水素輸送容器等に使用する金属の鋼種拡大 (一般財団法人石油エネルギー技術センター 自動車・新燃料部) 小林 拡、相川芳明、福本 紀、○山村俊行 1.研究開発の目的 70MPa 水素ステーションの普及に際し、安全かつ安価な金属材料を見出すことが喫緊 の課題となっている。安全のために耐水素特性に優れた高強度の金属材料を見出すこと が求められる一方、普及促進のためには同時に低コスト化を図ることが重要となる。 このために平成 23,24 年度にて、SUS316 系を主とする高 Ni のオーステナイト系材料に ついて材料評価試験を実施し、安全な使用可能範囲の確認、例示基準化を図った。 平成 24 年度までに例示基準化、及び確認された使用可能範囲を図 1.1 に示す。 常用圧力(MPa) 例示基準(高圧ガス保安法一般高圧ガス保安規則例示基準) 115 85 70 Ni 当量 ≧27.4% 金属材料評価範囲 Ni 当量 ≧26.3% Ni 当量 ≧28.5% 例示基準範囲 -40 -10 20 85 120 250 温度(℃) 図 1.1 例示基準範囲及び確認された使用可能範囲 本事業では、引き続いて金属材料の鋼種拡大を推進し、水素ステーション普及に寄与 することを目的としている。 2.研究開発の実施体制 水素ステーション用金属材料の鋼種拡大に関する研究は、平成 25 年度~平成 29 年度 の NEDO 事業「水素利用技術研究開発」の一環として実施されているものであり、高圧 ガス保安協会、九州大学 その他関係機関と連携して進められている。図 2.1 に研究開発 実施体制を示す。 鉄鋼業界をはじめ、各業界や団体との連携を密に行える体制となったことで、オール ジャパンの体制確立ができたと考えている。 ★オールジャパン NEDO 委託 鋼種拡大 石油エネルギー技術センター プロジェクト リーダー 九州大学 高圧ガス保安協会 ステアリング委員会 の体制確⽴ データベース検討会 再委託 鋼種拡大連携会議 材料基準分科会 産業技術総合研究所 物質・材料研究機構 連携 連携 N E D O 他 事 業 インフラ、他関連業界 水素ステーション事業者 ステーション機器メーカ 複合容器 複合容器分科会 エンジニアリングメーカ 鋼種拡大等 地域水素供給 ・JRCM(鉄鋼業界) インフラ技術・社会実証 (HySUT)等 ・JARI(自動車業界) 図 2.1 研究開発実施体制 3.研究内容 3-1 取り組みの基本的な考え方 (1)ニーズの整理 取り組み開始にあたり、鋼種拡大のニーズ調査を水素関連企業等へ行った。 その結果、SUS316 系 Ni 当量品に代表される水素の影響がほとんどない材料について は、温度、圧力領域のより広い範囲での例示基準化ニーズが高いことがわかった。また 水素の影響がある材料についても汎用ステンレス鋼、クロモリ鋼に代表される低合金鋼 のニーズが高いことがわかった。低圧領域では使用実績のある銅合金材料などのニーズ も上がった。 ニーズ調査・検討の結果、鋼種拡大の進め方を、【範囲の拡大】と【種類の拡大】とに 便宜的に分類した。 【範囲の拡大】とは、SUS316 系 Ni 当量品の鋼種について、より高い 圧力、広い温度範囲で使えるようにすることである。【種類の拡大】とは、よりマイルド な温度・圧力条件にて、通常市販されている汎用品が使えるようにすることである。 以上の考え方に基づき研究のスケジュール化を行い、【範囲の拡大】で SUS316 系 Ni 当量品、SUH660 について、事業開始時の例示基準化範囲をより拡大することを最優先と し、その後、高強度材料である XM-19 の材料試験に取り掛かることとした。また【種類 の拡大】ではまず銅合金系のバルブを使用可能とするための例示基準化を目指した。そ の後コスト低減効果が期待されるクロモリ鋼の調査・検討に取り掛かることとした。 スケジュール概要を表 3.1 に示す。 表 3.1 スケジュール概要 年度 H25 (実績) H26 【範囲の拡大】 H27 H28 目標 基 準 化 ①SUS316系(Ni当量品) (高温領域) ③XM-19 ④追加予定材料 ②低合金鋼(クロモリ鋼) 基 準 化 中 間評 価 ①銅合金 ・調査 ・SCM435 技 術 基 準 の 整 備 に資 す る 資 料 ②SUH660 【種類の拡大】 H29 ・SNCM439 他 ③汎用ステンレス鋼 ④追加予定材料 (2)鋼材試験の標準化 研究に先立って、鋼材試験の標準化を行った。 標準化の一つ目は標準鋼材の使用である。市場に流通している鋼材は、使用目的に応 じて何らかの成分が付加されていて、必ずしも標準品とは言えない場合が多い。そこで、 鉄鋼メーカの協力を得て、新たに鋳込んだ標準材料を試験材として使用した。研究体制 をオールジャパンの体制とした好循環がこの面にも現れている。 二つ目は表面加工度の標準化である。引張り試験では、試験片の表面加工度が特性に 影響することが分かるようになり、表面加工度を厳密に規定して試験片を製作すること とした。 3-2 H25 年度の取り組み (1) 範囲の拡大 まず SUS316 系 Ni 当量品では、例示基準の適用範囲を拡大することが求められた。 具体的には、プレクーラ設置条件のために-40℃~-10℃で 82MPa までの範囲拡大、併 せて圧縮機関連機器設置条件のために 85℃~250℃の範囲での拡大である。 拡大された例示基準の範囲を図 3.1 に示す。 さらに、SUS316 系 Ni 当量品ではプレクーラ運転条件拡張のために-45℃で 106MPa の 測定、SUH660 では充填ノズル等の運転条件拡張のために-45℃~50℃での測定を九州大 学にて実施した。これらのデータは現時点では例示基準化には至っていないが、今後引 き続いて基準化の実現を目指していく予定である。 併せて高強度鋼 XM-19 について材料試験を開始した。 図 3.1 例示基準範囲の拡大 (2) 種類の拡大 【種類の拡大】を検討するにあたり、各種金属材料は水素影響の程度(SUS316 系では Ni 当量に相当)と引張り強さを尺度にして、図 3.2 のように位置付けられる。 まずニーズが高い銅合金材料バルブの基準化に取り組んだ。 元々、銅系材料は水素影響がほとんどないことはよく知られていたが、多くのユーザの 使用実績を調査しても 30 年以上の実績がたくさんあり、各種文献調査や材料試験結果で もニーズが上がっている範囲では全く問題なく使用できることが立証された。これらの検 討結果に基づき、-40℃~100℃、25MPa 以下の条件で銅合金材料の例示基準化を達成した。 図 3.2 各種金属材料の位置付け 次にコスト低減効果が併せて見込まれるクロモリ鋼について検討した。 SUS316 系のような「水素影響がほとんどない場合」は、絞りを判断基準として例示基 準化することができたが、「水素影響がある場合」は、使用のための影響因子が多岐にわ たるため、一律には定めることが難しいのではないか考えられる。 そこで様々な材料データをデータベース化し、これを基盤として安全に使用するため のガイドラインを作成することが必要で、将来的には基準化を目指したいと考えている。 材料試験で得られる、疲労寿命、き裂進展、破壊靱性などの情報を、鋼種ごとに整理 して材料毎の詳細な機械的特性を整理すると共に、機械加工、検査時の注意点、そして 安全担保のための要件などをまとめた内容を考えている。 ガイダンスの構成(案)を図 3.3 に示す。 ◆ガイドライン構成(案) 1. 材料選定上の注意点 1) 破裂前漏洩の担保 2) 製造プロセス健全性 2. 材料の機械的特性 1) SSRT 2) 疲労特性 3) 疲労き裂進展特性 4) 破壊靭性 3. 機械加⼯上の注意点 1) 加⼯変質層 2) しわきず等 4. 検査上の注意点 1) 経年劣化評価指標 2) 適正な検査間隔と検査項⽬ 5. 性能要件 1) 安全担保に必要な試験項⽬ 低合⾦鋼は影響因⼦が 多岐にわたる ↓ ガイドライン整備 (例⽰基準化に向けたステップ) ・代表的特性・注意すべきポイ ントを記述 ・材料毎の機械的特性詳細は、 九⼤が構築するデータベース として⼀括管理 図 3.3 ガイダンスの構成(案) 4. 研究開発の成果 70MPa 水素ステーションの安全とコスト低減をめざした【鋼種拡大】は、 【範囲の拡大】 と【種類の拡大】を推進し、目的を達成しつつある。 具体的には【範囲の拡大】で、SUS316(Ni 当量品)、SUH660 について予定通り例示基 準化を進め、併せて高強度鋼 XM-19 について材料試験を開始した。 また【種類の拡大】では、銅合金系を例示基準化し、クロモリ鋼、汎用 SUS についてデ ータ調査、材料試験を開始した。 表 4.1 平成 25 年度事業成果のまとめ 鋼材 使用条件等 検討状況 基準化 範 SUS316(Ni当量品) -40℃~250℃ (済) 囲 -45℃~-40℃ 材料試験(済) 検討中 拡 SUH660 -40℃~常温 材料試験(済) 検討中 大 常温以上の高温度領域 材料試験検討中 - SUS316(Ni当量品)相当 材料試験実施中 - XM-19 種 銅合金系 -40℃~100℃、25MPa以下 (済) 類 クロモリ鋼 (全般) 拡 (SCM435) 大 汎用SUS 70MPa級蓄圧器 25MPa以下 例示基準 例示基準 データ調査開始 - 材料試験実施中 - データ調査開始 - 本事業の成果は、独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)からの業務 委託の結果得られたものである。 以上
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