7 号(7 月)2014〕 トピックス 373 トピックス トコトリエノールによるオートファジーの誘導について Induction of autophagy by tocotrienols オートファジーは自食作用(「食べる」を意味するラ オートファジーの代表的な指標の一つである LC3-2 テン語での phagy に, 「自ら」の auto を付け加えた造語) (microtubule associated protein light chain 3-2)の発現が とも言われる細胞内での自己完結型のリサイクルシス 大きく変動していたことを明らかとした 4).これらは, テムである.この機構は酵母からヒトに至るまで真核 ビタミン E の有無がオートファジー機能に何らかの影 生物の中で広く保存されている.オートファジーの存 響を及ぼす可能性を示している.そこで,本トピック 在自体は 1960 年代から知られていたが,90 年代に入 スではトコトリエノールによるオートファジーの誘導 り大隈(現:東京工業大学フロンティア研究機構 特 について述べる. 任教授)ら 1)が出芽酵母でオートファジーを発見した PubMed 検索において“tocotrienol”と“autophagy”とい ことを発端として,分子生物学的な研究が一気に加速 う 2 つのキーワードを入力すると, わずか 12 件しかヒッ した.オートファジーの機能には,細胞が飢餓状態に トしない.既知のようにトコトリエノールはトコフェ 陥った際のタンパク質合成のための原料の供給や,異 ロールと異なり,側鎖に二重結合がついた構造をして 常タンパク質の蓄積・凝集の回避などがある.また, おり,抗酸化や非抗酸化を含めた生理作用に注目が集 オートファジーはそのメカニズムの違いから,マクロ まっている.このトコトリエノールの生理作用の一つに オートファジーやミクロオートファジー,シャペロン がん細胞におけるアポトーシス誘導作用が多く報告さ 介在性オートファジーが知られているが,通常,オー れている 5).しかし,近年,がん細胞におけるトコトリ トファジーとはその中でもマクロオートファジーを指 エノールでの細胞死誘引効果に対し,オートファジー 2) すことが多い .しかし,オートファジーの生理的意 の関与が指摘されている.Vaquero EC ら 6)は,膵臓の 義を含め,細胞保護に作用するのか,それとも細胞死 繊維化が進行するような膵星細胞が活性化した状態に に作用するのかは議論が分かれている.それ故,オー おいて,トコトリエノールがオートファジーとアポトー トファジーと酸化ストレス,抗酸化物質との関連につ シスを同時に誘引することで,繊維化の進行を抑える いてはいまだ不明な点が多い.筆者らは,過去にビタ 可能性があることを報告している.膵星細胞は慢性膵 ミン E の同族体であるα - およびγ - トコトリエノー 炎や膵臓の繊維化,膵がんの際に中心的な役割を果た ルの神経細胞保護作用に関する実験の中で,培養細胞 すことで知られる.なお,この際のオートファジーとは, への添加がオートファジーに影響を及ぼすことを明ら 細胞をレスキューするためではなく,細胞死を誘引す かとした 3).また,ビタミン E 欠乏マウスの脳内では, るために積極的に起きているとするものである.また, 図 1 ほ乳類の細胞におけるマクロオートファジーのプロセスの模式図 (文献 2)より引用) 374 トピックス 〔ビタミン 88 巻 この際にアポトーシスとオートファジーは単独で起きて ル濃度は 10 倍以上となり腫瘍の成長を有意に抑制し いるわけではなく,密接に関連しているとされ,推定 たと報告している 8).なお,この際の膵臓内での δ- される作用メカニズムとして,トコトリエノールがミト トコトリエノールの濃度は肝臓よりも有意に高いとも コンドリアの透過性(mitochondrial permeability transition 同時に報告されている.これらから,トコトリエノー pore:mPTP)に影響を及ぼす可能性を指摘している. ルの添加は膵臓の疾患に対し,有効なのかもしれない. トコトリエノールが Bcl-2 ファミリーに関与する事で, また,その作用メカニズムに対しては,従来のアポトー Bcl-2 に結合している Bax や Bak,BH-3 がフリーの状 シスのほかにオートファジーが関与している可能性が 態となり,membrane pore の形成促進に伴ってアポトー あるのではないだろうか. シスを誘導するというものである.また,cytochrome C トコトリエノールのミトコンドリアを介したオート の漏出に伴う一連のアポトーシスの際には活性酸素 ファジーに関する報告は他にもある.Leiki ら 9)は,γ- (Reactive Oxygen Species:ROS)が生成されるため,こ トコトリエノールを添加したラットの虚血再還流モデ の ROS がオートファジー関連タンパク質の Atg4 を介 ルにおいて,心臓を傷害から保護するために,オート してオートファジーを亢進させる.また, トコトリエノー ファジーが活発に起こっていると報告している.その ルが作用する Bcl-2 ファミリーが直接的か間接的かは不 メカニズムには,γ-トコトリエノールによる Bcl-2 の 明であるが,Beclin-1 にも作用することでもオートファ 発現増加によるアポトーシスの回避と,Beclin-1 の発 ジーを誘導することが示唆されている. 現増加によるオートファジーの活性化が関連している 上記に紹介した文献は膵臓疾患に関するものであ としている.但し,この場合は,細胞をレスキューす る.そこで,トコトリエノールと膵臓疾患に関し調べ る方向でオートファジーが作用している. ると,幾つかの報告があることが分かった.アメリカ 上述した論文を含め他にも同様に,Bcl-2 や Beclin-1 East Tennessee State University の Shin-Kang らのグルー の発現をトコトリエノールが増加させるという報告が プが,数種類のヒト由来の膵臓がん細胞において,γ- ある 10).また,ミトコンドリアがオートファジーに関 およびδ-トコトリエノールの添加で有意に細胞死を する文献は多数存在する.以上より,トコトリエノー 7) 誘引したと報告している .また,アメリカの H. Lee ルは非抗酸化的な作用を発揮して,オートファジーに Mof¿tt Cancer Center and Research Institute の Husain ら 関与する可能性が伺える.オートファジーは異常タン のグループは,ヌードマウスへ膵臓がんの細胞株であ パク質や損傷を受けた際の細胞内小器官の再生と,ア る MIA PaCa-2 細胞を移植して腫瘍を誘引させたモデ ポトーシスのような非ネクローシス的なプログラムさ ルにおいて,δ-トコトリエノールを 100 mg/kg で 6 週 れた細胞死へむけた過程の中で生じている細胞の分解 間,経口投与したところ,腫瘍内でのδ-トコトリエノー 過程での現象とで区別すべきものなのかもしれない. 図 2 トコトリエノールによる活性化した脾星細胞でのアポトーシスやオートファジーの誘導 (文献 6)より引用) 7 号(7 月)2014〕 375 トピックス Key Words: tocotrienols, autophagy, apoptosis 4)Fukui K, Masuda A, Hosono A, Suwabe R, Yamashita K, Shinkai T, Urano S (2014) Changes in microtubule-related protein and au- 1 Physiological Chemistry Laboratory, Department of Bioscience and Engineering, College of Systems Engineering and Sciences, Shibaura Institute of Technology, Fukasaku 307, Minuma-ku, Saitama, 337-8570, Japan 2 Life Support Technology Research Center, Research Organization for Advanced Engineering, Shibaura Institute of Technology, Saitama, Japan, Koji Fukui 1 5)Yap WN, Zaiden N, Tan YL, Ngoh CP, Zhang XW, Wong YC, Ling MT, Yap YL (2010) Idl, inhibitor of differentiation, is a key protein mediating anti-tumor or responses of gamma-tocotrienol in breast cancer cells. Cancer Lett 291, 187-199 6)Vaquero EC, Rickmann M, Molero X (2007) Tocotrienols: balancing the mitochondrial crosstalk apoptosis and autophagy. Autophagy 3, 652-654 1,2 芝浦工業大学システム理工学部生命科学科生理化学 研究室 2 tophagy in long-term vitamin E-deficient mice. Free Radic Res 48, 649-658 芝浦工業大学先端工学研究機構ライフサポートテク ノロジー研究センター 福井 浩二 1,2 7)Shin-Kang S, Ramsauer VP, Lightner J, Chakraborty K, Stone W, Campbell S, Reddy SA, Krishnan K (2011) Tocotrienols inhibit AKT and ERK activation and suppress pancreatic cancer cell proliferation by suppressing the ErB2 pathway. Free Radic Biol Med 51, 1164-1174 8)Husain K, Francois RA, Hutchinson SZ, Neuger AM, Lush R, Coppola D, Sebti S, Malafa MP (2009) Vitamin E į-tocotorienol levels in tumor and pancreatic tissue of mice after oral administra- 文 献 1)Takashige K, Baba M, Tsuboi S, Noda T, Ohsumi Y (1992) Autophagy in yeast demonstrated with proteinase-de¿cient mutants and conditions for its induction. J Cell Biol 119, 201-311 2)Mizushima N (2007) Autophagy: process and function. Genes Dev 21, 2861-2873 3)Fukui K, Ushiki K, Takatsu H, Koike T, Urano S (2012) Tocotrienols prevents hydrogen peroxide-induced axon and dendrite degeneration in cerebellar granule cells. Free Radic Res 46, 184-193 tion. Pharamacology 83, 157-163 9)Leiki I, Ray D, Mukherjee S, Gurusamy N, Ahsan MK, Juhasz B, Bak I, Tosaki A, Gherghiceanu M, Popescu LM, Das DK (2010) Co-ordinated autophagy with resveratol and g-tocotorienol confer synergetic cardioprotection. J Cell Mol Med 14, 2506-2518 10)Satyamitra M, Ney P, Graves J 3rd, Mullaney C, Srinivasan V (2012) Mechanism of radioprotection by į-tocotrienol: pharmacokinetics, pharmacodynamics and modulation of signalling pathways. Br J Radiol 85, e1093-1103
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