獣毛総合研究所研究報告 平成 26 年 3 月 31 日 マンモスとゾウの体毛、及び他の獣毛との電子顕微鏡による形態比較 一般財団法人ケケン試験認証センター 獣毛総合研究所 丸茂征也 1.緒言 2.比較検証方法 繊維製品にカシミヤ、羊毛等の獣毛が使用さ 各獣毛試料について、特徴のある側面部分を走 れていた場合、その混用率を算出する試験方法 査電子顕微鏡を用いて 50 倍、100 倍、200 倍、500 としては、一般的には、日本工業規格である JIS 倍、1500 倍で撮影し観察した。 L 1030-2 繊維製品の混用率試験方法に規定され ている顕微鏡法と呼ばれる方法によって行う必 要がある。この方法は、光学顕微鏡もしくは電 3.研究試料 子顕微鏡を用いて、毛の外観観察を行いその特 長鼻目ゾウ科 徴の違いから毛種を判別するものである。これ ・ケマンモス: 「特別展マンモス YUKA」で入手 まで当研究所でも衣料素材としての獣毛の鑑別 ・アジアゾウ:名古屋市東山動物園より提供 について、その鑑別技術の維持及び向上に努め ・アフリカゾウ:名古屋市東山動物園より提供 てきた。しかしながら、最近では衣料素材用途 偶蹄目イノシシ科 以外の獣毛、例えば毛皮、ブラシ、食品等に混 ・イノシシ:ケケンデータベース 入の異物などの試験鑑定依頼が増えており、当 ・ブタ:ケケンデータベース 研究所においてもそれらの要望に応えるためさ 偶蹄目ウシ科 まざまな獣毛のサンプルを収集しデータベース ・ウシ(肉用種):ケケンデータベース 化してきた。 ・羊毛(メリノ種) :ケケンデータベース 今回、2013 年 7 月 13 日~9 月 16 日にパシフ ・カシミヤ:ケケンデータベース ィコ横浜で開催された 「特別展マンモス YUKA」 ・モヘヤ:ケケンデータベース でケマンモス(Mammuthus primigeniusu)の ・カモシカ:ケケンデータベース 体毛標本を入手し、その電子顕微鏡による外観 偶蹄目ラクダ科 を種が近いとされているゾウ(アジアゾウ ・アルパカ:ケケンデータベース Elephas maximus)を始め、多種の獣毛と比較 ・キャメル:ケケンデータベース しその違いについて当研究所の長年の経験を持 偶蹄目シカ科 って検証し、その結果を広く公開する。これま ・トナカイ:ケケンデータベース でこのような研究報告については過去に例がな 奇蹄目ウマ科 く画期的なものであると考える。この報告を生 ・ウマ:ケケンデータベース 産者、消費者や教育者、学習者が利用することに ウサギ目ウサギ科 よって繊維製品の獣毛混用率顕微鏡法への理解を ・アンゴララビット:ケケンデータベース 深めることに期待する。 1/7 本報告書の全部または一部の無断複写・転用はお断りいたします。 4.結果及び考察 4.1各試料の走査電子顕微鏡写真 図 1. ケマンモス ×200 図2. ケマンモス ×500 図3. アジアゾウ(頭部)×200 図4. アジアゾウ(頭部)×500 図5. アフリカゾウ(尾)×50 図6. アフリカゾウ(尾)×100 2/7 本報告書の全部または一部の無断複写・転用はお断りいたします。 図7.イノシシ ×200 図8.イノシシ ×500 図9. ブタ ×200 図 10. ブタ ×500 図 11. ウシ(肉用種) ×200 図 12. ウシ(肉用種) ×500 3/7 本報告書の全部または一部の無断複写・転用はお断りいたします。 図 13. 羊毛(メリノ種) ×500 図 14. 羊毛(メリノ種) ×1500 図 15. カシミヤ ×500 図 16. カシミヤ ×1500 図 17. モヘヤ ×500 図 18. モヘヤ ×1500 4/7 本報告書の全部または一部の無断複写・転用はお断りいたします。 図 19. カモシカ ×200 図 20. カモシカ ×500 図 21. アルパカ ×500 図 22. アルパカ ×1500 図 23. キャメル ×500 図.24 キャメル 5/7 本報告書の全部または一部の無断複写・転用はお断りいたします。 図 25. トナカイ ×200 図 26. トナカイ ×500 図 27. ウマ(尾) ×200 図 28. ウマ(尾) ×500 図 29. アンゴララビット ×500 図 30. アンゴララビット ×1500 6/7 本報告書の全部または一部の無断複写・転用はお断りいたします。 アンゴラ(図 29. 図 30.)についてはウサギと 4.2 比較検証 ケマンモス(図 1. 図2.)については、3万9 いうこともありウサギの特徴を有している。 000年前のものといわれているが、保存状態が 比較的良く、スケールもある程度残留しておりそ 5.総括 の形状が確認できる。一方、アジアゾウ(図3. 図 4.)についても、一部、スケールの損傷がみられ 今回は、走査電子顕微鏡を用いた側面の表面の るが、スケールの形状は確認できる。アジアゾウ みの形態観察による比較を行った。その中でイノ 属とマンモス属とは DNA 的に最も近縁であると シシとブタでは形態に類似点が見られたものの、 いわれているが、スケールパターンや密度につい 偶蹄目ウシ科やラクダ科の試料については大きな ては特に類似点を見つけることはできなかった。 類似点はみられなかった。また、長鼻目ゾウ科の また、アフリカゾウ(図5. 図6.)については繊 ケマンモスとゾウについても同様に類似点が見ら 維直径が約 1mm と非常に太く、スケールも不明 れなかったことでそれぞれが独自の進化を遂げた 瞭なため比較を行うことができなかった。 可能性を伺わせるものとなり非常に興味深い結果 その他の獣毛の形態比較では、イノシシ(図7. となった。 図8.)とブタ(図9. 図 10.)はパターン、厚さ、 今回は毛の部分的な観察にとどまったことから、 密度ともにほぼ一致した特徴を持っていることが 毛1本での先端、中心、根元で観察を行うと新た 確認された。 な知見が得られる可能性があるため、今後の研究 偶蹄目ウシ科の動物であるウシ (図 11. 図 12.) 、 課題としたい。また、それに加え今後、光学顕微 羊毛(図 13. 図 14.) 、カシミヤ(図.15 図 16.) 、 鏡を用いた毛髄、色相や断面形状の観察による比 モヘヤ(図.17 図 18.) 、カモシカ(図 19. 図 20.) 較も検討している。 については、それぞれ特有の特徴を持った形態を しており、それらの比較ではカシミヤとモヘヤに 6.謝辞 一部類似した部分がみられたものの特に各獣毛に 一致した特徴を見られなかった。 本研究に使用したゾウの毛の試料提供にあたり 偶蹄目ラクダ科であるアルパカ(図 21. 図 22.)、 名古屋市東山動物園様には多大なご協力をいただ キャメル(図 23. 図 24.)については、スケール きました。この場をお借りしまして厚く御礼申し パターン、厚さ、密度において特に一致した特徴 上げます。 はみられなかった。 トナカイ(図 25. 図 26.)は独特の外観形状で あり一部繊維が変形しているような部分も観察さ れた。また、他と比較しても特に類似しているよ うな特徴はなかった。 ウマ(図 27. 図 28.)については、尾部分であ ったこともあり繊維直径が太く、スケールの特徴 としても薄く、密度が大きい特徴を持っている。 スケールの密度についてはブタやイノシシと類似 しているが、パターンについては全く異なる特徴 を持っている。 7/7 本報告書の全部または一部の無断複写・転用はお断りいたします。
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