川上ゼミ卒業論文講評 比較文化史社会学の研究を中心とするゼミナール 担当 2014年度川上ゼミでは、江尻千草、佐久 川上 周三 作過程と現在のゲーム業界について論じている。 間愛美、両角賢人、山田美紗季、渡邉瑠璃子の ゲームの制作過程については、ゲーム制作サイ 5名が卒論を提出した。 ドの一名に実施したインタビュー情報に基づい 江尻の卒論は、現代スポーツとナショナリズ て、論じている。現在のゲーム業界の動向につ ムの関係について考究した論文である。 いては、ゲーム制作サイドのインタビューイー 第1章では、現代スポーツとメディアの関連 4名から得られた情報を元にして論じている。 性、特に、オリンピックとメディアの関連性に 第3章では、生産手段の民主化と今後のゲーム ついて論じている。第2章では、アーネスト・ について論じている。生産手段の民主化では、 ゲルナーのナショナリズムの定義、田辺俊介の インタビューから得られた情報に基づいて、企 ナショナリズム概念(純化主義・愛国主義・排 業集団でなくても、個人でもゲームを制作でき 外主義)及び有本健のスポーツナショナリズム ること、ユニティというゲーム制作ソフトの出 概念(水平ナショナリズム・垂直ナショナリズ 現で誰でも高度なゲーム制作が行えることが論 ム)により、ナショナリズム概念について説明 じられている。今後のゲームでは、インタビュ を行っている。第3章では、2020年に開催 ーでの聞き取りを元にして、固定型ゲームと携 される東京オリンピックについて、その概要・ 帯型ゲームの双方から、ゲームの行方が論じら その日本への影響・それについての意識調査に れ、ゲーム産業のグローバル化が一層進行して 分けて論じている。意識調査は、2014年9 いくことが述べられている。 月に、専修大学社会学科の1年生・2年生・3 デジタルゲームの現代的特徴と今後の動向に 年生・4年生128名を対象に実施した調査で ついて、社会学的実証研究を行った優れた論文 ある。調査では、2割程度の学生にナショナリ である。 ズム意識が見られるという結果になった。この 両角の卒論は、雀荘衰退の原因を解明した論 結果は、ネット右翼に青年層が多いと言われて 文である。 いるが、実際の調査をすると、中高年齢層の方 第1章では、本論文のテーマ設定(雀荘の衰 がその傾向が強いと指摘している田辺の調査結 退)について述べ、第2章では、麻雀の概論を 果と一致している。また、有本が論ずるスポー 最初に行い、次に、麻雀の歴史と麻雀のルール ツナショナリズムが青年層にも見られるという について述べている。第3章では、第一次麻雀 ことを裏付ける結果にもなっている。 ブーム(昭和2年~昭和7年) 、第二次麻雀ブー 青年とスポーツナショナリズムの関係につい ム(昭和44年~昭和60年)を中心にして述 て、量的並びに質的な実証研究を行い、その関 べ、併せて、そのルールの変遷・中国からアメ 連性を明らかにした優れた論文である。 リカや日本への伝播・雀荘について述べている。 佐久間の卒論は、生産手段の民主化がゲーム 第4章では、雀荘麻雀からオンライン麻雀への 制作に及ぼす影響について探求した論文である。 転換が、その誕生・その流行・その人口推移の 第1章では、本論文で対象としているデジタ 3点に渡って論じられている。麻雀は、雀荘麻 ル型ゲームの定義を行い、その後で、デジタル 雀からオンライン麻雀が主流になったが、他の 型ゲームの歴史を、開始期のインベーダーゲー デジタルゲーム(TVゲーム等)の発達により、 ムから最近の携帯電話用ゲームに至るまでの歴 それとの競合により、麻雀参加人口が減少して 史について論じている。第2章では、ゲーム制 いったことが、統計に基づき実証的に解明され 1 川上ゼミ ている。雀荘の衰退は、オンライン麻雀の普及 さをアピールしながら共存し共に発展していこ と他のデジタルゲームとの競合によりもたらさ うという考えを持っていること、墨田区同様、 れたと結論づけている。その後で、台湾麻雀と 東京オリンピックに向けた事業や舟運事業の発 日本麻雀の比較が、日本と台湾での麻雀調査に 展を今後の目標としてあげていることが分かっ 基づき論じられている。台湾では家庭で楽しむ たと述べている。両調査のまとめとして、都市 麻雀が中心で雀荘はなく、日本麻雀では雀荘と 観光の最大の魅力は現代性と伝統性の融合にあ オンライン麻雀の両方があり、賭け麻雀中心で ることが分かったと述べている。最後に、都市 あることが述べられている。最後に、アメリカ 観光の課題として、景観問題を、今後の展望と 麻雀の動向が述べられている。 して、観光がハードの消費からソフトの消費へ 雀荘の衰退原因について、説得力に富む論述 と変化しつつあることを述べて結びとしている。 を行った実証的な好論文である。 代表的な事例研究により、都市観光の魅力の 山田の卒論は、都市観光の特徴と課題につい 本質に迫った好論文である。 て論究した論文である。 渡邉の卒論は、高齢者の孤立化とその克服に 第1章では、都市観光の特徴と課題が本論文 ついて研究した論文である。 のテーマであることが述べられている。第2章 第1章では、日本における高齢化の特徴とし では、最初に、観光の定義は時代と共に変化、 て、高齢者の割合が14%以上となる高齢社会 進化していくものであることが述べられている。 であること、家族形態は、三世代同居型から6 次に、都市観光とは、従来の観光概念に都市の 5歳以上の高齢者夫婦や独居老人型家へと移行 持つ現代的・近代的な文化、建築物、芸術、娯 し、意識の面でも、老後の生活費は、子が老親 楽等の諸要素が加味されることによって成立し の面倒をみるから、社会保障による制度的保障 た概念であることが論じられている。第3章で や高齢者自身の自助努力へと変化してきたと述 は、日本における都市観光の事例として、東京 べている。第2章では、日本の地域福祉が、ノ スカイツリーとその周辺地域が取り上げられ、 ーマライゼーションの理念の普及により、施設 それについて論じている。最初に、東京都を事 ケアから在宅ケアへと移行したこと、それに伴 例として取り上げるのは、都道府県の魅力度で い、地域ケアは、自治会や町内会等の地理的コ は4位、外国人旅行者の都道府県訪問率では1 ミュニティによる援助と当事者組織による共通 位であるからだと述べている。本論文では、東 利益コミュニティ援助の相互協力によるケアが 京都の中でも代表的な観光地であるスカイツリ 望ましいと考えられるようになったが、実態が ーとその周辺地域を、都市観光の代表的事例と まだそれに追い付いていないと論じられている。 して選び、その地域での調査を行っている。具 また、地域福祉の範囲として、在宅福祉サービ 体的には、墨田区観光協会と浅草観光連盟の2 ス・環境改善サービス・組織活動(地域組織化 事例の聞き取り調査を行っている。墨田区の調 と福祉組織化)の3点を挙げ、地域福祉の担い 査では、ハードの面では、スカイツリー建設を 手として、福祉NPO・地域福祉協議会・社会 きっかけとし、それに2020年の東京オリン 福祉法人・民生委員・コミュニティワーカー・ ピック事業や舟運事業等も加味して、墨田区を ケアマネージャーの6つの担い手を挙げている。 観光地としてさらに発展させていこうとしてい 第3章では、未婚率の増加と伝統的な家規範の ること、ソフトの面では、ホスピタリティの精 衰退による高齢者の単身世帯数の増加、地域に 神で観光客に接することにより、観光客増大に おける町内会や自治会活動への参加度が低い地 繋げていこうとしていることが分かったと述べ 域連携の弱体化、近隣の人間関係の希薄さが、 ている。浅草の調査では、伝統や文化を中心に 高齢者の孤立化のリスクを高める要因となった した観光をさらに磨き上げていこうとする姿勢 と論じられている。第4章では、高齢者の社会 に貫かれていること、スカイツリー建設をピン 的孤立化を防ぐためには、行政主導による縦型 チではなく、チャンスとして捉え、お互いの良 組織から住民主体の横型組織への転換が重要で 2 2014 年度 卒業論文講評 あるという位置づけが行われ、その横型組織の 具体的事例として、住民主体の福祉活動の6事 例が挙げられている。最後に、住民各自が高齢 者問題を他人事と思わず真剣に向き合い、地域 とのつながりを見つめ直し、地域のニーズを発 掘し、ニーズの解決に向けた住民福祉活動を盛 り上げ、地域で解決できないものについては、 行政に提案し、行政の福祉政策を変えていくこ とが課題であると述べて結びとしている。 高齢者の孤立化の社会的原因の解明とその克 服事例研究を行い、現代的課題の究明に迫った 優れた論文である。 3 2014 年度 卒業論文要旨 現代スポーツに潜むナショナリズム HS23-0065D 江尻 生産手段の民主化とゲームのこれから 千草 HS23-0084J 現代スポーツはメディアや政治、産業などあら ゆる面から影響を受けている。今回、マスメディ アと関わり合いながら現代スポーツが持つ社会影 響力の中からナショナリズムの視点に立って、そ の関連性と、現代スポーツの今後の行方について 考えた論文である。現代スポーツを考える上でま ず重要なキーワードとしてメディアがある。メデ ィアは受け手に興味を引く話題を盛り込みつつ、 個人や社会に対して価値観を絶えず補強・再生産 しているのである。そして、それはナショナルな 「らしさ」等を強調するものであり、メディアの 報道指向が、以下に忠実に実体を描きだすのでは なく、以下に忠実に「それらしさ」を人々に感じ させる仕方で表象するかにシフトしてしまってい る。そして、もう一つの問題点として、現代スポ ーツの国際競技大会は、国家を単位としランキン グを明確に測定、表示するシステムになっている。 したがって自国を意識するような要素がある。田 辺氏のナショナリズムの概念によれば、純化主 義・愛国主義・排外主義と三つに分け、その関連 を見たとき、純化主義が愛国主義そして排外主義 に結びつきやすいことが分かっている。現代スポ ーツのメディア報道や、競技システムによって、 日本人だと思うことが結果、それは行き過ぎた愛 国主義や排外主義につながってしまう可能性があ る。三章では実際に私たちが現代スポーツからナ ショナリズムを意識するのかを調査してみた。部 分的に日本人を意識するようなところも見られた が、それが、結果的に行き過ぎた負のナショナリ ズムの側面につながるかどうかは断定できなかっ た。スポーツには万国共通の「スポーツの健全性」 が存在すると考える。そして、 「スポーツの健全性」 を脅かすような要因に無関心になってはならない。 また、社会の中で「スポーツだけが特別ではない」 という認識を広く共有することが大切なのである。 4 佐久間 愛美 ゲームには様々な種類のものがあるが、スマー トフォンが普及した現在において、一番消費者の 身近な存在となっているのはアプリケーションゲ ームであるといえる。そのアプリケーションゲー ムを利用する中で、一般企業に混じって個人名で ゲームがリリースされている事を目にしたことが ないだろうか。この事から、個人にもモノを作る 手段が行き渡っている(生産手段の民主化)が、 ゲーム業界において進んでいるのではないかと仮 説を立てた。インタビューを実施し、大手企業や 中小企業、個人といった異なる形でゲーム制作に 携わった経験のある 4 名の方にお話を伺った。ど の方もスマートフォンアプリケーションゲームに は今後も広く展開されていくという考えであった。 生産手段の民主化について伺うと、大手の方はコ ンシューマゲーム(いわゆるテレビゲームの事) においては、個人制作者の新規参入してくる余地 がない事、しかしアプリケーションゲームにおい ては、個人でも参入しやすい環境があるというお 答えだった。その他の中小企業、個人制作の方も コンシューマゲームの時代は一度終わるかもとい う意見があり、やはり今後もアプリケーションゲ ームの勢いは増していくとおっしゃる方が多かっ た。また、 「Unity」というゲーム開発のツールも あり、無料でハイクオリティなゲームを制作する 事も可能になっている。また、インタビュー実施 者の中には、F2P という基本プレイ無料のゲーム プレイのスタイルを問題視する意見を出した方も いらっしゃり、今後の課題としては「ゲーム=無 料でできる」というライトユーザーの考えを払拭 する事なのかもしれない。また、国内だけではな く海外展開も前提にゲーム制作を行う事、個人の 面白いアイディアを大手企業が受け入れる事も必 要かもしれない。 川上ゼミ 消えゆく雀荘 都市観光の魅力と今後の展望 ―東京スカイツリーと周辺地域の一事例研究― HS22-0148F 両角 賢人 HS23-0052C 私は消え行く雀荘について書いた。現代の日本 社会においてギャンブルの種類は多岐にわたるが、 麻雀に焦点をあて、雀荘が減少している要因を言 及していく。雀荘の減少に伴い麻雀人口の推移は どのようになっているのか。本章では、麻雀の歴 史・到来・ブームという観点から麻雀を理解し、 本題である雀荘の減少について述べている。 また、 世界の麻雀文化などにも触れていく。1章で問題 の所在と研究目的を述べ、2章から本格的に麻雀 について触れていく。麻雀の歴史やルールについ ては、 『麻雀概史』を参照した。3章から、麻雀ブ ームや日本初の雀荘誕生に携わった平山三郎など も紹介していく。4章から雀荘が減少した要因を 明らかにしてく。雀荘減少の原因の一つが、オン ライン麻雀の誕生である。1990年代末から家 庭用コンピューターやゲームセンターで気軽に麻 雀を楽しめるようになった。その為、わざわざ雀 荘に足を運ぶ必要は少なくなった。オンライン麻 雀の利点として、他人の都合を気にする事無く、 自分の好きなときに好きなだけインターネットを 通じ人間相手に麻雀を打つ事が出来る事だ。もう 一つの要因が娯楽・ギャンブルの多様化である。 この娯楽・ギャンブルの多様化が麻雀人口低下の 一番の原因であり、新しい娯楽は次々と誕生して いく為、麻雀に余暇の限られた時間を費やす人々 を獲得していくのは年々難しくなっている。麻雀 人口が減少していて、麻雀をやるひとでもオンラ イン麻雀をする人の割合も多く雀荘に行かなくな った為、年々雀荘が消えていく。5章からは他国 の麻雀文化について述べていく。私の留学経験の 中で、台湾麻雀に触れる機会があり興味を持った ので、台湾の友人に協力してもらいアンケート調 査を実施した。台湾と日本の麻雀を比較しつつ、 ギャンブル事情についても考察した。アンケート 調査により日本と台湾は同じアジアだが麻雀やギ ャンブル事情については、異なる点が多かった。 5 山田 美紗季 本論文は、観光地としてあまり馴染みのない 「都 市」が近年なぜ観光地として普及しつつあるのか、 観光という視点から見た都市にはどのような魅力 があるのだろうかという問題提起の下、日本でも 有数の近代的な建造物である“東京スカイツリー” を有する墨田区と、古き良き東京の歴史や風情を 今なお残し続けている周辺地域(主に浅草)を事例 とし、二つの地域を比較しながらフィールドワー クや墨田区観光協会・浅草観光連盟への聞き取り 調査等を行い都市観光の現状を明確にした上で都 市観光の魅力や課題、今後の展望について研究、 考察した論文である。 第1章ははじめにと題し問題提起やテーマを設 定した背景を明らかにし、第2章では観光の定義、 更に観光の中の一つのカテゴリーであり本論文の テーマでもある都市観光の定義を明らかにした。 第3章では日本を代表する都市・東京が観光地 として人々にどういった認識を持たれているのか を表を用いて考察した。また、本論文で事例とし て挙げた東京スカイツリーと浅草の歴史やフィー ルドワーク・観光協会(連盟)への聞き取り調査の 結果を明らかにした上でそれぞれの地域について 考察し二つの地域の観光地としての現状を明らか にした。 第4章では第3章で考察し明らかにした二つの 地域の特色や聞き取り調査の結果から都市観光の 「現代性と伝統性の融合」という魅力を述べた一 方、景観問題や東京五輪に向けた地域全体の発展 や舟運事業等の地域特有の課題を明らかにし都市 観光の今後の発展について考察した。 2014 年度 卒業論文要旨 そ、より良い地域、セーフティネットを構築して いくために行政や自治体だけでなく、住民一人一 人が高齢者問題を他人事と考えずに、誰の身にも おこりうることとして自分や家族、ひいては隣人 や地域に目を向けることのできる視野をもつこと がまず重要であり、課題でもある。 高齢者の社会的孤立の生じにくい社会へ ―コミュニティケアを軸に考察するー HS23-0104B 渡邉 瑠璃子 1970年代に高齢化社会へと足を進めた日本 はいまや世界トップクラスの高齢大国となった。 こうした高齢社会の中で社会福祉サービスの必要 性もおのずと増し、高齢者ケアが社会的ニーズと して顕在化した。都市部のみならず、地方の高齢 者ケアの重要性も見直される一方、1970年代 後半から単身高齢者の孤独死や孤立問題が浮き彫 りになるようになった。従来家規範の強かった日 本では戦前、老後の生活において家長の地位や財 産を後継者に譲り余生を過ごす楽隠居や子や孫と 暮らす三世代同居が望ましいとされ、美徳とされ ていたが、こうした老後イメージは、高齢化に伴 う家の在り方の変化とともに大きく変容し、近代 化が進み人間関係が既存の社会的規範や環境条件 により拘束されなくなり同時に人間関係の維持や 構築において自由になった結果、自立志向のある 高齢者が増えた。 しかし、こうした自由の獲得はそれゆえのリス クを内包し、人々の不安、孤立へとつながり、無 縁社会を構築する条件の一つとして浮き彫りにな る。生活の不安定さと共に頼れる人がいない高齢 者にとって、コミュニティが大きな役割を果たす と考えるが、地域関係においても町内会、自治会 の加入状況は、活動に参加していない人が半数以 上を占めており、意欲が高いとは言い難い。近所 づきあいにおいても年々挨拶程度で相談・助け合 いといった割合は減少している。高齢者の孤立を 防ぐには、高齢者が外部にネットワークを構築で きる場を設けることが必要であり、そのためには 地域のサポートが重要なカギとなる。子どもと同 居していない高齢者にとって、日常的な相互関係 を持つ近隣ネットワーク、不足時の緊急ネットワ ークという存在が肉体的にも精神的にも安心とゆ とりを与える。日本全国各地では地域福祉協議会 や NPO 住民の協力のもと、住民参加型の福祉活 動が行われている。 家族や地域との連携が薄れている現在だからこ 6
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