ニュージーランドの 乳製品生産・輸出動向 平成26年7月25日 独立行政法人農畜産業振興機構 調査情報部 根本 悠 本日の内容 1 ニュージーランド(NZ)の酪農の概要 2 NZの生乳生産動向 ~依然続く増加傾向~ 3 乳製品国際価格の動向 ~高騰から一転、下落へ~ 4 NZの乳製品輸出動向 ~中国向け輸出の急増~ 5 まとめ 2 1 ニュージーランド(NZ)の 酪農の概要 3 (1)NZの酪農の特徴① 放牧主体の低コスト酪農 「季節搾乳」~春から夏に集中的に生産 国内市場が小さく、大半が輸出向け 乳量よりも乳固形分を重視 乳価は乳製品の国際価格に連動 4 (2)NZの酪農の特徴②―日本との比較 日本 NZ 2002/03年度 2012/13年度 増減率 (%) 2003年度 2013年度 増減率 (%) 酪農家戸数 13,140 11,891 ▲ 9.5 28,800 18,600 ▲ 35.4 経産牛飼養頭数 3,741 4,784 27.9 1,088 893 ▲ 17.9 285 402 41.1 59 75 27.1 13,906 18,883 35.8 8,405 7,447 ▲ 11.4 3,718 3,947 6.2 7,725 8,154 5.6 (戸) (千頭) 1戸当たり飼養頭数 (頭) 生乳生産量 (千キロリットル、 千トン) 1頭当たり乳量 (リットル、 キログラム) 資料:農林水産省、Dairy NZ資料より機構作成 注1:NZの年度は6月~翌5月、日本は4月~翌3月 注2:生乳生産量、1頭当たり乳量の単位は、NZはリットル、日本はトン・キログラム 5 (3)NZの酪農と日本との関係 日本にとって豪州と並ぶ乳製品の輸入先 日本の国別乳製品輸入量(2013年) (単位:千トン) 乳製品全体 ナチュラルチーズ その他 豪州 39.6 116.5 その他 (24%) 196.3 (41%) (17%) 米国 94.4 29.9 NZ 103.6 米国 (22%) 59.8 (13%) 豪州 (42%) (13%) NZ 63.2 (28%) 6 資料:農林水産省「農林水産物輸出入概況」 (4)NZの主要酪農地帯 最大の酪農地帯は北島ワイカト地方 ただし、土地の制約により、今後の増産は限定的 近年は南島カンタベリー地方の生産が急拡大 かんがいの整備による大規模経営 南島の飼養規模(約600頭)は北島の2倍近く NZの酪農地帯 NZの酪農に関する北島と南島の比較 酪農家戸数 8,912 (戸) 2,979 北島 経産牛 飼養頭数 南島 2,955 1,829 967 691 (千頭) 生乳生産量 (千トン) 0% 20% 40% 60% 資料:LIC、Dairy NZ 注1:2012/2013年度(6月~翌5月) 注2:生乳生産量は乳固形分ベース 80% 100% 資料:NZ一次産業省資料 より機構作成 7 2 NZの生乳生産動向 8 (1)酪農家戸数、頭数の推移 酪農家戸数は、07/08年度以降、減少傾向から横ばいに 経産牛飼養頭数は、他部門(肉牛、羊)からの転換と、 大規模化の進展により増加傾向 NZの酪農家戸数などの推移 07/08年度に減少傾向が 止まり、横ばいに 酪農家戸数(戸) 20,000 1戸当たり経産牛飼養頭数 17,500 500 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 経産牛飼養頭数 15,000 12,500 10,000 7,500 酪農家戸数 5,000 2,500 0 00/01 03/04 06/07 経産牛飼養頭数(万頭) 1戸当たり飼養頭数(頭) 09/10 12/13 (年度) 9 資料:LIC, Dairy NZ 注:年度は6月~翌5月 (2)生乳生産量の推移 1頭当たり乳量は、12/13年度は干ばつにより減少するも、 07/08年度以降、増加基調 生乳生産量は、07/08年度以降、飼養頭数の増加に伴い、増加 幅が拡大。12/13年度は、干ばつにより減少するも、13/14年 度には急回復 NZの生乳生産量などの推移 生乳生産量 (千キロリットル) 干ばつによる減少と急回復 25,000 1頭当たり乳量 (リットル) 4,200 1頭当たり乳量 3,700 20,000 3,200 15,000 2,700 10,000 生乳生産量 2,200 5,000 1,700 0 1,200 00/01 03/04 06/07 09/10 12/13 (年度) 資料:LIC、 Dairy NZ、DCANZ 注1:年度は6月~翌5月 注2:2013/14年度の生乳生産量は、DCANZによる速報値(重量ベース) を1kg=0.97リットルとして換算した推定値 10 (3)生乳生産増加の要因① <記録的な高乳価> 2006/07年度まで:低コスト酪農に見合った低い乳価 2007/08年度以降:変動は大きいものの、乳製品国際価格の高騰を受けて上昇基調 2013/14年度:乳製品国際価格が高騰し、過去最高の乳価 →酪農家の増産意欲が向上 2014/15年度(2014年7月現在):乳製品国際価格の下落により、低下 →過去の水準と比較すれば、依然として高水準 (NZドル/乳固形分1kg) 9.0 NZの乳価の推移 高騰 高騰 8.0 7.0 下落 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.0 00/01 02/03 04/05 06/07 08/09 10/11 12/13 14/15 (年度) 資料:Dairy NZ、NZ一次産業省、フォンテラ 注1:年度は6月~翌5月 注2:2013/14年度はNZ一次産業省の推定値、2014/15年度はフォンテラの初期乳価 11 (4)生乳生産増加の要因② <かんがいの整備> 南島において、かんがいの整備により、生乳生産が急増 将来的には南島の生産が北島を上回る見込み かんがいのためのコストは酪農家にとって大きな負担 NZの酪農家のかんがい費用の推移 (1経営体当たり) NZの大規模なかんがい設備 (NZドル) 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 00/01 02/03 04/05 06/07 08/09 10/11 12/13 (年度) 資料:Dairy NZ 注:年度は6月~翌5月 12 (5)生乳生産増加の要因③ <補助飼料の増加> 近年、乳価の上昇に合わせて、補助的な飼料の利用が増加 主な補助飼料は、トウモロコシ、小麦、大麦、そしてPKE PKE(Palm Kernel Effluent):搾油時のやしの実のかす マレーシアやインドネシアから輸入。近年、輸入量が急増 NZの酪農家の飼料費の推移 (1経営体当たり) PKE (千NZドル) 140 120 100 80 60 40 20 0 00/01 02/03 04/05 06/07 08/09 10/11 12/13 (年度) 13 資料:Dairy NZ 注:年度は6月~翌5月 (6)今後の見通しと課題① 当面の経産牛飼養頭数、生乳生産量は、高乳価から増加 傾向の見込み 特に南島における生産が拡大傾向。一方、北島の生産拡 大は限定的 NZの酪農の今後の見通し 経産牛飼養頭数 (百万頭) 生乳生産量 (乳固形分ベース) (千トン) 6.0 2,400 経産牛飼養頭数 5.5 生乳生産量 2,100 5.0 1,800 4.5 1,500 4.0 1,200 3.5 900 3.0 600 13/14 14/15 15/16 資料:NZ一次産業省 注1:2013/14年度は推計、2014/15年度以降は予測 注2:乳牛飼養頭数は各前年7月1日現在 注3:生乳生産量は6月~翌5月 16/17 17/18 (年度) 14 (7)今後の見通しと課題② 生乳生産増加の前提は、これまで同様の高乳価。一方、補助飼料など生産コスト の増加により、所得は2年連続減 「ハイインプット・ハイアウトプット」傾向のなか、安定的な収益の確保が課題 NZの酪農家における生産コストの推移 (1経営体当たり) (千NZドル) (千NZドル) 800 600 NZの酪農家における所得の推移 (1経営体当たり) 飼料費 雇用労働費 肥料費 修繕費 500 400 その他 300 400 200 200 100 0 0 04/05 06/07 08/09 10/11 12/13 04/05 06/07 10/11 12/13 (年度) (年度) 資料:Dairy NZ 注:年度は6月~翌5月 08/09 資料:Dairy NZ 注:年度は6月~翌5月 15 3 乳製品国際価格の動向 (乳価上昇の背景) 16 (1)乳製品国際価格-GDT GDTは、フォンテラ(後述)が主催する乳製品の電子入札市場 売り手は、フォンテラ、アーラフーズなど国際乳業メーカー 買い手は、世界各国の乳業、流通業など90カ国700以上の企業 主な品目は、全粉乳、脱脂粉乳。参加者数、売買数量は増加傾向 →乳製品国際価格の指標の一つに (千トン) GDTにおける応札参加者の 地域別割合(2013年) , 0, 0% GDTにおける乳製品売買数量の推移 (製品ベース) , 0, 0% 北米 1,200 中南米 1,000 8% (日本、韓国、 9% 800 中国) 中東 600 北アジア 26% 11% 400 200 東南アジア、 アフリカ 0 08/09 09/10 10/11 11/12 12/13 13/14 (年度) 資料:GDTデータより機構作成 注:年度は7月~翌6月 オセアニア 13% 20% 欧州 13% 資料:GDT 17 (2)GDTの価格推移 2013年2月頃から、主要輸出国(NZ、豪州、米国、EU) の生乳生産の減少、中国など新興国の需要の高まりが重 なり、記録的な高騰 2014年2月頃から、主要輸出国の生乳生産の増加、中国 の需要の緩和などから、急落 GDTの価格推移 (米ドル/トン) 5,500 5,000 脱脂粉乳 全粉乳 バター チーズ(チェダー) 4,500 高騰 4,000 3,500 3,000 急落 2,500 2,000 1,500 1,000 11.1 7 12.1 7 13.1 7 14.1 7 (年・月) 資料:GDT 18 4 NZの乳製品輸出動向 19 (1)乳製品輸出の概要 世界最大の乳製品輸出国 最大の輸出品目、全粉乳を中心に増加傾向 中国、米国、日本、豪州など世界各国に輸出 NZの乳製品国別輸出額 (2013年4月~2014年3月) NZの主な乳製品の輸出量の推移 (百万NZドル) (千トン) 3,000 2,500 チーズ バター 全粉乳 脱脂粉乳 EU 515 (3%) 2,000 3,259 豪州 中国 (19%) 686 1,500 その他 6,175 (36%) (4%) 171億5400万NZドル 日本 1,000 686 500 (4%) 米国 0 2005 2007 資料:Statistics NZ 2009 2011 2013 (年) 686 中東等 東南アジア 2,230 2,916 (13%) (17%) (4%) 資料:NZ一次産業省資料より機構作成 20 (2)フォンテラの概要 2001年、乳製品輸出の一元管理を行っていたNZデーリーボードと、 2大酪農協が合併して設立。巨大酪農協系乳業メーカー NZ全体の生乳生産の約9割を集乳し、世界各国に乳製品を輸出 組合員である酪農家は、フォンテラの株主 フォンテラは乳価と株式配当という形で、酪農家に利益を還元 21 (3)中国向け乳製品輸出の急増 2008年のNZ-中国FTA締結後、急激に乳製品輸出が増加。段階的に関税 が削減され、2019年にはすべて撤廃 中国の急激な経済成長による中間層の消費拡大が背景 最大の輸出品目は全粉乳。育児用粉ミルク、還元乳に利用 NZの全粉乳輸出の5割は中国向け(中国の全粉乳輸入の9割はNZ産) NZの全粉乳国別輸出割合 NZの主な乳製品の中国向け輸出量の推移 (千トン) 1,000 800 チーズ バター 全粉乳 脱脂粉乳 その他 600 中国 32% シンガ 48% ポール 400 3% 200 マレーシア 3% 0 2005 資料:Statistics NZ 2007 2009 2011 2013 スリランカ (年) 4% アラブ首長 ベネズエラ 国連邦 5% 6% 22 (4)フォンテラの中国における取り組み 育児用粉ミルクなど消費者向けの栄養関連製品が中心。 ホテル、レストラン、パン製造など食品関連企業向けの乳原料製品需要も増加 中国に酪農場を建設。2012/13年度には年間4800万NZドルを投資。 2014年初め、河北省に「ハブ農場」の建設を完了 乳牛1万5000頭、生乳生産量は15万キロリットル/年 山西省に「第2のハブ農場」の建設を発表。乳牛1万6000頭飼養予定 2020年までに生乳生産100万キロリットル/年(中国の生乳生産の約3%) 23 資料:フォンテラジャパン「 フォンテラの取組みと日本市場への期待」より転写 (5)今後の見通しと課題 中国の需要は粉乳を中心として、依然として堅調。中国向け輸出の急増が顕著 将来的には輸出先の多様化を実現できるかが課題。フォンテラは、中長期的には、 インド、東南アジア、中東・北アフリカへの輸出拡大に焦点。世界的に需要が供 給を上回ると予測 NZの乳製品輸出額の今後の見通し フォンテラによる2020年までの 世界の乳製品需給見通し (百万NZドル) 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 13/14 14/15 15/16 16/17 17/18 (年度) 資料:NZ一次産業省 注:年度は7月~翌6月 資料:フォンテラ 24 5 まとめ 25 5 まとめ~これまでの動向と直近の動向 2013年2月頃~2014年1月頃 主要輸出国の 生乳生産の減少 中国など新興国の 乳製品需要の増加 2014年2月頃~ 主要輸出国の 生乳生産の増加 中国など新興国の 乳製品需要の緩和 乳製品国際価格の高騰 乳製品国際価格の下落 乳価の上昇 補助飼料の 投入増加 かんがい設備への 投資 それでも堅調な新興国需要 高い乳価の継続 生乳生産の増加 気象条件 の回復 乳製品輸出の増加 26 5 まとめ~今後の見通し 好調な乳価に下支えされた酪農家の生産意欲の高まりに より、生乳生産は、当面、増加見込み 一方、生産コストの増加トレンドは、高乳価を前提とし たものであり、最近の乳製品国際価格の下落は懸念事項 乳製品輸出は、生乳生産の増加と中国など新興国の需要 により、堅調に推移する見込み 中国への過度な依存から、NZの酪農乳業は輸出先の多様 化に焦点 今後の見通しは、乳製品の国際価格と、中国など新興国 の需要動向次第としつつも、NZの酪農乳業界は楽観的な 見通し 27 ご清聴ありがとうございました。 本情報は、情報提供を目的とするものであり、取引・投資判断 の基礎とすることを目的としていません。本資料の正確性の確 認等は、各個人の責任と判断でお願いします。提供した情報の 利用に関連して、万一、不利益が被る事態が生じたとしても、 ALICは一切の責任を負いません。 28
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