星形成レガシープロジェクト:カリフォルニア分子雲

星形成レガシープロジェクト. カリフォルニア分子雲の分子分光観測
◯山日彬史,片倉翔,秦野義子,下井倉ともみ,土橋一仁(東京学芸大学),原千穂美(東京大学) 島尻芳人(CEA/Sacley),西谷洋之,中村文隆(国立天文台),ほか45m星形成レガシーチーム
野辺山45m鏡を用いて,クラスターを含む領域について,34種類の分子輝線観測を行った。観測は,
2013年3月〜5月と2013年12月〜2014年1月にかけて行った。表1に観測諸元をまとめる。 表1. 観測諸元 観測期間 2013年3月〜5月 2013年12月〜2014年1月
受信機 / 分光計 TZ / SAM45
BEARS / AC45
観測領域 13ʹ′×12ʹ′
40ʹ′×40ʹ′
観測手法 OTF(On The Fly)
OTF(On The Fly)
観測時間 29時間
46時間
13CO
観測輝線 34輝線(12CO・13CO・C18O・CS・SO・HCN・HCO+ など)
13CO
検出輝線 7輝線(12CO・13CO・C18O・CS・SO・HCN・HCO+)
ノイズレベル(Tmb) 0.67 K @ 0.1 km/s 1.0 K @ 0.1 km/s
カリフォルニア分子雲はペルセウス座にある散光星雲であり,銀緯 -­‐10° 付近に位置する
巨大分子雲である。カリフォルニア分子雲はおよそ 450 pc の距離に位置し(Herbig et al. 2004),質量は 1×105 M◉である。また,そのサイズは 80 pc 以上もある。この質量とサイズ
は太陽系に比較的近い巨大分子雲であるオリオン座A分子雲に匹敵するが,両分子雲の
星形成活動は,カリフォルニア分子雲の方がオリオン座A分子雲よりも低い。また,見つ
かっている原始星の数も一桁以上少ない(Lada et al. 2009)。カリフォルニア分子雲は,星
形成活動があまり進んでいない巨大分子雲であると考えられてきた。しかし,近赤外線の
減光量マップ(Dobashi 2011)を見ると,カリフォルニア分子雲にはクラスターが形成されて
いる領域がある。そこで我々は,野辺山45m鏡を用いてクラスターを含む領域を様々な分
子輝線で観測した。本ポスターでは,一連の解析結果について報告する。 ◯ YSO(Young Stellar Objects)の分布 Declination (2000)
04271+3538
表2. IRAS点源リスト
DSS
Posicons Flux density o
Declination (J2000)
35 40'0"
04275+3531
04272+3529
IRAS No. α(2000) δ(2000) F12 F25 F60 (h m s) (°ʹ′″₺) (Jy) (Jy) (Jy) 04261+3506 4 29 27.9 35 13 6.3 1.326 1.530 14.02 27.55 04263+3519 4 29 41.3 35 26 6.5 0.643 0.972 7.858 40ʹ′ 04266+3504 4 29 53.3 35 10 42.6 1.161 2.098 11.25 35o30'0"
04275+3519
04263+3519
35o20'0"
04269+3510
04261+3506
04266+3504
04271+3502
o
35 10'0"
4h32m0s
4h31m20s
4h30m40s
4h30m0s
Right Ascension (J2000)
F100 Quality (Jy) L C.C. (L◉) 3 3 2 1 D D B D 12 10.90 1 3 2 1 C E E -­‐ 6 11.59 3 3 2 1 C C C -­‐ 8 04269+3510 4 30 14.4 35 16 30.2 362.2 340.2 3121 5023 3 3 3 3 A C C C 04271+3538 4 30 26.5 35 45 19.4 0.340 1.753 5.738 5.155 3 3 3 2 E A A B 5 04271+3502 4 30 25.8 35 9 13.4 0.360 2.601 10.81 11.57 2 3 2 1 D A E -­‐ 7 04272+3529 4 30 30.6 35 36 9.1 0.259 0.631 1.612 12.81 1 3 3 1 -­‐ B A -­‐ 3 04275+3531 4 30 48.2 35 57 51.0 0.250 0.889 5.363 6.586 1 3 3 3 -­‐ A A A 4 04275+3519 4 30 48.6 35 26 24.9 1.579 1.692 20.88 65.12 3 3 3 3 G G C C 21 2474 4h29m20s
● IRAS点源
図2. 観測領域における可視光(Digiczed Sky Survey)のイメージ. 赤丸はIRAS点源から選んだ原始星候補天体を表している.
◯ 速度構造 4.0
1.0
平均速度
速度分散
35o40’0"
35o40’0"
①
Declination (2000)
o
40ʹ′ Declination (2000)
Galactic Latitude [Degree]
カリフォルニア分子雲の全体像 11° 1.0
-6
E(J-­‐H)
-8
0.5
7° -10
-12
0.0
mag
166
164
162
160
158
156
Galactic Longitude [Degree]
of Z-axis ; 0
File1 ; Channel Number図1. 色超過 E(J-­‐H)マップ(Dobashi 2011). 赤枠は45m鏡で観測した領域(40ʹ′×40ʹ′)である.
◯ 観測領域の構造及び質量 40ʹ′ 70.0
13CO積分強度
フィラメント 35 40’0"
①
クラスター 35 30’0"
④
35.0
40ʹ′ クランプ ②
35 20’0"
③
35 10’0"
0.0
K km/s
4 32 0
4 31 20
4 30 40
4 30 0
4 29 20
● IRAS点源
File1 ; Integrated Velocity Range ; -5.0~5.0 Right Ascension (2000)
図3. CO積分強度図. 赤丸はIRAS点源から選んだ原始星候補天体を表している.
図3を見て分かるように,観測した領域は,クラスター,クランプ,数本のフィラメントから成り立っていることが
分かった。この領域のクランプ及び各フィラメントに対し,局所熱力学平衡(Local Thermodynamical Equilibrium:LTE)を仮定した質量 MLTE と,力学的安定性を議論するためにビリアル質量 Mvir を算出した。な
お,ビリアル質量算出の際,クランプでは以下の式⑴,フィラメントでは以下の式⑵を用いた。その結果,クラ
ンプではLTE質量とビリアル質量はほぼ一致する結果となった。一方,フィラメントでは全てのフィラメントにお
いて,ビリアル質量の方がLTE質量よりもかなり大きく,やがて散逸していくことが示唆された。 クランプに用いたビリアル質量の計算式 フィラメントに用いたビリアル質量の計算式
! R $! ΔV $
# ΔV &
M = 209 # &#
M = 465%
& M … 式⑴
( M pc … 式⑵
pc %" km s %
$
'
"
km
s
(ΔV:線幅 )
(R:クランプの半径,ΔV:線幅 )
表3. クランプ及び各フィラメントの質量
クランプの半径 質量比 及び 領域
速度分散 LTE質量 M ビリアル質量 M (ビリアル質量 / LTE質量)
フィラメントの長さ クランプ
0.661 pc
1.76 km s 553 M 431 M 0.78
フィラメント①
2.31 pc
1.58 km s 203 M 2707 M 13
0.558 pc
1.72 km s 21 M 770 M 37
フィラメント②
0.801 pc
2.22 km s 24 M 1850 M 77
フィラメント③
フィラメント④
1.32 pc
1.59 km s 34 M 1566 M 46
※ 式⑵にフィラメントの長さを掛け合わせたときの値.
図2を見て分かるように,クラスターは IRAS 04269+3510(光度 2474 L◉) に対応している。
35o30’0"
0.0
②
o
35 20’0"
35o30’0"
2.0
35o20’0"
IRAS 04271+3502 o
35o10’0"
35o10’0"
0.0
-1.0
h
m
4 32 0
s
h
m
s
h
m
s
h
m
4 31 20
4 30 40
4 30 0
Right Ascension (2000)
o
s
h
m
4 29 20
s
km/s
h
4 32 0
● IRAS点源
File1 ; Channel Number of Z-axis ; 0
m
s
h
m
s
h
m
s
h
m
4 31 20
4 30 40
4 30 0
Right Ascension (2000)
s
h
4 29 20
File1 ; Channel Number of Z-axis ; 0
図4(a). 観測領域における平均速度マップ. 赤丸はIRAS点源から選んだ原始星候補天体, 橙色の×印はクラスターを表している. m
s
km/s
● IRAS点源
図4(b). 観測領域における速度分散マップ. 赤丸はIRAS点源から選んだ原始星候補天体, 橙色の×印はクラスターを表している. 25.0
-3.5<Vlsr<-2.75 [km/s]
-2.75<Vlsr<-2.0 [km/s]
-2.0<Vlsr<-1.25 [km/s]
-1.25<Vlsr<-0.5 [km/s]
-0.5<Vlsr<0.25 [km/s]
0.25<Vlsr<1.0 [km/s]
o
m
s
h
m
s
h
m
s
h
m
s
h
m
s
13
vir
−1
2
◉
vir
LTE
-­‐1
-­‐1
-­‐1
-­‐1
-­‐1
◉
◉
◉
◉
◉
◉
−1
◉
◉ ※
※
◉ ◉ 1.75<Vlsr<2.5 [km/s]
2.5<Vlsr<3.25 [km/s]
35o30’0"
35o20’0"
20
15
-1
vir
◉
1.0<Vlsr<1.75 [km/s]
35o40’0"
Declination (2000)
2
12.5
35o10’0"
h
m
4 32 0
s
h
m
s
h
m
s
h
m
4 31 20 4 30 40
4 30 0
Right Ascension (2000)
s
h
m
4 29 20
0.0
s
図4(c). 観測領域における13COのチャネルマップ. 10
5
0
-5
-10
-5
0
5
v (km/s)
10
図4(d). IRAS 04271+3502 付近の13COのプロファイルマップ. 破線は VLSR = -­‐2 km/s と 2 km/s . 図中の星印は IRAS 04271+3502 のスペクトルを表している. 速度構造を明らかにするため,平均速度と速度分散を以下の式⑶と式⑷を用いて算出した。平均速度マップと速度分散マップをそれぞれ図4
(a)と図4(b)に示す。図4(a)及び図4(c)から,フィラメント①で速度勾配が見られ,フィラメント①とフィラメント②で速度が異なっていることが
分かった。また,図4(b)及び図4(d)から,IRAS 04271+3502 付近の13COスペクトルでは速度分散が大きく,スペクトルに wing も見られ,双極分
子流が存在する可能性が示唆された。 平均速度の計算式 速度分散の計算式
※
※
T (K)
h
V =
l  観測した領域は,クラスター,クランプ,数本のフィラメントから成り立っていることが分かった。 l  クランプと各フィラメントで質量を算出した結果,クランプではLTE質量とビリアル質量はほぼ等しいが, フィラメントではビリアル質量の方がLTE質量よりもかなり大きく,やがて散逸していくことが示唆された。 l  IRAS 04271+3502 付近の13COスペクトルでは,速度分散が大きく,スペクトルに wing も見られ,双極分子流が存在する可能性が示唆された。 l  クランプを更にコアに分けた上での物理量の算出や,Herschel等他の波長との比較等を行っていく予定である。 *
T
∫ R (VLSR )VLSR dVLSR
*
R
∫ T (V ) dV
LSR
2
… 式⑶
LSR
(TR*:輝度温度,VLSR:視線速度)
ΔV =
∫ TR* (VLSR ) (VLSR − 〈V 〉) dVLSR
*
R
∫ T (V ) dV
LSR
… 式⑷
LSR
(TR*:輝度温度,VLSR:視線速度,V:平均速度)
Ø  Dobashi,K. 2011,PASJ,63,S1-­‐S362 Ø  Herbig,G. H.,Andrews,S. M.,& Dahm,S. E. 2004,AJ,128,1233 Ø  Lada,C. J.,Lombardi,M.,Alves,J.F. 2009,AJ,703:52-­‐59