2014・15年度 内外経済見通し(PDF/1.2MB)

2014・15年度
内外経済見通し
2014年8月15日
[海外経済]先進国を中心に緩やかに回復
◆米国経済:財政緊縮による下押しが薄れる中、民間需要が緩やかに拡大。
2015年後半に利上げへ
2014年:+2.1%(6月予測+2.2%)
2015年:+2.9%(6月予測+2.9%)
◆欧州経済:輸出・設備投資主導で回復が続くものの、バランスシート調整
圧力が残る国も多く、低成長にとどまる見通し
2014年:+0.8%(6月予測+1.0%)
2015年:+1.2%(6月予測+1.3%)
◆アジア経済:輸出を中心に景気は緩やかに拡大。景気対策効果で一時的に
持ち直している中国は、2015年にかけて再び減速
2014年:+6.0%(6月予測+5.9%)
2015年:+6.0%(6月予測+5.9%)
[日本経済]二度の消費税率引き上げを乗り越え、景気拡大を維持
◆年度後半にかけて、個人消費・設備投資が回復
2014年度:+0.5%(6月予測+1.1%)
◆輸出と民間需要が回復。二度目の消費税率引き上げ後も景気回復を維持
2015年度:+1.5%(6月予測+1.5%)
チーフエコノミスト:高田 創
[経済予測チーム]
山本康雄(全体総括)
・米国経済
小野 亮
山崎 亮
・欧州経済
中村正嗣
松本 惇
・アジア経済
宮嶋貴之(総括)
玉井芳野(中国)
・日本経済
徳田秀信(総括)
大和香織(企業)
風間春香(財政・物価)
坂中弥生(企業)
齋藤 周(家計)
・原油
井上 淳
・金融市場総括
武内浩二
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ません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確
性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されるこ
ともあります。
今回の見通しのポイント
<海外経済>
○2014 年の世界経済成長率(みずほ総合研究所が予測対象とする国・地域の加
重平均)は+3.1%と 2013 年並みにとどまるが、年後半にかけて先進国を中
心に回復ペースがやや強まる見通し。ユーロ圏が 3 年ぶりのプラス成長とな
るほか、4∼6 月期以降の米国は年率 3∼4%の成長を維持。一方、BRICs 諸国
を中心に、新興国の成長率は若干低下。
○2015 年の世界経済成長率は+3.5%に緩やかに高まる見通し。米国の成長率
が 2%台後半に高まり、ユーロ圏の成長率も緩やかに高まると予測。一方、
新興国は前年並みの成長にとどまる見通し。
○新興国経済の下振れ、地政学的リスクの高まりが懸念材料。過剰投資の問題
を抱える中国経済の減速リスクのほか、ウクライナや中東地域の緊張が高ま
ることによる金融市場・原油相場への影響にも留意が必要。
<日本経済>
○駆け込み需要の反動が一巡する 7∼9 月期以降、景気は緩やかな回復軌道に
戻る見込み。賃上げやボーナス増を背景に、個人消費が持ち直し。公共投資
も景気を下支え。海外景気の回復と円安を背景に、輸出も年後半にかけて緩
やかに増加すると予測。ただし、4∼6 月期のマイナス成長が響き、2014 年度
成長率は+0.5%にとどまる見通し。
○2015 年度上期に消費増税(10 月に 10%へ引き上げ)前の駆け込み需要が発
生する一方、下期は反動などで一時的に落ち込む見通し。それでも、輸出の
増加や景気対策(1.5 兆円程度の公共投資追加を想定)が支えとなり、景気
後退は回避。2015 年度の成長率は+1.5%と予測。
○輸入物価ピークアウトの影響で、コアCPI前年比(消費税率引き上げの影
響を除く)は 2014 年度半ばに一旦 1%近傍まで低下し、2 年で 2%のインフ
レ目標は達成できない可能性大。もっとも、2015 年度はベアがさらに高まり、
輸入物価やエネルギー価格の影響を除く基調的なインフレ率は着実に改善し
ていく見通し。
I.チーフエコノミストの視点
∼2014年は期待外れが続くが、世の中がそう暗くはないのはなぜ∼
年初の楽観シナリオは世界
2014 年の経済見通しの変遷を年初から振り返れば、先ず 2 月の見通し改訂
的に期待外れ、我慢の局面
時に、米国の成長率を家計部門のバランスシート調整が終盤に向かったとの昨
が続いた
年来の認識の下、上方修正した。同時に、異例の 2 年連続のマイナス成長に見
舞われたユーロ圏では、2014 年には前年比で1%台のプラス成長に回復する
とし、また、日本については、4 月の消費税率引き上げに伴う一時的な景気減
速が予想されるものの、持続的回復シナリオを維持した。その後を振り返れば、
年初の世界的に楽観的な回復シナリオは期待外れであった。
5 月見通しでは、米国の成長率を年初の寒波の影響から大幅に引き下げてい
たが、今回、さらに引き下げた。4 月の消費税率引き上げに伴い 4∼6 月期の
マイナス成長が見込まれていた日本についても、天候要因も手伝う形での予想
以上の大幅な経済の落ち込みから、更なる下方修正を加えた。ユーロ圏でも、
デフレ懸念など「日本化論」が強まるなど、回復は思わしくない。年前半を振
り返り、日米欧の成長力が予想以下であったことに加え、地政学的な不安も加
わって新興国不安が続いたことも世界的な下押し要因となった。新興国の回復
力は鈍くても、先進国が世界経済の回復をけん引する「ネオ・デカップリング
シナリオ」が想定されていたが、世界経済のけん引役が不在であったことが
2014 年前半の特徴と言える。
ただし、過去に見られた経済の大きな下方屈折に陥り、先行きへの悲観論が
強まる状況でもない。もっとも、市場では「長期停滞論」が根強く語られるな
ど、世界的に大恐慌以来の調整からの出口は一進一退であり、従来の循環局面
のような急回復にはなりにくいとの認識が深まっているのではないか。5 月見
通しの段階で、筆者は「我慢の局面」としたが、3 カ月を経て内外ともにそう
した認識が更に強まったように思える。
図表 1
日米独の 10 年国債利回り推移
(%)
6.0
日本
米国
ドイツ
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
(暦年)
(資料)Bloomberg
1
年初の金利上昇シナリオは
足元の市場の特徴は前頁図表 1 にも示されるように、世界的に長期金利の低
一転し、世界的な低金利に
下状況が続くことにある。米国の国債利回り(10 年)は 2013 年に底打ちした
状況にあるが、足元では 2.4%近傍に低下している。ドイツの国債利回り(10
年)は 1%を割り、史上最低水準を記録した。年初は世界的に楽観的な見方が
強く、債券から株式への資金シフト、すなわち、
「グレートローテーション」
に伴う金利上昇シナリオが強かった。しかし、実際は、前回も議論したように、
株式相場も債券相場も程よい状況、
「ゴルディロックス」となり、当面、こう
した状況が続くと展望される。
ゴルディロックスが続く
この「ゴルディロックス」という見方の背景には、日米欧の 2007 年以降の
バランスシート調整の深度がかつてなく大きかったことを受けて、その調整の
終了には当初想定よりも時間を要するとの意識が生じた面が大きい。世界的に
みて日米欧の先進国はかつてない需給ギャップを抱えている。その結果、米国
では金融政策が出口戦略に向かい始めたが、依然ディスインフレの状況が続
く。ユーロ圏経済もISバランスでは大幅な需要不足を抱え、その結果、経常
収支は大幅な黒字となっている。新興国(とりわけ中国)は本質的にバランス
シート調整に入りだしただけに、急な回復は期待しにくい。加えて、日本経済
についても、消費税率引き上げ後の自動車を中心とした耐久財の在庫積み上が
りに伴う在庫調整不安、海外経済の減速に伴う輸出の下振れ不安などが浮上し
ている。それだけに、2014 年前半は内外ともに期待外れの部分が多かったの
も確かだ。結果として、年前半は明確な世界のけん引役不在のなか、
「ゴルデ
ィロックス」になったと考えられる。以上の認識は前回の段階で想定していた
ストーリーラインでもあったが、当初想定以上に回復感は鈍かった。
従来と異なるバイオリズム
今回は、多くの市場参加者が経験してきた相場の転換点における従来の株
高・金利上昇のバイオリズムと大きく異なる。日米欧はいずれもバランスシー
ト調整からの出口を見据え始めたとはいえ、バランスシート調整の深度があま
りに深刻であったことを改めて認識したものと考えられる。出口を意識しつつ
も、その出口の時間軸が予想以上に長いという実感が今回も前回に引き続いて
の印象だ。長期停滞論、ないしは「日本化現象」ともされやすい。
不安は多いが、先行きの暗
さがないのはなぜ
但し、従来の景気下方屈折が生じた局面に比べて悲観ムードは比較的乏し
く、企業や家計のマインドは相応に改善しているのも今回の特色だ。その背景
には、日本においては 1990 年代以降の未曾有の調整からの出口が初めて意識
されていること、欧米でも 2007 年以降の深刻な調整からの出口が意識されて
いることが挙げられる。今回、筆者が注目するのは、世界経済の回復感が鈍い
ものの、市場での先行き不安や景気屈折不安は限られていることだ。欧米の株
式市場は史上最高値圏にあり、過熱感もある。景気の回復は緩やかではあるが、
米国の金融政策は出口に向かうとのコンセンサスは変わらない。日本も消費税
率引き上げによる減速があるとしても、景気回復基調が続くとの見方は変わっ
ていない。
2
今回は世界的な金融緩和と
金余りの継続
世界的な金余りによる資産価格上昇も支えになっている。世界の株高、債券
高の背景には先進国を中心とした大規模な金融緩和に伴う潤沢なマネーの存
在があると考えられる。図表 2 は、日米の「マーシャルのk」
(マネーサプラ
イ÷名目GDP)であるが、2000 年代以降、右肩上がりで上昇し、名目GDP
とマネーサプライの乖離はリーマンショック以降、さらに大きくなっている。
こうした状況の継続が、世界的な金余りによる資産市場の膨張を生じさせてい
ると考えられる。
図表 2
0.75
(%)
【米国】
0.60
1.8
35
マーシャルのk
0.70
0.65
日米の「マーシャルの k」推移
30
1.6
20
0.55
15
0.50
10
0.45
5
0.40
0
トレンドからの乖離
(右目盛)
(年/四半期)
0.30
00
02
04
06
08
10
12
14
15
1.4
10
1.2
5
1.0
0
トレンドからの乖離
(右目盛)
0.8
-5
(年/四半期)
-10
00
02
04
06
08
10
(注)マーシャルのk=M2/名目GDP
(資料)米商務省、FRB
(資料)日本銀行、内閣府
口はこれまでと異なる
-5
-10 0.6
(注)マーシャルのk=M2/名目GDP
大恐慌以来の調整からの出
20
(%)
トレンド
(1990Q1∼2008Q2)
マーシャルのk
25
トレンド
(1990Q1∼2008Q2)
0.35
【日本】
12
14
今回の状況は、米国における戦後最大、大恐慌以来のバランスシート調整か
らの出口局面という特性をもっている。それだけに、そうした震度を認識して
いるFRBは従来と比べても極めて緩やかな金融政策の出口戦略をとる必要
を認識しているものと考えられる。米国における個人や企業の姿勢が依然慎重
化した状況にあり、需給ギャップを抱えるなか、金融緩和の長期化が必要とな
りやすい。それだけに、先に示した過去の利上げ局面のバイオリズムとは異な
る、これまで誰も体験したことがない環境にあることも認識する必要がある。
同時に、過去とは異なるなかでの緩和継続が、長期的に何れかの段階では、相
応の調整リスクも帯びるというのが今後の状況であろう。
我慢の時期が続くが、先行
きに出口を展望も
2014 年前半は世界的に足踏み要因も多く、バランスシート調整からの出口
には時間を要するとの認識が生じている。日本の足元の状況は、消費税率引き
上げに伴う一時的減速のなかで不透明感が生じているものの、先行きへのマイ
ンドは改善している。足元の減速はあっても、バブル崩壊からの出口を掴みだ
したとの認識が底流にはあるのではないか。引き続き、年後半に向けて着実な
回復に戻るまでの我慢の時期と考えている。
(チーフエコノミスト 高田 創)
3
Ⅱ.世界経済の現状と展望
2014 年 4∼6 月期の世界経済
2014 年 4∼6 月期の世界経済は、低調だった 1∼3 月期から米国・中国を中
は持ち直し
心に持ち直した模様である。
米国の 4∼6 月期の実質GDPは前期比年率+4.0%(1∼3 月期同▲2.1%)
と、2 四半期ぶりのプラス成長となった(図表 3)
。1∼3 月期は寒波の影響で
マイナス成長となったが、4∼6 月期は個人消費・設備投資の伸びが高まった
ほか、住宅投資も増加に転じた。
ユーロ圏の 4∼6 月期の実質GDP成長率は前期比年率+0.2%(1∼3 月期
同+0.8%)に鈍化した。ドイツがマイナス成長となったが、カレンダー要因
による一時的なものとみられる。ユーロ圏全体でみると、景気は緩やかな回
復基調が続いている。
中国の 4∼6 月期の実質GDP成長率は前年比+7.5%となり、1∼3 月期の
同+7.4%からやや高まった。政府による景気支援策の効果で固定資産投資の
伸びが小幅ながら高まったほか、輸出も持ち直した。
中国以外のアジアは、欧米向け輸出の持ち直しにより若干回復感が強まって
いる。台湾・ベトナムの成長率が高まったほか、各国統計からみるとインド・
マレーシア・タイの成長が加速したとみられる。ただし、韓国・インドネシア
は内需が伸び悩み、成長率が鈍化した。
一方、4∼6 月期の日本の実質GDPは、消費税率引き上げの影響で前期比年
率▲6.8%(1∼3 月期同+6.1%)と大きく落ち込んだ。
図表3
主要国・地域の実質GDP成長率
(前期比年率、%)
2013年
1∼3月
米国
ユーロ圏
2014年
4∼6月
2.7
7∼9月 10∼12月 1∼3月
1.8
4.5
3.5
▲ 2.1
4∼6月
4.0
▲ 0.8
1.3
0.4
1.2
0.8
0.2
日本
5.2
3.4
1.4
▲ 0.2
6.1
▲ 6.8
韓国
2.5
4.1
4.4
3.6
3.8
2.4
台湾
▲ 2.2
3.8
0.1
7.6
1.9
5.9
香港
2.1
2.1
3.1
3.7
1.0
1.9
10.2
0.7
6.9
1.8
タイ
シンガポール
▲ 5.4
0.7
6.1
0.5
▲ 8.2
マレーシア
▲ 1.2
6.8
7.1
7.6
3.3
フィリピン
8.7
6.7
4.1
6.9
4.7
オーストラリア
1.1
3.7
2.8
3.2
4.5
ブラジル
1.5
6.6
▲ 1.2
1.8
0.7
0.1
(前年比、%)
中国
7.7
7.5
7.8
7.7
7.4
7.5
インドネシア
6.0
5.8
5.6
5.7
5.2
5.1
ベトナム
4.8
5.0
5.5
6.0
5.1
5.3
インド
4.4
4.7
5.2
4.6
4.6
ロシア
0.8
1.0
1.3
2.0
0.9
(資料)Datastream、CEIC、各国統計
4
0.8
世界経済は先進国を中心に
2014 年の世界経済成長率(みずほ総合研究所が予測対象としている国・地
緩やかに回復
域の加重平均値)は+3.1%と 2013 年並みにとどまるが、年後半にかけて先進
国を中心にやや回復感が強まってくると予測している(図表 4)
。米国が年率
3%台の成長を維持するほか、ユーロ圏も緩やかな景気回復が続く見通しであ
る。一方、中国経済が緩やかに減速することなどから、アジアの成長率は 2013
年並みにとどまる見通しである。ブラジルやロシアの成長率も低下するなど、
新興国には停滞感が残るであろう。2015 年も先進国の緩やかな景気拡大が続
く一方、
新興国経済は伸び悩みそうだ。
米国を中心とした先進国にけん引され、
2015 年の世界経済成長率は+3.5%に高まる見通しである。
米国の 2014 年の実質GDP成長率は+2.1%と予測している。寒波の影響で
1∼3 月期はマイナス成長となったが、その後の経済指標は持ち直している。4
∼6 月期以降は、民間需要を中心に年率 3∼4%台の成長を維持するであろう。
2015 年も民間最終需要の堅調が続き、実質GDP成長率は+2.9%に高まる見
通しである。
ユーロ圏の2014年の実質GDP成長率は+0.8%と3 年ぶりのプラス成長が
見込まれる。4∼6 月期はほぼゼロ成長だったが、ドイツ経済は堅調に推移し
ている。
官民のバランスシート調整圧力を抱える南欧諸国の回復力は引き続き
弱いものの、ユーロ圏全体として 7∼9 月期以降も緩やかな景気回復が続くと
みられる。2015 年はユーロ安に支えられて輸出が加速するものの、内需は本
格的な回復には至らないとみられる。2015 年の成長率は 1%台前半(+1.2%
と予測)にとどまるであろう。
図表 4
世界経済予測総括表
(前年比、%)
暦年
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
(実績)
(実績)
(実績)
(予測)
(予測)
(前年比、%)
2014年
2015年
(6月予測)
予測対象地域計
3.8
3.1
3.1
3.1
3.5
3.2
3.5
日米ユーロ圏
1.3
1.2
1.2
1.5
2.1
1.7
2.1
米国
1.6
2.3
2.2
2.1
2.9
2.2
2.9
ユーロ圏
1.6
▲ 0.6
▲ 0.4
0.8
1.2
1.0
1.3
▲ 0.5
1.5
1.5
1.2
1.3
1.7
1.3
アジア
7.6
6.1
6.1
6.0
6.0
5.9
5.9
NIEs
4.2
2.0
2.8
3.5
3.5
3.5
3.4
ASEAN5
4.5
6.2
5.2
4.4
5.0
4.4
5.1
中国
9.3
7.7
7.7
7.5
7.3
7.4
7.2
インド
7.7
4.8
4.7
4.7
4.8
4.7
4.8
オーストラリア
2.6
3.7
2.4
3.0
2.6
3.0
2.6
ブラジル
2.7
1.0
2.5
0.8
1.2
1.2
1.6
ロシア
4.3
3.4
1.3
0.1
1.0
0.2
2.0
日本(年度)
0.3
0.7
2.3
0.5
1.5
1.1
1.5
95
94
98
100
97
99
95
日本
原油価格(WTI,$/bbl)
(注)予測対象地域計はIMFによる2012年GDPシェア(PPP)により計算。
(資料)IMF, みずほ総合研究所
5
新興国経済は伸び悩み
中国の実質GDP成長率は 2014 年+7.5%、2015 年+7.3%と減速傾向が続
く見通しである。景気対策の効果で足元の経済指標はやや持ち直している。し
かし、投資依存からの脱却に向けた政策運営が続き、2014 年末以降は再び投
資を中心とした緩やかな減速局面に戻っていくであろう。
インド経済は、緊縮的な財政・金融政策により国内需要が低調に推移してい
る。一部の経済指標が 4∼6 月期に上向いたものの、税制変更など一時的な要
因も作用した模様である。経常赤字・インフレに対する懸念が残る中で緊縮的
な政策運営が続くため、成長ペースが大きく加速することは見込めない。実質
GDP成長率は 2014 年+4.7%、2015 年+4.8%と 4 年連続で 4%台にとどま
るであろう。
中国・インド以外のアジア経済は、概ね 2014・2015 年とも緩やかな景気拡
大を維持する見通しである。NIEs(韓国・香港・台湾・シンガポール)は、欧
米景気の回復が輸出の追い風となり、2014 年+3.5%、2015 年+3.5%と 2%
台だった 2013 年に比べて成長率が高まるであろう。一方、ASEAN5(タイ・マ
レーシア・インドネシア・フィリピン・ベトナム)の 2014 年の実質GDP成
長率は+4.4%に鈍化する見通しである。政治混乱が続くタイのほか、緊縮的
な政策運営によりインドネシアなどの成長ペースが鈍化するとみられる。2015
年の成長率は輸出の拡大を主因に+5.0%に高まるものの、内需は引き続き伸
び悩む国が多いであろう。
オーストラリア経済は、個人消費が緩やかに拡大することなどから 2014 年
の実質GDP成長率は+3.0%に高まる(2013 年:+2.4%)見通しである。
ただし、輸出・設備投資を中心に年後半にかけて成長ペースが鈍化するとみら
れる。2014 年後半の景気減速の影響で 2015 年の成長率は+2.6%に若干低下
するが、インフラ投資の拡大などを背景に景気は持ち直すと予測している。
ブラジル経済は、これまでの利上げの影響などから低成長が続いている。加
えて、主要輸出先である中国・アルゼンチンの需要低迷も輸出・生産回復の足
かせとなっている。今後もインフレ懸念や格下げリスクがくすぶる中、金融・
財政政策による対応の余地は乏しく、実質GDP成長率は 2014 年+0.8%、
2015 年+1.2%と低成長が続く見通しである。
ロシア経済は、ウクライナ(クリミア)への対応を巡って欧米諸国から経済
制裁を受けたことなどにより資金流出が起き、成長率が低下している。7 月下
旬に経済制裁が一段と強化されたため、今後は投資・消費がさらに下押しされ
る懸念がある。2014 年の実質GDP成長率は+0.1%とほぼゼロ成長まで落ち
込む見通しである。2015 年の景気はやや持ち直すとみられるが、欧米諸国と
の関係悪化が長期化して先行き不透明感が残る可能性が高い。2015 年の成長
率は+1.0%にとどまると予測している。
日本経済は二度の消費税率引き上げが個人消費や住宅投資を抑制するもの
の、景気対策による公共投資の増加や設備投資の拡大が支えとなる。足元で低
調な輸出も、円安と欧米を中心とする海外経済の回復を背景に 2015 年にかけ
て持ち直すであろう。成長率(暦年ベース)は 2014 年+1.2%、2015 年+1.3%
と緩やかな成長を維持する見通しである。
6
米国の金融政策変更に伴う
足元で米国や中国の経済指標が改善するなど、世界経済全体がやや上向いて
金融市場の変動リスク、地政
いることもあり、
グローバルな金融・資本市場はこのところ概ね安定している。
学的リスク、中国の失速リス
ただし、世界経済の回復力はまだ弱く、リスクに対して脆弱な状況であること
クに留意
は変わっていない。
2015 年にかけてのリスクファクターの一つが、米国の金融政策変更に伴う
グローバルマネーフローへの影響であろう。米FRB(連邦準備制度理事会)
はQE3(量的緩和第 3 弾)縮小を着実に進めており、今年 10 月に終了する
可能性が高い。焦点は出口戦略に移っているが、すぐに利上げには踏み切らず
当面は再投資政策を継続するなど、慎重な政策運営を続けるとみられる。最初
の利上げは 2015 年後半になるとみられるが、利上げ観測が強まるタイミング
では金融市場が混乱するリスクがつきまとう。
米国の金融引き締めは新興国へ
の資本流入減につながるとの連想から、
昨春にみられたような新興国からの資
金流出が起こるリスクは皆無ではない。
新興国の中でも経常収支赤字やインフ
レ懸念を抱える国々(ブラジル・インド等)については、特に注意が必要であ
ろう。
また、このところウクライナ・イラク・パレスチナなどで地政学的リスクの
高まりがみられることも、懸念材料である。情勢がさらに悪化すれば、金融・
資本市場や原油相場の変動を通じて世界経済に悪影響を及ぼすリスクがある。
過剰投資・シャドーバンキングの問題が表面化している中国経済は、
さらに、
景気対策の効果により足元で持ち直しているものの、
急速かつ大幅な調整局面
に陥るリスクが払拭されたとは言えない。2000 年代に入ってから世界の成長
センターであり続けた中国経済が失速すれば、日本を含むアジア経済、金融・
資本市場に与える影響は大きく、
予測期間を通じて世界経済にとって大きなリ
スクファクターであることは間違いない。
7
図表 5
2014年
9月
10月
11月
12月
2014年中の政治・経済日程
(日)金融政策決定会合(3・4日)
(欧)ECB政策理事会(4日)
NATO首脳会議(4・5日)(英国)
(日)内閣改造(第1週?)
(欧)スウェーデン総選挙(14日)
国連総会(16日∼10月1日)(米・ニューヨーク)
(米)FOMC(16・17日)
(欧)スコットランド独立住民投票(18日)
G20財務相・中銀総裁会議(20・21日)(豪・ケアンズ)
(欧)ECB政策理事会(2日)
ブラジル大統領選(5日)
(日)金融政策決定会合(6・7日)
G20財務相・中央銀行総裁会議(米・ワシントンD.C.)(9・10日)
IMF・世銀年次総会(米・ワシントンD.C.)(10日)
(米)FOMC(28・29日)
(日)金融政策決定会合(展望レポート)(31日)
ASEAN首脳会議(ミャンマー・ネピドー)(月内)
(中)共産党第18期中央委員会第4回全体会議(月内)
(米)中間選挙(4日)
(欧)ECB、銀行監督一元化(4日)
(欧)ECB政策理事会(6日)
G20首脳会合(豪・ブリスベン)(15・16日)
(日)金融政策決定会合(18・19日)
APEC首脳会議(中国・北京)(月内)
COP20(ペルー・リマ)(1∼12日)
(欧)ECB政策理事会(4日)
(米)FOMC(16・17日)
(日)金融政策決定会合(18・19日)
(日)2015年10月の消費税率引き上げ判断(月内)
(中)中央経済工作会議(月内)
(資料)みずほ総合研究所作成
8
Ⅲ.海外経済
(1) 米国経済
2014 年 4∼6 月期実質GDP
米国経済は回復基調に復している。4∼6 月期の実質GDP成長率は、前期
は高成長。年次改訂により、
比年率+4.0%(1∼3 月期同▲2.1%)と高い成長を示した。1∼3 月期にスピ
成長率のゲタは+0.2%Pt
ード調整が発生した在庫投資や、昨冬の大寒波によって落ち込んでいた個人消
拡大
費、住宅投資、設備投資といった民間需要が持ち直したことが、高成長の背景
となっている(図表 6、図表 7)
。
また、同時に公表されたGDP統計の年次改訂では、2013 年後半から 2014
年 1∼3 月期の成長率が上方改訂された。この年次改訂により、2014 年の成長
率のゲタは+0.2%Pt 拡大した。
各需要項目別の 4∼6 月期の推移を詳しく見ていこう。
4∼6 月期の個人消費は月次
まず、個人消費は前期比年率+2.5%(1∼3 月期同+1.2%)と、四半期の
推移でみれば停滞。しかし、
推移でみれば持ち直しを示した。6 月の個人消費は、3 月と比べた 3 カ月前比
大寒波後の影響はく落の反
年率で+1%の伸びに留まっており、4∼6 月期の月次推移は足踏み状態となっ
動とみられ、懸念には及ばず
ていた。しかし、こうした動きは 2014 年 1 月を底として大寒波の影響が急速
にはく落してきた反動とみられ、懸念するには及ばない。
住宅投資は3 四半期ぶりのプ
次に、住宅投資は前期比年率+7.5%(1∼3 月期同▲5.3%)と 3 四半期ぶ
ラス成長
りのプラス成長となった。内訳では、
「仲介・改装手数料等」が 3 四半期ぶり
に増加に転じたことが寄与しており、背景には住宅販売の持ち直しがある。
設備投資は前期から増加テ
設備投資は前期比年率+5.5%(1∼3 月期同+1.6%)となり、前期から増
ンポが加速
加テンポが加速した。内訳をみると、機械関連設備投資はIT関連や産業機械
などで幅広く増加し、建設投資や知的財産投資も緩やかな増加を示した。
在庫投資の寄与度は、前期比
4∼6 月期の在庫投資の寄与度は、前期比年率+1.7%Pt(1∼3 月期
年率+1.7%Pt と前期から大
同▲1.2%Pt)と前期から大きく高まった。内訳をみると、1∼3 月期のマイナ
幅に高まる
ス寄与の主因となった小売在庫のほか、製造業や建設関連在庫の寄与度が高ま
った。
図表 6
実質GDP成長率
図表 7
実質GDP成長率の需要項目別寄与度
(前期比年率、%)
8
前期比年率%
個人消費
設備投資
純輸出
実質GDP
6
4
2.3
2.5
住宅投資
在庫調整
政府支出
4.5
0.1
1.6
2
3.5
4.0
2.7
1.8
▲2.1
0
▲2
▲4
1∼3
4∼6
7∼9 10∼12 1∼3
2012
4∼6
7∼9 10∼12 1∼3
2013
4∼6
2014
(年)
(注)折 れ線グ ラフと 数値は実質GDP成長率(前期比年率)。棒グラ フは
各 需要 項目の 寄与度。
(資料) 米国 商務省
寄与度%Pt
2014年
2014年
2014年
2014年
1∼3月期
4∼6月期
1∼3月期
4∼6月期
▲ 2.1
4.0
-
-
個人消費
1.2
2.5
0.8
1.7
住宅投資
▲ 5.3
7.5
▲ 0.2
0.2
設備投資
1.6
5.5
0.2
0.7
在庫投資
(35.2)
(93.4)
▲ 1.2
1.7
純輸出
(▲ 447.2)
(▲ 470.3)
▲ 1.7
▲ 0.6
輸出
▲ 9.2
9.5
▲ 1.3
1.2
輸入
2.2
11.7
▲ 0.4
▲ 1.9
実質GDP
▲ 0.8
1.6
▲ 0.2
0.3
国内最終需要
0.7
2.8
0.7
2.9
GDPデフレーター
1.3
2.0
-
-
政府支出
(注)季 節調 整値。 在庫投 資、純 輸出 の 括弧内の 値は 水準( 年率、10億ド ル)。
国 内最 終需要 はGD P−輸 出+ 輸 入−在庫 投資 。国内 最終需 要の寄 与度 は みずほ
総 合研 究所計 算。
(資料) 米国 商務省
9
民間在庫の最終需要に対する比率は、2012 年 7∼9 月期以来の高さとなってお
り、在庫投資が成長率にプラス寄与する局面は終わったとみられる。
輸出入は大きく反発
輸出入は共に大きく反発した。輸出は前期比年率+9.5%(1∼3 月期
同▲9.2%)の増加となり、1∼3 月期の寒波による港湾施設の閉鎖等の影響を
受けた落ち込みから持ち直した。内訳では、産業用資材、資本財、自動車関連
など幅広い分野で拡大が示されている。
他方、輸入も同+11.7%(1∼3 月期同+2.2%)と、国内需要の持ち直しに
伴って大きく拡大した。内訳を見ても輸出同様、幅広い品目が増加している。
政府支出は拡大。緊縮財政の
景気への悪影響一服を示唆
政府支出は前期比年率+1.6%(1∼3 月期同▲0.8%)と拡大した。連邦政
府支出は同▲0.8%(1∼3 月期同▲0.1%)と 2 期連続で小幅な減少に留まり、
緊縮財政の景気に対する悪影響が一服していることを示唆した。
以上の通り、4∼6 月期の米国経済は、総じて 1∼3 月期の落ち込みから持ち
直している。こうした推移を踏まえ、7∼9 月期以降の見通しに言及しよう。
個人消費は堅調な拡大が続
く見込み
個人消費は、雇用の回復を背景に、2014 年後半以降は堅調な拡大が続く見
込みだ。7 月の雇用統計で非農業部門雇用者数が 6 カ月連続の前月差+20 万人
超えを示すなど、労働市場では改善が続いており、消費の源泉となる所得の下
支えとなっている。今後も雇用環境は堅調な改善を続け、個人消費の後押しと
なるだろう。
住宅投資は伸びを高める
公算
住宅投資は、伸びを高めるだろう。賃貸市場では需給がひっ迫しており、今
後供給が増えていくことを予想する。足元では、中古住宅販売件数が 4 月以降
持ち直しの傾向を示しており、建設業者の景況感も改善している。住宅着工や
新築販売は 6 月に減少したが、
竜巻の異常発生という天候要因の影響が表れて
。
いる可能性もあり、現時点で回復が腰折れているとは考えていない(図表 8)
設備投資も拡大基調に
また、今回の見通しでは設備投資についても、経済の拡大基調の下で企業が
長期的な企業価値向上を目指した投資を活発化させていく、との見方を維持し
ている。ただし、足元では製造業の 6 カ月先設備投資判断DIに低下の動きが
見られるなど(図表 9)
、後述する地政学上の緊張が企業の不安に表れてきて
いる可能性があり、下振れリスクに警戒が必要だ。
図表 8
500
新築住宅販売と住宅着工の推移
(年率、千件)
図表 9
1350
(年率、千件)
40
6月には両指標とも減少。
竜巻の異常発生の影響が表れている可能性
450
1200
30
400
1050
20
350
900
10
製造業の 6 カ月先設備投資判断DI
ニューヨーク連銀
フィラデルフィア連銀
6カ月先の設備投資判断DIは低下の動き。
フィラデルフィア連銀は2013年平均を
上回る水準を維持しているが、
ニューヨーク連銀は下振れ。
新築住宅販売件数
(左目盛)
300
2012/12
住宅着工件数
(右目盛)
2013/6
750
2013/12
0
2012/7
2014/6
(年/月)
(資料)米国 商務省
2013/1
2013/7
2014/1
2014/7
(年/月)
(注)季 節調 整値。6カ月 先の見 通し。値 がプラス のと き前月 比回復 、マイ ナス の
とき悪化 。
(資料) ニュ ーヨー ク連銀 、フィ ラデ ル フィア連 銀
10
輸出入は概ね増加基調
輸出入については、輸出は米国の輸出先市場の緩やかな拡大、輸入は国内需
要の堅調推移にそれぞれけん引され、概ね増加基調が続く見込みだ。
緊縮財政による悪影響が発
政府支出については、もう一段の緊縮財政が経済に悪影響を及ぼすリスクは
生する懸念は小。政府閉鎖も 小さいとの見方を維持している。なお、政府支出に関連する 2015 財政年度の予
回避される公算
算編成には、審議の遅れが見られるが、昨年のような連邦政府機関の一部閉鎖
には至らないだろう。
2014 年の成長率は前年比
上述の通り、みずほ総合研究所は米国経済について概ね回復が続くとの見方
+2.1%と前回から 0.1%
を維持している。今回の経済見通しでは、2014 年のGDP成長率見通しを前
Pt 下方修正。2015 年は同
年比+2.1%と 6 月見通しから 0.1%Pt 下方修正したが、四半期で見れば 2014
+2.9%の見通しを維持
年後半の成長率は前期比年率+3%台の良好なものになると予測している(図
表 10)。2015 年の成長率は、前年比+2.9%と 6 月見通しから据え置いた。
リスク要因は地政学上の緊
見通し上のリスク要因としては、中東、及びウクライナ・ロシアの地政学上
張の高まりと住宅投資の下
の緊張の高まりと住宅投資の下振れが挙げられよう。
振れ。地政学上の緊張の高ま
地政学上の緊張の高まりについては、まず個人消費への影響が懸念される。
りについては、株価下落やマ
株価の下落による逆資産効果や消費マインド悪化に加え、特に中東地域で緊張
インド悪化、原油価格上昇に
が更に高まった場合には、原油価格の上昇が消費を冷やす懸念がある。なお、
よる個人消費への悪影響や、
足元の原油価格は、概ね落ち着いた推移となっており、背景には、油田が集中
企業マインドへの下押しが
するイラク南部地域まで混乱に陥る可能性は小さいとの見方がある模様だ。
また、地政学上の緊張の高まりは、上述の企業マインドにも影響を及ぼしか
懸念される
ねない。なお、8 月初旬にロシアは、自国に対して制裁を科した欧米諸国から
の農産物輸入を禁止・制限することを決定した。米国のロシア向け輸出は輸出
全体の 0.7%に過ぎず、制裁の影響を受ける蓋然性が高い食品・畜産関連に絞
れば 0.1%にも満たない。そのため、現時点で輸出への直接的な影響は軽微と
考えられる。
図表 10
米国経済見通し総括表
2014年
GDP(前期比年率%)
2015年(予測)
1∼3月期
4∼6月期
7∼9月期
10∼12月期
(実績)
(実績)
(予測)
(予測)
▲2.1
4.0
3.4
3.4
1∼3月期
2.1
4∼6月期
2.7
7∼9月期
3.2
10∼12月期
3.2
2013年
2014年
2015年
(実績)
(予測)
(予測)
2.2
2.1
2.9
個人消費(前期比年率%)
1.2
2.5
2.4
2.5
2.5
2.5
2.6
2.6
2.4
2.3
2.5
住宅投資(前期比年率%)
▲5.3
7.5
9.0
9.0
12.0
14.0
14.0
14.0
11.9
2.4
11.6
設備投資(前期比年率%)
1.6
5.5
6.0
7.0
7.0
7.0
7.0
7.0
3.0
5.3
6.8
在庫投資(寄与度,前期比年率%Pt)
▲1.2
1.7
0.0
0.0
▲0.9
▲0.4
0.0
0.0
0.1
0.1
▲0.2
政府支出(前期比年率%)
▲0.8
1.6
▲2.1
0.1
2.3
2.3
2.3
2.3
▲2.0
▲0.9
1.3
▲447.2
▲470.3
▲425.9
▲409.4
▲422.3
▲435.4
▲448.8
▲462.4
▲420.5
▲438.2
▲442.2
輸出(前期比年率%)
▲9.2
9.5
9.0
6.0
3.0
3.0
3.0
3.0
3.0
3.6
4.7
輸入(前期比年率%)
2.2
11.7
0.2
2.4
4.6
4.6
4.6
4.6
1.1
3.7
4.0
純輸出(年率10億㌦)
国内最終需要(前期比年率%)
0.7
2.8
2.3
2.9
3.4
3.4
3.5
3.5
1.9
2.1
3.2
失業率(%)
6.7
6.2
6.2
6.3
6.2
6.1
6.1
6.0
7.4
6.4
6.1
非農業部門雇用者数(1カ月当たり,千人)
169
255
229
196
197
198
198
199
189
205
205
個人消費支出デフレーター(前年比%)
食品・エネルギーを除くコア(前年比%)
1.1
1.6
1.5
1.5
1.5
1.2
1.3
1.3
1.2
1.4
1.3
1.2
1.5
1.5
1.5
1.6
1.5
1.6
1.6
1.3
1.4
1.6
(注)2014年7-9月期 以降はみずほ総合研究所による見通し。
(資料)米国 商務省 、米国労働省、みずほ総合研究所
11
住宅投資回復の阻害要因は
住宅投資の回復を阻害する可能性があるリスク要因としては、供給制約問
供給制約、長期金利の再急
題、長期金利の再急騰、2014 年 1 月導入の新規制の影響を含む金融機関の住
騰、住宅ローン貸出態度改善
宅ローン貸出態度改善の遅れ、の 3 点が挙げられる。
このうち、新築住宅の供給制約問題については、建設従業員の不足、建設コ
の遅れの 3 点
ストの増大、開発用地の不足、の 3 つの背景が指摘されている。みずほ総合研
究所の分析によれば、これら 3 つの背景のうち、建設従業員と開発用地の不足
については現時点で全米レベルの懸念は少ないものの、前者については南部地
域、後者についてはカリフォルニア州の動向にそれぞれ留意が必要だ。また、
建設コストの増大については、戸建て住宅では販売価格に概ね転嫁されてお
り、集合住宅では建設コスト自体が 2010 年頃から横ばい推移とみられ、いず
れも建設業者の重石になる懸念は現時点で小さいものと考えられる。
QE3は今年10 月に終了へ。
最後に金融政策に言及しよう。連邦公開市場委員会(FOMC)は量的緩和策
今後は出口戦略を巡る議論
(QE3)について、景気が FOMC の見通し通りに推移すれば、2014 年 10 月
が注目点に。最初の利上げ時
に終了する見込みであることを公表した(図表 11)
。また、FOMC は 2014 年終
期は 2015 年後半との見方を
盤に出口戦略に関する情報を公表する予定である。FOMC は、賃金動向(図表
維持
12)とインフレ率の推移をにらみながら金融政策の出口を探るとみられるが、
2015 年後半まで利上げには踏み切らないであろう。
図表 11
今後のQE3縮小テンポ
(10億㌦)
90
雇用コスト指数(前年比)の推移
(前年比、%)
FOMCは会合ごとに
100億㌦縮小のペースを維持。
10月会合で150億㌦削減し
QE3終了。
80
70
60
図表 12
2.2
2014年4∼6月期
前年比+2.1%
米国債
2.0
50
40
30
20
MBS
1.8
10
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
*
**
* ** *
** *
** *
** *
** *
** *
**
2013
1.6
2014
2010
2011
2012
2013
2014
(年)
(年)
(注)*はFOMC(2日目 )の開催月。
**はFOMC後の 議長記者会見と見通し公表がある月。
(資料)FRB、 みずほ 総合研究所
(資料) 米国 労働省
12
(2) 欧州経済
4∼6 月期のユーロ圏景気はカ
4∼6 月期のユーロ圏実質GDP成長率は前期比年率+0.2%となり、1∼3
レンダー要因の影響などによ
月期(同+0.8%)から急減速した(図表 13)。カレンダー要因に伴う稼働日
り失速
数の減少が各国に共通して下押し要因となったほか、ドイツ(同▲0.6%)は
暖冬による押し上げ効果の反動も重なってマイナス成長に転じた。また、イ
タリア(同▲0.8%)は内外需の基調的な弱さを背景に再び景気後退に陥り、
フランス(同▲0.1%)は個人消費を除けば全般に不冴えとなって弱含んだ。
一方、スペイン(同+2.4%)は前期から一段と加速した。
ユーロ圏景気の回復基調は途
切れていない模様
4∼6 月期の成長率は低位となったものの、上述したカレンダー要因がはく
落することでユーロ圏景気は緩やかな回復パスに復すると見込まれる。実質
GDPとの連動性の高いユーロ圏合成PMIは、7 月(53.8)も好況・不況の
境目である 50 を上回った。また、4∼6 月期が低調だったドイツでは雇用増加
と賃金改善が続いており、内需中心の回復を期待できる。
ユーロ高の一服は輸出見通し
上の安心材料
先行きを展望すると、米英向けを中心とした輸出持ち直しやそれに伴う設
備投資の回復がドライバーとなり、ユーロ圏景気の緩やかな回復局面が続く
とみている。足元にかけてユーロ高が一服したことは今後の輸出にとってプ
ラス材料であり、為替面からの輸出下押し圧力は徐々に和らいでいくだろう。
一方、対ロシア関係の悪化と
しかし、今回の見通しでは、夏場以降の景気回復テンポが従来みていたよ
いう下振れリスクの顕在化が
りも低調に留まるとの見方に修正する。ウクライナを巡ってユーロ圏とロシ
見通しの下方修正要因に
アの関係が一段と悪化するという下振れリスクが顕在化したためだ。民間航
空機の撃墜を受けてEUはロシアへの追加制裁に踏み込み、また、これに反
発したロシアはEUに対して食料品輸入を禁止する報復措置を決定した。
制裁・報復の対象となった品目の輸出減少だけを考えれば、ユーロ圏経済
への影響は限定的とみられる。しかし、対ロシア関係悪化の長期化リスクや
更なる制裁・報復のリスクは残存しており、実際、ロシア側は次の報復措置
を検討していると言われている。こうしたリスクの残存は先行きに対する不
透明感を高め、企業の設備投資計画の見直しなどに繋がると考えられる。こ
図表 13 ユーロ圏主要国のGDP成長率
図表 14 ユーロ圏の設備投資と輸出
(前年比、%)
4.0
(前期比年率、%)
15
3.0
10
2.0
5
1.0
0
0.0
▲ 1.0
▲5
▲ 2.0
▲ 10
▲ 3.0
▲ 15
▲ 4.0
12/6
12/12
ユーロ圏
イタリア
13/6
ドイツ
スペイン
13/12
▲ 20
14/6
05/3
フランス
06/3
07/3
08/3
09/3
10/3
11/3
ユーロ圏実質設備投資
(注) 設備投資は機械装置、輸送機器、無形固定資本投資
(資料) Eurostat
(資料) 各国統計局、Eurostat
13
12/3
13/3
同実質輸出
14/3
のため、輸出の持ち直しが続くとは言え、企業マインドの冷え込みにより今
後の設備投資の回復は従来よりも緩慢なテンポに留まるとみている(前頁図
表 14)。
2014 年の成長率を下方修正。
以上を踏まえ、設備投資を中心に 2014 年のユーロ圏成長率を+0.8%(前
2015 年は加速を見込むが、対
回見通し:+1.0%)に下方修正した(図表 15)。2015 年に関しては、発射台
ロシア関係の行方を注視
の低さを反映して+1.2%(前回見通し:+1.3%)に下方修正したものの、
2014 年からは小幅な加速を見込んでいる。ユーロ安効果の顕在化によって輸
出が伸びるとみられるほか、財政緊縮による景気下押し圧力が和らぎ、成長
率の押し上げに寄与するだろう。
見通し上のリスクは下振れ方向にあり、ウクライナを巡る対ロシア関係の
行方が注目される。早期に関係が修復されれば企業マインドの改善を通じて
景気押し上げに寄与すると考えられるが、事態に収束の目途が立たない中、
制裁強化や投資マインドの大幅な悪化といった下振れリスクに対する警戒は
怠れない。また、中東情勢や新興国経済などの不安材料も挙げられる。
インフレ率は低位での推移を
続ける見込み
インフレ動向をみると、7 月のユーロ圏インフレ率はエネルギー物価の下落
を背景に前年比+0.4%(6 月同+0.5%)に低下した。一方、基調的なコア・
インフレ率は同+0.8%(6 月同+0.8%)と横ばい推移となり、下げ止まった
とみられる。今後は景気回復に伴って労働コストが徐々に上向くことに加え、
ユーロ安効果が顕在化することが物価押し上げ要因になると見込まれる。と
は言え、景気回復テンポが緩慢なためインフレ圧力は高まりづらく、インフ
レ率は低位での推移が続くと予想される。
ECBの追加緩和の可能性は
残存
ECBは 9 月から銀行融資の拡大を狙った新たな資金供給オペ(TLTRO)を
実施し、その効果を見極める姿勢を示している。また、資産担保証券(AB
S)の購入に向けた準備も着々と進めているようだ。今後、景気・物価の下
振れリスクが顕在化した場合には、国債を含めた幅広い資産購入(量的緩和)
にも踏み込む可能性がある。
図表 15
ユーロ圏経済見通し
2012年 2013年 2014年 2015年
(実績) (実績) (予測) (予測)
▲ 0.6 ▲ 0.4
0.8
1.2
実質GDP
▲ 1.0
0.5
0.7
1.5
(期中成長率)
▲ 1.4 ▲ 0.6
0.6
0.7
民間消費
▲ 0.6
0.2
0.7
0.4
政府消費
▲ 3.8 ▲ 2.8
1.1
1.9
固定資本形成
1.5
0.5 ▲ 0.1
0.3
外需(寄与度)
2.7
1.5
2.7
4.4
輸出
▲ 0.8
0.4
3.2
3.9
輸入
在庫・誤差脱漏(寄与度)
▲ 0.5 ▲ 0.0
0.3
0.0
内需
▲ 2.2 ▲ 0.9
0.9
0.9
消費者物価
2.5
1.4
0.5
0.8
コア・インフレ率
1.5
1.1
0.8
1.0
2013年
2014年
2015年
上期
下期 上期(予) 下期(予) 上期(予) 下期(予)
▲ 0.6
0.8
0.8
0.9
1.1
1.6
▲ 0.9
0.1
0.8
0.8
1.0
1.4
▲ 0.8
0.5
0.6
0.6
0.7
0.9
0.5
0.2
1.1
0.4
0.4
0.4
▲ 4.4
2.0
0.9
0.7
1.6
3.7
0.5 ▲ 0.1 ▲ 0.2
0.0
0.6
0.3
0.1
3.9
2.1
3.0
4.7
5.3
▲ 1.0
4.4
2.7
3.1
3.7
5.1
0.1
0.2
0.2
0.3 ▲ 0.2
0.1
▲ 1.1
0.9
1.0
0.9
0.6
1.4
1.6
1.1
0.6
0.5
0.6
1.0
1.2
1.0
0.8
0.8
0.9
1.0
(注)年は前年比。半期はGDPが前期比年率、消費者物価が前年比。網掛けは予測値。期中成長率は各年第4四半期の前年比
(半期は前年同期比)。成長率は稼働日数調整後。
(資料)Eurostat、みずほ総合研究所
14
(3)アジア経済
2014 年4∼6 月期の景気は輸
出を起点に前期から持ち直
し
2014 年 4∼6 月期を振り返ると、アジアでは前期から景気が持ち直した国が
多いとみられる。
現時点で実質GDP成長率が公表された国のうち、中国、台湾、ベトナムは
前期から加速した。これらの国・地域では、寒波による悪影響が終息した米国
など先進国向けを中心に輸出が増加した。今後、GDPが公表される国のうち、
インド、マレーシアについても輸出増加を起点に生産が加速している。タイで
は、軍事クーデター後に企業や消費者のマインドが底打ちしており、前期の低
成長からは改善した模様である。
一方、韓国、インドネシア、シンガポールは減速した。韓国は、輸出の増勢
を維持したものの、セウォル号事故後の自粛ムードから個人消費が減少した。
インドネシアは未加工鉱石輸出規制の影響から輸出が伸び悩んだことに加え、
内需も低調だった。シンガポールは、電子電機の輸出が減速した。
緊縮策などにより、アジア
の内需の増勢は強くない
輸出持ち直しの一方で、アジアの内需の増勢は強くないとみられる。以下、
3 つの要因が考えられる。第 1 に、ASEAN、インドを中心に緊縮的な政策運営が
継続されているためである。気象状況や地政学リスクから先行きのインフレ懸
念が高まっていることに加え、今後想定される米国のQE3終了、その後の利
上げ局面に備えて潜在的な資金流出リスクを抑制する必要もあるためだ。緊縮
的な政策運営もあって、アジアの経常収支やインフレ率はおおむね改善傾向に
ある。これにより、為替レートは他の新興国と比べて総じて安定的に推移して
いる一方で(図表 16)
、内需が抑制される状況は続いている。第 2 に、輸出は
持ち直したとはいえ、その増勢テンポが緩やかで、生産や投資、消費への波及
効果が大きくないためだ。先進国向けの輸出が増加する一方、中国や ASEAN な
ど新興国向けの輸出は伸び悩んでいる。第 3 に、韓国やタイでは、個別要因(セ
ウォル号事故、政治混乱)による消費下押しがあったためだ。
2015 年にかけて、アジアは
緩やかな成長を維持
2014 年後半から 2015 年を展望すると、アジア経済は緩やかな成長を維持す
るとみられる。米国および欧州経済の回復が続くことで、輸出の増加傾向は維
持され、NIEs を中心に設備投資など民需も下支えされよう。
図表16
アジア・新興国の為替レート
アルゼンチン ペソ
図表17
トルコ リラ
マレーシア リンギ
南アフリカ ランド
韓国ウォン
フィリピン ペソ
ロシア ルーブル
インド ルピー
ブラジル レアル
(2013/12/18=100)
110
(2013/12/18=100)
110
105
105
100
100
95
95
90
90
85
85
80
80
75
75
1/1 2/1 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1
1/1 2/1 3/1 4/1 5/1 6/1 7/1 8/1
(月/日)
アジアの政策金利
(%)
(%)
インド(左目盛)
インドネシア(左目盛)
8.2
4.0
マレーシア(右目盛)
8.0
フィリピン(右目盛)
3.8
7.8
7.6
3.6
7.4
7.2
3.4
7.0
6.8
3.2
6.6
6.4
3.0
6.2
6.0
2.8
13/01 13/04 13/07 13/10 14/01 14/04 14/07
(年/月)
インドネシア ルピア
(月/日)
(注)1. 数値が大きいほど通貨高を表す。
2. 8月13日までの値。
(資料)Bloomberg
(資料)各国統計
15
一方、ASEAN、インドでは、インフレ圧力抑制や潜在的な資本流出リスクに
向けた緊縮的な政策運営が続く見込みであることから、内需の盛り上がりに欠
ける展開が続くだろう。インフレ懸念が高まっていたマレーシア、フィリピン
は約 3 年ぶりの利上げを 7 月に実施した(前頁図表 17)
。
インド、インドネシアは新
政権の動向に注視が必要
以上のシナリオに対するリスク要因を挙げると、インド、インドネシア、タ
イでは、政治情勢が景気や市場に影響を及ぼす可能性があり、引き続き注視が
必要となろう。
インドでは、モディ新政権下で 2014 年度(14 年 4 月∼15 年 3 月)の予算案
が発表されたが、財政赤字削減などで野心的な目標は打ち出されたものの、税
制改革などの具体的な改革ロードマップが示されず肩透かしの内容となった。
与党は、5 月の下院選で単独過半数を獲得したものの、上院や各州政府では少
数派に留まっているため、憲法改正が条件となる税制簡素化などの改革の実行
ハードルは高い。改革の実行ペースについては、今後も慎重にみるべきだ。
インドネシアでは、国民や市場から人気が高いジョコ氏が大統領選挙で勝利
した。しかし、ジョコ氏の政策公約には、燃料補助金削減やインフラ整備など
の改革もある一方、未加工鉱石輸出規制の継続などの保護主義的内容も盛り込
まれている。今後、ジョコ氏が保護主義的トーンを和らげるかどうかに注目が
集まる。また、ジョコ氏の与党連合の議席割合は約 4 割に過ぎず、今後の政権
基盤強化に向けた他党との連立協議や政党再編の動向も、改革の実行力に大き
な影響を及ぼすことが予想される。
両国とも、選挙結果による改革期待が先行して海外マネーが流入しているこ
とから、新政権の改革が市場の期待ほど進捗しなければ、資金が逆流して通貨
や株価が下落圧力にさらされる懸念がある。
タイは、民政移管プロセス
の動向に注目
タイでは、5 月 22 日のクーデターにより発足した軍事政権下で、公共投資な
どの予算執行や対内直接投資の認可が再開されており、景気は持ち直しに向か
うと予想する。ただし、2015 年中に予定される民政移管を前に、選挙制度など
の改革が議論される中で、タクシン派が反発を強めて大規模デモを実施して民
政化が遅れる可能性がある。その場合、米国やEUとの関係悪化から国際的評
価が失墜して、資金流出懸念が高まる可能性もあろう。
インドでは、降水量減少に
なお、今年発生すると予想されていたエルニーニョ現象は、直近の予報で発
よるインフレ圧力高騰に懸
生時期の遅延や強度予測の下方修正がなされており、農業生産やインフレに深
念
刻な悪影響を与える懸念はやや後退した。ただし、2009 年のエルニーニョ発生
時に、37 年ぶりの大干ばつに見舞われたインドでは、今年の雨期(例年 6∼9
月)に入って降水量が減少したため、インド準備銀行は農産物不作によるイン
フレ圧力高騰に対する警戒姿勢を崩していない。
4∼6 月期の中国の実質GD
P成長率は前年比+7.5%
と小幅に加速
中国の 2014 年 4∼6 月期の実質GDP成長率は、前年比+7.5%(1∼3 月期:
同+7.4%)と 3 四半期ぶりに加速した(次頁図表 18)
。
その主因は、固定資産投資の加速である。4∼6 月期の固定資産投資の実質伸
び率は前年比+16.5%(1∼3 月期:同+16.3%、みずほ総合研究所推計値)と
小幅に加速した。不動産投資は引き続き減速したものの、景気支援策の実施を
背景に、環境・交通運輸関連などインフラ投資が加速したとみられる。
16
また、欧米向けを中心とした輸出の持ち直しも、成長率の加速に寄与した。
4∼6 月期の輸出(名目ドル建て、通関ベース)の伸びは、前年比+4.9%(1
∼3 月期:同▲3.5%)とプラスに転じた。一方、輸入の伸びは前年比+1.3%
と前期(同+2.0%)から鈍化した。その結果、4∼6 月期の実質GDP成長率
に対する外需の寄与度は、1∼3 月期から改善したものとみられる。
4∼6 月期の社会消費品小売総額の実質伸び率は前年比+10.8%と、前期(同
+10.9%)から小幅に鈍化したものの、ほぼ横ばい推移となった。
2014 年後半は小幅に加速、
今後の景気は、2014 年後半に投資中心に小幅に加速した後、2015 年からは
2015 年からは緩やかな減速
緩やかな減速傾向をたどるだろう。今回の見通しでは、4∼6 月期の成長率が前
傾向をたどる見込み
回見通しより上振れたことや、景気支援策の実施ペースや規模が予想を上回っ
たことなどを考慮し、2014 年・2015 年ともに小幅な上方修正を行った。
投資は 2014 年後半にインフ
景気の基調に大きな影響を与える投資は、2014 年後半も、不動産投資の減速
ラなどを中心に加速後、景
をインフラや民生関連投資の加速が補うという構図の下、小幅に加速するだろ
気支援策の効果剥落などに
う。実際に、複数の地方政府が、安定成長実現のためインフラ投資計画等を相
より減速傾向をたどる
次いで発表している。ただし、2015 年に入ると、投資は再び減速傾向をたどる
と考えられる。投資依存型成長からの脱却を目指す中国政府には、投資の大幅
な加速によって景気を浮揚させる意図はなく、景気支援策の効果が次第に剥落
していくと予想されるためである。また、生産能力過剰問題が解消までには至
らないことも、引き続き投資の伸びを抑えるだろう。
足元、住宅販売に下げ止ま
なお、不動産投資に関しては、2015 年前半に底打ちし、回復に向かうと考え
りの兆し。2015 年前半には
られる。住宅開発投資に 2 四半期ほど先行する傾向がある住宅販売面積に下げ
不動産投資が底を打つと予
止まりの兆しがみられるためだ。年初来、前年比マイナス幅が拡大してきたが、
測
デベロッパーによる値下げの動きが広がっていること等を背景に、足元ではさ
らなる拡大に歯止めがかかりつつあるようだ(図表 19)
。ただし、都市人口の
伸び鈍化が予想されることなどから、住宅投資回復の足取りは緩慢なものにと
どまる可能性が高い。他の投資の減速を打ち消すほどの力強さを住宅部門に期
待することは難しいだろう。また、家計などが保有する投資物件の空室状況を
十分に把握できる統計がないなど、現在の不動産市場には情報の不透明性が存
在する。外的ショックの発生などをきっかけに、値下がり期待が高まり、
図表 18
(前年比、%)
中国の主要経済指標
図表 19
実質GDP(右目盛)
(前年比、%)
(前年比、%)
社会消費品小売総額(左目盛)
14
60
12
50
20
10
40
16
8
30
12
6
20
8
4
10
4
2
0
0
0
▲ 10
▲2
(年)
▲ 20
28
固定資産投資(左目盛)
24
輸出(左目盛)
▲4
11
12
13
14
11/01
(注)1.社会消費品小売総額は小売物価指数、固定資産投資は 固定資産価格指数で
実質化(みずほ総合研究所推計値)。輸出は名目ドルベース。
2.2013年1∼3月期の輸出は虚偽報告による水増しの可能性大。
(資料)中国国家統計局、海関総署、CEIC
住宅販売面積(前年比伸び率)
12/01
(注)3カ月後方移動平均。
(資料)中国国家統計局
17
13/01
14/01
(年/月)
投資物件が大量に売りに出され、値崩れが起こるリスクも皆無とはいえない。
不動産市場の動向には引き続き注視が必要だ。
消費は緩やかに減速する見
込み
消費は、2015 年にかけて緩やかに減速する見込みだ。4∼6 月期の求人倍率
は 1.11 倍と前期から横ばいで雇用環境は良好だが、所得の伸び鈍化傾向がみ
られること、不動産市況が低迷するなか住宅関連消費が勢いを欠くことなどが
下押し要因となるだろう。
輸出は緩やかに回復、輸入
輸出は、欧米経済の持ち直しを背景に、回復基調をたどる見通しだ。ただし、
は2014 年後半に加速も2015
内需の減速を補うほどの力強さは持たないだろう。労働コストの高まりなどが
年以降は減速に向かう
輸出の加速ペースを抑制すると考えられるためである。他方、輸入は、高水準
にあった素材業種の在庫が 4∼6 月期にやや減少したことや、景気支援策の実
施による内需の持ち直しを受けて、2014 年後半は伸びを高めるものの、2015
年以降は、内需に歩調を合わせ、徐々に減速に向かうだろう。
小規模・零細企業などへの
なお、金融政策に関しては、現在の「選択的な金融緩和」が続く見通しだ。
資金供給拡大を目的とし
人民銀行は、今年 4 月の県域農村商業銀行と県域農村合作銀行の預金準備率引
た、選択的な金融緩和が続
き下げに続いて、6 月には小規模・零細企業や「三農」
(農業・農村・農民)へ
く見込み
の貸出比率が一定の割合に達した商業銀行の預金準備率を 0.5%引き下げた。
こうした対応の背後には、
「貸出総量は不足していないが、小規模・零細企業
や「三農」などの資金調達コストを下げるべきだ」との中国政府の認識がある。
今後も預金準備率や政策金利の全面的な引き下げは行われず、上述のセクター
などへの低利資金の供給拡大を目的とした「選択的な金融緩和」が続けられる
見込みだ。
アジア経済は、2014∼15 年
にかけて、緩やかに成長
以上の点を踏まえ、2014 年のアジア各地域の実質GDP成長率は、中
国が+7.5%、NIEs が+3.5%、ASEAN5 が+4.4%、インドが+4.7%、2015 年
は、中国が+7.3%、NIEs が+3.5%、ASEAN5 が+5.0%、インドが+4.8%と
予測した(図表 20)
。
図表 20
アジア経済見通し
(単位:%)
アジア
中 国
NIEs
韓 国
台 湾
香 港
シンガポール
ASEAN5
インドネシア
タ イ
マレーシア
フィリピン
ベトナム
インド
オーストラリア
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
(実績)
(実績)
(実績)
(実績)
(予測)
(予測)
(単位:%)
2014年
2015年
(前回:6月予測)
9.4
10.4
8.5
6.5
10.8
6.8
15.2
7.0
6.2
7.8
7.4
7.6
6.4
9.3
7.6
9.3
4.2
3.7
4.2
4.8
6.1
4.5
6.5
0.1
5.2
3.7
6.2
7.7
6.1
7.7
2.0
2.3
1.5
1.5
2.5
6.2
6.3
6.5
5.6
6.8
5.3
4.8
6.1
7.7
2.8
3.0
2.1
2.9
3.9
5.2
5.8
2.9
4.7
7.2
5.4
4.7
6.0
7.5
3.5
3.6
3.5
3.0
3.5
4.4
5.1
0.5
5.2
6.0
5.6
4.7
6.0
7.3
3.5
3.7
3.2
2.8
3.8
5.0
5.2
4.0
4.6
6.4
5.7
4.8
5.9
7.4
3.5
3.7
2.9
3.0
4.0
4.4
5.2
0.5
5.2
6.0
5.6
4.7
5.9
7.2
3.4
3.8
2.8
2.8
4.1
5.1
5.2
4.0
4.6
6.4
5.7
4.8
2.3
2.6
3.7
2.4
3.0
2.6
3.0
2.6
(注)1.実質GDP成長率(前年比)。
2.平均値はIMFによる2012年GDPシェア(購買力平価ベース)により計算。
(資料)各国統計、みずほ総合研究所
18
Ⅳ.日本経済
(1) 4~6 月期 1 次QEの概要
2014 年 4~6 月期は駆け込み
2014 年 4~6 月期の実質GDP成長率(1 次速報)は前期比▲1.7%(年率
需要の反動などから、前期比
▲6.8%)の大幅なマイナス成長となった(図表 21)
。
年率▲6.8%の大幅なマイナ
国内民間需要が前期比▲3. 7%(実質GDP前期比に対する寄与度
ス成長
▲2.9%Pt)の大幅な減少となり、成長率を押し下げた。消費増税に伴う駆け
込み需要の反動が顕れたほか、天候不順による下押し圧力も加わり、個人消
費が前期比▲5.0%の大幅な落ち込みとなった。耐久財(同▲18.9%)や半耐
久財(同▲12.3%)は 1~3 月期の駆け込みが大きかったため、反動減も大き
く顕れた模様である。他方、非耐久財(同▲7.0%)やサービス(同▲0.9%)
は、1~3 月期の伸びに比べて 4~6 月期の落ち込みが大きく、増税に伴う実質
所得の目減りや天候不順の影響が下押しに寄与したとみられる。
その他の民間需要項目では、1~3 月期に発電関連や半導体製造装置などの
投資が集中した反動から、設備投資が同▲2.5%と 5 四半期ぶりに減少した。
持家を中心に駆け込み着工の反動が顕在化し、住宅投資(同▲10.3%)も 9
四半期ぶりに減少に転じた。一方、民間在庫投資は大幅なプラス寄与
(+1.0%Pt)となった。駆け込み需要により減少した在庫を復元する動きに
加えて、最終需要の下振れに伴い「意図せざる在庫増」が生じた模様である。
公的需要は前期比+0.2%(寄与度+0.0%Pt)と 2 四半期ぶりに増加した。
社会保障関連の支出増などから、政府消費(前期比+0.4%)が 2 四半期ぶり
に増加した。復興需要のピークアウトなどを背景に公共投資(同▲0.5%)は
2 四半期連続で減少したが、2013 年度補正予算・2014 年度予算に計上された
公共事業の早期執行が支えとなり、マイナス幅は前期から縮小した。
外需は 4 四半期ぶりにプラス寄与(+1.1%Pt)に転じ、成長率の下支えに
働いた。消費増税や環境増税に伴う駆け込みの反動から、輸入が前期比
▲5.6%(1~3 月期同+6.4%)の大幅な減少に転じ、外需寄与度を押し上げ
た。他方、輸出は、アジア新興国向けの低迷が続く中で、海外工場の稼働を
背景に米国向けも伸び悩み、前期比▲0.4%と減少した。
図表 21
実質GDP成長率の四半期推移
(前期比、%)
3
民間設備投資
実質GDP
成長率
2
外需
公的需要
1
0
▲1
民間
在庫投資
家計
(消費+住宅)
▲2
▲3
▲4
Q1
Q2
Q3
Q4
Q1
2012
Q2
Q3
2013
(資料)内閣府「国民経済計算」によりみずほ総合研究所作成
19
Q4
Q1
Q2
2014
(期)
(年)
(2) 2014・15 年度の見通し
駆け込み需要の反動が薄れる
日本経済は、7~9 月期にはプラス成長に復すると予想される。1~3 月期に
ことで、7~9 月期は高めの成
投資が集中した反動が残ることや増税後の経済情勢に対する警戒感から、設
長になる見通し
備投資は緩やかな伸びにとどまるだろう。輸出の回復が力強さを欠く中で、
駆け込みの反動による輸入の減少がほぼ一巡するため、外需寄与度のプラス
幅は 4~6 月期から大幅に縮小する見込みである。一方、駆け込み需要の反動
や天候不順の影響が徐々に薄れる中で、夏季ボーナスの増加が支えとなり、
個人消費は増加に転じるだろう。2013 年度補正予算・2014 年度予算に計上さ
れた公共事業の執行が進むことで、公的需要も増加が続くと予測される。7~
9 月期は、個人消費が消費増税後の落ち込みから持ち直すとともに、公的需要
の増加が押し上げに寄与し、高めの成長(前期比年率+4.4%と予測)になる
だろう。
2014 年度の成長率は+0.5%
に低下
2014 年度後半(2014 年 10~12 月期、2015 年 1~3 月期)に入ると、公共事
業の早期執行の影響が一巡し、公共投資は徐々に水準を切り下げるとみられ
る。一方、個人消費の持ち直しが続く中で、設備投資も増加基調に復すると
みられ、内需は回復傾向を維持するだろう。円安や海外景気の回復を背景に、
輸出も緩やかながら増加するとみられる。
それでも、2014 年度通年でみると、消費税率引き上げによる実質所得の目
減りを受けて個人消費が減少し、成長率を大きく押し下げるだろう。2014 年
度の実質GDP成長率は+0.5%(6 月予測:+1.1%)に低下すると予測した
(次頁図表 24)
。
なお、本見通しでは、8/15 時点で再稼動に向けて規制基準への適合性審査
を申請している全 19 基の原発のうち、一部の原発について再稼動が行われる
と想定した(図表 22)
。原発再稼動は、輸入抑制を通して小幅ながら実質GD
P成長率を押し上げる方向に働く見込みである。
2015 年度の成長率は+1.5%
2015 年度は、10 月に消費税率の 10%への引き上げが予定通り実施されると
に上昇。年度上期が駆け込み
想定した(図表 23)
。したがって、消費増税に伴う駆け込みと反動が 2015 年
需要により押し上げられる一
度中の成長率の大きな変動要因となるだろう。1997 年度の増税時や足元の動
方、下期反動減の見通し
向をもとに試算すると、駆け込みと反動などにより、2015 年度上期の実質G
図表 22
本見通しにおける原発再稼動の前提
電力会社
2014年 4Q
3Q
2015年
九州電力
四国電力
関西電力
4Q
北海道電力
名称
( 万kW )
89.0×2
玄海3・4号機
118.0×2
118.0×2
高浜3・4号機
87.0×2
泊1・2号機
合計
内容
・2014年4月に8%へ引き上げ
消費税率
・2015年10月に10%へ引き上げ
・2015年10月に導入
軽減税率
・対象は「酒類・外食を除く食料」
・2014年度の増税時に5.5兆円の
景気対策
景気対策(公共投資約2兆円)
( 消費増税対策) ・2015年度の増税時に2兆円の
景気対策(公共投資1.5兆円)
89.0
大飯3・4号機
泊3号機
本見通しにおける消費税関連の前提
定格出力
川内1・2号機
伊方3号機
図表 23
91.2
57.9×2
1120
(注)本経済見通し作成上の前提。
(資料)みずほ総合研究所
(注)本経済見通し作成上の前提。
(資料)各種報道資料などよりみずほ総合研究所作成
20
DP成長率(前期比)は約 0.5%Pt 押し上げられ、下期の成長率(前期比)
は約 1.5%Pt 下押しされる計算となる。
また、2015 年度も消費増税後の景気後退を防ぐために総額 2 兆円程度の経
済対策が策定され、このうち 1.5 兆円程度が公共事業に充てられると想定し
た。追加された公共事業は年度下期にかけて執行され、2015 年度の実質GD
Pを 0.3%Pt 程度下支えすると見込んでいる。なお、2015 年度の消費増税時
には、食料品(酒類・外食を除く)を対象に軽減税率も導入されると想定し
ている。
図表 24
2012
2013
2014
日本経済見通し総括表
2015
年度
2013
10~12
2014
1~3
4~6
2015
7~9
10~12
1~3
4~6
2016
7~9
10~12
1~3
前期比、%
0.7
2.3
0.5
1.5
▲ 0.0
1.5
▲ 1.7
1.1
0.5
0.4
0.6
0.6
▲ 0.9
前期比年率、%
--
--
--
--
▲ 0.2
6.1
▲ 6.8
4.4
1.9
1.4
2.3
2.4
▲ 3.7
3.1
前期比、%
1.4
2.7
▲ 0.1
1.4
0.5
1.6
▲ 2.7
0.9
0.5
0.4
0.6
0.8
▲ 1.4
0.5
前期比、%
1.4
2.2
▲ 0.3
1.5
0.5
2.4
▲ 3.7
1.0
0.8
0.6
0.7
1.0
▲ 2.1
0.4
個人消費
前期比、%
1.5
2.5
▲ 1.8
1.7
0.4
2.0
▲ 5.0
1.5
0.8
0.5
0.7
1.6
▲ 3.0
0.7
住宅投資
前期比、%
5.4
9.5
▲ 8.1
▲ 0.2
2.4
2.0 ▲ 10.3
▲ 3.4
1.9
1.8
3.1
▲ 0.7
▲ 6.2
▲ 3.8
実質GDP
内需
民需
0.8
設備投資
前期比、%
0.7
2.7
4.5
3.0
1.4
7.7
▲ 2.5
0.4
0.7
0.8
0.8
1.0
0.3
0.7
在庫投資
前期比寄与度、%Pt
▲ 0.1
▲ 0.5
0.5
▲ 0.3
▲ 0.1
▲ 0.5
1.0
▲ 0.1
▲ 0.0
▲ 0.0
▲ 0.1
▲ 0.3
0.3
▲ 0.1
前期比、%
1.4
4.2
0.5
0.9
0.5
▲ 0.6
0.2
0.7
▲ 0.3
▲ 0.3
0.3
0.2
0.8
0.7
前期比、%
1.5
1.8
1.0
1.7
0.2
▲ 0.1
0.4
0.4
0.4
0.4
0.5
0.5
0.5
0.5
▲ 1.3
▲ 2.6
1.4
▲ 2.5
▲ 0.5
2.3
▲ 3.0
▲ 3.1
▲ 0.5
▲ 0.9
2.2
1.5
公需
政府消費
前期比、%
1.3
15.1
前期比寄与度、%Pt
▲ 0.8
▲ 0.5
0.6
0.1
▲ 0.6
▲ 0.2
1.1
0.1
▲ 0.0
▲ 0.0
▲ 0.0
▲ 0.2
0.5
0.3
輸出
前期比、%
▲ 1.3
4.8
5.5
4.3
0.3
6.5
▲ 0.4
0.7
0.7
1.2
1.1
1.1
1.2
1.0
輸入
公共投資
外需
前期比、%
3.6
7.0
1.6
3.0
3.7
6.4
▲ 5.6
▲ 0.0
0.8
1.1
1.2
2.0
▲ 1.6
▲ 0.3
名目GDP
前期比、%
▲ 0.2
1.9
2.3
2.3
0.3
1.6
▲ 0.1
0.8
0.8
0.4
1.0
0.2
▲ 0.1
0.9
GDPデフレーター
前年比、%
▲ 0.9
▲ 0.4
1.8
0.7
▲ 0.4
▲ 0.1
2.0
1.8
1.7
1.7
0.5
0.4
1.0
1.0
前年比、%
▲ 0.8
0.3
1.9
0.8
0.5
0.6
2.4
1.9
1.6
1.5
0.4
0.5
1.1
1.2
内需デフレーター
(注)網掛けは予測値。
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」よりみずほ総合研究所作成
2012
2013
2014
2015
年度
2013
10~12
2014
1~3
2015
4~6
7~9
10~12
1~3
4~6
2016
7~9
10~12
1~3
▲ 0.6
鉱工業生産
前期比、%
▲ 2.9
3.2
0.2
2.2
1.8
2.9
▲ 3.8
▲ 0.3
0.7
1.0
0.9
1.4
▲ 1.3
経常利益
前年比、%
8.1
20.9
▲ 0.1
3.2
25.1
17.2
▲ 2.0
2.6
0.2
▲ 0.6
5.1
3.0
3.3
1.5
名目雇用者報酬
前年比、%
0.1
1.0
1.6
1.6
1.6
0.5
1.3
1.6
2.0
1.6
1.7
1.7
1.9
0.8
完全失業率
%
4.3
3.9
3.6
3.5
3.9
3.6
3.6
3.6
3.6
3.6
3.5
3.5
3.5
3.5
新設住宅着工戸数
年率換算、万戸
89.3
98.7
91.2
88.4
104.1
93.4
88.7
89.9
91.7
94.9
95.3
88.3
84.7
85.8
経常収支
年率換算、兆円
4.2
0.8
2.8
3.6
0.0
▲ 5.5
2.6
3.6
5.8
1.2
3.2
2.2
7.3
3.5
国内企業物価
前年比、%
▲ 1.1
1.9
4.0
2.4
2.5
1.9
4.4
4.1
3.8
3.8
1.2
1.4
3.3
3.6
消費者物価
前年比、%
▲ 0.2
0.8
3.1
1.7
1.1
1.3
3.3
3.1
3.0
3.0
1.0
1.1
2.2
2.3
消費者物価(除く消費税)
前年比、%
▲ 0.2
0.8
1.1
1.1
1.1
1.3
1.4
1.1
1.0
1.0
1.0
1.1
1.1
1.2
無担保コール翌日物金利
%
0.06
0.04 0~0.10 0~0.10
0.07
0.04
0.06 0~0.10 0~0.10
0~0.10 0~0.10 0~0.10 0~0.10
0~0.10
新発10年国債利回り
%
0.78
0.69
0.63
0.60
日経平均株価
円
対ドル為替相場
WTI原油先物最期近物
1.04
0.64
9,650 14,424 15,700 17,500
0.65
14,972
0.56
0.65
14,964 14,650 15,600 16,100
1.10
1.15
16,400 16,900 17,400 17,600
0.80
0.90
1.00
18,100
円/ドル
83.0
100.0
103.0
110.0
101.0
103.0
102.0
102.0
104.0
105.0
107.0
109.0
111.0
112.0
ドル/バレル
92.0
99.0
100.0
96.0
98.0
99.0
103.0
99.0
98.0
98.0
97.0
96.0
96.0
96.0
(注1)網掛けは予測値。実数データより変化率を計算しているため、公表値と一致しないことがある。
(注2)経常利益は法人企業統計の全規模・全産業ベース(金融・保険、電気業を除く)。
(注3)消費者物価は生鮮食品を除く総合。消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%へ引き上げることを想定(2015年10月は「酒類・外食除く食料」に軽減税率を導入)。
(注4)完全失業率、新設住宅着工戸数、経常収支の四半期は季節調整値。
(注5)金融関連の指標について、無担保コール翌日物金利は期末値、新発10年国債利回りは月末値の期中平均値、その他は期中平均値。
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」、経済産業省「鉱工業指数」、財務省「法人企業統計季報」、総務省「労働力調査」、「消費者物価指数」、
国土交通省「建築着工統計調査報告」、日本銀行「国際収支」、「企業物価指数」、「金融経済統計月報」、「外国為替相場」、
日本相互証券㈱「主要レート推移」、日本経済新聞、Bloomberg、よりみずほ総合研究所作成
21
以上より、2015 年度は駆け込みにより上期の成長率が押し上げられる一方、
消費増税直後である 10~12 月期は再び大幅なマイナス成長となる見通しであ
る。もっとも、設備投資の回復や公共事業の執行などが支えとなり、景気は
年度末には持ち直すだろう。その結果、2015 年度の成長率は+1.5%と予測し
た(6 月予測:+1.5%)
。
GDPギャップの改善は緩や
みずほ総合研究所で試算しているGDPギャップは、駆け込み需要の反動
かなペースにとどまる見込み
による下押しもあり、2014 年 4~6 月期に潜在GDP比▲2.1%(約 11 兆円の
供給超過)へとマイナス幅が拡大した(図表 25)
。7~9 月期以降は再びマイ
ナス幅が縮小に向かうものの、供給超過の状態は続くだろう。2015 年度は、
再度の消費増税前の 7~9 月期に供給超過が一旦解消するが、増税後は再びマ
イナス圏に転じると予測している。GDPギャップの改善ペースは、2 度の消
費増税の影響などから緩やかなものにとどまるだろう。
2015 年度のコアCPI前年比
コアCPI(生鮮食品を除く総合消費者物価指数)の伸びは、消費増税の
(消費税の影響除く)は 2%
影響を除くと 2014 年 4 月(前年比+1.5%)をピークに縮小しており、6 月時
に届かない見通し
点では同+1.3%となった。円安によるCPI上昇率の押し上げ効果が一巡し
始めた模様である。7~9 月期以降も、これまでの円安・原油高によるエネル
ギー価格上昇や輸入コスト増加分の価格転嫁の影響が剥落していく見込みで
ある。また、消費税率引き上げの影響によるGDPギャップのマイナス幅拡
大も、当面の物価上昇を抑制する方向に働くとみられる。コアCPIの伸び
は、秋頃まで緩やかな縮小が続くと予想している。
図表 25
GDPギャップとコアCPIの推移と予測
(%)
4
見通し
2
0
▲2
▲4
GDPギャップ
(潜在GDP比)
コアCPI前年比
(消費税除く)
▲6
▲8
▲ 10
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
(注)コアCPIは生鮮食品を除く総合消費者物価指数。GDPギャップはみずほ総合研究所の推計値。
(資料)内閣府「国民経済計算」、総務省「消費者物価指数」などよりみずほ総合研究所作成
22
14
15
16
(年/四半期)
もっとも、2014 年度後半になると、内需が回復基調に復する中で、賃金の
改善分を物価に転嫁する動きが出始めるだろう。消費税率引き上げの影響を
除く 2014 年度のコアCPI前年比は+1.1%(消費税の影響を含むベースで
は+3.1%)と、2013 年度の伸びを上回ると予測している。
2015 年度も消費増税後の内需減少が見込まれるため、インフレ率の上昇は
緩やかなペースにとどまるだろう。2015 年度通年のコアCPI前年比は、消
費税の影響を除くベースで+1.1%(消費税の影響を含むベースでは+1.7%)
と、2014 年度並みの伸びを予測している。
以上のように、インフレ率は徐々に上昇するものの、
「2 年で 2%」という
日銀のインフレ目標は下回る見通しである。目標達成が難しいことが明らか
になった時点で、日銀は量的・質的金融緩和の延長を決定するだろう。
23
(3) 見通し上の論点
日本経済の先行きを見通す上
で、4 つの論点を検討
本経済見通しでは、日本経済の先行きを見通す上で、図表 26 に掲げた 4 つ
の論点について検討を行った。以下では、各論点について、結論とその根拠を
簡潔に説明する。
Q1:失速・景気後退のリス
クはないか?
第 1 の論点は、消費増税後の景気が失速し、景気後退に陥るリスクである。
2014 年 4~6 月期は、個人消費が前回(6 月)見通し時点の予測よりも大きな
A1:個人消費が徐々に持ち
直し、大規模な調整は
落ち込みとなったほか、製造業の製品在庫も増加した。そのため、先行きの在
庫調整や景気後退に対する懸念が浮上してきている。
回避。ただし、自動車
この点については、駆け込み需要の反動が薄れるに伴い個人消費が徐々に
では秋頃まで在庫調整
持ち直すと見込まれるため、全体としては本格的な調整は回避されると予想し
が生じる見込み
ている。
乗用車については、4~6 月期に在庫循環図上で「在庫積み上がり局面」に
入っているため、今後 1~2 四半期程度は在庫調整が必要になるとみられる(次
頁図表 27)
。もっとも、乗用車の調整が大規模なものに発展するリスクは低い
だろう。乗用車の国内販売の減少には歯止めがかかりつつあるため、夏場には
乗用車の減産が出荷の落ち込みに追いつくとみられる。仮に、7・8 月の生産
が生産予測指数(輸送機械ベース)通り、出荷が 6 月からほぼ横ばいと仮定す
ると、乗用車の在庫は 8 月に減少に転じる計算となる(次頁図表 28)
。積み上
がった在庫を削減するためその後も数カ月は生産水準の抑制が続くものの、秋
から冬にかけて在庫調整は一巡し、徐々に増産傾向に復すると見込んでいる。
図表 26 見通し上の論点一覧
Q1.失速・景気後退のリスクはないか?
A1.
個人消費が徐々に持ち直し、大規模な調整は回避。ただし、自動車では
秋頃まで在庫調整が生じる見込み
Q2. 輸出伸び悩みの要因と今後の見通しは?
海外生産移転の影響や新興国経済のもたつきなどが輸出の下押し要因
A2. となっている模様。今後は先進国経済の回復を主因に持ち直していく
が、力強さには欠ける見通し
Q3. 設備投資の回復は本物か?
非製造業の投資は堅調な拡大が続く見通し。他方、製造業は更新投資
A3. が押し上げに寄与するが、2015年度末までの予測期間中には、製造業
の本格的な投資拡大までには至らない見通し
Q4.人手不足が労働コストと物価に与える影響は?
人手不足は単位労働コストの上昇につながる見込み。もっとも、2度の消
A4. 費増税を乗り越えるまでは、単位労働コストの上昇分を販売価格へ完全
には転嫁しない状況が続く見通し
(資料)みずほ総合研究所作成
24
Q2:輸出伸び悩みの要因と
今後の見通しは?
第 2 の論点は、円安の追い風にもかかわらず輸出が伸び悩んでいる原因と、
今後の輸出の回復力である。2012 年末頃から円安が進行したにもかかわらず
A2:海外生産移転の影響や
(実質実効為替レートは 2012 年 7~9 月期から 2014 年 4~6 月期にかけて約
新興国経済のもたつき
24%低下)
、輸出は依然低調な伸びが続いている。輸出数量は、2013 年度が前
などが輸出の下押し要
年比+0.6%の小幅な伸びにとどまり、足元でも 2014 年 4~6 月期が前期比
因。今後の持ち直しは
▲0.8%(みずほ総合研究所による季節調整値)と低調に推移している。
力強さに欠ける見通し
輸出が伸び悩んでいる背景には、2012 年までの円高期に計画された海外生
産工場建設の進捗があると考えられる。特に自動車では 2013 年末から 2014
年初にかけて、メキシコ工場の稼働が相次いでおり(後掲図表 34 参照)
、北米
向け輸出を代替しているとみられる。
図表 27
乗用車の在庫循環図
図表 28
乗用車の生産・出荷・在庫増減
(先行きの機械的試算)
(出荷前年比、%)
15
13年Ⅳ
在庫積み増し
局面
10
(万台)
78
76
74
72
70
68
66
64
62
60
58
56
13/1
在庫積み上がり
局面
14年Ⅰ
5
14年Ⅱ
0
2012年Ⅲ
▲5
▲ 10
回復局面
▲ 15
▲ 20
▲ 60
▲ 40
在庫調整
局面
13年Ⅰ
▲ 20
0
20
40
4
3
2
1
0
▲1
試算
13/4
13/7 13/10 14/1
14/4
▲2
▲3
14/7 (年/月)
(注)乗用車の生産台数・出荷台数・在庫台数をみずほ総合研究所に
て季節調整(在庫台数は季節調整後の前月差を図示)。7・8月の
生産台数は輸送機械の生産予測指数により延長。7月の出荷台
数は国内販売台数のデータを基に試算(輸出台数は横ばいと仮
定)。8月の出荷台数は7月から横ばいと仮定。7・8月の在庫増減
台数は、各月の生産台数から出荷台数を差し引いて試算。
(資料)経済産業省「生産動態統計」などよりみずほ総合研究所作成
60
(在庫前年比、%)
(資料)経済産業省「鉱工業指数」
図表 29
(万台)
5
在庫台数増減(右目盛)
生産台数
出荷台数
国・地域別輸出数量の長期推移
図表 30
製造業・非製造業別設備投資の推移
(2005年=100)
130
(2008年1~3月期=100)
110
リーマンショック前のピークの水準
120
100
110
90
100
80
90
70
80
70
60
50
60
米国
欧州
製造業
非製造業
50
アジア
02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
(年/四半期)
(注)1.有形固定資産の新設投資額。季節調整値。
2.全産業ベースでリーマンショック前のピークとなった2008年
1~3月期を100とした。
(資料)内閣府「民間企業資本ストック統計」よりみずほ総合研究所作成
98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
(年/四半期)
(注) みずほ総合研究所による季節調整値。
(資料) 財務省「貿易統計」からみずほ総合研究所作成
25
また、アジア新興国の内需のもたつきも、輸出の低迷に大きく寄与してい
るとみられる。もともと、リーマンショック前の輸出拡大期にけん引役となっ
たのはアジア向け輸出であった(前頁図表 29)
。しかし、中国の成長率が長期
的にみて徐々に切り下がる中で、このところは東南アジア諸国の内需低調もあ
ってアジア向け輸出は低迷が続いており、輸出全体の回復を遅らせる大きな要
因になっているとみられる。
今後は、海外生産の進展が輸出を代替する動きは続く可能性が高いほか、
アジア向け輸出の伸びが大きく高まることは見込みがたい。先進国中心の景気
回復が見込まれる中で、輸出は持ち直すとみられるものの、力強さには欠ける
と予想している。
Q3:設備投資の回復は本物
か?
第 3 の論点は、日銀短観の設備投資計画などで示される設備投資の回復が、
本物かどうかである。
A3:非製造業の投資は堅調
日銀短観(6 月調査)から 2014 年度の設備投資計画(土地を含み、ソフト
に拡大。製造業は更新
ウェアを除くベース)をみると、ほぼ計画が固まる大企業では、製造業が前年
投資が押し上げに寄与
比+12.7%と大幅に増加したほか、非製造業も同+4.9%の堅調な伸びになっ
しているが、本格的な
た。
投資拡大には至らず
ただし、業種別の内訳が入手できる 2014 年 1~3 月期時点の設備投資の水
準をみると、製造業はリーマンショック後の落ち込みを半分程度しか取り戻さ
ない位置にある(前頁図表 30)
。2014 年度の製造業の設備投資が計画に沿っ
て大幅に増加したとしても、依然として水準は低く、本格的な投資の拡大には
至っていないと評価すべきだろう。製造業の投資増は、これまで控えていた設
備の更新投資がメインであるに過ぎないといえる。
他方、非製造業の投資水準はリーマンショック前を上回り、堅調に拡大し
ている。日本政策投資銀行による調査や各種報道等によれば、小売大手の新規
出店や物流施設の整備などの積極的な投資が計画されており、高齢化や電子商
取引の拡大に伴う消費形態の多様化などへの対応が押し上げに寄与している
模様である。
Q4:人手不足が労働コス
第 4 の論点は、人手不足が労働コストと物価に与える影響である。日銀短
トと物価に与える影
観の雇用人員判断DIをみると、消費増税後も非製造業では雇用不足の状態が
響は?
続いており、労働コストの押し上げを通じてインフレ率の上昇につながること
A4:人手不足は単位労働コ
が期待されている。
ストの上昇につながる
労働コストに関する指標には賃金や単位労働コスト(ULC)などがある
見込み。もっとも、2
が、物価と最も直接的な関係を持つのは、単位労働コストである。賃金が労働
度の消費増税を乗り越
者 1 人当たりの労働コストであるのに対して、単位労働コストは企業が販売す
えるまでは、単位労働
る製品・サービス 1 単位当たりの労働コストだからである。
コストの上昇分を販売
そこで、まず雇用の過不足感と単位労働コストとの関係をみると、2000 年
価格へ完全には転嫁し
代以降も、人手不足が単位労働コストの上昇をもたらす関係は維持されている
ない状況が続く見通し
(次頁図表 31)
。2000 年代以降は、人手不足下でも賃金が上昇しにくくなっ
たが、その一方で生産性が相対的に低いとみられるパート労働者などの採用が
増加し、単位労働コストの上昇につながっているとみられる。
他方、単位労働コストと消費者物価との関係をみると、2000 年代以降は単
26
位労働コストの上昇分を物価に転嫁する度合いはかなり弱まっている(図表
32)
。企業は労働コストの上昇を、他のコスト削減や利益の圧縮で吸収し、販
売価格の引き上げを抑制しているようだ。
今後についてみると、当面は 2 度の消費増税の影響で個人消費の伸びが緩
やかなものにとどまるとみられることなどから、企業は人手不足に伴う単位労
働コストの上昇を販売価格へ完全には転嫁しない状況が続く可能性が高い。人
手不足が物価上昇に明確に結びついてくるのは、2 度の消費増税を乗り越えた
後になると予想される。
図表 31
雇用の過不足感と単位労働コスト
図表 32
単位労働コストとコアCPI
との関係
上昇率との関係
(単位労働コスト前年比、%)
10
1990年代
8
y = -0.08 x + 0.92
R² = 0.49
6
1990年代
y = 0.33x + 0.70
R² = 0.54
(コアCPI前年比、%)
4
3
4
2
2
1
0
▲2
0
▲4
▲8
▲ 10
▲ 60
▲1
2000年代・2010年代
y = -0.15x - 0.62
R² = 0.32
▲6
▲ 40
雇用不足
▲ 20
2000年代・2010年代
y = 0.090x - 0.074
R² = 0.083
▲2
0
20
40
(雇用人員判断DI、%Pt)
雇用過剰
▲3
▲ 10
(注)1.単位労働コストは、名目雇用者報酬を実質GDPで割ったもの。雇用人員判断
DIは、全規模・全産業ベース。
2.雇用人員判断DIと単位労働コストとの間は、2~3四半期のラグをとっている。
(資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」、内閣府「国民経済計算」
▲5
0
5
10
(単位労働コスト前年比、%)
(注)1.単位労働コストは、名目雇用者報酬を実質GDPで割ったもの。
2.単位労働コストとコアCPIとの間は、ラグはとっていない。
(資料)内閣府「国民経済計算」、総務省「消費者物価指数」
27
(4) 外需
4~6 月期の外需寄与度は大
幅プラス
4~6 月期の実質輸出
(GDPベース)
は前期比▲0.4%
(1~3 月期同+6.5%)
と減少に転じた。一方、実質輸入が同▲5.6%(1~3 月期同+6.4%)と輸出
以上に大きく落ち込んだため、実質GDP前期比に対する外需(純輸出)の
寄与度は大幅なプラス(+1.1%Pt)となった。消費税率引き上げの影響で国
内需要が落ち込む中、4~6 月期は外需が実質GDP成長率のマイナスを緩和
する形になっている。
低迷が続く輸出
このように 4~6 月期の外需は成長率の押し上げに働いたが、輸出の低迷が
続いていることは懸念材料である。輸出回復の遅れは、生産活動に悪影響を与
えるからだ。GDPベースの輸出が 1~3 月期に前期比増だったのは国際収支
統計の変更によるものであり、実質輸出(日銀の計算値)や輸出数量指数(み
ずほ総合研究所による季節調整値)は 2 四半期連続で減少している(図表
33)
。2012 年末からの円安進行を受け、やや遅れて輸出数量も増加に向かうと
の見方が支配的だったが、今のところ期待は裏切られ続けている。特に 4~6
月期は、1~3 月期まで国内の駆け込み需要に対応していたメーカーが輸出に
シフトするとの予想に反して減少が続いた。
海外生産比率の上昇が輸出
回復を抑制
鉱工業出荷内訳表の輸出向け出荷は 4~6 月期に前期比▲3.4%の大幅減と
なったが、主因となったのが自動車輸出の減少(輸送機械工業の輸出向け出
荷は同▲7.1%となり、鉱工業輸出向け出荷を 2.0%Pt 押し下げ)である。特
に米国向けの落ち込みが大きかったが、この背景には日本メーカーのメキシ
コ工場が相次いで稼働し、輸出が現地生産に代替されたことがある。2013 年
末から 2014 年初にかけて年間生産能力 50 万台強の工場がメキシコで生産を
開始したが、これは 2013 年の国内生産台数(963 万台)の 5%強に相当する
(図表 34)
。
海外景気の回復と円安を背景に今後の輸出は持ち直すとみられるが、こう
した海外生産比率の上昇が輸出を抑制する状況が続くため、増加ペースは緩
やかなものとなろう。
図表 33
輸出関連指標
図表 34
最近稼働した自動車のメキシコ工場
(2010年=100)
120
工場所在地
日産
110
稼働開始
アグアスカリエンテス 2013年11月
年間生産能力
17.5万台
100
マツダ
90
グアナフアト州
2014年1月
14万台
2014年2月
20万台
合計
51.5万台
サラマンカ市
80
ホンダ
実質輸出(日銀ベース)
GDPベース実質輸出
輸出数量
70
グアナフアト州
セラヤ市
60
08
09
10
11
12
13
14
(ご参考)2013年の日本メーカー国内生産台数
(年/四半期)
963万台
(注)実質輸出・輸出数量は財のみ。GDPベース輸出はサービスを含む。
輸出数量はみずほ総合研究所による季節調整値。
(資料)内閣府「国民経済計算」、日本銀行「実質輸出入」、財務省「貿易
統計」より、みずほ総合研究所作成
(資料)各社発表資料などより、みずほ総合研究所作成
28
輸入の伸びが低位にとどま
一方、輸入は駆け込み需要の反動一巡後、内需の回復に呼応して 2014 年度
り、2014・2015 年度の外需寄
後半から増加基調に復すると予測している。その後、2015 年度前半には次の
与度はプラスに
消費税率引き上げを前にした駆け込み輸入が生じ、2015 年度後半は反動で減
少するであろう。
GDPベースの実質輸出は 2014 年度前年比+5.5%、2015 年度同+4.3%、
実質輸入は 2014 年度同+1.6%、2015 年度同+3.0%と予測している。消費税
率引き上げに伴い内需の伸びが低位にとどまるため、2014・2015 年度とも輸
出が輸入の伸びを上回るとみられる。その結果、実質GDP成長率に対する外
需寄与度は、2014 年度+0.6%Pt、2015 年度+0.1%Pt と 2 年連続でプラスが
見込まれる。
貿易赤字は若干縮小するも
貿易収支(通関ベース)は駆け込み輸入が発生した 2013 年度後半にかけて
のの、大幅赤字が継続
赤字が拡大したが、2014 年度に入ってから赤字幅がやや縮小している。もっ
とも、原子力発電所の停止(あるいは低稼働)に伴う高水準の燃料輸入が続く
こと、先行き円安進行による輸入価格上昇が見込まれること、輸出の大幅な回
復が見込めないことなどから、2014 年 4~6 月期の水準から貿易赤字が大幅に
縮小することは見込めない(図表 35)
。過去最大の赤字(▲13.8 兆円)を記
録した 2013 年度に比べれば改善するものの、貿易収支は 2014 年度▲11.1 兆
円、2015 年度▲11.5 兆円と 10 兆円を超える赤字が続く見通しである。
経常収支は黒字が緩やかに
また、貿易収支の赤字が若干縮小するため、2014・2015 年度の経常収
増加
支は黒字幅がわずかながら拡大する見通しである。高水準の貿易赤字
を第一次所得収支の黒字がカバーする形で、経常収支は小幅ではある
が黒字を維持するであろう。円安・海外景気回復を受けて対外資産か
らの配当・利息が増加することが、第一次所得収支が高水準の黒字を
維持する要因となる。2014 年度の経常収支は+2.8 兆円、2015 年度は+3.6
兆円と、2013 年度の+0.8 兆円を底に黒字が緩やかに増加するであろう(図
表 36)
。
図表 35
10
貿易収支(通関ベース)の見通し
(兆円)
図表 36
40
5
30
0
20
▲5
10
経常収支の見通し
(兆円)
貿易収支
第一次所得収支
経常収支
サービス収支
第二次所得収支
24.3
16.7 18.0
▲ 10
予測
10.7
7.9
4.2
0.8
2.8
13
14
3.6
0
貿易収支
(季調値・年率)
▲ 15
▲ 10
予測
▲ 20
▲ 20
10
11
12
13
14
15
07
16
(年/四半期)
(資料)財務省「貿易統計」より、みずほ総合研究所作成
29
08
09
10
11
12
15
(年度)
(注)グラフ中の数値は経常収支黒字額。
(資料)日本銀行「国際収支統計」より、みずほ総合研究所作成
(5) 企業部門
4~6 月期の生産は大幅減
2014 年 4~6 月期の鉱工業生産は、前期比▲3.8%(1~3 月期同+2.9%)と 6
四半期ぶりに減産となった。1~3 月期に駆け込み対応で増産した反動から 4
月が大幅な減産となり、5 月以降も耐久消費財の弱含みなどから慎重な生産が
続いている。前回(6 月)の経済見通しでは、輸出向け出荷を強化することに
より増税後の生産が下支えされるとみていたが、海外生産比率の高まりなどか
ら輸出の増加には至らなかったことも生産の下押しにつながった。
4~6 月期は耐久消費財の在
4~6 月期の出荷在庫バランス(出荷前年比-在庫前年比)は▲1.5%Pt(1
庫が大幅増
~3 月期同+8.9%Pt)とマイナスに転じた(図表 37)
。増税後の最終需要が
弱含んだ耐久財を中心に在庫指数が上昇した。在庫指数の上昇幅が大きい乗用
車(前期比+20.7%)について在庫循環図を描くと、4~6 月期に在庫積み上
がり局面に入っており、今後 1~2 四半期程度は在庫調整が必要になる可能性
が高い(前掲図表 27 参照)
。
自動車の在庫調整は秋頃に
もっとも、乗用車の在庫調整が大規模なものに発展するリスクは低いだろ
一巡、生産は徐々に増産基調
う。7 月の国内新車販売台数(登録車と軽自動車の乗用車合計、みずほ総合研
に復する見込み
究所による季節調整値)は 6 カ月連続で減少したものの、減少幅は徐々に縮小
しており、夏場には乗用車の減産が出荷の落ち込みに追いつくとみられる。積
み上がった在庫を削減するためその後も数カ月は生産水準の抑制が続くとみ
られるが、秋頃には在庫調整終了の目処が立つだろう。
また、鉱工業全体では 4~6 月期の出荷在庫バランスのマイナスは小幅に留
まっており、耐久消費財以外の在庫調整圧力はそれほど高くない。耐久消費財
の在庫調整が生じても、鉱工業全体でみれば軽微な調整に収まるだろう。今後
の生産は内需の持ち直しもあって徐々に増産基調に復すると予測している。年
度ベースでは、
2014 年度の鉱工業生産は前年比+0.2%、
2015 年度は同+2.2%
と増産が続く見通しである。
企業収益は弱含み
上場企業(日経 225 採用銘柄、金融・保険及び電力を除く)の 2013 年 4~6
月期決算は、製造業が増益となった一方で、非製造業は減益となった模様であ
る(図表 38)
。決算資料によると、製造業は、電気機械で設備の更新需要や
図表 37
出荷在庫バランスと生産指数
図表 38
(鉱工業・耐久消費財)
鉱工業
(連結ベース)
耐久消費財
(前年比、%Pt、%)
40
(前年比、%Pt、%)
15
出荷在庫
バランス
(前年比、%)
80
60
20
5
▲5
20
0
0
▲ 10
▲ 20
Q1
▲ 20
▲ 10
▲ 15
2011
2012
2013
2014
(年/四半期)
(資料)経済産業省「鉱工業指数」
非製造業
40
10
0
製造業
100
30
生産指数
10
上場企業の経常利益
▲ 30
出荷在庫
バランス
▲ 40
生産指数
▲ 50
2011
2012
2013
2014
(年/四半期)
30
Q2
Q3
2013
Q4
Q1
Q2
2014
(年/四半期)
(注)日経225採用銘柄(金融・保険、電力を除く)のうち、前年同期と比較可能
な企業の経常利益前年比増減率。2014年第2四半期は、8月12日時点で
データベースに反映済みの195社。
(資料)日経NEEDS
海外売上が堅調に推移したほか、輸送機械や化学でも海外売上の好調さが増益
に寄与した模様である。非製造業は、小売で消費増税後の消費意欲の低下によ
る減収を指摘する声がみられたほか、運輸で輸出貨物が伸び悩んだとのコメン
トがみられた。製造業の経常利益は前年比プラスを維持したものの、海外での
売上増が主因であり、国内の売上は前年を下回った企業が多くみられた。上場
企業の連結決算は増益となったが、国内の業績に限ると、消費増税の影響など
から収益は弱含んでいるとみられる。
生産・売上の増加に伴い収益
は緩やかに回復する見通し
今後の企業収益は、
生産・売上の増加に伴い緩やかに回復する見通しである。
年度ベースの経常利益(法人企業統計季報ベース:電力、金融・保険を除く)
は、2014 年度が前年比▲0.1%、2015 年度が同+3.2%と予測する。
2014 年 4~6 月期の設備投資
は足踏み
2014 年 4~6 月期の実質設備投資は、前期比▲2.5%(1~3 月期同+7.7%)
と 5 四半期ぶりに減少した。4~6 月期の資本財出荷(除く輸送機械)の内訳
をみると、拡大が続いていた製造設備用のほか事務用なども全体を押し下げて
おり、全体的に足踏みしている。
2014 年 10~12 月期以降は回
復軌道に復する見通し
1~3 月期に設備投資が集中したことや増税後の景気に対する慎重姿勢か
ら、7~9 月期も設備投資は足踏みが続くとみられる。実際、設備投資の先行
指標である機械受注や建築着工床面積は減少している(図表 39)
。もっとも、
年度を通してみれば投資は拡大基調にある。日銀短観(6 月調査)の設備投資
計画をみると、大企業・製造業は前年比 2 桁増と、過去数年の 6 月調査時点の
計画と比較して強めの数字となっている。大企業・非製造業も底堅い計画とな
っており、総じて設備投資意欲の回復がみられる内容であった。また、政府資
料によると、2014 年 1 月より始まった設備投資の優遇制度(生産性向上設備
投資促進税制など)にかかる申請件数は増加傾向が続いており、投資押し上げ
効果が期待される。
設備投資は、生産や輸出の回復を受けて、年度後半にかけて回復基調へ復す
るだろう。年度ベースの設備投資は 2014 年度が前年比+4.5%、2015 年度が
同+3.0%と予測する。政府目標である年間 70 兆円(名目ベース)は 2014 年
度にも達成する見込みである(図表 40)
。もっとも、製造業では設備投資の
けん引役が不在であるため、投資の本格的な拡大までには至らないだろう。
図表 39
設備投資の先行指標
(製造業)
(2010年=100)
150
建築着工床
面積
140
図表 40
(非製造業)
(2010年=100)
建築着工床
150
面積
80
140
130
130
120
120
110
110
100
100
75
機械受注
80
2011
2012
2013
2014
(年/月)
(兆円)
成長戦略目標
70兆円
(予測)
70
65
60
機械受注
90
名目設備投資の見通し
90
55
80
2011
2012
2013
2014
(年/月)
(注)後方3カ月移動平均値。
(資料)内閣府「機械受注統計調査報告」、国土交通省「建築着工統計調査報告」
よりみずほ総合研究所作成
50
05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
(年度)
(資料)内閣府「国民経済計算」よりみずほ総合研究所作成
31
(6) 家計部門
雇用情勢は改善が続く
4~6 月期の雇用・所得環境は、労働需要の高まりに加え、今春の賃上げの影
響が徐々に顕在化してきていることから改善傾向が続いた。一方、消費増税の
影響から実質ベースの所得環境は悪化している。4~6 月期の失業率は 3.6%(1
~3 月期:3.6%)と前期から横ばいとなる一方、有効求人倍率は 1.09 倍と 1992
年 4~6 月期(1.12 倍)以来の水準まで高まった。常用雇用(毎月勤労統計)は
運輸・郵便業や宿泊業、飲食サービス業を中心に前年比の伸びが高まった(1
~3 月期前年比+1.2%⇒4~6 月期同+1.4%)
。名目賃金は、所定内給与が 9
四半期ぶりに前年比マイナス圏を脱したほか、特別給与も増加したため、前年
比プラス幅が拡大した(1~3 月期同+0.1%⇒4~6 月期同+0.5%)
。賃金の伸
びが高まった背景には、春闘でのベースアップ(以下、ベア)復活がある。厚
生労働省が集計する民間主要企業の春季賃上げ妥結状況によると、2014 年の春
季賃上げ率は 2.19%と昨年から 0.39%Pt 上昇した(図表 41)
。昨年は大部分
の企業でベアが実施されていないため、賃上げ率の上昇分(0.4%程度)がベア
の大きさにほぼ等しかったと推察される。以上の結果、4~6 月期の名目雇用者
所得(常用雇用×名目賃金)は前年比+1.9%(1~3 月期同+1.3%)に伸びが
高まった。一方、物価調整後の実質雇用者所得(常用雇用×実質賃金(※))
は同▲2.3%(1~3 月期同▲0.5%)と、消費増税の影響から大幅に落ち込んだ。
なお、4~6 月期のSNAベース名目雇用者報酬は同+1.3%(1~3 月期
同+0.5%)と増加したが、実質ベースでは同▲2.2%(1~3 月期同▲0.6%)
(※)消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)を用いて実質化。
と減少した。
駆け込みの反動により、個人
消費は大きく減少
4~6 月期の実質個人消費は前期比▲5.0%(1~3 月期同+2.0%)と大幅に減
少した。減少幅は前回の増税後(1997 年 4~6 月期同▲3.5%)と比べても大き
かった(図表 42)
。耐久財(自動車、家電など)や半耐久財(衣料、宝飾など)は、
増税前の駆け込みが前回よりも大きかったため、反動減も大きく顕れたとみら
れる(次頁図表 43)
。非耐久財(飲食料品など)は、増税に伴う実質所得の目
減りや天候不順の影響などから回復が遅れているようだ。
雇用情勢は改善が続く見込
み
7~9 月期以降の雇用情勢は、改善が続くと予想される。在庫調整圧力の高ま
りを背景に生産の弱含みが続くとみられることから、製造業雇用は低調な伸び
が見込まれる。他方、高齢化を背景とした医療・福祉での雇用増や、人手不足
図表 41 春季賃上げ率
図表 42
(兆円)
(%)
2.4
(兆円)
283
325
2.3
2.2
実質個人消費(1997 年増税時との比較)
320
2.19
2.1
2.0
1.9
273
310
268
305
300
295
1995/2012
1.6
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
(資料)厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況について」(年)
278
315
1.8
1.7
2012年第1四半期
~2014年第2四半期
1995年第1四半期
~1997年第4四半期
(右目盛)
258
253
1996/2013
1997/2014
(資料)内閣府「国民経済計算」よりみずほ総合研究所作成
32
263
(年/四半期)
感の強い外食・宿泊、建設業などでの労働需要の高まりは続くとみられる。
2015 年度に入ると、2015 年 10 月に想定する消費増税(8%⇒10%)を前に、
駆け込み対応の増産が行われることで製造業雇用の伸びも一旦回復するだろ
う。もっとも、2015 年度下期は増税後の景気減速を受けて、雇用者数の伸びは
一時的に鈍化する見通しである。年度ベースの雇用者数(労働力調査ベース)は、
2014 年度が前年比+0.4%、2015 年度が同+0.4%と予測した。
名目賃金の伸びは 1%近傍ま
で拡大
7~9 月期以降も、名目賃金は緩やかな増加基調を維持すると予想される。中
小企業でも賃上げの動きが徐々に広がることで、所定内給与は緩やかながらも
改善が続く見込みだ。また、労働需給の引き締まりを背景に、賃金上昇圧力が
徐々に強まる中、政労使会議(政府、経済界、労働界で賃上げについて協議)
が今年も開催されるとみられ、2015 年の賃上げ実施を後押しする見込みであ
る。所定外給与は、鉱工業生産の弱含みを背景に 2014 年度後半にかけて伸びが
鈍化するが、その後は、2015 年 10 月の消費増税を前にした駆け込み対応の増
産に合わせて増加基調に復する見込みである。企業業績の改善基調が維持され
ることで、特別給与も増加が続くだろう(図表 44)
。
雇用者報酬は増加する見通
し
以上のような雇用・賃金動向を踏まえ、2014 年度の雇用者報酬は前年比
+1.6%と予測した。公務員については、東日本大震災からの復興財源確保のた
めの給与減額措置が 2013 年度末で終了することを考慮した。2015 年度の雇用
者報酬は同+1.6%と予測している。
7~9 月期以降の個人消費は、
7~9 月期の個人消費は、消費増税後の落ち込みから徐々に回復する見込みで
緩やかな回復軌道に復する ある。自動車などの耐久財は、駆け込みの規模が 97 年の増税時に比べて大きか
見通し
ったことから、当面反動減による低調な推移が続くとみられる。家電主要 5 品
目の販売額は、7 月後半からはプラスに転じているが、これは気温上昇による
エアコンと冷蔵庫の販売増の影響が大きいようだ(次頁図表 45)
。7 月の新車
販売台数(登録車・軽自動車の乗用車合計、みずほ総合研究所による季節調整値)
は、4~6 月平均を 5.4%下回った(次頁図表 46)
。一方、食品などの非耐久財
や衣服などの半耐久財は、7~9 月期には反動の影響がはく落し、持ち直してい
く見込みである。7 月の大手百貨店 5 社の売上は、一部で前年比プラスに転じ
るなど着実に回復の動きがみられる(次頁図表 47)
。また、加工食品や日用品
を取り扱うスーパーの販売は、天候不順が続いた 7 月は回復が鈍ったものの、8
図表 43
消費増税後の形態別実質消費変化率
図表 44
(前期比、%)
1 人当たり名目賃金の見通し
(前年比、%)
1.5
0
▲5
▲ 5.2
0.5
▲ 7.0
▲ 7.3
▲ 10
2014年4~6月期
▲ 11.4
▲ 15
1.0
▲ 3.4
▲ 3.5
0.0
▲ 12.3
▲ 0.5
1997年4~6月期
▲ 18.9
▲ 20
合計
耐久財
見通し
特別
所定外
所定内
総額
▲ 1.2 ▲ 0.9
半耐久財
▲ 1.0
非耐久財
2010
サービス
2011
2012
2013
2014
2015
(年度)
(注)2014年度以降は、みずほ総合研究所による見通し。
(資料)厚生労働省「毎月勤労統計」よりみずほ総合研究所作成
(資料)実質国内家計最終消費支出の形態別内訳。
(資料)内閣府「国民経済計算」よりみずほ総合研究所作成
33
月第一週には前年比マイナス幅が縮小した。
以上のように、各業界の販売データをみると、消費全体の落ち込みは縮小し
つつあることがみてとれる。7~9 月期の消費は、4~6 月期の反動減を取り戻
すほどではないものの、着実に持ち直すだろう。伸び率だけをみれば前期比
+1.5%と、消費増税前の駆け込みの影響が大きかった 2014 年 1~3 月期(同
+2.0%)
、東日本大震災後の 2011 年 7~9 月期(同+1.6%)に続く高い伸び
になると見込まれる。
10~12 月期以降の消費は、雇用・所得環境の改善傾向が続く中で、耐久財で
も駆け込み需要の反動減が薄れてくることなどから、緩やかな回復軌道に復す
るとみられる。
ただし、
年度でみれば 4~6 月期の落ち込みの影響が大きく、2014
年度の実質個人消費は前年比▲1.8%と 6 年ぶりに減少する見通しだ(図表
48)。
2015 年度の個人消費は駆け
2015 年度は、10 月に消費税率が 8%から 10%へと引き上げられることを想
込みと反動が生じるが、通年
定している。
このため、
年度前半は駆け込み需要で消費が押し上げられる一方、
で増加
年度後半はその反動によって落ち込むことが予想される。なお、消費税率の
10%への引き上げの際には軽減税率(食料品の税率を 8%で据え置き)の導入
も想定した。軽減税率の導入は、食料品の駆け込み・反動や実質所得の減少を
緩和するとみられる。2015 年度通年では、雇用・所得環境の改善もあって、
実質個人消費は前年比+1.7%の増加に転じる見込みである。
図表 45
家電、加工食品・日用品等の販売
図表 46
新車販売台数(登録車・軽自動車の乗
用車合計、1997 年増税時との比較)
(前年比、%)
<家電販売>
(月次)
(前年比、%) <加工食品・日用品等販売>
(週次)
(月次)
100
8
80
6
600
前回(1996年~1997年)
550
500
0
▲2
20
10.4
0
▲ 4.2
▲4
450
▲6
▲ 20
▲8
▲ 40
▲ 10
▲ 60
▲ 12
6
8 (月)
7
350
1 2 3 4 1 2 3 4 1 (週)
1 2 3 4 1 2 3 4 1 (週)
1 2 3 4 5
400
6月平均
(▲4.3)
1 2 3 4 5
6
7
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 (月)
8 (月)
(注)1.左図の値は、GfKジャパン(全国の有力家電量販店販売実績を調査・集計)により内閣府作成。テレビ、エアコン、冷蔵庫、
パソコン、携帯電話の5品目の集計値。
2.右図の値は、KSP(全国の食品スーパーマーケット販売実績を調査・集計)より内閣府作成。加工食品、飲料・酒類、菓子
類の3品目の合計(税抜き価格ベース)。既存店ベースのため前年比が低めに出る傾向がある。7月第4週は、祝日の影響
を取り除くため、7月14日~27日の2週間の前年比を算出している。また、7月28日~8月3日のデータは速報値。
(資料)内閣府「消費税率引き上げ後の消費動向等について」よりみずほ総合研究所作成
図表 47
1996/2013
4月
大手百貨店 5 社の売上高
三越伊勢丹
大丸松坂屋
高島屋
そごう・西武
阪急阪神
5月
6月
7月
図表 48
(前年比、%)
8月
1997/2014
(年)
(注)みずほ総合研究所による季節調整値。
(資料)(社)日本自動車販売協会連合会「新車販売台数状況」、(社)全国軽自動車協会連合会「軽四
輪車新車販売」
上段:2014年(下段:1997年)
大
手
5
社
今回(2013年~2014年)
7月平均
(▲4.8)
2
6月平均
(▲14.7)
40
(週次)
4
7月平均
(▲9.0)
60
(万台)
雇用者報酬
9月
雇用者数
▲9.3
▲3.7
▲3.8
0.9
-
-
▲15.7
▲6.5
▲3.7
▲2.8
2.8
▲0.4
▲18.5
▲10.7
▲11.0
▲3.0
-
-
▲16.8
▲2.0
▲3.0
▲5.6
2.0
▲3.8
名目消費支出
▲14.0
▲8.4
▲6.0
▲4.4
-
-
消費性向(%)
▲15.7
▲7.5
▲5.1
▲2.6
▲9.0
▲4.8
▲11.4
▲2.9
▲4.7
▲2.7
-
-
▲1.0
▲7.4
▲5.4
▲4.4
6.4
▲1.4
▲7.9
1.3
▲4.5
1.3
-
-
▲13.7
▲6.6
▲7.2
▲4.6
0.7
▲5.0
一人当たり名目賃金
名目可処分所得
消費性向(前年差)
消費支出デフレーター
実質消費支出
個人消費の見通し
12年度 13年度 14年度 15年度
0.1
0.2
▲ 0.7
▲ 0.5
0.6
98.1
0.9
▲ 0.8
1.5
1.0
1.0
0.1
1.2
2.6
99.5
1.4
0.1
2.5
1.6
0.4
0.9
1.8
0.4
98.2
▲ 1.3
2.2
▲ 1.8
(注)1.消費性向=家計最終消費支出÷家計可処分所得×100。
2.雇用者報酬には賃金・俸給のほか、雇主の現実社会負担(厚生年金の雇主
負担など)と雇主の帰属社会負担(退職一時金や労災など)がある。
3.一人当たり名目賃金は、農林漁業や公務(他に分類されるものを除く)を除く。
(資料)内閣府、総務省、厚生労働省などよりみずほ総合研究所作成
(注)売上高の前年比。1997年は各社主要店舗の値をみずほ総合研究所が集計。
(資料)各社ホームページ等よりみずほ総合研究所作成
34
1.6
0.4
1.2
1.5
2.5
99.2
1.1
0.9
1.7
住宅着工戸数は駆け込みの反
動が続き減少
2014 年 4~6 月期の住宅着工戸数(季調値、月次データの四半期平均値、以
下同様)は前期比▲5.0%(1~3 月期同▲10.3%)と 2 四半期連続で減少した。
水準でみると年率 88.7 万戸と、消費増税を睨んだ駆け込み着工がみられる前
の 2012 年 7~9 月期(年率 87.3 万戸)並みの水準まで減少した。着工の推移
を 97 年の消費増税時と比較すると、2014 年上期
(1~6 月期)
は前期比▲10.3%
と、97 年上期(同▲13.4%)に比べて減少幅が小さい(図表 49)
。利用関係
別にみると、前回増税時に堅調に推移していた分譲マンションは、今回は大幅
に減少した。建設コストの高騰などによる着工先送りが影響した模様だ。一方、
貸家の減少幅が前回よりも小さく、着工全体の落ち込みを緩和した。2015 年 1
月に予定されている相続増税の影響や、サービス付き高齢者向け住宅(以下、
サ高住)の供給増などが下支えしているとみられる。持家の減少幅も、前回増
税時に比べるとわずかに小さかった。進捗ベースの 4~6 月期の実質住宅投資
は、駆け込みの反動が顕在化したことにより前期比▲10.3%(1~3 月期同
+2.0%)と 9 四半期ぶりに減少に転じた。
2014 年度後半から再び増加
7~9 月期の着工戸数は前期から下げ止まり、ほぼ横ばいになると予想して
いる。駆け込みの反動が薄れる中で、地価・建設コストの先高観や住宅ローン
の低金利が着工の下支えに働くとみている。また、貸家は相続増税やサ高住の
増加が引き続きプラスに寄与する見込みである。
その後は、2015 年 10 月の消費税率引き上げ(8%⇒10%)の際に今回と同
様の経過措置(2015 年 3 月末までに約定した請負契約は消費税率 8%を適用)
が予定されているため、2014 年度後半に再び駆け込み需要が顕在化するとみ
られる。ただし、2015 年 10 月の消費増税にあわせてすまい給付金の拡充等が
予定されており、増税前後の駆け込みと反動の規模は 2014 年 4 月の増税時に
比べて抑制される見込みだ。
2015 年度前半は再度の消費増
税に伴う反動が押し下げ
2015 年 4~6 月期以降は、駆け込みの反動から着工戸数は一時的に落ち込む
とみられるが、2016 年 1~3 月期にかけて緩やかに持ち直すと予想する。
以上を踏まえ、着工戸数は 2014 年度が 91.2 万戸(前年比▲7.6%)
、2015 年
度が 88.4 万戸(前年比▲3.1%)と予想する。GDPベースの実質住宅投資は、
2014 年度は前年比▲8.1%、2015 年度は同▲0.2%と減少が続くと予測している
(図表 50)
。
図表 49
住宅着工戸数の駆け込みの反動の規模
図表 50
(前期比、%)
2
0
新設住宅着工
▲2
▲4
分譲一戸建
持家
分譲マンション
▲6
貸家
▲8
持家
貸家
▲ 10
分譲住宅
▲ 12
▲ 14
1997年上期
2014年上期
(注)1.季節調整値。
2.1997年上期は97年1~6月期の96年7~12月期に対する伸び率。
3.2014年上期は14年1~6月期の13年7~12月期に対する伸び率。
(資料)国土交通省「住宅着工統計」よりみずほ総合研究所作成
住宅投資の見通し
2012年度
2013年度
2014年度
2015年度
(実績)
(予測)
(予測)
(予測)
(万戸)
89.3
98.7
91.2
88.4
(前年比・%)
6.2
10.6
▲ 7.6
▲ 3.1
(万戸)
31.7
35.3
29.6
29.3
(前年比・%)
3.8
11.5
▲ 16.2
▲ 0.9
(万戸)
32.1
37.0
37.0
35.4
(前年比・%)
10.7
15.3
0.1
▲ 4.4
(万戸)
25.0
25.9
24.1
23.2
(前年比・%)
4.4
3.8
▲ 7.1
▲ 3.8
名目住宅投資 (前年比・%)
4.7
12.7
▲ 4.5
2.2
実質住宅投資 (前年比・%)
5.4
9.5
▲ 8.1
▲ 0.2
(注)着工戸数の合計には給与住宅も含む。
(資料)国土交通省「建築着工統計」、内閣府「国民経済計算」
35
(7) 政府部門
公的需要は増加
4~6 月期の公的需要(実質値、以下政府消費・公共投資も同様)は、前期
比+0.2%(1~3 月期同▲0.6%)となった。内訳をみると、公共投資(1~3
月期同▲2.5%⇒4~6 月期同▲0.5%)が 2 四半期連続で減少する一方、政府
消費(1~3 月期同▲0.1%⇒4~6 月期同+0.4%)は 2 四半期ぶりに増加した。
4~6 月期の公共投資は減少が続いたが、減少幅は大きく縮小した。消費増
税後の景気の落ち込みを緩和するため、政府が 2013 年度補正予算・2014 年度
予算の早期執行を進めている影響が徐々に顕れているようだ(※)
。内閣府の
調査によれば、2013 年度補正予算に盛り込まれた事業のうち、88%が 6 月末
2014 年度後半以降の公共投
までに民間企業等との契約締結を終えている。
(※)政府は、2013 年度補正予算を 6 月末までに 7 割程度、9 月末までに 9 割程
度執行、2014 年度予算(公共工事など早期の経済効果の発揮につながるも
の)を 6 月末までに 4 割以上、9 月末までに 6 割以上執行する目標を掲げ
ている。
7~9 月期の公共投資は、予算の執行が進むことで増加に転じると予想され
資は徐々に減少
る。先行指標の公共工事請負金額(みずほ総合研究所による季節調整値)をみ
ると、7 月は 4~6 月期平均を下回ったものの、高水準を維持した(図表 51)
。
一方、2014 年度後半になると経済対策効果が徐々にはく落し、公共投資は減
少基調に転じると見込まれる。ただし、建設業の人手不足などを背景に工事の
進捗が遅れているケースも多い。こうした先送り分を考慮すれば、2014 年度
の公共投資が大幅に落ち込む事態は避けられるだろう。
2015 年度についてみると、本見通しでは 2015 年 10 月に 10%への消費税率
引き上げが予定通り実施されることを前提としている。その上で消費増税後の
経済対策として、再度国費ベースで 2 兆円程度の補正予算が 2014 年度末に編
成されると想定した。そのうち約 1.5 兆円が公共事業費に充てられ、2015 年
度後半に執行されるとみている。
以上を踏まえ、
年度ベースの公共投資は、
2014
年度同▲1.3%、2015 年度同▲2.6%と緩やかに水準を切り下げると予測する。
政府消費は引き続き拡大
政府消費は、医療費や介護費など社会保障関係費の増加を中心に、2014 年
度同+1.0%、2015 年度同+1.7%と拡大が続くと予想する。公的需要全体で
は、2014 年度同+0.5%、2015 年度同+0.9%と予測した(図表 52)
図表 51
公共工事請負金額
図表 52
(兆円)
公的需要の見通し
(前年比、%)
4~6月平均
1.6
5
1.5
政府最終消費支出
4
1.4
1.3
公的需要
3
1.2
公的在庫品増加
公的固定資本形成
2
7月
1.1
1.0
1
0.9
0
0.8
▲1
0.7
12/1
12/7
13/1
13/7
14/1
14/7
(見通し)
▲2
2005
(年/月)
(注)みずほ総合研究所による季節調整値。
(資料)保証事業会社3社「公共工事前払金保証統計」
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
(年度)
(資料)内閣府「国民経済計算」よりみずほ総合研究所作成
36
(8)物価
国内企業物価は上昇幅が縮
小
4~6 月期の国内企業物価指数(CGPI、消費増税の影響除く)は、前年比
+1.6%(1~3 月期同+1.9%)と上昇幅が縮小した。前年比でみた円安幅の
縮小に伴い、輸入物価を通じた国内物価の上昇圧力は弱まっている。医薬品薬
価改定の影響で化学製品が前年比マイナスとなったことも全体を押し下げた。
国内企業物価への上昇圧力
は緩和が続く
今後も、円安による物価上昇圧力は緩和が続くだろう。エネルギー価格のプ
ラス寄与も縮小するとみられる。2014 年度の CGPI は消費増税の影響を除くベ
ースで同+1.1%(消費税含む:同+4.0%)と予想している。2015 年度は、
原油価格のマイナス傾向が続く一方、緩やかに円安が進むと見込まれることか
ら、同+1.4%(消費税含む:同+2.4%)と予測した(図表 53)
。
消費増税の影響を除くコア
CPIの伸びは徐々に鈍化
4~6 月期の生鮮食品を除く総合消費者物価指数(コアCPI、消費増税の
影響を除く推計値)は、前年比+1.4%(1~3 月期同+1.3%)と上昇幅が小幅
に拡大した。ただし月次でみると、4 月の前年比+1.5%をピークに、上昇幅
は 6 月にかけて縮小した(5 月:同+1.4%、6 月:同+1.3%)
。4 月には消費
増税分を上回る値上げが行われたものの、その後は円安効果の一巡により電気
代・ガス代や外国パック旅行、宿泊料などのプラス寄与が縮小した。6 月は大
手通信会社が国内通話を定額にする新料金プランを導入した影響から、携帯電
話通信料の伸びも鈍化した。
コアCPIは秋頃にかけて
今後は、輸入物価の伸びのピークアウト、増税後の消費落ち込みに伴う需給
上昇幅が縮小するが、その後
緩和(GDPギャップのマイナス幅拡大)を受けて、コアCPI前年比プラス
は緩やかに伸びが高まる見
幅は 2014 年秋頃にかけて緩やかに縮小すると予測している。その後は内需が
通し
回復基調に復する中で、賃金の緩やかな改善を物価に転嫁する動きも徐々に広
がり、コアCPIの伸びは緩やかに高まっていくだろう。ただし、2015 年度
までの予測期間中に 2%のインフレ目標を達成するのは困難とみられる。需給
ギャップの改善傾向(2015 年 10 月の増税後は一時的に悪化)が続く中で、期
待インフレ率も緩やかに上昇する可能性が高いが、物価上昇ペースを加速させ
るほどの効果は見込めないだろう。
以上を踏まえ、コアCPIは 2014 年度が同+1.1%、2015 年度が同+1.1%
と予測した(消費税含む(2015 年 10 月に食料品に対する軽減税率が導入され
る想定)
:2014 年度同+3.1%、2015 年度同+1.7%)
(図表 54)
。
図表 53
国内企業物価の見通し
図表 54
(前年比、%)
消費者物価の見通し
(前年比、%)
4.0
20
消費税を含むベース
食料(酒類・生鮮食品除く)
3.0
15
10
米国基準コアCPI
2.0
予測
コアCPI
1.0
5
消
費
増
税
の
影
響
エネルギー
0.0
0
国内企業物価
▲5
(消費税を除く)
▲ 1.0
円建て輸入物価
2010
2011
2012
予測
▲ 2.0
契約通貨建て輸入物価
▲ 10
2013
(注)国内企業物価は消費税を除くベース。
(資料)日本銀行「企業物価指数」などよりみずほ総合研究所
2014
2015
2010
2016
2011
2012
2013
2014
(注) 内訳は消費税を除くベースの寄与度。
(資料) 総務省「消費者物価指数」などよりみずほ総合研究所作成
(年/四半期)
37
2015
2016
(年/四半期)
(9) 金融市場
株価は一旦上昇後、地政学的
前回見通し以降の金融市場では、米国経済の持ち直し期待や中国経済の下
リスクの高まりなどを契機に
振れ懸念の後退などを背景に 7 月下旬ごろまでは株価の堅調地合いが続いた。
調整、長期金利は低下基調で
米ダウ平均が史上初めて 17,000 ドルを突破したほか、年初来出遅れ感の強か
推移
った日経平均も 15,000 円台後半を回復した(図表 55)
。しかし、マレーシア
航空機撃墜(7/17)をきっかけに、小康状態にあったウクライナ問題を巡っ
て欧米とロシアの対立が激化するとの警戒感が高まり、地政学的リスクが嫌
気されて株式市場は調整局面に入った。ダウ平均は高値から一時 4%下落、米
国のイラク空爆決定報道などを受けて日経平均も一時 15,000 円を割り込ん
だ。特に下落が目立ったのはドイツ株などの欧州株であった。ウクライナ問
題の欧州景気への悪影響などが懸念材料となったようである。
一方、長期金利は日米欧とも低下した。株価の上昇局面においても金利の
上昇圧力は限定的で、株価が調整局面に入ってからは、低下基調で推移した。
10 年国債利回りでは、米国が一時 2.4%近傍、日本は 0.5%まで低下した(図
表 56)
。なお、ECBが 6 月の政策理事会(6/5)で追加利下げとマイナス金
利導入を決めたことを受け、ドイツ 10 年国債利回りは一段の低下圧力がかか
り、史上最低となる 1.0%前後まで低下している。
株価調整の背景には米株の割
株価調整のきっかけとなったのはウクライナ問題や中東情勢などの地政学
高感と低ボラティリティ長期
的リスクに対する警戒であるが、背景には割高感が目立ち始めていた米株に
化に伴う反動に対する警戒感
対する高値警戒感があったとみられる。良好な結果となった 4∼6 月期の決算
発表を終えて利益確定売りが出易かったタイミングで地政学的リスクが売り
材料とされた面が強い。また、ボラティリティの低下が続いてきたことから、
市場参加者の間でいずれ反動によるボラティリティの急上昇が起こり、相場
の急落につながるのではといった不安が高まっていたことも、利益確定売り
圧力を強める要因になったと考えられる。当面は、地政学的リスクやボラテ
ィリティ上昇に対する警戒感が株式相場の上値を抑制する可能性があろう。
図表 55
135
日米独の主要株価指数
図表 56
(2013年3月末=100)
3.4
130
(%)
日米独の10年国債利回り
米国10年国債(左目盛)
ドイツ10年国債(左目盛)
日本10年国債(右目盛)
3.2
(%)
1.2
3.0
125
2.8
120
2.6
115
2.4
0.8
0.6
2.0
105
1.8
日(日経平均)
100
1.4
米(ダウ平均)
13/7
13/10
14/1
14/4
0.4
1.6
独(DAX)
95
(資料) Bloomberg
1.0
2.2
110
90
13/4
1.4
0.2
1.2
1.0
13/4
14/7
(年/月)
(資料) Bloomberg
38
0.0
13/7
13/10
14/1
14/4
14/7
(年/月)
メインシナリオは米国を中心
しばらくは、株価の上値が抑制され、長期金利は低位で推移するとみられ
とした緩やかな株価と長期金
るものの、2014 年の秋口以降 2015 年にかけては徐々に株高・債券安といった
利の上昇
展開に移行していくと予想する。米国株については、現状は業績予想の改善
に対する株価の上昇ペースが速かったことを受けたスピード調整の局面にあ
り、今後も企業業績の改善が続くことを踏まえれば、上昇トレンドは維持さ
れるとみられる。
一方、長期金利は通常は利上げ局面において政策金利の引き上げに先行し
て上昇し始める。米国の過去の利上げ局面においても、長期金利は利上げ開
始の数カ月前から上昇し始め、利上げ開始後も上昇を続ける傾向がある。年
初来の米国の長期金利は低下傾向で推移しているが、これは、金融緩和によ
る潤沢な投資マネーの存在が需給を引き締めていることに加え、QE3縮小
の思惑が強まる中で、昨年、極端な低金利からの修正が起こった反動という
側面もあるとみられる。QE3については、FRBが今のペースで縮小を続
ければ、2014 年 10 月には終了することになるが、FRBはその後、年末まで
に利上げを含めた出口戦略の詳細について発表するとみられる。現状は利上
げを意識した上昇局面までのモラトリアム期(猶予期間)であると考えてお
り、FRBによる出口戦略発表を契機に利上げに対する市場の警戒感も高ま
り、長期金利にも徐々に上昇圧力が掛かるものと予想している。
こう着感の強いドル円相場も
徐々に円安・ドル高方向に
ここ数カ月ドル円相場は1ドル=101 円台∼102 円台の狭いレンジでこう着
感の強い展開が続いてきたが、こうした背景にも米国長期金利が低下する中
で日米長期金利差が縮小傾向で推移してきたことが影響しているとみられる
。出口戦略に向かうFRBと金融緩和が継続するとみられる日本銀
(図表 57)
行の金融政策の違いから、中期的な円安期待は根強いものの、予想された金
利差の拡大が起こっていないことや、日銀の早期の追加緩和観測が後退して
いることなどが、投資家の様子見姿勢を強めているのであろう。当面のドル
円相場はレンジ推移が継続しやすいものの、年末に向けて米国長期金利に上
昇圧力が掛れば、日米金利差拡大を受けて再び円安・ドル高傾向に転じてい
くと予想される。
図表 57
3.0
日米金利差とドル円相場
(%)
(円)
図表 58
115
日米10年債金利差
資産構成
割合
乖離
許容幅
2012年
12月末
国内債券
60%
±8%
60.1% 55.2% 40.0% -19.5
国内株式
12%
±6%
12.9% 17.2% 20.0%
3.6
外国債券
11%
±5%
9.8%
10.6% 15.0%
5.6
外国株式
12%
±5%
12.9% 15.2% 20.0%
6.1
短期資産
5%
−
4.2%
4.1
110
ドル/円(右目盛)
2.5
GPIFの基本ポートフォリオ
105
2013年
12月末
伊藤
教授案
資産
増減額
100
2.0
95
90
1.5
85
80
1.0
75
0.5
1.8%
5.0%
70
12/1
(資料)Bloomberg
12/7
13/1
13/7
14/1
(注)資産増減額は2013年12月末残高128兆円をベースにみずほ総合研究所にて試算。
14/7
(資料)年金積立金管理運用独立行政法人よりみずほ総合研究所作成
(年/月)
39
国内市場における当面の注目
今後の日本の金融市場に影響を与える材料として注目されるのは、GPIF(年
材料は GPIF の基本ポートフ
金積立金管理運用独立行政法人)の基本ポートフォリオ見直しと日銀の追加
ォリオ発表と日銀の追加緩和
金融緩和の行方であろう。GPIF は 9 月にも基本ポートフォリオの見直しを行
の行方
うとされているが、関係者の発言等から国内株式については現状の 12%から
20%台への引き上げが見込まれる。一方、国内債券については、現状の 60%
から 40%台への大幅な引き下げが想定される。昨年末の残高をベースに試算
すると、国内株式を 20%台へ引き上げた場合 3.6 兆円の買い圧力、国内債券
を 40%に引き下げた場合 19.5 兆円の売り圧力となる(前頁図表 58)
。他の公
的年金等もこれに追随するとすれば、株買いや債券売りの圧力はさらに増額
されることになる。ただし、実際のポートフォリオの入れ替えは市場への影
響を考慮してある程度の時間をかけて行うとみられ、特に債券に関しては償
還額や日銀の買い入れ継続などを考慮すれば、金利上昇圧力は限定されるこ
とになろう。
日銀の金融政策に関しては、消費者物価の上昇率が日銀の想定どおりに推
移しており、早期の追加緩和期待が後退している。しかし、2014 年度下期に
かけては日銀の想定ほど消費者物価は上昇しないとみており、少なくとも
2015 年以降も資産買入れを継続するとの決定は行われるであろう。さらに、
GPIF による国債売りを考慮した国債購入額の増額や資産価格の上昇によるマ
インドアップを狙ったETFの買入れ増額などが決定される可能性もある。
日本市場も徐々に株高・債券
安の展開に
日本市場も米国市場同様、足元は株価の上値が重く、長期金利には低下圧
力が加わった状況であるが、徐々に株高・債券安への移行を予想している。
日本株は好調な企業業績にもかかわらず上値の重い展開となっているが、背
景には消費増税後に落ち込んだ国内景気の回復に対する不透明感があり、景
気の持ち直しが確認されれば、割安感のある日本株の見直し買いが期待でき
よう。日本の長期金利は日銀の大量国債購入による需給面での下支えから金
利上昇圧力は抑制されるとみられるが、株価や米長期金利の上昇を受けて、
徐々に金利上昇圧力が高まっていく見込みである。
図表 59
各市場の見通し
2013/
10-12
2014/
1-3
4-6
7-9
10-12
2015/
1-3
4-6
7-9
10-12
2016/
1-3
無担保コールO/N
(末値、%)
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
0∼0.1
ユーロ円TIBOR
(3か月、%)
0.22
0.22
0.21
0.21
0.21
0.21
0.21
0.21
0.21
0.21
0.36
0.33
0.31
0.27
0.35
0.45
0.50
0.55
0.60
0.65
0.64
0.63
0.60
0.56
0.65
0.80
0.90
1.00
1.10
1.15
14,972
14,964
14,650
15,600
16,100
16,400
16,900
17,400
17,600
18,100
101
103
102
102
104
105
107
109
111
112
1.36
1.37
1.37
1.34
1.33
1.32
1.31
1.29
1.27
1.25
金利スワップ
(5年、%)
新発国債
(10年、%)
日経平均株価
(円)
ドル・円
(円/ドル)
ユーロ・ドル
(ドル/ユーロ)
(注)シャドーは実績。予測値は期中平均。但し、無担保コールO/Nは期末値。ユーロ円TIBORは360日ベース。
スワップ5年は6カ月LIBORに対する固定金利払。為替相場はニューヨーク終値ベース。
(資料)Bloomberg、みずほ総合研究所
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