平2
廣川
藤澤
琢哉1
政紀1
明海大学歯学部機能保存回復学講座歯科補綴学分野
2
明海大学歯学部付属明海大学病院 歯科技工部
要旨:患者は 75 歳女性.他院でブリッジを装着した 2 年前より生じたという咬合違和感と味覚障害を主訴に,口腔外
科より紹介され受診した.治療方針として,下顎左右のブリッジにレジン築盛による可逆的補綴治療の後,新しいブリッ
ジを製作することとした.
ブリッジ製作に際し,正確で安定した咬合を再現する為に二回鋳造法を用いた.咬合の改善により,咬合違和感に加え
味覚障害も改善した.
適切な機能的咬合面を付与することにより,咬合違和感に影響を及ぼす局所因子を口腔内に適応させることができたも
のと思われる.
索引用語:咬合違和感,機能的咬合面,二回鋳造法
A Case of Occlusal Discomfort Treated by Fixed Partial Denture
Fabricated by Double-cast Technique
Takafumi FUJITA1§, Tomoaki IIZUKA1, Takuya HIROKAWA1,
Yu KAWADA1, Ryohei YOSHIZAWA2 and Masanori FUJISAWA1
1
Division of Fixed Prosthodontics, Department of Restorative & Biomaterials Sciences, Meikai University School of Dentistry
2
Dental Laboratory, Meikai University Hospital
Abstract : A case of a 75-year-old woman with occlusal discomfort is reported. She was referred by an oral surgeon with the
complaints of occlusal discomfort and dysgeusia after treatment of fixed partial denture(FPD)in another dental clinic 2 years previously.
As the treatment strategy, fabrication of new FPDs for the right and left sides of the mandible following reversible prosthodontic
treatment including self-cure resin build-up was proposed.
In the process of the FPD fabrication, a double-cast technique was adopted to ensure precise and favorable occlusion. With occlusal improvement, not only the occlusal discomfort but also the taste discomfort disappeared. A precise functional occlusal surface provides peripheral factors suitable for the intraoral environment, which may affect occlusal discomfort.
Key words : occlusal dysesthesia, functional occlusal surface, double-cast technique
緒
言
ある.このような咬合違和感を訴える原因は多岐にわた
り,確立された治療方法は未だにないため,対応には困
日常臨床において通法の咬合検査では問題がないにも
難を伴うことが多い1).とりわけクラウンブリッジによ
かかわらず,咬合違和感を訴える患者に遭遇する場合が
る補綴処置が必要な場合は,プロビジョナルレストレー
二回鋳造法によりブリッジを装着した症例
ションから最終補綴装置への移行時に,咬合感覚の変化
によって咬合違和感を惹起させる場合もある.今回,プ
ロビジョナルレストレーションから最終補綴に移行する
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口腔外科に紹介され受診となった.その後,口腔外科に
───┐
て咬合の精査依頼により補綴科を受診した. ⑦6⑤│,
┌───
│⑤6⑦ に装着されたブリッジに対し,前医にてブリッ
過を辿った症例を経験したため,臨床術式ならびに経過
ジの咬合面にレジンが添加されたとのことであった(Fig
─┐
1).パノラマエックス線写真(Fig 2)より,7│に根管
┌─
充填材の不足を,│7 根尖部には透過像を認めたが,い
について報告する.
ずれも症状はなかった.レジストレーションストリップ
際の咬合の変化を最小限に抑える手法である二回鋳造
法2)により製作した臼歯部ブリッジを装着し,良好な経
症例の概要
75 歳女性.咀嚼障害,味覚障害,および頭痛を訴え 2012
スによる引き抜き試験では,咬頭嵌合位において咬合支
持域の不足が認められ,不安定な咬合状態であった(Fig
3).
年 2 月 7 日明海大学病院を受診した.1 年前に近医歯科
また,初診時の歯周基本検査(Fig 4)において,一
にて顎関節症と診断されスプリント治療を行ったが改善
部 4 mm のポケットを認めたが,プラークコントロール
されなかった.次第に歯が咬み合わなくなり,浮いたよ
は良好で,動揺歯も認められなかった.
うに感じ,味覚の変化と頭痛を生じるようになり,本学
Fig 1
Intraoral photograph at the time of the first medical examination.
─────────────────────────────
§別刷請求先:藤田崇史,〒350-0283 埼玉県坂戸市けやき台 1-1
明海大学歯学部機能保存回復学講座歯科補綴学分野
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藤田崇史・飯塚知明・廣川琢哉ほか
Fig 2
明海歯学 43
2014
Panoramic X-ray film at the first visit.
〈初診時咬合所見〉
咬頭嵌合位
:
右側方運動時
:
左側方運動時
:
前方運動時
:
Fig 3
71│4
──┼─
71│4
3│
─┤
3│
7│356
─┼───
7│356
1│
─┤
1│
Occlusal status.
Fig 5 Adding self-cured resin on the occlusal surface of the existing fixed partial dentures(FPDs)
.
Fig 4
Periodontal examination chart.
治療経過
1 .治療方針ならびに装着までの経過
治療方針として可逆的な治療法により,咬合の変化と
症状の変化の関連を確認することとし,その後必要部位
の根管治療を行い,安定した咬合の確立を図るため,二
回鋳造法によるブリッジを製作することとした.現存す
───┐ ┌───
る ⑦6⑤│,│⑤6⑦ ブリッジの咬合面に常温重合レジ
Fig 6
The provisional restorations replacing FPDs.
ンを添加し(Fig 5),持参したパンをチェアーサイドで
軽減したため,両側のブリッジを新しく製作することと
───┐
した.2012 年 5 月 10 日に ⑦6⑤│のブリッジを除去
食べてもらい,咀嚼に支障がなくなり状態が改善したこ
───┐ ┌───
とを確認した. ⑦6⑤│,│⑤6⑦ ブリッジの咬合接触
し,プロビジョナルレストレーションに置換し(Fig
─┐ ┌─
6),調整を繰り返した後,同年 7 月 19 日より 7│と│7
を改善することにより咀嚼機能が向上し,咬合違和感も
の根管治療を開始した.根管治療終了後,プロビジョナ
二回鋳造法によりブリッジを装着した症例
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Fig 7 Fabrication procedure of base crown.
a. Ordinal wax up with anatomical form
b. Ready casting wax being added on the occlusal surface
c. FPD base crown
d. Self-cured resin being added on the occlusal surface
Fig 8 Add and cut were repeated for adjustment of FPD with
resin occlusal surface.
Fig 9 Completion of FPD fabrication with functional occlusal
surface.
ルレストレーションで確立した機能的な咬合関係を鋳造
2 .二回鋳造法によるブリッジの製作
ブリッジに反映させるために,二回鋳造法によるブリッ
1 )ベースクラウンの製作
ジ製作を行い,2012 年 12 月 3 日に仮着した.右側の咬
┌───
┌─
合を確立した後,│⑤6⑦ も同様に除去,│7 の根管治療
通法に従い印象採得を行い,歯型可撤式の作業模型を
製作した.ろう型形成時の咬合面には解剖学的形態(Fig
を行い,2013 年 5 月 15 日にブリッジを仮着した.
7−a)を付与し,その後咬合面をカットバックしレジン
添加スペースを設けた.ベースクラウンに添加するレジ
ンとの維持向上の為レディーキャスティングワックスを
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藤田崇史・飯塚知明・廣川琢哉ほか
明海歯学 43
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咬合面に付与した(Fig 7−b).通法に従い埋没,鋳造,
常温重合レジンの添加・削合を行い調整した(Fig 8).
研磨を行いベースクラウンを完成させた(Fig 7−c).続
初診時の症状が完全に消失したことを確認した後,機能
いて,ベースクラウンの咬合面に常温重合レジンを添加
的咬合面が付与されたベースクラウンをスプルーイング
し(Fig 7−d),口腔内に試適調整後,仮着した.
し,埋没,鋳造,研磨を行い,機能的咬合面が付与され
2 )機能的咬合面の製作
たレジンを金属に置換し,ブリッジを完成させた(Fig
完成したベースクラウンを仮着後,口腔内で咬合面に
9).尚,咬合面の研磨はシリコーンポイントのみで行っ
た.
3 .装着後の経過
二回鋳造法により機能的咬合面を金属に置換したブリ
ッジを 1 か月間仮着して経過を観察したが,初診時の症
状は再発することなく,咬合状態も良好であったため
───┐
⑦6⑤│ブリッジを合着した(Fig 10).
┌───
その後,反対側│⑤6⑦ も同様の製作方法にて機能的
咬合面を付与したブリッジを製作し,合着した(Fig
11).BiteEye BE-1Ⓡ(GC 社製)による咬合接触検査で
は初診時と比較して咬合接触面積は増加し(Fig 12),
初診時に訴えていた咀嚼障害に加え,味覚障害,頭痛も
Fig 10
Intraoral lateral view of FPD(one month after delivery)
.
Fig 11
消失し,良好な経過を辿っている.
Intraoral photograph after FPD in right and left sides of mandible treatment.
二回鋳造法によりブリッジを装着した症例
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Fig 12 Preoperative(left)and postoperative(right)occlusal contact analyses using BiteEye BE-1Ⓡ.
Color dots in blue silicone indicate occlusal contact.
考
る金属冠の鋳造収縮と比較すると,二回目の鋳造による
察
寸法変化が少ない6)ことから,咬合の変化に敏感な患者
咬合違和感には明らかに咬合に不調和が認められる場
合以外に,中枢または歯根膜,顎関節および咀嚼筋など
に対して有効な補綴治療であると考えられており,長期
的にも安定しているという報告がある7, 8).
の末梢器官に起因するものがある3).本症例はレジンの
本症例においては,前医にて最終補綴処置後,複数回
添加による可逆的アプローチにより,咬合に起因した咬
にわたり咬合調整を行うも,咬合違和感の改善が見られ
合違和感であることを確認し,二回鋳造法を用いてブリ
ず,患者が咬合の変化に極めて敏感であったため,可逆
ッジを製作した.
的に咬合を変化させ,安定した下顎位を確保できること
二回鋳造法とは,咬合面以外の部分を製作した鋳造体
を確認した後に新しくブリッジを製作した.咬合違和感
(ベースクラウン)の咬合面に常温重合レジンを盛り上
を訴える患者においては,安易に補綴介入を行うべきで
げ,口腔内で調整を行った後に咬合面を金属に置換す
はなく,各治療ステップで可逆的治療を行うことが重要
る,いわば間接法と直接法を組み合わせたクラウンブリ
であると考える9).本症例では,来院時に装着されてい
ッジの製作法である.そのため,従来の間接法の製作過
たブリッジに,まず常温重合レジンを添加することによ
程において生じ得る様々な誤差(対合歯の模型の変形,
りさらなる補綴治療の可否を検討したが,この時も「不
咬合採得時の誤差,咬合器装着時の誤差,口腔内の支台
具合が起きたときは盛った材料を除去すれば元の状態に
歯への適合性に由来する誤差,隣接接触関係による誤
戻せます」と説明した上でレジン添加を行った.また,
4)
差)を最小限に抑えることができる .
ベースクラウンに築盛した常温重合レジンを調整する
ブリッジを除去し,新たなプロビジョナルレストレーシ
ョンに置き換える際も,患者が咬合違和感を訴えた際,
ことにより,プロビジョナルレストレーションと同様の
旧補綴装置が再度使えるようにブリッジの除去には細心
調整ができ,そのままの咬合面が金属冠に再現されるこ
の注意を払った10).
ととなる.その論理的背景は機能的咬合面形成法として
このように「前の状態に戻れる」ことを保証すること
知られる FGP テクニックに準じたものである5).加えて
によって,咬合の微妙な変化に敏感な患者に安心感を持
支台歯を被覆するベースクラウンは金属であるため,レ
たせて補綴治療に導入できたことと,プロビジョナルレ
ジンによるプロビジョナルレストレーションのように長
ストレーションで確立した咬合関係を最終補綴装置に反
期間の仮着による二次カリエスの危険が少ない.その反
映できる二回鋳造法の利点により,本症例の患者の初診
面,鋳接部に境界を生じること,来院回数が増えてしま
時の訴えを解消することができたと考える.また,通法
うこと,技工操作が煩雑であること,支台歯形成時の咬
どおりに製作される解剖学的形態を付与した補綴装置が
合面削除量が多いこと,前装冠への適応が困難なことな
必ずしも咬みやすいとは限らず,とりわけ咬合違和感を
どが欠点として挙げられる.しかし,従来の間接法によ
訴える患者に対しては,機能的咬合面を付与した補綴装
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藤田崇史・飯塚知明・廣川琢哉ほか
置によってその症状が改善しうることがある.
しかしながら,咬合違和感を訴え,その原因が本当に
咬合にあったとしても,機能的咬合面が適しているか,
解剖学的咬合面が適しているかは,症例によるものと思
われる.したがって可逆的な補綴治療により治療方針を
再評価するという配慮が必要と考える.本症例におい
て,二回鋳造法を応用したことの意義としては,咬合精
度の向上のみならず,可逆的補綴治療による安心感を与
えるという簡易精神療法11)としての手続きが功を奏し,
この二つの面が相俟って症状の改善につながったものと
思われる.
今後は,咬合状態や咀嚼機能の変化および鋳造体の変
化について長期的に経過観察を行っていきたい.
結
論
本症例では,プロビジョナルレストレーションで確立
した機能的咬合面を,二回鋳造法を用い最終補綴装置に
反映したことにより,患者の訴える咬合違和感を解消で
きた.また,可逆的治療を行うことにより補綴治療へ円
滑な移行ができたものと考える.
引用文献
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明海歯学 43
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歯科心身症の重篤化 歯界展望 113, 1130−1133, 2009
10)藤澤政紀,牧田眞一郎:ブラキシズムを考慮した補綴治療
−条件の異なる 4 症例から考える破壊的な力への対応 補綴
臨床 46, 446−459, 2013
11)郷土恵久,藤澤政紀,石橋寛二:歯科治療後に生じたブラ
キシズムに対するスプリント療法 日歯心身 20, 59−64,
2005
(受付日:2013 年 10 月 30 日
受理日:2013 年 11 月 15 日)