bc byon bcbc byony 2015 年 1 月 1 日

日本企業と都市鉱山ビジネス
21170230 横井 将人
目次
序論:脚光浴びる「都市鉱山」
1
1.1
はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1
1.2
今なぜ都市鉱山か . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
1.3
こんなに大きい日本の都市鉱山 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
「都市鉱山」発掘の先駆的企業の事例
4
2.1
都市鉱脈発掘のパイオニア
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
2.2
DOWA ホールディングスの事例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
2.3
コアビジネスへの集中 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5
2.4
環境関連ビジネスに乗り出した経緯 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
6
2.5
地域振興にも貢献 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
6
2.6
世界トップ性能のリサイクル原料専用炉 . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
2.7
国境を越えた事業展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
2.8
一気通貫の総合力が強み . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
損をしない貴金属リサイクルビジネス
8
3.1
有価であるか、無価であるか . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
3.2
損をすることがないビジネス . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
10
貴金属リサイクルビジネスの成功の秘訣
11
4.1
完成した精錬技術 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
11
4.2
98 %以上のリサイクル率を実現する驚異の手解体 . . . . . . . . . . . . .
13
4.3
手解体を支える知的障害を持つ人たち . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
14
日本のレアメタル産業勝ち残りへの道
16
5.1
国家規模で海外探鉱を支援せよ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
16
5.2
日本の国家備蓄制度を見直せ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
17
5.3
代替材料の開発は日本の仕事 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
18
5.4
資源開発は外交力による経済圏構築が必要だ . . . . . . . . . . . . . . . .
18
5.5
国家規模で新技術の開発に集中せよ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
19
結論:都市鉱山ビジネスが教えてくれること
20
6.1
2 つの事例から学ぶべきこと . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
20
6.2
都市鉱山による金属リサイクルの課題と留意点 . . . . . . . . . . . . . . .
22
6.3
都市鉱山ビジネスから学ぶべきこと . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
24
1
2
3
4
5
6
i
1 序論:脚光浴びる「都市鉱山」
1.1 はじめに
今、日本の「都市鉱山」に熱い視線が注がれている。鉱山といっても、原鉱石が採れる
新たな鉱山が見つかったわけではなく、都市で大量に廃棄される家電製品や電子機器など
に含まれる貴金属やレアメタルなどの金属資源のことを指す。
日本には金属の高度な製錬・製造技術があり、これを用いて使用済み製品から金属を回
収してリサイクルすれば、都市は金属を産み出す鉱山になる (5, p.16)。
2008 年 1 月、物質・材料研究機構が日本に蓄積された都市鉱山の規模の試算を公表し
て、世間を驚かせた。
日本の都市鉱山にある金は約 6,800 トンと世界の埋蔵量の 16 %に及び、世界最大の金
資源国、南アフリカ共和国を上回る規模だという。同様に、銀は世界埋蔵量の 23 %、液
晶の電極などに使われるインジウムは 61 %が国内の都市鉱山に眠っているとのことだ (5,
p.4)。
資源価格高騰を背景に都市鉱山が脚光を浴び始めているが、実は日本には以前から都市
鉱山発掘による金属リサイクル事業に挑み続けてきた企業が存在する。
本稿では、都市鉱山が注目される背景について整理した後、携帯電話などの IT 機器に
含まれる金属のリサイクル事業を先駆的に立ち上げてきた横浜金属と DOWA ホールディ
ングスの事例を取り上げ、そこから学ぶべきポイントや、都市鉱山ビジネスの課題と留意
点、都市鉱山ビジネス勃興が示す日本企業の可能性などを考察してみた。
日本の都市鉱山から有用な資源を産出しているパイオニア企業として、横浜金属と
DOWA ホールディングスが有名である。
横浜金属は、環境問題がそれ程でもない時代にパソコンからの貴金属回収や日本で最初
に携帯電話に使用される金の回収事業を立ち上げた企業である。
また、DOWA ホールディングスは、旧同和鉱業という老舗の製錬企業だったが、製錬
というコアビジネスに産業廃棄物のリサイクルという環境ビジネスを組み合わせ、都市鉱
山に係る売り上げは 1,000 億円、経常利益 100 億円を計上している。
前述の両社が都市鉱山ビジネスを開始したきっかけは、多摩川に廃棄されていた現像
液から銀の回収、機械メーカーからの廃油処理という産業廃棄物処理に携わったことで
ある。
解体、分別、製錬などの高純度化といった技術開発やノウハウの確立は重要だが、1990
年代以降、国が本腰を入れ始めた「家電リサイクル法」、「容器包装リサイクル法」、「自動
車リサイクル法」などの環境法令が都市鉱山ビジネス拡大の推進力になったと言われて
いる。
多くの人々は、日本の天然資源は乏しいと思っている。
しかし、それは大地に眠る自然鉱山だけの話である。現代都市のゴミという鉱脈に目を
向ければ、日本はいかに資源に恵まれた国であるかがわかる。
ただ、都市鉱脈の形態は大地に眠る自然鉱山と違い、実に多様で複雑である。いずれは
1
枯渇に向かう鉱山資源に比べて、産業用素材として使用された貴金属スクラップというゴ
ミの発生量はこれからも増え続ける。
今後、この都市資源を有効活用することが日本にとって重要な課題となってくる (2,
p.3)。
この論文では、実際に都市鉱山開発に力を入れている先駆的企業を取り上げ、都市鉱山
ビジネスの課題や留意点を考察し、都市鉱山ビジネスから学ぶべきことを考えていきたい
と思う。
最初に第 1 節では、この論文の題である都市鉱山とは何かについて例とともに論じて
いる。
1.2 では、今なぜ都市鉱山なのかという社会的背景を説明していく。
1.3 では、日本の都市鉱山の埋蔵量が世界とどれくらい差があるのか比較して、日本の
都市鉱山埋蔵量の現状を説明していく。
第 2 節では、都市鉱山発掘の先駆的企業の事例について論じている。
2.1 では、都市鉱脈発掘のパイオニアである横浜金属 (株) とはどんな企業なのか説明し
ていく。
2.2 では、都市鉱山を活用した金属リサイクル事業を積極展開している DOWA ホール
ディングスとはどんな企業なのか説明していく。
2.3 では、DOWA ホールディングスのコアビジネスへの集中投資について説明して
いく。
2.4 では、DOWA ホールディングスが環境関連ビジネスに乗り出した経緯について説
明していく。
2.5 では、DOWA ホールディングスが地域振興にも貢献しているということについて
説明していく。
2.6 では、DOWA ホールディングスの子会社である小坂製錬が所有している、複雑鉱
処理技術ができる世界トップ性能のリサイクル原料専用炉について説明していく。
2.7 では、DOWA ホールディングスが海外でも事業を展開していることについて説明
していく。
2.8 では、DOWA ホールディングスの強みについて説明していく。
第 3 節では、都市鉱山ビジネスとは何かについて例とともに論じている。
3.1 では、横浜金属において都市鉱山ビジネスを展開するための条件について説明して
いく。
3.2 では、横浜金属がどのようなビジネスを展開しているのかについて説明していく。
第 4 節では、貴金属リサイクルビジネスがどうしたら成功するのかについて例とともに
論じている。
4.1 では、横浜金属の精錬技術はどれくらい凄いのかについて説明している。
4.2 では、横浜金属において鉱脈から回収されたリサイクル資源を再資源化する工程に
ついて説明していく。
4.3 では、98 パーセント以上のリサイクルを実現する手解体がなぜできるのかについて
説明していく。
第 5 節では、日本がどうしたらレアメタル産業に勝ち残れるのかについて例とともに論
2
じている。
5.1 では、鉱山投資はリスクが大きすぎるため民間企業が手を出しにくいので、国家規
模で海外探鉱を支援する制度を取り入れるべきだということについて説明していく。
5.2 では、日本の国家備蓄制度を見直すため、国家備蓄の重要性について説明していく。
5.3 では、日本においてレアメタルの代替材料開発の重要性について説明していく。
5.4 では、日本の資源獲得の在り方についてどうしたら良いのか説明していく。
5.5 では、日本がレアメタル産業で世界のターミナルになるためには何をすべきかにつ
いて説明していく。
1.2 今なぜ都市鉱山か
「都市鉱山」という言葉は、東北大学選鉱製錬研究所の南條道夫教授らが 1980 年代に提
唱したリサイクル概念である。都市で大量に廃棄される家電製品などの中に有用な資源が
存在しており、それを一つの鉱山と考えて、そこから資源を積極的に取り出そうとする考
え方である。
本物の鉱山は、対象とする鉱石しか存在しないが、都市鉱山には貴金属のほか、多くの
レアメタルも揃って含まれており、量も膨大である (5, p.2)。
最近、都市鉱山への関心が急速に高まってきた背景には、世界的な資源価格の高騰が
ある。
価格が高騰している資源は、連日マスコミで取り上げられる原油だけではない。2003
年と比較して、金は約 3 倍、銅は約 4 倍、タングステンは約 4 倍に高騰している。ニッケ
ルは、昨年の最高値から半値近くになったが、2003 年の約 3 倍の水準にある。モリブデ
ンは、2005 年の最高値には及ばないが、再び上昇し約 7 倍となっている (5, p.18)。
鉱物資源価格高騰の背景には、国際的な資源ナショナリズムの台頭もある。
世界のレアメタルの埋蔵国はごく限られている。主要産出国である中国が自国の自動車
産業や電気機械産業への供給を優先するため、戦略的に輸出を抑制するなど、自国に存在
する資源を自国で管理・開発しようとする動きが強まっており、これが資源価格高騰の一
因となっている。
レアメタルは、「産業のビタミン」と言われるように、電子機器や自動車など現代の工
業製品には不可欠な資源であり、その安定的な確保は日本産業にとって欠かせないもので
ある。
こうした資源価格高騰と需給を背景に、企業はリサイクル技術や代替素材技術の開発を
活発化させている。このような状況下だからこそ、都市鉱山からの金属リサイクルのビジ
ネスチャンスが拡大し、廃棄される電気機器から貴金属やレアメタルを取り出す生産技術
への注目度が高まったのである (5, p.6)。
使用済みの IT 機器などの都市鉱山はしばしば「宝の山」と言われるが、廃棄製品を集
めて、そこから金属を回収する技術がなければ宝の持ち腐れであり、更にその回収コスト
が取り出せる金属の価値より安くなければ、ビジネスとして成り立たない。
この意味で、都市鉱山からの金属リサイクルの経済的価値は、その時の鉱物資源価格に
よって決まる部分が大きい。昨今のように鉱物資源価格が上昇すればするほど、都市鉱山
3
「発掘」の経済的価値が高まるわけである (5, p.19)。
1.3 こんなに大きい日本の都市鉱山
(5, p.2) は以下のように述べている。
それぞれの金属ごとに日本にある都市鉱山の規模が世界の現有埋蔵量の何%を占めるか
を見ると、銀 22 %、金 16 %、スズ 11 %、タンタル 10 %など、電子部品等に多用される
金属において、いずれも世界の埋蔵量の 1 割を超える規模となっている。
また、透明電極としてディスプレイや太陽光発電に使われるインジウムは 62 %にのぼ
るほか、プラスチックの難燃助剤として使われるアンチモンも 19 %の規模となっている。
日本の都市鉱山だけで世界の消費量の何年分をまかなえるかを試算すれば、多くの金属
で 2∼3 年分となっており、とりわけ電池材料になるリチウムは 7.4 年分、触媒や燃料電
池電極に不可欠なプラチナは 5.7 年分の蓄積量を誇っている。
また、日本の都市鉱山規模を各国の天然資源埋蔵量と並べた場合の順位を見ると、金、
銀、鉛、インジウムが世界 1 位、銅は世界 2 位となっている (ただし、本来は比較対象に
含めるべき日本以外の国の都市鉱山については、ここでは考慮していない)。
もちろん、上記の数字は、あくまで一研究機関の試算に過ぎず、また都市鉱山から実際
に資源を効率的かつ経済性を伴う形で回収するには数多くの難題があることを考えれば、
「日本は世界一、二の資源国」と表現するのは適切でないと思われる。
しかし、日本の都市鉱山がかなりの規模であることは間違いなく、地下にあった金属資
源が地上に在りかを変えたことで、日本は「地上の資源国」という顔も持つようになって
いると言える。
現代の都市には、携帯電話、パソコン、デジカメ、テレビなど IT 機器の廃棄物が山積
しており、これらの中には多くの貴金属やレアメタルが含まれている。
例えば、現代人の必需品になった携帯電話には、多くの金属が使用されている。
都市鉱山は金属含有率も非常に高い。
例えば、鉱石 1 トンから採れる金は南アフリカの有力な金鉱山でも 4∼5g であるのに
対し、携帯電話 1 トンに含まれる金は約 280g もある。携帯電話はきわめて高品位の「鉱
石」と言える。
2 「都市鉱山」発掘の先駆的企業の事例
資源価格高騰や環境問題への取り組みの本格化を背景に、今でこそ都市鉱山が脚光を浴
びているが、実は、日本には何年も前から都市鉱山の発掘による金属リサイクル事業を立
ち上げ、ビジネスとして成功させている企業が存在する。
ここでは、そんな先駆的企業の事例として、横浜金属と DOWA ホールディングスの 2
社を取り上げたい。
2.1 都市鉱脈発掘のパイオニア
(2, p.9) は以下のように述べている。
4
横浜金属 (株) は非上場の中堅企業だが、社会的に今ほど環境問題が叫ばれていなかっ
た 1990 年代半ばに使用済みパソコンから貴金属を取り出すリサイクル事業を立ち上げた
企業である。
また、日本で初めて使用済み携帯電話から金を取り出す事業を軌道に乗せた企業として
も知られている。
同社の都市における鉱脈発掘の歴史は、1958 年の創業当初にさかのぼる。
同社が強みとする銀の製錬技術を活かせる仕事はないかと探していた創業者の比嘉知蔵
氏は、東京・調布にある映画製作会社の撮影所から廃棄物として銀を含むフィルムや廃液
の一部が多摩川に放流され、異臭を放っているのに目を付け、撮影所から不要になった撮
影フィルムや定着液をもらいうけ、そこから銀を回収・製錬する事業を立ち上げた。次に
同社が開拓した鉱脈は、1960 年代半ばから急速に普及した一眼レフカメラやクオーツ腕
時計に使われているボタン型の酸化銀電池である。
1974 年には全国の時計店、電気店、カメラ店から廃酸化銀電池を回収する事業体制を
築き上げた。
1980 年からは、歯科材が鉱脈となる。歯科技工所や歯科医院で不要になった金歯、銀
歯や、その製造過程で発生する端材、切りくずを回収して金や銀を再資源化する事業を始
めた。
更に、1985 年からは宝飾品が新たな鉱脈となる。当初は、宝飾品メーカーから切れた
ネックレスや加工屑を回収していたが、その後、展示会や宝飾店・時計店経由で家庭に
眠っている宝飾品を買い取るサービスに乗り出している。
2.2 DOWA ホールディングスの事例
DOWA ホールディングス (同和鉱業が 2006 年に移行) は 120 年以上続く老舗企業で、
鉱石を製錬して非鉄金属を生産することを中核事業とする会社である。
近年は、都市鉱山を活用した金属リサイクル事業を積極展開しており、使用済み IT 機
器にある廃基板などを破砕・分解して製錬することにより、金、銀、銅やレアメタルを回
収 し、リサイクルする事業で国内トップの企業となっている (リサイクル事業は分社の
DOWA エコシステムが統括している)(5, p.120)。
2.3 コアビジネスへの集中
同社は、長い歴史の中で受け継がれた伝統が「悪しきもの」へと変化し、大企業病に陥
る中、第 1 次石油危機以降長い間業績が低迷していた。
そこに吉川廣和・現会長兼 CEO が、1999 年に専務に就任して以降、「選択と集中」を
キーワードとする大胆な事業構造改革を断行し、7 年で経常利益を 10 倍の約 500 億円に
押し上げた経緯がある。同社の事業構造改革では、勝てる見込みのあるコアビジネスへは
果敢に集中投資を行う一方で、コアビジネスでないと決めた事業は売却、撤退の道が選ば
れた。
そこで同社がコアビジネスに選んだのが、「製錬」「電子材料・金属加工」「環境・リサ
5
イクル」「熱処理」の 4 分野である。
環境・リサイクル事業は、同社にとって 1990 年代後半以降本格的に立ち上げた新規事
業であるが、今や国内トップの地位を確立し、同社の連結営業利益の 18 %を占める主力
部門の一つとなっている (5, p.118)。
2.4 環境関連ビジネスに乗り出した経緯
(5, p.122) は以下のように述べている。
同社の環境関連ビジネスへの取り組みについて見てみる。
同社はもともと同和鉱業という、秋田県の小坂銅山から採れる鉱石を製錬する製錬業者
だった。それが、現在のような環境・リサイクル事業を手掛けるようになったのには、3
つのきっかけがあったという。
第一は、1970 年代後半に同社がもつ岡山県の柵原鉱山が合理化に追い込まれた時にさ
かのぼる。
廃油の捨て場所に困ったある機械メーカーから「御社の焼却技術を使って廃油を処理し
てほしい」と頼まれた。
鉱山労働者の雇用確保につながるため、この時、廃棄物処理事業に乗り出した。同事業
は収益性はなかったが、これを細々と続けることで、同社には比較的早い時期から産業廃
棄物の取り扱いなど環境ビジネスのノウハウが蓄積されていった。
第二は、1990 年代後半、米国に留学していた社員が、米国では産業廃棄物の処理など
の環境ビジネスが急成長していると報告してきた。
この分野のビジネスには、同社が伝統的に保有している鉱山製錬の技術やノウハウ、設
備、人材がそのまま使えることに着目し、事業化に踏み出した。まずは廃油や廃アルカリ
の処理を手掛け、製錬技術を使って焼却、無害化することに成功した。
第三は、1990 年代半ば以降、国が環境対策に本腰を入れて動き出し、家電リサイクル
法、容器包装リサイクル法、自動車リサイクル法などが成立したことである。
鉱石から金属を取り出す技術は IT 機器から金属を取り出す技術と根幹は同じであるた
め、同社は金属リサイクル分野進出の機をうかがっていたが、国の環境政策の追い風を受
けて本格的にリサイクル事業に踏み出し、2003 年以降、重点投資を行っている。
当初は、「同和はゴミ屋になり下がった」「会社のイメージが悪くなる」といった強い反
対論も出たそうだが、今では、環境・リサイクル部門は同社の中で売上 1,000 億円、経常
利益 100 億円を狙う成長事業に育ち、「環境の DOWA」と称されるまでの評価を得るに
至っている。
2.5 地域振興にも貢献
(5, p.133) は以下のように述べている。
同社の発祥の地である秋田県小坂町では、同社子会社の小坂製錬が、日本最大級の最終
処理施設を含む環境リサイクルコンビナートをつくり、使用済みのパソコンや携帯電話な
どから金や銅を回収して再利用するリサイクル事業を展開している。
6
この地では明治初めに官営鉱山としてスタートした小坂鉱山が金銀銅などを産出し、日
本一の産出高を誇ったが、戦後は海外の低コストの大規模鉱山が開発され、小坂鉱山の競
争力は失われた。
山は閉鎖され、大正時代に約 3 万人いた小坂町の人口は 6,400 人程度まで減少した。
そんな衰退していた小坂町周辺が、今、DOWA グループが展開する都市鉱山ビジネス
のおかげで元気を取り戻しつつあり、21 世紀型の循環型社会に対応した新しい産業を創
出しようと、産官学一体となっての取り組みが進展している。
小坂町に隣接する秋田県大館市では、リサイクル法の対象外にある小型の電気製品を回
収する試みが進んでいる。
東北大学が主体となり自治体、国、産学が一体となって 2007 年 4 月に始まった「こで
ん (小型電子電気機器) リサイクル」プロジェクトにも DOWA グループは参加しており、
同プロジェクトは 1 年で 4,000 個を超える回収実績を上げた。鉱山の町という土地柄か
ら、「使用済み電子機器は高品位の鉱石と同じ」という点に対する地域住民の理解度が高
いようだ。
2.6 世界トップ性能のリサイクル原料専用炉
小坂製錬は、2008 年 4 月、リサイクル原料対応型の新型製錬設備を本格稼働させた。
これは、携帯電話や廃家電のプリント基板のほか、亜鉛の製錬工程や化学工業で出た
残渣などを原料として用いる。世界トップ水準の性能を持つリサイクル原料の専用炉で
ある。
リサイクル原料は含有する金属の量や品質が千差万別のため、従来はリサイクル原料を
約 30 %までしか鉱石に混ぜられなかったが、この新型炉ではリサイクル原料を 100 %投
入できる。
新型炉は、金や銀などの貴金属のほか、セレン、アンチモンなどのレアメタルを含め、
合計 18 種類の金属を回収できる。このため、リサイクル原料を再資源化した後の販売価
格が高くなるというメリットがある。
同社は高度な複雑鉱処理技術を持つため、廃電子電気製品や基板など多種類の金属や有
害物質・不純物を含有している処理困難なリサイクル原料を大量に扱うことを得意として
いる。このような複雑鉱処理技術を有する企業は、世界でも DOWA ホールディングスと
ベルギーのユミコア社、カナダに製錬所を持つエクストラータ社の 3 社のみだという。
同社は、新型炉がある秋田県小坂地区に自動車リサイクル工場と貴金属回収工場を相次
いで完成させ、新型炉能力のフル活用を図っている (5, p.110)。
2.7 国境を越えた事業展開
同社のリサイクル事業は、海外にも広がっている。
例えば、東南アジアでは、携帯電話が普及し始めたが、そこから金属を回収する技術が
なく、廃棄された携帯電話によって鉛などの重金属汚染が発生している。
同社は、2007 年度、バーゼル条約事務局 (ジュネーブ) が進める「アジア太平洋地域に
7
おける E-Waste プロジェクト」の支援事業として、マレーシア、シンガポール、タイで
回収された携帯電話の再資源化を試験的に行った。
海外の廃棄物の回収については、国境を越える廃棄物の移動を厳しく制限したバーゼル
条約の対象となる。同社は、このバーゼル条約の枠組みの中で、諸外国から使用済み IT
機器を原料として輸入するスキームが大いに有望であると考え、そのための環境整備に精
力的に取り組んでいる (5, p.126)。
2.8 一気通貫の総合力が強み
同社の環境リサイクルコンビナートの強みは、最終処分施設を持ち、収集から埋め立て
までの一気通貫の総合力で勝負できることだという。
同社は、焼却物にせよ、土壌にせよ、汚染の状態や必要な処理内容を調査し、運搬し、
対象物ごとに様々なメニューで処理した後、有価物は回収し、最後に残った焼却灰は自社
の最終処分場に埋め立てることができる。
現在の産業廃棄物処理法は「排出者責任」が原則で、リサイクル途中で中間業者等によ
る不備や不正があった場合、自ら関与していなくても、排出者であるメーカーが責任を問
われる。
この点、同社の場合、回収した廃棄物を自社一貫体制で適正かつ完全に処理できること
が、顧客に信頼感を与えて大きな競争力となっている (5, p.140)。
3 損をしない貴金属リサイクルビジネス
3.1 有価であるか、無価であるか
(2, p.47) は以下のように述べている。
「貴金属リサイクルビジネスは、鉱脈さえ確保できれば損をしないビジネスです」と横
浜金属の比嘉はいうが、いまだ大手企業の参入はない。
環境ビジネス市場のポテンシャルを考えると、資本力のある企業が参入してきても驚か
ない事業だが、不思議である。
「いまでこそリサイクルという言葉がありますが、20 年くらい前には屑屋的なイメージ
がありましたからね。私たちの仕事はいまも昔も変わりませんが・・・」と比嘉がいうよ
うに、もしかすると大手企業には何らかの抵抗感があるのかもしれない。
高度成長以前の日本には、道に落ちている釘などの鉄屑や土中に埋まった電線の切れ端
を拾って生活している路上生活者たちがいた。鉄屑の売り先は屑鉄屋だった。
大量消費時代を迎えた日本には、ふんだんに貴金属が使われた家電製品や OA 機器があ
ふれ、夥しい廃棄物が「ゴミ」の山を築いていった。その「ゴミ」の処分を任されていた
のは解体業者であり、解体業者からスクラップを買い取っていたのが精錬会社である。
2000 年に施行された循環型社会形成推進基本法に明記されるまでは、廃棄物の排出事
業責任が明確に問われていなかったのだから、廃棄物の処理より新製品の開発に血眼に
なったのは、国の責任であるのかもしれない。
横浜金属が日本経団連に入会したのは、リサイクルビジネス事業のイメージを変える意
8
味でも大きな意義のある入会だったのではないだろうか。
貴金属リサイクルビジネスを理解するためには、まず有価物と無価物の違いを理解しな
ければならない。
有価物とは、1 円でも、2 円でもいいが経済的価値のあるモノである。無価物は 0 円。
つまり、経済的価値がないモノである。
有価物としての「ゴミ」を扱うか、無価物としての「ゴミ」を扱うかによる大きな違い
は、無価物を扱うと廃棄物処理法の下でのビジネスになるが、有価物なら廃棄物処理法に
縛られないところである。
循環型社会形成推進基本法において「循環資源 (リサイクル可能な資源) とは、廃棄物
などのうちで有用なもの (有価物)」と明記されている。
横浜金属は創業以来、有価物を取り扱ってきた会社である (グループ会社である横浜金
属商事秋保事業所は、2003 年に産業廃棄物中間処理業者の認可を受けている)。貴金属リ
サイクルビジネスも有価物を取り扱う事業である。
「廃棄物から貴金属」と聞くと、タダで仕入れてボロ儲けしていると思う人もいるだろ
うが、横浜金属が回収する「ゴミ」には価格がある。お金を出して「ゴミ」を買い取るこ
とから始まるビジネスなのである。
仮に仕入れる「ゴミ」が 0 円だとしたら廃棄物処理法に縛られることになるが、そうな
ると横浜金属にどんな不具合が起きるのだろうか。
まず、全国規模のビジネスを縮小せざるをえなくなる可能性が出てくる。
地方公共団体が定める産業廃棄物の流入規制によって、都道府県をまたいだ「ゴミ」の
移動に支障を来すことになる。すでに大都市圏の産業廃棄物の広域移動は問題になって
いる。
今後、規制がさらに厳しくなると、神奈川県で廃棄されたものは、神奈川県で処理しな
ければならなくなることが考えられるのだ。
事業を継続したいなら、回収拠点となっている全国各地に精錬工場を新設しなければな
らなくなる。これでは、貴金属の精錬事業を行なっている会社がない都道府県も困ること
になる。
ただでさえ最終処理場の問題があるうえに、処理できないという理由で「ゴミ」が増え
ることになるからである。循環型社会形成推進基本法において、産業廃棄物の適正で効率
的な処理やリサイクルには、都道府県をまたいだ広域的な処理が必要、と明記されている
のに自治体の規制が優先されているのが現状なのだ。
各地に精錬工場を新設できたとしても、各自治体から産業廃棄物処理業者や運搬業者と
しての認可を受ける必要がある (歯科材を産廃とセットで回収するため運搬業者登録のあ
る自治体はある)。
産廃業を許認可産業というのは、そういう許可を必要とするからである。この手続きだ
けでも煩雑で、現在でも登録業者に過重な負担となっているといわれている。
日本経団連は、JIS マーク表示認定工場や ISO14000 シリーズを取得している事業者に
ついては、事業許可を不要とすべきだと訴えているが、未だ法改正は行なわれていない。
また、産業廃棄物になると「ゴミ」を手で扱えなくなる。つまり、横浜金属の特徴でも
ある手解体作業ができなくなるのである。
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さらに、これまで頭を下げて「ゴミ」を提供していただいていた取引先に対して、処理
代を請求することになる。経済的な価値があった「ゴミ」が 0 円になり、そのうえ、処理
代を払えとなると、さすがに取引はなくなるだろう。
岩手県や青森県境や瀬戸内海の豊島など、世間を騒がした不法投棄の問題は、廃棄物処
理法の下で受け取る処理代金にも原因があった。処理代金を使って「ゴミ」を処埋するの
がまっとうな業者だが、処理せずに処理代金を懐に入れていた業者の悪行だったのだ。
有価であるか、無価であるか。横浜金属にとってはシビアな問題である。
数年前、リサイクル目的で集めたものが不法投棄されているということで、環境省が有
価も無価も廃棄物なら同じ法の下に入れるべきではないか、という方向性を打ち出したこ
とがあった。あのまま新たな法案が可決していたとしたら、横浜金属はどうなっていたの
だろうか。
3.2 損をすることがないビジネス
(2, p.55) は以下のように述べている。
「損をしないビジネス」という横浜金属のビジネスとはどういうものなのか。
シンプルに解説すると、鉱脈である取引先から 100 円の価値がある貴金属が含まれる塊
を預かり、100 円の貴金属地金にして取引先に戻す。
横浜金属の収入はというと、地金にする加工賃である。取引先は、そのままなら廃棄処
分となる塊が 100 円の価値がある地金として戻るのだから悪い話ではない (もちろん実際
には、加工賃を差し引いた金額が戻ることになるが)。
横浜金属の売上げの 95 パーセントが、この精錬加工賃である。この収益構造は創業以
来変わらない。精錬加工賃が売上げのほとんどだから、貴金属相場が乱高下しても売上げ
に影響を及ぼすことは基本的には考えられないのである。
「鉱脈さえあれば」というのは、そういうことなのだ。さらにいえば、100 円の貴金属
を、100 円の貴金属地金にする精錬技術があって初めて成り立つビジネスであり、精錬工
程を低コストで賄うことができれば、それだけ会社としての利益は上がることになる。
もう 30 年以上も前の話になるが、銀地金をつくりはじめた頃のことである。できたば
かりの熱い地金を布袋に包んで持っていくと、取引先の担当者から「お前のところは焼き
いも屋か」といわれたというエピソードが残っている。
地金ではなく現金で戻してくれ、という場合はどうするのか。
横浜金属では、塊の状態では基本的には買い取らない。地金として完成した段階で、初
めて買い取ることになる。
100 円の価値がある塊でも、相場リスクを考えると 100 円では買い取れないからであ
る。買い取るとなると、70 円くらいになる。それでも構わない、と取引先が申し出れば
70 円で買い取る。
あるいは地金を相場価格で買い取ることになる。だから取引先には地金ができるまで
待ってもらうことになる。
地金になるまで待つ、というのは、横浜金属に貴金属が含まれた塊を預けることになる
が、これは信頼関係の社会である日本だから成り立つことであって、欧米のような契約社
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会では無理なビジネススタイルかもしれない。
そして、買い取った地金は、その日に売る。売り先は商社か地金商。理由は、すぐに
買ってくれるからである。
貴金属を原料として仕入れている企業も売り先として考えられるが、1 円でも安く仕入
れたい企業は相場を睨みながら交渉してくるし、欲しい重量がなければ買えないといわれ
ることもある。横浜金属としては、できた地金を量がどうであれ、すぐに売りたいわけだ
から、なかなかマッチングがうまくいかないのである。
どうしてすぐに売りたいかというと、相場リスクを回避するためである。
横浜金属は、地金を売買することで利益を得る会社ではない。売買差益による収入は、
会社全体の売上げからすると微々たるものである。確かに相場だから、100 円が明日には
110 円になることもある。130 円まで上がるまで待つということもできる。
しかし逆に、100 円が 90 円に、さらに 80 円に下がることがあるのも相場である。100
円で買い取った地金が、商社や地金商に 101 円で売れれば、御の字だ。その積み重ねが最
終的にプラスであれば、それでいいのである。買ったら、すぐに売る。これも横浜金属の
創業から変わらないスタンスである。
精錬コストが、取引先からもらう加工賃を上回ったら赤字である。精錬工程で上回るこ
とはありえないが、例えば、原油高によって極端に運搬コストがかかったら上回ることは
あるかもしれない。
ここで問題になってくるのが、前述の有価か無価か、ということである。仮に赤字部分
を取引先に支払ってもらうことになったら、処理代をいただいた、と判断されて無価物、
つまり産業廃棄物とされ収集運搬業許可が必要になってくる。
輸送コストで有価か無価か判断するのは不合理として、この件に関しても日本経団連が
法改正を訴えているが実現していない。今のところ、横浜金属ではそうした事態は発生し
ていないが、由々しき問題である。
4 貴金属リサイクルビジネスの成功の秘訣
4.1 完成した精錬技術
(2, p.95) は以下のように述べている。
貴金属リサイクルビジネスにおける成功条件のひとつは鉱脈発掘である。
比嘉が自社のことを「都市鉱脈発掘業である」というように、横浜金属は、独自の視点
で数多くの都市鉱脈を発掘してきた。再生資源の原料を集めることができなければ、貴金
属リサイクルビジネスは始まらない。
しかし集めたからといって、それで終わりでもない。集めたモノを高品質の貴金属とし
て精錬する技術があって初めて商品となる。
さて、どんな技術が必要なのか。
ひとつは、集めてきた廃材を貴金属が抽出しやすい状態にする技術である。
これを前処理という。宝飾品のように貴金属だけの素材であればそのまま精錬工程で金
や銀の地金をつくることになるが、携帯電話やパソコンなどは素材ごとに分解する工程が
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必要になる。
携帯電話なら、プラスチック原料、金、銀、パラジウム、銅、コバルト原料、鉄といっ
た素材に分別する。最近の情報通信機器や OA 機器は複雑な組成の製品が多く、この段階
で確実に分別されないと、効率よく貴金属を抽出することが難しくなる。そもそもリサイ
クルすることを前提に製造されている製品は少なく、分別作業には素材に関する知識も必
要になってくる。
循環型社会の形成という点でも、細かい分別には意味がある。
プラスチックと貴金属では、まったく精錬方法が違うため、同じようには扱えないので
ある。仮に携帯電話を分別せずにリサイクルするとなると、希少価値やコストの問題から
貴金属が優先されることになる。
横浜金属が携帯電話を取り扱いはじめた頃は、回収された携帯電話は破砕機で粉々に
し、焼却してプラスチックを除去していた。それから精錬工程で金や銀の地金をつくって
いた。プラスチック部分はゴミである。完全リサイクルを目指すなら、必ず分別しなけれ
ばならないのである。
さらに分別された廃材は精錬工程に入るまでに、もう一度、手を加えておく必要がある。
例えば、酸化銀電池の場合は、精錬工程に入る前に冷水中に 7、8 時間浸漬させたり、
電池上面に切り込みを入れたり、破砕させたりする。これは、精錬工程中に発熱したり、
爆発したりするおそれがあるからである。
また、水銀という有害物質を適切に処理するためでもある。特に電子部品などには有害
物質が含まれている可能性があるため、環境保全の意味でも前処理は必要な技術である。
もうひとつは、前処理が済んだ素材から確実に貴金属を抽出する技術である。
例えば、金 10 グラム、銀 100 グラム、プラチナ 5 グラム、パラジウム 10 グラムが含
まれるパソコンが 1 台あったとしよう。精錬後、金 5 グラム、銀 50 グラム、パラジウム
5 グラムが回収でき、プラチナは 1 グラムも回収できなかったとする。これでは話になら
ない。
貴金属リサイクルに求められるのは、含まれると想定される貴金属を限りなく 100 %に
近い確率で回収する技術である。
しかも不純物を限りなく排除した高純度の地金が求められる。日本の貴金属市場で流通
できる品質は、金、銀が 99・99 % (フォーナイン) 以上、プラチナ、パラジウムが 99・95
% (スリーナインファイブ) 以上。要するに、その品質でなければ、商品にならないとい
うことである。
ちなみに、この品質は、ロンドン市場ではフォーナイン以上、中国市場ではスリーナイ
ン (99・90) 以上などと、各国市場で異なるという。
フイルムを焼却し、現像液を蒸発させることによって銀を抽出するという簡単な方法か
ら始まった横浜金属の精錬技術は、50 年に近い歴史の中で、さまざまな素材・構造の廃材
と格闘してきたからこそ完成した技術でもあるのだ。
今では、たとえ複雑な組成であっても、横浜金属にとっては「いつもの原料」に過ぎな
いというレベルに達している。
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4.2 98 %以上のリサイクル率を実現する驚異の手解体
(2, p.99) は以下のように述べている。
それでは具体的に、鉱脈から回収されたリサイクル資材が再資源化される工程を、日本
経団連が視察に訪れた横浜金属商事仙台事業所の環境リサイクル部工場と、横浜金属相模
原本社工場で見ていくことにしよう。
仙台工場では、前処理工程である検量・仕分け、解体、分別作業が行なわれる。
さまざまな鉱脈から回収ルートを経て送られてきた使用済みとなったパソコン、OA 機
器、携帯電話・・・。「ゴミ」の山のように見えるが、ここから廃棄物が再資源化される
工程が始まる。最初の工程は検量・仕分け。
どこから、どれだけの資材が送られてきたのか確認した後、製品ごとに仕分けされる。
この段階で、筺体の素材として使われくいるプラスチック樹脂による仕分けも行なわれる。
鉱脈ごとに回収ルートが決められているため基本的には製品単位で仕分けすることは少
ないが、同じ製品でも異なるプラスチック素材が混在している場合は仕分けしておく必要
がある。リサイクル品位が劣化することになるのだ。白色 ABS、色付 ABS、その他のプ
ラスチック樹脂に仕分けすることによって、再生樹脂原料化が可能になる。
次に仕分けされた製品は、各ラインで解体作業が行なわれる。パソコンの解体ラインで
はドライバーや電動工具を使い、1 台 1 台、手で解体する。1 日に 360 台、月間で約 8,000
台、重量にすると約 56 トンが処理されている。プラスチック樹脂、基板、メモリ、ケー
ブルなどと、さらにハードディスクなどのドライブ類に分解される。
分解された部品は、2 次解体ラインでさらに細かく分解される。
例えば基板は、精錬工程の妨げとなる鉄・アルミ部分が取り外される。こうすることに
よって 1 原料当たりの貴金属の含有成分比率が高まり、精製効率・リサイクル率を高める
ことができる。
ケーブル類は、ケーブル部分とコネクタ部分に分解される。ケーブル部分は銅原料とし
て、コネクタ部分は貴金属原料となる。
ハードディスクは 1 次解体で分解しただけではまだデータが残っている可能性があるた
め、読み出し不可能なディスク盤のレベルにまで解体する。この解体は、情報流出を防ぐ
セキュリティとしての役割もあり、外部への情報流出が厳禁とされるメーカーやリース会
社、さらに金融機関や官庁関連には高く評価されているという。
CPU やメモリ、チップコンデンサなどは、2 次解体を行なわず、そのまま貴金属原料と
なる。周辺機器やキーボード、マウス、そして携帯電話も同じように、リサイクル資材と
して細かく解体されていく。
解体された資材をマテリアル素材ごとに分けていくのが分別作業である。
筺体やネジなどの鉄原料、アルミ筺体やディスク盤などのアルミ系非鉄原料、ケーブ
ル・銅線などの銅系非鉄原料、電源基板や HDD 基板などの基板系材料、接点材やチップ
などの貴金属系材料、ABS 樹脂や PP などのプラスチック原料、ブラウン管やコピー読
取部分などのガラス原料、バックアップ電源などのバッテリー原料、段ボールやマニュア
ルなどの紙原料である。
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細かく分別すればするほど、リサイクル率は高くなる。
分別されたマテリアル素材は、鉄原料は国内鉄リサイクル業者へ、アルミ系非鉄原料と
銅系非鉄原料は国内非鉄業者へ、ガラス原料は国内カレット業者へ、バッテリー原料は国
内鉛精錬業者へ、紙原料は古紙リサイクル業者へ、そして基板系材料と貴金属系材料は相
模原の本社精錬エ場へ送られることになる。
プラスチック原料は、サーマルリサイクルとして活用されるか、中国へ送られプラス
チック樹脂として再生される。
検量・仕分け、解体、分別作業工程で特筆すべきことは、すべてが一人ひとりの丁寧な
手作業で行なわれているということだ。
貴金属だけの抽出を目的とするなら、回収された廃材を炉に入れて焼却する、または機
械で破砕するという方法もある。
前述したように横浜金属も、その方法を採用していた頃があった。手解体によるメリッ
トは、限りなく単一素材に分別できるということである。単一素材になると、リサイクル
が容易になる。これまでは焼却・破砕することによって、資材の約 60 パーセントが廃棄
物として処理されてきた。特にプラスチック部分のリサイクルは不可能だった。
ところが、手解体することによって 98 パーセント以上のリサイクルが可能になったの
である。仙台工場で排出される産業廃棄物は 2 パーセント以下である。
環境リサイクル部では、新規のお客様に対して工場見学を実施しているが、「こういう
ふうに一つひとつ細かく分別していくわけですか。ずいぶん酔狂な会社があるものです
ね」と、驚かれるそうである。
手解体は、CO2 の削減など環境負荷低減を進めている取引先企業の強い要望もあるが、
横浜金属商事では仙台支店でパソコンリサイクルを始めた頃から一貫して継続してきたこ
とである。そこには、「循環型社会の形成に寄与する」という強い意志があった。
4.3 手解体を支える知的障害を持つ人たち
(2, p.103) は以下のように述べている。
98 パーセント以上のリサイクルを実現する手解体は、廃棄物の発生を抑え、情報流出を
防ぐなど、循環型社会を目指す日本としては歓迎すべきことだが、導入するにはクリアし
なければならない課題もある。それは人件費である。
世界一賃金が高いといわれる日本において、手解体はあまりにもコストがかかる作業な
のだ。そこが、リサイクルビジネスに参入してくる企業が手解体に乗り出せない理由でも
ある。それを資本力が劣る横浜金属がどうして実現できたのか。
答えはすでに述べたが、知的障害を持つ人たちである。
仙台工場の解体作業の一部である周辺機器ラインでは、へルメットをかぶった知的障害
を持つ人たちがドライバーを片手に黙々と解体作業に取り組んでいる。へルメットを着け
ているのは、重機やフォークリフトが動く工場内での万一の事故を避けるためである。
知的障害があるからではない。
工場にいる仙台事業所の社員は、契約社員を含めて約 6 名。アルバイトが 5、8 名。実
は、社員とアルバイトを合わせた数と、知的障害を持つ人で仙台事業所が雇用契約を結ん
14
でいる人数はほぼ同数。さらに工場には、職業訓練というかたちで作業を手伝ってくれて
いる知的障害を持つ人たちが 20 名前後いる。
午前 8 時 40 分から午後 5 時 40 分まで、彼らは仙台事業所の社員と同じ条件で働き、同
じように厳しく管理されている。工場を訪れると、必ず彼らは笑顔で迎えてくれる。知的
障害があることを教えられなければ、彼らがそうだとわからないくらいに工場にいる彼ら
は、健常者と何ら変わらない。
「どうにかして安い賃金で手解体を実現したい。仙台にある知的障害を持つ人たちの厚
生施設であるおおぞら学園に作業をお願いしたのは、そんなせこい考えからでした」と比
嘉は頭を掻く。
事実、1995 年 3 月からスタートしたパソコンリサイクル事業は、手解体では採算に合
わないことに頭を抱えていた。
リサイクルビジネスに参入してくる企業との差別化を図るためには、どうしても実現し
たい手解体だが、アルバイトを雇ってみたが採算が合わない。コスト計算すると、最低賃
金法を下回る金額がはじき出される。
最低賃金法とは世界中で導入されている制度で、日本でも 1959 年に導入された。各都
道府県別に設定されている最低賃金は、正社員やパート・アルバイトといった勤務形態の
違いにかかわらず、雇用する側は全額支払うことが義務づけられている。
仙台工場のある宮城県の最低賃金は、時給 628 円 (2006 年 10 月 1 日)。手解体は、こ
の金額以下で働いてもらわないと実現できない状況だったのだ。そうでなければ、完全リ
サイクルという、比嘉と大柳が描いた横浜金属グループの究極の目標が頓挫することに
なる。
何か方法はないだろうか。そこで考えついたのが、知的障害を持つ人たちに社会復帰の
ための職業訓練の場所を提供することだった。
知的障害を持つ人たちは、都道府県労働局長の許可を受けることを条件として最低賃金
の適用除外が認められている。
比嘉に勝算がなかったわけではない。というのは、お願いする作業は解体だったからで
ある。解体作業には不合格品は発生しない。完成品をつくるとなると、不良品の発生に留
意しなければならなくなるが、解体作業は分解すればいいだけ。
仮に無理やり引っ剥がして部品が壊れたとしても、何の問題もない。壊すことが目的だ
から、それでいいのである。それに解体が中途半端に終わっていたとしても、最終工程で
再分解すれば済むことである。
比嘉は自分たちの依頼を受け入れてもらえると信じ、千代福祉会・おおぞら学園を訪
れ、理事長に直談判した。
「うちの解体作業を社会復帰の訓練作業として手伝っていただけませんか。もちろん解
体工具も貸し出しますし、解体手順もうちの社員が指導いたします。最低賃金法を下回る
賃金になりますから給料というかたちではお支払いできませんが、解体していただいた作
業代は報奨金というかたちでお支払いいたします。それから、あくまでも訓練ですから納
期も定めません」
理事長は、快く承諾してくれた。
「最低賃金法など関係ありません。施設利用者が社会生活に適応していける能力を身に
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付ける職業訓練として受け入れることにしましょう。気持ちにムラがあったり、体調が悪
かったりなどで、どこまでできるかわかりませんから、納期がないのは、こちらとしても
うれしい条件ですね」
ここ数年は知的障害を持つ人たちの就労状況は改善されてきているが、それでもまだ十
分とはいえない。養護学校卒業時に就職できる人たちは 3 割にも満たず、多くが福祉施設
の利用者となっている。
また、就職できても何らかの理由で離職した人は、そのまま何もしないでただ家にいる
だけという現実もある。比嘉が訪れたのは、経済不況によって年々採用が低下している時
期でもあった。
作業を依頼するにあたって、ひとつだけ申し入れたことは、解体作業に学園の先生を一
人同席してもらうことだった。知的障害を持つ人たちへの接し方がわからなかったからで
ある。この依頼も快く受け入れてもらえた。
宮城県仙台市にある千代福祉会の四施設には、200 名の知的障害を持つ人たちが入所し
ている。知能指数 (IQ) で分類される知的障害レベルでいうと、7、8 割が IQ35 以下の重
度障害者だった。ちなみに普通の人たちの IQ は 100∼107 である。あくまでテスト結果
からもたらされた数字だが、それだけ重いハンディを抱えた人たちだったのである。
5 日本のレアメタル産業勝ち残りへの道
5.1 国家規模で海外探鉱を支援せよ
(4, p.126) は以下のように述べている。
これまでのわが国の企業は、国の支援策を活用しながら資源メジャーのプロジェクトに
参加して海外資源を確保してきた。
ベースメタルにおいては銅が 39 %、亜鉛は 13 %、ニッケルは 25 %の自主開発比率に
達しているが、その他のレアメタルの自主開発比率はゼロに近いのが実態だ。
国家の支援を得て民間企業が有用な鉱山の権利を買えば良いのだが、川下市場には投資
をしても川上の鉱山投資をする企業は一向に現れないのが実情である。鉱山投資はリスク
が大きすぎるというのが、その理由である。
カントリーリスクが心配なら、カナダやオーストラリアや南アフリカの鉱区に投資をす
れば問題は解決するのである。
出るか出ないのか分らない博打に賭けるのは事業ではないという意見もよく聞く。それ
なら非鉄メジャーが売りに出した案件を買収すればよいのだ。これならギャンブルではな
い。確定埋蔵量を相場で買えば良い話である。
鉱山を買っても、1 千億∼2 千億円程度であるから、国家規模で考えれば安い買い物で
ある。
すでに述べたとおり、日本の電子材料市場が 9 兆円、電子デバイス市場は 47 兆円、セッ
ト機器市場は 141 兆円であるが、その時に本当に大事なキーエレメントがなければ工場が
動かなくなる。
「転ばぬ先の杖」と考え資源確保に注力することは技術立国日本にとって安いものでは
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ないのか。しかし残念ながら、こと資源に関しては頭ではわかっているが一向に着手する
人がいないのである。そういった戦略性が日本に欠落しているということが最大の問題で
ある。
備蓄制度にしても同様である。
どうせやるなら徹底すれば良いのだが、如何せん中途半端な印象が強いのは何故だろう
か。JOGMEC は探査もやり備蓄もやっているが、1 年間の予算はたった 186 億円でしか
ない。
アングロアメリカンや、非鉄メジャーといわれているウェスタンマイニングでは、年間
の探査に 400 億円をかけている。日本の国家予算よりも非鉄メジャーの 1 社の方が大き
いのである。
日本のお金の使い方に合理性がないとの意見もあるが、実体は国家としての戦略性の欠
如であり、管轄の政府機関がどうのこうのという問題ではない。政府機関で備蓄制度をす
るならば国家の産業規模に合致したグランドデザインが必要になる。
業界の集まりでは批判的な意見も多く聞くが、何もやらないよりもましである。世界で
第 2 位の経済力をもっているわが国の原料供給の原点を見つめ直しバランスの取れた制度
を取り入れていくことが重要である。
5.2 日本の国家備蓄制度を見直せ
(4, p.135) は以下のように述べている。
レアメタルの国家備蓄制度について一言で説明すれば「備えあれば憂いなし」というこ
とだ。軍事目的なのか、偏在する電子材料の資源確保が目的なのかはどちらでもよい。
米国は 26 種類の鉱種について 05 年には 2,000 億円弱を保有 (3 年分備蓄が目標) して
いる。スイスは推定で 1 年の備蓄をもち、スウェーデンは 90 日、フランスは 60 日の国家
備蓄をもっている。
しかし、世界第 2 位の経済力をもつ日本の国家備蓄は、2006 年 10 月末現在でニッケ
ル、クロム、タングステン、コバルト、モリブデン、マンガン、バナジウムの構造材の添
加用 7 鉱種の平均備蓄日数は 25 日で、民間備蓄は 10・4 日しかないのが実態である。
06 年 9 月で石油の国家備蓄が 91 日 (5,087 万キロリットル) で民間備蓄は 84 日 (4,439
万キロリットル) であることと比較すると、レアメタルの備蓄はいかにも見劣りするので
はないか。
一般的に今の日本企業は、90 年代の経験則から数ケ月以上の在庫がもてないシステム
から脱却できていない。それでは、原料購入について長期契約をどれだけもっているのか
が問われることになるが、これも当用買いばかりで戦略的な購買姿勢は薄弱になってし
まっている。
つまり、これまた 90 年代の悪しき経験則の繰り返しで、デフレ経済で長期契約があれ
ば損をする。いつでも買うことができるのだから無理するなということが身に染み付いて
いる。物づくりで生きている日本に原料がなくなったらどうなるのかという危機感も、発
想が薄弱だから民間備蓄も国家備蓄も興味がないのである。
一方、国家備蓄の運用方法にも問題があるという見方もある。専門家が備蓄目標を計画
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に基づき作成し目標達成に注力するのだが、購入のルートが多様化していないために高値
で入手しているケースもあるらしい。
米国の DLA(国防兵站局) の場合は、メタルトレードの専門家が実行し、いつ誰がいく
らで購入したのか分らない仕組みになっているため、相場に影響がないばかりか合理的な
購入原価を常に維持しているのだ。
逆に備蓄品を放出する場合は、世界中から業者を選ばずテンダー方式 (入札で最高値を
契約) でリリースするため、最安値で買い、最高値で売る結果となる。つまり税金の無駄
使いは一切ないのである。
5.3 代替材料の開発は日本の仕事
(4, p.140) は以下のように述べている。
技術革新は日進月歩である。レアメタルの代替材料開発のスピードは昔と比べると速く
なった。資源の価格が上昇することと、安定的供給が約束できない材料については敬遠さ
れることも多くなった。
例えば、希土類磁石に使われるテルビウムであるが、中国で 1 年間に生産される総量は
120 トンしかない。中国以外の生産量はほとんどゼロと見てよい。保磁力を上げ防錆効果
のある素材としては、これに勝るものはない。
しかし、蛍光体材料として光磁気ディスク材料としての年間需要量は 100 トンくらいあ
るため磁石用には供給安定性が保証できない。
一方、同じ効果が期待できるディスプロシウムは、ネオジ磁石合金に対して 3 %ぐらい
添加されるが、クラーク係数は比較的高く生産量は多い (テルビウムの平均の 5・3 倍であ
るから年間 600 トン以上の生産量)。
その用途は、今のところ希土類磁石に添加するしか用途はないとされている。保磁力を
上げ防錆効果が期待できる素材としてはテルビウムの方が 10 倍優れているが、長期的な
視点を考慮するとディスプロシウムに軍配が上がる。
また最近では、ガリウムが代替材料に有効であるという研究もある。
ガリウムならアルミのバイヤー液から必要に応じていくらでも生産できるという安定性
がある。代替品の開発技術は日進月歩で研究されているので、必ずしもディスプロシウム
の安定需要が未来永劫保証されているというわけではない。
希土類磁石は今後、ハイブリッドカーやリニアモーターカーの分野にも大量に使用され
る。現在もそのためにテルビウムやディスプロシウムの代替素材の開発が進行中である。
5.4 資源開発は外交力による経済圏構築が必要だ
(4, p.152) は以下のように述べている。
今すぐ必要な抜本策は、やはり資源獲得のための外交力の強化ではないか。つまり、外
交力による同じ経済圏の構築がない限り日本はいつまでたっても他国の資源ナショナリズ
ムの脅威に晒されるのである。
日本の技術が世界のデジタル革命の中で差別的に優位性を保ち日本の実力を発揮できる
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限り、資源問題は恐れるに足らずといった視点と、さらにしたたかに技術的先行力から国
家規模でデジタル革命やレアメタル産業革命に必要な資源を確保することで「レアメタ
ル、デジタル革命のための同一経済圏の構築を目指す」といった視点を提起する。
大国の条件とは、人口、技術力 (軍事力)、資源の 3 要素である。日本は、大国ではある
が 1 つだけ足りないものがある。それが資源である。
資源には、エネルギー資源や鉱産物資源、木材資源、農産物、水産物資源などいろいろ
あるが、特にレアメタルを始めとする鉱産物資源を考えた場合、やはり、資源国と経済圏
を同じくすることが国際間の共通の利益につながり安全保障を含む総合的な協力関係が維
持できるのではないかと考えている。
日本は世界で第 2 位の経済大国であるが、単純にその有限の財産を資源国から購入する
といった発想ではなく、資源開発に関わる探査、調査、技術供与、そして鉱山開発のため
のインフラ整備などに協力していくべきである。
特に環境問題や医療支援など日本が貢献できる分野は数多くある。これまでの国際協力
といえば ODA による仕組みであったが、必ずしも発展途上国にとって貢献度の高い協力
とはいえなかった。
資源の開発に協力する代わりにその貴重な資源を輸入するといった発想でなければ長続
きできる関係にはなりえないのではないか。
したがって、あまり日本的な視点だけで資源のことを云々するよりも、日本が相手国と
ウィンウィンの関係で上手に双方が儲かる絵をかかないと、所詮、日本は島国国家だと言
われるだけだ。すなわち、外交力を駆使して双方が真に利益のある関係作りが必要だ。
日本と発展途上国との間で経済圏を構築することが真の国際協力につながるのである。
5.5 国家規模で新技術の開発に集中せよ
(4, p.158) は以下のように述べている。
日本のレアメタル産業を支える人々は弱者から強者への発想の転換が必要だ。日本の技
術者は新技術の開発で世界のターミナルを目指すべきだ。では、日本がレアメタル産業の
世界のターミナルになるためには何をすべきか。
資源がないという弱みを強みに転換する発想もある。
中国はこれまで第 10 次 5 カ年計画の中で資源の優位性を産業の優位性に転化する政策
を明確にしてきた。ならば我が日本は逆に技術の優位性を資源確保の優位性に転化する政
策を取るべきではないか。
まず、日本は国家規模で新技術の開発に集中するべきである。
日本の技術開発力が電子材料基礎分野に広範囲にあることは周知の事実だ。技術後進国
はデバイスのアッセンブリーから着手するため、材料技術については日本の技術に依存せ
ざるをえない。材料技術はますます日本が強くなっていく。
これは 10 年たっても 20 年たっても同じことで、中国、台湾、韓国がいくら開発にカを
入れても、これらの材料は日本から購入せざるをえない産業構造になっている。
しかし、そのレアメタル原料については、これまで問題なく買えたために注意を払って
こなかったツケが回ってきている。資源国は国際市況で供給するだけの話だ。電子材料素
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材は次々とイノベーションが進んでいる。この技術革新こそ日本の持ち味であるが、その
実力と価値に我々は気がついていなかったのである。
これらの素材をいかに効率的かつ安価に生産するかという生産技術に日本の特徴がある
が、今回のレアメタルパニックは、中間素材メーカーにとって存在を問い直すよい機会と
なった。
つまり、レアメタル原料は一方的に国際市況で値上げを余儀なくされるが、その値上げ
分を末端需要、すなわちデジタル家電メーカーや自動車メーカーに転化することができな
いのである。
中間材料メーカーは日本の産業構造の中で常にクッションとなり割を食ってきたが、さ
らにその下には、下請け企業が「協力」という美名のもとに割を食ってきたのである。
まさに、この柔構造の中で、春、夏、秋、冬と顔を合わせるたびに値下げ要求をされ
てきたものだからたまったものではないだろう。「原料高の製品安」が定着し、中間材料
メーカーは常に「利益なき繁忙」を強いられる構造なのである。
しかし、今回のレアメタルパニックが中間材料メーカーの発想を変えつつある。系列の
親会社に頭を押さえつけられていた中間材料メーカーは、独立性が高まり国際市場に高値
で輸出することで採算性の向上を図り始めたのだ。
さらに、まさに原料高騰が日本の加工メーカーの危機意識を変えたのである。
6 結論:都市鉱山ビジネスが教えてくれること
6.1 2 つの事例から学ぶべきこと
最初に第 2 節では、都市鉱山発掘の先駆的企業である横浜金属と DOWA ホールディン
グスの例を取り上げて論じた。
2.1 では、横浜金属は日本で初めて使用済み携帯電話から、金を取り出す事業を軌道に
乗せた企業であることが明らかになった。
2.2 では、DOWA ホールディングスは 120 年以上続く老舗企業で、鉱石を製錬して非
鉄金属を生産することを中核企業とする会社であることが明らかになった。
2.3 では、DOWA ホールディングスの事業構造改革で、勝てる見込みのあるコアビジ
ネスへは果敢に集中投資を行う一方で、コアビジネスでないと決めた事業は売却、撤退の
道を選び、
「製錬」
「電子材料・金属加工」
「環境・リサイクル」
「熱処理」の 4 分野が選ば
れたことが明らかになった。
2.4 では、DOWA ホールディングスが環境関連ビジネスに乗り出した経緯について、第
一に廃棄物処理事業に乗り出したこと、第二に製錬技術を使って焼却、無害化すること
に成功したこと、第三に国が環境対策に本腰を入れて動き出したことの 3 つが明らかに
なった。
2.5 では、DOWA ホールディングス発祥の地である秋田県小坂町が、DOWA グループ
が展開する都市鉱山ビジネスのおかげで元気を取り戻しつつあり、21 世紀型の循環型社
会に対応した新しい産業を創出しようと、産官学一体となって取り組みが進展しているこ
とが明らかになった。
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2.6 では、DOWA ホールディングスの子会社である小坂製錬が所有している、複雑鉱
処理技術ができる世界トップ 性能のリサイクル原料専用炉は、世界でも DOWA ホール
ディングスと ベルギーのユミコア社、カナダに製錬所を持つエクストラータ社の 3 社の
みだということが明らかになった。
2.7 では、DOWA ホールディングスが海外でも事業を展開していることについて、バー
ゼル条約の枠組みの中で、諸外国から使用済み IT 機器を原料として輸入するスキームが
大いに有望であると考え、そのための環境整備に精力的に取り組んでいることが明らかに
なった。
2.8 では、DOWA ホール ディングスの強みについて、回収した廃棄物を自社一貫体制
で適正かつ完全に処理できるため、顧客に信頼感を与えて大きな競争力となって強みに
なっていることが明らかになった。
第 3 節では、都市鉱山ビジネスとは何かについて横浜金属の例とともに論じた。
3.1 では、横浜金属において都市鉱山ビジネスを展開するための条件について、横浜金
属は創業以来、有価物を取り扱ってきた会社であることが明らかになった。
3.2 では、横浜金属がどのようなビジネスを展開しているのかについて、100 円の貴金
属を、100 円の貴金属地金にする精錬技術があって初めて成り立つビジネスであり、精錬
工程を低コストで賄うことができれば、それだけ会社としての利益は上がることになるこ
とが明らかになった。
第 4 節では、貴金属リサイクルビジネスがどうしたら成功するのかについて横浜金属の
例とともに論じた。
4.1 では、横浜金属の精錬技術はどれくらい凄いのかについて、50 年に近い歴史の中
で、さまざまな素材・構造の廃材と格闘してきたからこそ完成した技術で、たとえ複雑な
組成であっても、横浜金属にとっては「いつもの原料」に過ぎないというレベルに達して
いることが明らかになった。
4.2 では、横浜金属において鉱脈から回収されたリサイクル資源を再資源化する工程に
ついて、手解体することによって 98 パーセント以上のリサイクルが可能になり、仙台工
場で排出される産業廃棄物は 2 パーセント以下であるということが明らかになった。
4.3 では、98 パーセント以上のリサイクルを実現する手解体がなぜできるのかについ
て、仙台工場の解体作業の一部である周辺機器ラインでは、へルメットをかぶった知的障
害を持つ人たちがドライバーを片手に黙々と解体作業に取り組んでいることが明らかに
なった。
株式相場の世界に、
「人の行く裏に道あり、花の山」という格言がある。他人とは反対の
こと、誰もやらないことを黙々とやってきた人が大きな成功を手にするという意味だが、
ゴミに価値を見出して収益化した両社はまさにこの格言の実践例と言える。
両社は、他人が目を向けない「ゴミ」の中に、「宝の山」が隠れていることにいち早く
気付き、都市鉱山の発掘を進めた。
横浜金属は、映画製作会社の現像所が「どうせ (多摩川に) 流しているものだから、持っ
ていって構いませんよ」と語った写真現像廃液から銀が抽出できることに気付いた。
また、同和鉱業は、機械メーカーから頼まれて廃油の処理事業を行う中で、廃棄物の価
値を見出した。この気付きが都市鉱山ビジネスをいち早く発想し事業化することにつな
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がった。
地域で発生した課題に着目し (横浜金属の場合は撮影所が河川に放出する廃棄物による
公害問題、DOWA ホールディングスの場合は機械メーカーの廃油の処理問題)、その課題
解決に向けた取り組みの中から、環境問題改善型の新規ビジネスが創出されていった点
で、両社は共通している。
環境問題は地域に根差した問題であり、地域特性に応じた技術や事業が求められるた
め、新しい環境リサイクル事業は地域から始まると言える。
また、顧客の抱える難しい問題や厳しい注文に正面から立ち向かい、課題解決を図るこ
とが、画期的な技術や新たなビジネスモデルの創出といったイノベーションにつながると
いうことを、両事例はわれわれに教えてくれる。
両社とも、地球環境保全のための社会的要請や循環型社会の実現への貢献を意識してリ
サイクル事業に乗り出しているが、重要なポイントはリサイクル事業を採算のとれる事業
として軌道に乗せることに注力し、成功した点である。
横浜金属の場合、常識では日本国内では採算のとれない「手作業によるパソコンリサイ
クル事業」を、知的障害者と受刑者の起用による社会貢献と人件費削減という卓抜したア
イデアで事業として成立させることに成功した。
知的障害者施設と刑務所といった異なる主体との業務提携により、当初困難と見られた
事業を可能なものにするブレークスルーを成し得た点は注目に値する。
両社どちらのケースも、環境・リサイクル事業への進出 (多角化) は、全く不案内な分野
への新規事業展開ではなく、創業以来積み上げてきた固有の技術 (製錬技術) の蓄積が活
用できる事業分野であったことが、成功の一因になっている。
作家で老舗企業の研究家としても知られる野村進氏によれば、日本には創業 100 年を超
える会社が 10 万社以上あり、これは世界に例がないという。
そして、老舗企業として生き残る企業の 5 つの共通項を指摘しているが、その中に、
「時
代の変化にしなやかに適応すること」「それと同時に、創業以来の家業の部分は頑なに守
り抜いていること」の 2 つが挙げられている。
両社は、時代と社会の要請をとらえて環境・リサイクル分野に果敢に進出したこと、し
かもそれは自社のコア技術の蓄積を活かした事業展開であったことから、上記の 2 つの要
件を満たす企業であると言える。両社とも、環境問題への積極的取り組みにより企業ブラ
ンドを高めることに成功している。
また、秋田県小坂地区の事例は、地域発でリサイクル事業などの環境産業が生まれるこ
とは、地域の活性化に大きく寄与することを示している (? , p.167)。
6.2 都市鉱山による金属リサイクルの課題と留意点
第 5 節では、日本がどうしたらレアメタル産業に勝ち残れるのかについて例とともに論
じた。
5.1 では、鉱山投資はリスクが大きすぎるため民間企業が手を出しにくいので、国家規
模で海外探鉱を支援する制度を取り入れるべきだということについて、非鉄メジャーが売
りに出した案件を買収すればよく、確定埋蔵量を相場で買えば良い話であることが明らか
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になった。
5.2 では、日本の国家備蓄制度を見直すため、国家備蓄の重要性について、物づくりで
生きている日本に原料がなくなったらどうなるのかという危機感があることが明らかに
なった。
5.3 では、日本においてレアメタルの代替材料開発の重要性について、レアメタルの代
替材料開発のスピードは昔と比べると速くなり、資源の価格が上昇することと、安定的供
給が約束できない材料については敬遠されることも多くなったことが明らかになった。
5.4 では、日本の資源獲得の在り方についてどうしたら良いのかについて、資源開発に
関わる探査、調査、技術供与、そして鉱山開発のためのインフラ整備などに協力していく
べきであり、資源の開発に協力する代わりにその貴重な資源を輸入するといった発想でな
ければ長続きできる関係にはなりえないのではないかということが明らかになった。
5.5 では、日本がレアメタル産業で世界のターミナルになるためには何をすべきかにつ
いて、日本は国家規模で新技術の開発に集中し、技術の優位性を資源確保の優位性に転化
する政策を取るべきであることが明らかになった。
都市鉱山は日本にとって注目すべき価値ある鉱脈であるが、過度の期待や幻想を抱くべ
きではない。
都市鉱山には、次のような課題と留意点があるということを踏まえつつ、ブームに浮か
れることなく、冷静にその活用を推進していくべきである。
第一に、家電リサイクル法で定められた対象 4 品目 (冷蔵庫、エアコン、テレビ、電子
レンジ) 以外の IT 機器についても、回収を促進する仕組みづくりが必要である。
例えば、携帯電話は、使用済みの回収台数が年々減少している。電気通信事業者協会な
どの調べによると、携帯電話・PHS 端末の回収台数は 2000 年度の 1,361 万台をピークに
減少傾向にあり、2007 年度は 644 万台に落ち込んでいる。
回収が低調な背景には、携帯端末に保存した写真やメールなどの記録を思い出として手
元に保持したい利用者が増えていることが影響している。個人情報流出への懸念が強いこ
とや、ダウンロードしたゲームや音楽などが著作権保護のため、新端末に移行できないこ
とも背景にある。
更に、法的な面では、使用済み IT 機器が一般廃棄物となり、回収するに当たっては自
治体の許認可が必要になるという問題もある。こうした状況を打開するためには、使用済
み IT 機器を小売店等に持って行く消費者にインセンティブを与える仕組みや、法制化を
含めた IT 機器のリサイクル体制の整備などが必要である。
第二に、掘り尽くせば終わりの自然の鉱山と違って、都市鉱山は枯渇しないと思われる
かもしれないが、実は必ずしもそうとは限らない点に留意が必要である。
1 台の携帯電話やパソコンなどに使われる貴金属の量は年々少なくなっている。
低コスト化のために貴金属をあまり使用しない製品開発が進んだことにより、例えば
IT 機器の中の金の含有率は昔より相当低下している。貴金属価格が高騰するほど、この
傾向が強まり、都市鉱山の埋蔵量が細っていく可能性もある。
第三に、使用済み IT 機器からレアメタルを回収するリサイクル技術の確立が重要なこ
とはもちろんだが、盲目的に資源循環の実現を追求するあまり、採算性を度外視したり、
かえって環境負荷を高めてしまうことのないよう注意しなければならない。
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レアメタル回収においては、何が何でも回収するのではなく、その金属をどれほど効率
よく回収できるかという視点が重要である。
例えば、白金は、鉱石から製造するのに膨大なエネルギーと時間を要するため、資源・
環境保全の観点からリサイクルの徹底を図ることが望ましい。
しかし、インジウム (亜鉛製錬の副産物) のように、ベースメタルの副産物としても産出
されるレアメタルについては、必ずしも徹底的にリサイクルする必要はないとの指摘があ
る。都市鉱山からの金属資源の回収は、効率よく回収する「現代の錬金術」の開発とセッ
トで推進すべきものと言える (1, p.174)。
6.3 都市鉱山ビジネスから学ぶべきこと
都市鉱山から金属を回収してリサイクルすることは、技術的には以前から可能だった
が、ほとんど行われてこなかった。
それがここにきて急に開花した理由は、前述のように、資源価格高騰によって、都市鉱
山からの金属リサイクルが採算に乗るようになったためである。資源価格が大幅に上昇す
れば、今まで手を付けられなかった資源の開発が可能になる。
原油高騰を受けて、オイルシェール (油分を含む岩石) の開発などが加速しているのは
その一例であるが、都市鉱山の開発に拍車がかかっているのもこれと同様の現象と言って
よい。
製造業企業にとって、資源価格高騰は原料高を招く試練である一方で、資源リサイクル
事業や代替素材開発の採算性が高まるため、ビジネスチャンスが拡大する面もある。現
に、最近のレアメタル価格の上昇を背景に、多くの金属メーカーがレアメタルのリサイク
ル事業に参入し、レアメタルを回収する大型設備の建設に踏み出している。
また、化学メーカーは、電気機器製造に不可欠なレアメタルを含む素材の代替素材の開
発を活発化させている。
天然資源は資源国で「採れる」ものであり、
「つくる」より「使う」ものというイメージ
が強い。
しかし、本稿で見たように、科学技術の発展に伴い、地下にあった金属資源が地上に在
りかを変えて、日本は巨大な都市鉱山を抱える「地上の資源国」となっている。
また、日本はレアメタルの消費大国であると同時に、実は世界に冠たるレアメタルの生
産大国でもある。鉱石を製錬して純度の高いレアメタルをつくり出す技術において、日本
は世界最高水準の技術力を持っている。
以上から、次のようなことが言える。最近の「都市鉱山」開発の盛り上がりを単なる
ブームと見るべきではない。
資源価格高騰で生じたコスト構造などの環境変化を利用して、高い技術力を武器にして
資源の「生産」面で新たな価値を創造すれば、資源高という逆境を商機に変えることがで
きる。
都市鉱山ビジネスの勃興は、日本企業のこのような可能性を教えてくれる事例として注
目に値するものである。
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参考文献
[1] 平沼光『日本は世界1位の金属資源大国』(講談社 2011)
[2] 相原正道『携帯から「金」をつくる!』(ダイヤモンド社 2007)
[3] 馬場研二『地上資源が地球を救う』(技報堂出版 2008)
[4] 中村敏夫『レアメタル資源争奪戦』(日刊工業新聞社 2007)
[5] 原田幸明『図解 よくわかる「都市鉱山」開発』 (日刊工業新聞社 2011)
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