強皮症の診断と治療 皮膚関連疾患 はじめに 早期診断 桑 名 正 隆 強 皮 症︵ ︶は皮膚お の診断では、的確な問診でレイノー現象 systemic sclerosis SSc SSc よび諸臓器の線維化、末梢循環障害、抗核抗体 を捉えることが大切である。なぜなら、2/3 産生の3主徴を同時に持つ結合組織疾患である。 以上でレイノー現象が初発症状であるからであ なるからである。そのため、病変に可逆性が残 すると組織構造が改変してしまい、非可逆性と 善が得られているが、 SSc は未だ難治性病態と して取り残されている。その理由は病変が進行 近年、多くの膠原病で機能および生命予後の改 で、早期・軽症例の取り込みに主眼を置いた新 てきたが、感度の低さが指摘されていた。そこ 委員会が提唱した分類予備基準が長く用いられ の可逆的な変化を呈する。 SSc の診断には、1 980年にアメリカリウマチ学会︵ACR︶の る。典型的には境界明瞭な白 紫 赤の3段階 ⇒ されている早期に、的確な治療介入をすること しい分類基準が、2013年にACRとヨーロ ⇒ で進行を未然に防ぐことが大切である。 ッパリウマチ学会︵EULAR︶共同で作成さ (253) CLINICIAN Ê15 NO. 636 113 ①2013ACR/EULAR による新 SSc 分類基準 以下のスコアリングに当てはめ、合計9以上であれば SSc に分類する。 ※皮膚硬化を有するが手指に皮膚硬化がない例、臨床所見を説明できる他疾患を有する例 には本基準を適用しない。 ドメイン 基準項目 ポイント 手指硬化が MCP 関節を越えて近位まで存在(近位皮膚硬化) 9 手指の皮膚硬化 (ポイントの高い方を採用) 手指腫脹(puffy fingers) MCP 関節より遠位に限局した皮膚硬化 2 4 指尖部所見 (ポイントの高い方を採用) 手指潰瘍 指尖陥凹性瘢痕 2 3 爪郭毛細血管異常 2 毛細血管拡張 2 肺動脈性肺高血圧症 間質性肺疾患 肺病変(いずれか陽性) 2 レイノー現象 3 抗セントロメア抗体 抗 Scl-70/ トポイソメラーゼⅠ抗体 抗 RNA ポリメラーゼⅢ抗体 SSc 関連自己抗体(いずれか陽性) CLINICIAN Ê15 NO. 636 れた︵表①︶ 。 節間︵MCP︶関節を越えて近位まで存在すれ 断に有用な爪郭毛細血管異常が加わった点であ ば単独で基準を満たす。注目すべきは、早期診 る。爪郭部の毛細血管ループの減少、残存する 血管の巨大化、分枝や蛇行した異常血管の新生 95 が特徴的で、皮膚硬化の出現に先行する。 SSc 診療においては、爪郭の観察のためダーモスコ ープの携帯が必須である。新基準は感度 %、 特異度 %と1980年基準に比べて格段に向 上している。現在、新分類基準が診療の場で診 断基準として活用できるかについて検証作業が 進められている。 病型分類 では個々の症例の経過は極めて多彩なた SSc 93 新基準では、好酸球性筋膜炎や腎性全身性線 維症などの SSc 類似疾患の除外を前提とする。 ポイント制を採用しており、皮膚硬化が中手指 (文献1より引用・改変) (254) 3 1) 114 中にみられる最も広い皮膚硬化範囲に基づく。 である。現在広く用いられている分類は、経過 も脱失はなく、手指屈曲拘縮、手根管症候群、 化の進展防止を目的とした疾患修飾療法の適応 な い 例 で は、 lcSSc 、 dcSSc 萎 縮 期、 dcSSc 早 期の鑑別が極めて重要である。なぜなら、線維 め、機能・生命予後に基づいた病型分類が必要 ︶に分類する。これら病型で、皮膚 SSc lcSSc 硬化の進展速度、臓器障害の種類と出現時期が 腱摩擦音を高率に伴うが、毛細血管拡張を欠く。 皮膚硬化のピークが肘あるいは膝を越えるか否 は、皮膚硬化の進行が予測される dcSSc 早期 かでびまん皮膚硬化型︵ に限られるからである。 diffuse cutaneous SSc ︶ 、 限 局 皮 膚 硬 化 型︵ limited cutaneous 早期は通常レイノー現象出現から3年 dcSSc dcSSc 以内で、浮腫性変化が強く、色素沈着があって 大きく異なる。 判断が難しい場合は2∼4週毎に慎重に経過観 では、発症後1∼2年間は皮膚硬化が dcSSc 急速に進行し、2∼5年後にピークに達するが、 察し、皮膚硬化の範囲が拡大するかを確認した ゼ、心筋障害によるうっ血性心不全︵収縮機能 上で判断すればよい。 その後はゆっくりと改善する。一方、 は lcSSc レイノー現象が数年から十数年先行し、皮膚硬 と の分類により、臓器障害の出 dcSSc lcSSc 化は軽度で変化に乏しく、ピークは明確でない。 現様式の予測が可能である。 dcSSc では、頻度 は少ないながらも皮膚硬化の進行期に腎クリー こ れ ら 病 型 は 移 行 し な い こ と が 前 提 で、 が長い罹病期間を経て萎縮期に入り、皮 dcSSc 膚硬化が改善しても 害が顕性化することが多い。一方、両病型とも と分類する。一方、 障害︶をきたす。消化管や肺の線維化は緩徐に dcSSc 進行し、皮膚硬化がピークに達する頃に機能障 でも発症早期には皮膚硬化が肘や膝を越 dcSSc えない。したがって、皮膚硬化が肘や膝を越え (255) CLINICIAN Ê15 NO. 636 115 ② SSc の病型による皮膚硬化の経過と臓器障害の出現時期 10 5 0 に血管病変が緩徐に進行し、 年以上の罹病期 患者の %程度をカバーできる。 SSc 関連 SSc 自己抗体は診断の補助としてだけでなく、病型 抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体、抗 Scl-70 セントロメア抗体、抗U1RNP抗体の4種で、 関連自己抗体は、抗トポイソメラーゼⅠ/ SSc 病型分類に役立つもうひとつの指標は、自己 抗体である。わが国の保険診療で測定可能な ︵図②︶ 。 心筋病変︵主に拡張機能障害︶が顕性化する 間を経て肺動脈性肺高血圧症、消化管機能障害、 10 胃食道逆流症に対するプロトンポンプ阻害薬、 逆的な病変に対する対症療法が基本となる。 に対する治療は、①疾患の自然経過を変 SSc えて進行を未然に防ぐ疾患修飾療法と、②非可 治療戦略 て有用である︵表③︶ 。 分類、将来起こりえる臓器障害の予測にも極め 70 116 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (256) 㛫㉁ᛶ⫵ᝈ ⫵ື⬦ᛶ⫵㧗⾑ᅽ䚸ᾘ⟶ኚ䚸ᚰ➽㞀ᐖ ⭈䜽䝸䞊䝊 ᚰ➽㞀ᐖ ⓶◳ 䠄⦰ᶵ⬟㞀ᐖ䠅 dcSSc lcSSc Ⓨ䛛䜙䛾ᮇ㛫䠄ᖺ䠅 (筆者作成) ③ SSc 特異自己抗体の陽性頻度と関連する病型、臓器障害 25% dcSSc 間質性肺疾患 皮膚潰瘍 抗 RNA ポリメラーゼⅢ抗体 5% dcSSc 腎クリーゼ 悪性腫瘍 抗セントロメア抗体 25% lcSSc 臓器病変は軽度で少ない 時に肺動脈性肺高血圧症 抗 U1RNP 抗体 10% lcSSc 肺動脈性肺高血圧症 他の膠原病の重複症状 抗トポイソメラーゼⅠ抗体 (抗 Scl-70抗体) 腎クリーゼに対するアンジオテンシン変換酵素 阻害薬、肺動脈性肺高血圧症に対する肺血管拡 張薬などが代表的な対症療法薬で、投与を始め たら長期の継続が必要である。 一方、線維化病変に対する疾患修飾療法が適 応となるのは、主に早期 dcSSc と間質性肺疾 患である。これまでステロイド、D ペニシラ 難である。 ながら全ての治療薬について有効性の判断が困 すべき dcSSc や間質性肺疾患の早期例が適切 に組み込まれてないことが最大の理由で、残念 れまで実施されてきた臨床試験で、本来対象と が、高いエビデンスを有する治療薬はない。こ キシマブなど︶などの有用性が検討されてきた ルセプト、アバタセプト、トシリズマブ、リツ スなど︶ 、イマチニブ、生物学的製剤︵エタネ アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリム ホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、 ミン、免疫抑制薬︵メトトレキサート、シクロ − (257) CLINICIAN Ê15 NO. 636 117 関連する病型 関連する臓器障害 陽性頻度 (筆者作成) 自己末梢血幹細胞移植で臓器不全の進展を抑 制する成績が示されているが、移植関連死が5 ∼ %でみられることから慎重に適応を判断す べきである。 虚血 再灌流による血管内皮障害が血管リモ デリングの促進因子として知られており、血管 や腎クリーゼのリスクを軽減することが報告さ 攣縮を抑制するカルシウム拮抗薬が、心筋障害 − れている。そのため、 SSc と診断したら、病型、 罹病期間にかかわらず、全例でカルシウム拮抗 薬を投与すべきである。 おわりに れ、適切な治療介入を受けることが、治療効果 ACR/EULARの新分類基準が定着すれ ば、 の早期診断が普及することは間違いな SSc い。その上で、 SSc 患者の多くが早期に発見さ の向上につながるものと期待される。 ︵日本医科大学大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授︶ 文献 van den Hoogan F, et al : 2013 classification criteria for systemic sclerosis :an American College of Rheumatology/European League against Rheumatism collaborative initiative. Arthritis Rheum, 65, 27372747 (2013) van Laar J, et al : Autologous hematopoietic stem cell transplantation vs intravenous pulse cyclophosphamide in diffuse cutaneous systemic sclerosis : a randomized clinical trial. JAMA, 311, 2490-2498 (2014) Allanore Y, et al : Prevalence and factors associated with left ventricular dysfunction in the EULAR Scleroderma Trial and Research group (EUSTAR) database of patients with systemic sclerosis. Ann Rheum Dis, 69, 218-221 (2010) 118 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (258) 3) 1) 2) 3) 2) 10
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