ASTE Vol.A21 (2013 年度) : Annual Report of RISE, Waseda Univ. 電気化学ナノテクノロジーの工学応用 研究代表者 逢坂 哲彌 (先進理工学部・応用化学科 教授) 1. 研 究 課 題 世界に先駆けて提唱し実践してきた「電気化学ナノテクノロジー」(電極/電解質界面設計と電 気化学反応制御による材料創製)を機軸として,界面反応場を原子・分子界面単一層から設計し, その複合的な機能を発現させるデバイスの構築を図るだけでなく,実用化につながる実践的デバイ ス開発研究を包括的に展開している.実践的な開発研究対象とする代表的デバイスとして,エネル ギーデバイス,センサ・医用デバイス,および磁性・電子デバイスを設定し,次世代型技術の提案 と理論的裏付けに基づく実用レベルへの応用展開を目指すものであり,産業界からのニーズが高い 分野を対象とした学術研究である.ここではその一端として,リチウムイオン電池の改良に向けて 高サイクル特性を有する新規負極材料提案と高機能金めっき膜の形成に関する生体安全性評価に 関する研究成果を報告する. 2. 主 な 研 究 成 果 2.1. リ チ ウ ム イ オ ン 電 池 向 け 新 規 負 極 材 料の提案 モバイル機器電源としての需要の拡大や電気 自動車の実用化の進展に伴い,リチウムイオ ン電池のさらなる高容量化が求められている. 従来,負極材料としては黒鉛系材料が用いら れているが,理論上数倍の高容量化が可能な スズ(Sn)系やシリコン(Si)系などの合金系材 料の研究開発が進められてきた.しかし,こ れらの合金系材料は,リチウム吸蔵時の大き な体積変化によって活物質が電極から剥離し やすく,サイクル特性の劣化が激しいといっ た問題点がある.そこで我々は,電解析出法 を用いて活物質である Si と応力緩和層とし ての有機相が混在した Si-O-C 複合負極の作 製を取り組む中で,本検討では,同様の手法 を用いて Sn-O-C 複合負極の作製を試みた. 有機溶媒中で電解析出を行った Sn-O-C 複 Fig. 1. (a) Cross-sectional TEM image of the as- 合負極は,Si-O-C 複合負極と同様,無機物と prepared Sn-O-C composite material. (b) HR-TEM 有機物の複合体であり,Fig.1 の断面 TEM 像 images of part 1 in (a). (c) FFT image of point 2 in (a), に示すように単結晶β-Sn 含む多結晶とそれ and (d) SAED pattern of area 3 in (a). ASTE Vol.A21 (2013 年度) : Annual Report of RISE, Waseda Univ. を囲む有機溶媒の分解生成物由来のアモルファス相から成ることを確認した. 2.2. 高 い 摩 耗 性 を 発 現 す る 金 め っ き 接 点 材 料 コネクター等の電子接点材料には,優れた電気伝導性,耐食性,耐摩耗性が要求され,主に硬質 金(Au)めっきが産業界にて実用化されてきた.その膜の高硬度化方策として,膜組成制御に加え, いわゆる Hall-Petch の実験式に従う,膜構成結晶粒子の微細化が有効であることが知られている. 硬質 Au めっきにおいては,Au 結晶格子への Ni やコバルト(Co)の固溶によって,結晶粒径が軟質 Au めっき(純度>99%)の 1µm から 20 ~ 30 nm まで微細化されることで,ヌープ硬度 Hk = 180 ~ 200 kg mm-2 の高硬度の実現が考えられている.今までに,粒径微細化による高硬度化の観点から直 流電流めっき法を用いたところ,透過型電子顕微鏡(TEM)観察で 1nm 以下の結晶粒径であり,X 線回折分析(XRD)による結晶性評価ではアモルファス構造を有する Au-Ni-C 合金めっき膜の作製 に成功してきた.しかしながら,本膜は通常の硬質 Au めっきに比し高い硬度及び耐摩耗性を示す ものの高い電気伝導性を示しており,電気接点として実用化するためには電気伝導性の低減が課題 として考えられた.そこで本年度は,めっき膜の特性制御の手法の一つである電流パルス電析法に 着目し,パルス製膜条件が析出膜の組成や構造,さらに電気接点特性に及ぼす影響について詳細な 検討を行った.その結果,特にパルス休止時間が膜表面の形態に大きな影響を与え,休止時間を長 くすることによって,表面の平坦化に加えて,大きく電気特性および耐摺どう性の改善が見られた. Fig.2. SEM and AFM observation for the Au-Ni-C films deposited from the citric concentration of 0.14 mol dm-3. 3. 共 同 研 究 者 門間 聰之(先進理工学部・応用化学科・准教授) 本間 敬之(先進理工学部・応用化学科・教授) 黒田 一幸(先進理工学部・応用化学科・教授) 菅原 義之(先進理工学部・応用化学科・教授) 沖中 裕(理工学研究所・客員研究員) 内海 和明(ナノ理工学研究機構・客員研究員) ASTE Vol.A21 (2013 年度) : Annual Report of RISE, Waseda Univ. 4. 研 究 業 績 4.1. 学 術 論 文 ! S. Hideshima, S. Kuroiwa, M. Kimura, S. Cheng, and T.Osaka, “Effect of the size of Receptor in Allergy Detection Using Field Effect Transistor Biosensor”, Electrochim. Acta, 110, 146-151 (2013). ! T. Osaka, T. Yokoshima, A. Takanaka, T. Hachisu, A. Sugiyama, and Y. Okinaka, “Mechanical and Electrical Properties of Au-Ni-C Alloy Films by Pulsed Current Electrodeposition”, J. Electrochem. Soc., 160(11), D513-D518 (2013). 他, 15 件 4.2. 総 説 ・ 著 書 ! T. Osaka, H. Nara, T. Momma, and T. Yokoshima, “New Si–O–C composite film anode materials for LIB by electrodeposition”, J. Mater. Chem. A, 2, 883-896 (2013). ! 逢坂哲彌, “湿式表面処理による機能性材料の開発と今後の展開-磁気記録,半導体,そして医 療分野への応用を目指して”, 表面技術, 64(4), 216-221 (2013). 他, 1 件 4.3. 招 待 講 演 ! T. Osaka, “Highly Durable Alloying Anode for LIB”, 6th International Conference on Advanced Lithium Batteries for Automobile Applications, Invited Lecture, Argonne, Illinois, USA, 2013.9.10. ! T. Osaka, H. Nara, “Durable anode materials for LIB by means of electrodeposition”, The IUMRS International Conference on Advanced Materials (IUMRS-ICAM) 2013, Keynote Lecture, Qingdao, China, 2013.9.22. ! T. Osaka, “Structural Analysis of Highly Durable Si-O-C Or Sn-O-C Composite Anodes for Lithium Secondary Battery By Means of Electrodeposition”, 224th Meeting of the Electrochemical Society (ECS), Plenary lecture, San Francisco, CA, USA, 2014.10.29. ! T. Osaka, H. Nara, D. Mukoyama, T. Yokoshima, and T. Momma, “Approaches of Lithium Ion Batteries Evaluation by Means of Electrochemical Impedance Spectroscopy”, Electrochemical Conference on Energy & the Environment 2014, Keynote lecture, Shanghai, China, 2014.3.15. 他, 14 件 4.4. 学 会 お よ び 社 会 的 活 動 ! 高中亞鈴治, 横島時彦, 蜂巣琢磨, 杉山敦史, 松田五明, 沖中裕, 逢坂哲彌, “Au-Ni 合金めっき におけるパルス製膜条件による電気特性の制御”, 表面技術協会第 128 回講演大会, 福岡, 福岡, 2013.9.24. ! 逢坂哲彌, “これからの大型研究開発の方向性 How to move forward to the future large project for research and development ?”, NIMS-早稲田ジョイントシンポジウム, 筑波, 茨城, 2014.3.24. 他, 多数 5. 研 究 活 動 の 課 題 お よ び 今 後 の 展 望 本研究の進展に伴い,材料開発とそのデバイス設計を通して更なる高機能性の付与といったプ ロセス提案に向けて有用な知見が見出された.引き続き,実用化を見据えて研究展開していく.
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