耐性菌を作らない 新たなMRSA感染治療法 小澤俊幸、森本訓行、鶴田大輔 大阪市立大学大学院医学研究科 皮膚病態学 1 光線力学療法(PDT) • PDTは光感受性物質に、ある特定の波長の光を照 射することにより、細胞内に活性酸素を発生させ、 選択的に腫瘍細胞を死滅させる治療法です。 • 現在、皮膚癌、子宮頸癌、肺癌、脳腫瘍などで臨床 応用されている。 • PDTは抗腫瘍作用の他に殺菌作用も有しており、 耐性菌を生じないとされている。 Photodynamic Therapy (PDT) 光 光感受性物質 取り込まれる 酸素 光感受性物質 活性酸素、1O2 細胞膜の破壊 DNA DNAの破壊 3 5-アミノレブリン酸 (5-ALA) のPDT 光 5-ALA ポルフィリン代謝 酸素 PpⅨ 活性酸素、1O2 細胞膜の破壊 DNA DNAの破壊 PpⅨ:プロトポルフィリンⅨ 4 5-aminolevulinic acid (5-ALA) Porphobilinogen Hydroxymethylbilane Uoporphyrinogen Ⅰ(UPⅠ) Uoporphyrinogen Ⅲ (UPⅢ) Coproporphyrinogen Ⅰ(CPⅠ) Coproporphyrinogen Ⅲ (CPⅢ) Heme D1 Protoporphyrinogen Ⅸ Protoporphyrin Ⅸ (PpⅨ) Protoheme Ⅸ (Heme B) Heme C Heme D Heme O 5-アミノレブリン酸 (5-ALA) のPDT 光 5-ALA ポルフィリン代謝 酸素 PpⅨ 活性酸素、1O2 細胞膜の破壊 DNA DNAの破壊 PpⅨ:プロトポルフィリンⅨ 6 5-アミノレブリン酸の特徴 代謝経路が100%解明されているアミノ酸 健康食品にも添加されている アラグリオ®内用剤として2013年3月承認 7 プロトポルフィリンⅨ (PpⅨ)の吸収スペクトル 410 青色410nm 635 8 光線力学療法(PDT) • PDTは光感受性物質に、ある特定の波長の光を照 射することにより、細胞内に活性酸素を発生させ、 選択的に腫瘍細胞を死滅させる治療法です。 • 現在、子宮頸癌、肺癌、脳腫瘍、皮膚癌などで臨床 応用されている。 • PDTは抗腫瘍作用の他に殺菌作用も有しており、 耐性菌を生じないとされている。 9 皮膚悪性腫瘍のPDT ボーエン病 Dye laser photodynamic therapy for Bowen's disease in a patient with epidermodysplasia verruciformis. Osaka City Med J. Ozawa et al.2012 Dec;58(2):77- 光線力学療法(PDT) • PDTは光感受性物質に、ある特定の波長の光を照 射することにより、細胞内に活性酸素を発生させ、 選択的に腫瘍細胞を死滅させる治療法です。 • 現在、子宮頸癌、肺癌、脳腫瘍、皮膚癌などで臨床 応用されている。 • PDTは抗腫瘍作用の他に殺菌作用も有しており、 耐性菌を生じないとされている。 11 全身熱傷などは感染のコン トロールが出来なければ 致死的となる。 特に多剤耐性菌が問題 になる。 12 院内感染対策サーベイランス JANIS • 平成19年4月に施行された改正医療法により、すべての医療 機関において管理者の責任の下で院内感染対策のための 体制の確保が義務化 • 院内感染対策サーベイランス(JANIS)は、参加医療機関にお ける院内感染の発生状況や、薬剤耐性菌の分離状況および 薬剤耐性菌による感染症の発生状況を調査し、我が国の院 内感染の概況を把握し医療現場への院内感染対策に有用 な情報の還元等を行うことを目的する。 http://www.nih-janis.jp/about/ より引用 13 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 MRSA • 抗生物質メチシリンに対する薬剤耐性を獲得した黄 色ブドウ球菌 • 実際は他の多くの抗生物質に対して耐性を持つ • 多剤耐性菌の代表 14 目的 光感受性物質として5-アミノレブリン酸を、 光源として410 nmのLEDを用い、 MRSAに対するPDTの殺菌効果について in vitro、in vivo において検討する。 15 in vitro 16 検証事項 (in vitro) MRSAに対するPDTの条件 ・殺菌効果の程度 ・5-アミノレブリン酸の濃度 ・照射出力 17 MRSAに対するPDTの条件 方法 ・ MRSA(ATCC 33591)を液体培地に入れ、37℃で24時間培養。 ・ 培養したMRSAの菌量を108 CFU/mlに調整。 ・ 5-アミノレブリン酸1〜50 mg/ml(0.1〜5 %)に希釈し菌液に添加。 ・ 4時間後に青色LED(波長410 nm)を5, 20, 50 J/cm2で照射。 ・ CFUを測定。 ALA濃度、照射出力を検討 18 生菌数を測定 19 MRSAに対するPDT (5-ALA濃度、照射出力との関係) 5-ALA接触4時間 1×109 除菌率99.999 % 1.00E+09 細菌数 (CFU/ml ) 1.00E+08 1×108 1.00E+07 1×107 1.00E+06 1×106 1.00E+05 1×105 ALA 25mg/ml 1.00E+04 1×104 ALA 5mg/ml ALA 2.5mg/ml 1.00E+03 1×103 ALA 0.5mg/ml 1.00E+02 1×102 1.00E+01 1×101 1.00E+00 0 0 10 20 30 40 照射出力 (J/cm2 ) 50 60 n=3 MRSAに対するPDT (in vitro) 今回のMRSAに 臨床における悪性腫瘍に 対するALA-PDT(in vitro) 対するALA-PDT ALA濃度 0.25 % 20 % 照射出 力 細胞毒 性 50 J/cm2 50〜150 J/cm2 なし なし in vitroで波長410 nmのALA-PDTは効果的 臨床応用へ向けin vivoで検証 21 in vivo 22 検証事項 (in vivo) ① MRSA感染皮膚潰瘍モデルの作成 ② 5-ALAの投与経路 ③ PDTのマウスMRSA感染皮膚潰瘍モデルへの効果 ④ バンコマイシン投与との比較 ⑤ 創部の菌量の比較 23 ① マウスMRSA感染皮膚潰瘍モデル ・ 成熟雄糖尿病マウス(C57BL/ksj db/db 8〜10週齢)。 ・ 背部に直径6mmの全層皮膚欠損創を作成。 ・ 創面に1×1010 CFUのMRSAを接菌。 24 創の経過 正常潰瘍 MRSA感染モデル Day 1 Day 4 Day 7 Day 10 Day 13 25 創面積縮小率(MRSA感染モデル) 140 正常潰瘍 創面積 (% of original size) 120 MRSA感染群 100 80 60 40 20 0 0 5 10 15 PDT後の日数 26 ② 5-アミノレブリン酸の投与経路 LED 従来は塗布 MRSA 創面 毛細血管 5-ALAの局所投与 5-ALA PpⅨ 27 ② 5-アミノレブリン酸の投与経路 LED 全身投与 MRSA 創面 毛細血管 5-ALAを腹腔内投与 5-ALA PpⅨ 28 腹腔内投与によるPpⅨの蓄積 MRSA塗布48時間後、腹腔内に5-ALA 200 mg/Kgを投与し24時間後 ウッド灯を照射 創面塗抹標本の共焦点レーザー顕微鏡画像 (405 Diode, UV. Emission bandwidth : 620 nm – 650 nm). 29 ③ PDTの創傷治癒への影響 ・マウスMRSA感染皮膚潰瘍モデル作成48時間 後、腹腔内にALA 50 mg/Kg、 200 mg/Kg投与。 ・24時間後、創面に波長410 nmのLEDを10、50 J/cm2で照射。 ・再度ALAを投与し、24時間後にLEDを照射。 30 創の経過 正常潰瘍 MRSA感染モデル PDT群 (5-ALA200mg/Kg LED 50J/cm2) Day 1 Day 4 Day 7 Day 10 Day 13 31 創面積縮小率 5-ALA 200 mg/Kg腹腔内投与 140 LED未照射群 創面積(% of original size) 120 2 10 J/cm2照射群 100 2 50 J/cm2照射群 80 60 40 20 0 0 5 10 PDT後の日数 15 n=5 32 創面積縮小率 5-ALA 200 mg/Kg腹腔内投与 140 MRSA感染群 120 創面積(% of original size) 正常潰瘍 LED未照射群 100 2 10 J/cm2照射群 2 50 J/cm2照射群 80 60 40 20 0 0 5 10 PDT後の日数 15 n=5 ④ バンコマイシン (VCM) の効果 マウスMRSA感染皮膚潰瘍モデルに VCM(110mg/Kg)を1日2回皮下注射。 34 創の経過(VCM投与群との比較) 正常潰瘍 MRSA感染モデル VCM投与群 PDT群 (5-ALA200mg/Kg LED 50J/cm2) Day 1 Day 4 Day 7 Day 10 Day3513 創面積縮小率(PDT vs VCM) 正常潰瘍 140 MRSA感染群 創面積 (% of original size) 120 PDT治療群 バンコマイシン治療群 100 80 60 40 20 0 0 5 10 PDT後の日数 15 n=5 36 創部の菌量の比較 * 1.00E+09 創部の菌量(CFU/cm2 ) 1×109 1.00E+08 1×108 1.00E+07 1×107 1.00E+06 1.00E+05 1×106 1×105 *P<0.01 37 まとめ ・5-ALAを用いたMRSAに対するPDTは充分な殺 菌効果があった。 ・5-ALAを腹腔内投与し、青色410nmLEDを照射 するPDTは、MRSA感染皮膚潰瘍の創傷治癒を促 進させた。 ・5-ALAを用いたPDTは、MRSAによる創部感染に 対して耐性菌を生じない、新たな治療法となる 可能性があると考える。 38 今後の展望 ・広範囲熱傷患者への感染成立前の予防的治療 ・他菌種への応用 ・他臓器への応用 ・真菌への応用 39 ありがとうございました。 40
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