第1回関西ものづくりシーズ発表会 2014/9/29(國民會館,大阪) 高温での強度・硬さ特性に優れた Ni基金属間化合物合金 大阪府立大学 工学研究科 マテリアル工学分野 准教授 金 野 泰 幸 1 現用耐摩耗材料の問題点 金型や切削工具などには耐摩耗性に優れた工具鋼や超硬合金な どが多用されているが,これらの材料は高温になると硬さが著し く低下し,耐摩耗性が劣化する。 ■工具鋼の問題点 焼戻し温度を超えると,金属組織や炭化物の効果が消失 ■超硬合金の問題点 結合剤(バインダー)に使用される金属相(CoやNi)が高温 で軟化 ■ニッケル超合金の問題点 硬さレベルが高くなく,耐摩耗材料としては不十分 ■セラミックスの問題点 靱性が低く,高価 高温でも高い強度・硬さを維持する材料が必要 2 金属間化合物のポテンシャル 金属間化合物とは?: 少なくとも一つの金属元素を含む化合物(AmBm) 金属間化合物を用いた材料開発 ①Ni基超々合金,②NST合金 3 ①Ni基超々合金 2重複相金属間化合物(Ni基超々合金) 最密充填構造(GCP)金属間化合物であるNi3Al (L12)相とNi3V(D022)相が2重に階層化され, 微細・整合に配置された2重複相組織を有する, 構成相のすべてが金属間化合物相である 複相金属間化合物合金. Ni3Al(L12) 上部複相組織 下部複相組織 (SEM組織) (TEM組織) Ni3V(D022) 4 超々合金の高温引張特性 1400 引張強度 (MPa) 1200 1000 超々合金#4 超々合金 (鋳造材) 800 600 400 Udimet 520 超合金(展伸材) 200 0 0 Waspaloy Inconel 718 200 400 600 800 1000 試験温度 (℃) 現用の超合金を上回る優れた高温高強度特性 900℃における引張強度:Inconel 718の3倍以上,Waspaloyの1.5倍, Udimet 520の1.3倍 5 超々合金の耐環境性 耐酸化特性 耐腐食特性 腐食減量(g/m2 h) 40 消 消 失 失 30 20 腐食減量ほとんどなし 10 0 #1 #2 #3 #4 超々合金 Inconel Monel 718 400 Inconel X750 Hastelloy C276 Ni合金 SUS 304 SUS 430 SUS 310S SUS 316L ステンレス 各種腐食溶液(塩酸,硫酸,硝酸 ,酢酸)中で優れた耐腐食特性 酸化による重量増加量(g/cm2) 塩酸(36%), 室温, 24hr 50 0.04 酸化重量増加ほとんどなし 0.03 比較合金 0.02 (CMSX-4) 0.01 0 超々合金 105 106 1000℃加熱時間(秒) 約30日間 現用タービンブレード材料より 優れた高温耐酸化特性 6 超々合金の浸炭・窒化による表面硬化 C N 窒化層 EPMA 浸炭層 5μm 5μm 炭素のEPMA元素マッピング 窒素のEPMA元素マッピング 1000HVを超える表面硬さ 900 800 PC1023K-2h PC1023K-8h PC1023K-48h PC1023K-100h based hardness 700 600 500 400 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 Distance from surface (m) 深さ方向の硬さ分布 1200 Vickers hardness (Hv) Vickers hardness (Hv) 1000 PN848K-2h PN848K-48h PN848K-100h based hardness 1100 1000 900 800 700 600 500 400 0 5 10 15 20 25 30 Distance from surface (m) 深さ方向の硬さ分布 35 40 7 ②NST合金 L12構造のNi3(Si,Ti)基金属間化合物合金 ■ 強度の逆温度依存性を示す ■ 耐食性,耐酸化性に優れる B A ■ 冷間加工が可能 ■ 水素生成触媒能を有する Ni3(Si,Ti)(200m) L12(A3B) Ni3(Si,Ti)(30m) 8 常温引張特性比較 合金 Ni3(Si,Ti) インコネル X-750 引張強さ (MPa) 0.2%耐力 (MPa) 1500 - 2350 800 - 2050 伸び (%) 5.5 - 30 1137 690 20 ハステロイ X 785 360 43 ステンレス SUS304 660 285 60 ステンレス SUS430 510 310 29 1275 1200 6 930 855 12 Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al Ti-6Al-4V 市販のニッケル合金やステンレス鋼,さらにはチタン 合金と比べても格段に高い引張強度を示す. 9 耐食性(塩酸浸漬試験,常温,24h) Ni3(Si,Ti) Ni3(Si,Ti)+Nb Ni3(Si,Ti)+Cr Ni3(Si,Ti)+Nb,Cr 2.80 0.62 2.5 0.85 Inconel X750 SUS430 SUS304 SUS316L 10.4 消失 消失 9.61 外 観 腐食減量 (g/m2・h) 外 観 腐食減量 (g/m2・h) Ni3(Si,Ti)は耐食性にも優れ,特にステンレス鋼が苦手とする 塩酸中で,優秀な耐腐食性を示す。Nbを添加することで, Ni3(Si,Ti)の耐塩酸腐食性はさらに向上。 10 耐酸化特性 酸化増量 (g/cm 2) 10-2 900℃ Co3Ti SUS310S NST 10-3 NST-4Ta Inconel X750 10-4 Hastelloy C276 10-5 10-6 0 1000 2000 3000 暴露時間 (min) Ni3(Si,Ti)はHastelloy合金に肉薄する良好な耐酸化性 11 高温硬さ特性 ビッカース硬さ (HV) 1400 WC-Co 超硬合金 1200 1000 800 Ni3Al/Ni 3V 超々合金 SUS440C 600 400 高温ではNi基金属間 化合物合金が超硬合 金の硬さを上回る. NST-5Ta 200 0 200 400 600 800 温 度 (℃) Ni基超々合金,NST合金は温度上昇に伴う 硬さの低下が小さい。 12 応用例1(耐熱ボールベアリング) ■耐熱・耐食ボールベアリング 外輪 保持器 ボール 内輪 ボールベアリング完成品 600℃実機耐熱試験 13 ベアリング耐熱試験結果(600℃) 摩耗粉:ほとんど無し 摩耗粉:ごく少量 Nb-NST 試験時間 現行耐熱ベアリング (SUS440C) 超々合金(#2) Nb添加-NST合金 123h 摩耗粉:大量 超々合金(#2) 132h SUS440C 100h 内輪摩耗量 0m 71m 711m 外輪摩耗量 22m 24m 780m 推定寿命 8,336h 2,072h 100h 14 摩擦攪拌接合とその利点 摩擦攪拌接合(FSW; Friction Stir Welding) 回転したツールを被接合材に接触させ,発 生した摩擦熱によって被接合材を高温状態 にして可塑化し,固相状態で接合する新し い高品質接合技術。 摩擦攪拌接合の利点: 接合線 摩擦攪拌接合(FSW) 固相接合なので接合部の強度低下が 小さい(強度向上の場合もあり). アーク溶接に比べ接合部の歪みや変 形が少ない. 気孔,割れなどが生じにくい. 熟練技術や溶接免許が不要である. 溶融接合(溶接) 15 応用例②(FSWツール) 被加工材:SS400(一般構造用圧延鋼材) 超々合金ツール 超々合金製ツール 使用前(↑),使用後(↓) 比較ツール 約50mのFSW施行後もツール摩耗は ほとんど生じていない. 16 ハイブリッド合金の開発コンセプト 超硬合金 Ni基金属間化合物合金 ハイブリッド合金 + 中低温で高硬度 高い高温強度・硬度 良好な耐酸化性・耐食性 超硬合金とNi基超々合金の 長所を兼備した新型合金 超硬合金の結合剤(バインダー)にNi基超々合金を用いる ことで低温から高温に至る広い温度域で優れた耐摩耗性が期 待される。 17 開発材の高温硬さ特性 TiB2/NST焼結体 TiC/超々合金焼結体 1200 30%TiB 2 1000 WC-Co 10%TiB 2 500 78.0Ni (0%TiB 2) Bulk(base) 0 SPS900℃→1050℃-24h 0 200 400 600 温 度 (℃) 800 ビッカース硬さ (HV) ビッカース硬さ (HV) 1500 1000 Ta添加-50%TiC 800 600 Ti添加-50%TiC 400 200 0 0 200 400 600 800 1000 温 度 (℃) NST-30vol.%TiB2 および50vol.%TiC添加超々合金焼結 体は800℃で600HV以上の優れた高温硬さを実現した。 18 Ni基超々合金のプラズマ溶射 2.5Nb 1280℃-3h(SEI) 皮膜:Ni基超々合金 熱処理 基板:SUS304 1µm 100µm 1280℃-3h(TEM) ステンレス板上にプラズマ溶射された Ni基超々合金コーティング皮膜の断面写真 基板 約200HV 溶製材 560HV 2.5Nb As sprayed 1280℃- 3h 1050℃- 3h 400µm 1050℃-24h 皮膜中に2重複相組織が形成 950℃- 3h 950℃-24h 0 200 400 600 ビッカース硬さ(HV) 800 ←熱処理後は皮膜の硬さが上昇。950℃, 1050℃-24hの熱処理後も硬さの低下は 小さい(耐熱性良好)。 19 想定される技術移転 ■ 想定される用途(耐摩耗用途) 高温用ドリル・バイトなど耐熱切削工具,高温用軸受など耐 熱摺動部品,高温用ボルト・ナットなどの耐熱締結要素部品, 高温用ダイス,高温金型等の耐熱工具など。 その他,高温腐食環境下や,海水中などの溶液中で耐摩耗性 が要求される部材など,広範囲な用途が想定される。 ■ 想定される業界 機械・金属産業全般,自動車・輸送用機器業界,建築・土木・鉱 山産業分野,化学工業など。 20 実用化に向けて 企業様へのお願い ■用途提案 企業 用途に応じた材料特性の向上 ■強度・硬さ特性向上 ■耐食・耐酸化性の向上 ■耐熱性向上 ■コスト低減 大学 合金設計(成分,組成) 製造プロセスの確立・最適化 企業 大学 ■溶解鋳造 準工業規模の健全素材製造(試作品作製) ■粉末冶金 ■塑性加工(熱間鍛造,伸線加工など) ■表面処理 21 本技術に関する知的財産権 特許第4756974号,Ni3(Si,Ti)系箔及びその製造方法,公立大学法人大阪府立大学 特許第5010841号,Ni3Si-Ni3Ti-Ni3Nb系複相金属間化合物,その製造方法, 高温構造材料,公立大学法人大阪府立大学 3. 特許第5127144号,2重複相組織からなるVおよびTiを含有するNi3Al基金属間化合物 及びその製造方法,耐熱構造材,公立大学法人大阪府立大学 4. 特許第5146935号,VおよびNbを含有し,かつ,二重複相組織を有するNi3Al基金属 間化合物,およびその製造方法,耐熱構造材,公立大学法人大阪府立大学 5. 特許第5162492号,高い高度を有するNi基金属間化合物合金,公立大学法人大阪府立 大学 6. 特許第5327644号,ニッケル系金属間化合物,当該金属間化合物圧延箔および 当該金属間化合物圧延板または箔の製造方法,公立大学法人大阪府立大学 7. 特許第5565776号,Wが点火されたNi3(Si,Ti)系金属間化合物及びその製造方法, 公立大学法人大阪府立大学 8. 特許第5565777号,Taが添加されたNi3(Si,Ti)系金属間化合物,公立大学法人 大阪府立大学 9. US 8,197,618 B2,Ni3Al-based intermetallic compound including V and Nb, and having dual multi-phase microstructure, production method thereof, and heat resistant structural material, Osaka Prefecture University Public Corporation 10. GB2447222,Ni3Al-based intermetallic compound with dual multi-phase microstructure, production method thereof, and heat-resistant structural material, Osaka Prefecture University Public Corporation ほか 1. 2. 22 問い合わせ先 公立大学法人 大阪府立大学 産学官研究連携推進センター 濱田 糾(コーディネーター) 〒599-8570 大阪府堺市中区学園町1-2 Tel 072-254-8263 e-mail [email protected] 工学研究科マテリアル工学分野 金野 泰 幸(研究者) 〒599-8531 大阪府堺市中区学園町1-1 Tel 072-252-1161(内線)5701 e-mail [email protected] 23
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