課題番号:24-5 研究課題名: パーキンソン病を中心とするレビー小体病の診断・治療法の開発に関する研究 主任研究者:村田 美穂 (国立精神・神経医療研究センター病院) 分担研究者:岩坪威(東京大学)永井義隆、北條浩彦(国立精神・神経医療研究センター神経 研究所)若林孝一(弘前大学)井上雄一(東京医科大学)斉藤祐子、亀井雄一、塚本忠、野田 隆政、山本敏之、小林庸子、古澤嘉彦(国立精神・神経医療研究センター病院)堀越勝(国立 精神・神経医療研究センターCBT センター) 1. 研究目的 Lewy 小体の出現を特徴とするパーキンソ ン病(PD)、認知症(Dementia with Lewybody; DLB)は同一スペクトラムの上にある疾患と して、レビー小体病(Lewy body disease;LBD) と総称されている。LBD は神経細胞変性の機 序がいまだ不明であること、ドパミン補充療 法の効果は高いが、ドパミン非反応性症状が 治療上の大きな問題点となっている。本研究 では1)基礎研究グループによる遺伝性パー キンソン病の原因遺伝子による細胞障害発 現機序を明らかにし、病態機序に基づく新規 治療法を開発する。2)病理及び臨床研究グ ループによるバイオマーカー(REM 睡眠行動 異常症(RBD)、嗅覚検査、DAT scan 等)と皮 膚等の生検を組み合わせた早期確定診断方 法の確立、3)臨床研究グループによるドパ ミン非反応性症状を標的とした病態・リスク 因子解明と、機能障害進行を抑制するための 治療法を開発することを目的として研究を 進めた。 2. 研究方法 パーキンソン病(PD)等レビー小体病関連 疾患(LBD)について1)生化学的、病理学的 ア プロ ーチ によ る病態 解明 、治 療法開 発 2)バイオマーカー探索による早期診断法確 立、3)臨床的アプローチによる、治療法開 発の3つのグループにより、研究を進めた。 個々の方法は3.にて結果とともに述べる。 研究の内容に応じ、各施設の倫理委員会の 承認のもと、各研究倫理指針を遵守して研究 を進めた。 3. 研究結果及び考察 ① 家族性 PD 原因遺伝子産物 LRRK2 活性 制御機構に関する研究 岩坪らは LRRK2 のリン酸化機序を明らかに してきているが、今年度は Ser910, Ser935 の他己リン酸化は LRRK2 自身のキナーゼ活性 の指標にはならないことをリン酸化特異抗 体を用いて明らかにした。また、LRRK2 オル ソログの LRK-1 欠損線虫の解析から LRRK2 は PD リスクに連鎖する PARK16 遺伝子座に存在 する RAB7L1 と協調して神経突起長を制御す ることを明らかにした。 ② 家族性 PD 原因遺伝子産物 Vps35 によ る細胞障害の機序 永井らはα-syn 発現 PD モデルショウジョウ バエ( α -syn Tg fly)に Vps35 RNAi KO を 用いて、Vps35 サイレンシングによりマンノ ース 6 リン酸受容体のリソソームへの輸送障 害、 リソソーム酵素カテプシン D の成熟障害、 α-Syn の蓄積を確認し、Vps35/レトロマー の機能障害によるカテプシン D の成熟障害に より、α-Syn の分解障害・蓄積が生じること を示した。 ③ オートファジー活性抑制による治療 法開発 若林らはこれまで LBD のα-syn 蓄積機序とし オートファジー機能障害の存在を明らかに してきた。今回は新規治療法開発を念頭にオ ートファジー活性化評価システムを構築し、 スクリーニングで得られたトレハロースの 効果を in vitro 及び in vivo で検討した。 トレハロースの給水投与により封入体形成 抑制と脳内オートファジーの活性化を確認 した。今後投与期間・方法など効果向上の方 法を検討する。 ④ siRNA による遺伝子発現調整による 治療法開発 北條らは siRNA による遺伝子発現調整によ る治療法開発を進めている。今回はα-syn の 多重重複変異である PARK4 の治療法開発のた めに、α-syn 発現量をほぼ半量に抑制する siRNA を設計し、ショウジョウバエで遺伝子 発現量の低下に伴い行動学的にも生化学的 にも改善することを確認した。今後患者リン パ球で効果判定を進める。 ⑤ 皮膚生検による a-syn 陽性率の向上 齊藤らは PD の病理学的確定診断を生前に する方法として皮膚生検の有用性を検討し てきたが、今回は剖検組織との比較でより、 皮膚生検の陽性率を向上する方法について 検討した。その結果、脂肪組織の採取の有無 が陽性率に関与しており、メスで 20X5mm、深 1 さ 10mm 程度での切除により1か所の生検で 可能なことを明らかにした。 ⑥ RBD の一般住民でのスクリーニング 方法の確立 井上らはこれまで、 α-synucleiopathy の リスクとしての REM 睡眠行動障害(RBD)に注 目し、その心理学的機能を含めた臨床的特徴、 LBD における有病率などを示し、RBD スクリ ーニング質問紙の日本語版(RBDSQ-J)の妥当 性検討などを行ってきた。今回は一般住民で の RBDSQ-J の使用可能性について検討し、ス コア6点以上が probable RBD のカットオフ 値であり、また、RBDSQ-J 全 10 項目のうち項 目 1,4,6-1,7,8 が difficulty が高く、この 5項目を確認することが軽症例を見逃さず にスクリーニングする上で重要な項目であ ることを明らかにした。今後、一般住民にお ける synucleiopathy のスクリーニングに極 めて有用な手段となると考えられた。 ⑦ PD 併発不眠症に対する CBT の効果 亀井らは PD 患者の QOL の低下、日中の運 動障害増悪にもつながる不眠症について、原 発性不眠症での CBT を応用して、パーキンソ ン病患者での不眠に対する CBT の有効性を検 討した。1回60分2回のセッションで介入 前と4週間後で ISI, PDSS 総点, 睡眠効率、 入眠潜時、中途覚醒時間、及び SF-36 の精神 的健康度が有意に改善した。2時間の比較的 簡易な CBT であるが、4週間後も自覚的他覚 的な睡眠指標のみならず QOL の有意な改善も 認め、有用な治療法に発展する可能性が高い。 今後症例数を増やして検討する必要がある。 ⑧ PD のうつ・不安に対する CBT の効果 NIRS による PD のうつ、認知機能の 評価 PD ではうつ・不安の合併頻度は高く、これ らにより、抗 PD 薬の効果発現が阻害された り、適切な抗 PD 薬治療を導入できないこと も少なくない、堀越らは、PD 患者のうつ・不 安に対する CBT を新たに開発し、その効果を 評価した。BDI-II で軽度以上のうつを呈する PD 患者とし、1 回 60 分週1回全6回の CBT を行い、前後及び3カ月後に BDI-II, HADS, STAI, SF-36, HAM-D、及び、有害事象、脱落 率などを評価し、PDCBT の実施可能性と治療 効果持続性を評価した。目標症例数は 20 症 例で 2014 年1月現在、7症例の登録、3症 例が終了した。終了者ではうつ、不安の改善 が見られ、有害事象、脱落を発生していない。 今後症例数をふやし、検討を進める。 ⑨ NIRS による PD のうつ・認知機能の 評価 野田らはこれまで PD におけるうつの評価 を行ってきたが、今回は NIRS の結果を PD に おけるうつ合併の有無、及び大うつ病と比較 することで PD うつの特徴の抽出を試みた。 その結果、PD 患者に合併した抑うつ症状はう つ病患者の抑うつ症状の特徴と異なること が示唆され、PD に伴う抑うつを NIRS により 評価できる可能性が示された。また、PD 患者 の遂行機能についても NIRS で評価できる可 能性が示された。 ⑩ LBD における錯視の検討 塚本はこれまで LBD の幻視について様々 な検討を行ってきたが、今回は幻視発現には 視覚統合の異常や意識野の狭小化がかかわ る可能性を考慮し、LBD 患者における錯視図 での反応を正常者と比較した。その結果、LBD 患者では健常者で錯視が出現する機序であ る同化・対比が出現しにくいこと、視野周辺 への注意障害があることが示唆された。今後 症例数を増やして LBD 患者での幻視出現メカ ニズムをあきらかにするとともに、幻視の出 現し易さのスクリーニング検査としての有 用性を明らかにする。 ⑪ LBD における誤嚥と咳嗽反射 山本は LBD 患者の誤嚥についての検討を進め ているが、今年度は LBD 患者の誤嚥性肺炎の 病態を解明するために、嚥下造影検査による 嚥下機能と咳テストによる咳嗽反射惹起の 関係を検討した。DLB では PD より咳嗽反射の 惹起がない患者が多く嚥下障害出現前から 咳嗽反射の惹起が障害されることが示唆さ れた。一方咳嗽反射惹起が保たれた PD 患者 では嚥下機能も保たれていた(91.4%)。咳テ ストは簡便な検査であるが、PD 患者の嚥下機 能の予後評価に有用と考えられた。 ⑫ PD における姿勢異常の治療法開発 古澤らはこれまでにパーキンソン病の姿 勢異常のうち上腹型腰曲がりの原因筋が外 腹斜筋であることを示し、これに対するリド カイン連続5日間投与が3カ月以上効果を 維持できることを示してきた。今回は生理食 塩水との二重盲検にて1回投与での効果を 示すべく臨床試験を行った。残念ながら10 名のクロスオーバー二重盲検試験では差は 有意には達しなかった。しかし、連続して行 った、5日間連続投与のオープン試験では有 意な改善を認めしかも3カ月まで効果は維 2 持し、前回の結果を確認することができた ⑬ PD に対する運動療法の効果 PD では運動不足により運動障害が一層悪 化することが知られている。適切な運動療法 により薬物効果をより改善できることから、 運動療法の方法と効果について検討した。 i)短期集中リハ(2 時間/日, 10 回, n=36) ii)LSVT-BIG(1時間/日, 16 回, n=31)いずれ も有意な改善を認めた。通常の日常生活がで きているレベルであっても短期の運動療法 で有意な効果を上げることができることを 明らかにした。さらに、LSVT-BIG ではプログ ラム終了6カ月後でも開始前よりも高い運 動能力を維持できることを示し、運動療法の 重要性を明らかにした。 ず大多数を占める孤発性 PD の発症機序を明 らかにする上で学術的価値が非常に高く、国 際的にも高い評価を得た。LBD の不安に対す る CBT の導入は国際的にも注目されており、 臨床的社会的にも極めて重要である。姿勢異 常に対する治療法開発や短期運動療法の効 果確認は臨床的に極めて価値が高い。 3)行政的意義について 睡眠障害、不安、うつ、嚥下障害など LBD における L-dopa 不応の症状の病態を明らか にし、治療の糸口を示したことで、今後の LBD に対する社会医学的対応に貢献した。 4. 結論 基礎研究グループは家族性 PD 原因遺伝子及 び弧発性 PD 発症リスク遺伝子のPD発症に つながる細胞障害のメカニズムを明らかに しつつある。また、LRRK2 と RAB7L1 という二 つの疾患感受性遺伝子が互いに協調して神 経突起長の制御を行うことを新たに明らか にした。さらに、オートファジーや遺伝子発 現調節を利用した新たな治療法開発を進め た。病理・臨床研究グループは生検の診断率 向上方法の確立や一般人口における RBD スク リーニング方法の確立を進めた。さらに、臨 床グループはうつ、不眠、姿勢障害、嚥下障 害、廃用症候群といった薬物が効果を示しに くい症状に対して、認知行動療法、リドカイ ン療法、新たな理学療法プログラムなどを開 発し、有用性を明らかにした。 5. 研究発表 別紙 6. 知的所有権の出願・取得状況 なし 7. 自己評価 1)達成度 LBD の病態解明については、LRRK2、VPS35 による細胞障害の機序について新たな知見 を得られた。オートファジー活性化、α-syn 発現調節のための siRNA 設計など新規治療法 開発の基礎データを得ることができた。LBD の L-dopa 不応性の問題症状について病態を 明らかにし、PD 患者に対する認知行動療法や リドカイン療法など新規治療法を開発し効 果を確認することができたことから、臨床研 究の目標はほぼ達成した。 2)学術的、国際的、社会的意義について LRRK2 と RAB7L1 の機能関連は家族性のみなら 3
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